気高き君の呪縛 第七話『海馬瀬人』後編

「俺はこのカードを信じるぜ!」
魔王は三枚山札から引く。そして信じて引き当てたカードは…
「ふふ…力だけに頼る闘い方は、時に思わぬ弱点を露呈するぜ…。『クリボー』そして『増殖』!」
その声を、六人はあえて無視した。各々が全力で一撃を放つ。

「滅びの爆裂疾風弾!!」「飛天御剣流・九頭龍閃!!」
「風遁・螺旋手裏剣!!」「E・F・ブリザード!!」
「滅びの威光!!」「FINAL SECRET SWORD!!」
2つの閃光、2つの斬撃、2つの疾風、それらが全て魔王に…いや、
「クリクリ~♪」
増殖したクリボーにぶつかった―。
ドゴォォオオン!!
先代魔王やアナゴのレベルまで至らんとする大爆発。うまく当たったなら心の壁を破壊していてもおかしくないのだが…
瀬人、モクバ、言葉、そして何故かキサラも知っていた。
「クリクリ~♪」
「あ、あれは…遊戯君と同じクリボー!!」
「機雷化能力を持つモンスターだぜぃ…!」
「何回倒しても…増殖する!!」
「こ…っ、このぉ…雑魚モンスター共めがぁああああ!!」
ドォーン!
瀬人は怒りに任せてまたもバーストストリームを放つが…
「クリクリ~♪」
クリボーはバーストストリームで焼かれるよりも早く増殖し、焼かれる時に機雷のように衝撃を相殺してしまう。
「失せんかぁああ!!雑魚モンスター共がぁぁああああ!!」
「クリボーなんかに…!クリボーなんかにぃぃいいいい!!」
ドゴォォオオン!!
瀬人に加えて何故かキサラまでムキになって攻撃し始めた。だが何回やっても何回やっても…
「クリクリ~♪」
クリボーが倒せない。
「なっ?力って脆いだろ?」
どや顔の魔王どころか、魔王を包む心の壁にも、奥の方のクリボーにも攻撃は届かないのだ。
「ちょ、ちょっと瀬人君!キサラさん!落ち着いて下さい!!」
バーストストリームを乱発する白龍の背に乗る言葉が、とうとう口を出した。
「雑魚モンスターが俺のブルーアイズをコケにしたのだ!これが落ち着かずにいられるかぁぁああ!!」

「…おでん用意しましょうか?」
ピタッと、瀬人の動きが止まった。そしておもむろにチョココロネを出して頬張ると、
「…言われてみれば、もう少し頭を使わねばあのクリボーはどうにもならんな」
どうやら落ち着きを取り戻したようだ。それだけ言葉様のおでんは衝撃的な代物なのだろう。
「とは言っても…どういたしましょう?」
瀬人に続いて落ち着きを取り戻したキサラが尋ねた。確かに力押しではクリボーは倒せないが、ならクリボーを倒す術があるのかというと…ない。
『決闘者の王国』後のルール改定で『クリボー』と『増殖』の効果が変更されたのはその筋では有名な話である。
「クリクリ~♪」
「見た目はかあいいね~」
「弱そうだよな~。向こうからは攻撃しないだろーな」
だが、その誠の予想は外れることになる。
「そいつはどうかな?」
魔王がまたもサディスティックでいやらしい笑みを見せて…
「さあ…クリボー。かわいい女の子達に『イタズラ』してきな!」
―!!?
「クリクリ~♪」
クリボー軍団に命ずると、クリボー軍団は喜び勇んで飛んでいった。そして美少女達の肢体に―

