えーりんと闇AIBOに死ぬほど言葉攻めされて涙目なピエモンB(前編) ◆jU59Fli6bM
二度目の夕暮れ。
放送はいつもの主催が喚くいつも通りのものだった。
けれど、僕にとっては少し違った放送となった。あの人の――
――海馬君の、名前が呼ばれたから。
正直、ありえないと思っていた。
いつも自分のロードを突き進んでいた海馬君に、死のイメージなんて重ならなかったからだろうか。
だけど、それ以上考えることはできなかった。それよりも気がかりな人が隣にいるせいで。
「愚かな主催どもは分かってないわね。神には肉体なんて関係ない、何度でも蘇るのよ!」
夕闇となった空に響く、1つの声。
あの死闘の後、沢山の人が死んだ。主催の1人も放送で呼ばれ、ハルヒも例外ではなかった。
でも、だからといって他の主催陣の様子が変わるわけではない。
そして困った事に、永琳の主張も変わることはなかった。
博之さんから落ちて気絶していた僕が目覚めた時だ。
永琳は、あそこまで派手に裏切った僕に対して、一緒に行こうと主張した。
"神が私達を置いて死ぬはずがない! 必ず探し出して、そして全て元通りにするのよ!"
――そう喚く永琳の様子は「狂信者」という言葉がぴったりで、以前の姿とまるで別人だった。
永琳曰く、神の死体はあったが、肉体は仮の姿でしかなかった、とのこと。
その証拠に神は永琳の願いを聞き入れ、僕を復活させてくれたんだとか。
悪いけど……全くもって意味★不明だった。
もうこっちの説得どころじゃなくなってしまった。いくら永琳の話を聞いても今の僕には理解できない。
あと、僕が死んでも
ニートの誓いを破ることになるから、それも譲れないらしい。
……逆に永琳の被害者になっている気がするのは僕だけ?
「ねえ! そういえば私、前からあなたに愛称をつけようと思ってたのよ、いいでしょう!」
すぐ横から不気味なほどに快活な声が響く。
……あの、さっきから言動が支離滅裂なんだけど。
僕はげんなりしてため息をついた。僕の方は体が痛くてろくに動けないし、何だか凄くだるい。
そういえば、昨日の夕方もこんなんだったっけ。熱でよく覚えてないけど。
とにかく、どう見ても永琳の様子がおかしい。一緒にいるとこっちまで狂ってきそう。
会話が噛みあわないのに執拗に話しかけてきたり、神、神と狂信者のように熱心に語ったり。
僕はというと、動けないのをいいことに、永琳の成すがままにされていた。
「愛称って……、何のことだよ」
「何がいいかしら、遊香……遊子……遊曇華院……ユーフラテス川……うーん、違うわねー」
「……あのさ、それってもう一人の僕の事じゃ?」
「あら、そういえばそうね。ならあなたも一緒に考えてみない?」
「もう、勘弁してよ……」
僕ら……、いや永琳は、ハルヒがいたという場所に向かっている。永琳は何が何でも僕とハルヒを会わせたいらしい。
「ねえ、どこに進んでるの? ハルヒがどこにいるのか分かるの?」
「駄目よ遊戯、ちゃんと神って呼ばないと怒られちゃうわよ」
その思いに比例して、僕がここから逃げ出したいという思いは切実になる。
けれど、このままじゃ絶対にそれは叶わないだろう。ただでさえ動けないのだから。
仮にハルヒが生きていて会えたとしても、あいつが僕を再び生かしておくはずがない。
なのに生きたいなら神の所へ行こうだって? 死期が早まるのがオチじゃないか。僕は絶対に嫌だ。
もう僕を仲間入りさせようとしても無理だって、何でそれが分からないの?
何でそこまで僕に執拗に絡むんだ!
