家鴨雛は月で鳴く 第四回
「ひなた海岸をふらふらと歩いていてな、余りに危ない雰囲気だったのでなる先輩が連れて来た。
余程疲れていたのだな、茶を飲んだらそのまま眠り込んでしまった」
「有り難うございます」
ひなた荘の廊下で、案内する素子に刹那と明日菜が頭を下げる。
案内された素子の部屋に入り、明日菜も刹那もぞっとした。
座って、振り返った千雨からは、生気と言うものが丸で伺えなかった。
魔物に魂を食い尽くされた様だとすら刹那は思った。
「ああ、悪かったな…」
千雨がぽつりと言って頭を下げる。
「何があったの?美晴さんって何?お願い、話して」
明日菜が千雨の肩を掴んで詰め寄るが、千雨は力なくうなだれるだけだ。
「立ち入った事かも知れません。長谷川さんにとって辛い事かも。しかし…」
「そうだよな…あそこまで魔法に関わるって言うんだ、話さなきゃな…」
千雨は、弱々しく、痛々しく笑った。
「長谷川千雨は、長谷川美晴の出涸らしの妹だ」
静かに嘆息した千雨がぼそっと言った声は、絶望の底から響く様に明日菜の背筋を冷たくさせた。
明日菜と刹那が静かに座り直す。
「私の周りの全ての輝き、全ての賞賛、みんな姉さんのためのものだった。
私は、それを側で見ているしかなかった。姉さんがどれだけ凄くてどれだけ輝いているか、
私の周りみんなが見ているのはそれだけだった。
あの輝きの側にいてみろ、私の事なんて誰にも見えやしない、私なんて、いやしないんだ」
「そんな事…」
「分かってるよっ!」
叩き付ける様に言われ、明日菜ですらビクッとした。
「分かってる…姉さんは本当におおらかで優しい人だ。私は、あの人に随分可愛がってもらった。
なのに私は、ずっとガキみたいにひがんでる、そんな事分かってる。
でも、駄目なんだ…
子供の頃から何でも出来て、何でも手に入れて、
気が付いた時にはありとあらゆる金持ち権力者イケメンからうじゃうじゃ見合い話来てた。
なのに、二十歳にもならない内に、留学先でどっかの若造とっ捕まえて結婚した。
それも、発表を先行しての強攻策だ。
マジでバカじゃないかって思ったね、何でもうまくいきすぎてイカレてるって。
ろくでもない男なんかのために、私がずっと指くわえて見てたもの全部捨ててさ。
そしたら、あれよあれよで億万長者、結婚式にも出なかったうちの親、あっさり掌返しやがった。
そうやって、欲しい者を手に入れて、親にも他人にも認めさせて、全部自分の力で出来ちゃうんだあの人は。
そんなラブラブの旦那、あっさり逝っちまった。
それだけでも公式イベントだったからな、それをあの人はみんな、寸分の隙もなく凛々しく取り仕切ってたね。
実家に帰って来て、独りで泣いてたよ。ずっと、声出して泣いてた。
その姉さんの背中見て、姉さんも人間なんだって、なんか、なんて言うか、ほっとしたって言うかさ、
つまり、私は最低の人間だって訳だ」
「千雨ちゃん…」
自嘲の笑みを浮かべながらガックリと下を向いた千雨に、明日菜は何かを伝えようとする。
「親も親戚も近所も、輝きも賞賛もみんなあの人のためのもの、
私は、黙ってそれを見ているだけ。家でも近所でも主役はあの人私は只の傍観者、ずっとそうだった。
