29スレ016

逆まる


(分岐ルート2)

千雨は、寮のベッドで目を覚ました。
終わりのない悪夢、悪夢の現実、また一日が始まる。
千雨は、しつこく振動を続ける携帯電話を取る。
非通知だった。
「もしもし…」
「ハアハアハアハア…」
「は?」
息づかいだけで電話が切れた。それと同時に又非通知の電話が掛かって来た。
「はい、もしもし…」
「よーっ、ご機嫌だねー、俺にもヤラせてよちうちゃーん」
反射的に電話を切る。又電話が鳴る。
恐怖を覚えた千雨は携帯の電源を切り、身支度をして部屋を飛び出した。
寮を歩いている間も、何か妙な視線を感じていた。
生徒たちの中に、明らかに自分を見ている目があった。
寮を出ると、それはより顕著になった。
何より、通学途中に、絡み付く様な男の視線を感じたのは一度や二度ではなかった。

ヒソヒソヒソヒソ
「エー、ヤダー」
「アノコー?」
「ダッテー」
「何なんだよ…」
千雨は、口に出していた。
「千雨さんっ!」
校舎に入った途端、千雨はネギの叫び声を聞いた。
「な、何だよっ?」
ネギはものも言わず、かつて不思議に思っていた強力で千雨を引きずる。
そうやって連行されたパソコン教室には葉加瀬聡美と茶々丸の姿があった。
「何だよ?」
最大級の不機嫌な声で千雨が言う。
「…無理かも知れませんが、落ち着いて、見ていただけますか?」
そう言ったネギと聡美が頷き合い、聡美がパソコンの操作を始めた。
「…千雨さんっ!?しっかりして下さい千雨さんっ!!」

「大変やー!」
重苦しい雰囲気の3‐A教室に、亜子が飛び込んで来た。
亜子、明日菜、刹那を先頭に何人ものクラスメートが保健室に飛び込む。

震える指は、しかし、スイッチには届かなかった。
保健室を抜け出した千雨は、部屋のPCを前にガックリ脱力する。
そう、もう見なくても分かっていると強がって見せる。
そう、見なくても分かっている、破滅だと言う事を。
あいつらの中でどっかの馬鹿がnyとウイルスと一緒にぶち込んだか
m○x○辺りで画像付きの自慢話かましたアホがいたか…
「フフッ、ハハハ、アハハハハハハ…
アーッハッハッハッハッハッ!!」
椅子に掛け、のけぞりながら笑っていた千雨がぴょんと立ち上がった。
「オッケー♪
きょうもちうは元気だぴょーん!
アーッハッハッハッハッハッ、ハッ、ハッハッ、ハハハハハハ…」
がっくりくずおれた千雨の目から止めどなく涙が溢れる。
「何だったんだ?」
今までの苦労、必死になって取り繕ってそのためにあんな事こんな事笑われ嘲られ踏みつけられて…
それもこれでパー、これで終わり、
「ああ、これで、終わりだ…」

「離して、離してっ!!」
「千雨さんっ!」
仕様である二段ベッドの上段の柵に縛り付けたバスタオルの、
先端の輪っかを手にしていた千雨にネギがしがみついた。
「離せえっ!もう終わりなんだよっ!!離してえっ!」
それでも、力ずくで引きずり下ろされた千雨は、床にくずおれたまま泣き崩れた。
「あははは…懲りないな、私も…こんな時まで部屋の鍵も掛けないでさ…」
「話して、いただけますか…」
千雨は、小さく頷いてぽつりぽつりと話を始めた。
下を向いたネギは時折辛そうに首を横に振る。
十歳の潔癖なまでの少年はどれ程逃げたかったか知れない、だが、逃げなかった。
その事が千雨にはまた辛かった。
「もう、終わりだよ…」
千雨が言った。
「分かるだろ、ネギ先生。みんながさ、みんなが私の事、
私の裸、私が…してる、そんなのみんな見られてんだ、長谷川千雨がそんな女だって、
長谷川千雨がどこで生まれて何処の誰でそんな長谷川千雨のほくろの数から何から
どんな事を今までして来たか、それ、みんな知ってるんだ、まともじゃ耐えられないよこんなの…」
「千雨さん…ごめんなさい、僕は、先生なのに…
先生、仲間、なのに、千雨さん、僕のために一生懸命色々してくれた。
なのに、僕は何も出来ない、千雨さんがこんな辛い思いしてるのに、何も出来ない…」
千雨は、ぐしゃっとネギの頭を撫でた。
「十歳のガキが生意気言ってんじゃねーよ。
汚い大人の世界見るにはちょっと早すぎたって事だろ。
大丈夫だよ、ネギ先生大丈夫」
強がりにしか見えない千雨の優しい笑顔。それがまた、ネギの心を引き裂く。
「大丈夫、だから、さ…」
「僕にはこんな事しか出来ません…」
ネギが、千雨の頭をぎゅっと抱いた。
「泣きたい時は、うんと、泣いて下さい…
こんな時にって言われるでしょうけど、それで、また千雨さんが心から笑ってくれたら、僕は、嬉しいです」
ネギの胸の中から、堰を切った様な泣き声が部屋に響き渡った。
そのネギの頬も濡れていた。

(分岐ルート2・終わり)

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最終更新:2012年01月28日 15:44
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