チンパンジー保護作戦 ◆0RbUzIT0To




この地に降り立って早々、不幸にも追われる身になっていた。
俺何も悪い事してないのにいきなり追われてた。
支給品とか確認してる暇もねぇ、速攻でだ。
考える暇もなく、追われれば当然逃げる。
この追い方は絶対に友好的なそれじゃねぇ、大体無言で追ってくるとか怖い。
……しかし、29歳にもなって全力で走る事になるとは思わんかった。
もうどれくらい走ったかわからんけど、いい加減体力的にキツい。

気がつけば後ろから追ってくる者の足音がより近づいているような気がする。
そりゃ自分の体力に自信など無いが、幾らなんでも速すぎだろ?
だってさっきまでは20メートルぐらい離れて……。

「ぬおわっ!」

後ろを振り向いて距離を確認しようとしたら、思い切り転んだ。
そのままの勢いで壁に激突、背中を思いっきり打つ。
ああもう、めちゃめちゃ痛い。
……って、んな事考えてる場合じゃねぇ、さっさと起き上がって逃げ――。

「……れたらよかったのに」

顔上げたら追ってきてた男がそこにおった。
暗くてよう見えんけど、帽子被ってるのだけわかった。
っていうか何これ、何するつもりだよコイツ。
なんか右手にバールのようなもの持ってるんだが、思い切り振りかぶってるんだが、
っていうか無言!ここまでこいつ一言も発してない!
無口の極み!そして俺もう完璧に詰み!詰んだ!
だってもう振り下ろしてるもん、バールのようなもの!

「ひろゆき助けてぇぇぇぇ!!」


ガキィンッ!

………………。

ああもう、死んだんかな俺。
いきなり殺し合いせぇとか言われてわけわからんとこに連れてこられて、
それでいきなり知らん奴に襲われてバールのようなもので殴りコロ助か。
ようやっと公式HPも作ってこれからだって時に死亡とか、
まぢ笑えんのだが……。
それにしても、バールのようなもので殴られるとガキィンッて音するんだな。
もっとこう、グシャッとかメチメチッとかそういう感じだと思ってたわけだが……。

「寝てないで、早く起きて下さい!」
「うお!?」

頭の上から思いっきり声かけられた、
っていうかなんか怒ってるぞこの声色とか!
しかもこの声……。

「おにゃのこ!」

なんかスーツ着てるおにゃのこが鉈持ってバールのようなものを受け止めてた。
つーか俺地面に寝転がってるからこの角度だと丁度スカートの中の奥とか見えちゃうぞ、
不可抗力ってやつだけどな、うん、不可抗力。
顔もよく見えてないからまだ得か損かわかんないしな。
しかしあれだ、めくりたくなるようなパンツ履いてるな。
……って、そんな事長々と考えてる場合じゃねえな。
このままじゃまぢやばい、なんかおにゃのこが助けてくれたみたいだけど、
どう考えても力負けしてるし、詰み確定。

「くっ……この……」

なんかバールのようなものと鉈がガキガキ音鳴らしてるけど、
押されてる方が言う定番の台詞をおにゃのこが言ってる事を考えるとやっぱ詰み。
結局駄目だなこれ、死んだ。
せめて死ぬ間際に頭上のパンツだけでも拝んでおこう。
それにしてもこのパンツ、まぢめくりたいんだが。


―――勇んで出てきたはいいものの、完全に押し負けてる。
確かに力技は私の苦手な分野だけどそれでもここまで押されるとは思わなかった。
本当なら隙を作って一緒に逃げ出すつもりだったけど、この状況じゃそれもちょっと厳しいかもしれない。
デバイスがあれば……せめて、銃器でもあればいいのに。
よりによって鉈しか武器がないなんて、こんなの私には到底使いこなせない。

こうなってくると、今私の下で寝転がってるこの男性にも少しだけ怒りが沸く。
戦う術を持たないのであろう民間人らしき男性は未だここから逃げようともしない。
腰が抜けたのか諦めたのか……わからないけど、全然動こうともしない。
これじゃあ私が出てきた意味が無いじゃない。
せめてさっさと逃げてくれないと、このままじゃ二人とも……

ガスッ!

