「家鴨雛は月で鳴く」
「あー、いいんちょ」
「千雨さん?」
新学期の教室で、ちょっと珍しいと思いながらあやかが振り返る。
「なんか、こないだうちの姉貴と会ったんだって?」
「ええ、千雨さんも?」
「ああ、元気そうだったな」
「そうですわね、相変わらずお元気で、お美しい」
「まあな」
千雨が、素っ気ないくらいに言う。
「いいんちょのお姉さんもやり手でいい女だって評判だろ」
「それほどでも、ありますわね」
あやかがくすっと笑い、千雨も苦笑した。
あやかは美晴と千雨が姉妹である事を知っている。
只、一度その事を話した時、千雨は余りいい反応を示さなかった。
あやかにも優秀な姉がいる。
あやかの場合、自分も様々に並外れた才覚を持っているためさ程劣等感を覚えると言う事もなく、
姉がしっかりと雪広家の跡取り娘としているからこそ、
自分が比較的思いのままの事をしていると言う自覚も感謝もある。
それでも、千雨の気持ちが分からないでもないので以後余り触れずにいた。
ひらひらと手を振って立ち去る千雨と入れ違いに、こちらもある意味珍しいお呼びが掛かった。
「いいんちょ」
「何ですのアスナさん?」
「ちょっと…参考までに聞くけどさ」
「何ですの?」
「もしも、もしもだよ、あのスーパーウルトラデラックス美女の美晴さんが、
ネギをお婿さんに欲しいとか言い出したらいいんちょってどうするの?」
「愚問ですわね」
あやかが即座に言い、千雨は足を止めて背後に神経を集中させた。
「それは勿論、この不肖雪広あやか、
全身全霊身命を賭して、美晴様の恋仇として決して恥ずかしき事の無き様、
正々堂々ネギ先生との真実の愛を貫く、それだけの話ですわ」
「だよねー、さっすがいいんちょショタコン一筋っ!」
「だあぁれがショタコンですってええぇぇぇっ!?」
「いいんちょよいいんちょ、他に誰がいるってーのよ?」
「オジン趣味のアスナさんに言われたくありませんわね」
「なんですってえっ!?」
「なんですの!?」
「やれやれー」
「いいんちょ食券5枚」
「アスナに10枚ー」
振り返った千雨が、
いつもの喧噪、いつものいつの間にか現れてあわあわしてる可愛い子供先生を、苦笑を浮かべて眺めていた。
-この項・了-
最終更新:2012年01月28日 16:30