僕の修羅が騒ぐ ◆gsq46R5/OE


  結論から言えば、花京院典明と神楽が『姿の見えないスタンド使い』に急襲を受けることはなかった。
  橋での一件があってから、既に結構な時間が経過しているが――会場は実に静かなものだ。
  花京院が常に緊張感を張り巡らせているのもあって、二人の間に会話も殆どない。
  ともすれば、殺し合いの存在自体を疑いたくなるような時間が随分続いた。

  基地へ寄るか否かは迷ったが、結局、やはり素通りすることになった。
  逃げ場の少ない場所でこそ真価を発揮する敵を相手取るのに、わざわざ閉所へ移動する必要も感じられない。
  それならば、万全を期して敵を撒くように努力する方が有意義……花京院の意見へ、神楽も反対することはなく。

  基地から墓地へと進んだ後は南下し、旭丘分校を目指す。
  そこについては何ら変わりはない。
  ただ、仮にそこまで逃げ延びて尚も一度の襲撃すらなかったなら。
  その時は、この終わる気配のなき鬼ごっこについて一考する必要があるだろう。
  時間は決して無限ではない。
  姿の見えない敵は確かに脅威だが、真にすべきことはまだ他にも無数にある。
  見えないから分からないというだけで、実はもうとっくに追跡を振り切っている可能性とてゼロではない筈だ。
  ……もっとも、その逆もまた然り。故に油断など、出来る筈もないのだが。

  彼は歩く。
  彼女も歩く。
  ただ黙々と、緊張感を背負いながら。
  前だけを見据えながら――歩く、歩く。


 「――――根暗かァァァ!!!!」
 「!?」


  その沈黙を破ったのは、言うまでもなく神楽だった。
  女子としてあるまじき目を見開いた表情で花京院を指差し、思い切り叫んでいた。
  同行者の突然の奇行に、只でさえ気を張っていた花京院は唖然としてしまう。
  頭の中が真っ白になるような衝撃と浮かんでやまない疑問符、それがやがて混乱を連れてくるのはやはり必定。
  肩を上下させて息を荒げている神楽を見、花京院は凄く険しい顔をした。

  神楽はなんだか彼の姿が劇画タッチに見え始めた。
  更にその背景には「ゴゴゴゴゴ……」と太いフォントの効果音が浮かんでいる――そんな気もする。
  ひょっとすると沈黙の中で気疲れしていたのかもしれないが、見えたのだから仕方ない。

 「まさか……『スタンド攻撃』ッ!?」
 「んなわけあるかァァァ! 逃げるのは分かったけど静かすぎって言ってんだヨ!
  こっちが黙ってれば本気で何も喋らねーし、これじゃ疲れも当社比三割増しアル!!」
 「わ、分かった! 分かったから声を抑えてくれッ!」

  やっぱり変な色の一本グソ垂らしてる奴は駄目ネ、とぶつぶつ呟いている神楽を尻目に、花京院は額へ浮いた汗を拭う。
  常に周囲へと気を張り続けていた状況での出来事だったこともあり、その焦りも尋常なものではなかった。
  大きい声を出すな、それと君は何を言っている――色々と言いたいことはあったが、確かに彼女の言う通りかもしれないと、そう思う自分が居るのもまた確かだった。
  神楽の行動は軽率の一言に尽きるものであったが、おかげで花京院は自分が如何に緊張していたかを自覚出来た。
  ほんのちょっと予想外の出来事が勃発するだけで、これほどパニックになりかけるのだ。
  『姿の見えないスタンド使い』以外にも殺人者が潜伏しているような状況へ臨むには、少しばかり危険な状態だった。

 「……確かに、君の言うことももっともだ。それによく考えれば、僕達はまだ自己紹介すらしていなかった。
  遅くなったが、僕の名前は花京院典明。スタンドの名は『法皇の緑』……改めてよろしく頼む」

  一度は止めた足を再び進めながら、しかし無言ではなく会話を織り交ぜる花京院。
  自分の意見を聞き入れられ満更でもないらしい神楽も、特に不平を垂れるでもなくそれに応じる。

 「神楽アル。
  正直、そろそろ私の中でのお前の名前が『メロン糞 たれ蔵』になる所だったヨ。
  運が良かったネ、花京院」
 「……それは流石に、御免被りたい名前だな……」

