「犬士、帝國軍へ/見張り塔の犬士」
月空
1:犬士、帝國軍へ
天領から来た書類を前にして、月空は机に座りながらあーとか、うーとか言っている。
になし藩国は藩王以下摂政、執政(月空)までもがプリンセスハートガード(PPG)に参加している。
になし藩国らしいと言えばらしいが、おかげで自国の守りに不安を抱える事となった。
そんな国の為に、天領は帝國軍を組織して有事の際の対応をさせる事となった。
書類の内容は、帝國軍の軍団税に関する物であった。
帝國内の藩国と言えどただで護ってもらえるほど世の中甘くは無い。
帝國軍に戦力を出す事も選べるのだが、先ほどの通りになし藩国はPPGに
藩王までも出していた為そんな選択肢はなかった。
そうなると、必然として税を払う事になる。
になし藩国は国力が豊かなわけではない。
お金も資源も燃料も、何度と無く底をつきそうになった。
だが、犬士の数はそろっていた。
そして、軍団税には犬士を出す事も出来る、と書類には記述してあった。
… 帝國軍へ赴く犬士達の中に、コタローは居た。
明日からはちよこ様が頭の上に乗ってくる事も無くなる。
コタローはふと、ちよこ様が行方不明になった事件の事を思い出した。
あの時は藩王様や摂政様総出でぐるぐるしながらちよこ様を探したっけな。
商店街中の人で探し回って、結局摂政様が見つけたっけ。
両親から貰ったオリエンタル神殿特製のお守りが、コタローのポケットから落ちた。
ああっ、なんか縁起悪いっ。とコタローは一瞬思ったが、忘れる事にした。
縁起なんてどう転ぶかわからない。これがいい事になるかもしれない。
月空は犬士達の前に居た。
当たり障りの無い挨拶をして、命令を出して、全員無事に帰ってくる事を皆切に願っていると思いを述べる。
黒麒麟藩国を中心に、天領の共和国では帝國に対して出兵しようと言う動きが広まっていると聞く。
知り合いを死地へ向かわせるのは嫌な役回りだと思った。
解散を宣言し、それぞれ散らばっていく犬士達の中、コタローはまだ残っていた。
月空は気になって、コタローに声を掛けた。
「どうかした?コタロー君」
「あの…これ」
コタローが差し出した手の中には、お守りがあった。先ほどポケットから落ちた物だった。
「両親がくれたものなんです。二つあるので…藩王様とちよこ様に献上したいんです」
「それは…君が持ってた方が」
「いえ」
月空の話を遮って、コタローは言葉を続ける。
「こいつは、ここに残りたいんです。僕には、兄から貰ったものがあるので」
「……」
「三つあってももったいないです。僕が無事でも、帰る国がなくなったら嫌です」
「……でも…」
「お願いします。心残り無く行かせてください」
目を瞑り、何事か考えた後、わかった。と月空は言った。
「さっきも言ったけど、絶対帰ってくる事。君だけじゃなく、全員で」
「勿論ですよ」
屈託の無い笑顔を見せて、それではとコタローは去っていった。
お守り二つを大事に持って、月空は城へと戻っていった。
帝國軍の準備は着々と進んでいる。
戦争の足音が、すぐそこまで近づいている。
2:見張り塔の犬士
藩城で一番高い見張り塔に、ヤタローは居た。
弟が帝國軍へ赴く事になった為、見張りの役が回ってきたのだ。
家ではやたらちよこ様が乗るちよこ様が乗ると言っていた弟だったが、
ヤタローは今の所平和に見張りを勤める事が出来ていた。
「今度の敵は空から来る」と、執政は言っていた。
狙われているのは共和国の藩国らしい。
そこが負ければ、次は帝國に来るだろう事は容易に想像がつく。
この見張り塔から敵が見える様な頃は、既に非常事態だろう。
なら、見張りがここから空を見る意味はないのかもしれない。
しれないが…ヤタローは今日も空を見ていた。
皆様からの御感想おまちしております。
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最終更新:2008年06月01日 12:48