29スレ087

逆まる

「あっ、あ、さくらさんっ、朝倉さん、和美さんっ!!」
「んんっ、いいっ、いいよネギ君ネギ君っ!!」
ホテルに入る時だけ超絶美男美女カップルに化けたネギと和美は、
ベッドの上では何の虚飾もなく、生まれたままの姿で青い欲望を剥き出しにぶつけ合うだけだった。
「和美さん和美さんっ、僕、僕もうっ!」
「いいよネギ君いいよっ、今日、今日は大丈夫ああああっ!!」
しっかりと逞しいネギの体がビクビクと震えるのを、和美はぎゅっと抱き締めた。
そんな和美の柔らかな体が、ネギの腕の中で弾み震える。
和美は、自分の胸に埋まったネギの頭をぎゅっと抱き締め、一筋の涙を流した。

「やっぱりこことこことここのスーパー究極お下劣プレイ記念映像は刺激的だったんですね」
廃ビルの一角で、ネギがノーパソを操作しながら言った。
その後ろで、お姫様は無抵抗で立って画面を注視している。
「辞めた元アイドルの事で事務所に大きな黒い宣伝カーが十台以上押し掛けたぐらい刺激的なんですから、
またこれで知名度アップの超有名人になりましたねー♪
それに、こないだあなたが吸ってた緑のシガレットとかあなたの所から押収された覚醒剤とかコカインとか、
その出所、組関係までみんな、ブログに全部組織図と実名入りで紹介済みですし。
じゃ、そろそろ帰りましょうか♪」
にっこり笑ったネギを、お姫様がギクッとした顔で見る。
「どうせ僕の事は呪いで誰にも喋れないですし、いい加減このおもちゃもやり尽くしたって感じですか?
いいですよ別にどこに行っちゃっても、ちゃんと送って差し上げますから。
やっぱりお姫様に相応しく賑やかな所がいいですよねー、
どこがいいですかー?新宿、渋谷、六本木、やっぱアキバ…
ちゃーんと姫降臨の大宣伝片っ端から書き込んでおいてあげますからー」
「こ、殺される殺される殺される殺されるうぅぅぅぅぅぅ」
ネギは、肉体の拘束を解除されガクガク震えて縋り付いて懇願するお姫様を
汚いものの様に冷ややかに見下ろした。
「お、お願い、警察、警察連れて行って、自首させてお願い刑務所入った方がマシィィィィィィィッッッ!!」
「そうですね」
ネギが静かに言う。


「法律上は誰か殺した訳でもないみたいですから、五十歳前には出て来られますか。
それからどうします?大丈夫ですよ、世間があなたの事を決して忘れない様に、
十年でも二十年でも、あなたの武勇伝は僕がちゃーんとネットでフォローしといてあげますから」
「いやあぁあぁあぁあーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
にっこり笑ったネギの前で、お姫様は頭を抱えてくずおれる。
お姫様は、そうしながら、この冷たく狂った少年の前で、自分が発狂していない事を呪った。
冷ややかな目をしたネギは、ぼっこり膨らんだ布の袋をお姫様に放り投げた。
お姫様が袋を開けて中身を取り出す。
とてもゴムとは思えない感触、お姫様は、絶叫と共に二つの生首をお手玉した。
「こちらはご存じ、こないだまであなたの上司兼愛人だった社長さん、
で、こちらが某公安委員会指定組織の会長さん」
ネギがにっこり笑って言うと、おびただしく床を濡らして腰を抜かすお姫様の前の周囲に風が巻き始めた。
「な、何?風?ちょっ、これ、痛いっ…」
「最初は加減が分からなくって、会長さん、三分でこんなになっちゃいました。
そんなのじゃ全然足りないですよね。だから、あなたのお友達で何回も実験して、
社長さんは精霊さんが一晩でやってくれました」
「ち、ちょっ、やっ、やだっ…」
にっこり笑って告げられた言葉が電波でもなんでもない事はもう骨身にしみている。
そして、段々と、体を引きちぎる様に走る痛み、これも身をもって知る現実だ。
だが、ふっと風が消え、腰を抜かしたお姫様は荒い息を吐く。
「た、すけて、くれるの?」
ネギがぶんと杖を振る。
「ええ、あなたは殺しません」
ネギは、にっこり天使の笑みを浮かべた。
「あなたを殺して差し上げる程、僕は優しくないんです。
あなたには、永遠の命を差し上げます」
ネギは、静かに言ってブンと杖を振る。
指先に違和感を覚えたお姫様は、段々とそれが広がるのを感じる。
灰色になった指先は全く動かず、異常に重い。
そして、灰色の面積は段々と広がっていく。
「ち、ちょっと、何?何これ何?い、石っ?」
「ご名答です」
ネギがにっこり笑った。
その間にも灰色の面積が広がり、いくつもの関節がピクリとも動かなくなる。

