わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで ◆eNKD8JkIOw
どこにでもいる、という枕詞をつけるには、少々変わった女の子だが。
なんてことない佇まいから気品が漂っていたり、カフェインを摂取するとハイテンションになったりする程度には、キャラが立っている女の子だが。
メイド喫茶で働いていたり、そんな一方で甘味処やコーヒーハウスで働く女の子たちと友達だったり、お嬢様な先輩に密かに憧れている程度には、物語の中にいるが。
それでも桐間紗路は、普通の定義から大きく外れることはない女の子だ。
彼女は、普通の世界で生きてきた。
彼女は、超能力を操り秘密結社と戦うような日常を送っていない。
彼女は、行く先々で怪事件に巻き込まれ相棒と共にそれらを解決していく毎日を送ってはいない。
彼女は、世界崩壊の危機を救うために時空を超え旅をするような日々を送ってはいない。
彼女は人間の身体からドバっと流れていく血も、相手を打ち倒そうと拳をぶつけ合う本気の殴り合いも、他者が向ける本気の敵意も、なにもしらない。
ならば、当然。
彼女は殺し合いなんていう悪趣味が過ぎるイベントに巻き込まれたことなど。
彼女は、自分の知り合いがどこか遠くで自分が知らない間に死んでいる可能性を思い浮かべたことなど。
人が人を殺して、人が人に殺されて、それが大々的に発表される場に居合わせる経験など。
今まで、一度も体験したことなどない。
その上、彼女はこの殺し合いに巻き込まれてから、一度も『それ』を実感することはなかった。
確かに、最初に目覚めたあの空間で、知らない女の子がカードになったところは見た。
確かに、知り合った女の子から突然キレられたりはした。
確かに、その女の子が、次に出会った女の子からしたら『過去の存在』であるという世にも奇妙な話を聞きはした。
確かに、勇者とか魔法とか、そんな夢のような話を聞いたりはした。
だけど、それだけだ。
彼女は一度も、殺し合いをしていない。見ていない、感じていない。
そもそも、殺し合いに乗った人に会ったことすらいない。
誰かと誰かが戦っているところも、誰かが誰かを殺しているところも、誰かが誰かに殺されるところも、見ていない。
彼女がこれまで経験した出来事など、次の瞬間目が覚めて「変な夢だったぁ~」なんて寝ぼけ眼で目を擦ったらそれでおしまい、になってしまう程度のものだ。
だから、これがはじめてなのだ。
はじめて桐間紗路は、自分ではなく、知り合いの死の可能性という形で、殺し合いを実感する。
『――おはよう。午前6時、定時放送の時間よ』
だから、放送を聞いている間、シャロは心臓がバクバク鳴っていた。
一字一句聞き逃さないように集中しなければと心掛けていたはずの頭の中は、いつのまにか『もしかしたら』と『どうしよう』のオンパレードに埋め尽くされていた。
顔は鏡で見なくても分かるくらい、緊張でリンゴみたいに真っ赤だ。
ぎゅっと握りしめた掌は汗びっしょり。膝は、気付けばカタカタとへたくそなダンスを踊っている。
『さあ、次はお待ちかね、ここまでに命を落とした方々の発表といきましょう』
自然と、この殺し合いに巻き込まれた友人たちの顔が思い浮かんだ。
保登心愛。
おっちょこちょいでトラブルメイカーだが、その明るさは出会ってから一年も経っていない私たちをもう幾度となく笑顔にしてくれた。
香風智乃。
幼いながらに父と共にラビットハウスを切り盛りするしっかりした子だけど、私たちの後輩として時に可愛い一面を見せてくれたりもした。
宇治松千夜。
幼い頃からの友人。少し黒いところもある子だが、長い付き合いのある自分は、同時に少し気弱であることも知っている。
自分を危機から救ってくれた、学校の先輩。
モデルガンを構える姿は女性ながらにとても様になっており、かっこいいし可憐だ。
スタイルも良く、しかもお金持ちのお嬢様で、まさしくシャロにとっての憧れである。
もしも、彼女たちの名前が呼ばれたら。
もしも、リゼ先輩の名前が呼ばれたら。
自分は、どうなってしまうのだろう。
多分、泣くと思う。
もうあのふわふわした日にはもう二度と戻れないことを嘆き。
彼女たちがどんな非業の死を遂げたのか想像して、それを食い止められなかったことを悔やむかもしれない。
もしかしたら、怒るかもしれない。
彼女たちを殺した殺人犯に対して、どうしてだと怒りをぶつけ。
このゲームを始めた繭という少女に、ありったけの罵倒の言葉を投げつけ続けるかもしれない。
そしてきっと、絶望するだろう。
例えここから脱出できたとしても、彼女たちの死はシャロに一生残る傷跡を残す。
元のような生活に戻ることが出来たとしても、それは決して『元の生活』などではない。
ココアのいない、チノのいないラビットハウスなど。
千夜がお隣から声をかけてくれない朝など。
リゼのいない、世界など。
想像したくもない。
そんな現実、死んでもご免だった。
だから、神様、どうか。
こんな時くらいにしか祈ることはない神様だけど、それでも、どうか。
両手の震えを無理やり沈め、固く握り、上へ、天上へ、向ける。祈る。
どうか、私たちをお救いください。
『それじゃあ、これで放送を終了するわ。次は正午、また私の声が聞けるといいわね』
「……へっ」
終わった?何が?放送?嘘。聞き逃した。どうしよう。どうしたら?