『『プーさん蹴るなぁぁああ!!!』』

そんな展開を六人…てか運営が認めるはずもなく、迫り来るクリボー軍団は攻撃の餌食となる。
美少女三人は自己防衛し、誠もゼットソーを振り回したり『そっち系の本』を囮にする。
瀬人は『逆転の女神』を囮にして…
「レアカードに傷がついたわ!!」
自らの拳を以てクリボーを蹴散らす。モクバは…
「忍法!ハーレムの術!!」
ポンポン!っと、キサラ・言葉・こころの姿をした分身を囮として出しつつ、オリジナルはモクバの姿のままクリボーに攻撃を仕掛ける。
だがそんなことを繰り返しても…
「クリクリ~♪」
クリボーの勢いは衰える気配を見せない。
「おイタしちゃらめーっ!!」
「何度相手しても…しつこいですっ!」
こころが黒魔導爆裂破で、キサラが滅びの威光でクリボーを焼き払いながら叫ぶ。
「分身でごまかすのも楽じゃないぜぃ!」
モクバは器用にも、分身がクリボーに捕まったら消し、また追加で出すということを繰り返しているのだが、これがなかなか面倒くさい。
だがそうしないと分身がクリボーに襲われて制限に引っかかる。
「これじゃあキリがないですよ!?」
青眼の白龍から降りて、クリボーを斬り伏せている言葉はうっすら汗を滲ませていた。
「魔王っ!モンスターのこんな使い方…誰に教わりやがった!?」
誠が言葉を守りながら問い詰めると、
「誰ってことないけど…あえて言うなら城之内君のビデオかな?武藤遊戯が夜中にこっそり見てて、俺も心の中からこっそり鑑賞させてもらったよ…」
ニヤニヤしながらそう答えを返した。
「あの凡骨めが!そのビデオも凡骨決闘者も、不健全物の倉庫に収容してしまえ!!」
いつもどおりの社長節で怒りを露わにする瀬人。だが、誠の耳にある単語が引っかかった。何故引っかかったのか…その理由に辿り着いた時、インテルでも入ったかのように誠は閃いた。
「海馬さん!!」
「どうした!伊藤!」

「このカードを受け取れ!!」
そう言ってカードを投げたのは、瀬人ではなく誠である。一応瀬人は華麗な指捌きでこれを受け取り、目を通したが…
「人のセリフを盗むな!凡骨魔法使い(=魔理沙)を思い出すわ!だいたいこんなカードを渡して何のつもりだ。このカードなら海馬邸に9枚はあるぞ…」
「海馬さん…。自分が言ったこと忘れちまったのかぁ?」
瀬人は誠にそう言われ…
やっとその真意を読み取った。
「おいおい…。さっきから何を話してるんだ?もう諦めて
制限板に行こうぜ…?そしてクリボーや六芒星の呪縛でたっぷり…」
「黙れ変態が!!」
魔王の危険な言葉を、瀬人が一喝して止めた。
「変態…だと…!?魔王である…この俺が…!」
「ふぅん…。変態には丁度いいカードで迎撃してくれる!!いでよ…!

奇跡の方舟!!」
『『Nice boat.』』

思わず五人が口を揃えてそう言ったのを、そして召喚された木製の『Nice boat.』を、魔王は唖然として見ていた。
「ナイス…ボート?バアム…クーヘン?何をするつもりだ…!?」
それはさっぱり分からなかった。誠と瀬人を除いては。
「奇跡の方舟、第一の効果を発動する!それは…収容能力!!」
すると方舟の側面が搭乗口として開いて…
「クリクリ~っ!?」
「なに!?クリボーが…!!」
まるでブラックホールである。クリボーは次々に方舟の中に吸い込まれていった。
「奇跡の方舟は、その中にモンスターを収容することが出来る!」
「…だが、収容能力には限界があるぜ…!」
魔王はクリボーが奇跡の方舟をパンクさせることを信じていた。しかし、
「ふぅん…お見通しというわけか、さすがだと言いたいが…甘いぞ魔王!奇跡の方舟、第二の能力も見せてやる!それは…『生命の回復』!!」
すると奇跡の方舟から光の粒が六人の身体に流れてきて…


海馬瀬人の HP・MPが999回復した!

桂言葉の  HP・MPが999回復した!

海馬モクバのHP・MPが999回復した!

桂こころの HP・MPが999回復した!

キサラの  HP・MPが999回復した!

伊藤誠の  HP・MPが999回復した!

