La vie est drôle(後編) ◆X8NDX.mgrA
■
生命戦維は宿主の生命が危険になると、より活動を活性化させるという。
セイバーの聖剣による一撃で、深刻なダメージを負った流子は、しかし脈動する生命戦維のおかげで意識までは失わなかった。
あるのはただ、セイバーへの殺意。
生命戦維による回復を待つ間、意識がもうろうとする中で、流子はそれを滾らせ続けた。
『今の彼女は本当の彼女じゃない』
倒れ伏す中で聞こえてきたこの言葉が、流子の“何か”を刺激した。
本当の彼女じゃない、という言葉は、初めて聞くものではない。
その瞬間、今まで心の奥底に抑えられていた記憶がこぼれだした。
――――じゃないよ!
放送で呼ばれた名前で、流子が知る者はひとりだけだった。
本能字学園に転校してきたその日に出会った少女。
なんやかんやと騒ぎまとわりつく少女は、鬱陶しくも大事な友人になっていった。
それが、自他ともに認める劣等生。
満艦飾マコである。
――――じゃないよ!!
学園生活で、マコはやたらと流子のことを気にかけた。
家族とのふれ合いをほとんど経験していなかった流子にとって、マコは唯一無二の友人となった。
それはマコにとっても同じだったのかも知れない。
いつしかマコの存在は、流子をリラックスさせるものとなった。
――いつもの流子ちゃんじゃないよ!
流子は「喧嘩部」騒動の際に、欲望に固執するマコを正気に戻した。
その後、流子が鮮血を暴走させたとき、危険をかえりみず暴走を止めたのはマコだった。
互いに信頼し合い、思いやる関係があったのだ。
流子自身が生命戦維の化け物だと知って自棄になったときも、マコは必死に流子を説得した。
――じゃないよ!じゃないよ!じゃないよ!じゃないよ!
いつもの纏流子じゃない。
そう流子に強く言い続けたマコは、死んだ。
あの大仰で珍奇な身振りを交えた独特な口上は、二度と聞くことができない。
陳腐な表現かもしれないが、纏流子は、満艦飾マコという、かけがえのない存在を喪った。
「う――」
純潔を着た流子は、鬼龍院羅暁に記憶を改ざんされ、洗脳を受けている。
しかし、今この瞬間においては、その洗脳を上回るショックが流子を襲っていた。
それほどまでに、満艦飾マコの占める割合は大きい。
「うあああああああああああぁぁぁっ!!!」
縛られた純潔の支配からは抜け出せず、しかしマコを喪った悲しみもまた心から消えない。
生命戦維としての意思と、人としての意思とのせめぎ合い。
混濁した意識に埋もれていく流子は、やがて――。
■
天を仰いで、纏流子が吼えた。
神威とセイバーに緊張が走る。その様子が先程までと違うことは、誰が見ても明らかだった。
「ぶち殺してやる……」
低くドスのきいた声で呟く流子。
殺意が身体の周りに立ち上り、オーラを成している錯覚が見えるほどだ。
「まずはテメエからだ――!」
これまでにない速さで突撃する流子。
狙いはセイバー。右手一本のみで槍を突いた。
魔力を打ち消す紅の長槍を、セイバーは鎧で受けることはできない。
必然的に、寸前で避けるか剣で受けるかの二択となる。
このときセイバーが選択したのは後者だった。
「っ!!」
「遅ぇよ!」
セイバーが剣で槍を防御した瞬間、流子はセイバーの前から消えた。
そして直後に、流子はセイバーの背後から襲いかかっていた。
槍を捨て、“素手のまま”である。
剣士を前に、それまで使っていた武器を捨てるという常識はずれの行動が、セイバーの判断を鈍らせた。
一拍遅れて振り向くも、時すでに遅し。
「がっ……」
流子の腕は、セイバーの首を掴んでいた。
ぎりぎりと締め上げる流子に対して、セイバーは力を振り絞って聖剣を薙いだ。
片手だけとはいえ、宝具による一撃は、流子の胴体に深い傷を与えた。
だが、流子はそれを意に介したようすがない。
生命戦維による傷の治癒が、その速度を増しているのだ。
「ぐ、が……」
セイバーが苦悶の声を上げる。
流子は手を離すと、セイバーの腹部に拳を見舞った。
大きく吹き飛ぶセイバー。数メートル飛んで、ビルの壁に背中をしたたかに打つ。