はじめて殺し合いらしい殺し合いを実感することによる、焦りと緊張と。
どうしても沸き立ち続ける嫌な想像と、友人たちの無事を祈る気持ちと。
それらすべてがないまぜになって、自分は心あらぬ放心状態になっていたらしい。
慌てて周りを見渡す。一番近くにいた
三好夏凜が目に入った。
この4人の中でも力があり、リーダーシップもある子だ。
自分よりも年下だが自分なんかよりもよっぽど頼りになる。そんな印象の女の子だった。
声をかけようかと思ったが……夏凛が浮かべる厳しい表情、怖い顔に少し気圧される。
と、同時に気付く。彼女は、自身の腕輪を操作して何かを見ていた。
「……17人」
苦々しい語調で呟かれたその言葉で、シャロはハッと思い出す。
今まで全く忘れていた情報。最初に行われた
ルール説明の際に、何が何だか分からない状況の中でなんとなく耳に入れていた情報。
脱落した……死んだ人の情報は6時間ごとに白のカードに記録されるという情報を。
自分でも恥ずかしくなるくらいもたつきながら、白のカードを操作する。
脱落者の情報。見なければならない情報。彼女の知り合いが死んだか死んでいないかを知るための情報。
ココアが、チノが、千夜が、リゼ先輩が、死んだと告げられるかもしれない情報。
どうしてみなければいけないと思ったのか、理由は分からない。
そんなこと知らないほうがよっぽど幸せに生きていけるし、希望も持てる。
もやもやな気持ちは残るだろうが、それでも、辛い現実に打ちのめされるくらいよりはよっぽどマシなはずだ。
それでも、見なければならないと思った。
どれだけ嫌な事実を突きつけられようとも知らなければいけないと、論理ではなく感情で動いた。
震える指で、白のカードに表示されている死者一覧をスマートフォンのように下にスライドさせていく。
現実逃避は出来ない。物思いにふけり、見なかったことになど出来ない。
放送で一方的に与えられるのではなく、自分の意志で。
おっかなびっくりで、だけど確かに下へ、下へ。
知り合い以外の他の名前は、目から通って頭の後ろに抜けていく。
まるで、ジェットコースターに乗っているようだった。
景色を眺める余裕などない。
彼女の頭を埋め尽くしているのは、急降下の下り坂がいつ来るのかという不安だ。
来ないでほしいという思いと、いざ来た時の覚悟を決めることで、彼女のキャパはいっぱいいっぱいだ。
【南ことり】
【南ことり】
「……あ……」
死者一覧は【南ことり】で終わっていた。
そこから先は、白のカードをどう操作しても、見ることが出来なかった。
横にスライドさせてみる。一番上までスライドさせてみる。脱落者一覧をすべて見たい、と念じてみる。もう一度、最初から通しで目を皿にして一覧を見てみる。
だけど、どうみても、どう考えても。
桐間紗路の知り合いの名前は、記されてはいなかった。
それはつまり、この6時間で友人が誰も死んでいないということで。
何の力も持たない少女たち5人が、みんな揃って生き残ったということで。
桐間紗路のふわふわで、普通で、だから大切な世界が、救われたということで。
肩に入っていた余計な力が、弱気と一緒に逃げていくように、全て抜けた。
だから彼女は、ほっ、と一息をついた。
ついてしまった。
誰も死ななくてよかった、と。
年相応の少女が放った可愛らしい「よかった」は、静かな空間でやけに大きく聞こえた。
あえて、もう一度言おう。
桐間紗路(シャロ)は、普通の女の子だ。
知り合いが死んでいなかったことを素直に喜ぶ普通の女の子だ。
安心と嬉しさによって、思わず安堵の息を漏らしてしまう普通の女の子だ。
だから、彼女の反応は至極当然のことであり、普通の女の子ならば、誰でも取り得る行動である。
だから、このあと何が起こっても。
彼女は何も、悪くない。
また、それと同時に。
知り合いが誰も死ななかったシャロがついた、ついてしまった安堵の息。
それを聞いた2人の死別者、三好夏凛とアインハルト・ストラトスが何を思い、何を感じ、どう行動しようとも。
世界を救う勇者であり、脈々と受け継がれた覇王流の末裔であると同時に。
それでも、友達と一緒に遊び、学び、生きることに喜びを感じ、そんな友達のことをとても大事に思っている。
そんな、普通の女の子でもある彼女たちが、何をしたとしても。
彼女たちも、悪くない。
今のこの四人だけの世界には、わるいひとなど一人もいないのだから。
【F-3/エリア北部/一日目・朝】
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
1: ???????????????
2:東郷、風を止める。
3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
現在、夏凛はすべての通信機能が使えなくなってると勘違いしています。
【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0: ???????????????
1:私が、するべきこと――。
2:仲間を探す。
3:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。
【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[服装]:普段着
[装備]:パニッシャー
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
黒カード:不明支給品0~1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
1:良かった。
2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
[備考]
※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。
【
小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済)
宮永咲の魂カード
[思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:???????????????
1: 遊月、
浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。
[備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
※遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。
[備考2]
4人が共有している情報
※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。
※現所持品の大半をチェックしました。
※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。
バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。
4人の推測
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で
本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?
もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることで
ある程度対応可能ではと考えています。
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最終更新:2016年01月25日 18:17