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私、荒鷹は昔、持てる限りの勇気を振り絞って、男君を呼び出した事がある。 もちろんそれは愛の告白のことで、あわよくば、付き合いたいなんてことも考えていた。 しかし、そこで男君に伝えられたのはたった1つだけだった。 ヘ○ヘ |∧ 荒ぶる鷹のポーズが好きなの! / ということだけ。 男君は呆然としていたけど、私も内心呆然としていた。 自分のあまりの空回りさ具合に頭が真っ白になったのだ。 でもさすがの男君も、呼び出されたのに意味のわからないカミングアウトをされるだけの経験ってなかったと思う。 それは、私のちょっとした自慢。 男君に告白した人はたくさんいる。 クーちゃんや、ヒーちゃん、シューちゃん、狂うちゃん、それに、ツンちゃんまで。 その5人が毎日男君のために一生懸命なのだ。 正直な話、勝てる気がしない。 でも、男君は渡したくない。 いつかこの気持ちが、届くって信じているから。 ………あれ?でも男君が知ってる私の情報って、 ①名前が荒鷹ということ ②荒ぶる鷹のポーズが好きということ の2つだけ? … …… ………み、道のりは長いけど、頑張るぞ。 けれど、結局今日まで本当の気持ちを伝えられないまま、漫然と毎日が過ぎていた。 ---いつもの昼休み--- ヒー「男ォォォ!!!私の昼飯を食べろォォォォォ!!!!!」 男「ごはんに!ごはんに指突っ込んでるから!」 狂う「あなたのために作ってきた新鮮なお肉たちよ・・・」 男「それ食ったらカニバなリズムをきざんだりしないだろうな?」 クー「私の弁当はまともだ。ぜひ食べてくれ」 男「ごはんにふりかけで「LOVE」かいてある弁当の何処がまともだ!?」 シュー「ワタシ、ゴハンツクッタ。ワタシ、アゲル。コレ、アイユエナリ」 男「赤飯しか入ってない!?塩は?ゴマは?これじゃあ食べずらい事この上ない!」 ツン「これあんたのために作ったんじゃなくて、たまたま余っちゃっただけだからね!」 男「重箱!?しかも5段!?余りすぎにも程があるだろ!夜食用にラップをかけて冷蔵庫の中入れとけよ!」 今日も男君は大変そうだ。 けれど、あまり嫌そうな顔をしていないのが私の心をちくちく痛ませる。 ………本当は、私もあの輪に入って男君にお弁当を食べてもらいたい。 そう思うと思わずため息が出てしまった。 何もかもが遅いような気もしてきてしまう。 今から入っても、何も出来ないんじゃないかと。 私のような空回ってばっかりの女は、いてもいなくても同じではないかと。 ………なんか気分が暗くなってきちゃった。 こんなときには、あれをやろう。 私はお弁当を持って教室を出て行った。 着いたのは、屋上。 フェンス越しに眼下の景色を見つめる。 たくさんの生徒たちがいた。 「ワハハ、見ろ、人がゴミのようだ」 言ってみただけ。ごめん、他意はないんだ。 私はお弁当をおいて、ゆっくりと深呼吸をした。 そして周りに人影がないか確認。 うん、大丈夫。 そして私は、 ヘ○ヘ |∧ / 静かに荒ぶる鷹のポーズをとった。 これをやると不思議と落ち着くことが出来る。 目を閉じると、ゆっくり時間が流れる感じもする。 学校のこと、男君のこと、自分のこと。 すべてが、目の前の暗闇の中でゆったりとゆれている。 ただそこに存在しているだけで、私を苦しませることはない。 時間がたつにつれて、周りの雑音すら消えていって、私を妨げるものは何もーーー ゆうや「………日和、場所を変えよう(ひそひそ)」 日和「?どうして?(ひそひそ)」 ゆうや「お楽しみ中な人がいるか(ひそひそ)」 「待ってええええ!!!」 私は一気に我に帰って、必死に2人に説明した。 結局私たち3人は一緒にお弁当を食べることになった。 どうやらさっきの私の失態を見たのはゆうや君だけであったらしいので、秘密にしておくように頼んだ。 笑顔でうんわかったわかったといわれて、ちょっと不安になった。 そういえば2人が一緒にお弁当を食べるのは良く見かけるが、近くでまじまじと見たのははじめてだった。 遠くから見て仲がいいと思えるのだから、近くで見るとそれは本当にすごかった。 目の前で堂々と「あ~ん」とかやられると私のほうが恥ずかしくなってしまう。 しかも、日和ちゃんがゆうや君にではなく、ゆうや君が日和ちゃんのところがまたすごい。 日和ちゃんがひよこみたいに唇を突き出すと、ゆうやくんが食べさせてあげるナイスコンビネーション。 思わず私は声をかけた。 「ねえねえ」 ゆうや「なんだ?」 日和「?」 「二人って付き合ってるんだよね」 もちろんだよって答えると思ってた。 