313 :P.T ◆3QNEGIp2Uc :04/04/25 00:41 ID:DyhCt1Bg
ifネギま! ~ 一話一妄想 ~
第十六話
短い春休みもあっという間に過ぎ、明日に新学期を控えた夜。まき絵は一人、風呂帰りに桜通りを歩いていた。そこは最近、吸血鬼が出るという噂の場所だったのだが……。
満開の夜桜の向こうに、雲一つ無い、夜空。
ダイヤを砕いたような美しい星空の中心に、真円の満月がじっと地上を見下ろしている。
酒をたしなむ者なら、この光景を肴に一杯やりたいと思うほどの絶景だ。
しかし立ち並ぶ桜並木の下を、まき絵は景色になど目もくれず、息を切らして走っていた。
左手に風呂道具の入った洗面器を、右手に拳を、手が白くなるほど握っていた。
目元には涙が大粒になり、顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。
まき絵は辺りを見まわしながら走る。
探しているのは、助けか、それとも。
ザザァァ……。
「ひっ…」
突然、風も無いのにまき絵の斜め前に位置する桜の枝が揺れた。
悲鳴をあげた途端、まき絵の体に何か重いものが体当たりしてくる。
「きゃあっ」
たまらずまき絵は仰向けに転がった。取り落とした洗面器から、シャンプーの容器が宙を舞う。
「あ……いや……」
珠の肌についた擦り傷の痛みを気にする余裕もなく、恐怖のみなぎった歪んだ表情で宙を見る。
巨大なコウモリを思わせる影が夜空を横切り、動けないまき絵目指して急降下。
「いやあぁ~~~~~~~~ん!!」
喉も裂けよとばかりに大きな悲鳴をあげて、まき絵は転んだ姿勢のまま、拳を作って無茶苦茶に振り回した。
影は悪夢のような優美さでそれをかわすと、まき絵の白い首筋に食らいついた。
まき絵は意識を失う一瞬前、目の前に氷のような瞳をした彼女のクラスメート、エヴァンジェリンの顔を見た。
ひとしきり血を味わったエヴァは紅い唇を舌でぬぐいつつ立ち上がった。
コウモリの翼に見えた、夜と同じ色のマントに身を包んで立つエヴァに対し、まき絵は寝転がったままだ。
吸血鬼としての渇きをいやしたエヴァは、真祖、すなわち闇に君臨する恐怖の君主としての、威厳に満ちた表情で言った。
「さてと……まき絵!」
「はい」
エヴァの呼びかけに、まき絵はまるで機械音声のような、抑揚も生気もない声で返事をした。
ビー玉をはめ込んだような、なんの意識も映し出していない瞳のために、よくできた人形のように見える。
そして、実際にその通りであった。
「立て」
「はい」
精神支配が成功したかどうか、手っ取り早く調べるには、命令をしてみるのが一番である。
まき絵は立ち上がった。どこを見るでもない、焦点を失った瞳で、そのまま棒のように突っ立っている。
さっき転んだ時に落とした洗面器には見向きもしない。
さて、とりあえずまき絵の洗脳は成功しているようだが、これだけでは足りないと、エヴァは考える。
この先、まき絵を第一の手駒として使う計画だ。立つとか座るとか、そういう単純かつ抵抗感のー少ない命令に従うだけでは不十分である。
そう、最低でも、親友に襲いかかれるくらいでないといけない。
エヴァは、より難度の高い要求をしてみることにした。
「服を脱げ」
「はい」
まき絵は機械的に返事をすると、すぐさま服を脱ぎ始めた。
脱いだものが無造作に地面に投げ捨てられ、闇の中にまき絵の裸体が浮かび上がる。
つややかな白い肌は、真っ暗な背景を背にすると燐光を放っているようで、ほっそりした体型、人間味を感じさせない顔とあいまって、さながら妖精のようである。
ためらうことなく全裸になったまき絵を前にしてしかし、エヴァはいま一つ満足がゆかなかった。
二年間、不本意ながらクラスメートとしてまき絵を見てきたが、彼女にとって裸になるというのはそれほど無理な要求だろうか?