……あいつのせいだ。
あいつがいなければ、永琳はここまで妄信的な奴にはならなかったんじゃないか。
憎いけど、その気持ちは分からないことはない。でもそれじゃ駄目なんだ。
本当にあいつの為に殺しをするんだったら、僕のことは斬り捨てていってよ。
いっそのこと、ここに放り投げていってもいい。
僕だっていつまでも付きまとわれるのはごめんだ。
ハルヒに殺されるくらいなら、川に飛び込んで溺れ死ぬ方を選ぶ。
「ふふ、遊戯……。絶対にあなたを守ってみせるから……心配しなくていいのよ」
夢見がちに笑う永琳が、不気味だった。
数十分後、僕たちは一面真っ黒な、元は草原だったところにいた。
「……え、永琳、足元っ!」
「え?」
永琳が足を滑らせ、焼け野原が一瞬にして視界から消える。
気づけば僕と永琳はクレーターのような穴で転がっていた。
「いたた……、ま、前見てよ」
「あら、ここは前にデーモンや神が暴れまわったところじゃない。懐かしいわ」
デーモン?ああ、だからさっきから焼け野原だったのか。
泥を払い、永琳が先程同様僕を背負って立ち上がる。すると、今度は後ろから何かが近づいてくる音が聞こえた。
その方向を見ると、何かオンボロな車がのろのろとこちらへと走ってきている最中だった。
「遊戯、あれは何なのかしら?何だか派手な戦車ね」
「なにあれ、痛い柄の車だなあ……」
何だかあからさまに怪しいので、クレーターの中でやりすごすことにする。
そして、すぐ脇まで近づいてきた車の中を見る。乗っていたのは意外な人物だった。
「もう一人の僕、それに……
ピエモン?」
「どうして主催が……、まさかユーギが捕らわれたの!?」
見間違えるはずがない。
助手席と後部座席、それぞれに座っていたのは、もう一人の僕とあのピエモンだ。
永琳が薬のような物を飲んで叫ぶ。
「こうしちゃいられない。王様ユーギのことを保護しないと! 遊戯、しっかり掴まっているのよ!」
「え? なに……うわあ!」
そして、そう言い終わるが早いか、全速力で走り出した。
風を切り、クレーターを飛び越え、矢のように車目掛けて近づいていく。
人間ではあり得ない速度だけど、そこを突っ込むのは野暮だろうか。
僕はただ、必死にしがみつくことで精一杯だった。
◆
所変わって車内。
車から見る焼け野原は、ドライブというには心苦しいものがある。そのせいか、中の3人は始終無言だった。
そして同時刻、のろのろ運転な痛車の後ろから現れたのは、神速の如く走る人影。
それが息つく暇もなく車に接近していたその時、車内では、サイドミラーを見た兄貴がその速さに仰天していた。
「な、何だ!? 誰かがもの凄い速さで、走ってき――うおわっ!」
「なぁっ!?」
突如感じた、ガクンという上からの衝撃。
直後、後部座席のピエモンが悲鳴を上げる。その脇には大振りの剣が生えていた。
兄貴は咄嗟にブレーキを踏み、車を停止させる。
「誰だ!」
闇遊戯はドアを開けて車の上に立つ人物を睨む。すると、返ってきたのは意外な声だった。
「ああ、姫様の遊戯、無事だったのね!そこで待ってて!」
闇遊戯は少し首を傾げる。永琳ってこんなキャラだったっけ、と。
命からがら兄貴も脱出してきたが、ピエモンに関しては察してもらいたい。
「お、お前、何なんだ? 人間がどうやってこんな身体能力を……」
息も絶え絶えなピエモンが上に向かって尋ねる。永琳はそれを聞いて不適に微笑んだ。
「ドーピングヤゴコロスープよ……。
さあ、私があなたを捕らえるのを、止められるかしら?」
いや、意味が分からん。
3人の気持ちが一つになる。そうしている間に、目の前の車があり得ない動きを始めた。否、永琳が動かしていた。
なんと車体の右側がだんだんと持ち上がっていくではないか。
「僕……知らないよ。あそこまでするなんて思わなかったもの」
「あ、
AIBO?! 無事だったのか?」
「全然」
少しして、遂に車が横転する形になる。細い女の人の腕でやったと考えると、異様な光景だった。
息つく暇も与えず、今度は車からピエモンを引きずり出す。
数分も立たないうちに、ピエモンは永琳の目の前でひれ伏す形となっていた。
「さあ、主催、これで逃げられないわ。観念して答えなさい。ユーギをどうするつもりだったの?」
「な、何故、そうなるんだ……私は何も……」
「とぼけるなッ! 違うなら一体何だというの!」
鬼気迫る勢いで王者の剣を地面に突き立てる永琳。
ピエモンは既に目に諦めの色が浮かんでいた。助けを求めるように兄貴に視線を送る。
しかし、兄貴の様子がおかしい。事態はピエモンにとって最悪の展開となっていた。
「ああ、えーっと、すまないな。そろそろ時間切れみた……」
そう言い終わらないうちに消えていく兄貴。
流石にその光景を見かねた闇遊戯が、慌て弁解しようと割り込んだ。
「え、永琳! 逆だ、逆なんだ!元々は俺が……」
しかし、永琳は聞く耳持たず、いきなり闇遊戯を抱き締めた。
「ああ、遊々子! もう大丈夫よ。何もされなかった?」
「せめてさ……呼び名、統一しようよ」
「ぐく……、散々なのは……私のほうなのに……」
理不尽だ。
永琳が再開を喜ぶ横で、ピエモンは思った。
私は主催なのに、何故こんな目に会わねばならないのだ。城に残った
マルクは勝ち組だろうな……。
ん、勝ち組……?
