コタナツ
明かりを消して。目を逸らしながら言うと、コタロー君は赤い顔でその通りにした。ああ、そうやな、すまん。彼が体を起こし紐を三回引いて、真っ暗になる。
暗い部屋の中で熱を帯びた手がわたしに触れた。頬を撫で、口付け、服の上からささやかな胸の膨らみに。
それだけでびくりと跳ね上がる。顔が、全身が熱くてたまらなかった。やわやわと揉まれても、気持ちが高まるどころか煩わしい。
──コタロー君だって、本当は大きい胸の方がいいよね。
ゆっくりとブラウスのボタンが外されていく。どうせ明かりを消すのなら、可愛い下着を選ぶ必要はなかった。そもそも、わたしが可愛い下着を着けていたって…。
首筋を舐め上げられて、呻き声が漏れた。いやだ、どうして可愛らしく喘ぐことができないの。太股を撫でる手。足の付け根の中心へと滑っていく。心臓が今にも逃げ出しそうに騒いでいる。
そういえばわたしには見えていなくても、彼は夜目が利くのでは?全部見えている。大嫌いなそばかす、赤毛、クセっ毛、貧相な体!
「嫌っ!! 待って、待ってコタロー君…!」
気付いたら彼を突き飛ばしていた。わたしは泣いていた。泣きながら見ないで、と言った。なんて面倒くさい女だ。それなのに、コタロー君はそっとわたしを抱き締めた。
「無理強いしたい訳やないんやで…怖がらせて悪かったわ、泣かんといてや」
ごめんね、ごめんね。コタロー君は優しいよ。わたしが悪いの。コタロー君が怖かったんじゃないんだよ。
しゃくりあげるわたしの背中を撫で、今日はこのまま寝よな、とコタロー君は言う。彼の方が年下なのに、まるで子供に言い聞かせるような優しい落ち着いた調子で。
いつからそんなふうになったの。ほんの少し前まで子供だったのに。
女の子とキスするなんて恥ずかしい、格好悪いなんて言ってた、普通の男の子だった。わたしを置いて、大人になってしまった。
思えばあの頃がいちばん幸せだった。一方通行の片思いのほうがずっと楽だった。両思いになってからのほうが、苦しい。
思いが通じたことはもちろん嬉しかった。でも同時に不可解でもあった。コタロー君は、わたしのどこが好きなの?
外見だけじゃなく中身も優しくて素直で魅力的な女の子たちに囲まれていて、そんな中からどうしてわたしを選んだの?
コタロー君が好き。でも、そのコタロー君が分からない。コタロー君を信用できない。こんなに苦しいなら、恋人になんてなりたくなかった。仮契約なんてしなければ良かった。コタロー君を好きになんてならなければ良かった!
わたしが怖いのは、そんな考えを知られること。コタロー君に幻滅されること、嫌われることが怖かった。
暖かい腕の中、どろどろとした秘密を胸に抱えて、わたしはいつものように眠りについた。
最終更新:2012年01月28日 15:17