05スレ489

489 :座薬 ◆lQS9gmV2XM :04/02/26 19:25 ID:IiMLj3Ra
内容は、前半はたぶん鬼畜、後半はアーティファクトでずっと戦ってます
興味ないならスルーしてください
以下は、病院の明日菜を襲撃する三人が、作中で持っているアーティファクトの設定です(どーでもいい気もしますが一応)

椎名桜子―――【破魔の小槌】
ピコピコハンマのような外見の攻撃型アーティファクト。
柄の部分は五段階まで伸縮、最大有効射程距離三〇メートル。
付加能力として、桜子の定義による非生物を粉々にする効果(武装解除能力)を有する。

宮崎のどか―――【魔法の日記帳】(原作と同じ)
Ⅰ 当書は、人の心の表層を読むことの出来る日記帳です。
Ⅱ 標準効果範囲 半径5パスズ
Ⅲ 対象者の名前を呼び、この本を開く動作を行うと標準効果範囲にいる対象者の表層意識が、書物の精霊の力で絵および文字となって記されます。(言語コードは、使用者に応ずる)
Ⅳ 対象となる者の名前を呼ばずにこの本を開く動作を行うと、使用者の表層意識が表記されます。
Ⅴ 対象者に特定の質問をしてからⅢを行うことで、より効果的な使用が可能になっています。

早乙女ハルナ―――【魔法のスケッチブックと画材セット】
Ⅰ スケッチブックに専用の画材で絵を書くと、絵の精霊が絵を実体化させます。
Ⅱ 書いた絵にはタイトルをつけることができます。
Ⅲ 実体化させる時はスケッチブックを開き、作品のページ数かタイトルを叫んでください。
Ⅳ 一度書いた絵は、他のページにコピーすることができます。
Ⅴ 実体化された絵は、スケッチブックからは消えてしまいます。
Ⅵ 大きな絵や小さな絵を書く時は、ページの右下に倍率を「○倍」のフォームで書いてください。
Ⅶ スケッチブックはページ数は無制限で、ページ数やタイトルで指示したページを開くことができます。
Ⅷ サインを入れると、絵は完成と見なされます。
Ⅸ 保存できる絵の容量は640テラバイトまでです。
Ⅹ 複雑な性質の物を実体化させる時は、数ページに渡って漫画を書き、対象を絵の精霊に説明してください。




490 :第25話「壊れ始めた壊れた平穏」 ◆lQS9gmV2XM :04/02/26 19:27 ID:IiMLj3Ra
 6日目―――朝。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
 白い腕に針が刺さり、それに繋がっているチューブには赤・青・緑の三色の液体が流れていた。
 その薬品を投与し始めた時からずっと続いている吐き気と頭痛に耐えながら、和泉亜子は点滴が終るのを待っていた。
「お、終った……終ったで! 茶々丸!」
 空になった点滴を腕から剥がしながら、亜子は嬉々として隣の部屋にいる茶々丸を呼んだ。
「6時間もの治療、お疲れ様です」がちゃり、とドアを開けて茶々丸が入ってくる。「少し身体を見せてください」
 茶々丸は亜子の身体をチェックし始めた。牙の有無、目や肌の色、体温などを一つずつ確認していく。
「どう? こ、これだけ頑張ったんやから、ちょっとぐらいは―――」
「申し上げ難いのですが」茶々丸は亜子を支えるように肩を掴み、ゆっくりと言った。
「全く効果は出ていません。貴女はまだ、吸血鬼のままです」
「え……あ、そ、そっか、は、ははは、効果なし、か」亜子はガタガタ震えながら、引き攣った顔で茶々丸に言う。
「残念です」
「ほ、他の……他の治療法も試してみよ! ちょっと痛くても、ウチ我慢するからっ!」
「亜子さん」茶々丸は表情の変化なく、しかし少し声を低くして言った。


「何度も申し上げたはずですが、今回試したのが最後の治療法です。もう吸血鬼化の治療法は存在しません」


「う、あ―――」
 茶々丸は亜子に事実を淡々と告げた。
 それは亜子にとって、最後の希望が消滅した事を意味している。


「貴女はもう、人間には戻れません」



「いやああっ! いやああああああああああああああっ!」
 亜子は狂ったように暴れ始めて茶々丸を振りほどき、そのままベッドから転がり落ちる。
「ウチ、学校行くからっ!」立ちあがって亜子は一直線にドアに向かう。
「今日は楽しみにしてた家庭科の調理実習やし、もうすぐサッカーの試合も近いから、部員のみんなもウチがおらんと困るし……」
「和泉さん」
「しまった……エプロンは女子寮や……」
「和泉さん、いけません。今の貴女は学園生活を送れるような状態ではありません」
「制服もや、どうしよう」
「和泉さん。もう一度説明しますが、今の貴女は……」


「うるさいっ!」


「………」
 真っ赤に充血した目で、亜子は茶々丸を睨んだ。
「和泉さん。いけません」茶々丸は怯まない。
「今の貴女は食欲を抑制できていません。友人や、両親でさえも今の貴女には食糧にしか映らない」
「う……」
「人間に遭遇したら貴女は躊躇いなく食らい付きます。和泉亜子さん。貴女は、大切な人を食欲の為に吸血鬼にしてもよいと?」
「う、ううう、ううううう―――うっ、そんなっ、でもっ、こんなん、あんまりやんか―――」
 疲れ果てた顔で、亜子はずるずると崩れ落ちる。そしてそのまま、大声で泣き出した。


