楽日 第五話
× ×
「着いたで、お姫様」
さすがは小太郎、脱衣所できゃいきゃいバスタオルでの拭きっこが終わるや、
軽々と愛衣の体を持ち上げて、太股と背中を下から支える体勢で運搬した愛衣の裸体を
優しくベッドに横たえる。その小太郎も又、バスルームからこの方絶賛全裸継続中。
「しかしまー、ようこんな所見付けとったなぁ」
「新居周辺の住環境は主婦の最大関心事ですから。リサーチは得意ですので用意周到と言って下さい」
「なーる、つまり、引っ越してベッドが届くまで我慢するのが惜しいと」
「そういう事です」
「否定せんのかいな。あの真面目な愛衣姉ちゃんがエロくなったなぁ」
「それは、大好きな小太郎さんですから」
ベッドの上にひょいと座った愛衣がふふっと笑い、そのあけすけな言葉に小太郎もへへっと笑みを浮かべる。
「よっしゃ、大好きな愛衣姉ちゃんが綺麗でエロ過ぎて、俺も辛抱たまらんわ」
「辛抱してくれなくって全然オッケーと言うか大歓迎です、きゃっ」
ベッドに飛び込んでそのまま愛衣に抱き留められ、
そうしながら愛衣をベッドに横たえた小太郎は、目の前にぷるんと震える乳房にかぷっとむしゃぶりつく。
「んふふふっ、くすぐったいです、小太郎さん」
「風呂であんな目の前でぷるんぷるんで、たまらんて、俺愛衣姉ちゃんの乳大好きやさかい」
「はいはい」
愛衣はにっこり笑って、ちゅうちゅう吸い続ける小太郎の黒髪をくしゅくしゅ撫で回す。
中身を知っているとは思いたくないが、最上級な乳を知る男に言われるのもちょっと嬉しい。
ぷるんと唇を離してニッと笑みを浮かべた小太郎は、
乳房に伸ばしていた左手はそのままに右手を愛衣の下半身へと滑り込ませる。
「おーっ、愛衣姉ちゃん、こっちにもぬるぬる仕込んどったんかいなー」
「はーい、私の体が小太郎さんをお待ちしてちゃーんと仕込んでたんですよー」
「はあっ、かなんなぁ」
これも慣れと言うものか、からりからりと明るく交わされ、
それでいて、器用な指の動きに声を漏らして清潔なシーツの上でひくっひくっと震える動きに、
小太郎は呆れながらも楽しそうに犬歯を見せる。
意外とこういう性格だったのか、それを見せているのは多分自分の前だけ。そう考えるのも楽しかった。
そして、もっと、もっと見たくなる。
新たな獲物を求めるハンター。唇を嘗めた小太郎からそれを感じ取り、愛衣の身は期待に震えていた。
「らっ、らめっ、はああっ、らめああ小太郎さんあっ、あっ…」
或いは指で、或いは舌で、慣れ親しんだ絶妙なポイントから新たなアプローチも、
そんな小太郎の試みが生まれたままの姿の愛衣の裸体を這い回り探し回り強く弱く力が加わる。
その度に、愛衣の身はベッドを跳ね、もう大人の女性となった甘い喘ぎ声を響かせる。
だが、その度に、小太郎はすっと退いて愛衣の身を優しく休ませ落ち着かせる。
その繰り返しこそが、愛衣に今や焼け付く様な渇望を与え、
若き征服者に縋り付く様な潤んだ瞳を向けさせている。
「ん、むっ!」
小太郎は、そんな愛衣の身を起こし、
一度激しく唇を吸うと、するりと後ろに回った。
乱暴な様だが絶妙な力加減でぐにぐにと乳房を揉んでいたかと思うと、
右手を、既に洪水の様に熱い蜜の溢れ返ったその下半身の源へと滑り込ませ、
愛衣自身の欲情の証をたっぷりとすくい取った滑らかな指で最も敏感な突起を、
一瞬乱暴に、しかし、あくまで繊細な指触りで弄ぶ。
「あ、あっ、いっ、あ…」
今正に、と、愛衣が一際胸を膨らませたその瞬間に、やはり、愛衣はぽんとベッドに放り出される。
「ああっ、意地悪…もう、もう我慢できません。
愛衣は、エッチな娘だからもう小太郎さんの逞しいおち○ちんが欲しくて欲しくて我慢出来ません。
