難題「何故、類は友を呼ぶのか」 ◆CMd1jz6iP2
草原を走る二つの影。
カイバーマンと亜美は、並みの人間なら追いつけないであろう速さで走る。
やよいは、亜美の背中におぶさっていた。
「やよいっち、大丈夫? 腕、痛まない?」
「うん、平気。それより、亜美……凄いよ。本当に力持ちになってるんだ」
「ふぅん、ヒゲが生えた分のメリットと考えれば、悪くはないな」
走って城に向かっていた途中、やよいが辛そうなのにカイバーマンは気がついた。
背負ってやろうかと思っていると、亜美が背負うと言い出したのだ。
何を言っているのかと、二人は顔を見合わせたが、緑の帽子か、
オメガモンという
仲間の形見の腕輪、そのどちらかの効果で、身体能力が上がっているのだと聞いて納得した。
「やよいを背負っても、俺と同じ速さを維持できるのか。どうやら、持久力までも上昇しているようだな」
そうして、走り始めて城が見えてきたところで、死体を見つけてしまう。
「くそっ、ここにも犠牲者が……」
「うう、酷いです……」
道下の死体に、置いてきた魔理沙たちのことを不安に思い始める一同。
「あれ、これって……この人の?」
亜美が道下のディパックに気がつき、拾ったのとほぼ同時に……放送が始まった。
「馬鹿な……魔理沙、お覇王……お、おのれぇ!!」
「嘘……どうして、どうして!」
「そんなぁ……魔理沙さん……まこちんも……!」
流れた放送に、一同はショックを隠せなかった。
ほんの少し前まで一緒だった仲間の死。あの時、残るべきだったのではと後悔する。
「
YOKODUNA……あの男の名前は、呼ばれていない……追ってくるかもしれん」
その言葉に、呆然としていたやよいと亜美も、後ろを振り向く。
「お兄ちゃん、戻りましょう! 私……あの人のこと、許せないです!」
「落ち着け、やよい。その感情こそ、あの腐った道化師共を悦に浸らせる。
それに、戻ってどうする。俺も、あの二人が何も出来ずに負けたとは思わんが……」
「だ、だから、戻って……」
やよいの言葉を、カイバーマンが遮る。
「俺達が認める強さを誇る、あの二人を殺した男を……これ以上の犠牲無しで倒せると思うか?」
「あ……」
やよいの頭が、ようやく冷静になる。
「俺とて、馬の骨や一般人相手なら負けはしない。亜美の向上した身体能力ならば、相手になるかもしれん。
ことのはの力も合わせれば、勝つことも不可能ではない。……犠牲を払う覚悟があるのならな」
勝つだけが目的ならば、戻って戦うのもいいのだろう。
だが、あくまで彼らの目的はゲームの破壊、主催者の粉砕。
「命の賭け所を間違うな。魔理沙とお覇王が死んだ今、俺達があいつらの意志を継がねばならない」
「……それには、霊夢さんと合流、ですね?」
「だね! 兄(c)良い事言うじゃん!」
カイバーマンは二人の後ろに移動する。
「霊夢は無事なようだ。追ってくる前に、城へ向かうぞ。しんがりは俺に任せろ」
そうして再び、カイバーマンたちは城へと走り出した。
放送は、霊夢たちにも大きな衝撃を与えた。
「……魔理沙」
「仲間か……ちっ、参加者も半分近くになっちまったな」
「霊夢さん……」
食事を終え、橋に向かう準備をしていたところ放送は始まった。
そこで呼ばれた、友人の名に霊夢の思考はしばらく停止していた。
『マスター……大丈夫ですか?』
「意外と堪えてる……自分でも意外なくらい」
魔理沙と霊夢は、数多の事件を解決してきた。
今回も、お互い当然のように乗り越えられるだろうという、根拠の無い想像があった。
それでも、霊夢は取り乱すことはない。
「幻想郷に帰ったら、少し静かになる……そ「霊夢さん、誰か来ますよ」チッ……」
ヨッシーは落ち込む暇も与えない。わざとか、それとも緑の奴は総じて空気が読めないのか。
「感傷に浸る暇はないってことね……あら、あれは……」
「どうやら、あっちから来たみたいだが……なんで走ってるんだ?」
城の窓から覗くと、近づいてくる人影が見えた。
あの奇抜な服から、カイバーマンだと分かったが、なにか余裕が無いように見える。
「後ろばっかり見て……どうしたんでしょうね、追われてるわけじゃあるまいし」
「「それだ!!」」
霊夢は窓から飛び出し、外へと向かう。
「おら、恐竜! 早く霊夢の奴を追え!」
「何がなんだかさっぱりです……」
怪我をしている日吉は、事態を把握できていないヨッシーに跨り、外へと急いだ。
外に出た一行は、走って来た三人を城へと誘導して、中庭へと来ていた。
中央に火をつけ、濡れた服を乾かす。