「うわああああああああ―――っ、うっ、ひぐっ、ううっ、わあああああああああああ―――っ!」


「こうなった以上……学園に潜伏している、ある一派についてもお話ししておこうと思います。落ち付いたら隣の部屋に来てください」
 茶々丸はそう言って、ばたんとドアを閉めた。

 魔法の本より、のどかの日記。



 いつものようにネギせんせーの気持ちはアスナさんばかり。きっと、同じ部屋でいっしょに暮らしていたせいだと思います。
 そう、わたしとアスナさんには最初から、かなりのハンデがありました。
 ネギせんせーの心は、もうアスナさんのものになっています。悲しい……。そして、もっと、もっと、悔しいです。
 勝ちたい。わたしはアスナさんに勝ちたい。そしてネギせんせーの心をわたしに向けたい。
 ネギせんせーの繊細な気持ちを綴った魔法の本も、60ページを超えました。
 ネギせんせーは優しいです。アスナさんのことを、憎くなるぐらいに心配しているんです。ああ、なんて幸せなアスナさん!
 でも、耐えられません。アスナさんとネギせんせーの世界を読み続けるのはとっても虚しいです。
 心にぽっかりと穴ができる感じ。空虚です。わたしの気持ちは穴だらけになっていきます。
 このページは、せんせーとアスナさんのストーリィに割り込ませた、わたしの気持ち。

 (中略)

 このかさんに内緒で、クラスのみんなの何人かの心を読みました。気持ち悪くて、吐き気がしました。
 こんなにドロドロして、ぐちゃぐちゃしたものだったなんてっ! 汚物です。みんな汚物の塊です。
 みんなが騙し合ってます。顔で笑って心で罵り合う。歪です! 異常です! 信じられない。誰も信じられない!
 このかさんに謝ると、彼女は笑って許してくれました。ああ、もうわたしにいるのは、ここにいる仲間だけ。
 でも、せんせーは違いました。せんせーのアスナさんを想う心はとても綺麗、結晶のように輝いています。
 ああ、せんせー、その心を、わたしにも分けてください。せんせーの力で、わたしを救ってください!。
 わたしはいいアイデアを思い付きました。ちょっとでもアスナさんとのハンデを埋めるため。
 わたしも頑張ることにしました。うん、アスナさんに負けてられないもんっ!

 (中略)


 わたしもアスナさんみたいに、せんせーといっしょに暮らす事にしました。ハルナに大きい檻を創ってもらいました。
 あっ、スゴイんですよ、ハルナのアーティファクトは。書いた絵が本物になって出てくるんです。
 ハルナが作った鳥篭のような檻が、わたしと裸のネギせんせーがいっしょに住む場所です。うふふふ。
 なんて素敵。愛の巣、なんちゃって(きゃー、わたしったら、はしたないですー)。
 ちょっと狭くて二人が寝転んだらもうぎゅうぎゅう、でも、ネギせんせーと二人きり、えへへー。
 もう、ずっとエッチなことをしました。ねぎせんせー、おちんちんとっても大きいんですっ! 
 は、初めて見たときは顔がまっかになりました(きゃー、きゃー)。
 ずっとヌいてなかったとかで、触ると熱くて、びくん、びくん、って動くんです。
 わたしはせんせーのおちんちんをそっと握ると、せんせーは苦しそうに「うっ」とうめきました。
 あ、せんせーが感じてるんだ! わたしはぎゅ、とおちんちんを握り締めました。
 ああ、これがせんせーのおちんちん、硬くて、あったかい。
 握っていると、せんせーのエネルギーが伝わってくるみたい……。
 せんせーのおちんちんの割れた部分から、ぷくっ、て透明な液体が出てきました。
 触るとぬるぬるする、カウパーです、本で読みました。これが……。触るのは初めてです。
 わたしはせんせいのおちんちんを皮を動かすように上下にしごきました。
「や、やめてください! のどかさんっ! あっ、あっ!」
「気持ちよくなんか、ありません……」
 ネギせんせーは何回も叫んでいましたが、せんせーのおちんちんはどんどん大きくなりました。
 にちゃにちゃにちゃとカウパー塗れのおちんちんを、わたしは一生懸命マッサージしました。

「ううぅ、うっ、ふうぅ」
 ネギせんせーも苦しそう。早く出させてあげたい! 気持ち良くなってくださいせんせー! 
 わたしは疲れてきた腕でしごくのを止めて、よーく唾を口の中に溜めて、ぱくっとおちんちんを咥えました。
「う、わあああっ!」
 ネギせんせーが叫んで、びくんと身体を震わせました。
 ああ、これがせんせーのおちんちんの味、とっても美味しい……。
 アスナさんも知らないこの味を、わたしが一人占めできるんです。
 唾をせんせーの先っぽに塗り付けると、割れ目の辺りを舌でぺろぺろ舐めて、おちんちんを吸い上げました。
「あっ、あっ、のどかさんっ! だ、めぇ……」
 わたしの口に合わせて、ネギせんせーの腰も少し動いている気がします。
「うぐっ……あっ、あっ―――」
 せんせーのおちんちんから、どろどろした熱いものどくどくと飛び出してきました。
 精液だとすぐに気付きました。すごい量です。うぐぐ……口から溢れちゃう!
 わたしは一生懸命にそれを飲みましたが、苦しくて咽てしまいました。
 わたしの唾と精液でどろどろになっていたおちんちんは、びくびくと痙攣して白い汁を噴き出していました、
 ぺちゃ、びちゃ、と顔に精液が飛んできます。口から精液が漏れちゃいます。
 もったいない! だめ!
 顔を伝う精液を手で集めて、口に運びました。美味しいー。
 せんせーはまだ不満なようで、おちんちんはびんびんに立っていました。
 わたしはすかさずせんせーのおちんちんにキスをします。
「もう止めてくださいっ!」「目を覚ましてっ!」
 せんせーが叫びます。くすくす、照れなくてもいいんですよ、せんせー。
 アスナさんとのハンデが埋まるまで、いっしょに楽しく生活しましょう。
 せんせー、おちんちん、もっと欲しいですー。