ですからどうか、小太郎さんのビンビンに勃起した逞しいおち○ちんを、
びちょびちょ大洪水で準備万端に濡れ濡れな愛衣のびしょ濡れおま○こに、
どうかズンズンぶち込んでエロエロな愛衣をメロメロひぃひぃよがり狂わせてイカせて下さいぃ…」
ベッドに這いつくばって割に質感のあるお尻をくねくねとくねらせ、
更に、両手でその奥に濡れそぼる桃色がかった鮮やかな花弁を押し開いてとろりと一際濃い蜜を溢れさせ、
よじった首からとろとろに潤んだ瞳を向けて哀願する普段は真面目で大人しいぐらいの美女で大人のお姉さんで
最愛の女性の姿に、小太郎はニヤッと笑いながらもごくりと喉を鳴らし、
そして、渇望されたものをぐいっとばかりに誇示して、
頬を染めながらも縋り付く様に向ける視線に痛く満足する。
「はっ!あっ、あっ、ああっ、いいっいいいっ小太郎さんいいっ、ああーっ!!」
小太郎は、部屋に響く打撃音も高らかにひたすら力強く打ち込む。
それでいて、両手で乳房から太股から更にその奥の蕾やらへの細かい気配りも忘れない。
ベッドにうつぶせになったまま背後から力強く激しく抉り込まれ打ち込まれ、
愛衣はひたすらにバサバサと髪の毛を乱して喘ぎ続ける。
そして、その仰ぎ声も、一際甲高いその途中で不意の終焉を迎える。
ドサリとベッドに埋まる愛衣の顔、一際大きく反り返り、くてっと降下した、
バサバサの髪の毛の被る白い背中を見下ろしながら、
細く見えてしっかりとした愛衣の腰を抱え、押しの一手と思わせて意外な捻りも見せていた小太郎も又、
ふーっと満足の吐息と共にベッドの上に座り込んでいた。
× ×
「あーっ、あっ、あっあ、ああーっ…」
目の前で、ほんのりと汗ばんだ綺麗な乳房がぷるんぷるんと揺れている。
それに連れて、着々と鳥の巣に近づきつつあった髪の毛も又、バサッ、バサッと激しく上下する。
それを眺めながら、ベッドに仰向けに横たわった小太郎は、
この至福の快感を少しでも伸ばしつつ、愛しい女性にも少しでも喜んでもらおうと、
歯を食いしばり懸命の忍耐に務めながら、それでもズン、ズンと腰を突き上げる。
いつしか、愛衣の白い柔肌はほんのりピンク色に染まって汗みずくになり、
唇からは熱い吐息と共に甘い女性の喘ぎ声が溢れて止まらない。
その顔立ち、潤んだ瞳は段々、とろんと柔らかくとろけて来る。
そうしながら貪る様にその身を上下させ豊かな膨らみを揺らし髪の毛は千々に乱れる。
それは、あるいは全てを貪り尽くそうと言う浅ましい姿なのかも知れない。
例え美人でも恐怖を覚えたかも知れない。
それでも、必死なまでに小太郎を求める、そしてさらけ出す、そんな愛衣の事が、
小太郎には途方も無く可愛く、美しく、愛しくそして気持ちいいものに思えてならなかった。
「あ、あっ、あ…」
小太郎の上で、愛衣が起こした裸体が伸び上がりながらもその下ではきゅうっと小太郎を食い締め続けた。
小太郎は、ここまで何度も放出し、たかが知れている筈の本日の肉欲の残りを存分に解き放った。
「小太郎さん…」
くてっと脱力した愛衣の顔が、小太郎の真横から小太郎を見ていた。
「ちょっと、はしゃぎ過ぎたかな…」
「んー、毎日やったら身が保たんかもなぁ。
なんせ、もうすぐ一つ屋根の下や、新婚三日で搾り尽くされてミイラ男なんて勘弁やで」
「はーい、気を付けます」
へへっと笑って言う小太郎に、愛衣もぺろっと舌を出して答える。
そして、唇を重ねてから、愛衣は小太郎の胸板に頬を寄せていた。
「汗の匂い、逞しい…小太郎さん、大好き…幸せ」
「ああ、俺も愛衣姉ちゃん大好きや、今もこれからも幸せ、なろな…」
まるでまどろむ様に言葉を交わしながら、小太郎は愛衣の髪の毛を撫で続けた。