そのままくずおれる暇もなく、一足飛びで近づいた流子に首根っこを掴まれて、一本背負いの要領で、再度背中を打ちつけられた。
「かはっ――」
流子の攻撃は更に続く。
仰向けになったセイバーを、コンクリートを砕く脚力で踏みつける。
転がって避けられると、何度も執拗に踏みつけをおこなう。
それは、まるで子供が駄々をこねているようにも見えた。
「っく……はぁっ!」
とはいえ、いくら闘い方が子供じみていても、威力は並の人間を昏倒させるには充分すぎるほどある。
それが途切れることなく、立つ暇さえ与えられず繰り出されるのだ。
最優のサーヴァントをして反撃に移れないのは、ひとえに強すぎる力が原因だった。
「おい、神威」
「ん?」
「お前言ってたよな、今の私が本当の私じゃないとかなんとか」
「ああ、言ったけど?」
流子は倒れたセイバーを追撃しながら、神威に声をかけた。
その隙を逃さず、セイバーは大きく転がると、流子の攻撃の範囲外へと抜け出した。
すぐさま立ち上がり、油断なく聖剣を構える。
「ぐっ……」
しかし、セイバーは肺腑の痛みからか顔をしかめた。
目立つ外傷こそないが、身体の内側にダメージを負ったかもしれない。
到底余裕があるようには見えないセイバーを見て、流子は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「じゃあこの状況はどうなんだよ、えぇ?
これでも私が本気じゃないって言えるのかよ!」
セイバーのことを見下しながら、流子は叫んだ。
神威にではなく、自分自身に言い聞かせているようなその叫びに、神威は沈黙を貫いた。
ニコニコしたまま黙る神威を見て、流子は舌打ちをする。
代わりに、引き合いに出されたセイバーが口を開いた。
「御託はそこまでだ。貴様は私が倒す」
「……へえ、そうかい」
セイバーの凛とした立ち姿と物言いは、否が応でも、流子に姉の姿を思い出させるだろう。
不機嫌そうな顔を隠すこともせず、流子は紅い長槍を拾い上げた。
そして、セイバーへと槍の穂先を向け、宣言する。
「冥土の土産に教えてやるよ……私は纏流子だ」
「セイバーのサーヴァント、騎士王アルトリアだ」
名乗りを上げた流子に対して、セイバーは真名を明かした。
洋の東西を問わず、命を懸けた決闘には礼儀作法が定められている。
セイバーはこのとき、流子を真剣に戦う相手として認めたのだ。
その直後、二人は再び激突した。
流子の攻撃は、突いて引く、その連続だ。
槍による連続の刺突は、速さだけならば英霊のそれにも及ぶものとなっている。
セイバーは油断せず、確実に一撃一撃をかわしていく。
「はははははっ!!おらおら、もっと行くぞ!!!」
哄笑とともに、流子はより苛烈な攻めを繰り出す。
流石のセイバーも、どうしても守り一辺倒にならざるを得ない。
「僕も混ぜてくれると嬉しいんだけどね」
「てめえは引っ込んでろ!」
外野から茶々を入れる神威に対して、流子は邪魔をするなと睨みをきかせた。
それでも刺突の手は緩むことはない。
かろうじて飛び退いたが、それもまた一時のことだろう。
明確な殺意を持った流子は、慢心をせずにセイバーを攻め続ける。
「ぐっ……」
「おら、行くぞっ!」
流子が地を蹴る。攻撃は変わらず、単純な突き。
槍術はおろか、戦術のひとつも習ったことのない流子には、突くか薙ぐかくらいのことしかできない。
しかし、それも超人的な膂力を以てすれば、無視できない一撃となる。
そのことは、これまでの戦闘でセイバーも重々承知している。
「おおおっ!!」
だからこそ、セイバーは真正面から受け止めた。
もう何度目になるか、槍と剣が触れることで魔力の風が吹き荒れる。
両者一歩も引かない競り合い――だが、単純な剣技で測るとすれば、セイバーに一日の長がある。
セイバーの剛剣が、流子の槍をあらぬ方向へ弾いた。
「はああっ!」
「がっ――まだまだァ!」
セイバーの聖剣が、流子の胴体を貫く。
常人では致死量の血反吐を吐きながら、それでも流子は倒れなかった。
生命戦維の尋常でない治癒力によるものだろう――それでも、意識を失わないのは並々でない精神力だ。