だから、もう、駄目なんだ、魔法も、ネギ先生も、みんなみんな姉さんのものになる、今まで通り。
ネットだって、私なんて隅っこでこそこそ砂の城作ってるだけ、それもみんな姉さんのもの。
今まで通り、私には又、又なんにもなくなる、私にはもうなんにもない、
私にはなんにもないんだよ最初っから私なんてなんにもないぶつぶつぶつ…」
力なく呟き続ける千雨を前に、ある意味無神経なお節介の極みとも言える明日菜も戦慄するばかりだった。
そんな明日菜達の前で、千雨の膝の上で握られた拳に水滴が落ちる。
「…私には何もない私には何もない…魔法も、ネギ先生も…
…ネギ、先生…もう手に入らない、それが分かってこんなに苦しい…
美晴姉さんは、魅力的な女性だ、女から見ても妹から見ても、誰よりも魅力的、
あの人が本気になったら誰も叶わない、私なんて、話にならない…
…もう駄目だって、もう、手に入らないって分かってからこんなに…私は、バカだ…うっ、ううっ、うっ…」
「…刹那」
腕組みして黙って聞いていた素子が、目を開けて口を開いた。
「神楽坂さん、少し、彼女と二人で話しをさせてくれませんか?」
「え?」
少し戸惑う明日菜だったが、刹那は頷いた。
「分かりました」
「じゃあ…」
明日菜と刹那が立ち上がる。
「長谷川さん、これだけは申し上げておきます」
部屋を出る前に、刹那が言った。
「確かに、美晴さんは凄い、私も、叶わないと思う。
しかし、私が今まで共に戦い、共に過ごして来た仲間は長谷川千雨、
それ以外の誰でもない、その、私と共にいた時間は他の誰の者でもない誰にも奪えない。
それはネギ先生にとっても同じの筈です」
「ありがとうな、桜咲、神楽坂」
明日菜が刹那の隣で頷き、千雨は、弱々しい声で小さく頭を下げた。
庵の一室で、白い裸体が絡み合っていた。
ネギと美晴、共に髪を解き、生まれたままの姿で貪り合っていた。
無心に美晴の乳を吸い続けているネギの頭を静かに撫でていた美晴が、
近くで鳴り出した携帯電話を取る。
「お客さんみたいですよ、ネギ先生」
「いらっしゃい」
美晴は、和室の居間で千雨を迎えた。
美晴の後から、ネギが姿を現す。
「あ、千雨さん、どうして…」
一瞬目を反らしたその表情を見た瞬間、座る事も忘れたまま、千雨の頭の血は沸点に達した。
「もう、いいだろ…」
美晴は、正座をしたまま小首を傾げる。
「もう、いいだろ…
姉さんは綺麗で頭も良くて運動も、芸術も、何でも出来て、何でも手に入れて、
親も親戚も近所も、輝いてるのも褒められるのもみんなみんな姉さんのため、
私は只、そこにいる長谷川美晴の妹、私は只の傍観者。
だから、もう、いいだろ…
凄い努力してるの、分かってるよ。義兄さんの事、うまく言えないけど辛かったとは、思う。
そうさ、姉さんなら魔法使いとだってうまくやってける。
魔法使いと協力してもっともっといい世の中を作る事だって出来る。
このガキ…ネギ先生だって、こんな、こんな無茶苦茶なガキでも、
姉さんなら釣り合いがとれる、姉さんなら、ちゃんとこの厄介なガキを導いてパートナーでやってける、って、
認められっかそんな事っ!