思い起こしてみれば、新体操というレオタード姿を人目にさらす部活をやっているせいか、生来の能天気な性格のためか、それとも女子校という場所のせいか、まき絵は脱ぐことにさして抵抗を感じていない様に思える。
目の前でこうも見事な脱ぎっぷりを見せられると、ますますそう思えてくる。
さらに過激な命令が必要だろう。
エヴァは少し考えた後、言った。
「なめろ」
右足に重心を預け、左足を前に出した。
まき絵は膝と手のひらが汚れるのも構わず、すぐさまその場に四つん這いになった。
犬が水を飲むように頭を下げ、舌を突き出してエヴァの足の甲をなめた。
濡れた柔らかいものが肌を往復する感触に、工ヴァはぶるっと震えた。
その頬に恍惚の笑みがさす。
久しく味わうことが許されなかった、他人を支配し、思うがままに操るという快感。
自分が支配する立場にいると、感覚で理解できる瞬間だ。
吸血鬼を吸血鬼たらしめる最大の要素、吸血衝動とは、あらゆる本能の結集である。
吸血とは空腹を満たすという食欲の一面を持ち、仲間を増やすという性欲の一面を持ち、抵抗する相手を傷つけるという闘争本能の一面を持つ。
すなわち、通常の人間が感じる本能的欲望が何倍にも煮詰まったものが吸血衝動である。
その激しさたるや、低級な吸血鬼ならば理性も何もかなぐり捨て、ただ欲望の赴くままに人を襲う怪物となるほどだ。
真祖ともなればさすがにそのような無様な堕ち方はしないが、なにしろ久しぶりの吸血である。エヴァは、足に感じる生暖かい感触と水音に、我慢ができなくなってきた。
吸血衝動に引きずられる形で、性欲が急速に自己主張し始めたのである。
「次はこっちだ」
多少、うわずっと声で命令しながら、エヴァはマントの前を開いた。
ほとんど下着のような薄手の黒いワンピース姿。十歳という外見年齢に似合わぬ、大人びた格好だ。
エヴァは、自分の股間に手をやると、秘密の部分を覆い隠す布に指をひっかけ、くいっと横にずらした。
まったく無毛の、つるんとした割れ目が、まき絵のガラス細工のような目に映る。
まき絵は四つん這いの状態から上半身を起こすと、膝で歩いて前に進む。両手をエヴァの尻にあてがって体を支えるとエヴァの股間に顔をうずめた。
そのまま、ためらうことなく桃色の舌をひらめかせる。
「ああーっ」
はじかれたように、エヴァは顎を跳ね上げた。思わずまき絵の後頭部の髪をひっつかんでしまう。
普通なら痛がるところだが、主人の命令を最優先とするまき絵は、エヴァの手で頭をがくがくゆらされながら、少女の股間を舐め続ける。
「はぁっ、いい、いいぞまき絵……っ」
さっきからの威厳をなんとか保とうとしているが、どうしようもなく声がせっぱつまっている。
浅いく短い呼吸を繰り返し、目はとろんと潤み始めていた。
頬はもちろん、手足にいたるまで肌が上気し、まだ肌寒い四月の風の中、薄っすらと汗まで滲ませている。
手でまき絵の頭を股間に押しつけ、肉付きの薄い両太ももで下僕の顔をぎゅっと締め付ける。
外見の年齢から見れば、彼女はまだ性欲の芽が出始めたばかりのはず。しかしその実、彼女は一世紀を生き抜いた人外の魔物である。すでに彼女の官能は、充分に開発されていた。
「もっと……奥を……ああっ」
「ふぁい」
口を押し付けたまま、なんだか間抜けな返事をするまき絵。彼女は舌の筋肉を一杯に使って、エヴァのスリットの中にぐいぐいともぐり込む。
「あ─────っ、もっと、もっと!」
体の中にもぐりこまれる感触に、エヴァは激しく上半身をのけぞらせたり前かがみになったりした。
溢れるような蜜がまき絵の唾液とまざり合い、きめの細かい肌を伝って膝の辺りまで降りてきている。
普段から、どうしようもなく性欲が高まった時には、茶々丸に奉仕させていたエヴァだが、やはり従者にさせるのと下僕にさせるのとでは違うものがある。
十年以上に渡って禁じられていた快楽に、エヴァは思う存分酔いしれた。
が、そのうちに一番感じる部分に触れたり触れなかったりするもどかしさが出てくる。
下僕は従者と違い、自分で工夫するということをまるでしないからいちいち指示しなければいけないが、それもなかなか面倒くさい。
復帰戦とあってあまり余裕がないエヴァは、とうとう我慢できなくなり、膝でまき絵の肩を押しながら仰向けに倒し、その腹の上に馬乗りになった。
エヴァの『性器をなめろ』という命令を続けようとして首を無理矢理にエヴァの股間に向けようとするまき絵に、「もういい!」と乱暴に叫ぶ。
両手でまき絵の肩を地面に押さえ付けると、問答無用で唇を奪った。