流子は不可視の剣をがっしりと掴み、セイバーが動けないようにする。
そのまま槍を振りかぶり――そのとき、二人の間の空気が大きく弾けた。
「ぐあああぁっ――!?」
聖剣が流子の腹部に刺さった状態で、セイバーは固有のスキルで魔力を放出させたのだ。
これにより、魔力の奔流が流子の体内に直接ダメージを与える。
普段は攻撃の威力を上げるために利用している魔力を、直接攻撃の手段に転換したのだ。
うめき声を上げながら、流子はセイバーから離れようとした。
「っ、くそがっ!」
だが、聖剣は簡単には引き抜けなかった。
皮肉にも、流子が逃げられない原因を作ったのは流子自身だった。
生命戦維の治癒力をあてにして、聖剣を深く突き刺すことで、セイバーが動けないようにしたまではよかった。
そのせいで流子自身の動きが制限されることまでは、予期できなかったのだ。
「はあああああ――!」
そうこうしている間にも、セイバーは魔力を生命戦維越しに流子に与え続ける。
魔力とはエネルギーであり、それが流し込まれているということは、身体に直接電気を流されているようなもの。
計り知れない痛みがあるのだろう、流子は耐えられないといった様子で、無理矢理に聖剣を抜きにかかった。
「この野郎っ!!!」
流子は常人ならざる脚力で大地を蹴って、上へと跳んだ。
その勢いで聖剣は抜け、自由の身になった流子はにやりと口もとを歪ませた。
頭上は人間の弱点であると語ったのは誰であったか。
槍で串刺しにせんとしたのか、セイバーをしっかりと見据えて――その顔が凍り付いた。
「…………」
セイバーは黙ったまま、空中の流子をじっと見ている。
いつの間にか、着ていた鎧が消失しており、聖剣を後ろ手に構えている。
セイバーほどの直感がなかったとしても、それなりに死線を潜り抜けている人物ならば気づくだろう。
これは、まずいと。
流子は回避しようと試みたが、宙に浮いており、深い傷がある状態では、それも叶わなかった。
「風王鉄槌(ストライク・エア)――!!」
流子が地面に着地するかしないか。
その刹那の間に、セイバーは聖剣が纏っていた風を全て解き放った。
巻き起こるのは圧倒的な烈風。
鉄槌の名に相応しい暴虐なまでの風の塊が、流子の身体にぶち当たった。
風の勢いは衰えを見せず、流子の意識を刈り取らんと絶え間なく襲い続ける。
「ぐああああぁぁーっ!!!」
回避も防御も間に合わず、流子の身体を多大な衝撃が襲う。
十重二十重の海魔の群れを消し飛ばすほどの威力を持った一撃が、まともに胴体に加えられたのだ。
たとえ生命戦維でできた身体だとしても、無事では済まない。
「くっ……だがなぁ、その程度で――」
かろうじて意識を繋ぎ止める流子は、どうにかして暴風に対処しようと試みる。
どうにか耐えているが、このままでは飛ばされるのが必至。
そのとき流子の頭に、ある方法が浮かんだ。
荒れ狂う風の塊も、飛行形態の『純潔旋風』ならば回避できるはずだ。
「――っ、純潔せんぷ――」
「おおおおおっ!!!」
しかし、高らかに叫ぼうとした流子に先んじて、セイバーは更に魔力を放出する。
反撃される隙を与えない。戦術としては当然のものだ。
セイバーにとっては、これが功を奏したといっていい。
もし流子が暴風から逃れ得たならば、勝負はまた変わった様相を呈していたかもしれないのだから。
「くっ、そおおおおお!!!」
今ここに、勝負は決した。
生命戦維の化け物は、風に巻き込まれたまま、悔恨の雄叫びを上げながら、吹き飛ばされていった。
■
遠くでどぼん、という音がしたのを確認すると、セイバーは急ぎ車へと向かった。
神威はそれを見とがめると、邪魔するようにセイバーの前に立つ。
「一応聞くけど、あれを殺すつもりかい?」
あれ、とはもちろん纏流子のことである。
生死は定かではないが、聖剣の一閃を食らっても回復するだけの存在が、そう簡単に死ぬはずもないだろう。
海に落ちても、どこかに辿り着いている可能性がある。
傍観者の神威でさえそう考えたのだ、先程まで戦闘を繰り広げていたセイバーが、その可能性を考えないはずがない。