舟の中に誰もいませんよ…



「舟の中に誰もいない?バカな、俺のクリボーが埋め尽くしているはずっ…」
「『生命の回復』…。それは、奇跡の方舟の中をカラにすることで、俺達の生命力を回復する!」
「すげぇ!やっぱり兄サマは最強だぜぃ!!」
やがて、クリボーは方舟の中に全て収容され、それも『生命の回復』で消滅したのだった。
「Nice boat.だったね~!」
「瀬人君すごいです!」
「さすがはセト様!」
(…俺のアイデアだよな!?)
瀬人が大喝采を受けている中、誠が口を尖らせていると…
「キサラ、誉めるならモクバだ。奇跡の方舟はモクバの力で手に入れたのだからな。そして言葉、お前が誉めるなら伊藤だ。閃いたのは伊藤だからな」
『『…え?』』
それだけ言うと、瀬人は魔王に向き直った。魔王は焦燥の汗を垂れ流していた。
「ククク…せっかく切り札のクリボーを引いたのに残念だったなぁ!!そして、今度こそ正真正銘!貴様の最期だ!!」
魔力満タンの瀬人。クリボーを失った魔王。もはや出し惜しみは無用である。燦然と輝く二枚のカードをデュエルディスクに挿し込んで、
「三体の…青眼の白龍!!総攻撃で心の壁とやら、粉砕してくれる!!」
閃光と共に、三体のブルーアイズが並ぶ。そしてさらに魔法カード―
「『光の護封剣』を引いた!!」
「なに!!」
三体融合を果たすより早く、天より聖なる光の剣が降り注いだ。先駆けの三本がブルーアイズの首を貫く。続いて六本…
瀬人と誠は避けた。しかし、他の4人は
「あうっ!?」「きゃあ!!」「くっ…!!」「ぐあっ!?」
ズババババ!!
頭から剣に…串刺しにされた。
「キサラっ!モクバっ!」「言葉っ!こころっ!」
まさか…と2人は最悪の結末を予想するが…
「くっ…、あぅ…んんっ…!」
「う~ん、動けないっ!」
「くっ…螺旋波動も使えないってばよ!」
「あ…誠君…。とりあえず…命は助かってますよ…」
どうやらデュエルにおける『光の護封剣』同様、殺傷能力はなかったらしい。剣に貫かれつつも、四人は血の一滴も流していなかった。光の剣で大切な人が串刺しにされている姿は、見ていてあまりいいものではないが…。
「ふぅん…まあこれで魔王は悪運を使い果たしたことだろう…。光の護封剣で稼いだわずかな時間で…何が出来る?」
「フフ…バーカ。ブルーアイズを封じられた海馬と伊藤誠の2人で、何が出来る?」
「何…?」
「なんだと!人のことバカにしやがって!」
誠は食ってかかるが、魔王はこれを無視。
「あっちのファラオのほうが元祖だからあまり使いたくなかったんだが…『ブラック・マジシャン』召喚!」
果たして召喚されたのは、
幾度となく瀬人の前に立ちふさがり、あの24人の旅では『青眼の白龍』以上に皆から慕われている魔術師
…に大変よく似ていた。
相違点は、こちらのほうが服がなんとなく厚着。肩幅が広い。顎がちょっとだけ長い。あっちの遊戯のブラック・マジシャンのほうが若くてかっこよくて、ウホッいい男のような…。
「さらに、魔法カード『拡散する波動』…!ブラック・マジシャンの攻撃波動を拡散させるぜ…!」
「えーと、どういうことだ?」
「ふぅん、どうやら俺達を一網打尽にするつもりらしい。六人を同時に攻撃されると、守りきれんな…」
「何か対抗策は?」
「なくはないが…その前に一つ聞きたい」
と、瀬人は少しだけ言い淀んだ。
「…?何?」
「言葉を守るというあの決意…偽りはないな?」
一瞬、間が空いた。しかしそれはためらいからではなく、決意のためだ。
「…おうよ!」
そう答えられれば、もう瀬人に迷いはない。
ハルヒや谷口が散々貶してきた浮気の過去は不変。
だが今と、そしてこれからの伊藤誠こそ瀬人と言葉にとっては重要で、それは認めるに足る『彼氏』であり『戦士』だった。