 (中略)


 昨日の夜はずっとセックスしてました。
 檻の中で一晩が過ぎました。足も伸ばせない狭い場所での生活。
 寝る時はネギせんせーと抱き合うようにして寝ています。
 んー、なんかあちこちが痛いけど、せんせーといっしょなら大丈夫ですー。
 せんせーは身体をくの字に曲げた姿勢で、少し辛そうな顔で眠っていました。
 ああ、せんせー、綺麗な顔です。まるでお姫様みたい…はっ、これは、その、チャンスですー。
 お目覚めのキスをしましょう。あどけない唇が呼吸の度に微かに動いています。
 朝一番からせんせーとキスができるなんて、きゃー、今日は素晴らしい日になりそうです。
 心臓がどくんどくんと鳴っているのが分かります。
 わたしはせんせーの身体の上に乗って手で頭を固定し、せんせーのくちびるにそっと自分の唇を重ねました。
 せんせーの小さな唇をこじ開けてわたしは舌をせんせーに入れました。
 朝一番のネギせんせーの味は、昨夜とはまた違う味でした。
 わたしはせんせーの舌と舐め合いながら、わたしの朝一番の味をせんせーに届けました。
「んちゅ、ん、ちゅ、ううん、ちゅ、ん、ん!」
 せんせーが起きました。苦しそうな声を出してわたしを引き離そうとしています。
 もう、せんせー、わたしはまだキスをし足りませんよ。
「な、なにするんですかっ! のどかさんっ!」
 もっと、せんせーが欲しい……。
「あ、あぶぶぶ」
 わたしはそのまませんせーのほっぺ、鼻、目の辺りやおでこまでぺろぺろ舐めてみました。
 せんせーの顔、なんて可愛らしいんでしょう。嫉妬しちゃうぐらいです。ネギせんせー、素敵です。
「やめて……た、助けてっ!」
 せんせーは外にいた釘宮さんにそう叫ぶと、まるで動物が暴れているように檻をガンガン叩きました。

「ここから、出してくださいっ!」
 だけど釘宮さんは聞こえないふりをして雑誌を読んでいました。
 わたしは悩みました。どうしてせんせーはそんな事を言うのでしょうか? まるで何かに怖がっているみたい……。
 せんせーが何に怯えているのか、わたしはドキドキしながらせんせーの心を読みました。
 え? あれ? ………わたしが、怖いんですか? 
 そんな、わたしはせんせーのために頑張っているのに、酷いです。
 はっ、まさかっ! アスナさんに洗脳されてそう思わせられているのでは! 
 うー、アスナさんめぇ! それほどネギせんせーを奪われるのがイヤですか! まさか洗脳しているなんて……。
 でもわたしは負けません、アスナさんの洗脳をわたしの愛の力で浄化してみせますー。
 わたしは決意すると、せんせーの朝立ち(男の人は、朝におちんちんが大きくなるらしいですー)を見ました。
 それに腰を降ろすように、ゆっくりとわたしのアソコに入れていきました。
「うわっ、の、のどかさん!?」
 あ、ああっ、大きいです……。昨日のせんせーも大きかったけれど朝のせんせーも大きいぃ……。
 はあ、はあ、が、がんばらなきゃ。も、もうすぐ……ぅ、奥ま、で、ぇ……あ、あっ、ああっ!
「うあっ!」
 わたしは思わず声を上げてしまいました。わ、わたし、せんせーとまた繋がれました。
 ああっ、気持ちいい、せんせー、初めての昨日より、気持ちいいですうっ! 
「あっあっあっ、せ、せんせーも、動いてください。はぁん、はあ、あっ、ああっ。あっ」
 わたしはせんせーにも気持ち良くなってもらおうと、腰を頑張って動かしました。
 あっ、やっぱ昨日とは全然違いますー。し、シンクロしたんでしょうか!? 
「の、のどか、さん……や、やめて、ううっ、ひうっ、うわあああっ、あああああああ―――んっ!」
 ネギせんせーは顔を真っ赤にして泣きじゃくりました。
 それほど気持ち良かったですか。ああ、嬉しい! 嬉しいですせんせー!