ならば、追撃を加えて確実に殺そうとするのも、一理ある。
「……私とて、余計な消耗は負いたくない。だが不安要素を残したくないのも事実だ」
「強くなるかもしれない芽は摘んでおくってことかな」
その言葉に首肯で返されて、なるほど、と神威は嘆息した。
どうやら、少女剣士の目には殺戮の後に優勝する己の姿しか見えていないらしい。
できる限り効率のいい殺し方。
不安要素を排除していく戦略。
最終的な勝ちさえあれば、この瞬間はどんな手段に訴えかけてもいい――そんなやり方。
「君も彼女と同じだ」
神威の言葉に、セイバーは言葉を詰まらせた。
セイバーは神威を見据えたままで、軽めの口調を崩さずに語り続ける。
感じたことを、感じたままに。
「曇っているんだよ。本来の君はそんな戦い方をしない。
少なくとも今のやり方には慣れていないはずだ。
正々堂々とした勝負こそが、君の求めるところだろう?」
神威はセイバーと流子の戦闘を眺める内に、そのことに気が付いた。
流子に対して名乗り返したことといい、本来の性格は礼儀正しいものなのではないか。
武士道か騎士道か分からないが、そうした真っ当な道を歩んだ人物なのではないか。
神威はセイバーをそう判断していた。
「だからさ、纏流子はもう負けたんだ。それでいいじゃないか」
だからといって、神威にセイバーが流子を殺そうとすることを止める権利はない。
それなのに、なぜこうも必死に流子を追わせまいとしているのか。
神威は詭弁を使っている自分自身に驚きながらも、結局は流子を殺されるのが惜しいという感情から、セイバーに対して言い切っていた。
そのセイバーは、考え込む様子を見せてから、顔を上げて言った。
「……いいだろう。ただし槍だけは破壊させてもらうぞ」
「へえ、槍ね。もしかして彼女が投げたコレかい?」
神威が黄色い槍をかざすと、セイバーは怪訝そうな顔をした。
たまたま拾ったその槍は、魔術を知らない神威からしても、いかにも魔力が込められていそうな禍々しい気が感じ取れた。
この槍に固執するだけの理由が、セイバーにはあるのだろう。
槍を弄びながら、神威は今まさに思いついたことを、さらりと口にする。
「よし、俺と君がこの島でもう一度会うことがあったら、そのときはこの槍を壊して戦うよ」
「なっ!?」
「嫌ならここで戦おう。俺はどっちでも構わないんだからさ」
この二択であれば、どちらにせよ神威は戦うことができる。
神威にとって、これ以上ない良い選択肢だ。
セイバーは厄介な相手に捕まったとでも言いたげに、苦い顔をしている。
やがて観念したとばかりに殺意を解くと、神威に背を向けた。それは、戦う意思がないということの証明だった。
そのまま車のドアを開けようとして、はたと手を止めた。
神威に振り向き、その全身を眺めると、納得したように息を吐いた。
「三つ編み……なるほどな。
私は日が暮れてから、DIOの館でDIOと会う約束をしている。貴様は戦闘を求めるのだろう?ならば、貴様も夜にそこに来い」
「へえ、あのDIOが人と約束をねぇ」
神威は愉快そうな声を上げた。
セイバーがDIOを知っていたこともそうだが、後に会う約束までしているとは予想外だった。
あの高慢なDIOが、戦闘をせずに他人と交渉事をするとは――とりあえず頭に留めておこうかな、と神威は思った。
そうしている間に、必要なことは述べたと言わんばかりに、セイバーは車のドアを開いた。
「あ、そうだ」
「ん?」
「槍の代わり。コレあげるよ」
そう言って、神威は黒いカードを投げて渡した。
神威へのランダム支給品、まだ詳しく確認もしていなかったそれを、無理な注文をしたセイバーへのお詫びにしたのだ。
セイバーはそれを見ると微妙な顔をしたが、それでも素直に懐にしまった。
「……では、DIOの館で」
「ああ、覚えておくよ」
そっけなく言って、セイバーは今度こそ車に乗り込んだ。
小さくなっていく車は、まっすぐ南へと向かって行く。
実際には流子を探しに行った可能性もあるが、そこまで気にしても仕方がない。
「さて、どうしたものかな」