この際、カイバーマンは全員に始めて素顔を晒した。
「お兄ちゃん、カッコイイです~」「意外とまともな顔ね」などの評価に
「ふぅん、当然だ」と返す海馬。
霊夢は褒めてないが、海馬は気がつかない。
やよいは服が乾くまで、元々の海馬のコートを借りた。
包帯はなかったが、寝室に大量にあったシーツで代用することが出来た。
「ふぅん、経過はいいようだな。これなら、治りも早いだろう」
マキシムトマトを食べたためか、やよいの腕の治りが良くなっているようだった。
亜美は変わらずヒゲだった。
服は、帽子を被りなおしたら乾いた。
やよいが急いでシーツで隠さなければ、また全裸を晒していただろう。
「裸になるの、忘れてたよ……てかさ、気絶してた私にイタズラしてないよね?」
「あ、あったりまえじゃないですか! ねぇ、お兄ちゃん!?」
海馬の足を踏みながら、やよいが笑顔で答える。
(お兄ちゃんって……ああ、やっぱりそういう趣味なの)
そのことには触れず、霊夢は亜美の帽子と腕輪を調べる。
「この帽子から、強い呪いが滲み出てるわ。でも、もっと凄いのは呪いを完全に打ち消してる、この腕輪の方ね。」
「そっか……やっぱりオメガモンのおかげだったんだ」
霊夢は解呪をしてみるかと亜美に尋ねたが、服がなくなるのは困るからと断った。
(……ヒゲはいいのかしら)
「そう、日吉と戦ったYOKODUNA……魔理沙を殺したのもそいつなのね」
けいこの墓に、やよいを先頭に黙祷を捧げる。
その後、これまでの経緯を聞き(聴かれると不味いことは筆記で) 、情報を整理していた。
「くそっ! やっぱりあいつは、絶対に潰さないとならない存在らしいな」
「そこまでの力の持ち主だったか。やはり、無理やりでも魔理沙を連れてくるべきだったのかもしれん」
「無理よ、そういう性格じゃないもの。……じゃあ、行ってくるわ」
霊夢が立ち上がる。
「れ、霊夢さん? ど、どこに行くんです?」
「決まってるわ。YOKODUNA退治よ」
予想された答えだったが、全員に緊張が走る。
「霊夢、勝算はあるのか?」
「魔理沙のことは知っている。どうやら、その魔理沙は私の知ってる魔理沙みたいだし。
……それなら、死ぬ前に相手を手痛い目に遭わせてるに違いないわ」
カイバーマン……否、服を脱ぎ、
海馬瀬人へと戻った彼の問いかけへの答えは、勘だった。
「信頼してるんだな。で、弱った今がチャンスだと?」
「ただの勘よ。皆はここで待って……」
ヨッシーが、霊夢の進む先へと進む。
「じゃあ、乗ってください霊夢さん」
「ヨッシー、残った方がいいわよ。安全は保障できないから」
「大丈夫、戦いになったら逃げます。それに、戦うまで体力は温存した方がいいですよ?」
ヨッシーの言うことはもっともだ。……逃げるのはどうかと思うが。
「それじゃあ頼むわ、ヨッシー。海馬、私のことは気にしないで動いて。YOKODUNAの行動次第で、戻れないかもしれないから」
「しばらくはここにいるつもりだ。移動する場合は、この部屋にメモを残しておこう」
首輪の分解をする件もあるが、夜も近づいてきた今、休息も必要だった。
日吉が、ヨッシーに何かを手渡す。
「おい、恐竜。これを持っていけ」
「なんですこれ……おいしくなさそうですけど」
「食うな、爆弾だ。城で使えそうもないし、お前が持っていけ。俺も行きたいところだが、対して役に立てそうもない」
マカビンビンを飲んでも、YOKODUNA相手にこの体で挑んでも、足止めにもならない。
ならばと、YOKODUNAとの戦闘経験のある日吉は、霊夢に出来る限りの助言をする。
「あいつは、気合のはちまきを持っているはずだ。間違いなく殺したと思っても、油断するなよ。
使うことはないと思うが……このレイジングハートみたいな、喋る武器にも、念のためな」
『聞いた形状から、クロスミラージュだと思われますが、人格がまるで別物です。
おそらく、AIにバグが発生したか、話にあった別世界のデバイスかもしれません』
「どう来るとしても、楽に勝てる相手じゃないでしょうね」
その間に、ヨッシーはやよいと話をしていた。
「そうだ、このボールあげます」
「これってモンスターボールですよね。どうして……?」
これから危険な敵と戦いに行くのだから、何よりも必要なはずなのに、なぜ渡すのか。
もしや、この中にも「ことのは」のようなポケモンでも入っているのかと、やよいは緊張する。
「この中に入ってるのは、
オクタンってポケモンなんですけど……タコなんです」
「タコさんですか? ええと、それで?」
