GRAND BATTLE ◆gsq46R5/OE
響くは鋼の旋律、散るは鮮やかなる火花。
サーヴァントと人間が刃を打ち合わすという、本来あり得ざる光景が城下の地にて繰り広げられていた。
攻めるは僧衣の神父――その内に冒涜の本性を秘めたままの求道者。
唯でさえ人間離れした身体能力を強引に増強したことで、今の彼は怪物めいたポテンシャルを発揮している。
対し、それを迎え撃つのは誉れも高き騎士王アーサー……もといアルトリア・ペンドラゴン。
堕ちた騎士の聖剣は未だ全霊を発揮できずにいるが、それでも彼我の戦力差は圧倒的なものがあった。
今の綺礼は、彼らしからぬ勢いで
セイバーに対し攻め手を連打している。
それは考え無しの行動ではなく、彼が義憤の念に突き動かされているという訳でもない。
宝具、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)。
片割れを失い、駆り手たる征服王を失っていることを加味しても近代兵器級の破壊力を持つ宝具である猛牛を、先刻この騎士王は事も無げに斬首してのけた。
負傷など一切ナシに、だ。
そんな相手を攻める側に回すような恐ろしい賭けを、綺礼はしたいとは思わない。
ではどうするか。答えは、攻めに回る隙を与えないという単純明快な結論へと帰結する。
綺礼の僧衣は銃弾程度であれば易々止める戦闘服も同然の強度を持つが、騎士王の一刀の前にはまず間違いなく無力だろう。
あちらにしてみれば人間の拳など、一撃二撃貰った程度はどうということもないのだろうが、あくまで神秘の通わない人間である綺礼はその逆だ。
ただの一撃、下手をすればかすり傷でさえ致命傷になり得る。サーヴァントと人間の間に存在する力の格差は、それほどまでに広く絶望的なものなのである。
攻撃を加え続け、相手を防御に徹させる。とはいえ綺礼の鍛え抜かれた拳は、今のセイバーにとっても無視できる威力ではない。
この島で行われているのは殺し合い(バトル・ロワイアル)であって、聖杯戦争ではない。
その事実こそが皮肉にも、今の綺礼にとって最大の追い風として機能していた。
神秘の通わない攻撃は、サーヴァントに通じない。
聖杯戦争についての知識を少しでも持つ者なら誰もが知っている常識だ。
この性質があるからサーヴァントには近代兵器の飽和火力攻撃は通じないし、徒手空拳など本来以ての外。
しかしこれでは、当然殺し合いのゲームとしてはアンフェアが過ぎる。
力の持たない一般人がサーヴァントを倒したければ、どうにかしてサーヴァント同士を潰し合わせるしかないというのだ。これではあんまりな話だろう。
そこに配慮してか、この殺し合いにおいては如何なる理屈を用いたのか知らないが、サーヴァントの霊的防御と呼ぶべき機能がほとんど完全に取り払われていた。
目の前の騎士王は確かにセイバーのサーヴァントだが、今の彼女は銃でも殺せる、爆弾でも殺せる。極論を言えば、錆びて使い物にならないナイフでも、突き立てることさえ出来れば殺害することが可能だ。
とはいえ、だからといって彼らが弱者の側に立たされたのかというと決してそんなことはない。
人外の膂力や恐るべき肉体性能、宝具の脅威も健在だ。攻撃が通じるようになったからといって、やはり普通の人間が相手取るには些か手に余る。
そのことは、
言峰綺礼ほどの男をしてほとんど死線ギリギリの戦いを強いられていることから窺い知れよう。
ただ、それでも勝機はゼロではない。
綺礼の振るうアゾット剣が、肉体に染み込ませてきた功夫(クンフー)のスキルが、双方共に騎士王を殺害できる可能性を有している。……後は如何にして、『詰め』の段階にまで導くか。それが出来なければ、綺礼は予定調和のように不可視の聖剣に斬り伏せられてお終いだ。
アゾット剣を袈裟懸けに振るう綺礼に、セイバーは眉一つ動かさずに剣を合わせて対処する。
これは、綺礼にとって完全に予想通りの流れだった。
セイバーも持ち前の直感力でそれを察知し、速やかにその敏捷性を最大限発揮した回避へと移行する。
次の瞬間、轟然と振り上げられた綺礼の左端脚が、コンマ数秒前までセイバーの頭があった場所を砲弾の如く通過した。
英霊の彼女をして息を呑むほどの一撃。現代に生きる格闘家の中でも、綺礼の技は破格の域だ。
霊的防御の活きている状態ならばともかく、矮化した状態のサーヴァントであれば、直撃は十分痛打になり得る。
セイバーはバックステップで距離を取る。それを追うように、綺礼が今度は反対の脚で回し蹴りを放った。
次に驚かされるのは綺礼の番だ。
後退動作の終了とほぼ同時に着弾する筈の蹴撃が、さも当然のように頭を僅かに反らすだけの動作で回避される。
デタラメとしか言いようのない反射神経に、さしもの綺礼も舌を巻いた。
そして、その驚嘆は攻めに徹していた綺礼にとって致命的ともいえる隙に繋がる。
セイバーは最高峰の拳士にすら優るだろう瞬速で綺礼の下へと吶喊し、見えざる剣を振り被った。
どうにか防御だけは取れたものの、受け止めたアゾット剣越しに腕が軋むほどの威力だ。
それどころか、アゾット剣自体がミシミシと嫌な音を立ててすらいる。
このまま圧し切られる事態だけは避けたい綺礼は、先のセイバーの動きを真似るかのように後退を図った。
だが。
「――ッ」
綺礼が逃げる側に立たされた以上、必然、追う側は恐るべき騎士王以外に有り得ない。
そして流石の綺礼でも、あの超人的な動作を真似て完全に彼女の攻撃を回避するというのは不可能だった。
意識が、
紅林遊月から受け継いだ令呪へと注がれる。これを使い、瞬間的なブーストを行うのが最善手なのは明白だ。
されど、これは綺礼にとっての虎の子――文字通りの切り札である。そう易々切るのは避けたい。
しかし、躊躇っていれば此処で命そのものが尽きてしまう。致し方ないか、と綺礼が令呪を発動させかけた、その時。
「盛り上がってるとこ悪いが……てめーの相手はそいつだけじゃあねえぜ」
真横から、超高速の拳がセイバーを襲った。
咄嗟に彼女は足を止め、剣をそちらへと向けることで対処に成功したが、その顔には苦渋の色が滲んでいる。
「傷は大丈夫なのか」
「これが大丈夫に見えるか、言峰」
「……愚問だったな」
「そういうことだ。だから、とっととこの女をブチのめすぞ」
乱入者――
空条承太郎の肩の裂傷は止血されておらず、時間経過と共に彼を消耗させていく。
普通なら綺礼に任せて退くべき場面だが、そうするつもりはないと彼の力強い眼差しが告げていた。
綺礼と承太郎はまだ一日も共に過ごしていない間柄だ。
それでも綺礼は、この空条承太郎という男がこういう場面で退かない人物だと強く理解していた。
彼がその気ならば、止める理由はない。綺礼はすぐに会話を打ち切り、眼前のサーヴァントへと意識を再度向ける。
あの奇襲ですら、彼女は不覚を取らなかった。やはり手強い――彼女はこの会場で、間違いなく最強クラスの脅威だ。
「何人増えようと――」
セイバーが動いた瞬間に、承太郎のスタープラチナが「オラァ!」という威勢の良い雄叫びと共に拳を打ち込む。
それは彼女の肩を僅かに掠めたが、直撃には至らなかった。
そして次の瞬間には、セイバーは綺礼を狙って刃を振るっている。
速度では承太郎が一番厄介だが、攻撃の威力ならば綺礼だ。