ネギ先生、先にネギ先生と出会って、ファンタジーな修羅場くぐって、好きになったのは私なんだよっ、
今更、今更横から出て来て誰が渡すかそんな恋に後先関係ないっつっても、誰が渡すもんかっ!」
「千雨…あなた、自分が誰に、何を言っているのか、分かってるの?」
美晴の言葉は、青い銘刀の様に鋭く、そしてすーっと冷たいものだった。
「分かってるよっ!」
言い放った千雨の、拳も脚も崩れる寸前まで震えていた。
「そんな事、分かってる。
これから私がどんなに惨めな思いをするか、身の程知らずの小ささを思い知らされるか、
そんな事、分かってる…
だけど…これは私が…
これは、私が、私があの非常識な学校で手に入れた心。
一緒にいて、ネギ先生が、好きだって、私が見付けた一番大切な心、
姉さんにだって渡せない、自分から諦めるなんて出来ない、
どんな惨めにボロ負けしても、むざむざ持ってかれるの、もう傍観者なんかじゃいられないんだっ!」
肩で息をし、真っ青な顔を伏せる千雨の前で、美晴は静かに立ち上がり、ゆっくりと歩を進める。
「…ちょっと見ない間に、大きくなったわね千雨」
「ごめんなさい…ごめんなさいお姉ちゃんごめんなさい…
ごめんなさい、お姉ちゃんごめんなさいネギ先生ネギ先生奪らないでお姉ちゃん
お願いだからネギ先生奪らないで…ぐすっ、えぐっ…」
千雨を抱き締めた美晴に優しく髪の毛を撫でられながら、
千雨は美晴の胸の中で泣きじゃくっていた。
「大きくなったわね、千雨、綺麗になって、強くなって、いい女になった…」
「駄目だよ、私なんか、全然、叶わない。
分かってる、分かってるけど、諦めるなんて出来ない…」
「馬鹿ね、恋する乙女は最強なのよ。
そう、ネギ先生には千雨の方がいいかも知れない」
「?」
「心優しい小さな紳士、それも彼の姿。だけど、私はそこから先には進めなかった」
「姉さん、いい女過ぎるんだよ。どんな男でも、そんな姉さんに相応しいいい男でいようってそう思うんだ」
「生意気言って。その彼の優しさ、強さ真面目さ…
千雨には見えているのね、それを形作ってきたものが、パートナーとして」
美晴が真面目な顔で小声で言い、千雨も、真面目な顔で小さく頷いた。
「私に出来たのは上から包み込んだ事だけ。十年もあれば最高のパートナーになる自信はあったけどね。
千雨なら、共に辛い事苦しい事があっても、向かい合って一緒に歩いて行く事が出来る。覚悟しなさいよ」
美晴が、笑って千雨の額を突々く。
「彼は、今まで私が出会った二番目にいい男。
恋仇は物わかりのいいお姉ちゃんばかりじゃないんだから」
「ああ、分かってるよ。毎日、私はそんな生あったかい修羅場のまっただ中で見て来たんだ」
それは、長谷川千雨の、不敵な笑みだった。
「ネギ先生!」
「はいっ!」
途中から密談になり、只々成り行きを見守って座っていたネギがぴょこんと返事をする。
「私の自慢の妹、笑うととっても可愛いの!」
「はいっ!」
自らも最高の笑顔で言う美晴に、ネギが元気いっぱいに返事をした。
「この度は、本当に有意義な夏休みを過ごす事が出来ました、ありがとう」
「あ、いえ…」
美晴の丁重なお礼に、ネギもぺこりと頭を下げる。
「あー、少し外します。一時間は戻りません。警護は表にだけ配置しておきますので留守番お願いします」
「え、あの…」
「無論、警護対象が中で何を行おうと、
外部からも情報管理もそのセキュリティーは私の名をもって万全を保証します。
私は戦車を千台持っています。
私の可愛い妹の事、よろしくお願いしますね、ネギ先生」
すれ違いざま、ネギに囁いた美晴はぱちんとウインクしていた。