「見てると、お腹が空いちゃうんですよ」
やよいは素直にボールを貰った。
話を終えて、準備を整えた霊夢は、今回も海馬から紙を貰った。
それには、海馬が反撃の砦になるであろうと言っていた船に、確実にゲームに乗っている人間が潜んでいること。
YOKODUNAの姿が無かった場合、そちらにいる可能性も考え注意しろということだった。
余裕もあれば、その殺人者についても対処したいところだと、霊夢はヨッシーに跨りながら思う。
『YOKODUNAを倒したら、魔理沙を弔う前に船を調べないと安心できないわね』
『私は、コンピューターに興味があります。何か情報を得られるかもしれません』
『ふぅん、レイジングハートの解析能力も、脱出へのロードを更に輝かせる』
『なら、
KAS好みにバグってるデバイスも、原型が残ってたら回収しておくわ』
「それじゃ、また会えることを祈ってるわ」
霊夢はヨッシーと共に、城を後にした。
外は、既に太陽が沈み、暗くなりはじめていた。
【D-1 草原/一日目・夜】
【
博麗霊夢@東方project】
[状態]:健康、バリアジャケットの腋部分破損
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、巫女風バリアジャケット@巫女みこナース
[道具]:支給品一式(食料1消費)、フリップフラップ@ニコニコキッチン、
首輪、ドリル@ミスタードリラー、メモ用紙(150/200)
[思考・状況]
1.YOKODUNAを殺す。その後、余裕があったら船を調べる。
2.怪しい人には無理のない程度に接触、無害なら適当に交渉
3.今回の事件の解決(主催者の打倒)
4.クロスミラージュの確保(YOKODUNAを消し飛ばす際に無事なら)
5.お兄ちゃんねぇ……やよいから、離すべきだったかしら。
※メモ用紙を海馬たちにいくらか渡しました。
※日吉戦でのYOKODUNAの能力について、日吉から聞きました。
【ヨッシー@スーパーマリオワールド】
[状態]:健康、軽く焦げてる
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料全消費)、RPG-7(残弾5)@GTASA、C4プラスチック爆弾@MGS [思考・状況]
1.とりあえず霊夢さんに協力
2.戦いになったら避難する。
3.ボスを倒す
※霊夢は日吉をかなり丈夫な一般人だと認識を改めました。
※ヨッシーは
KASをどこかの世界のマリオと思ってます。
TASと関わっていません
※カイバーマンたちとの情報交換をしました。霊夢は大方把握しています。
書斎に移動し、しばらくは4人で会話を続けていた。
重要な話は全て霊夢がいた時点で済ませてあったので、これからについて話し合った。
「あの……ちょっといいですか?」
筆記で話すときの、怪しまれぬための適当な会話……それとは違うやよいの声に、三人が注目する。
「どうした?」
「あの、その……真さんを、埋めちゃ駄目でしょうか?」
その言葉の意味を理解できたのは、海馬のみで、日吉と亜美は首をかしげる。
「真……さっき呼ばれた、仲間か?」
「やよいっち、気持ちは分かるけど……どこで死んだのかも、わからないんだよ?」
突然何を言うのか、という二人に海馬が説明する。
「真は、快楽殺人者に殺害されたらしい。船で、カバンに詰められた頭部を発見した」
驚く二人だが、確かに先ほど霊夢がいたときの情報整理の際、船に危険人物が乗っているとは聞いていた。
首のことは、亜美のことも考えて霊夢にのみ伝えていたが、真の死を知った今、隠すことはないだろうと、やよいは考えたのだ。
「……持って、きてるの?」
「今、このボールの中に入ってます。出しますから、驚かないでください」
やよいが、モンスターボールを開放する。
中から出た、生首を持った「ことのは」が現れる。
「ひっ……まこち……ん?」
顔面蒼白になった亜美は、その首の顔を見て、おかしいことに気がつく。
「こ、この人……まこちんじゃ、ないよ?」
「うう~、多分違う世界の真さんだと思うんです」
微妙に違う世界から呼ばれている可能性。亜美と日吉も聞いてはいたが、亜美はやはり訝しげだ。
「そりゃあ、まこちんは男っぽいけど、これ完全に男の人じゃない?」
「でも、真さん呼ばれましたし……」
「どっちでもいいが……こいつ、首離さないぞ」
ことのはは、首を取ろうとした日吉から、首を守るように抵抗していた。
「ことのはさん……その首は、ことのはさんの本当のマスターとは似てるだけで、別人なんですよね?」