そして、ピエモンはあることに気付く。
(……まさか、これは始めからマルクの罠だったのか?)
私を怒らせて城を出るように仕向け、ジアースを使わせないように手配し、いざ城を出たらどさくさに紛れてジアースで殺す。
ついでに
コイヅカにジアースを操縦させれば、両方始末できて一石二鳥だ。
それら全て、マルクによって仕組まれていたとしたら?
なんてことだ。私は最初からあいつの手の中で踊らされていたにすぎないのか。あいつ手無いけど。
勝手に疑心暗鬼に陥るピエモンの頭の中で、次々と偶然が必然へと変わっていく。
もちろんそんなことを知る由もない永琳は、再び尋問を始めようとしていた。
「まあ、この際、遊々子が無事だったからいいわ。じゃあもう一つ聞くわよ。
優勝景品の"願いを叶えることができる"っていうのは、本当のことなの?」
その問いを聞いて、ピエモンが開き直ったように笑った。
「さあな、マルクの提案だから、嘘でも本当でもあるんじゃないか……」
「……どういう意味?」
「私は知らんな。元々……私は完遂が目的であって、その後優勝者がどうなろうと知ったことではない……!」
永琳は目を細め、無言で剣を抜く。
そして静かに言いはなった。
「そう……全く役に立たない主催ね。余程死にたいのかしら」
「え、永琳……」
闇遊戯が不安そうに声をかける。
「まあ、人質には使えそうだから、とりあえず拘束して……」
「永琳!」
今度は表の遊戯が腕を引く。
「もう、さっきから何――」
ガガガガッ!
「――え?」
突然、永琳とピエモンの間に4本のナイフが刺さる。その後ろから一つの影が夕闇に現れた。
「ぶるぁぁああ! 貴様らぁぁああ!!」
あたりにこだまする程の大きな声。
その声の主――アイスデビモンは、怒り心頭で叫び続ける。
「どこかで見た痛車があると思って追いかけてきたら……、お前らここで何てことをしているぅ!
ネズミのように逃げおおせるのか死ぬのか選べぇぇい!!」
再び銃剣を構え、突進するアイスデビモン。永琳は二人の遊戯を抱き抱えて跳躍する。
「くっ、また主催側ね!?」
「ねえ、あいつの飛ばすナイフ……危険だよ。刺さる側から凍っていく」
アイスデビモンから距離を取り、永琳は二人を下ろす。
「……そのようね。でもあなた達は心配しなくていいわ」
「永琳……戦うのか?」
「当たり前よ。せっかくの主催なのよ、ここで逃がすわけにはいかないわ」
そう言って、飛んできた銃剣を王者の剣で弾く。遊戯は不安そうに、落ちたナイフを見つめた。
「ピエモン様ぁぁ~、ご無事ですかぁ?」
「ア、アイスデビモン……来てくれたのか……」
ピエモンは、アイスデビモンの登場に感動していた。彼はピエモンにとっての救世主となったのだ。
もう諦めかけていただけに、ピエモンはそう感じていた。
一方のアイスデビモンは、ピエモンの瀕死っぷりに目を見開いた。
「あいつら……ここまでピエモン様をボロボロにしたのか! なんて奴らだってヴぁ!許さん、断じて許さんぞ!」
怒りに燃えるアイスデビモン。
実はほとんどがジアースの仕業なのだが、アイスデビモンの知るところではない。
銃剣を抱え、彼は勢いよく飛び出していった。
さて、二人の遊戯を守りながら戦うのは面倒ね。避難させたとしても狙われちゃ元も子もない。
「覚悟しろ、ぶるぁぁああ!!」
「伏せて!」
2本、どうという事はないわね。
戦国の世で降り注ぐ弓矢に慣れ、DCS-8spによって上がった身体能力の前には、銃剣くらいのものは止まってるも同然。
次は4本。目の前まで引き付け、剣で払い落とす。
その向かいで、化け物の顔が歪んでいくのが分かった。
更に撃たれた4本を沈め、間髪入れずミニ八卦炉を撃つ。ううん、カスリね。
すんでのところで避けた化け物が怒って何か叫んだ。
けれど、あちらの攻撃が見切れるからといって決着がつく訳ではない。
こちらの攻撃も当てられなければ、防戦一方のままだ。
二人の遊戯は私の後ろにいるから今のところ流れ弾の心配は無い。が、さっさと始末するに越した事はない。
私はこいつではなく、早くピエモンの尋問をしたいのだから。
今度は銃剣の後に氷の矢を混ぜて打ってきた。
だが、ドーピングで向上した動体視力の前には意味を成さない。数を増やそうったって無駄よ!