もとより行き先は流子に任せるつもりであったから、神威は方針を決めていなかった。
殺し合いを楽しみ、最終的には主催者も殺す、という考えはあるものの、より具体的な方針があった方がよいだろうか。
神威は考えたが、良い案は浮かばない。
「ま、おいおい考えればいいか」
結局、特に方針は定めず、神威は朝の街並みを歩き出した。
そろそろ日傘を差したほうがいいだろうか、などと考えながら。
【C-6/市街地/一日目・朝】
【神威@銀魂】
[状態]:疲労(小)、胴体にダメージ(中)
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/30)、青カード(8/30)、電子辞書@現実
黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0~2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
0:さて、どうしようか。
1:本物の纏流子と戦いたい。
2:勇者の子(結城友奈)は面白い。
3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
4:DIO、セイバーとも次に出会ったら決着を着けたい。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
■
市街地を疾走するオープンカー。
魔力を大量に消費したセイバーは、法定速度を超えることなく車を走らせていた。
表情にどこか沈んだ空気を纏わせながら、ハンドルを握っている。
「曇っている、だと……?」
三つ編みの男、神威から言われたことを、セイバーは反芻した。
この殺し合いにおいて、騎士道というものを捨てた自分を言い当てられたような気がしていた。
「しかし、あの男はなぜそれが分かったのか……」
思い出されるのは、二本の槍を操るランサー・ディルムッドのことだ。
第四次聖杯戦争において、騎士道を同じくするものとして、最もセイバーと馬が合った英霊。
最後は聖杯に呪いを捧げて死んでいった男。
彼の槍を見てしまったことが、あるいは騎士道然とした戦闘をさせていたのかもしれない。
「くっ……」
セイバーは唇を噛んだ。覚悟を決めきれていないと告げられたようなものだった。
半端な気持ちで臨んでいるつもりはない、つもりはないが――。
結局のところ、騎士王として生きたセイバーは、騎士王以外の道を歩くことはできないのか。
弱気な考えが漏れそうになり、セイバーはハンドルを叩いた。
「それでも私は、優勝する……願いのために」
とにかく、時間を消費したこともある。
移動しながら今後の行き先を含めた方針を考えるべきだろう。
「それにしても、あの神威という男……ふざけた真似をしてくれた」
セイバーは治癒不可能の傷を抱えたまま、今後は戦闘を続けなければならないことに、一抹の不安を感じていた。
しかし、あの状況で神威と戦闘をしていれば、より苦境に立たされていたことは明白。
安全な道を選んだと言えばそれまでのことだ。
「ともかく、槍の呪いは確実に解かねばなるまい」
殺し合いが進めば、残るのは実力者のみとなるはず。
そのときのことを考えれば、ハンデを抱えているのは危険だ。
日が暮れたらDIOの館へ行かなければならない――期せずして、DIOとの約束を守る理由が増えたことになる。
ハンドルをきつく握りしめたセイバーは、ふと神威から渡された支給品を確認しようと考えた。
騎乗スキルのおかげで、片手運転もお手の物である。
空いた手で黒カードの詳細を読むと、そこにはセイバーの未知の単語があった。
「WIXOSS……?現代の遊戯らしいが……」
有益な支給品ではない可能性が高い、そう踏んだが、一応はものを取り出す。
出てきたのは箱のようなもの。更にそれを開封すると、束になったカードがあった。
そして、妖精を思わせる一枚のカードから、セイバーは魔力を感知した。
「私は花代。あなたは……セレクタ―なの?」
じっと見つめていると、不意に妖精が口を開いた。