「あうっ!」

油断した……!
手に持っていたバールを食い止める事ばかりに集中して、他の事にまで気を回している暇が無かった。
腹を思い切り蹴られて吹き飛ばされ壁にしたたかに打ち付けられて、背中を強打する。
痛いけど……倒れっぱなしではいられない。
追撃とばかりに振り下ろされるバールを避けて、鉈で横に薙ぐ。
が、それもバールで受け止められる。

駄目だこのままじゃ……。
確実に押されてるこちらに対して、敵は汗一つかいてない。


「くっ……あんた、何でこんな事……。
 あのピエロ達の口車に乗せられて、馬鹿じゃないの!?」
「……最速クリア」
「はァ?」

息も乱さず、冷淡に目の前の男は言った。
クリア? どういう意味よ。

「殺戮ゲームの最速クリア……」

まるで、それが自分がやるべき当然の事のように男は言う。
殺戮ゲームって……確かにあいつらが言っていたような気がするけど、
それじゃあ、目の前のこの男は……。
そのゲームを最速でクリアする為に、人々を殺そうとでも言うのか。

「……やっぱ来てよかったわ。
 あんたみたいな殺人狂、放っておける訳が無いもの」

こんな奴をのさばらしておく訳にはいかない。
この状況をゲームだなんて言うこいつは、どうにかしてここで戦えないようにしてしまわないと。
真っ向勝負だなんて得意じゃないけど、でも、逃げるなんていう選択肢はもう消えうせた。

……問題はどうやってこの戦いに勝つかだけどね。
啖呵切ったはいいものの、明らかにこっちが劣勢だ。
助けが来るだなんてラッキーな事、期待なんて出来るはずがない。
魔法も使えない、こっちの武器はこの鉈一本のみ。
それに比べてあっちはバールしか持ってないものの、身体能力は明らかに私より上だ。
もしかしたらスバルと同等……ううん、それ以上かもしれない。


「おじさん、あなた支給品は!?」
「あ!? おじさんって俺か!」

なんか不満そうだけど無視。
今は時間が無い。

「何か支給品で役に立ちそうなの無いの? 武器か何か」
「知らん!まだ見てない!」
「じゃあ早く見て! 早く!!」

さっきから思ってたけど、この男性何かがおかしい。
受け答えがはっきりしているし、怯えてるわけでも逃げようとする訳でもない。
かといって私の助けをしようという気も全く無くて、自分は寝転がってるだけだ。
おまけにこの状況に至ってもまだ支給品を確認していない。
ともかく、今はその確認をしていない支給品に賭けるしかない。

「えーと、これはコッペパン……」
「食料とかの確認はいいから!」


こっちは急いでるっていうのに何のん気な事してるのか!
こうしてる間にもバールを受け止める鉈を持つ手がジンジンと痺れてくる。

「あーと……なんぞこれ。
 あーん? どうなってるんぞ?」

今度は何か見つけたらしいが、それを色々な角度から見てるだけで使おうとも私に渡そうともしない。
脳裏に、いつの日か見た記憶のある知恵の輪渡したチンパンジーの図を思い出した。

「ああそうか、こっちがこれのな……うん」
「あんたさっきから何やって―――」
「怒りな、もう終わった」

いい加減苛々し始めた私の言葉を遮るチンパンジー……否、男性。
何かあったのかと、聞き返そうとした瞬間、
男性はいきなり私の腕を掴んだ……って、そっち鉈持ってる方じゃない!
なんでよりによってそっち持つのよ、このままじゃ――。


後に残ったのは一人の男。
手に持ったバールは酷使した為か若干の傷が残っている。
しかし、血は付着していない。

「……消えた」

あの瞬間、腕を掴まれた女の顔にバールを叩き込んだと思った瞬間。
二人の獲物は消え去った。
いや、消え去ったというよりも飛び立った?
不思議な事だが、男が何か道具らしきものを持っていた事を考えると、
その道具による効果なのかもしれない。
もう少しで殺せたところを、あの男のせいで台無しにされた。
やり直しは効かないこのゲームで失敗をする事が、
どれだけ自分にとって屈辱であるか。

「……次は確実に殺す」

失敗を悔いている暇すらない。
呆然としている間にも時計の針は進んでいるのだ。
強制的に移動範囲を制限させられるならともかく、自由に動けるのならば自分に止まっている暇はない。
何故なら、自分は最速クリアをする為だけにいるのだから。

TASさん 生存確認】
【3-E 街西部】
TASさん@TAS動画】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの
[道具]:支給品一式、他未確認支給品?
[思考・状況]
1:殺戮ゲーム最速クリア


「……で、なんでこんなとこに飛んできちゃったのよ」
「知らん」

なんか知らんけどおにゃのこが怒っている。
ちゃんと言われた通りに支給品を調べて、役に立ちそうなもんを見繕って使って、
しかもそれでちゃんとあの場を切り抜けれたってのに、
何を怒るのかが訳がわからんわけだが。

「……あんな人間を放っておいたら、またあんたみたいに襲われる人が出てくる。
 だから、あいつをどうにかして、二度と襲えないような状況に持っていかなきゃいけなかったのに」

二度と襲えないような状況に持ってくってどういう意味かがようわからんのだが。
いきなり襲ってきたから説得なんて到底出来ん思うし、
だとすると腕縛ったりして動けんようにするとか……殺すとかか?