  女性としては少々慎ましさに欠け過ぎているように思われたが、説教するような身分でもない。
  それに、非常に不名誉な名前で覚えられるのを防げただけでも僥倖だ。
  ……自分のスタンド能力については、まだ口にするのも憚られる下ネタで覚えられているようだったが。
  もっとも、花京院は道中、『法皇の緑』の能力については軽く説明したが、名前については一切触れていなかった。
  だから、仮の名前で覚えられても仕方ないと言えば仕方ない。

 「それで、そのハイエナマント・ブリーチとやらに反応はずっとないアルか?」
 「ハイエロファント・グリーン、だ。
  ……ああ。例のスタンド使いも、ひょっとするととっくにやり過ごしたのかもしれないな。
  だが、油断は出来ない。奴のスタンド能力がもし、透明化や迷彩の類ではなく……上手くは説明できないが、とにかく此方の予想もつかないようなものだったとしたら、何らかの手段で感知を掻い潜っている可能性もある」
 「おおう……もっと頑張れヨ、ハイエースパンツ・アイーン」
 「…………」

  前言撤回。
  正しい名前を教えようとも、どうやらお構いなしらしい。
  まぁ、少しでも良い方向に名前が推移してくれただけでも良しとしておこう。
  それ以上に今気にすべきは、今神楽へと語って聞かせたある『懸念事項』の方だ。
  単なる透明化能力ならば、法皇の緑による感知を破ることは出来まい。

  しかし花京院は見ている。
  範馬勇次郎という怪物のような男を、断末魔の声すらあげさせずに文字通り『消し去った』瞬間を。
  感知反応がないことから振り切ったと判断しようにも、どうにもそこだけが納得出来ない。腑に落ちない。
  これまでの旅の中でも見たことがないような、空前絶後の凶悪なスタンド能力。
  姿が見えないことも相俟って、その恐ろしさはあまりに大きく強く、花京院の脳裏へと記憶されていた。
  そんな様子は露知らずで少し先を行く神楽。
  数秒ほど経って、彼女は突然、思い出したように口を開いた。
  花京院には背を向けたままでだ。

 「けど花京院、命が惜しけりゃ注意しとくヨロシ。
  少なくとも一人、私はンな小細工じゃ予防策にもならねーバケモンを知ってるアルヨ」
 「……それは、感知した時にはもう遅い――という意味か?」
 「まぁ、私もどこまでかは正確には知らねーけどネ……でも」

  その時。
  神楽の横へと足並みを並ばせた時、花京院は気付いた。
  神楽の瞳。
  大きな眼窩に収まっている目を満たす感情の色彩が、これまでのものとは明らかに異なっていることに。
  否応なしに理解させられる。
  どんな言葉よりも強い信憑性が、小柄な少女の両目に詰まっていた。

 「アイツなら。神威のバカ兄貴なら、何をしたっておかしくないアル」

  神威。
  兄貴。
  ――神楽の、肉親か。
  花京院は声にこそしなかったものの、心の中では密かに納得する。
  彼女がこれほど真剣な面持ちで語るのも、事情を知ってみれば頷ける話だ。
  化け物と形容するしかないほどの凶悪な参加者……それが彼女にとっては実の兄だというのだから。

  だから、花京院は問わずにはいられなかった。
  干渉のし過ぎだろうと自覚しながらも、問わねばならないと思った。
  直感的に理解したのだ。神楽が浮かべている表情、そこにある『覚悟』の意味を。

 「神楽……君は、その『神威』を倒すつもりなのか?」
 「当たり前アル」

  即答した。
  答えを口にするまでに、一秒の迷いさえもなかった。

 「あのバカ兄貴は、きっと今頃水を得た魚の勢いで暴れ回ってるに決まってるネ。
  誰かをぶっ殺すことに躊躇いなんざゼロで、傘振り回してバッタバッタとリアル無双ゲーするような奴アル」
 「………」
 「もしも止められなきゃ、そん時ゃ何十人と犠牲が出る筈ヨ。――けど」