「遅い!」
あちらが痺れを切らせて打ってきた一斉射撃。ならば私は、その直後の隙を突く!
速く束で向かってくるナイフ弾を弾幕で相殺し、その後からばらまかれる氷弾を剣で斬り捨てながら避け。
――今だ!
息もつかず、私はポケットのミニ八卦炉を取りだす。
「うぁ……!!」
しかし、そのまま撃つことはなかった。構えたままの私の手が、震えるのを感じる。
背後を振り向く。遊戯が肩を真っ赤に染めて倒れるところだった。
「遊……!」
ドスッ。
直後、私の体に走る激痛。
続いて背に、肩にナイフが刺さり、私はそのまま成す術もなく倒れた。
「そ……んな、何で……?」
私が見逃すはずがない。遊戯は私の背後にいた。遊戯に向かう攻撃は全て処理したはず――
背後……、まさか!
「ピエモンッ……!」
「ピエモン様!」
ユーギとアイスデビモンが同時に叫ぶ。あの、主催めが!
私も霞む目を凝らして睨んだ。遊戯の刺さっていたナイフはピエモンが投げたものだったのだ。
「アイスデビモン……。借りは、返したぞ……」
ピエモンが呟く。目の前の化け物が醜く笑う。
私は全身に寒気が走った。
あいつらに、負けるの……? 今まで高見の見物をして私達を嘲笑っていた、あいつらに?
私達はあと少しで勝てた。なのにどうして天はあんな奴らに味方する!?
憎い、憎い!そんな偽物の神は、我らが神の餌食となるべきだ!
気がつくと私は、がむしゃらに銃を乱射していた。
当たるとか当たらないとかはもはやどうでもよかったのかもしれない。ただあの瀕死の主催が憎かった。
しばらくして訪れる、弾切れ。カチンと気の抜けた音が空しく鳴り響いた。
一瞬の静寂を破るのは、もちろんその従者だ。
「お……前……なぁにをしてくれてんだぶるぁぁああ!! この世に生まれたことを後悔させてやるわぁぁ!」
そう言って、銃剣を構える。
ああ、神は私を見捨てたの? 私はあれだけ頑張ったのに、後はこのまま死ぬだけなの?
私の理想が、音を立てて崩れ去っていく。
あり得ない、ここでやられるなんてあり得ない。私は神と合流して、全てを元通りにするのよ。
こんな主催どもに……負けるはず……
「死ねぇぇい!!」
唸りを上げて飛んでくる銃剣。
それに対する私の最後の抵抗は、ただ目をつぶるって祈る事だけだった。
「どうか……神……!」
「……魔導戦士ブレイカー、召喚!」
直後、何かが弾けるような音が辺りに鳴り響く。そのまま、銃剣が地に落ちる音がした。
私の元に来ることはなかったのだ。
ああ、神、神なの? またしても私の願いを叶えてくれたの?
目を開ける。私の目の前に立っていたのは、一人の少女だった。
「え……?」
それでいて、私の意図していない人物だった。
「ユーギ……? 何で……?」
そうだ、この場で動けるのはアイスデビモンだけじゃなかった。
でも、ユーギは私が守るはずよ、逆じゃない。でも、守るはずの遊戯は後ろで倒れてる。
じゃあ……遊戯が倒れてから私は……
――私は今まで、何 を や っ て い た ん だ ?