× ×
「どうぞー」
許可を得て、その部屋に入った面々は、暫し言葉を失った。
「綺麗…」
「似合ってるーっ!」
沈黙が破られると、わいわいと騒がしい美女達が、
純白のウエディング・ドレスが最強に美々しい明日菜と愛衣を取り囲んだ。
そんな中で、愛衣の肩がガシッと掴まれた。
「…愛衣、今からでも遅くはありません。協会からもっとマシな男を…」
そんな高音に向けられた極大最上級な笑顔は、高音をたじろがせるに十分だった。
「お姉様、もう諦めましょう」
「そーそー、諦めて、いい加減自分のウエディングドレスの相手探しましょ」
「なあんですってぇ」
萌の隣にひょいと現れたハルナに言われ、高音の目がつり上がる。
「アスナさん綺麗ですー」
「有り難う本屋ちゃん」
心から賞賛し、笑い合う。愛衣は自分の隣のそんな二人を目にし、
そして、何やら感慨深げな表情でうんうん頷いているハルナを見る。
学年は違ってもあの魔法世界にも半ば同行し、それからもずっと関わって来た。
彼女達のその表情の語る歴史も少しは知っているつもりだった。
そう言えば、最初に彼、明日菜のお相手と関わった学園祭の初っ端には、
この隣の二人に絡んでまあ今思い出しても赤面なえらい目にも遭わされたものだ。
「あのお猿さんが…」
「でも残念」
あやかが下瞼に指を当てているその側で、そう切り出したのは柿崎美砂だった。
「こんな最強過ぎるの見逃すってさ、ネギ君もコタ君も出動中、確か南太平洋だっけ?」
「うん。何かダイカイジュウが出ただか出ないだか。
こっちは丁度予約したドレスの出来上がりだったからさ、
しゃあないから久々に男二人の最強タッグ前衛後衛で行ってもらったって訳」
「まあな、あの二人派遣しときゃあ核弾頭より威力あるからな」
もうとっくに暗黙の了解と化している旧3Aメンバーが相手。
明日菜が端的に事情を説明し、千雨が感想を述べる中で、
キランと眼鏡を光らせたハルナが明日菜の最後の方の言葉を熱心にメモする。
「本当に綺麗よ、愛衣ちゃん」
「千鶴さん…」
にこっと、圧倒的な包容力の微笑みを向けられ、愛衣は頬が熱くなるのを感じていた。
「こんな綺麗なお嫁さん、小太郎君は幸せ者だわ。本番が楽しみね。
私も、こんな可愛い妹が出来て、本当に嬉しい」
「有り難うございます、千鶴さん」
愛衣がぺこりと頭を下げ、にっこり微笑む千鶴の向こうで夏美もニカッと笑っていた。
× ×
「もしもし…」
自宅マンションまでもう少しと言う所で、愛衣は携帯電話を使っていた。
「うん、そう。今日ドレスが…凄く綺麗だった…
それで、どう?うん、先生も大変だ。来てくれる?当たり前…
うん。私、今とっても幸せ…
ウエディングドレス、綺麗だったもんね。私も負けないんだから。
じゃあ、お休み、おねえちゃん…」
電源ボタンを押し、携帯電話をしまう。
そして、天を仰ぎ星空を見上げた愛衣の目尻から頬に、つーっと一筋伝い落ちていた。
× ×
「それでは、後は式の後に…」
ぺこりと頭を下げて、管理人室を後にする。
そして、住み慣れたワンルームのドアを開け、がらんとしたリビングで膝を抱える。
インターホンが鳴ったのはそんな時だった。
「はい…」
応答の後、高音と萌が部屋に現れる。
高音が持参の赤ワインを開け、萌がブルーチーズを切る。
「じゃあ、明日の式の成功と晴れの門出を、愛衣の永久(とわ)の幸せを、乾杯」
「乾杯」
高音の音頭で三人がカチンとグラスを合わせ、喉を潤した。
それから、少しの間は萌が一方的に羨望を語り続け愛衣がにこにこ笑って聞いている展開だった。
「幸せなんですね」
「はい」
高音の質問に、愛衣が答えた。