「あ、あの…」
しんと静まり返った和室で、立ち上がったネギが千雨に近づく。
千雨は、はーっと息を吐き、そんなネギの脳天に拳の一撃をかました。
「あううーっ、どうしたんですか千雨さーん」
「どうしたじゃねえっ!こんな所でたった今までなーにやってたんだ、あー?」
「あああのっ、それはっ…」
「ふーん、ネギ先生、いつの間にか生徒のお姉さんとそーゆー関係だったんだ」
「あうっ、そ、それは、僕、知らなくて…」
「そーゆー問題じゃねーだろ!ガキで先生の癖にいいと思ってんのか、あーっ!?」
「ごごごめんなさいっ」
「まあ、やっちまったもんは仕方がないな…」
目を丸くするネギは、千雨に抱き締められていた。
「千雨、さん?…」
「綺麗だもんな、姉さん。
いいか、これは凄い事なんだぞ、ネギ先生とおんなじ事出来るって言ったら
国の一つや二つ傾けてもいい、そんなバカな野郎がうじゃうじゃいる。
それでも、ネギ先生を選んだ、あの人の目が確かなのは私が保障する。
そんだけネギ先生はいい男だって事だ。それでそんだけいい女、
私の自慢の姉貴に選ばれたの、感謝しろよネギ先生」
「…はい、美晴さんは、とても綺麗で優しくて、僕なんかにはもったいない素敵な女性、
素敵なお姉さんです」
「ああ、そうだよ、私なんかとても叶わない滅茶苦茶いい女で滅茶苦茶自慢の姉貴だ。
そんなバケモノ相手に男奪り合うなんて正気じゃ出来ない。
けどさ…もっぺん、面と向かって言うよ、ネギ先生。
私はネギ先生が好きだ。誰にも、渡したくない、姉さんにも神楽坂にも誰にも」
「千雨さん…僕も千雨さんの事、好きです」
「あー、その後最低三十人は続くってオチだろ?」
「んんっ!」
呆れた様に言った次の瞬間、千雨は、ネギの唇を奪っていた。
「んっ、ん…」
「ん…んんっ!?んっ、んんんっ、んんんーーーーーーーー」
「…千雨さん?千雨さんっ!?」
「………アホーーーーーーーーーッッッ!!!」
「あううぅーーーーー…」
腰を抜かした千雨を揺すぶっていたネギに、理不尽きわまりない鉄拳が炸裂した。
「このガキ、キスだけで完璧にイカせ…んんっ、随分上手なんですね、キス」
「あっ、そ、それはっ…」
「我が自慢の姉から何をどんだけ教わってたんですか、ネギ先生?
事故でも非常事態でもない本気のキス、女の本気と書いてマジと読むマイ・カウント的にはファースト・キス。
それでこんだけメロメロにしてくれたからには、もーちーろーんー責任取ってくれるんですよね、ネギ先生」
「あっ、あのっ、千雨さんっ」
わたわたするネギを離れ、千雨はネギの目の前で着ていたシャツとキュロットを脱ぎ捨てていた。
気が付いた時には、洒落たランジェリー姿で千雨はふふんと不敵な笑みを浮かべている。若干ぎこちなくても。
「どうしたんですか、ネギ先生。可愛い生徒の純な乙女にあんなジゴロなキスまでかましといて、
やっぱり僕十歳ですーですか?」
ここまで実力行使する純な乙女もあったもんではないが、ノリだから気にするなと千雨は一人で完結する。
「あっ、あのっ」
「さー、ネギ先生、ネギ先生が骨抜きになるまで教えてもらった事、
私にもたぁーっぷり肉体言語で教えていただきましょうか?
やっぱ、あのお姉様のお相手したら、こんなのじゃやる気も起きないですかネギ先生?」
目のやり場に困りあわあわしていたネギが、千雨の剥き出しになった脛が、カタカタ震えているのに気付く。
“…千雨さん、恥ずかしいんだ、恥ずかしくて、でもこんないつも通り強がって、そんなに…”
ネギは、静かに千雨に近づき、優しく抱き締めた。
「僕で、いいんですか?