(そんなお前なら…出来るはずだ…!)
「ならば…!罠カード発動!『攻撃誘導アーマー』!!」
魔王はその罠カードを見てハハ…と苦笑した。
「…なるほど、さすが海馬。拡散した攻撃波動は、それを装備した一人に収束し、五人は助かる…。だが収束した攻撃波動を食らえば、確実に死ぬぜ…?誰を生け贄にするんだ?」
「…伊藤誠に装備する!!」
「なぁっ!?」
ガシン―と、誠の身体にそれが装備された。
「海馬さん!?これはどういう…」
納得しかねた誠が聞くと、瀬人は
「伊藤、お前なら勝てる!」
ただそれだけ、言った。何を理由にそんなことを言うのか…と誠は考えて、すぐそれは分かった。
「…なるほど!さすがに現役デュエリストだな!」
「訂正しておけ。史上最強のデュエリストだ…」
そして…
「ククク…ブラック・マジシャンの攻撃!黒・魔・導(Black・Magic)!!」
魔王の思った通りだった。まず黒き魔力弾が雲霞のように拡散、続いてそれが中空を経て一カ所に、伊藤誠という目標に収束する…そこまでは。だが次からは、瀬人と誠の予想通り。
「うおりゃぁああ!!」
ミラーシールドに当たったそれは、一旦吸収された後―バチィ!
漆黒の稲妻として放たれてブラック・マジシャンを襲った。
「グォオオ!?」
魔術師はひどい断末魔を上げながら破壊された。
「ブラック・マジシャン…!」
「フッ…!力のみに頼った愚かなデュエリストは、貴様のほうだったな!」
「ミラーシールドで魔法を利用させてもらったぜ!」
そして―
パァンと、何かが弾ける音がした。光の護封剣の効果が切れたのである。
「あっ!解けた!」
「あはは…。魔王さん…、散々色んなことしたんですし…潔く成仏して下さいね…?」
「今回こそ、セト様の勝ちで終わらせてもらいます!」
「魔王遊戯…っ、これで決着だぜぃ!」
束縛から解放された四人が改めて構える。三体の青眼の白龍も、青い眼を光らせ吼え猛る。
「今!光の護封剣も解かれた!俺達六人で総攻撃をかけるぞ!」
その圧倒的プレッシャーの前に魔王は…本来を、六人の予想を裏切って、笑みを浮かべていた。余裕などあるはずがない。ならば…
「貴様…恐怖を超越した絶望感で苦し紛れの笑みを浮かべているのか?」
カードを一枚引きながら、魔王は返した。
「海馬、それは違うぜ…!俺は希望を手にしたんだ…」
そしてドローカードを見る。今し方引き当てたカード…それは…
「切り札は最後までとっておく…。ゲームの心得その三だぜ、よく覚えておきな…!俺の引いたカードは…『封印されしエクゾディア』!!」
それだけではない。魔王が明かした手札五枚は、『封印されし者の』と名のついた四肢と、本体『エクゾディア』。つまり…
「エクゾディアは…召喚される!」
六人の前に現れる巨大な五芒星。それらが闇の次元の扉を開き、それぞれから四肢が、そして頭が出てくる。それこそ、エクゾディア。主に仇なす全てに神罰を下す、裁きの神。海馬瀬人は、過去にこれで敗北した。…過去は。
「遊戯、貴様は前にエクゾディアを召喚した時、こう言ったな。『カードと心を一つにすれば奇跡は起きる』と…」
「ああ、たしか言ったな…そんなこと」
「くだらん!」
瀬人はバッサリと吐き捨てた。
「この世の全ての事象は、法則と確率によってのみ起こる。そして、俺の勝利こそ揺るぎない法則なのだ!」
瀬人の青い眼は、闘志の炎で光っていた。そしてそれは他五人も同じ。

―未来へのロードがあれば
―生きる覚悟を決めれば
―絆を信じあい、守りあえば
―負けるはずがない
―恐れるものは、何もない!

「貴様に見せてやる…!その法則を証明する、俺の…いや、俺達の、強靭・無敵・最強方程式!」
そして瀬人は、デュエルディスクにさらに二枚のカードを挿し込み、五枚のカードを揃えた。