「確かに腕力、戦闘力には優れています。でも、ガサツで粗野でおバカで、
どうしてあんな男がこんないい娘と、何か物珍しいものに惹かれて騙されているだけなのだろうと、
随分長い間そう思っていました」
「間違いなく昨日までと言うかついさっきの夕食まで確信していましたお姉様は」
「お黙りなさい」
自分を見た高音から沸き上がる般若のイメージに萌が震え上がった。
「でも、幸せなのですね」
「はい」
「愛衣は、頭のいい娘です。私は愛衣の目を信じます。
まあ、おバカな分裏表の無い単純で素朴な性格の様ですから、精々上手く手綱を引いておあげなさい」
「はいっ」
「ええ、それでは…」
その時、インターホンが鳴った。
× ×
「で、あなた達は?」
高音は、腕組みをしてでこぴんロケットご一同様を見下ろしていた。
「いやー、自宅方面の終電なくなっちゃってさー」
「冗談じゃありません。明日がどう言う日か…」
「この近くのスタジオで式の練習してたんだけど、色々ハプニングでようやく間に合わせたらさ…」
美砂とのやり取りに、高音が嘆息する。
「呑んでますね」
「ちょっと居酒屋飯…」
美砂とのやり取りに、高音が盛大に嘆息する。
「だから手土産」
「いいのかなー」
紹介する美砂の後ろで、円が呆れた口調で担いでいるのはエ○○ビールの350缶の箱と珍味の数々だった。
インターホンの音を聞き、愛衣がパタパタと受話器に向かう。
その背後では、腕組みして眉をひくひくさせる高音をバックに
早くも萌と桜子が肩を組んで歌謡大会を開催していた。
× ×
「こんな事だろうと思いました」
腕組みして仁王立ちするあやかの前で、円と美砂と亜子と並んで正座した桜子がえへへと頭を掻く。
「全く、よりによってこんな日に、何を考えているのですかあなた達は」
「………」
復活いいんちょモードのあやかの背景では、
夏美が両手に持った350缶を軽々と持ち上げて見比べ、その隣で千鶴が微笑んでいた。
「と、言う事ですので、この狼藉者達をさっさと引き取ってお帰り下さい」
「あら、それは随分な言い草ですね。
皆さんが明日のためにそれぞれの事情を割いてどれだけ頑張っていたか…」
「す、すいませんごめんなさい」
「いえ、花嫁さんはいいんです」
バチバチと火花を散らす二大金髪美女を前に、部屋の主はわたわたするばかりだった。
× ×
「どうしてこうなった…」
合唱する夏美と円の前では、あやかと高音がどっかり座って天狗盃を奪い合っていた。
「なかなか、爽やかな喉越しですね」
「当然ですわ。この日のために仕込んだ雪広家専属蔵元の最高品なのですから。
式に大いに振る舞うものを、一本だけ持参したのですからね」
「それはどうも、でも、これはいいものです」
「当然ですわ…」
その脇では、残るでこぴんメンバーと萌が何度目かのビールで乾杯を合唱している。
「はーい、お、ま、た、せー」
にっこにこ笑った千鶴がまどかと夏美にグラスを差し出し、二人揃ってぐいっと赤ワインを傾ける。
「こーんな可愛いお嫁さん、小太郎君も幸せ者」
「えへへー、私も幸せでーす千鶴お姉様ー」
「よしよし。又遊びにいらっしゃい。こーんな可愛い妹が出来て私もとってもハッピー」
「えーと、あの二人の関係は?」
千鶴に頭を小脇に抱えられ、むぎゅっと力を込められてにこにこしている愛衣と、
そんな愛衣をにこにこと撫で撫でしている千鶴を指差し、円が尋ねる。
「あー、なんか愛衣ちゃんの味噌汁にコタロー君が微妙な顔したって相談に来て、
それで、ついでに日本海軍風ジャガイモと牛肉の醤油煮込みとか教わって…」
「かあー、男ってこだわるんだそーゆーの」
「それで手懐けられたと、さすが那波さん…」
割って入った美砂が額を押さえ、円が乾いた笑みを浮かべるのを、