自分がまだ子供だってよく分かりました。こんないい加減で、
千雨さんと、そう言う事をしたいだけなのかも知れない、それでも…」
「ネギ先生、ネギ先生が本当にちょっとでもそう思ってるんなら、ネギ先生はとっくにここから逃げ出して
トイレにでもこもって真っ暗に落ち込んでる。
せっかくだから美味しくいただきますなんてバカならまだやりようがあるんだよ。
あんだけオサルに言われても言われても危ない痛い目は自分一人で十分、あんたはそう言う人だ。
そう言う優しい奴でいい加減に他人傷付けるなんて出来やしない、そんぐらい自分の事信じてみろ。
そんなバカなあんたに私は…ま、そう言う事だ、気にするな」
「千雨さんは、綺麗です。
美晴さん、お姉さんは美人で優しくて強くて格好良くって、本当に凄い人です。魅力的な女性です。
でも、千雨さんは千雨さんです。僕の事を本気で心配して、大切にしてくれて、
優しくて本気で思ってくれてるから飾らないでぶつかって来てくれる。
僕の目の前にいるとっても魅力的でとても大切な千雨さんです。
僕は、千雨さんの事が大好きです、僕にとって特別なひと、そう思っています。それは本当です」
千雨には分かっていた、特別じゃない女性など、彼にはいない。でも、それでもいい。
ネギは、千雨からちょっと離れ、するするとトランクス一枚の姿になる。
二人は静かに抱き合い、ネギが顔を上げ、今度は静かに、優しく唇を重ねる。
触れ合った唇が離れ、ネギが、ちょっと身をよじる。
「千雨さん、僕の目の前、僕の、腕の中で触れ合っているのは、千雨さんです。
温かくて、柔らかくていい匂いで、僕、凄く、だから…」
「ああ、確かにさっきから何か腹にゴツゴツ当たってるな、
分かってるよ、ネギ先生。私が欲しい、私の全部が欲しいって事だろ?」
不敵な笑みを浮かべる千雨、それが励ましである事、本当に嫌ならぶっ飛ばされている事を知っているネギは、
恥ずかしそうにちょっと頷いてその場から離れる。
きょとんとしている千雨の脇で、ネギが、押し入れからテキパキと布団を敷いていた。
「ひゃっ!」
体が持ち上がり、横にネギの顔を見て、事態を察知した千雨の顔が一挙に赤く染まる。
果たして、ネギに横に持ち上げられていた千雨の体はふわりと布団の上に横たえられていた。
「…畳って、結構痛そうですから」
つまらないムードよりも律儀な優しさが全くもってネギらしいが、
さすがに、隣の部屋の布団を使う程ガキではなかったと言う事らしい。
だが、もう一度キスをして、その先に一歩踏み出したネギは意外な苦戦を強いられていた。
それに気付いた千雨が背中に回されたネギの手を取る。
「すいません」
「バカガキ」
不敵な笑みを浮かべていた千雨は、ホックの外れたブラのカップをずらされ、
吸い付かれると顎を反らして小さく声を上げた。
「つっ、あっ、…このガキ、やさしーお姉様に皮は剥いてもらって、食べ方はじっくり教わった、ってか。
あの人のあれじゃ、さぞや、食べごたえあっただろう、なあっああっ」
「千雨さんのおっぱい、すごく綺麗です」
「ついでみたいな、褒めるなよっああっ」
「時々見ちゃいました、ごめんなさいでしたけど、いっつもすごく綺麗だなあって。
綺麗なおっぱい、触ったらぷるんぷるんしてすごく、いいです」
「へー、目ぇ付けられてたんだ、ありがと、よ…
だからガキ上手過ぎるっつーの、ああっ!」
「あれ、千雨さん?」
「何だよ?」
一度ピンと背筋を反らした千雨がはあはあ息を荒げ、涙をにじませてネギを見る。