『青眼の白龍』
『融合』
『青眼の白龍』
『タイラント・ウイング』
『青眼の白龍』

「エクゾディアの五枚に立ち向かう俺の五枚のカードよ!今一つの光となれ!」
五角形に並んだソリッドビジョンの五枚のカードから光が迸り、そこから現れたのは…
「ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン!!『タイラント・ウイング』の効果で、攻撃力4800!かつ、一度のバトルフェイズに二度の攻撃が出来る!」
「…それがどうした?」
海馬デッキ最強の竜を前にしても、エクゾディアを召喚した魔王は動じなかった。
「どんなに攻撃力が高くても、エクゾディアに勝てる者はいないぜ…?」
「だが!それはデュエルでの話だ!」
「なに…?」
「貴様は勘違いしている…。貴様は、青眼の究極竜ではなく、史上最強の六人を敵に回しているということだ!!」
「フ…。何を言おうと、エクゾディアと闇のゲームの司祭を敵に回せば、待っているのは敗北の闇だぜ…!」
そして遂に、運命のラスト・バトルフェイズ!
「怒りの業火!エクゾディア・フレイム!!」
先手をとったのはエクゾディアだった。合わせた両手から紅蓮の火焔砲が放たれ―
「へったーれ↓」
伊藤誠の妨害技でパワーダウンしたエクゾディアはグラッと揺れ、火焔砲も少し細くなった。さらに、
「風遁・螺旋波動!!」「マジカル引力光線!!」
怪光線と疾風をぶつけられ、さらに細くなり、軌道もズレる。
それでもまだエクゾディア・フレイムは十分な威力と太さを以て究極竜に迫り来る。このままの軌道なら、究極竜の首二本が吹き飛ばされる。究極竜はまだ攻撃出来ない。
(エクゾディア・フレイムは確実に究極竜を破壊するぜ…!!)
「闇に消えろ…!ブルーアイズ!」
「そうはさせません!」
言葉はいつの間にか獲物をグランドソードに持ち替えていて、
「はぁぁああっ!!」
鋭い突き繰り出しながら、火焔砲に向かって跳躍する。
(グランドソードを火焔砲の先端にぶつければ軌道を変えられる…)
そして…バキィンッ!
「くぅっ…!」
言葉の努力は報われた。グランドソードと衝突したエクゾディア・フレイムは大きく軌道を曲げ、究極竜の右翼下を通り抜ける。衝撃に煽られた言葉は着地に失敗しつつも、
「今です!瀬人君!!」
気丈に瀬人に呼びかける。
「よくやった言葉!!」
究極竜の反撃―を前にして、
「誓いの真光!!」
キサラが放った光の下、究極竜の輝きが一層増す。
ただでさえ『タイラント・ウイング』の効果でその銀翼はいつもより大きく力強く羽ばたいている。その姿は、今までの最強・絶美さえも超越した存在のように見えた。
「食らえ魔王!次元を超え、俺達の未来へのロードを切り開く光を!!」
そして遂に、
「ブルーアイズ・アルティメット・バースト!!」
三つ首それぞれから青炎が迸り、それは一筋の光となってエクゾディアに迫った。
「く…よけろ!エクゾディア!!」
魔王は命じるが、それは不可能だった。誠の技で力を削がれ、攻撃後の硬直状態にあった巨人が、この圧倒的な光の奔流から逃れるなど…。
ドゴォォオオン!!
光の奔流を浴びた後、エクゾディアは力なく頭を垂れた。
右腕はでたらめな方向に折れ、
左腕は焼け落ちた。
右足を曲げて膝だけで辛うじて立っていたが、
左足は膝から下が消えている。