「せんせー! ネギせんせー! ネギせんせぇぇ―――っ!」
 わたしは何度もせんせーの名を叫びました。叫ぶ度に興奮していきます。
 ああ、わたしは変われる! もうおどおどしたわたしじゃないんです!
 木乃香さんとも約束しました。せんせーがわたしを愛してくれたら、パートナーにしてくれるって!
 素敵! なりたい! パートナーになりたい! せんせー! わたしは、わたしはぁっ!
 せんせーの事を、愛しています―――っ!
「あっ、あっ!? あぁ―――っ!」
 せんせーのおちんちんから精液が、わたしの中にいっぱい入ってきます! 
 せんせー! 幸せですぅっ! い、イきそうっ! あ、ああっ、せんせー、
 せんせーせんせーせんせー、好きですっ! あっ、せんせーっ! あっ、もうだめ!
 イっちゃう! あっ! ああっ! ああああっ! せんせー ぜん゙ぜぇ―――っ!
 イく、あっ、あっ、あああああああ……


 イってしまったわたしは、がくんと手を付きました。でも、まだです。
 アスナさんの洗脳がある限り、わたしのアーティファクトでいくら読んでもせんせーの答えは変わりません。
 もっと、もっと、もっと、頑張らなきゃ! せんせー、もう一回しましょう!
「びえええええっ、えっ、えぐっ、ふえええ……」
 せんせーも泣いて喜んでいますー。
「うーん、ストレスかな?」
 檻の外で釘宮さんが苦笑していました。ストレス? いったい何の? 
 あっ、分かりました! アスナさんの洗脳と、せんせーの心が戦っているんですね?
 せんせー負けないで! わたしも、頑張りますから!。
 授業はサボります。ネギせんせーごめんなさい。わたしは悪い子になっちゃいました。
 でも、もう嫌なんです。
 わたしはもう、せんせーと離れたくない……。
 これからは24時間、ずっといっしょですよ、せんせー。

 (中略)


 せんせーは動かなくなっちゃいました……。どうしたんでしょう? 
 顔色も悪いし、最近はずっと元気がない状態が続いています。
 無言になっちゃって、ぐったりして死んだ魚のような虚ろな目で天井を見ています。
 せんせーは何も食べたくないと言って寝ています。わたしが何をしても、せんせーの具合はよくなりません。
 エッチなことをしても、死にかけた昆虫のようにぴくぴく動くだけです。最近はおちんちんもパワーがないし。
 今日の昼御飯は釘宮さんの大好物のまつ屋の牛丼(お持ち帰り用)です。
 でもせんせーに、あーん、てしてもせんせーは「食べたくありません……」というばかり。
 せんせー、もう一日何も食べていません……。
 わたしはいいアイデアを思い付きました。
 せんせーが牛丼を食べられるように、わたしが、代わりに噛んであげればいいんです!
 わたしは肉汁が染み込んだご飯とお肉を口に入れて、そのまま歯でくちゃくちゃと噛みました。
 せんせーが無理なく食べられるように、細かく、柔らかくしないといけません。
 ぐちゃくちゃぐちゃくちゃぐちゃくちゃ、と数分噛んでいると
(あ、もちろん音はイメージです。音を立てて噛むなんてお行儀が悪いですー)
 ご飯粒やお肉も、お粥みたいにとろとろになりました。
 さあ、せんせー、ご飯ですよ。わたしはせんせーの閉じた口をこじ開けて、わたしの口と合体させました。
 膨らんだほっぺたが恥ずかしいけれど、せんせーのためです!
 わたしはお粥になった牛丼をせんせーの口の中に流し込みました。せんせー、さあ、めしあがれ。
「ごほっ! ごほっ!」
 せんせーが咽て、牛丼のお粥を噴き出したので、わたしはティッシュでせんせーの顔を拭いてあげました。
 うふふ、ゆっくり食べてくださいね。
 見張りの釘宮さんが自分の分の牛丼を持って、出ていきます。
 どこに行くのか聞くと「お二人の邪魔しちゃ悪いからね」と何だか引き攣った顔で言いました。
 もう、変なくぎみーさんです。あ、この仇名はダメだったっけ。

 わたしは牛丼を全部ネギせんせーに食べさせました。あ、でも、食べたら歯磨きをしないといけません。
 わたしに任せて下さいネギせんせー。私は昨日買ってもらった液体ハミガキを口に含みました。
 うふふ、せんせーも何をするか理解してくれたようです。
 さあ、せんせー……お口を綺麗にしましょうね。
 わたしは、今日何度目かも忘れたキスをせんせーにしました。

(中略)

 ……わたしの完敗です。結局、わたしはアスナさんの呪縛からせんせーを解放する事ができませんでした。
 せんせーの心にはアスナさんばかり、なんて強力な洗脳でしょう。
 そう、洗脳。
 そうに決まっています。
 でも、まだ方法はあります。
 ハルナさんと桜子さんに誘われました。アスナさんをボコりにいくそうです。
 わたしは決意しました。せんせーを救うために、悪の根源であるアスナさんをやっつけに行くと。
 せんせーの物語のヒロインは、わたしです。
 アスナさんをやっつければ……。

 わたしは信じます。
 この先にあるハッピーエンドを。
 愛の奇蹟を。


 幸福な未来を―――。

 ―――七日目、深夜。
「さー、景気よく明日菜をボコりに行くよ、のどかっ! いざ出陣! アデアット!」
 屋上に立つハルナ、のどか、桜子。「出でよ傑作!―――『恋天使の双翼』!」
 ハルナのカードが光を放ってアーティファクト―――魔法のスケッチブックに変わる。
 パラパラと勝手にページが捲れて指定されたタイトルの作品が選ばれる。そして実体化。
 ランドセルのように背負える巨大な翼がスケッチブックから飛び出した。描かれた通りの白い翼。
 しかし妙に尖った感のあるそれは、天使というよりは巨大な白い蝙蝠を連想させる。
 ハルナがそれを纏い、ばさり、ばさりと動かすと、ハルナの身体が数センチ浮かび上がった。
「すごいハルナー」のどかがぱちぱちと拍手を送る。「そんな事もできるんだー!」
「いやー、便利だねー」桜子が口を開ける。「まっ、私には使えないけどねー」
「ふっふっふー。さあ、二人とも私に掴まって」ハルナがにやりと嗤う。「病院に突撃だよ」
 のどかと桜子を背負いながら、ハルナは翼を動かした。ばさばさと巨大な翼が動く度に風が巻き起こり、力学的法則を無視して少女たちを宙に舞い上げる。