「あの、もしかして今…」
「悪いかよっ!いちいち聞くなガキッ!」
「はうぅー、ごめんなさーい」
「ふん…いいっ!?」
“凄く気持ちよくて敏感で、敏感過ぎるぐらいだから、
最初は周りとか、上からとかそれぐらいが丁度いいの”
頭の中で声を蘇らせながら、ネギの体は自然に「気持ちよくしてあげる」プログラムに従い
誠心誠意動いていた。
そして、ネギの指に、既にじわりと湿った布地が触れた事で、十分に大人の対応に耐え得る、
それが千雨を、目の前の女性を喜ばせる事だとの判断がなされる。
「ちょっ、まっ、ガキッ…くううっ…」
全力を注いだコスへの架空の視線を感じながら圧倒的に賛辞する文字の羅列にハイになった時、
そして、これは絶対に気取られる事すら駄目な事だが、ほんのちょっと格好いいシーンを思い出した時、
そんな時一人でそっとしている事が再現されている。
しかも、当の本人の何倍も繊細で巧みで大胆でハッキリ言って、上手過ぎる。
“末恐ろしいにも、程が…”
「脱がせますよ」
「いっ、いちいち断ってんじゃねぇだからガキはっ」
「ごめんなさい、では」
遠慮なくとばかりにネギは引き下ろす。
やっぱり微妙な恥じらいとかムードと言うものを今いち理解していないらしい。
だが、そんな事は問答無用に、脱がされた所から千雨の脳天に鋭いものが突き抜けた。
今脱がしたものの上からじっくりと準備されていた所を、ネギの指が余りにも巧みに刺激する。
“これ、マジで指か?こんな…”
「こんな、初め、てあうっ!くうううっ!!」
余り広くない和室に、虫の音に混じってのじゅっ、じゅっと淫靡な響きに、
千雨はかああっと顔が熱くなっているのを感じるが、それ以上に、
ネギに聞かせるどころか自分でも信じられない激しい声が止まらない。
「はあっ、ああっ、あああっいいいっ!
熱い、ネギ先生熱い、凄く熱いっ」
「千雨さん、千雨さんの、凄く熱く、とろとろに…」
「そっから先言うんじゃ、つっ、くううっ!
もしか、もう、いいのかな、これって…」
強がって見せてもこちらの経験値の方は明らかにネギの方が上、
千雨は、所詮はネトアなだけのそれ以外では至って真面目な恋する女子中○生に過ぎない。
分からないものは分からない。
「千雨さん、僕も、もう凄く、千雨さん可愛いから、
だから、だからいいですか?」
「好きにしろガキッ、こんなにしやがって私のエロエロ晒してとっとと責任とってやっちまえっ!」
「はいっ」
それが、千雨だと言う事も、体は熱くとろとろになっていても、脚が小刻みに震えて、
それでも千雨は逃げない事も、ネギは全て感じ取っていた。
「んっ、んんっ!」
「いっ!」
千雨が、目を見開いてのけ反る。
「大丈夫ですか、千雨さんっ?」
目尻から涙の溢れる千雨に、ネギが切羽詰まった様に尋ねる。
千雨は、返事の代わりにネギをぎゅっと抱き締めていた。
「私、今、ネギ先生、ネギ先生と一つになったんだな…」
「は、はい」
「ネギ先生の、私の中に入ってる、私の中に入って来たの、ネギ先生のなんだな」
「はい、僕です、僕のが、千雨さんの中で、凄く、気持ちよくて…ううっ!」
「うっ、くっ…あっ、段々っ…」
「ああっ、千雨さん、僕の、ぬるぬるのが凄く僕のを、おおっ」
「あっ、わっ、私もあっ、何か中で、あっ」
「千雨さん、千雨さんの中の気持ちいい所、僕のが見付けたみたいです」
目の前の無邪気に嬉しそうな顔に、発作的に一発入れようとする拳を千雨は強靱な意志の力で抑え込む。
