05スレ286

286 :搾精当番夕映編 - CLOSE YOUR EYES:04/01/30 06:40 ID:33HDxKsE

 びー、とガムテープを伸ばし、鍵穴に貼り付けて塞ぐ。ドアに隙間がないかと眼を走らせたが、建て付けがよくて塞がっている。
「どこか覗かれてしまいそうな隙間は……まさか天井は……」
 それでも夕映は天井を、目を細めてにらみつける。特に隙間などは見当たらない。
 窓のカーテンを閉めにいく。その瞬間、誰かが覗こうとしていたのか、人影がちらりと見えた気がした。
「……アホばっかです……」
 眉間にしわを寄せ、こめかみをひくつかせてつぶやいた。
 カーテンを乱暴に閉め、なびいて隙間ができないように端をテープで止める。
「こんなところを、他人に見られてはたまらないです」
「あ、あの、ごめんなさい」
 不機嫌そうな夕映に、ネギが勝手に謝る。
「ネギ先生が悪いわけではないです。しずな先生が無理矢理決めたアホな当番ですし……」
 生徒はともかく先生までもがアホだったとは、と夕映は額に手を当てて天を仰いだ。
「それにしても、代わってもらうぐらい認めてくれてもよさそうなものです」
 のどかに譲る、というのはしずなに却下された。順番の交代ならかまわないが、やらないなら高等部に進学させない、譲られたのどかも共犯扱いで同罪と言われると逆らえない。
「最初にもっと僕が強く断ればよかったんですよね……」
「そうかもしれませんが、私や長谷川さんの反対も揉み潰されましたから。仕方なかったです」
 強く断ってほしかったとは思うが、のどかを応援する手前、たとえ見ていないところであろうとネギを責めない、と夕映は心に決めている。

「とはいえ、愚痴を言い合っていても始まらないです」
 覚悟を決めたような、諦めたような眼で、夕映が言う。
「そうですね……でものどかさんに悪いですし……」
 それを聞いて、自分が何を嫌がっているかネギも理解しているのがわかり、夕映は微笑む。
「あとで私がのどかにあやまっておきますから、手早く済ませてしまいましょう」
「あ、いえ、待ってください」
 夕映を止めて、ネギが言う。
「僕が自分でして採りますから。誰も見てなかったら、そうしてもわかりませんよ」
「あ……確かにそれはそうです、けど」
「夕映さんはなにもしてない、って、あとでのどかさんに教えてあげてください」
 そのとおり、そうしておけばのどかにも顔が立つし、進学を止められることもない。最善手だ。
「そうですね。ありがとうございます」
 夕映はうなずく。
(こんなアホな状況下でも、その中での最善手に気付く。聡明です。やはりのどかの選択は正解です。
 ……しかし、なぜ私が自らその手に気付かなかったのでしょうか。コロンブスの卵かもしれませんが、考えてみれば当たり前の手です。気付くのを邪魔するような心の壁が深層心理にあったのか――だとしたら、それは何か……?)
 そんなことを自問しながら、立ち上がる。本棚の前で蔵書を見たが、あるのは文学作品や哲学書のタイトルばかり。
「男性が自分でするときは、いやらしい本や写真など見るそうですが……ここにはないです。ハルナに借りてきましょうか」
「いえ、そんな、結構ですよ」
 ネギは手を振って断り、
「それより、バスルーム借りていいですか? ここでするのは……」
「あ、そうですね。どうぞ」
 許可をとると、試験管をもってバスルームに消える。

 ひとりになって、また自問を始める。
(なぜ気付かなかったのか……? もし気付かないままなら、私が先生にしてあげることになっていたのです。すると、本当はそうなることを望んでいた?
 私ももうそういう年頃ですし……私が抱いているネギ先生への好意らしきもの、そのせいもあるでしょう。しかしのどかのことは? 私の心の中では、友情より欲望が優先される?
 いや、それは認めたくないです)

 自問をしているうちに、時間が過ぎていた。
「……もう15分も経っていますね」
 どのくらい時間がかかるのか知っているわけではないが、もう終わっていてもよさそうに思える。
(様子を見に行ってみては……いや、見に行ってどうするんですか。手伝うのですか? まさか……)
 そう思いつつも、ふらっとバスルームに足が向く。
(いえ、ですからなぜ向かうのですか。確かに、私には先生にしてあげたい願望はあると認められますが、反問しながら裏腹な行動をとろうとするのは……?
 思えば、修学旅行のキス争奪戦のときにも、意思に反してすぐ拒めなかったことが……)
 ドアノブに手が掛かる。

「ゆ、夕映さん!?」
 ネギは驚いて振り返った。
「……時間が掛かっているようでしたから。その、お手伝いです」
 一瞬だけ下に眼をやったが、こういうときは硬くなると聞いているのに、そうは見えなかった。
「でも、それは」
 戸惑うネギの両目を、夕映が両手で覆う。
「目を閉じてください。顔を見ないで、私ではなくのどかが入ってきたと思ってください」
「……」
 ネギから返事はなかったが、手を離すと目は閉じられていた。
(のどかのつもり、で免罪になるとでも思っているのですか、私は)
 自責しながら、着ているワンピースのボタンを外していく。袖から腕を抜くと、するっと床まで落ちる。ブラも外した。
 そして、ネギのワイシャツに手をかける。鎖骨に指が触れたとき、ぴくりとネギが身体をゆすったが、特に逆らいもせず脱がされていく。