サーヴァントの性質が弱体化している以上、最も火力の高い敵から斃していくべきだと彼女は判断した。
「――同じことです」
サーヴァントとしての基礎性能の高さが、今のセイバーを支える最大の強みだった。
何しろ彼女の弱体化は、非神秘攻撃への防御を失っただけには留まらない。
今も左肩を苛み続ける癒えない刺傷――かつて『輝く貌』と呼ばれる騎士が振るっていた、呪いの黄槍による外傷。
かの黄槍が健在である限り癒えを知らないこの傷がある限り、セイバーは切り札たる聖剣の真名解放を使えない。
故に、今の彼女はサーヴァントとしての性能、膨大な戦闘経験に裏打ちされた騎士としての強さで目の前の二人に対処することを余儀なくされていた。
……そんな有様でもこの強さというのは、流石に最優の英霊というべきであろう。
避けたと確信していた綺礼に、駄目押しの『もう一歩』で強引に剣閃を命中させる。
しかし入りが浅い。与えられた損害は胸板を僅かに切り裂いただけに留まり、致命傷には程遠かった。
ぐ、と小さく呻く綺礼は、切り裂かれて血の滲み出る僧衣を抑えるような隙は晒さない。
返す刀で再び破滅的な威力の蹴り上げを放ち、アゾット剣の刺突で以って着実に傷を与えにかかる。
それすらも余裕を持って避けてのけるセイバーだが、何も綺礼は無策で手足を振るっていた訳ではない。
「な……」
セイバーが確保した筈の距離。拳士相手なら十分に安全圏である筈のそれが、一瞬にして脅かされた。
予備動作も何もなしに、綺礼は殆ど地面を滑るような動きで取られた距離を奪い返したのである。
八極拳において『活歩』と呼ばれる技術。
ただし決して容易く会得できるそれではなく、拳の世界でも秘門と称される離れ業だ。
(……拙いッ!)
この後に起こる事態を、セイバーは瞬時に予見して行動に打って出た。
それは一見すると闇雲に剣を前方へ振るっただけに見えるが、れっきとした彼女の講じられる最善策に他ならない。
事実綺礼は、その牽制によって動作の停滞を余儀なくされた。彼はこれからセイバーの懐まで潜り込み、最適の間合いから必殺の一撃を放つ算段だったのだ。
普通の人間や魔術師が相手なら綺礼は防御しながらでも強行突破を図ったろうが、宝具を握ったサーヴァントが相手となるとそれは途端に自殺行為に早変りする。
落下してくるギロチンを素手で受け止めるようなものだ。あまりにもリスクが高すぎる。
無論、綺礼も只では起きない。
結果がどうあれ、セイバーが今の一手に対して多かれ少なかれ動揺したのは事実なのだ。
勝負を決めることは出来ずとも、この好機は逃せない。勝利を望むならば、絶対に。
不可視の剣が通り抜けたのを空気を通じて伝わってくる圧から感じ取り、やや遠い位置からの正拳突きを放つ。
――それは見事にセイバーの胸へと吸い込まれ、彼女の鎧を凹ませ、内の肉体に少なくないダメージを与えた。
スタープラチナの拳を受けた時以上の衝撃に、セイバーは目を見開いて胃液を吐き出しその場を飛び退く。
そこに間髪入れず押し寄せるのが、今比較対象としたスタープラチナの猛打だった。
受け止める分には容易いが、必然として隙を生んでしまうのが厄介過ぎる。
承太郎の加勢で形勢は逆転し、セイバーが押され始めていた。
「だが……甘すぎる!」
「なに……!?」
それでも、これだけのことで人間が押し切れるようであれば、彼女は最優の英霊などと呼ばれてはいない。
風王結界(インビジブル・エア)――聖剣の刀身を隠す風の鞘が、その波長を大きく変容させていく。
その末に振り下ろされる衝撃から、ほぼ同時に追撃を選択したスタープラチナと綺礼は逃れられなかった。
「爆ぜよ、『風王鉄槌(ストライク・エア)』ッ!!」
纏わせた風の鞘を解放するや否や、荒れ狂う暴風が解き放たれる。
それを一度きりの飛び道具として利用することこそ、宝具『風王結界』の応用系、『風王鉄槌』だ。
聖剣を隠す鞘に収束していた風の量は相当なもので、たかが風と馬鹿にできる域を過ぎている。
風の炸裂と同時に、スタープラチナも綺礼も、ほぼノーバウンドに近い猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
「が……ッ!」
「……チッ」
スタンドの受けたダメージは、本体に例外なくフィードバックする。
スタープラチナの本体である承太郎も衝撃に晒されるのを免れず、痛む体に更に鞭を打たれた。
綺礼はその場に踏み止まって耐えようとしたが、彼ですら一秒耐久するのが限界だった。
若き日の言峰綺礼の超人ぶりを知る者であれば、この時点で風王鉄槌の凄まじさを正しく理解出来よう。
そして風の直撃は、被弾者に攻めも守りも放棄させる。
セイバーが軽やかに地面を蹴り、向かうのはやはり綺礼の下だ。
「させねえッ!!」
何としてでも足を止めさせようと奮闘する承太郎だが、セイバーは何と走りながらスタープラチナの拳に対処している。
露わになった黄金の刀身を必要最小限の動作だけ動かして、数多くのスタンド使いを叩きのめしてきたスタンドのラッシュを事も無げに捌いている。
承太郎をして、恐ろしい女だと痛感させられた。これでも力をかなり削がれた状態だなんて、悪い冗談にしか思えない。
一方のセイバーも、しかし易々と承太郎のスタープラチナへ対処しているというわけではなかった。
普段の彼女ならばいざ知らず、今のセイバーは左肩に大きな傷を負っている。
少し動かしただけで激痛が走り、動作を阻害してくるこれに配慮しつつスタープラチナの超高速に対応するのは、如何に伝説の騎士王でも並大抵のことではない。
彼女の持つ『直感』スキルをフルに活用して、それでどうにか食い繋ぎながら進撃出来ている。
「言峰ッ!!」
自分では止め切れないと判断した承太郎は、綺礼へと声を張り上げる。
綺礼はそれに頷きを一つだけ返すと、先の『活歩』を応用。
後方へと高速で移動し、セイバーとの距離を確保する。
だがそれも、セイバーにしてみれば取るに足らない小癪な逃げ策でしかない。
スタープラチナの拳を力づくで振り払い、拳の乱打が緩んだ瞬間に加速を開始。
綺礼への距離を一気に詰めつつ、彼に一閃を打ち込まんとする。
綺礼はそんなセイバーを見て、最初こそ苦い顔をしていたが――息を一度吐いてから、何と彼は地面を蹴った。
それは前方への加速を意味する。もはや誰の目から見ても明らかな自殺行為だが、しかし綺礼にはある勝算があった。
空を切り裂いて振るわれる黄金の剣。
それを受けた瞬間、綺礼をこれまで支えていたアゾット剣が遂に限界を迎えて砕け散る。
最初に短剣が軋んだ瞬間、僅かに身を後ろへ移動させていた綺礼の判断は正しかった。
彼がそうしていなければ、今頃はアゾット剣諸共斬り伏せられていた筈だ。
自身の生存を確定させた綺礼は急に足を組み替え、そのまま騎士王の脚部へと絡めるように潜り込ませた。
内側から絡み付くそれは『鎖歩』と呼ばれる足さばきだ。足払いと一言で表現するのは簡単だが、極致に達した拳士が繰り出すとなればその効果は絶大になる。
セイバーは転倒にこそ至らなかったものの、それでも確実に保っていたバランス感覚を乱された。
立て直す間も与えず繰り出される綺礼の正拳が、吸い込まれるようにしてセイバーの腹部を抉る。
「……承太郎!」
「ああ」
数メートルの不本意な移動を余儀なくされたセイバーに、追い討ちのように拳を放つのはスタープラチナだ。