本気で、千雨が気持ちよくなるのが嬉しい、それだけなのだから始末に負えない。
「あっ、あっあっ、こっ、ガキッああっ!!」
“…千雨さんが、僕ので…”
愛しい女性を抱く腕に直接伝わる震動。それがどう言う事であるか、何度も教えられている。
そして、ネギがそれを感じた次の瞬間、ネギもその時、
頭の中が真っ白になり絞り込まれた下半身から全身に弾ける、
千雨の腕の中、直接つながる温もりの中、その突き抜けて痺れる感覚に流れのままに身を委ねた。
「ネギ、先生、出したのか?」
まだ、その美乳を震わせてはぁはぁ息をしている千雨に尋ねられ、ネギはこくんと頷いた。
「そうか…私の中に、出したのか。
今日は大丈夫な日だけどさ、本当はこれ勢いじゃ済まないからよーく覚えとけ先生なんだから」
(「大丈夫な日」なんて当てにならない事もよーく覚えておいた方がいいでしょう、色んな意味で)
「はい…あれ…」
「ん?」
「千雨さん、あの…」
「ああ、女の場合、初めてあーゆー事するとだ、中で引っ掛かって破れるものがあるって事だ。
女ん中はデリケートだからな、初めてじゃなくても無茶するとケガしたり
初めてでもスポーツなんかでハナから破れてる時もあるみたいだけどな」
「…痛くないんですか?」
「ああ、これがもう七転八倒して悶絶したいぐらいの無茶苦茶な激痛…
な訳ねーだろ、ま、ちょっと引っ掛かったけどさ、つーか、んなもんどーでもよくなるぐらい
無茶苦茶上手過ぎんだよガキがガキの癖に何考えて生きて何考えて何教わってたんだよこのガキがっ」
「あうぅうーっ…」
ネギは、千雨にぐしゅぐしゅと髪の毛をかき回されながらも、
それが、どうしても他人を傷つけ自分が傷付くのを恐れるネギへの千雨の返礼だと言う事も分かっていた。
「あうっ!」
ネギは、にへらっと笑った千雨に、ぎゅっと抱き締められていた。
「ち、千雨さん?」
「なんつーか、あれだ、何か、幸せだなーってさ」
「僕もです」
ネギがにこっと笑い、千雨を抱き締めしぶとく唇を重ね合う。
ネギは、千雨にされるがまま、抱き合ったまま千雨にのし掛かられていた。
「ちょっと、じっとしていて下さいねーネギせんせー」
“ふん、ガキがいいガタイしてやがる。あんだけ鍛えりゃとーぜんか”
唇から段々下に、鎖骨から、乳首を吸われちょっとのけ反って
千雨の背筋がぶるっと来る様な声を上げたネギの前で千雨は鼻で笑う。
乳首から胸板、白い体を唇で弄び、お臍にちょっと悪戯したくなるのを抑える。
それでも余りとろけた所をこのガキに見せたくはないと言うのが千雨の性格だが、
あんまりあんな声を上げられると保証の限りではないと言うのが正直な所だ。
「ううっ、あっ…千雨さんっ、駄目っ汚いっ!…」
「私は姉さんみたいにデカパイで挟んだり出来ないですからねー、
私のド下手なお口じゃ不満ですかーネギせんせー」
千雨がネギのを口に含み、自分の胸を両手で挟みながらにっと笑い、
ネギの頬が赤くなる。
「ふん、図星か、あの人がマジモードで落としに掛かってそんぐらいしねー訳ねーからな」
“…千雨さんが、僕の…”
「あうっ!」
「うっ!えほっ!!」
「だ、大丈夫ですか千雨さんっ!?つっ!」
慌てて身を起こそうとしたネギが、まだ息を荒げた千雨に再び押し倒される。
そして、片目をつぶった千雨はぐいっと右腕で顔を拭い、
鬼気迫る程の勢いでむしゃぶりついて、柔らかくなったものを再び口に含んだ。
「…でも…渡さない…絶対渡さないんだ姉さんにも誰にも…」
「千雨さん…」
