涼宮ハルヒの懐柔 ◆IU4EWEf33I
「逃げろ……ですか」
地下に戻った後、僕はずっとさっきの八意さんのセリフを思い返していた。
前に言われた『逃げる準備をしろ』なら解る、その言葉には『ピンチになったら私も一緒に逃げるからその準備をして』と言うニュアンスがあるからだ。しかし、彼女は『逃げろ』と言った。
僕と彼女はさっき出会ったばかり――いや、彼女の方は前に僕に出会っているんでしたね。
でも、この殺し合いの場において、尚且つ僕ら二人は優勝を目的としているのにも関わらず――彼女は『逃げる準備をしろ』とは言わなかった。
『逃げろ』とは明らかに『僕独りで』という事。もう合流できないかもしれないのに、折角出来た仲間と。彼女は薄情な奴では無い、僕が彼女を信用している様に、彼女も僕を信用してくれているはず、何故?
――いえ、答えは解っています。彼女が話をした時の仕草から、解っていました。でもそれを素直に受け入れるのには、かなり迷いがあった。日本人の悪い癖だな。
恐らく彼女は“僕一人で優勝できるだけの能力がある”と思ってくれている。そして僕が優勝し彼女の“皆を元通りにする”という願いを叶えてくれると思っている。
僕も馬鹿じゃあない。彼女の語調から、あの壁の向こう側には恐ろしいほどの危険があるということが感じ取れた。彼女も命を落しかねない位の危険が。
――今、僕の目の前にはいくつか道が並んでいる。
僕は今、それを選ばなければならない。
でも、その道の先を僕は見ることが出来ない。
道の先を見るのは、僕の超能力では無理だ。
このまま逃げるか?
それとも助けに行くか?
はたまたここで待っているか?
いや、そんな事最初っから決まっている、改まるまでも無い。
助けに行く。
そうでなければ何故彼女をあの化け物から守ったのか解らない。そうしなければ優勝もできない、当然“彼”も戻ってこない。
とりあえず今は出来ることをしよう。
僕は2人分のディバックと乾燥中のDCSを持ち、台所へ向かった。
「くそッ!どうして設計者は隙間でも空けておかなかったのよ!!何も解らないじゃない!!!」
小声で悪態をついてみる。とりあえず喉を攻撃されたダメージは引き、喋れるようにはなったが他のダメージも酷い。
「もう富竹は居なくなったような気もするけど……居るような気もするし………」
それにしても、どうしてこうなってしまったのか。こんな非日常は私が望むようなものではない。いつもの日常に戻りたい。
有希、みくるちゃん、古泉くん………
キョン、助けて!!
でも有希とキョンはもう居ない。もう、話をすることも声を聞くことも出来ない。二人の死、その事実が重くのしかかる。
ここに居るSOS団は古泉君しかいない。いや、もう誰でもいい、助けて……
こんな思考を何回繰り返しただろうか?でもこの思考は今最も会いたい人の一人によって中止させられた。
「涼宮さん、出てきてください」
暗いシンクの中に光が射す、それと共に懐かしい顔が飛び込んできた。SOS団の副団長の顔だ。
ここに
涼宮ハルヒが居ることは僕も八意さんもわかっていた。元々八意さんが外に出た理由はこれだった。
涼宮ハルヒがここに入って来た時に発した音はちゃんと地下にも伝わっていた。
この女は僕の最も嫌いな奴だ。八つ裂きにしても余る、凌遅の刑にしても気は晴れない。
でも、この空間ではそんなものでも使わないと生き残ることは出来ない。
一時の感情で可能性を潰す、そんな愚の骨頂を僕は犯すつもりはない。
彼女にはして貰いたい事が二つある。
「…古泉くんッ!」
彼女が抱きついてきた。彼女が僕の事が好きならば良かったのに、そうすればこの女にも幾許か救いはあった。
殴り飛ばしたい気分を振り切り、まずは彼女を安心させようとした。
「涼宮さん……どうしたんです、その酷い格好は?」