一撃一撃では綺礼のそれに及ばないが、それでも無視できる威力ではなく、何より速さでは綺礼すら追随出来ない。
万全の状態のセイバーには動体視力と直感で凌がれるだろうが、ならばそれが機能しない場面を選ぶのみ。それが、空条承太郎の回答だった。
そして事実、その戦法は一定の成果を上げていた。
セイバーの鎧は所々が凹み、衝撃が内部にまで伝わったのか彼女は口元から一滴の血を零している。
風王鉄槌は既に切れ、再使用が可能となるまでにはまだまだ風を集める必要がある。つまり、この戦闘中にもう一度あの暴風を吹かせるのは難しい。
人間二人と英霊一騎。
そこに圧倒的な戦力差が存在することを鑑みれば、承太郎と綺礼の戦線は、極めて優れていると言わざるを得まい。
他ならぬセイバーも、彼らの優秀さを認めていた。
戦場を知る者だからこそ分かる、見事としか言いようのない連携。
綺礼の判断力と技巧は驚嘆に値するし、承太郎の観察眼は侮れないものがある。
負わされたダメージの量も決して少なくはない――おまけに黄槍の呪いだ。
分はやや悪い。だが、それでも、セイバーはまだ倒れない。倒れるには程遠いだけの体力・余力を残している。
体勢を立て直した彼女の翡翠の瞳が、承太郎と綺礼を交互に一瞥した。
それから彼女は静かに、大きく息を吸い込むと、……吐く動作と共に、再び攻撃へと移ってくる。
――今度の一歩は、先程見せたそれよりも更に力強く、俊敏なものだった。
なまじセイバーの見目が麗しい為か、傍目から見ればどちらが善でどちらが悪か分かったものではない。
綺礼はアゾット剣を失ったことで、もう彼女の聖剣を止める道具を有してすらいない。
徒手空拳を主要な武器とする彼にとって剣として見た場合のアゾット剣の喪失は然程痛くなかったが、盾として見た場合、アゾット剣を失うのは痛すぎた。
何しろセイバーの剣を止める手段がないのだから、これから綺礼は彼女の攻撃をほぼ全て回避しなければならない。
受け止めて、そこから返し手を打つという安定した流れに頼ることが不可能になってしまった。
先の攻防は綺礼と承太郎が勝利を収めたように見えたが、そういう意味ではセイバーも只で押し負けた訳ではないと言えよう。後々の戦いに響く度合いであれば、彼女の方が大きなアドバンテージを稼いだとすらいえるかもしれない。
鎖歩による足場崩しも、二度は通じまい。どう対処するか――黙考の末に綺礼の出した結論は、仲間の援護を貰うことであった。
綺礼と承太郎の視線が重なる。
それで言わんとすることを理解した承太郎は、スタープラチナを二人の間に割って入らせた。
「オラオラオラオラオラ――グッ!?」
同じ手は二度食わんと、怜悧に告げられた気分だった。
セイバーはスタープラチナが放つ初撃の拳を直感で見切り、歩幅を右にずらして回避。
そのまますれ違いざまにスタープラチナの左腕に聖剣の切っ先を這わせながら、悠々と突破してのけたのだ。
承太郎の左腕に、一筋の裂傷が生まれる。走る鋭い激痛を噛み潰し、承太郎は自身のスタンドにセイバーの背中を追わせた。
迫る高速の拳を、しかし察知できないセイバーではない。
綺礼に接近するなり今度は迂回するように彼を避け、その背後へと回り込む。
スタープラチナが追い付いてくるまでの時間はあって数秒だが、それだけでも彼女にしてみれば十分だ。
振り返りざまに手元を狂わさんと綺礼が繰り出す小技を難なく刀身で対処し、超至近距離からの刺突で彼の脇腹を刺し貫く。急所を外したのは、セイバーが手温かった訳でも何でもなく、純粋に綺礼の手際だ。ダメージを受けるのは不可避と判断するや否や、どうすれば最低限に止められるかを考え、行動した結果である。
結果として綺礼は命までは奪われなかったが、セイバーがごく近くに居ることには未だ変わりない。
彼女は仕留め損ねたと判断するなり刃を引き、今度は綺礼の首を刎ねるべく喉元へと乾坤一擲の勢いで突き出した。
対処不能。即座に、綺礼はそう判断する。
瞬間、彼の右腕に刻まれた――譲り受けた令呪が真っ赤に感光した。
反射神経強化、脚力増加、瞬発力の向上――刹那の一瞬で綺礼の力が人間以上の域へとブーストされる。
セイバーの突きを、強化された動体視力は確かに捉えていた。後はそれから逃れるように動くまでだ。
「……二画目ですね」
最初は驚いたが、二度目ともなれば驚きはしない。
むしろセイバーは、綺礼に残された打開策の残数を把握し、戦況を詰めの方へ運ばんとすらしていた。
言峰綺礼はそもそも正当な魔術師ではなく、故に魔術回路の開発を十分とは言い難い。
そこで普段は付け焼き刃の魔術を行使する為に、父の言峰璃正から賜った予備令呪を転用することで魔力源としている。
だが、今の綺礼に予備令呪なんてものはない。
令呪が支給品となっている時点で推して知れる話だが、繭によって没収されていた。
もしも万全な備えがあったなら、戦況はもっと好調なものになっていたことだろう。
これまで、既に二画の令呪を切らされた。
残りの令呪は一画。そしてブーストをした身体能力でも、セイバーの方がまだ上を行っている。
そして最後の令呪も、この調子ではそう長く温存は出来ない筈だと綺礼は踏んでいた。
どのくらいで切らされるかは分からないが、少なくとも全部残してセイバーを打破できる可能性は絶無だ。
全力を費やし、使える全てを使い、それでも倒せるかどうか。
サーヴァントと人間が戦うということの意味を、綺礼は腹の疼くような痛みに講義されている気分だった。
「オラァ!」
「ちッ――」
助け舟のように、スタープラチナの拳がセイバーの追撃を阻害する。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
鍔迫り合いと呼んでいいのかは微妙な所だが、セイバーの状況次第では、やはりスタープラチナの手数は有用だ。
銃弾ですら見てから掴み取ることの出来る反射神経、対応速度を持つ拳。
仮にセイバーが直感という厄介なスキルを持っていなかったなら、これで押し切ることさえ出来たかもしれない。
拳を止めながらセイバーは苦い顔をする。しかしそれは、承太郎も同じだ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
これだけの勢いでスタープラチナを打ち込んでいるというのに、刀身が軋む気配すらない。
一体何で出来てやがるんだと、毒の一つも吐きたくなる思いだった。
それもその筈、サーヴァントの宝具とは尊き幻想(ノウブル・ファンタズム)……固有化した神秘の具現。
最強クラスの近距離火力を持つスタープラチナとはいえ、そう易々と破壊できるものでは断じてないのだ。
まして、今承太郎が相手にしているのは騎士王の聖剣――世界で最も有名と言っても過言ではない刀剣、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と来ている。
スタープラチナがどれだけ激しく拳を打ち込もうが、この聖剣を破壊することはまず不可能に違いない。
承太郎も早い内にそれを悟ったのか、武器を破壊しようとはもはや考えず、防御の隙間を縫ってセイバー本人を狙う方針へとシフトしていた。
セイバーはそれに対応できてはいるが、流石に全てを余すところなく迎撃できている訳ではなかった。
