251 :7月28日の話 ◆lQS9gmV2XM :04/01/25 23:24 ID:fn7c/86T
外からは、小鳥が鳴く声が聞こえている。
カレンダーの7月28日の欄、そこにはこう書かれていた。
―――学校で部活動 (亜子)
眠っているまき絵を起こさないようにしながら、和泉亜子は静かに、サッカー部の練習に行くために準備をしていた。
亜子の所属するサッカー部は、夏休みだがきっちりと練習が予定に入っている。大きな大会前の大切な時期であり、部員は皆、レギュラー獲得に燃えていた。
「あ、そや」
亜子は思い出したように引き出しを開ける。その中には薬包紙の包みがいくつか入っていた。
薬包紙の中の青い粉末を、亜子はさらさらと口に流し込む。未だ経験したことのない、舌が痺れるような苦さが口の中に広がった。
「うぶぅ。う、ううううう……」
涙目になりながら、コップに入った水をあおる。ごくり、ごくり、と薬を流し込んだ。
「ぷはぁ。……まずぅー。ああもう、なんで薬ってこんなに苦いんやろ……」
コップを置いて、亜子は洗面所の方に歩いていく。そして髪に櫛を入れた。
マネージャーたる者、身だしなみは気持ちよくしなければならない、そう亜子は考えていた。部員が見て不愉快になるようではマネージャー失格だろう。
だから、清潔に、慎ましく、明るく、笑顔で。
鏡の前で亜子はにこっ、と笑うと、「よしっ」頷いて次の準備を始める。そこで、さっき飲んだ薬が入っていた薬包紙が目に付いた。
「ほんまに効くのかな……これ」
東洋医学研究会の友達に貰った漢方薬がその中身だった。最近、亜子は夏バテ気味だったので、精力がつく漢方薬はないかと友人に尋ねたところ、貰えたのが件の青い粉である。
「まあ、駄目で元々やな」
亜子は薬包紙をゴミ箱に捨てると、次の仕度をするために、静かに急ぎながら準備を続けた。
部活が始まった。
絶妙なセンタリングが上がる。乾いた音を残して、部員が放ったショートがゴールに突き刺さった。ネットを揺らしたボールを、ゴールキーパーが悔しそうに拾い上げている。
その光景から少しだけ離れた場所で、亜子は一人で立っていた。
「はあ、はあ、はあ、はあ………」
亜子は建物の日陰に入って練習風景を見ていた。それでも、額からはだらだらと汗が流れ落ちていて、白い体操服の脇などに汗の染みができている。
当然だが真夏の運動場にいる以上、身体が汗に塗れて臭くなってしまうのは仕方がないことだった。
しかし亜子の様子は少しおかしかった。どこか落ち付かない様子で、たまに両足をもじもじと内股にして動いている。
一見いつも通りの亜子だったが、夏の空気を閉じ込めて汗が充満したズボンの中では、恥部から欲望の蜜が溢れて、じっとりと下着を侵蝕していた。
(こ、こんなことになるやなんて、ウチはいったい、どうしたらええの……・!?)
亜子は夏バテで、精力をつけたかった。
この場合、精力と言ったらウナギとかを食べて補給するエネルギーのようなものを亜子は考えていたのだが、どうやら予想外の効果が漢方薬にはあったらしい。
異変は数分前から起こった。亜子は何もされていないのに、突然感じ始めたのだ。
体操服のズボンの奥では陰唇が愛液を分泌し続けていて、何か新しい刺激を貪欲に求めている。
最初は気のせいだと思ったその現象は、加速度的に進んで亜子の肉体のディフェンスを突破しつつある。
先ほど確認したところ、異常な量の愛液は既に下着をかなり湿らせていている。このままでは部活中に、体操服のズボンに愛液の染みが浮かび上がる事態にならないとは言えなかった。。
「はあ、はあ、い、今はぁ……アカンよ……お、お願ぃやから……」
いつも自慰で弄っている所が指を欲しがっている。しかしそれだけではない。
まるで快楽の種が性器に広がり根を張っていくように、いつもはあまり感じないポイントでさえ現在進行形で開発されつつあった。
(あ、はあぁ……さ、触りたい……くりくりって、弄り、たい………)
陰唇が甘く痺れて涎を垂らし、子宮の奥が疼いて亜子の理性を食い潰していく。
「お願いやからぁ……鎮まってよぉ……うぅ……はあ、はあ、はあ、はあ」
下半身の猛烈な要求と暑さで目眩を覚えながら、亜子は深呼吸して身体を落ち着かせようとした。身体がだんだん火照っていき、スポーツブラの中で乳首が立ちつつある。