「う、嘘だ…嘘だッ!!俺の…エクゾディアが…!」
今、裁きの神は…落ちた。
「何を勘違いしている?まだブルーアイズのバトルフェイズは終了していない!食らえ!追撃の―」
再び究極竜の三つ首の口が輝く―が、
「…ルールを守れないんだね…!」
対する魔王は、ウジャト眼を輝かせた。出来るだけの冷静を装って、最大限の冷酷さをさらけ出して。
「エクゾディアを召喚した者は、闇のゲームの司祭は、必ずゲームに勝利する…!お前達は、そのルールを破った…!」
「えぇ!?そんなの屁理屈だよ!」
こころの反論も聞かない。いや、聞く必要もない。彼からすれば、ゲームの敗者に、ルールを破った者に、そんな権利はないのだから。
「ルールを破った者への罰ゲーム!!償いの瞬間だぜ!海馬!!」
重い腰を上げ遂に椅子から立ち上がった魔王が下した審判は、過去と同じ―
「罰ゲーム!!心の崩壊―」
魔王の三眼が罪人を睨む。
―自分自身を
―!!?
「メデューサの二の舞だ!!」
「マインドクラッシュ―Mind・Crush!!」
カッ―!
「「ぐあああああ!!?」」
何が起こったのか。マインドクラッシュを繰り出す魔王の前に、ミラーシールドを構えた誠が躍り出たのだ。
さすがに全てを跳ね返すことは出来ず、誠は昏倒した。対する魔王は…
ピシ…ピシィ―
彼の目の前に赤い亀裂が走った。ガラスにヒビが入ったような音がする。
『心の崩壊』の罰ゲームで、彼を守っていた最後の砦『心の壁』にヒビが入ったのだ。
そこへ、青き光の砲撃が叩き込まれる。
「アルティメット・タイラント・バースト!!」
二度目の究極竜の攻撃は強烈だった。
裁きの神の屍を跡形もなく蒸発させ、心の壁を粉々に砕き、暗黒のテーブルをかき消し、そして魔王遊戯を…
「うわぁぁああああーっ!!」
吹き飛ばした…。
―空間を包んでいた魔王の黒いオーラが薄れていく中…
「誠君!!」
言葉は昏倒している誠を抱き上げた。
「だ、だいじょうぶかな?」
「性格とか変わってないか心配だぜぃ!」
こころとモクバが駆け寄ってきた時…
「う…あ?こ、言葉…?」
「誠君!!大丈夫ですか!?」
誠は目を覚ました。
「ねえねえ!わたしが誰か分かる!?」
「…こころだろ?何でそんなこと聞く…?」
「じゃあ俺は?」
「…モクバだろ?いまさらだなぁ…」
「良かった…っ!なんともないんですね!誠君!」
「う~ん、ちょっとめまいがするぐらい…かな?」
どうやら無事なようだった。それを遠目で確かめた瀬人とキサラは、魔王の元へ足を運ぶ。
「ぐはっ…けは…っ」
魔王は、髪は乱れ、口から血を吐き、ボロボロの姿で倒れていた。足のほうから身体が黒い液体へと、ドロドロ融け始めている。
「セト様…。これは…もう」「ああ、そうだな…」
もはやトドメは不要だと分かった。そしてあの遊戯とはやはり別人だということも。
「何故、だ…海馬…」
かすれた声で聞いてきた。
「心の弱い…足手まといな…、モクバや、誠…ハンデを背負ったお前に…なぜ俺が…負けた?」
「私やモクバ君が…セト様にとってハンデだとお思いですか?」
「ハンデだと?ふぅん、それを言うなら、遊戯お気に入りの凡骨決闘者や真崎のほうだろうが」
「それは…わかって…いる。だが…お前は…何が…違う…?」
―何故城之内や杏子を足手まといと断じたのか。
「凡骨や真崎、あんな下らん連中との信頼など、どうせもろく壊れやすいものに決まっている。まして貴様らの言う友情など、心の弱い者同士が寄りそい合う、なぐさめ合う愚かなものでしかない…。絶望の闇に墜ちぬよう、互いをつなぎ止める為のな…」
―対して、海馬瀬人を囲む信頼はどうなのか。
「俺はこいつらを裏切らないし、こいつらは俺を裏切らない。絶対にな。そう信ずるに足る者達だ。そうだろう?キサラ」
「ええ…。過去に私たちを傷つけてきた人々、裏切られた過去と、今の私たち六人は違う…それがはっきりわかります」
二人のその言葉には、一切の迷いもぶれもなかった。
「裏切らない…?神に…誓って…か?」
瀬人はそれを、鼻で笑った。
「俺達は神などに導かれはしない。誓うなら神ではなく…俺は己のカードに誓おう!」
すると瀬人は三枚のカードを手にとった。そう、最愛のカードを…
「今まで俺とモクバを導いてきた、そしてこれから先、俺達六人を導く青き炎の化身…ブルーアイズにな!」
―海馬瀬人の周りの五人は、城之内や杏子とどう違うのか。
「俺達六人に弱者など誰もいない。心も、身体もな。そうでなければ、俺が…キサラに惚れるはずもない」
「セト様…」
―絶望の闇に墜ちぬよう、互いをつなぎ止める為のものではないのか。
「俺達は、互いに未来へのロードを、光を目指して進む!現状につなぎ止めるのではない!現状からより進化していくのだ!」
「…わからない。俺…には…、そんな…もの…」
「…だろうな。お前のような、乗り越える過去も持たない者には…な」
「く…くそ…っ」
魔王は悔しそうに唇を噛んだ。
「それを気づかせたのは貴様自身が仕向けた剛三郎や西園寺との戦いだった」
「……」
魔王は黙っている。
「俺と言葉の忌々しい過去を利用して俺達を倒すつもりだったようだが、
逆にその過去を乗り越えて、俺達は強く、魔王たる貴様を倒せるほどに強くなったというわけだ…」
フッと、海馬瀬人が得意げな表情を見せた―
が、
「…何勘違いしてるんだ?海馬」
魔王は死に際にして、瀬人の得意げな表情を崩す真実を語り出したのである。
「剛三郎?西園寺?誰のことだ?俺は魔王だが、まだ口が利ける部下は一人もいないぜ…?」
―!!?
「ば…バカな…!?西園寺も、剛三郎も、魔王たる貴様の差し金だろうっ!!」
瀬人が焦って問いただすも、
「いまさら俺が嘘をついて…なんになる?」
確かにそうではある。しかし…
「じ、自分で『第四の闇のゲーム』と言っていたではないか!」
一つ目が『ソリッドビジョン将棋』二つ目が剛三郎との戦い、三つ目が西園寺世界との戦い…そう瀬人は考えていたのに、
「一つ目が死の体感のデュエル、二つ目がマインドクラッシュのデュエル、三つ目がペガサス城のデュエルだ…」
などと魔王は言い出す。
「ば…バカな…。なら…っ何故!西園寺は!剛三郎は!俺達の前に現れた!?死んだはずの者が!2人も!」
「3人に…しておけ。俺も一応…本当なら…死んでるはずなんだから…」
「それは…魔王の力とやらでは…」
「俺は魔王としてこの世界に召喚されたんじゃないぜ…?この世界に召喚された‘後に’魔王になったんだ…」
そうやって話をしている間に、魔王の身体は半分以上融けていた。その姿は、まるで底なし沼に沈んでいくかのように見える。
「この世界には…魔王である俺にも…わからなかったことがある…。その謎を…読者たる君は解けたかな…?」
また…あの冷たい微笑を浮かべながら、魔王は融けていく…。
「だ、誰と話しているんだ!?」
「フフ…フフフ…フフフフ……」
魔王の冷たく美しい笑い声は、だんだん長く細くなって…消えた。同時に肉体も。ただ謎だけを遺して…。