ことのはは、首を縦に振る。
だが、これほど好みのヘタレ顔が、そうそういるはずも無い。
マスターに会える保障が無い以上、ことのはは、このヘタレ顔を手放したくはなかった。
「だったら、もう休ませてあげましょう? 死んだ人は、もう笑いません、怒りません。
けいこさんみたいに、ゆっくり休ませてあげないと……その人が可哀想です」
やよいの言葉に、ことのはは苦悶の表情を浮かべた生首を見る。
その表情は、絶望と後悔が入り混じっている。
だが、ありえないのに……カバンから出したときより、苦しそうな表情に見えてくる。
「埋めてあげた方が、その人も喜びます。私は嫌です、ずっと持ち運ばれるなんて……
ことのはさんは、それで良くても、この人は……きっと嫌がってる」
やよいの言葉は、ことのはにとってショックでしかなかった。
もし、この首がマスターならば、ことのはは永遠に離さない。
世界の果てまでボートで、誰の邪魔も入らない場所まで行くだろう。
だが、やよいはそれを否定し……単なる自己満足だと切り捨てた。
そして、これは似ていてもマスターではない。
先ほどまでの、首への執着が崩れていく。
「でも……人って死ぬとこうなるんだね……真美も、こんな風に酷い顔になってるのかな」
ふと、亜美は死んだ真美がこのような無残な姿を晒しているのではと、ポツリとつぶやいた。
「何?」
海馬は、その言葉に生首の眼を見る。見開かれた眼の瞳孔は、完全に濁っている。
「海馬さん、どうかしたんですか?」
「……俺も知識の上でしか知らないが……眼の白濁は、時間経過によって酷くなる。
素人の見立てに過ぎないが、この首が切断されてから……少なくとも一日は経過している」
一日は経過している。その言葉の意味を初めに理解したのは日吉。
「海馬さんの見立てに、かなりズレがあったとしても……この6時間より前に死んでるってことですね?」
「ええっ、それじゃあ……放送が嘘って事ですか?」
「その可能性は低い。現に、けいこと
削除番長は、死んだ後の放送で名を呼ばれている」
そうなると、この首は真さんじゃない別の参加者である可能性もあるが……
「じゃあ、この人は誰なのかなぁ?」
「それについて……今思いついた、仮説がある」
海馬は、ディパックから棺桶を取り出す。
「うっわ、すご! 随分大きいのが入るんだね~」
「なんです、棺桶?」
ことのはを含め、全員が棺桶に注目する。
「この棺桶なのだが……やよい、開けたことがあるか?」
「ううん、ないけど……お兄ちゃん?」
「もっと早く疑問に思うべきだった。この棺桶の正式名称……「盗賊の棺桶」の意味に」
今度は、日吉も首をかしげる。
「……「盗賊」とやらが入ったまま、支給品として配布された可能性がある」
その意味に、三人に戦慄が走る。死体が、支給品として?
つまり、この首も支給品ではないのか、という疑問を持ったらしい。
「……開けるぞ」
カイバーマンが、棺桶をゆっくりと、ゆっくりと開く。
それを、三人は息を殺して見つめる。
蓋が、完全に開く。
「ウ ソ ダ ッ タ ン ジ ャ ナ イ デ ス カ
ナ カ ニ ダ レ モ イ マ セ ン ヨ ?」
ことのはの言うとおり、死体はなかった。
「……俺の、考えすぎだったか」
「中に、誰かいればよかったわけでもないですけどね」
「これが誰でも、まこちんが死んだのは変わらないしね……」
沈んだ空気の中……ことのはが、やよいに首を渡す。
「いいんですか? ……じゃあ、一緒に埋めに行きましょうか」
これがマスターと別人である以上、やはり持っているべきではないと思ってくれたようだ。
けいこ達が埋まっている中庭まで行き、小さく穴を掘り、首を埋めた。
やよいは、けいこの墓を少し見ていたが……すぐに、穴を掘り始めた。
ことのはは、考えていた。
なぜ、大事な首を埋めているのかと。
マスターと一緒になれないなら、彼のように首だけでも一生持ち歩きたい。
それを、他人がどういう眼で見ようとも、関係のないことだった。
だが、やよいは……ことのはに奇異の眼を向けなかった。
純粋に、この首の持ち主を休ませてあげたいと、本気で思っていた。
ことのはにも、わかってはいた。首は、ただの肉塊だと。
現に、
永井けいこは……土の下に埋まっているというのに、やよいの心を支え続けている。
死体がどこにあるかなど関係ない……彼女は、やよいと共にある。
「ことのはさん、行きましょう」
やよいの言葉にことのはは従い、歩き出す。