 裸になったネギの背に、自分の素肌の胸を密着させて、腕を回した。
 触れた瞬間は熱いとも冷たいとも思わなかった背中だが、すぐに逃げ場のないふたりの熱がたまって温かくなる。
 ちょうど、唇がネギの耳元にくる身長差だった。
「せんせー、む、胸が小さくてごめんなさいです……」
 ささやき声なら誰でも同じような声音になると思って、のどかの口調を真似てみた。
「そんなことありませんよ。あったかくて、やわらかいです」
 のどかならともかく私はやわらかいでしょうか、と、自分の細い腕に眼を落とした。そうは思えなかったが、のどかならやわらかいはずだから、否定はできなかった。
 前に回した手で、ネギのお腹や胸板を撫でてみた。思ったよりもたくましく感じる筋肉が張っている。
 唇で耳たぶを挟んだ。軟骨の感触が、こりこりと返ってくる。息をつくたび、ネギがくすぐられてかすかに身を捩る。
「……あ、あの、こうしてたら、できそうでしょうかー……」
「ええ……」
 上気した吐息とともにネギは答える。
 夕映は所在無くぶらさがっていた彼の右手を取って、導いた。
 ネギが握ったものが確かに硬いことが、夕映の右手にも伝わった。


 ネギが手を前後させ始める。
 夕映は、ネギの顔を見つめていた。まだにきびも出ない、若くきれいな肌。コーカソイドで英国のような北国育ち、少し妬けるような肌。
 目には涙の薄い膜がかかっていて、どこにも焦点はあっていないように見えた。
「き、きもちいいですかー?」
「はい……手伝ってもらうと……」
 ネギの手の動きが、だんだん大きく、激しくなっていく。
 それにつられて腰も少し前後に揺れる。そしてそれは、ぴったりと抱きついた夕映にも伝播する。
(う……)
 ネギの尾骨が、夕映の骨盤に当たり、叩く。その軽い衝撃は、皮膚や粘膜に触れて得られるようなものとはまた違う官能を、じわじわと生み出していく。
 セックスの快感の一部は、こうして骨盤を揺らされることで生まれるのかもしれない、と、夕映は未経験なりに想像する。
(きもちいいです……)
 漠然と罪悪感を覚えながら、ネギをもっと強く抱きしめて、腰を押し付ける。
 そうしてしばらく揺られていた。脱がなかった下着がぬめる感触があって、脱いでおけばよかったかと後悔した。

「……もう、そろそろ出そうです」
「えっ、あ、ああ、そうですか」
 夢中でしがみついていて、その言葉で現実に引き戻される。
「あ、あれ? 試験管が。そこに置いたのに」
 ネギが手を止めて、バスタブのふちを見て戸惑う。
 夕映も素早く目を走らせた。どこかに落ちて、でもガラスの鳴る音がしないところ……と、脱ぎ捨てられたワンピースを見ると、その上にあった。
「あれです」
 さっきまで夢中でいた反動か、つい身体が動いてしまい、ひざまずいてそれを拾い上げた。そして渡そうと振り向いたとき、
「あ」
 目の前に、ネギのそれがあった。
(これは……思ったより大きいです……が、恐ろしくはないです。欲情が詰まって硬く膨らんではいますが、ネギ先生のなら受け止めてもいいと思えるから……?
 いや、それどころではなくて、急がないと床にばら撒いてしまってやりなおしです)
 一瞬考えたあと、その先端に試験管を当てた。
「ゆ、夕映さん……く、うっ」
 ネギが喉を鳴らした瞬間、先端がぱくりと開いて、直後に白濁液が試験管に撃ち出された。どく、どくと脈打つごとに、試験管が満たされていく。
 ガラス越しにも、その液体は熱かった。

 服を着なおした二人は部屋に戻り、ベッドサイドに腰掛けて一息ついた。
「のどかに、なんといえばいいのでしょうか」
 栓をした、もう冷たくなった試験管を手にして、夕映は呟く。ついふらふらとバスルームに入ってしまってからは、正気を失っていた。落ち着いてしまえば、やはりあれはのどかへの裏切りだったと思える。
「そうですよね……。僕がちゃんとひとりで済ませれば……」
「いえ、私がふらふらと闖入したりしなければよかったです」
 ネギが、ふぅとため息をついて、
「……秘密にしましょうか。最初の予定通り、僕がひとりで済ませた、っていうことに」
 そういった。
 そんなウソはいやだ、と言いかけて、少し考える。
(ほんとのことを言えば、私は納得するでしょうがのどかは傷つくです。ウソをついたらのどかは安心できて、私が辛い秘密を持ちつづけることになる……。
 なら、ウソをつくのがのどかのためですか? でも……それは正しいのでしょうか)
 あれほど読んだ哲学書の中にも、それに答えを与えてくれる思想はなかった。
「とりあえず、提出しに行きましょうか」
 ネギが立ち上がって、杖を背負った。
 夕映はためらう。これから寮を出て職員室にいって、その道すがらにのどかと出くわすだろうか。できれば、まだ考えがまとまらない今は、会いたくなかった。
 うつむく彼女に、ネギが手を差し伸べた。
「のどかさんと会ったら、僕がなんとか、うまく説明しますから」
 優しい声のその言葉にひかれ、夕映は立ち上がる。

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最終更新:2012年02月12日 21:42
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