僕は彼女からこのようになった一部始終を聞いた。
そして解ったことが一つ、“彼女は今、普通の精神状態ではない”。
話の中で彼女は、彼女がいつも使わないようなとても汚い単語を連呼していた。
日本語の限界、そう言葉を置き換えてもいいほどに。
こんな精神状態ならば、楽に落とせる。
「涼宮さん、キョン君は死んでしまいました。」
少し語調を強めてみる、初めの言葉はこれでいいだろう。
「そっ…そんなの解っているわよ………」
やはり彼女は動揺した。いい、計画通りだ。
「でももし、蘇らせる方法があったとしたら?」
「えっ?」
泣くのをやめ、こちらを見ている。普通の男なら落とせそうな、潤んだ眼。
まあ、僕には無効ですがねwwwwそういうのはアホの谷口にでもして下さい。
「それは……貴女が、元の世界に帰る事です」
彼女は何故自分が元の世界に戻ることが彼の蘇生に繋がるのか解らないだろう、だから続けてこう言う。
「信じてもらえないかも知れませんが―――貴女には、願望を実現する能力があるんです」
――そこから僕は、今まで彼女以外のSOS団のメンバーが秘密にしてきた全てを打ち明けた。
彼女自身のこと、長門有希のこと、朝比奈みくるのこと、そして僕のこと。
もし彼女が普通の場所で、普通の精神状態であったら全く信じなかったであろう。
でも今の彼女は普通の状態ではないのだ。彼女は僕の話を半信半疑ながらも信用した。
これが彼女にして貰いたい事の一つだ。主催者は信じられない。あいつらは僕らの殺し合いを見て楽しもうとしているわけではないだろう。
必ず目的があるはずだ。そのためにこの殺し合いをするという状況が必要だったのではないか?
だとしたら人を――それも参加者全員を蘇らせろといっても、叶えてくれるハズがない。そもそも願いを叶えるといった事さえ嘘かもしれない。
ならばこの女を優勝させ、彼女に参加者を蘇らせる事をさせる方が確実だ。
「でもさっき話した富竹って奴のことをず~っと私はブチ殺してやりたいと思っているけど
さっき古泉くんの話した能力が私にあったのなら、もう脳漿ぶちまけて死んでいるハズよ」
やれやれ、僕は右手を首に持っていった。
「これが原因です」
「これって……首輪?」
僕は八意さんと話した事を思い出す。雑談中、彼女は自分の能力が抑えられていると言っていた。
そしてその原因はこの首輪じゃないか?とも、彼女は言っていた。
恐らく能力だけ見たら涼宮ハルヒは主催者達よりも強力だろう、能力だけを見れば。そんな彼女の能力を、主催者達は抑えないはずは無い。
その旨を僕は彼女に伝えた。
「なるほど……本当に主催者達はムシケラ以下ね、串刺しにして晒してやりたいわ」
「まあ能力の確認はこの首輪の外れた時にでもして下さい」
「………でも、どうやって元に戻るの?」
そこはやっぱり話さなきゃか
「どうやってって、優勝してですよ」
「えっ……でもそれって………」
「ええ、他の参加者達は殺すことになります」
「そんな……」
彼女は手を口に持っていき目線を下に移した、動揺しているな。散々さっきまで殺すだのなんだの言っていたくせに。
「いいですか、涼宮さん。貴女が元の世界に戻れればキョン君だけでなく他の皆も生き返るんです」
「でも……」
「よく考えてみて下さい。貴女以外の人が優勝したら、そいつしか生きて元の世界に帰れないんですよ。
も僕たちが優勝したら皆が生き返り、全ては上手くいくんです。……正義はどちらです?」
そういうと彼女は黙ってしまった。この話はこれくらいでいいか。
さて、本題に入ろうか。もう話して3分くらい経過してしまっている。
「そして今、僕の仲間は危機的状況にあります」
「……」
「恐らく彼女は今闘っている……いま外から聞こえてるのはその音でしょう」
「……」
「貴女に手伝って欲しい、彼女は僕たちの“作戦”に必要な人です」