心を病んでいることのはに、やよいの言葉を全て受け入れることは出来ない。
それでも、けいこがやよいの心の支えとなったように、彼女を助けたいという思いはある。
彼女を守りたい気持ちは、けいこにも海馬にも負けないのだから。
「あれ?」
やよいは、ことのはの顔を見つめる。
いつもの虚ろな顔だった。
(気のせいだったのかな……一瞬、すごく綺麗な眼に見えた気がしたけど……)
何度か見直すが、結局いつもの怖い虚ろな顔だった。
「お兄ちゃん、埋めてきました。後、服も乾いてましたから、持ってきました!」
「そうか、そこに置いてくれ」
もう着替えていたやよいは、カイバーマンスーツを、借りていた上着と一緒に置く。
「それより、棺桶だが……こんなものが入っていた」
海馬の手には、大きな針と、葉っぱが握られていた。
「えーと、武器ですか?」
「どうやら、この針には毒が塗られているらしい。使えば相手を殺すことになるな」
ディパックにしまう。あまり積極的に使う気はないらしく、やよいも安心する。
「そっちの葉っぱは?」
「わからん、ただ紛れ込んだだけかもしれんな。俺には皆目見当も付かん」
「あっ、なら貰います。捨てるのはもったいないですし」
やよいのスキル発動、海馬から葉っぱをゲットした。
「たしかに、今はくだらない物でも有効に使うべき時だからな、その考えは悪くない」
そこで、やよいは部屋に二人の姿がないことに気がつく。
「日吉さんと亜美は?」
「二人には、見晴らしのよい部屋に移動してもらった。交代しながら、外の監視をしてもらうつもりだ」
「あっ、それならことのはさん。よければ、二人を手伝ってきてくれますか?」
ことのはは、頷き、海馬から二人がいる部屋の場所を聞いて飛び出していった。
「うう~……みんな、やれることがあって凄いですー。私にも、亜美みたいな、すっごいパワーがあればよかったなー……」
けいこに助けられたというのに、自分は何も出来ていないと嘆く。
「やよい、確かにお前に力はないが、何の役にも立っていないわけではない」
「えっ?」
海馬は言葉を続ける。
「お前が、城で泣き続けていただけならば、俺はお前とは出会わなかった。
ことのはの力なくば、TASを撃退することも出来なかったかもしれない。
日吉の身の証明をお前がしたから、霊夢は日吉と合流できた。
町で、悲鳴を亜美のものだと気付くことなどできなかった。
どうだ、これ以上望むのは、欲張りすぎだと思うがな」
「お兄ちゃん……」
ガラにもないことを言ったと、海馬は机に座る。
「そっ、それでもまだ不満というのならば……お前はことのはと仲が良いだろう?」
「どうでしょう……結構仲良くなったなーとは思うんですけど」
やよいの心に、出会ったとき感じていた、ことのはへの恐怖は、ほとんどなかった。
生首を持っていたときは、恐怖を思い出すものがあったが、それだけだった。
「俺は、仲間だとか絆など知ったことではない。だが、お前のようなタイプなら、それらを糧に、ことのはの力を100%以上引き出せると思っている」
「そんな力、私にあるんでしょうかー……」
「俺が言うことに間違いなどない。ふぅん、もっと「兄」を信用することだな」
やよいは、少し何かを考えていたようだが、すぐに明るい顔を見せる。
「おに~いちゃん! ハイタッチ!」
「ん……う、うむ」
やよいのあげた手にパンっと合わせる。
「うっう~! 私、頑張ってホームランしちゃいます!」
「そ、そうか……なんだかわからんが、頑張れ」
「なんかわからないけど、頑張ります! あっ、じゃあ私、隣の部屋でオクタンとお話してますね」
部屋から出て行こうとするやよい。カイバーマンが何をするか、わかっているからだろう。
「いや、待て! 隣だろうと単独行動は慎むべきだ。ここに居て構わん」
「そうですか、わかりました」
海馬は立ち上がり、カイバーマンのコスチュームを再び着る。
「復ッ活ッ! カイバーマン復活ッッ!カイバーマン復活ッッ!カイバーマン復活ッッ!」
「お兄ちゃん、すごいテンションですー! うっうー! 私も負っけませんよー!」
二人揃ってスーパーハイテンション。どう見ても実の兄妹です。
モンスターボールを床に投げると、蛸が出てきた。
「始めまして、
高槻やよいです! オクタンさん、これからよろしくお願いしますね!」
手(足?)を差し出し、やよいと握手するオクタン。
「私、魚屋さんでお手伝いしたことあるから、魚の扱いは得意ですー!」
オクタンは、ちょっと引いた。
(ふふははは! 神の力を見せてやろう!!)