その端正な顔にはかすり傷が幾つか走っているし、鎧にも擦れ、摩耗したような傷痕がかなりの数生まれている。
それでも、承太郎とスタープラチナを相手にこれだけの損害に止めているのは十分異常と言うべきだろう。
されど、そこに令呪で強化を掛け直した綺礼が参入するとなれば流石のセイバーも危機感を覚える。
意趣返しのように彼が背後へ回り込むのを確認するや否や、セイバーはあろうことかその場で跳躍を試みた。
予期せぬ行動に、承太郎も綺礼も完全に虚を突かれる。
攻撃の手が緩んだのを見計らい、セイバーはスタープラチナの腕を踏み台に更に跳躍。挟撃の状況を打破する。
「……デタラメだな」
「それがサーヴァントだ。あれでも見たところ、今のセイバーは力を半分は削がれている」
宝具の真名解放に左肩の傷、風王結界の解放を終えたことによる間合いの可視化。当然、風王鉄槌は使用不能。
神秘を宿さない攻撃をシャットアウトする機能も失っているのだから、五割の力を削がれているという綺礼の弁はそれなりに的を射ている。
恐るべきは、そんな状態でもこの強さということ。
彼女がもしも肩を潰されていない、健康体で現れていたらと考えると承太郎でさえゾッとするものがあった。
「構えな、言峰。奴さんの狙いはてめーみてえだからよ」
「分かっている」
セイバーの狙いは終始一貫して言峰だ。あくまで戦力の要を先に落とす。その方針は此処に至るまで一切ブレていない。
そこもまた厄介な点の一つだった。もしもセイバーが承太郎の方に目移りしてくれるなら、その分決め手となる綺礼の攻撃がヒットさせやすくなる。
延々綺礼だけを集中的に狙われては、戦線が崩壊に近付いていくだけだ。事実彼女に狙われ続けた結果、彼の奥の手は既にあと一回しか使えない有様である。
令呪によるブーストは、先の一瞬を見れば解るように、完全に"詰んだ"状況でさえ覆すことが出来る反則技だ。
謂わば身の丈に合わない戦いをする上での保険のようなもの。
だが、これを回避手段として使っているようでは、セイバーを討つことは難しいと言峰は考えていた。
戦闘手段として使う上での令呪は、言ってしまえばジェットエンジンのようなものだ。ジェット加速した乗り物を壁にぶつければ多大な破壊力を生むように、令呪で身体能力を強化した攻撃を打ち込むことさえ出来たなら、あのセイバーにとて戦闘不能級のダメージを与えることは可能だろう。
そして決め手とするに相応しい技にも、綺礼は覚えがある。少なくとも対人戦であれば、確実に相手を昇天させることが出来るレベルの大技だ。
後は、それを如何にして決めるか。如何にして、決められるだけの隙を作り出すかだ。
「――来るぞ!」
承太郎が叫ぶ。
既に構えは終えている。綺礼は努めて冷静に、迫る騎士王を睥睨する。
振るわれる一閃を、どこぞのSF映画のような超人的な動きで身を反らせて回避。
セイバーが振り抜いたのを確信して、体勢を強引に引き戻し、蹴り上げを彼女の胸元に打ち込んで後退させる。
虚無的な求道者である綺礼の肉体スペックをもってすれば、型のほぼ取れていない攻撃でも、十分に脅威的な威力を叩き出すことが可能だ。
現に受けたセイバーは顔を顰めながら、足だけでは衝撃を殺し切れずにたたらを踏んだ。
「ふ……ッ!」
「く……!」
すかさず一歩を詰め、拳での攻撃へ移る綺礼。
砲弾めいた拳をセイバーは刀身で防ぎ、彼の拳からは血が滴るが、それしきの痛みで止まるほど軟な男ではない。
防御した隙を見逃さず、一度は見切られた筈の足払いを放つ。
セイバーほどの剣士であろうと、タイミングさえ熟慮すれば、一度見せた不意討ちは十分に機能してくれる。
仮に直感のスキルで察知されようが、反応することそのものが命取りになる状況を作ってやればいいのだ。
例えば今などは、足元の攻撃に対処して飛び退こうものなら、確実にその一瞬を狙った承太郎の乱打を受ける事になる。
結果としてセイバーは、足元を黙って崩されるという最善手を甘受するしかない。
言うまでもなく、それはセイバーを有利にはしない。
崩れた体勢諸共地面にセイバーを縫い止めんと、綺礼の脚が落ちてくる。
まるで断頭台のようだと、彼女がそんな感想を抱いたのも無理のないことだろう。
しかしセイバーも負けてはいない。頭だけを横へ倒すことで損害を髪の数本に留め、一気に姿勢を元へ戻していく。
「……だが、まだだ」
彼女が攻撃に移る前に、綺礼の鉄拳がその胴を直撃する。
この戦いが始まってから、最も良い入りであった。
もしも使い手が綺礼でなかったなら、思わず自賛してしまいかねないほどのクリーンヒットだ。
「オラオラオラオラ!!」
その好機を、空条承太郎は見逃さない。
出現したスタンドが、真横からセイバーにラッシュを叩き付ける。
セイバーの顔に赤いアザが生まれ、その口元から一筋の血が滴り落ちた。
「承太郎、退かせろッ!」
「……分かってるぜ」
スタープラチナが撤退を選んだ瞬間、スタンドの首筋があった場所を、騎士王の凶刃が通り過ぎていた。
セイバーは苦渋の表情を浮かべながら舌打ちをし、口の中に溜まった血混じりの唾を吐き出す。
今の連携が彼女に無視できない量のダメージを与えたのは、その様子を見るだけでも明白であった。
されど、もはやセイバーは後退を選ばない。
彼女が後ろに下がることは、基本性能の差で遅れを取る綺礼と承太郎にも例外なく立て直しの暇を与えるということだ。
戦況を転ばせたいセイバーよりも、転ばされる側である筈の綺礼達の方がその行動から被る恩恵が大きい。そう判断しての、戦闘スタイルの変更だった。
そしてこれは、綺礼達にとって非常に都合が悪い。
毎度少し戦っては仕切り直しを繰り返すのであれば、その都度戦況を事実上リセットして戦いに臨むことが出来る。
だが一切の撤退なく延々と攻めの間合いに居座られては、立て直しに掛かるのは困難だ。サーヴァントであるセイバーが戦場から離脱するのと、腐っても人間である綺礼達が戦場から離脱するのとでは難易度が違いすぎる。まず、殺す気の騎士王から逃げ切るのは不可能である。
セイバーが再度踏み込んでから、間もなく危惧は現実のものとなった。
セイバーが攻める。
綺礼はそれを可能な限り躱すか掠り傷に留めつつ、合間を縫って攻撃を仕掛けていく。
それでも騎士王は退かない。どっしりと構えて綺礼の反撃にも対処しつつ、少しずつ流れを自分のものにしていく。
一度は先の一撃にも匹敵する当たりを生んだが、騎士王は顔を歪めただけで、やはり不動のままだった。
見かねた承太郎がスタープラチナで援護を試みるも、それにすら並行して対応して来るのだから性質が悪い。
化け物め、と承太郎は思わず奥歯を噛み締める。これまで目にしたどんなスタンドよりも、目の前のサーヴァントという敵対者は恐るべき強敵だ。
普通の人間ならば、とっくに心が折れている。承太郎と綺礼だから、挫けずに勝機を探り続けることが出来ているのだ。
それでも戦況は依然、絶望的――細やかな当たりを入れることは出来ても、決定打が生み出せない。その時点で、セイバーの打倒は非常に遠い話だった。
「……づ」
綺礼が、苦悶の呻きを漏らす。
見れば先程セイバーに貫かれた脇腹から、どくどくと血が溢れ出していた。
当初は大した傷ではないと思っていたし、事実そうであったのだろうが、激しい戦闘を続けている中で傷が広げられ、無視できない負傷に変わってしまったのだ。