「……殺しは、しないつもりよ。
 殺したりしたら、あのピエロ達の思い通りじゃない」

思い通りとかそういうのはどうでもいいんだが、殺すつもりはないらしい。
なら、今こうしてこのおにゃのこと一緒にいる俺もひとまず安心って事か。

「あんたはどうなのよ、助けたはいいけど……あんたもあいつみたいに人殺しなんてしようと思うわけ?」
「知らん」
「知らん……って!」
「生きたいけど人殺しにはなりとうないが。
 ビックリマンチョコとか箱で盗んだりしよったけど、流石に人まではよう殺さん……」
「盗み!?」

あ、いかん!


「嘘嘘、嘘ぞ! 今の全部嘘!
 もうあれだからな、知らんってとこから嘘だから!」
「あんたねぇ……」

もういかん、完璧に疑われとる。

「ともかく……殺すつもりは無い訳ね?」
「おお」

っていうか殺せんだろうしな。

「で、あんたはこれからどうするつもりなのよ」
「死にとうない」
「そりゃわかってるわよ! 具体的にどうするかって事!」
「……煙草が欲しい」

ここに来てまだ一本も吸ってないんぞ、俺。
だからそんな呆れた顔するなよ、そういや口調も最初に会った時から比べてだいぶキツくなってないかおい。

「私は仲間を探すつもり、またあんな奴が出てきたら勝てるかどうかもわからないし、
 それに、人が集まればなんとか殺し合わずに済む方法も見つかるかもしれないもの」
「あーほーなん」
「……いい加減殴るわよ」

だって興味無いもん、そんな話。
今はそんなんよりも煙草だ煙草。


「……まああんたがどうしようと関係ないけど、放っておいて死なれても気が悪いし。
 一緒にいてあげてもいいわよ?」
「あんま動き回りたくないんだが」
「………………」
「ああもうごめんて、行くよ行く行く!」

だからその握り拳やめや!

「……それじゃここ降りるわよ、いつまでも留まってなんかいられないわ。
 でも、注意しなさいよね。
 さっきまでいた場所とそう距離が離れてないから、まだあいつと出くわすかもしれない……」
「わかっとるが!」

しかしどうでもいいが、性格キツすぎやないか。
これで顔がよくなかったらマジコロ助だよ。
冗談抜きに。

高いとこにおるから風がきつい。
高すぎて遠くまで見えるし。
いや、暗いから何があるかまではようわからんけどな。


「……名前」
「ん?」
「そういや名前、まだ言ってなかったわね。
 私、ティアナ=ランスター」

そう言って右手をすっと出してくる。
……なんだ、罠じゃないだろうな?
握ったりしたら10万ボッタとかまぢにありえそうで怖いんだが……。
なんて迷っとったら思いっきり不審な目で見られてるし。
しゃあない! 10万ボッタされてもそん時はそん時だ、行け、俺の左手!

「あんたねぇ……」
「……あ」

相手が右手出してこっちが左手出したら、なんかおかしい形になった。
俺の左手が相手の右手を覆うように優しく握る。
……おいとっと待て、これなんかで見た事あるぞ。

――永井浩二
本名:竹本源五郎
通称:愛媛のチンパン

――果たしてネット上のカリスマチンパンジーは見事この殺し合いの舞台を打開する事が出来るのか。


永井浩二 生存確認】
【ティアナ=ランスター 生存確認】
【E-4 塔屋上】
永井浩二@永井先生】
[状態]:基本的に健康だがニコチン不足
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、強制脱出装置@遊戯王(次の0時まで使用不可)、他未確認支給品
[思考・状況]
1:煙草欲しい
2:死にたくはない

【ティアナ=ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikers】
[状態]:腹部・背中に鈍い痛み、時間が経てば治る程度
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:殺し合いに乗っていない人達を集める
2:その後、どうにか殺しあわずに済む方法は無いかを考える
3:人殺しはしたくない

【残り 70人】



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  ティアナ=ランスター sm44:浩二君です
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最終更新:2018年05月16日 09:16