書斎の机には、霊夢から預かった首輪があった。
この部屋には、監視要員も監視装置もないことは確認済み。
態度とは裏腹に、極めて慎重な首輪の解体作業を始める。
やよいも、静かにすべきだと感じたのか、黙って見守る。
「えっと……あれ、これって……」
書斎の隅で埃を被っている、やよいにとって馴染みのある物に気がつく。
「オセロですー! あ、でも石が二つに割れてますぅ」
白と黒の石が、どれも中央で外れていた。
「あっ、ちゃんとくっつきます。オクタンさん、これを直して一緒に遊びましょう!」
オクタンと、黙々とオセロの石を直し始めるやよい。
先ほどまでの騒がしさはなく、カイバーマンもやよいも、それぞれの作業に没頭していた。
【D-1 城・書斎/一日目・夜】
【海馬瀬人@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】
[状態]:断固たる対主催の決意、帰ってきたカイバーマン、
[装備]:正義の味方カイバーマンのコスプレ@遊戯王DM ゴッドクラッシュ@ゴッドマン
盗賊の棺桶@勇者の代わりにバラモス倒しに行くことになった DMカード(青眼の白龍、魔法の筒)@遊戯王DM(現在使用不可) 、首輪
[道具]:支給品一式×2(食料1消費)、十得ナイフ@現実
毒針@ドラゴンクエストシリーズ、ナイフとフォーク×2、包丁
[思考・状況]
1:首輪の分解作業を始める。
2:1の終了、及び休息を取るまで、城を拠点としたい。
3:自分と同じ境遇、そうなりそうな人を救いたい(ただし仲間の安全が優先)
4:船に積んであったコンピュータを利用したい。船内の探索もできればしたかった
5:
エアーマンなど高度なロボットを解体して、自分の技術力が通用するか知りたい
6:殺しあいには絶対に乗らない
※ブルーアイズが使えないのは、自分が主として認められていないためだと思っています
※
ロックマンを岩を飛ばすロボットと予想。エアーマンの仲間と思っています
※キーボードは船の艦橋にあるコンピュータに刺さったままです
【高槻やよい@THE IDOLM@STER】
[状態]:体力全快、右手骨折
[装備]:包帯、ことのは@ヤンデレブラック、オクタン@ポケットモンスター
[道具]:支給品一式×2(水と食料1消費)、MASTER ARTIST01~10@THE IDOLM@STER
DMカード(六芒星の呪縛、攻撃誘導アーマー)@遊戯王DM(現在使用不可)
世界樹の葉@ドラゴンクエストシリーズ、壊れたオセロ@現実
[思考・状況]
1.オセロを直して、オクタンさんと遊ぶ。
2.「ことのは」さんとも、もっと仲良くなりたいなぁ
3.魔理沙さん達のことは悲しいけど、お兄ちゃん達とがんばります!
4.緑色の服の少年を後で埋葬してあげたい
5.人は絶対に殺しません
※オクタン(♀)Lv60
装備:きあいのハチマキ
オクタン砲/冷凍ビーム/破壊光線/シグナルビーム
とくせい/きゅうばん
ゴルゴ所長のポケモン。きあいのハチマキによって、奇跡を起こすポケモン。
※毒針&世界樹の葉
盗賊の対ゾーマの秘策。
完璧な作戦のどこかの段階で持ち去られた模様。
棺桶があるということは、盗賊は死んでいるでしょう。……死体があるか、ないかの違いはあるでしょうが。
毒針は、急所に刺さらなければ効果がないのは原作通りです。
世界樹の葉の効力は、復活の玉同様に低下している可能性があります。
ことのはが入ってきて、しばらくするとカイバーマンの大声が日吉と亜美にも聞こえた。
「あの人、ゲームに乗ってる奴が近くにいるかもしれないってのに……」
うっうーと、やよいの声も続いて響いてくる。
「やよいっちも元気だねぇ。にしても、本当の兄妹みたいだよね」
「何、違うのか!?」
クラゲの化物に襲われたときに合流したとは聞いていただけだったため、日吉はてっきり本当の兄妹だと思っていた。
「だって、やよいっちの家、やよいっちが一番上だしね~」
「じゃあ、あの人……いや、あいつは、歳下の女に、自分を兄と呼ばせている……変態!?」
ファッションに加え、妙な趣味まであるのかと日吉が頭を抱える。
「何で妙な奴しかいないんだ! あのピエロ、どういう基準で集めたんだ」
「いーじゃん、変態でも? ダサカッコイイ兄(c)、悪い人じゃないし。ピヨくん、気にしすぎだよ?」
「……まあ、戦力になるなら性格なんて二の次……って待て、ピヨくんだあ!?」
当然のように言うためスルーしかけたが、とんでもないあだ名を付けられている。
「あれ、ピヨくん気に入んない? 事務所のピヨちゃんが女の子だから、くん付けにしたんだよ」