少しは恥ずかしがるけど、そんなに動揺しないと思っていた。 しかし、次の瞬間信じられないことが起こった。 ゆうや君はボッと顔を赤くして下を向いちゃうし、日和ちゃんにいったっては放心状態。 あまりの予想外の展開に度肝をぬかれてしまった。 「え?え?何?私、何か変な事言った?」 ゆうや「い、いや、とりあえず日和を………」 日和「はわー」 ………何か悪いことをしてしまったような気がする。 日和ちゃんが現実に戻ってからも、なんともいえぬ雰囲気があたりに漂っていた。 ゆうや君はまだ顔を赤くして下を向いたままだし、日和ちゃんもちらちらと私のほうを向けてくるだけだった。 どうすればいいんだろうと必死で考えていると、やっとゆうや君がしゃべってくれた。 「俺と、日和は、付き合ってるとか、そんなんじゃなくて、なんつーか、親子って感じつーか………」 とやっぱり下を向きながら言った。 日和ちゃんもコクコクと首を上下させた。 そんな2人に、何か、何かしっくりこないものを感じて、思わず、 「ずるいなぁ………」 といってしまった。 えっ?という顔をする2人に「気にしないで。」と言って、あまり食べていないお弁当を片付けた。 ゆうや「どうした?」 「これ以上ここにいたら、ただでさえ暑い夏の温度がもっとあがっちゃうからね」 またゆうや君は顔を赤くした。 苦笑して立ち上がろうとすると、 日和「待って」 いつの間に立ち上がったのか、日和ちゃんが真面目な顔をして私を押しとどめた。 「なに?」 日和「えっとね………」 日和ちゃんは困った顔をするといきなり ヘ○ヘ |∧ あらぶるたかのぽ~ず~ / 私は日和ちゃんに対する固定概念が、がらがらと崩れていくのが聞こえるような気がした。 それはお世辞にもうまいといえないポーズだった。 パンツもスカートの間からはみ出してしまっていて、日和ちゃんの後ろでゆうや君が真っ赤になるのがわかった。 「ど、どうしたの?」 日射病とかにもかかって壊れちゃったのかなあと心配すると 日和「だいじょうぶ」 とにっこり笑った。 「?」 良く意味がわからなくて何も答えられずにいると、 日和「私は、応援してる」 「………」 彼女には私の何が見えているのだろうか? 私のすべてを見通しているような、何も知らないような。 肝心なところだけ見透かされているような。 そんな不思議な感覚に取り込まれそうになる。 そういうところも、日和ちゃんの魅力の1つなんだろう。 ゆうや君の気持ちがちょっとだけわかった気がした。 「ありがとう、日和ちゃん」 ちょっと勇気が出てきた。 少し、男君のこと、真剣に考えてみよう。 もちろん、告白のことも。 彼女からもらった小さな勇気。 私の心に、届いた。 「じゃあごゆっくりお2人とも、ゆうやくんのパンツ好き(ボソ)」 ゆうや「ちょwwwおまwww」 最後にいたずらっぽく言うと、後ろから立ってる人がばたっと倒れるような音が響いた。 「本当にありがとう、日和ちゃん」 もう1回、心からの感謝を口に出した。 今、すごく辛い。 さっきまでは勢いみたいなところもあったから、男君との事、真剣に考えてみると、実際、ほとんどが絶望的だった。 不安だけが、頭にもたげてきて離れない。 例えばもし、もしもう1度告白したらーーー 私はちゃんと男君の方を向いて話せるだろうか? 荒ぶる鷹のポーズをしてしまわないだろうか? 何よりもーーーあのときと同じことが繰り返されるかもしれない。 真面目に告白しようと考えると、アレは自慢になんてならないことに気がついた。 私のちょっとした自慢?なんだよそれ。 そんなの何も出来なかった自分への逃げを作っているだけに過ぎなかった。 あんな意味がわからなくて、滑稽なものを、自分だけが思い出すときに少しだけ形を良くするだけに過ぎない。 他人から見たら、愚かなことこの上ない。 私は無性に泣きたくなった。 自分の無力さと現実の重さを一気に直視して、 何であの時何も出来なかったんだろう? 何であの時おかしくなっちゃったんだろう? なんで?なんで?なんで? 思い返せば何回もチャンスはあった。 私はそのたびに逃げ出していたんだ。 だから、怖いんだろう。 自分から何かを変えることが。 逃げることに、慣れてしまったから。 一回自分で決めたんだから、もう日和ちゃんには頼れない. 誰か、助けて………。 ねえ!誰か、助けて!助けてよ! そんな声にならない叫びをしていると、 ぎぜんしゃ「………どうしたの?荒鷹さん?」 「!?」 今まであまりしゃべったことのないぎぜんしゃさんの顔がいつの間にか目の前にあった。
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