「大丈夫ですよ、目も耳も意識もちゃんと機能する様になってますから、
あなたは永遠の命を得るんです。お姫様に相応しく、テレビの前で賑やかな所に飾ってあげますからね」
「やっ、やあっ、いやっ、助けて、助けてお願い助けて…」
「…僕、助けてって言葉、知らないんですよ…」
ネギはぼそっと言った。
「な、何言ってるの?」
「僕、助けてって言葉、分からなかったんです。あなたもそうですよね?」
ネギの声音は、哀しいものだった。
「そろそろですね、心肺機能が先行すると死んじゃいますから、そしたら失敗ですからね」
「い、いやっ、いやだっ、こ、殺して、お願い殺してお願い殺して殺してお願いぃ…」
「言った筈です、僕はそんなに優しくないって。
死にたくもない人の命を弄んだ、そんな人の命をお願いされた通りにする程、僕は優しくないんです。
ラス・テル、マ・スキル、マギステル…小さき王、八つ足の蜥蜴…」
「いやぁ、やだ、やだっ、やだぁ…」
「…災いなる、眼差しで射よ…石化の邪眼!」
パッキャアアーーーーーーーーーーン…
魔力が、切り裂かれた。
「アスナ、さん?」
「こぉの、バカネギィィィィィッ!!」
明日菜の振り下ろした大剣でネギが振り上げた杖が真っ二つに切断され、
ネギはバッタリとその場に倒れた。
「このかっ、彼女の治療っ!!」
「はいなっ!」
「…ネギ…」
明日菜が、惚けた様に座り込んだネギを見下ろす。
「…千雨さんだったんです…」
「ネギ…」
「あの時…僕を引っ張り戻してくれたの、千雨さんだった、
千雨さん、あの時ずっと見守ってくれて…
でも、結局僕は呑み込まれた、千雨さんに何も、苦しんでいる千雨さんに僕…
やっぱり、やっぱり僕はダメ魔法使い、ダメ人間…」
明日菜が、ガコンと拳を振り下ろした。
「千雨ちゃんならこうしてると思うから」
「はい、きっと、天国で怒って…いや、呆れてます」
明日菜が首を横に振る。
「ちょっと素直じゃないけど、見放したりしない」
「…アスナさん、止めて、くれて、ありがとう…」
「バカネギ…」
その場に座った明日菜が、しゃくり上げるネギをきゅっと抱き締めた。


ネギは、何人もの重苦しい法衣の前に立っていた。
「朝倉和美は、自分から頼み込んで手伝ったと供述しているが」
「嘘です」
ネギは抑揚のない声で答えた。
「僕がやらせたんです、手伝わないと犯して殺すって朝倉さんを脅して無理やり手伝わせました」
「今一度問う、なぜ、この様な事をした?」
「面白そうだったからです。退屈だったからやってみました」
それは、ふてぶてしいと言うより痛々しい返答だった。
「お父君、そして君の数々の偉業、功績は聞き及んでいる。
今一度問う、何か言いたい事はあるか?」
「いえ、何もありません」
ネギは抑揚のない声で答え、判官は嘆息し首を横に振る。
「…裁きを申し渡す…」
ネギが一礼したその時、法廷の入口ドアが開いた。
「判官様に申し上げる」
振り返ったネギは、見知った顔を見た。
「…協会所属麻帆良学園教諭葛葉刀子、本法廷に調査報告をおこのうべしとの各協会会長の命により
罷りこしたる次第、お許し頂きたい」
「方々の命とあらば是非も無し、申されよ」
刀子は、許可を得てノーパソの操作を始めた。
プロジェクターに一葉の集合写真が写る。
それが、その内の一人を写した別の写真、「笑うとかわいい」と言う文字が映し出された瞬間、
それまで生気の伺えなかったネギの体がガタガタ震えだし、動員されていた一級廷吏二十人に押さえ付けられる。
「やめろおっ!」
刀子はぎょっとした。こんな声、こんな言葉を出せる、「そんな子」だと記憶してはいなかった。
刀子が耳をつんざく絶叫にそちらを見た時には、既に廷吏は宙を舞っていた。
「御免っ!神鳴流決戦奥義・真・雷光剣っ!!」
明らかに場所柄を弁えぬ刀子の所行だったが、そうしないと命が無いと直感していた。


「離せっ、離せえっ!関係ないっ、関係ないんだあっ!全部僕が、全部僕が悪いんです、
全部、全部僕が僕一人が悪いんだ関係ないんだだから葛葉先生お願いです
やめて下さいやめて下さい離せ離せえええっっっ!!」
さすがに、百人の特級廷吏の真ん中で絶叫しながら強制退廷させられるネギの顔は見えないが、
見るまでもなかった。
高畑がスイッチを押し、空中に映し出された法廷映像が消える。
「と、言う事だ。起訴事実を認めた以外は一言も発せず弁護人もお手上げだったネギ君に、
学園長が彼の意を無視して事実を報告させた。
その結果、本来ならば求刑通り治癒魔法管理下における百年炮烙の刑が下る所を
単なるオコジョとしてのウエールズ放逐にまで減刑された。
朝倉和美君、本人も周囲も全ての記録記憶を捏造され全く別の学校に転校する予定だった。
だが、情報収集能力はこの状況でも彼女が上手だった。
私の思い出も私の罪も全て私のもの、真実が消される事は私の人生が消されると言う事、
隙を見てペンで腕の動脈を貫き絶命した彼女の傍らに遺された走り書きだ。
それから、保護して呪術解除及び記憶操作の治療中に何らかの手違いがあったらしい。
全ての記憶が消去された上で全裸でヨ○ネス○ルグのど真ん中に転移されたと言う所までは分かっているが、
そこから先については追跡不能と言う事で処理された」
高畑は、それだけ言ってふーっと煙を吐き出した。
明日菜は、高畑にくるりと背を向け、歩き出す。
「ナギ…師匠…詫びる言葉もありません…
ネギ君を救う事も出来ず、アスナ君にも取り返しの付かない傷を…」
「ネギ先生の事はもうやむを得ない。しかし、彼女はまだ若いですから、
ええ、まだまだ若いですから…
ええ、まだまだ若いですから、傷などふさがるものです」
途中でビキビキと浮かんだ青筋を引っ込めた刀子が言う。
「若い、か…そうだといいのですが…
若い内の傷だからこそ取り返しの付かない事もある…」

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最終更新:2012年01月28日 15:59
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