すぐさま舌を使うが、命令を与えられておらず、待機状態にあるまき絵は無反応である。ただ少し、息苦しげにするだけだ。これが茶々丸だったら、舌を絡めて相手をしてくれるのだが……。
「ええい、足を上げろ!」
声に苛立ちを乗せながら、エヴァは言った。
まき絵は相変わらず「はい」と答えると、寝転んだ状態のまま、両足を棒のようにまっすぐ伸ばしたまま、天に向かって直立させた。
「違う、片足だけだ」
右と左、どっちをあげればいいのか指示されなかったせいでまき絵は少しの間、パソコンがフリーズするように止まった。舌打ちしたエヴァが左足をぐいっと肩で押すと、そのまま左足を下ろして右足だけを立てる。
新体操部だけあって、体と足の角度がきっかり90度だ。
エヴァはいったん、まき絵の体から離れると、やや後ろに下がった。そしてまき絵の、降ろされた左足のももにまたいで座る。
目の前に、柱のように突き立った右足を抱きかかえ、そのまま体を前に倒す。まき絵の柔軟な体はさすがで、ももが腹に、脛が額にくっついた。
エヴァは、右足ごとまき絵の体を抱え込んだその状態で、微妙に腰の位置を調整し、自分とまき絵の貝を合わせる。
自我は封じられていても体は多少感じていたらしく、敏感な部分を通じて感じるまき絵の割れ目は、かすかに熱く、うっすらと湿っていた。
ぴたりと吸盤のようにあわさった性器から、生暖かく複雑な触感がわきあがり、エヴァの背骨の中をぞくりと走る。
彼女はまき絵の足の美しい形をしたふくらはぎに牙を立てながら、腰を上下させた。
敏感な粘膜と粘膜をこすりあわせ、快感の凝縮された肉芽同士をぶつけあう。
エヴァはもちろん、まき絵もまた次第に息を乱し始める。
「はぁっ、あ、まき絵、お前も合わせて動け」
指示を受けて、まき絵が腰をうごめかせる。本人にそんな経験が無いため、いっそうぎこちなく、からくり細工じみた動きだ。
それでもエヴァは感じているらしく、合わさった部分からぴちゃぴちゃと水音が激しい。
茶々丸の、人工的なものとは違う生身の女性器は、確実にエヴァを追い詰めていった。
「あああああ─────っ」
桜並木全体に響き渡るような大声をあげ、エヴァはどさりとまき絵に体を預けた。
荒い呼吸を整えながら、絶頂の余韻にひたるエヴァ。
しかし、彼女の表情には落胆の色が隠せない。
吸血鬼としての本能を余すところ無く満たしたはずなのに、精神的な充足感が得られないのだ。
下僕とのセックスは、肉体的な快楽は得られても情動の交流が無い。結局のところ、これは下僕の体を使った自慰行為に他ならないのである。
かといって、吸血鬼という化物を恋人として抱いてくれる男などいるはずもなく、そもそも吸血衝動が性欲と一体化しているため、好きになった相手は下僕にしてしまわなければ気がすまない。
実はエヴァは、対等の相手と交わったことが無いのだ。
これが低級な吸血鬼ならば、そもそもそんな高次の精神的欲求などもたないから問題無い。
なまじ自我を維持している真祖だけに存在する悲劇である。
服を着終え、エヴァの前で命令を待って立つまき絵に対し、エヴァは言った。
「これから私は三つ数える。数え終えた瞬間、お前はこの場で気絶し、しばらく目覚めない」
「はい」
現れた時と同様、黒いマントに身を包んで立つエヴァ。少なくとも表面上は、自信と威厳に満ちた顔つきをしていた。
「なお、その際ここで行われた私とのやり取りの記憶は一切封印され、お前は一時的に私の支配から脱する」
「はい」
「しかし私からの呼びかけがあった場合は、すぐさま私の下僕としての立場と使命を思い出すように」
「はい」
「1、2、3」
まき絵は命じられた通り、支柱が折れたようにその場に崩れ落ちた。
催眠術に似ているが微妙に違う。
吸血による魅了、すなわち吸血鬼化を伴う精神支配が、深層意識のレベルにまで達しているのである。
「ふふふ、待ってろ坊や。お前の血を吸ってやれる日は近いぞ……」
含み笑いとともにつぶやいたエヴァは、ばっとマントを広げた。
風をまき、舞い落ちる桜の花びらを吹き散らしながら、エヴァは満月に向かって飛び立っていった。
第十六話 終わり
※ 吸血衝動の理論に関するくだりは、古橋秀之氏の「ブラックロッド」(電撃文庫)から思いっきりパクっています。
次回予告!
のどかを襲う謎の影、それはエヴァンジェリンだった! 魔力を封じられたエヴァを追うネギは、経験の差をなんとか覆して彼女を追い詰める。
しかし、茶々丸の参戦によって、ネギはついにエヴァの餌食に。もし、明日菜が助けにくるのがもう少し遅かったら……? 乞うご期待!
最終更新:2012年03月04日 00:06