「そういう問題じゃねぇ! もっとマシなあだ名はないのか?」
「あるよ! えっと、ピヨシートでしょ、若殿に、にゃんころり!」
日吉のあだ名は、ピヨくんになりました。
「ま、まあそれよりも……フッ! ハッ! 下克じょ……ぐおぉ……っ!」
「ピヨくん、怪我してるのに無茶しないほうがいーよ!」
「動けないテニスプレイヤーなんざ、凡人以下だ。このゲームに生き残るためにも、いざという時動けなかったらマズいだろうが」
演舞テニスの動きを始める日吉だったが、痛めた肋骨の影響で、動きはぎこちない。
「だが、前よりは調子がいい。お前、意外と手際が良かったな」
「パパの真似だよーん。お医者さんなんだよね、亜美のパパ」
日吉の肋骨の傷みを抑えるために、包帯代わりのシーツで応急処置がなされていた。
親が医者だとはいえ、まるで誰かを手術したことがあるかのような手際の良さだった。
「本調子とは行かなくとも、いざとなった時どれだけ動けるか、確かめないとな」
日吉は、自分の体の限界を確かめるため、再び演舞テニスのフォームを取る。
それを見て、亜美は感じていた疑問をぶつける。
「でもさ、それでも私よりババッって速く動けるよね。私、メチャ強になってるのに、どうしてだろ?」
「ああ、身体能力が上がってるとか言ってたな。だがな、お前がYOKODUNA並みの能力を持っていても、俺にも勝てないぜ」
戦いらしい戦いは、まだほとんど目にしていない亜美だが、オメガモンと自分では何かが違うとだけは感じていた。
「戦いの経験、持ち前のセンス……これも重要だが、そんな経験得られる機会は少ない。
まず、第一に鍛えた体。これは、お前も道具でだがパスしてる。問題は次……動作だ」
「動作って、どういうこと?」
理解が出来ていないらしい亜美に日吉が続ける。
「お前、アイドルらしいな。舞台で踊ったりするときに、下手な動きをすれば転んだりしないか?」
「するする! 転ばないようになるまで、練習練習でつまんなくてーって……あっ、そっか!」
ようやく、動作の意味を理解する。
「つまり、変な動きをしてるから、転んだり遅かったりするんだね?」
「そうだ。俺は実家のボブ術の動きをテニスに取り入れてる。武術の動きは無駄が少ないしな」
「そっかー、漫画とかでも、ケンカ負けなし! みたいな人でも、格闘家とかに負けたりするモンね」
うんうん、と亜美は一人納得する。
「あれ、そんじゃ……私って役立たずじゃんー!」
「なんだ、今気がついたのか。だが、今は一人でも戦力が欲しいところだ。基本的な型を教えてやる、多少はマシになるだろ」
「ホント!? なんだーピヨくん、ツンデレキャラならそうだって言ってよー!」
「何の話だ……ったく。……ところで、話は変わるんだが、お前、ことのはとか言ったな」
窓から外を眺めていたことのはが、日吉の方を向く。
微妙に血で汚れた服など、その姿はどうにも不気味だ。
「やよいっち、勇気あるよね……いろんな意味で」
「……お前の持ってるフライパン、俺に寄こせ。ラケット代わりになりそ……」
ことのはが、睨んだ。
「フ、フライパンを貰えますか、ラケットの代わりにぴったりの形なので」
「ピ、ピヨくん、ファイト……」
目上の仲間には態度を変える、日吉の悲しい性格が出てしまった。
「そういえば、兄(C)と話すときもそんな感じだったね」
「ほっとけ、あいつの力は必要だ。変態だろうと俺より役立つなら、俺が下手に出るのは当然だ」
つまり、ことのはの事も目上だと、体が反応していることになるわけだが。
まあいいだろうと、ことのははフライパンを渡す。
首を埋めるときにスコップ代わりに使ったため、土で汚れていた。
「くっそ……なんで俺はこんな生き物に……」
「カタナ」
「えっ、か、刀?」
ことのはが呟いたのを、亜美はたしかに聞いた。
「カタナ」
「刀はないけど……剣ならあるよ?」
「おっおい、そんな奴に刃物持たせるな!」
だが、日吉の言葉よりも早く、ことのはは剣を手に取っていた。
ことのはは、日吉たちと距離を取り、荷物を置いたテーブルに向かい合う。
眼を閉じ、集中することのは。
眼が開かれ、風が吹く。抜刀の際に起きたものだと、気付いたのは後のこと。
ガタンと音をたて、脚を一つ失ったテーブルが倒れた時だった。
『見ましたか、これが私の実力です』という顔のことのは。
「あー、荷物が!」
「何しやがる、てめぇは!」
荷物がテーブルと共に倒れ、その音に匹敵するカミナリがことのはに落ちた。
涙ぐむことのはに監視を任せて、日吉と亜美は妙な踊り……もとい、型の練習を始めた。