無論、そんな事情を斟酌するセイバーではない。
手負いの人間相手だからと刃を鈍らせる甘さが彼女に残っていたなら、この期に及んで尚も殺戮者の立場に立っていること自体そもそもあり得まい。
一瞬傷口に意識を向けた綺礼に、その無沙汰を指摘するようにセイバーの剣戟が飛んだ。対応自体は出来たものの、彼の胴に袈裟懸けの裂傷が生まれる。
傷自体は浅い。それでも、ダメージは決して皆無じゃない。日常を生きている一般人にしてみれば、十分大きな傷と呼べる痛手だ。言峰綺礼が如何に超人であれど、元を辿れば心臓一つの人間一人。一つ一つの傷は、確実に彼という一個の生命に罅を入れ、それを広げていっている。
スタープラチナの鋭拳が、セイバーの頭部を横殴りにする。
ぐらりという意識の蹌踉めきは彼女を苛み、その頭から出血すらさせたが、翡翠の眼光に緩みはない。
スタープラチナの追撃を一発残さず阻み、巧みな足さばきで位置を調整しスタンドのラッシュに対処。
優先して落とすと決めた言峰綺礼をあと一歩追い詰め、詰ませることだけに意識を集中させる。
こうなっては、如何に承太郎といえども苦しいものがあった。メインの戦力として活躍している綺礼に戦いの趨勢を委ねねばならないことに彼は苦渋の念を抱く。
――サーヴァントと人間が戦うとは、つまりこういうことだ。
前提からして性能が違う。それを数と連携で埋めた所で、無双の英霊達はそれを力尽くで覆すことが出来る。
半分ほどの力と利を削がれていても、だ。世界に召し上げられた英霊は、決して生易しい存在ではない。
まして彼女は最優の英霊。かの円卓の騎士を統率した、聖剣の騎士王なのだから。
こういう戦況になることは、至極当然のことであると言えよう。ヒトと英霊の力関係はいつだって変わらない。
そしてそれを証明するように、決定的な瞬間はやって来る。
言峰綺礼。
空条承太郎。
双方が同時に、不味い、と察知した。
セイバー、アルトリア・ペンドラゴン。
彼女は対照的に、獲った、と冷淡に認識した。
手負いの身でセイバーの斬撃を捌いていく綺礼の動きが、一瞬狂う。
一度は貫かれた脇の傷が、出血とは別に、強烈な激痛を訴えかけてきたのだ。
戦いの世界において、痛みというのは決して無視できるものではない。
どんな武道の達人であれ、僅かな痛みで技の精度が狂い、敗北に追い込まれるという例はごまんとある。
ましてそれが、決して過つことの出来ない緊張した場面であれば尚更だ。
不意の痛みは容易に体勢を狂わせ、致命的な隙を生み、拳士を絶望の底へと引きずり落とす。
回避動作の完了がほんの僅か遅れた。
たったそれだけのアクシデントでも、相手が武芸に秀でた英霊ともなれば立派な敗因に変わる。
綺礼はそう理解していたし、この瞬間、それを身を以て思い知らされることになった。
「――終わりです」
超至近距離から振るわれる、鞘の戒めを解いた黄金の聖剣。
勝利の光を放たずとも、その斬れ味が超絶のものであることは語るに及ばない。
担い手は世界最高峰の騎士。綺礼は確信する、これは詰みだ。将棋で言えば、王の全方位を金が囲んでいるようなもの。
「言峰!!」
承太郎の声が、どこか遠く聞こえる。
言峰綺礼の全神経が今、この状況を打破することに全霊を注いでいた。
しかし、対処の手段など考えるまでもない。一つを除いて、綺礼が生存できる目は存在しない。
即ち、最後の令呪による瞬間加速だ。それを使えば、理論上はセイバーの一閃を躱し、反撃することが出来るだろう。
だが――……綺礼は、今死線に立たされている者のそれとは思えないほど静かな瞳で、一瞬考える。
実際の時間に換算すれば一秒にも満たない、生存手段の模索。その末に、彼は言葉もなく結論を下した。
紅林遊月から受け取った令呪、その最後の一画が感光する。
奇しくも宿敵、
衛宮切嗣が得意としていた魔術のように、使用と同時に世界が変わる錯覚をすら綺礼は覚えた。
これも、もう慣れた感覚だ。三度目ともなれば、新鮮さも失せる。
強化された肉体を、脳の血管が切れるのではないかと思うほどの集中状態で駆動させ、強引に騎士王の攻撃を避ける。
しかし反撃に打って出るよりも早く、騎士王の口元が動いた。
笑みは浮かべない。会心の笑みなど、この誉れなき戦いには似合わないからだ。
ただ、円卓の主は静かに呟く。
綺礼の予想通りの言葉を。令呪を切る前の一瞬の時間で、綺礼が思い浮かべた最悪の事態を、容易く引き起こしてくる。
「甘い」
令呪による瞬間強化は、人間の綺礼にしてみれば切り札に等しい反則手だ。
されどそれは、あくまで人間の視点で考えた場合の話。
三騎士クラスの優れたサーヴァントにしてみれば、驚きこそすれど、決して対処不能な反則技ではない。
綺礼が令呪による強化に慣れたように、それを二度と見てきたセイバーも、何ら驚きはしなかった。
それどころか、読んですらいた。こう追い詰めれば必ず令呪を使ってくると、そう踏んだ上で彼女は斬り込んだのだ。
そこで、相手は予想通りの行動をしてきた。そうなれば、セイバーに取っては最早好都合。
令呪による回避という反則を前提にした返し手で、綺礼がやっとの思いで確保した間合いを一瞬で詰める。
持てる敏捷性の優位を最大限に活かしたそれにも、綺礼は果敢に対抗せんとした。
だが、悲しきかな。それすらもセイバーにしてみれば、止まって見える程に緩慢な動作である。
一閃。
勝負を決めるには、ただそれだけで十分だった。
黄金の残像が虚空に走り、空気は切り裂かれたように鋭い音を鳴らす。
ごとりと、何か重いものが地面に落ちる音がした。
それは、僧衣を纏っていた。赤色に染まっていた。
――紛れもなく、言峰綺礼の左腕だった。
「――オォォォラァアァァァァァ!!!!」
激昂した承太郎の声。
セイバーはそちらの方へと意識を向ける。
言峰綺礼は、ただ静かな目で、何かを悟ったように目の前の光景を見ていた。
……その拳が静かに、握り締められたことに――セイバーは気付かない。
言峰綺礼は、空(Zero)に限りなく近い男である。
万人が「美しい」と感じるものを美しいと思えない、破綻者である。
未来の彼は黄金の英霊との出会いを機に振り切れ、悟りと余裕を得るものの、この頃の彼にそれはない。
他者の苦痛に愉悦を覚える性を受け入れられぬまま、深く自身の在り方に懊悩する求道者。
とはいえ、虚無的な側面があることは否めまい。
不完全な自身を痛め付ける為に信仰し、技を極めた青年神父。
そんな彼だからか、自分がどうやら詰んでいるらしいことを理解するのは速かった。
令呪を切る寸前だ。
綺礼はあの段階で、騎士王が自分の行動を読んでいることを察していた。
彼女ほどの騎士が、その程度のことも分からない筈がない。
何度も何度も不意を討たれて好機を逃す、そんな有様では、最優の英霊などとは到底呼ばれないだろう。
そうある種彼女の力量を信用した上で、彼の頭の算盤は至極冷静に、自分に先がないという事実を弾き出した。
そして、その通りになった。
セイバーの斬撃は、構えた左腕ごと、綺礼の胴を深く一閃していた。
腕を切り落とされたこともそうだし、胴の傷も完全に致死のそれである。
よしんばこの戦場を生き永らえたとしても、参加者に与えられている医療手段では延命は不可能。
そう判断した彼の思考は――焦りも嘆きも恐れもせず、一層静かに冴え渡った。