説明した夏美はちょっと困った笑顔で見ていた。
「ほらほら夏美ちゃん、夏美ちゃんこっちいらっしゃい」
「はーい」
かくして、わらわらと集まった集団に向けてどこからかビール缶がほいほい放り投げられ、乾杯が交わされる。
「あー、いよいよ明日かぁー、あのネギ君とアスナがねー。
こればっかりはアスナにかなわないよねー、いいトコ捕まえたわー」
「ネギ君がなぁ」
美砂の後に、亜子がビール缶に視線を落としてしんみりと言う。
「もう、そっくりって言うか追い抜いてもうたわ。
ナギさんとの物語、正真正銘ほんまにこれで終わりなんやなぁって」
「よし亜子、明日は式場の窓に張り付いて、ノック乱打でネギ君略奪行ってみよー!」
盛り上がる美砂の背後で、あやかと高音が無言で山下り谷折りされた大判白紙の折り目を合わせて
下の方をぎゅっと握って振りかぶっていた。
「それを言うなら愛衣ちゃんとコタロー君、亜子、コタ君もあの時とそっくりってね」
頭から煙を上げて這いつくばっていた美砂が、めげずに身を起こして話を振る。
「そうそう、やっぱりあーなるんやなあって」
「ええ、そうです。あの時魔法世界のコロシアムで見た凛々しいコジローと今の小太郎さん…」
「あー、何か入ってるよこの花嫁さん。でもまあそれでねー、
うん、おかげさんでうちの円がスキャンダル十連発とか、
愛衣ちゃんそれにもめげずによく頑張った、感動した!」
「そうれすよー」
美砂の後に、萌が続いた。
「もー、そのたんびに箒でマホラじゅう追いかけ回したとか逆にチベットの奥地までかっ飛ばして家出したとか
燃える天空発動したとか、学園警備総動員で大変らったんれすからねぇー」
「そうそう、しまいにスタジオまで乗り込んで来てさ、
くぎみー何他人の男に手ぇ出してんだゴラナシつけるからちょっと顔貸せやって包丁振り回して大乱闘で…」
「愛衣ちゃんそんな下品じゃないし包丁振り回してないしくぎみー言うな」
「それに、十回に九回は柿崎さんと早乙女さんが
十倍増しぐらいに無駄に話を大きくして下さったと記憶していますが」
円と愛衣が、ごくっと喉を潤して言う。
「じゃあじゃあー、十回に一回れそれ以外の事は本当らったんれすかー」
「うーん、その辺の事は明日の友人代表挨拶で全暴露の手筈になってるからそれまで待っちゃってて」
いつの間にか美砂に這い寄っていた萌を撫で撫でしながら美砂が言う。
「…柿崎さん、その時は覚悟しておいて下さいね」
「あー…マジにとらないでくれる愛衣ちゃんその顔、その笑顔結構怖いから…」
顔を埋める形の膝枕に沈没している萌の事はおいといて、美砂の笑みは引きつっていた。
× ×
「…んー…んー…」
「お姉様…」
バミューダ・トライアングルと化したリビングで沈没した面々にタオルを掛けて回っていた所、
不意にガバリと身を起こした高音に正面から首を抱き付かれ、さすがに愛衣は目を白黒させた。
「愛衣…」
「はい」
「ガサツで粗暴でおバカで反抗的で…欠点は山ほどあります…
でも、性根は真っ直ぐで一途にあなたの事を想っています。何かあれば命懸けであなたを守ろうとする筈。
そしてあなたも…何より、あなたがそれだけ想っている男性と結ばれるのです…
あなたは私の認めた…愛衣、あなたは幸せ、です…ZZZ…」
作業を終えて、ふーっと背筋を反らした愛衣が、ふと背後の気配に気付く。
そして、スッと差し出されたワイングラスを見ながら後ろを向く。
「飲む?」
夏美が右手にグラス、左手にワインボトルを提げてにっこりと微笑んでいた。
夏美と差し向かいで座り直し、愛衣は夏美の注ぐワインをグラスに受ける。
「大丈夫だって、毒とか入ってないから」