ディパックは、日吉が脚をことのはの鋸で切りそろえた、妙に低いテーブルに乗せなおした。
放送の際に拾った、道下のディパックもここにあるのだが、亜美自身忘れている。
「しかし、亜美……お前、何でこんな乗り気なんだ。話に出た、死んだ妹の仇を自分で取りたいのか?」
亜美は、まだ小学生。中学生の日吉が言うのも妙だが、いくらこの状況だとはいえ、戦いに身を投じる覚悟がなぜできるのか。
「んー? そっだねー……やっぱ、夢でみんなが頑張れって言ってくれたからかも」
「夢? 現実逃避してるんじゃないだろうな」
「違うよ、私は逃げないって決めたもん」
亜美の口調が真剣味を帯びる。少しからかい過ぎたかと日吉は思ったが、亜美は怒っているわけではなかった。
「オメガモンを殺したのは、
フシギダネなんだけど……そのフシギダネも呼ばれちゃったんだよね」
「仲間を殺した奴が、あっさり死んだってわけか。……怒りのやり場もないな」
「怒ってないよ……ただ、悲しいなって」
悲しい、という一言を、日吉はどうにも理解できなかった。
「オメガモンは、あのピエロをやっつけるぞって頑張ってたのに、フシギダネにやられちゃった。
フシギダネを殺した人は、フシギダネがオメガモンを殺したことも、オメガモンのことも知らない。
殺した人も、殺された人も、みんな頑張って生きてるのに……頑張ったことを知ってる人がだれもいなくなるなんて、悲しいよ……」
日吉が、亜美の頭を少し雑に撫でる。
「だったら死ぬな、全力で生きろ。オメガモンの名前は、俺たちが覚えた。
お前の双子の姉妹のことも、魔理沙とリョウって奴だって、お前らが生きてる限り、忘れられない」
「……へへ、そーだよね! うん、帰ったらオメガモン感謝祭とか、開けばいいんだよね!」
それは違うだろと、つっこむべきか迷った日吉だが、元気になったのに水を差すのではとつっこめなかった。
「タイミングガ アワナイ!」
「う、うるさい!」
首輪を弄るコスプレした男、蛸と戯れる少女、奇妙な踊りを舞う少年少女。
そして、血まみれの少女のような生き物。
腋巫女とでっでいうが去っても、ここの密度は臨界点を保っている。
本人達が気付かなくても、彼らはまさしく怪しい類友だった。
【D-1 城・寝室/一日目・夜】
【
双海亜美@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、ルイージ(HI☆GE)
[装備]:ホーリーリング@デジモンアドベンチャー、ルイージの帽子@スーパーマリオワールド、弾幕の作り方@東方project
[道具]:支給品一式(食料1消費)、道下のディパック【支給品(1~3)】
[思考・状況]
1:ヒヨくんのボブ術を習ってみる。
2:殺し合いには乗らない。みんなで脱出する方法を探したい
3:ヒゲドルとして生きていきまーす、んっふっふー
4:無事に帰れたら、オメガモン感謝祭を開く。
※やよいからこれまでに出会った参加者の話は聞き終えました
真の死、ことのはの存在も知りました。
※日吉にボブ術の指導を受けています。
※多少の応急処置の知識を持っているようです。
まるで、誰かを手術した経験でもあるかのような手際の良さです。
【
日吉若@ミュージカル・テニスの王子様】
[状態]:中度の疲労、肋骨損傷(応急処置により痛み緩和)
[装備]:カワサキのフライパン@星のカービィ
[道具]:支給品一式 食料2人分、水2人分
ヒラリマント@
ドラえもん 、マカビンビン@うたわれるものらじお、ことのはの鋸
[思考・状況]
1.手段を問わず、主催に下克上する。
2.亜美にボブ術の基本を教える。
3.ことのは、亜美と交代しながら人が近づいてこないか監視する。
4.下克上の障害は駆除する
※道下のディパックについて、誰も気がついていません。亜美も忘れています。
※ことのはの所持品は「妖精の剣」です。
現在、外敵の侵入がないか、窓から監視しています。
霊夢、ヨッシー、海馬、日吉、やよい、亜美の共通認識
※なのはの世界についての知識を得ました。霊夢と海馬以外、不思議な力としか認識していません。
※全員、知っている情報を交換しました。少し大雑把で、認識の違いはあります。
※名簿が、世界の住人ごとに載っていることに気がつきました。
※各地に監視装置があり、首輪にも盗聴機能があることを認識しました。
※YOKODUNAに関する情報を入手しました。
※生首が真だという考えは、霊夢とヨッシー以外は揺らいでいます。
※やよいが海馬を兄と呼ぶのは、海馬の趣味か何かだと思っています。
最終更新:2010年03月18日 11:46