令呪の力はまだ生きている。
体も動かすことは出来る、伊達に鍛えてはいない。
腕は損失した――然し損失は軽微。痛手ではあるが、牙を完全に抜かれた訳ではない。
(ならば……)
急な失血で靄がかかったように眩む視界を、半ば自身の集中力だけで活性化させ、明瞭なものへと変える。
承太郎の方へと意識を向けているセイバー。此方の方へ意識を引き戻したとして、確実に無駄な時間はそこに生じる。
戦いの中で何度も猛威を奮った超直感。厄介だが、此処は承太郎次第だ。
承太郎のスタープラチナの援護次第で、直感による対処は十分潰すことが出来る。
そして、相手は騎士。拳士ではない。よって、己の考えている一手を完全には把握していないと分析。
以上のことから、言峰綺礼は『決行可能』と判断する。
未だ傷を負っていない剛脚に力を込めるや否や、彼はバネに弾かれるように、間近のセイバーへと突撃した。
「なッ――!?」
セイバーが驚愕するのも無理はない。
先程彼女の決めた斬撃は、心臓こそ外していたものの、綺礼の体を厚さの八割ほどは引き裂いていた。
即死でも不思議ではないし、そうでなくとも出血が招くショックで動作が停滞するのが普通というもの。
そう、これは油断だった。彼女らしからぬ、油断。相手は人間であるから、これで足りるという慢心。
確かに、言峰綺礼は人間だ。しかし、求道の彼は常人ではない。
セイバーは、それを見誤った。超人と認識はしていても、最後の最後でその限界を見誤った。
「オラァァ!」
剣を握りかけたセイバーの腕を、スタープラチナが見逃さずに鋭く殴打する。
鎧もある以上、さしたる痛手ではない。だがそれでも、僅かな痛手にはなった。
鉄火場においてほんの僅かな要素が致命となることは、セイバーもよく知っている。
彼女は先程、それを利用したのだから。――知らないはずがない。
地面を慣れ親しんだ道場の床と見立て、地鳴りが起こるほどの剛力で蹴る。
一瞬にして長距離を駆け抜ける箭疾歩は、この間合いではほぼタックルのようなものだ。
セイバーを押し倒す勢いでその矮躯に衝突すれば、綺礼は渾身の震脚で大地を揺るがした。
野外である以上幾許か効果は減少するが、重ねて言うが今の間合いは超至近。
効果がない筈がない。並の武道家ならばまだしも、達人である綺礼の渾身ともなれば。
――思考はクリアだ。
この時ばかりは、傷が深いことが幸いした。
――痛みは麻痺し、言峰綺礼を阻む物は何もない。
左腕はない。この時点で、十全のパフォーマンスを決めることは不可能。
――無問題。片手落ちであろうと、超絶の威力は叩き出せる。平常体ならばまだしも、令呪で底上げされた地力ならば。
空条承太郎も、この一瞬に全てを懸ける。
彼は敏い少年だ。辛い現実から目を背けることをしない、強い少年でもある。
その彼だから、言峰綺礼がもう助からないということは理解していた。
理解しているからこそ、綺礼が最後に見せんとしている底力に胸が熱くなるのを堪えられない。
承太郎がクールで冷徹な人間だと勘違いしている者が居るのなら、それは間違いだ。
彼は、激情家である。理不尽や非道に怒りを燃やし、仲間の意志を我が事のように重く受け止める熱き戦士。
綺礼が命を捨ててまで作り出した好機を、決して逃しはしない。無駄にはさせない。
その意志で放つスタープラチナの拳は単なる妨害手段であるというのに、これまでよりも明らかに鋭く、疾く、重い。
スタンドパワーが彼の意志に応じて向上しているかの如く、唸る拳は猛り吼える。
セイバーもまた、必死だった。
その心に強い願いを抱くからこそ、彼女も諦めない。
繭の下に魂を幽閉されれば、もう二度と、聖杯の輝きを手にすることは出来ないだろう。
――それだけは。それだけは、絶対にあってはならない。そう思えばこそ、剣を握る力は強くなる。
それでも。彼女は、二人の人間が繰り出す猛攻から脱せずにいた。
綺礼の拳が空を裂く。
迸るは渾身の一打。
言峰綺礼という男が、セイバーを討てるとすればこの技だろうと最初から視野に入れていた奥義。
即ち、八大招・立地通天炮。
セイバーの鎧による防御を無視し、顎下から剥き出しの頭を破壊する必殺の拳。
それはまさしく、綺礼の命を燃やすかのように彼自身の飛沫をあげながら猛進し――……
「……が、――――ッ!!」
誉れも高き騎士王の顎下を打ち抜き、その矮躯を天高く舞わせた。
◆
脳裏に過るものがある。
それは、在りし日の記憶。
かのブリテンで、円卓の騎士が隆盛を極めていた頃の景色。
――アルトリア・ペンドラゴンは選定の剣を抜き、この時代を作り上げた。
騎士道が花と散った時代に、ブリテンに平穏と繁栄を齎したのだ。……そう、最後の繁栄を。
「ま――だ、だ…………」
それを思えばこそ、アルトリアは止まれない。
立ち上がるということがあり得ない負傷を負っておきながら、彼女はなおも二本の脚で大地に立つ。
言峰綺礼が隻腕で放った攻撃は依然として必殺のそれであったが、しかし威力が幾らか減退していたのも確か。
それが、騎士王を滅ぼしきれない理由となった。重傷を負ってはいても、未だその生命も闘志も健在。
打たれた顎は砕け、口元は止めどなく血を流している。両の眼からは血涙が溢れ、髪は土埃に塗れてすらいた。
脳はほぼシェイクされたも同然。意識は常に朦朧とし、気を抜けば命ごと意識を取り零しそうだ。
にも関わらず。アルトリアは剣を取り落とすことなく、立つ。――まるでいつかのように、ただ一人、孤独の王として。
王には、人の心が分からない――
かつて城を去った騎士、トリスタンの声が脳裏に蘇る。
神秘を失くして滅びに向かうブリテンの地。聖杯探索を経ても、伝説の終焉は止められなかった。
カムランの丘で討ち倒したモードレッドの姿を、今も鮮明に覚えている。
膝を折り、傷から血が流れ出ていく感覚すらも、鮮明に。
――止まれはしない。これしきの傷で、足を止めることがどうして出来ようか。
見れば、自分に致命を打ち込んだ神父は既に倒れ臥していた。
その真下には、真っ赤な血溜まりが止めどなく流れ出している。
文字通り、あの一撃で余力を使い果たしたのだろう。
堕ちて尚、アルトリアは彼の生き様を見事と思う。
後、何人斬ればいい。そう思うことは、敢えてしないようにしていた。
只、最後まで。止まらないと覚悟した時から、それだけを見据えて駆け抜けてきた。
故に彼女は立つ。
血に濡れた聖剣を手に、罪を重ねる。
端から見れば泥酔しているかのように覚束ない足取りで、それでも勝利を求めるのだ。
「待ちな」
そんな彼女を、呼び止める声がある。
視線の先に立つのは、左の肩から血を流す学生服の少年だった。
――空条承太郎。スタープラチナのスタンド使いは、仲間を失って尚絶望することなく、騎士王を見据えていた。
その顔に、敵が立ち上がったことへの動揺はない。
綺礼の一撃では不足と、軽んじていたわけではない。
綺礼も承太郎も、あの瞬間に命を懸けていた。
その彼がどうして、仲間が仕損じるのではと疑って掛かる道理があろうか。
「てめーを先には進ませねえ」
「……ならば」
承太郎は立ち上がったアルトリアを見て、ただ冷静にこう思った。
進ませはしない。言峰綺礼が死んだからといって、やることは当初から何も変わっていない。
殺し合いに乗ったこのサーヴァントを、此処で倒す。ぶっ飛ばす。