息が苦しい。膣が、愛液を生むために身体中の水分を吸い取っている感覚があった。喉はからからに乾いていて、口の中にはネバネバした唾が糸を引いている。
(そ、早退しよう……そ、それしか……ない)
身体に起きている現象が、尋常なものではないことを亜子は実感していた。
疼きが酷くなっていく。亜子は泣きそうな顔で、陰唇に指を突っ込みたい衝動を必死に抑えていた。
しかしそれを嘲笑うように、体内の神聖な場所は、数ヶ月は自慰を我慢していたかのような欲望の塊と化して沸騰し、亜子の理性をぐらぐら揺らしてくる。
(……あ、ああっ、アカン………! ど、どんどん感じやすくなってるぅ―――あ、あぁあぁ)
欲望を無視し続ける亜子に、生殖器が怒って性的欲求を爆発させる。指で少し触ったらイってしまうかもしれない。亜子は少し前屈みになって、ガタガタ震えながら拳を握り締めていた。
(そ、早退の理由を、考えやんと、えと、ええと、何か、何かええ理由……う、うぅ、うううう―――)
思考が働かない。状況から解放されたい気持ちが先走って、肝心の手段が思い付かない。
そこに、球体の悪魔がやって来た。
「あ、ごめーん、亜子ちゃん、ボール行っちゃった―――!」
「え?」
ぽん、ぽん、とサッカーボールがバウンドしながら、亜子に近づいてくる。練習に使っていたボールが、シュートしてゴールポストに嫌われたのだろうか。
「あ……あ……あ……」
映画のワンシーンのように、亜子には近づいてくるボールがスローモーションで見えていた。ゆっくりと、ゆっくりと、ボールが迫って来る。
「………!」
亜子はよろよろとボールに近づくと、インサイドキックで軽くボールを蹴った。パスなどに使うコントロール重視の蹴り方である。
しかし集中力の欠片もなかった亜子は見事に空振りし、ボールはそのまま後ろに転がっていった。
それどころかよろめいて、その場に倒れそうになる。
だがサッカー部のマネージャーが、転がってきたボールを空振りしてそのまま無視するのは問題がある気がする。亜子は手でボールを拾って地面に置き、力なく蹴り返した。
(はあ、はあ、そ、早退の理由……ふう、うぅ、そうた、い、の、う、う、ぅう、うぁ、あ―――)
びくん!
「―――!」
亜子は自分が信じられないといった表情で、呆然とサッカー部の練習風景と眺めながら固まった。
股間で欲望が爆発してしまった。指で触ってもいないのに亜子の恥部は、まるでお風呂前の自慰を終えたように、体操服の中に愛液を撒き散らしてしまった。
背筋は凍り付いたように冷たく、考えは纏まらず、動こうとするとだるい。しかし肉体の疼きは収まらず、再び絶頂に向けて昇りはじめている。
「和泉さん、大丈夫?」「具合が悪いの?」「何だ、どうした?」
亜子の様子がおかしいことに気付いた数人の部員が、亜子に近づいてきた。
(下手したら、イってしもたこと、ばれる……? いややぁぁぁ、こっち来んといてよぉ―――)
この場合、部員たちは単に亜子を心配しているだけだろう。
しかし、バレたくない隠し事がある時、人間は他人の反応に過敏になってしまうものである。
只でさえ内気で小心者の亜子が、部員たちからプレッシャーを受けないはずがなかった。
「な、何でもあらへんから! ほんまに!」
欲情している肉体を後退させながら、亜子は苦しそうに声を絞り出すと、両手を振って部員たちから離れていく。
しかしその歩き方はどこかぎこちなく、部員たちから逃げようとしているように見えた。
「でも和泉さん、顔真っ赤だよ」「なんか目も潤んでるし」「めちゃくちゃ汗かいてるじゃん?」
部員たちが亜子に声をかける。亜子はどくん、どくん、と心臓が鳴る音を聞きながら、心配する部員たちの声を自分の中で、勝手に悪い方に解釈してしまう。
(ぜ、絶対バレてる………もう駄目やぁ――――――――――――――――――っ!)
もしも、一生懸命に練習する部員を見てオナニーをしていたマネージャーなどという噂が立てば、亜子はこれからどうやって麻帆良で生きていけるだろう。
「みんな、お願いやから誰にも言わんといてぇ―――! うえぇぇぇ――――――ん!」
亜子は顔を真っ赤にして、部員たちから走って逃げていく。きらきらと光る涙が印象的だった。
「………」
亜子を心配していた部員たちはぽかんとお互いを見合い、
「……トイレ、我慢してたのかな」
少し気まずい結論に達し、そのまま練習に戻っていった。
―――――7月28日の話・了
最終更新:2012年02月12日 21:41