  神楽の番傘を握る手に、力が篭もる。
  傘が軋むほどの腕力をその細腕で発揮しながら、彼女は宣言した。
  笑って誤魔化すことなどせずに、堂々と。

 「アイツを殺さなきゃならないってんなら、私がやるネ」

  神楽と神威は、血を分けた実の兄妹だ。
  もしどちらか片方しか生き残ることが出来ないというのなら。
  もし、あのバカ兄貴が数えきれないほどの死体の山を作り上げているというのなら。

 「それは私の役目アル。腐っても私達は同じオヤジのキンタマから生まれた兄妹ヨ。そこは譲れない」

  あの化け物を生み出したのは、言わずもがなかつて彼が片腕を奪った父親だ。
  しかし星海坊主は此処にはいない。居るのはただ一人、神楽だけ。
  ならば当然、彼を終わらせるのは神楽の役目ということになる。
  この役目を誰かに譲ってやる気はさらさらなかった。
  姿の見えないスタンド使いだか、繭だか知らないが――そいつらも同じだ。
  勝手にこの役目を持って行こうと言うならば、噛み付いてでも止めてやる。


 「――神威は誰にも殺させない」


  花京院は、いつの間にか喉が渇いていることに気が付いた。
  それは生理現象によるものなどではない。
  気圧されたのだ。
  肉親を殺すと語るこの少女のあまりの迫力に言葉を失い、ただ圧倒されていたのだ。

  神楽――この少女も、やはり只者ではないようだ。花京院は改めて、そう理解するのだった。


【D-2/墓地付近/一日目・黎明】

【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失気味
[服装]:学生服、『ハイエロファントグリーン』(紐)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
   1:墓地へ向かった後、神楽と共に島を南下する
   2:承太郎たちと合流したい。
   3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』、神楽の言う神威には警戒。
   4:スタンドが誰でも見れるようになっている…?
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です。
※繭のことをスタンド使いだと思っています。
※スタンドの可視化に気づきました。これも繭のスタンド能力ではないかと思っています。
※索敵のため、腰から紐状のハイエロファントグリーンを背後から数十mに渡ってはわしています。

【神楽@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:チャイナ服
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
   1:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
   2:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
   3:『姿の見えないスタンド使い』を警戒してるアル
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。




  花京院典明の予想は、的中していた。
  姿の見えないスタンド使い――より正しくは、この世界とは別の空間に存在するスタンド使い。
  ヴァニラ・アイスは、執念深くも未だ彼と彼女を追尾している。
  『法皇の緑』による感知の盲点として、警戒を解きつつある彼らを嘲笑いながら、彼は尚も追う。
  正直なところ、迷いはした。
  此処で花京院と神楽を殺し、駅へ北上してDIO様の館を目指し右側の島へ向かうべきか。
  それか、当初の予定通り花京院達がもっと大きな集団になった所で事を起こすか。

 (DIO様の身を案ずるなど、おこがましい考えだ)

  直接命を下されずとも分かる。
  彼は殺し合いの中で他者の命を吸い取り、頂点へ立つことを目指していると。
  ならば、そんな彼に対し自分が出来る一番の孝行とは何か?
  ――言うまでもない。より多くの参加者を、可及的速やかに殺してゆくことだ。

  警戒が薄れてきていることも含めて、実に好都合だ。
  鼠同士で寄り固まったところを、皆まとめて始末してやろう。
  日が昇るまでに誰とも出会うことがなければ、その時はその場で片付けてしまえば良いだけのこと。
  少し猶予を持って取りかかれば、幸い屋内施設には事欠かない会場だ。
  それから適当な施設に目星をつけて潜り込み、また日が沈むまで潜伏していればいい。

 (DIO様、もう少々だけお待ち下さい。このヴァニラ・アイス、貴方の道に転がる犬の糞どもを掃除して参ります)


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0~3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
   1:花京院と神楽を追い、殺す
   2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
   3:花京院達が他の参加者と接触しているところを見計らい、皆まとめて始末する
   4:日が昇るまでに誰とも出会えないようならば、その時も早々に見切りをつけて始末。
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました


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025:Just away! 花京院典明 080:魔領にて
025:Just away! 神楽 080:魔領にて
025:Just away! ヴァニラ・アイス 080:魔領にて

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最終更新:2015年10月18日 04:21