ただそれだけの理由で、空条承太郎は立っている。
アルトリアもまた、それを瞬時に理解したからこそ無駄な問答は交わさない。
聖剣を握り、勢いよく踏み出した。この困憊具合で尚も俊敏さを発揮する姿の、何と異様なことだろうか。
迅雷が如く振り抜く聖剣を、迎え撃つのは星の白金(スタープラチナ)の鉄拳だ。
綺礼のものよりも速く鋭い拳。だが、威力では彼の拳士に幾らか劣る。
アルトリアもそのことについては織り込み済みだったが、今の彼女にとっては、むしろ威力重視の方が御し易かった。
脳に叩き込まれたダメージ。それは今も、絶えることなく彼女を苛み続けている。
スタープラチナの速度に合わせることは、満身創痍のアルトリアにとって決して小さくない負担であった。
そう。既に、勝負は見えている。
アルトリア・ペンドラゴンは、あの一撃を受けた時点で敗北していた。
神秘以外への防御を失い、聖剣の光を放つことも不能になった騎士王にとって、あれは完全に決まり手だった。
最優と謳われる戦闘能力、反射速度、敏捷性さえ削がれた彼女が打ち倒すには、空条承太郎は難敵過ぎる。
「てめーが何処の誰で」
スタープラチナの拳が、セイバーの腹を打ち抜いた。
それが、終わりの始まりだった。
「何がしたくて」
二撃、三撃と。
鎧を抉る拳は猛く、重く響く。
「このくそったれなゲームに乗ったのかは知らねえ」
承太郎はアーサー王伝説や円卓の騎士という名前に聞き覚えはあっても、その詳細を知っている訳ではなかった。
だから彼女の願いなどに心当たりは全くないし、そこにどれほどの思いがあったのかも知らない、分からない。
その彼が、彼女が殺すことを選んだのに対してとやかく言う筋合いはないだろう。承太郎自身、そう思っている。
「だから――俺は俺の理由で、てめーを……『裁く』ッ!!」
そこに、彼女を糾弾する意味合いはない。
あるのはただ、空条承太郎個人の怒りだけだ。
仲間を殺した女への怒りだけを武器に、スタープラチナは拳を振るう。
怒髪天を衝いた承太郎は大きく息を吸い込めば、そのまま声を張り上げる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
打ち込む拳が、騎士の鎧をひしゃげさせていく。
凹みを生み出し、有無を言わさず、連打する打撃。
止まらない。止まりはしない。仲間を失った承太郎は、今"怒っている"のだから。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
アルトリア――いや。
セイバーの体に限界が訪れるのは、程なくしてのことだった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
元より、無理矢理に延命しているだけだった体。
殺し合いの参加者となるに辺り、数段の劣化を掛けられた性能。
打ち込まれた言峰綺礼の乾坤一擲で死に体に限りなく近付いた彼女に、スタープラチナの連撃は余りに強烈過ぎる。
そう、勝負は着いた。――最優のサーヴァントを二人の人間が討つという番狂わせで、この死合は幕を閉じるのだ。
「――――オラァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!」
魔力で編まれた鎧を、力尽くの連打で部分的に破砕させ。
針の穴に金属バットを通すような無理矢理さで、スタープラチナの全力を叩き込んだ。
それはセイバーの胸を破り、霊核を粉砕し、その体を貫通する。
……戦場は、哀しいほどに静かだった。ただ、承太郎とセイバーの吐息の音だけが聞こえていた。
「……俺はただ、あいつの『やり残し』をぶちかましただけだぜ、サーヴァント」
スタープラチナの拳を引き抜き、承太郎は帽子を深く被り直す。
そしてただ一言だけ告げる。言葉は不要と分かっているから、彼は多くを語らない。語る気もない。
「てめーを倒したのは言峰だ。俺じゃ、とてもじゃあねえが勝てなかった……てめーは、あいつに負けたんだ」
それだけを告げて、承太郎は静かに踵を返した。もう、セイバーは立ち上がらない。
消え行く意識の中、セイバーは少年の声を反芻していた。
自分は敗北した。もう体に感覚らしいものは殆どなく、力を入れることすら出来ない。
英霊としての死とはまた違う、生命としての死が、今まさに自分を連れ去ろうとしているのが解る。
――……結局、全ては叶わなかった。ただ罪を重ね、迷走し、その末に因果応報の結末を迎えただけ。
空は昏い。
雲間から、昏い空が覗いている。
それを見上げながら、風の冷たさすら感じられなくなった体で、セイバーは思うのだ。
そうだ。きっと、自分は最初の一歩から踏み間違えていた。
王の選定をやり直すという形で祖国に報いんとする余り、魂を幽閉されるという可能性の途絶を恐れた。
もしも。
もしも自分が、騎士の矜持を捨てることなく、繭へ毅然と立ち向かっていたなら――何かを変えられたのだろうか。
全ては、闇の中だ。もう二度と、騎士王アルトリアが何かを変えられることはない。
(……私は)
ああ。
もう。
(私は……一体……――――)
あの空に、手を延ばすことすら、出来ない。
【セイバー@Fate/Zero 死亡】
◆
「言峰」
「…………セイバーは、倒したのか」
「ああ。倒したぜ」
「ならば、私の持ち物を持っていけ。セイバーのものもだ。死人が持っていても、最早何の役にも立つまいよ」
言峰綺礼は、まだ生きていた。
とはいえ、もう彼を救うことは出来ない。
当初からして即死級の傷だったのだ。この時点でまだ生きていることが、そもそも異常事態である。
左腕の切断面は未だに止めどなく血を流しており、胴の傷は言わずもがなだ。
これが勝利の代償。大金星の対価に、言峰綺礼は此処で死ぬ。
その結末を変える選択は、もう誰にも打てない。
「……お前の手で掴んだ勝ちだぜ。ちったあ嬉しそうにしたらどうだ」
「さて、な……生憎と、そういう感情の機微は乏しい身だ」
承太郎は、そんな彼の傍らに立っていた。
あくせくと、何か打てる手はないかと焦ったりはしない。
どうしようもないことを悟っているからこそ、静かに綺礼を看取らんとしている。
「私はあの男に……DIOに、言われたよ。自分に正直に生きることだ、と」
DIOに綺礼が揺さぶりをかけられたことは、承太郎も知っている。
彼が万一暴走する可能性も常に視野に入れつつ、承太郎は行動していた。
結果として綺礼は最後まで彼の言葉に惑うことなく、自分を殺したまま生涯を終えることになったが。
「私はそんなことはあり得ないと断じたが……今際の今はこう思う。奴は間違いなく、この私の本質を見抜いていたのだ」
もしも、仮にこの殺し合いがなかったなら――或いは。
このまま言峰綺礼が生存し続けていたなら、彼の本性はいつか萠芽の時を迎えていただろう。
他人の不幸は蜜の味を地で行く悪人。非道ではなく外道を進む破綻者として、大成していたに違いない。
どれだけストッパーを用意していたとしても、人間の内なる本性を完全に抑圧し、消し去ることなど不可能だ。
その本性が表に出るのを防いだのが、彼を死に至らしめた騎士王だというのは、なんとも皮肉な話だったが。
「そうかもしれねえな」
承太郎はただ、冷静に言う。
「だが、言峰。俺は、てめーが居なけりゃ此処で死んでいた」
「……そうか」