しゃべるカードと未知の用語に動揺して、流石のセイバーも車を停止させた。
「――セレクター?」
「そう、セレクター。他のセレクターとバトルして勝ち続けることで、願いを叶えることができる存在」
“願いを叶える”――その言葉を聞いて、反応しないはずもない。
セイバーはカードに顔を近づけると、強い語調でこう言った。
「詳しく聴かせて貰おうか」
【C-6/市街地/一日目・朝】
【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(極大)、左肩に治癒不可能な傷
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero、蟇郡苛の車@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
0:願いを叶えるというWIXOSSに興味。花代から話を聞く。
1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣、ジョースター一行には警戒。
5:銀時、桂、コロナ、神威と会った場合、状況判断だが積極的に手出しはしない。
6:銀時から『無毀なる湖光(アロンダイト)』を回収したい。
7:ヴァニラ・アイスとホル・ホースに会った時、DIOの伝言を伝えるか、それともDIOの戦力を削いでおくか……
8:いずれ神威と再び出会い、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』を破壊しなければならない。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
※DIOとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※魔力で車をコーティングすることで強度を上げることができます。
※左肩の傷は、必滅の黄薔薇@Fate/Zeroが壊れることによって治癒が可能になります。
■
セイバーに圧倒的な敗北を喫した纏流子は、波打ち際に横たわっていた。
傷だらけのその姿は、道端に捨てられた服のようにも見える。
彼女が目覚めたときに何を思うのか。
それはまだ、誰も知らない。
【C-5/海岸近く/一日目・朝】
【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、顔が若干腫れている、気絶
[服装]:神衣純潔@キルラキル、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(19/20) 、黒カード1枚(武器とは判断できない)
黒カード:神衣純潔@キルラキル 黒カード:使用済み。不明支給品1枚(回収品)
[思考・行動]
基本方針:???
0:気絶中。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※満艦飾マコと自分に関する記憶が完全に戻り、洗脳が不安定な状態になりました。
【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)@Fate/Zero】
間桐雁夜に支給。
第四次聖杯戦争におけるランサーの宝具の一つ。黄色の短槍。
いかなる治癒や再生でも回復できない傷を与える。
本来、この槍により付けられた傷は、ランサーが死ぬか、この宝具を破壊するかによってしか癒えない。
ただし、本ロワでは、宝具を破壊することによってのみ治癒可能になる。
【レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
神威に支給。
紅林遊月のルリグ・花代が収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は頭に花飾りをつけた、お姫様然とした長髪の少女。
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最終更新:2016年02月05日 00:35