そうだ、私は遊戯を守りきれなかった。私はそれから逃げて神にすがっていたんだ。
ニートへの誓いさえも守れずに!
「……永琳?」
「あなたは、下がってて……!」
「……悪いが、そうするつもりはない」
遊戯の出したモンスターが攻撃を防ぐ。だが、複数の攻撃を全て防ぐ事はできていないようだった。
どうやら、長くは持ちそうにはない。
「どうして! そのモンスターの指示……、してくれるだけでいいのよ……!」
掴んだ腕に力が入る。すると、ユーギが顔をしかめて叫んだ。
「離 せッ!!」
その気迫に驚いて、動きが固まる。
「俺はお前を、見殺しにするつもりは無い! もちろん、相棒もだ!」
「ユーギ……でも」
突然、腕を引かれる。小さな手に思い切り引っ張られ、私は前によろめく。
それと同時に、銃剣と氷の矢の合わせ技が私達を襲う。
「来る!」
ユーギが私の前に立つ。私はそれを止められず――氷がその体を直撃するのをただ見ていた。
ユーギが倒れるのと一緒に、モンスターも消える。
「そん、な……」
倒れるユーギを見て、膝をつく。地面が妙に冷たく感じられた。
「ユーギ……?」
その小さな体を赤い血が染めていく。確実に死んだと思った。
よく見ると、血は脚から流れ出ているのに気付いた。胸に刺さったはずの氷が見当たらない。
そうか、そのはずだ。彼には――金の装飾品があったからだ!
私は痛みで焼き切れそうな体に鞭打って、また立ち上がる。
まだだ、まだ終わっていない!
彼女が残した勝機を、決して無駄にしない為にも。私は、負ける訳にはいかない!
「まだか、しぶといんだよぶるぁぁああ!!」
2本の銃剣が頬を掠れ、髪を切り落とす。
その間に、私は
ヲタチをボールから取りだし、指示を与えた。
「頼んだわよ……!」
再びヲタチを入れたボールを高く放り投げる。その瞬間、銃剣がわき腹を裂き、腕に刺さった。
あまりの激痛に再び私は倒れる。血がひたすら私の身体を伝っていった。
もう体の状態がどうなってるかなんて分からない。分かっているのは、私はそろそろ死ぬということだけだった。
そういえば……、死の恐怖なんてずっと忘れてたわ。いや、元々無かったかしら?
「ま、まだ……立ち上がるのか……貴様ぁ……」
あら、悪いわね。あなたの予想と違ってて。
だって私は、誇り高き月の民だもの。私を地球人と一緒にしてもらっちゃ困る。
「ふふ、実は私…あなたを……倒すまで……死ねないのよね……」
「ふざけるな、いい加減……いい加減くたばりやがれぇぇ!!」
アイスデビモンが銃剣を構える。
いくらでも来なさい、もう私は揺らがないから。
……ああ、でも、即死攻撃はお断りしますわ。
「今よ、ヲタチ」
攻撃の直前に地に着いたボールは、アイスデビモンの背後に開かれた。
その中から拳に炎を纏ったヲタチが現れる。アイスデビモンがそれに気づくも時既に遅し。
次の瞬間、彼は炎のパンチを叩き込まれ、転がりながらうつ伏せに倒れた。
攻撃を加えたヲタチは、そのまま一目散に逃げていく。上出来ね、永遠亭で飼ってもいいくらいだわ。
気付くと、私の頭の中で色々な想いが駆け巡っていた。これが、走馬灯? まさか体験するとは思わなかった。
古泉……2人の遊戯……、私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。神のことは頼んだわ。
あなた達に、私は救われた。
ニート、私はあなたの為という名目で殺し合いに乗った。元に戻したいが為に沢山の罪を犯し続けた。
最初から分かってた。もう私は、ニート軍の「軍師えーりん」には戻れないって。
でも、私は今までの選択を、決して後悔しない。だから、ごめんなさい。
そして、神。
最後まで傍でお守りすることができなくて、ごめんなさい。
私は今でも、神が目的を成し遂げてくれるのを願っています……。
「……これで、最後よ」
私は先程出した小型爆弾を握りしめる。
このスペルは私の願いと、主催への皮肉。この爆弾は私の使い魔。
さあ、私の想い、破れるなら破ってみなさい……!
―― 蘇活「生命遊戯-ライフゲーム-」
最終更新:2010年03月18日 12:17