 麻帆良上空を飛行しながら、少女たちは感嘆した。
「うわぁ……」
「すごい……」
 見慣れた麻帆良学園都市の光も、上空から見ると宝石箱のように美しい。
 ハルナは見慣れているといった様子だったが、のどかと桜子は目を輝かせていた。

 その時、麻帆良学園都市の中から魔法の閃光が一本、ハルナたちに向けて発射された。

「うわっ!」
 のどかと桜子が悲鳴を上げる。バランスを崩しながらも魔法の攻撃を回避し、体勢を立て直したハルナは、顔を真っ赤にして下界を睨みつけた。
「危ないじゃん! いったい誰が―――」

「とにかく、降りてみようよ」桜子が無表情になって言う。「たぶん、喧嘩を売られたよ私たち」
 ハルナたちはそのまま降下し、麻帆良学園都市の道路に着地する。そこは奇妙な光景だった。
 人がいない。
 点滅する街灯、道路の中で停まった自動車、明かりのついた建物、そして無人。
 まるで強制的に住民だけを追い出したような、いや、住民全てが煙のように消えてしまったかのような、ゴーストタウンの如き光景がハルナたちの周囲に広がっていた。
「これって……」ハルナが周囲を観察する。「人払いの呪符、かな?」
 木乃香は基本的に陰陽術士であり、様々な呪符を使用する。ハルナたちも呪符を携帯しているし知識もある。アーティファクトの練習相手も式神だった。
 一方、カモが用意した教本を使って、木乃香は西洋魔術の勉強も始めている。刹那を守るために努力を惜しまない彼女が目指すのは、和洋折衷な魔法使いなのである。
 そんな木乃香の従者であり、教育された桜子たちは、この特異な状況下でも冷静に行動していた。
「アデアット!」桜子のカードが、ピコピコハンマに変わる。のどかが不安そうに、桜子とハルナの傍に寄った。

「まあ、似たようなモノやよ。周辺1.2キロメートルの住民には、ちょっと出ていってもろた」

「……!?」「……?」「あははー」
 まるで映画の小道具のような、ヨーロッパの石橋に似せた麻帆良の歩道橋の上に、一人の少女が立っている。
 それはハルナたちもよく知っているクラスメイトだった。
 サッカー部。マネージャー。保健委員。ブルーの入った髪。気弱。お人好し。喧嘩が嫌い。傷。そして今は行方不明。
 黒いマントが風に煽られてばたばたと波打ち、ボンテージを纏った身体がたまに覗いている。
 以前の少女では考えられなかった格好も、今の少女には不思議とよく似合っていた。


「……亜子ちゃん」
 三人の誰かが言った。


 和泉亜子は赤い瞳を輝かせて、ハルナたち三人を見た。

「あの〝女子寮の夜〟以来だね、亜子ちゃん」
 ハルナが亜子を観察して、眼鏡の奥の目を細める。
 「私たちもいろいろあったけれど、亜子ちゃんにもいろいろな事があったみたいだね」
「うん」亜子は笑顔で肯いた。


「いろんな事が、いっぱいあった」


「世間話でもする?」桜子がウインクして亜子に言う。「病院に向かいながらでも」
「いいや。病院には行けへんなぁ」亜子は微笑んで、首を傾げる。「入院してる友達を襲うやなんて、そんな卑怯な理由では」
「あ、そう」桜子の目が歪む。「へー。そーなんだ」
「つまりー」眼鏡の奥のハルナの瞳に殺気が宿る。「亜子ちゃんは、わざわざ邪魔しに来たと」
「そういうことになるね」亜子の瞳が、血のように赤く輝く。


「ここは、通さへんよ」


 亜子は立ち塞がる。
「ははは、これは契約を3時間にしてもらって賛成だね。時間がかかりそう」
 ハルナが嗤う。桜子が笑う。そしてのどかが、「アデアット!」と叫ぶ。

「和泉、亜子さん―――」

 魔法の本を持って、のどかはゆっくりと少女の名を呼んだ。
 しかし、本は反応しない………。

 ………
 ………
「―――それは簡単そうで、決して容易なことではないな。茶々丸よ」
「はい。マスター」
 エヴァの問いかけに、茶々丸は頷いた。
「日本では、名前の変更は戸籍法に基づき、家庭裁判所の許可を得て行われます」
「陰陽術の『身代わりの呪符』、また西洋魔術の契約執行時の『従者の名前』。魔法においても名前は重要だ」
「しかし彼女は真祖の血を吸って、人間から変質した吸血鬼―――」