コロコロ笑う夏美を前に、愛衣は、つと眺めていたグラスのワインを傾ける。
「だって、今毒盛っちゃったら、明日の式で中等部女子寮から魔法世界から、
コタロー君のめくるめくドロドロの愛欲の日々をスライド上映付きでオール暴露出来なくなっちゃうじゃない。
キャハハハじょーだんじょーだん!」
思わずぶはっと噴き出してしまった愛衣を前に、夏美はケラケラ笑っていた。
「な、夏美さんも、どうぞ」
「ん、ありがと」
気を取り直した愛衣に勧められ、夏美は愛衣の注ぐワインをグラスに受ける。
「じゃあ、愛衣ちゃんも、もう一杯」
「はい」
「じゃ、愛衣ちゃんとコタロー君の結婚を祝して、乾杯」
「乾杯」
カチンとグラスが合わさり、二人はつーっとワインを傾ける。
「そっかー…コタロー君も明日結婚式かー、こんなカワイイお嫁さんもらってねー。
年下に追い抜かれて、私も早く、いい相手見付けないとねー」
夏美は、あくまでニコニコ笑って愛衣を見つめていた。
「おめでとう、愛衣ちゃん」
そんな夏美を前に、愛衣は下を向いて震えていた。
「愛衣ちゃん?」
「夏美さん」
「何?」
硬い声の愛衣に、夏美はあくまでにっこり微笑んで応じる。
「…残酷な質問を、します…」
「何よぉ急に…何?…」
はぐらかしていた夏美は、面白そうな顔で聞き返した。
「夏美さん、どうしてあなたは身を引いたんですか?」
「え?えーっと…参ったなぁ。何て言うか…相手が悪かった、って言うのかな?
だって愛衣ちゃんカワイイし素直で明るくてそれに魔法使いとしても優秀なんでしょ?
裏の世界でめっちゃ強いコタロー君のパートナー。
このソバカスペチャパイのフツーのお姉さんがどう対抗しろって言うのよ。
勝者はほんとーに残酷だわ」
「勝ってない」
「え?」
「私は、あなたと争った覚えが無い。それはとても不自然な事。
私は、二年生の時、彼と出会ったあの年の学園祭最終日、演劇部の公演を見に行きました」
「へー、それはどうも」
「夏美さんは端役でも、一生懸命表現していた、輝いていました。
そして、夏美さんは千鶴さんと雪広さんと、彼と、一緒だった」
「んー、ま、同居人だったしね」
「私は、それを見ていました。
それを見るためにあそこに行ったと言ってもいい。
興味がありましたから。小太郎さんを囲んでいつも一緒にいるあなた達が」
「ふーん、じゃあ、敵情視察に来てたんだ」
夏美の意地悪な言葉に、愛衣は小さく頷いた。
「…だから…あなたが…」
「愛衣ちゃん」
はぐらかしていた夏美の口調が、真面目なものになった。
「私から質問」
「はい」
「愛衣ちゃん、今、幸せ?」
「幸せです」
返答を聞き、夏美が浮かべた笑みには僅かに暗さが差していた。
「最愛の男性と相思相愛で結ばれて、明日は結婚式、新婚旅行も決めています。
仕事も順調、協会での地位も約束されています。
キャリア組として協会のトップも伺える。
マギステル・マギへの道筋さえも見えています。魔法使いとして最高の栄誉。
私は、魔法使いの仕事に誇りを持っています。
でも…家庭に入るのもいいかも。小太郎さんと、私と小太郎さんの子供と…
契約とは言っても、大仕事をこなす小太郎さんの収入はそのためには十分なものです。
それに、今すぐは無理でも私が子どもが出来るまで貯金したら…
見渡す限りでは何の問題もありません。輝かしい道筋が見えています。
恋も、仕事も、だから、今私は、最高に幸せです」
愛衣が、まっすぐ前に手を出す。
「…強いんだね…」
ちょっと困った様な笑みでそれに倣う夏美に、愛衣は小さく首を横に振る。
愛衣が、差し出された夏美の手の甲を握り、下を向く。閉じた瞼から一滴溢れ落ちる。
最終更新:2012年01月28日 14:59