「てめーがどんなシュミの持ち主かは知らねえし、今後分かることもねえ。
……風見や天々座、紅林も同じだ。てめーは、間違いなく最後まで俺達の仲間で、味方だった」
「………」
「それでいいじゃあねえか。それでよ……」
きっと、言峰綺礼の真実が明かされることはもうない。
あったとしても、当の綺礼はもう死んでいるのだ。
誰にもその真偽を確かめる術はない――愉悦を愛する破滅の神父は、誕生しない。
承太郎やその仲間達の記憶に残る『言峰綺礼』は、最後まで勇敢に戦って死んだ、一人の仲間で終わる。
「……は、ははははは」
それは、何と滑稽なことだろうか。
何と滑稽な、終わりだろうか。
綺礼はこの殺し合いに招かれてから、初めて笑った。いや、嗤った。自分の最期を、嗤わずにはいられなかった。
そして彼は瞼を落とす。風だけが吹く戦場だった場所に、求道者の意識が落ちていく。
「ああ……それも、悪くは、ないのかもしれん――」
【言峰綺礼@Fate/Zero 死亡】
【Fate/Zero――Down to Zero we Go】
◆
「言峰は、死んだ」
遊月と未だ気絶したままのリゼの前に戻ってきた承太郎は、静かにそう言った。
がくりと、思わず遊月は膝からその場に崩れ落ちてしまう。
彼を戦場に行かせたのは、紛れもない遊月自身だ。
令呪を託し、その背中を見送った。
――その結果がこれだ。言峰綺礼は帰ってこない。死んでしまった。また、仲間が死んでしまった。
「……紅林。悪いが、ちと傷を負いすぎた。止血を手伝ってくれ、自分だとどうにもやりにくくて敵わねえ」
以前までの遊月なら、それを冷徹と糾弾していたかもしれない。
仲間が死んだというのに、どうしてこの人はこんなに冷静でいられるんだと。
止血の為に学ランの布を使おうとしているその巨体に、罵倒の声を掛けていてもおかしくない。
そうしなかったのは、ひとえに彼女なりに学習した結果だ。
この会場に来てから、遊月は何度も感情を暴走させた。
殺し合いはしないと決めたのに、仲間に迷惑をかけてしまった。
そして、目の前で仲間を殺されて。自分が送り出した仲間も殺されて――
授業料としてはあまりに高すぎる心の痛みを代償に、遊月は少しだけ前に進むことが出来たのだ。
……尤も、理由はそれだけではない。承太郎の目を見たなら、彼を冷徹だなんて誰も言うことは出来ないだろう。
殺し合いへの怒りと、強い意志が宿った双眼。
彼は怒っている。遊月よりもずっと強く、怒っている。
彼らの戦いを、遊月は見なかった。
ただ、祈っていただけだ。
どうか、もう誰も死なないようにと。
もしも彼らの戦いを見ていて、承太郎と綺礼のどちらかが死ぬことになったなら、自分はきっと耐えられない。そう思ったから。
眠っている理世の体を強く抱き締めながら、ただ祈っていた。
結果としてその祈りは裏切られたが――綺礼の死は、無駄ではなかったらしい。
承太郎が生きて戻ってきたということは、つまりそういうことなのだろうと、遊月は無言の内に解釈する。
長く、辛い戦いだ。本当に。
承太郎の止血を手伝いながら、遊月は唇を噛み締める。
いつになったら、終わりが来るのだろう。
答えてくれる者は、どこにもいない。
【G-4城周辺/路上/夜】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(小)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、左腕・左肩に裂傷(処置中)、出血(大)、強い決意
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(37/38)、青カード(36/37)、噛み煙草(現地調達品)、不明支給品0~1(言峰の分)、各種雑貨(ショッピングモールで調達)、不明支給品0~2(ポルナレフの分)、スパウザー@銀魂、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、雄二のメモ、約束された勝利の剣@Fate/Zero、レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、キュプリオトの剣@Fate/zero
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。
DIOも倒す。
0:傷を処置した後、風見の下へ向かう
1:回収した支給品の配分は、諸々の戦闘が片付いてから考える
[備考]
※少なくとも
ホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※
折原臨也、一条蛍、
香風智乃、衛宮切嗣、
天々座理世、
風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(
蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※
越谷小鞠を殺害した人物と、ゲームセンター付近を破壊した人物は別人であるという仮説を立てました。また、少なくともDIOは真犯人でないと確信しました。
※第三放送を聞いていません。
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:気絶、状況をまだ飲み込めていない可能性あり、疲労(大)、精神的疲労(大)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
0:気絶
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬
殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※第三放送を聞いていません。
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、疲労(中)、精神的疲労(大)
[服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達)
[装備]:超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(19/20)
黒カード:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
0:冷静になる。心を落ち着かせる。気持ちを整理する。
1:言峰さん……
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
※香風智乃、風見雄二、言峰綺礼と情報交換をしました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。
※チノの『演技』に気付きましたが、誰にも話すつもりはありません。
※チノへの好感情、依存心は徐々に強まりつつあります
※第三放送を聞いていません.
※アゾット剣@Fate/Zeroは破壊されました。
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最終更新:2016年12月07日 19:08