「それは重要な名前をも、変えられるレベルの変化でした」


 茶々丸は首肯する。
「それであの小娘は、神楽坂明日菜と病院を守るために戦いにいったのか?」
「近衛木乃香に操られている者たちも、助けたいそうです。やってはいけない事を、してしまう前に」
 エヴァは苦笑する。「勝ち目はあるのか?」
「魔法障壁と自分への契約執行、人払いは教えました。後は魔法学校一年生レベルの魔法を少々、付け焼き刃で」
「殺されるな。間違いなく。せっかく私から力を奪ったのに、使えないうちにくたばるか……アホめ…………」
「殺される可能性がある事は、忠告はしました」
「そうか、なら好きにさせておけ……あいつが選んだ道だ」
 茶々丸のいれたお茶を飲みながら、エヴァはふう、と息を吐いた。
「全て失ってしまった。真祖の力も、もうない」
 虚ろな目で、エヴァは茶々丸を見る。

「あの時の私は、どうかしていた……。いっしょにいた時は酷い事を言ったが、和泉亜子には悪い事をしたと思っている」
「マスター……」茶々丸が、エヴァの前に座る。
「………愚痴りながらも学園で、のんびりお茶を飲んで暮らしていた時が、実は幸せだったかもしれませんね」
「ふん」エヴァは自嘲する。「もう遅い」
「マスター。実は和泉亜子さんから伝言があります」
 ぶっ、とお茶を噴き出すエヴァ。「な、なんだと!?」
「少しでも償いをする気持ちがあるのなら、ネギ先生を助けて欲しい、と。明日菜さんとネギ先生、この二人には幸せになって欲しいそうです」
「ふん、この結界の中で私に、学園にいる近衛木乃香と戦えというのか。死ねと言いたければそう言えばよい」
「いえ、マスター。私は和泉さんから、戦闘が可能なレベルの魔力はいただいていますが」
「………ん、そうか」
 茶々丸は「あ」と、ここで間違いに気付く。
「もう和泉亜子さんではありませんでした。名前は変わったのですから」
「ふん」エヴァは嗤う。「茶々丸よ。貴様、私を誘導したな―――が、まあいい」
 エヴァはゆっくりと立ちあがった。「寝てばかりで、退屈していたところだ」





 和泉亜子の名を捨て、私と同じエヴァンジェリンを名乗る若き吸血鬼よ。
 光に生きるのは楽ではないぞ―――
 もう二度と会うこともないだろうが、
 しかし貴様の生存ぐらいは祈っておいてやる。

 では、茶々丸。
 もう一杯、お茶をくれ。
 それを飲んだら出かけようか、学校に。

 ―――最後の通学だ。

「ふふふ………え? どうして!? 亜子さん! 和泉亜子さん!」
のどかが亜子の名前を何度も叫ぶが、魔法の本は全く発動しなかった。のどかの顔に焦りの色がはっきりと浮かぶ。諦めずに何度も何度も、亜子の名を叫びつづけた。
「心が読めへん相手は初めてけ? のどか」
「な!?」
「いったいどういう事?」のどかを庇うようにハルナが進み出る。「あんた亜子ちゃんでしょ?」
「ハル…」のどかがハルナの後ろに隠れた。「ご、ごめんー。役に立てなくて……」
亜子はその光景を見て、悲しそうに目を閉じた。
「のどか、どうしてハルナちゃんを本名で呼ばへんの?」
「そ、それは……」のどかは言葉に詰まる。「わ、私の勝手です……」
「のどか」ハルナがのどかを睨む。「無視しな」
「怖いんやろ? 自分がどう思われているか分かってしまうのが」
「そ、そんな事は……」
「のどか!」ハルナがのどかを亜子から遠ざける。
「のどか、何人の心を今まで読んだ? 友達の心。大好きな人の心。それを読んで本当に幸せになれた?」
「う、うぅ……う、ううううう……」
「心を読んだその人と、心から分かり合えるようになった?」
「そ、それは」のどかは震え始めた。「それは違います! あれはきっと洗脳ですっ! 洗脳!」

「ふふっ。強力な能力を使いこなせずに、逆に食べられてもうたんやね。のどか」

「う、あ……」
 のどかはよろよろと後退する。「あ、ああ―――っ!」

「ハル…。桜…さん。……は、早く。早く早く早く! 早くその人、やっつけて―――っ!」

「オッケ―――!」桜子がピコピコハンマを片手に進み出る。「私が相手になるよ。亜子ちゃん」

「正確には、亜子とちゃうよ」亜子は寂しそうに微笑む。
「うん?」桜子の目が丸くなる。「そっくりさん?」
「まあ、別に亜子でええけどね」亜子の目が細まる。「名前を変えたんよ。だから本の精霊は反応せん」
 亜子は、自分の気持ちを整理するように少し黙ると、ゆっくりと話し始めた。
「―――みんな、もうこんな事は止めよう……。ウチ、こんな風になってよう分かってん」
 亜子は桜子を見、ハルナを見、のどかを見、そして話す。
「みんな、よく考えてみて。みんなにとって何が一番大切なもの? すごい力? ううん、違う! 魔法のアイテム? いや、そんなもんは無くてもいい!」
 亜子の声が、震え始める。「一番大切なんは、今まで、当たり前やった事やろ!」
 三人は何も言わない。
「毎日早起きして学校に行って、部活したり、みんなで馬鹿な話して笑ったり、ネギ先生とお風呂で遊んだり、テスト勉強をひーひー言うながらやったり……」
「みんなで仲良くしてた、当たり前やった生活が、ウチは一番大切やと思う」
 亜子が言う。
「このままやったら全部壊れてまう。全部無くなってまうんよ! 今やったらみんなはまだ戻れるのに……あんたら、アホちゃうかっ!」
 声が大きくなる。
「なんで酷い事ができるのっ! なんで病院を襲うなんて事ができるのっ! なんで……友達の明日菜を襲うなんて事ができるんよっ!」
 そして叫ぶ。「目ぇ覚ませっ! いい加減にっ! あんたらが進んでるのは破滅やっ!」
 亜子は三人を見る。
「………」
 無言が続く。
「………」
 伝わったのかもしれない―――亜子のその思いは、一瞬で砕かれた。