「ふんっ、たった今顔面直撃で思いっ切りぶっかけといて、
ガキのちっこいのがあっつーまにビンビンだぜこのドスケベ」
千雨が不敵な笑みを作って見せた。
「はい、スケベです。だって、こんなきれーでエッチな千雨さんがお相手してくれて、
スケベじゃないともったいないです」
「言いやがったな、じゃあ、とことんエロエロいっていいんだな」
「はいっ」
全く、この無邪気さにはいちいちいらっと来て、そしてそれを楽しんでいる、魅力だと思っている、
そんな自分を千雨は十分自覚していた。
「はああっ!ちっ、千雨さあん」
「情けねぇ声出してんじゃねぇてめぇのそれで私の事散々っ、今更っ、あうっ、ううっ!」
千雨が身を起こして腰を上下し、つなぎ合わせた所を直接刺激して貪りながらも、
その下で仰向けに寝そべったネギの女の子みたいな甲高い声が、
耳から脳みそから下へ下へとそこを強烈に熱く痺れさせる。
千雨が白い喉を反らせ、解いた髪の毛を激しく乱しながら、
自分の真上で綺麗なおっぱいをぷるんぷるんと動かして揺れ動き、喘いでいる。
それを見ているだけで、絞り上げられた所からすぐにでも弾けそうだが、
それはもったいないと、もっと耐えてもっと長く深くとネギは欲張りな自分を自覚する。
“…やっぱり、姉妹なんだなぁ…”
そんなネギのちょっとした頑張りも、ふとそんな事が思い浮かびながら
千雨の段々と甲高く獣じみて来る声を聞いている内に簡単に決壊しそうになる。
教わった通り、あるいは武術の様に呼吸を整え体勢を立て直し何とか少しでも…
「あっ、くうぅぅ…」
「はううっ…」
全ては、意思の及ばぬ怒濤の流れの前にはちっぽけで無意味な事だった。
その代わり、息を荒げてぐったりとくずおれ、貪り尽くしてネギに覆い被さった愛する女性から、
唇から唇にちょっとした愛と祝福の証が送られ、ネギもそれをしっかりと受け止めた。
「あー、ネギ先生」
戦いすんで陽は暮れて、
ちょこんと座っているネギの前で、やはりシャツに袖を通した千雨が言った。
「責任取らなきゃとか考えてるだろ」
千雨の言葉に、ネギがうつむく。
「それが正しい、当然だ、この長谷川千雨様の初めて奪っておいて只で済むと思うな私はそんな軽い女じゃねぇ。
ここまでやっといてテキトーかましやがったらはっきし言ってぶち殺す。
けどな、テキトーかます奴にそこまでやらせる程私は安くねぇ。
だから、私が選んだ以上、私が選んだ相手にその辺は任せる」
そこまで言って、千雨は、ネギの頬を両手で挟んだ。
「大体だ、こーんな美人姉妹にピチピチの素っ裸で迫られたんだ、
それで逃げられる野郎がいたらそっちの方が ネ申 だよ。
ましてネギ先生みたいなガキ相手に姉妹揃ってそれやっちまったんだ、ホントはそっちの方が犯罪者だしな。
つー訳で、義務でもなんでもねー、そんな風に考えられたらやってらんねー。
そんかわし、今度はキッチリ宣戦布告する、オサルにも本屋にもいいんちょにもだ。
ま、その必要があれば、だけどな。今んトコ先生が知っててくれたらいいさ。
少なくとも私の心はそうだって事、あいつらにも負けないぐらいネギ先生が好き、それが分かったって事。
何せ、私の知ってる世界一の美女から男ブン奪ったんだ、
何が来ようが負ける気しねー、そーゆーこった。
ほら、帰るぞガキ、お守りのオサルが待ってるからな」
「はいっ」
振り返った千雨が不敵に笑い、ネギは、飛び切りの笑顔と共に、差し出された手をしっかりと握った。
-了-
最終更新:2012年01月28日 16:26