「……」
さっきから彼女は沈黙を通している、これは……駄目か?駄目ならば殺すしか……
「答えを……涼宮さん………」
「……わかったわ」
そういうと彼女は立ち上がり、いつもの調子で
「じゃあ作戦を立てましょう、敵を殺すには作戦が必要でしょ?」
と言った。
これは機関的にはマズイ事かも知れない、でも生還することの方が重要のはず。
生きて帰れたら長門さんにでも記憶操作を頼めばいい。それにこの緊急事態でそんな事言っていられない。
ともかく僕は一応勝った、後は八意さんだけだ。
「ではとりあえずこれを」
僕は彼女に二つ薬を渡す
「何これ、古泉くん?」
「右が鎮痛剤です、見たところ傷も酷いし使って下さい。左はドーピング剤、コンソメじゃないですよ。
まあそれは僕の指示で使って下さい。さて、実は作戦はもう考えてあるんです」
「え!!本当?」
「じゃあまず段取りから……」
【E-3 町・薬局内部/一日目・夜】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部強打、
八意永琳を信頼、肩脱臼(肩は永琳にはめてもらいました)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式*2(食料一食、水二本消費)、ゆめにっき@ゆめにっき(手の形に血が付着、糸で厳重に封をしてある)
逆刃刀@フタエノキワミ アッー!(るろうに剣心 英語版)、赤甲羅@スーパーマリオシリーズ、鎮痛剤一包み、
睡眠薬一包み、糸(あと二メートルほど)、裁縫針、ワンカップ一本(あと半分)、武器になりそうな薬物、小型爆弾、DCS-8sp(乾燥中のものも)
[思考・状況]
1.永琳をお助けするゾ!
2.キョン君(´Д`;)ハァハァ…ウッ……
3.優勝して、愛しの彼を生き返らせる。
4.殺し合いにのっていない参加者を優先的に始末。相手が強い場合は撤退や交渉も考える。
5.八意永琳、涼宮ハルヒと協力する。八意方はかなり信頼。
6.優勝して「合法的に愛しの彼とニャンニャンできる世界」を願う(ただし、生き返らせることを優先)
※地下に薬売りの部屋@怪~ayakashi~化猫には現在蓋がされています。よく見れば床に変な所があるとわかるかも知れません。
薬売りの部屋の床には退魔の剣@モノノ怪が刺さっていて、抜け穴の鍵となっています。抜け穴の行き先は不明です。
抜け穴の大きさは、大人が這って通れる程度です。
※一方的に情報交換をしました。涼宮ハルヒの情報を古泉一樹は知っていますが逆は成り立ちません。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:富竹への憎しみ、精神錯乱、左肩に銃創、左脇腹と顔面と首に殴られた傷、腕から出血、脇腹に弾丸がかすった傷、古泉達を信頼、鎮痛剤服用
[装備]:陵桜学園の制服@らき☆すた、包丁、 DCS-8sp
[道具]:支給品一式*2、びしょ濡れの北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、テニスボール、アニマルマスク・サラブレット@現実、ゾンビマスク@現実(ゾンビーズ)
[思考・状況]
1.古泉についていく
2.どんな手段を使ってでも絶対に富竹を殺す
3.皆を蘇らせるために協力者を探す
4.ゲームの優勝
5.自分にそんな能力があるなんて……
※
第三回定時放送をほとんど聞いていません。死亡者の人数のみ把握しました。
※自分の服装が、かがみを勘違いさせたことを知りました
※自分が狂い掛けている事に薄々気づいています
※喋れる様になりました。
※脱出寄りでしたが優勝に方針を変えました。
※自分の能力を教えられましたが半信半疑です。
最終更新:2013年02月09日 22:57