「なら、名前教えてくださいー」

 のどかが、本を開いてそう言った。

「ほ、本当にそう思っているなら、名前を言って、この本で心を読ませてくださいっ!」
 のどかの顔には、怯えの色が濃い。「本当にそう思っているなら、本当にそれが本心で私たちに伝えたいなら、できるはずですー」
 本を抱きながら、のどかは震える喉から声を絞り出した。
「で、できないんですかっ! やっぱりそうです! みんな、騙してるっ! 騙されてるっ! 嘘ばっかですっ! みんなみんなみんな―――っ!」
「のどかっ! その本を捨てっ!」
 亜子の声にびくっと反応するのどか。
「そ、そうか、分かりましたー。私から本を離して、じ、自分のものにするつもりですー」
「違う! ウチは―――」
「じゃあ名前を言え! 早く、早く言えっ! 言えっ! 言えっ! 言えっ! 言えっ!」
「の、のどか……」
 言葉に詰まる亜子に、さらに一人。
「目ぇ覚ますのは、亜子ちゃんの方だよ―――」ハルナが嗤いながらスケッチブックを掲げる。
「亜子ちゃんには、このスケッチブックのスゴさが分からないのかなぁ?」
 ハルナはうっとりと、まるで恋をしているかのようにスケッチブックを撫ぜる。
「これに描いた私の絵が、動くんだよ…本物になるんだよ…」言葉には盲信が感じられる。「こんなスゴイもの、もう離したくない―――」
「まあ、どーでもいいよ。今が楽しけりゃ」桜子がピコピコハンマを前に構える。
「悪いけれどー、アーティファクトを使いこなす練習相手になってもらうよっ!ゼッタイに来る、彼女との〝再戦〟のために 」
 桜子の手の中で、ピコピコハンマが巨大化する。取っ手は長くなり、叩く部分はまるで風船のよう膨張した。数倍から数十倍へ。それは瞬く間に桜子の身長を抜いた。
 まるで地獄の鬼が持っていそうな、人も叩き潰せるサイズになる。
「桜子ちゃん。戦闘モードぉ!」ハンマを前に構え、桜子の目が細まった。普段は見られない顔だけに妙な迫力がある。「アーティファクト、『ハマノコヅチ』―――っ!」
 道路に停まっていた自動車の上に飛び乗った桜子は、その巨大なハンマを軽々と振りまわしながらダン、ダン、と車を飛び石のように渡り、亜子にめがけて跳躍する。

「分からず屋っ!」
 後ろに跳ぶ亜子。桜子は亜子が立っていた歩道橋に、どん! とハンマを叩き付ける。変化は劇的だった。一瞬にして歩道橋には無数の罅が発生し、次の瞬間粉々になって散った。
 そのまま抵抗なく落下した桜子とハンマは真下の自動車も直撃する。車両のボディやフロントガラスに同じく無数の罅が走り、それはそのままタイヤや道路の舗装にまで広がる。
 ボボン!とタイヤが破裂して空気が吹き出ると、その風で自動車は粉末になって飛散した。破片などのレベルではなく、ネジ一本の原形も残さず粉々に吹き飛ぶ。
「ふふふっ」道路にぽっかりとできたクレーターの中央で、桜子はにっこりと、心底楽しそうに笑っていた。
 桜子がぴょん、とクレーターから飛んで出る。「もしかして、自分に契約執行をしてたりするのかな?」
「まあ、気休め程度や」亜子が距離を保ちながら桜子と、ハルナたちを見る。
「へぇー。そーなんだ」口を開けてにっこりと笑う桜子。「それじゃあ―――」桜子のハンマの取っ手が二〇メートル以上伸びた。
「―――!?」突然、射程距離に入ってしまい驚く亜子に、
「遠慮なくいくねっ」桜子は笑いながらハンマで、思いきり亜子を横殴りにした。
 反発するような、鈍い音がして亜子は吹き飛んだ。
「――――ああっ! あ゛う゛っ!」石造りの壁に叩き付けられる。「あ゛、ぐぅ……うう……」
 背中に鈍い衝撃を受け、亜子はずるずると壁を擦り落ちていった。そして地面に立つとそのままよろけて倒れる。埃だらけのマントがふわりと身体を隠した。
「痛ぁ……」左肩はマントが破れて肌が外気に触れ、裂けた傷口から血が左腕に伝い落ちている。
「くっ……」ズキリ、と肩に痛みが走る。しかし亜子は関係ないとばかりに立ちあがると、睨むように桜子を見る。
 そして黒いマントを翼のように広げ、そのまま走るように地面スレスレを飛びながら桜子に突撃した。
「なっ!?」予想外の反撃に戸惑った桜子の反応が一瞬遅れる。取っ手を短くしたハンマを振り上げた瞬間、亜子は桜子をそのまま押し倒した。
 振り上げたハンマが地面を叩いて、ぼん! と音をたててクレーターができ、桜子と亜子はそのまま落ちた。