敵をフルボッコした!

経験値を***手に入れた!

お金を***円手に入れた!


「魔王に勝ったけど…なんにも起こらないね~」
「う~ん、こなたさんが言ってたRPGの鉄則に反しますね…」
魔王が完全に消えたので、皆勝利の余韻に浸り始めたが、魔王から謎を渡された瀬人は釈然としなかった。
「セト様…顔色が悪いですよ?」
「あ、ああ…」
心配するキサラに曖昧な返事をしてから
「キサラよ、お前はあの魔王の話、どう思う?」
彼女の意見を聞いた。
彼女は「そうですね…」と少し唸ってから、彼女なりに考えていたことを話し始めた。
「まず、『死んだはずの人間が三人』と言いましたが、あのムスカという男を入れれば四人になりますね…」
「…確かに。ではやはり奴も言葉に殺されていたのか…?」
「あと、魔王は『この世界に召喚された』と言っていましたが、これは私達六人と同じではないでしょうか?」
「…そうだ。言われてみれば…」
だがそれぐらいしかわからず、しかも憶測の域を出ていない。剛三郎と西園寺の謎は解けなかった。
あと、もう一つ、解けていない謎があるのだ。それは…ドクターSの意味深な言葉。
―この世界では、マジカルハートとの宿命の戦い…いや、ありとあらゆる戦いの真の決着はつけられないということだけは教えておこう―
「ふぅ…ん」
謎について考え続ける瀬人だったが、それはすぐ途切れさせられた。
「兄サマ、心配しなくても大丈夫だぜぃ!」
「モクバ…」
「私達は、きょーじん☆むてき☆さいきょーだもん!」
「桂こころ、それは俺のセリフだったんだがな…」
「大丈夫ですよ、瀬人君。また次の手がかりを探せばいいじゃないですか」
ここで言葉が言う手がかりはもちろん、ピコ麻呂達の手がかりである。
「ふぅん、まあ…そうだな」
「海馬さん!」
誠が右手を上げて、何かを待ちかまえていた。
「…何のまねだ?」
「ハイタッチだよハイタッチ!知らねえの?」
「…知ってはいるが、何故貴様とやらねばならん?」
「お互い頑張ったなーってことで」
(お互い…か。)
誠はキサラを六芒星の呪縛から助けた。瀬人は言葉をカタパルトから助けた。
誠は瀬人に奇跡の方舟を渡した。瀬人はそれでクリボーを破った。
二人でブラック・マジシャンを倒した。
誠が魔王の心の壁を破った。瀬人がそこで魔王を攻撃した。
「…仕方がない。いいだろう」
納得した瀬人も右手を上げて―バシィン!
瀬人と誠のハイタッチで乾いた音が響いた…が、
「~っっ!!ちょっとは手加減しろよ!?」
「ふぅん、俺の知ったことではないな」
ハハハ…と他四人が笑った。
そして…
「モクバ君!私達も!」「おう!」
パシィ!
「言葉さん、お疲れ様でした」「お互い様ですよ、キサラさん」
パシ!
さらに二つ、乾いた音が真赤な夕空の下に響いた…。

―さてこれからどうしようか。とりあえずバハムートまで戻ろうか…などと六人が話し始めた…そのときだった。
「…あら、二人共いたの!?」
突然中空から声がした。反射的に四人が身構えるが、瀬人と言葉は構えなかった。その声に聞き覚えがあったから。
「…八雲か!」
「そ、そうですよね!?」
その声に答えるかのように、中空にスキマが開いて、
「海馬と言葉じゃない!ここにいたのね。丁度良かった!」
と、スキマ妖怪・八雲紫が現れた。さらにその後ろに、
「Foo子です!」
「ほう、貴様も来たか」「Foo子ちゃん!」
さらにその後ろには…
「はにゅー!!」
垂れ耳のような角が生えた幼い巫女も現れた。
「「…だれ?」」
「…え?ボクが見えるのですか!?」
「いや、あの…見えてますよ、ねえ?」
言葉が他五人に同意を求めるように顔を向けると、コクンと頷いた。
「あうあう~!やっぱりアレは本当だったのですよ~!!」
一人で勝手にはしゃいでいる羽入だったが、
「てかあんたら三人さ…結局、何者だぜい?」
「ピコ麻呂って人達の仲間なの~?」
モクバとこころに質問される。誠とキサラも明らかに何か聞きたげだったので…
「あうあう!ボクたちはですね…」
羽入とFoo子は、四人への説明係に回った。
一方、紫・瀬人・言葉の三人は…
「八雲、他の面々はどこにいる?」
「ニコニコのある場所に、あなた達二人以外は全員集まっているわ」
ヒトデによる連絡で、彼女は22人がミステリアスパートナーを撃破し、無事合流を果たしたことを知っていた。
「みんな無事なんですよね?」
「ええ。二人も、無事で何よりだわ」
紫はにっこり微笑んだ。
「じゃあ、八雲さんの力でみんなと合流出来るんですよね?」
そう言葉に聞かれると、紫は深刻そうな表情で、
「もちろんだけど…その前に、私達三人にはやらなきゃいけないことがあって、それと平行して二人に頼みたいことがあるんだけど…」
と、言ってきた。それに対して二人は
「訂正しておけ、六人だ。俺は構わんぞ。俺達六人の力を以てすれば、魔王すらも恐れるに足りんからな!」
「そうですよ。私達に任せて下さい!」
瀬人と言葉は二つ返事で了承した。

―未来へのロードがあれば
―生きる覚悟を決めれば
―絆を信じあい、守りあえば
―負けるはずがない
―恐れるものは、何もない!

「…ありがとう。恩に着るわ」
「…で、頼みたいことって、何ですか?」
八雲紫が依頼、それは…
「この世界についてのことなんだけど…」
この世界―剛三郎や西園寺がいた世界―について、瀬人は疑問に思っていたので、
「八雲、貴様はこの世界についてどれだけ知っている?」
と、聞いてみた。すると…
「全て…わかっているつもりよ…」
丁度その時、羽入とFoo子と四人の話も終わった。そしてスキマ妖怪は六人が耳を傾ける中、語り始める。

この世界の正体を、
瀬人を悩ませた謎の答えを、
六人への依頼を。

だが…それが導く、あまりに残酷な運命と真実を…この時誰も知らなかった。


青眼の聖女だけは、心のどこかで杞憂していたことだったが…。







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最終更新:2010年07月11日 10:29