 桜子のハンマが地面を砕いていき、亜子は桜子を捕まえたまま鉛直下向きに加速した。
 そして、

「―――っ!」

 亜子が自分の身体を弾丸にして、桜子をクレーターの中央に叩きつける。
 ぐえ、と桜子は唸りながら、しかし負けじとハンマを掴んだ手で、亜子の負傷している肩を殴りつけた。
「きゃあっ!」傷口を更に抉られて障壁の上からでも激痛が走る。亜子は肩から血を流しながら、転がるように桜子から離れる。
 肩を押さえてうずくまった亜子に、桜子はチャンスと攻勢に出た。
「えへへー。亜子ちゃんて、喧嘩なんかしたことないでしょ…なんとなく分かる、よっ!」
 迫って来る桜子を見て亜子が急いで起き上がるが、逆に桜子は倒れるように、よろめく亜子の足を、ハンマで右から左へ横殴りにした。
「あ゙あ゙っ!」
 転倒する亜子を見て桜子は満面の笑みを浮かべ、彼女の腹部にどむ! とアーティファクトを叩き込んだ。
 障壁に守られたとはいえ、内蔵がひっくり返るような衝撃。
「ゔあ゙あ゙っ………あ、ぐぅ……」
 身体をくの字に曲げた亜子は、口からぼたぼたと胃液を零してのたうちまわる。
 桜子は次に亜子の足に、壊さんばかりに思いきりハンマを叩き付ける。ごっ、ごっ、と鈍い音がした。
「あぎゃっ……きゃあっ、あ、ああ…………きゃあああああ―――っ!」
 桜子から離れようとする亜子だったが、足を連打されてろくに動けなかった。
 地面に這って悲鳴を上げる亜子は、桜子にとっては格好の標的である。しかし、
「はあ、はあ、な、なんて頑丈な障壁……亜子ちゃん、どれぐらい魔力あるのよ……」
 桜子が、バテた。
 亜子の足は所々で皮膚が破れて血が滲んだり、内出血を起こして無惨に腫れあがっていた。それはかなりのダメージだろう。
 しかし桜子のアーティファクトはそもそも一撃必殺のものであり、もぐら叩きのように何度も振り下ろすような代物ではないのである。
 だが亜子の障壁が強すぎて、桜子は決定打を与えられずにいた。

「亜子ちゃん、けっこうガード固いね」桜子が呆れたように言う。「ちょっと疲れちゃった。でもねえ―――」
 桜子は倒れた亜子の顔を、靴でぐりぐりと踏み躙った。障壁が反応しないよう優しく靴をほっぺに置いて、一気に思いきり踏み付けて靴底をにじりつける。
「うあ゙あ゙、あ゙っ、あああ゙、うゔゔぅ―――」
 泥で汚れた亜子の顔に、みしみしと桜子の体重がかかる。亜子の悲鳴を聞きながら、桜子は大きく口を開けてにっこりと笑った。

「あんた、応援しようもないほど弱い。ザコのくせに生意気なこと言ってるんじゃねーよ」

「くっ…………こんなぐらいで…あぐっ!」
 がん、と桜子が亜子の顔をハンマで殴った。亜子は口の端から血を流しながら、目を閉じてぐったりと横たわり動かなくなった。
「はい。ザコでした」にやりと笑う桜子。「さて、どうしよっかなー。これ」
 その時、亜子のマントがまるで翼のように広がった。勝ったと思い込んでいた桜子の目の前でマントは暴れ、そのまま亜子の身体を跳ね上げていた。
 ごん! とオーバーヘッドの形で亜子の足が桜子のでこに当たる。
「あ、れ゙……?」
 奇襲に対処できなかった桜子の意識が一瞬途切れ、ハンマ型のアーティファクトを持つ手の力が緩む。その時、
 ぱしっ、と亜子がハンマの柄を掴み、
 そのまま桜子から奪い取った。
「………え?」

 ぼんっ!

「――――あぼっ!?」
 自分のアーティファクトで殴られた桜子の身体は木の葉のように吹き飛んだ。

 くるくると回転していく途中で桜子の服は粉々になり、乳房や陰毛、割れ目がまる見えの状態になる。
 そしてそのまま地面をバウンドし、慌てて避けたのどかの横を滑り、そのまま街灯にぶつかって止まった。
「………」そして白目を向いて、ぴくりとも動かない。
 亜子と桜子の障壁の防御力の差が、そのまま現れた結果だった。
「はああ、はああ、はああ、や、やった……」
 カードの戻った桜子のアーティファクトが、ひらひらと舞い落ちる。
「はあぁぁ、はあぁぁ、はあぁぁ、はあぁぁ―――さあ、次はどっちや!」
 亜子が肩を押さえ、ボロボロの足でよろめきながらもハルナとのどかを睨む。
「……え、あ……さっ、桜子さんが―――っ!」
 思わず本名を叫んでしまうのどか、しかし魔法の本は反応しなかった。桜子の思考は、完全にブラックアウトしている。
「ふうん、結構やるみたいね。まさか桜子ちゃんが負けるなんて。防御力が異常に高いのか――ふむふむ」
 ハルナはくっくっくっと笑みを浮かべる。
「亜子ちゃんに何があったか気になるねー。名前を吐かせて情報を手に入れたい」

 ハルナはアーテクファクトのスケッチブックを翳し、にたりと嗤った。


 そして、地獄が始まる。

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最終更新:2012年02月12日 21:51
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