「犯人はこの中におる!!」
「いきなりどうしたんだよ、忍」
「いやな、つい言ってみたくなったのじゃ」
「お前、本当に影響されやすいよな」
「そんなことはない。儂は鉄血のヴァンパイアじゃぞ? 鉄の意志を持つ者じゃ!」
「おいおい、そんな嘘は小さな胸張って言うもんじゃないぞ。
『ぱないのう』なんて言葉使うやつが言っていいことじゃないだろ、その台詞は」
「儂は流行に敏感なのじゃ! それと小さな胸は余計じゃぞ!」
「そんな言葉を使うのはごく一部の人間だけだ。
だから流行ってはない。一部分だけを切り取ってどうこう言うと随分と偏った見方になるから気をつけろよ。
そういやお前、いつだったか触って気にしてたろ? その胸」
「犯人はお前様じゃ!!」
「やけになったか!!」
「真実はいつも儂!!」
「自分のことしか信じてないのか!?」
「いや、そんなことはない。お前様も知っての通り、儂はいつも従順じゃ。
涙ながらにお前様の命令に従う毎日なんじゃ。儂が信じるのは――信じなければならぬのはお前様だけじゃ!」
「僕が嫌な奴みたいじゃないか!!」
「昨日もドーナツを買ってくれんかった。儂はショックと飢えで今にも死にそうじゃぞ?」
「死ぬ間際の態度じゃない! 昨日買えなかったのは、この前に行った時にお前が意地張って買いすぎたからだろ!! 僕はそんなにお金持ってないんだよ!」
「では作ってもらえ」
「なんで命令口調なんだよ」
「ツンデレ娘なら大丈夫じゃ。喜んで作るぞ」
「戦場ヶ原はもうツンデレじゃないぞ」
「そうじゃった。ドロドロ娘に頼むがよい」
「せめてデレデレ娘にしてくれ! それに作ってくれたとしても僕の為だぞ」
「では元委員長はどうじゃ?」
「頼みづらいだろ」
「エロ娘は?」
「あいつにはお菓子作りなんか出来ないんじゃないか? あと八九寺にも千石にも頼めないぞ」」
「なんじゃ、お前様にはロクな友がおらんのう」
「あいつらはみんな良いやつだよ!」
「ドーナツ一つも作れんのに何処がいいのじゃ?」
「ドーナツで人の価値を決めるな!」
「何を言う。それが全てじゃ」
「ドーナツだけが人生じゃねえ!」
「ふう、何を言っておるのか理解に苦しむわ」
「それはこっちの台詞だ!」
「我があるじ様は我がままじゃのう」
「それもまたこっちの台詞だ。我がままなんて言葉はお前の為にあるものだぞ!」
「儂の何処が我がままなのじゃ?」
「全部だよ」
「従順なしもべにそのような態度をとってもいいのか? 我があるじ様よ」
「あるじ様とか言いながら、僕のこと脅してんじゃねえか!」
「ともかくじゃ、明日こそは食べに行くからの。用意を怠るなよ。我があるじ様」
「あるじってことを強調されても、どうしようんもないぞ。一日で小遣いは増えないからな」
「そこをなんとかするのじゃ」
「なんとかって言ってもな。どうしようもないって」
「その頭は飾りか? いつもカラカラと音が聞こえると思ったらそこからじゃったか」
「幻聴だ! 僕の頭は最近良くなってきてんだよ!」
「そうじゃな、初めて会ったときにはお前様の頭があまりに軽いんで中には何も入ってないのかと思ったわ。
今は新しいのを入れたようじゃな」
「僕の脳は取替え式じゃない!」
「まあ、なんじゃ、残念なお前様のことは置いておいて優先すべきはドーナツじゃ」
「僕はドーナツよりも下なのか!?」
「なにをいまさら。気にするでない。それが我があるじ様じゃ」
「僕の存在を否定するな!」
「何を言っても無駄なようじゃの。我があるじ様はしもべを大切にすることの重要さがわかっておらぬようじゃ。
これは一から叩き込んでやらんと駄目かのう」
「なんだよ、その言い方は。お前に教えてもらうことなんてないぞ!」
「考えてみよ。お前様は儂のあるじなのじゃぞ?
あるじの不手際はしもべにとっても不名誉なことじゃ。
元あるじの儂としてはお前様にあるじの在り方を教えておかねばならぬと思うわけじゃ」
「そういえばお前とは、昔話を少ししたのと殺し合っただけだったよな」
「そうじゃの、じゃからこれから我があるじ様を教育しようと思う。覚悟せい!!」
「ドーナツを食わせてもらえないからって八つ当たりはよせ!!」
「ぬう、なぜわかったのじゃ?」
「お前の嘘は底が浅いんだよ!
それに教育っていってもお前に教えられることはないだろ?」
「儂は高貴な生まれじゃと言ったはずじゃ。立ち居振る舞いや強者の在り方など色々参考になると思うぞ」
「確かその頃の記憶は無いって言ってなかったか? 適当に喋りすぎだ」
「……余計なことは覚えておるのう。空の頭で」
「僕の頭は空じゃない!」
「はっ、一人で勉強も出来ぬくせに……、この口は何を言っておるのじゃろうか」
「いたたたたっ!! 唇を引っ張るなって! 勉強は教えてもらう方がはかどるんだよ!」
「お前様は元ツンデレ娘や元委員長といたいだけじゃろ。勉強をしておるはずのお前様から流れてくる感情を事細かに説明してやろうかの?
なんならあの二人にも教えてやろう」
「やめろ! もう勉強教えてもらえなくなるだろ!」
「認めおったな、馬鹿者め! 儂はその時間は寝ておるよ」
「カマ掛けたのか!?」
「こんな簡単に引っ掛かるほうが悪いじゃろ。まあお前様の妄想のせいで卑猥な夢を見た気はするが……」
「それはお前の欲求のせいだろ! 僕のせいにするな!」
「そうじゃ。お前様は儂の欲求を感じ取って、解消する義務があるとは思わんか?」
「それは勝手すぎる! お前はお前で頑張れよ!」
「一人でなんとかなることもあるがどうしても他人の温もりを感じたいと思うこともあるのじゃ」
なんとなくわかる気がするけど、同意しちゃ僕の負けだ。
僕はあるじとして忍に勝たなきゃいけない。
「お前一人で何してんだよ」
答えられない質問をすれば、いくら忍でも引くはずだ。
「乙女の秘密じゃ」
「お前のどこが乙女なんだよ!」
「全てじゃ」
やっぱり傲慢だな、こいつは。少し方向を変えようか。
「少しは恥ずかしがれよ。恥じらいは女を魅力的にするぜ」
「ほう、言うようになったの。これも元ツンデレ娘のおかげじゃな」
「戦場ヶ原は関係ない。お前のペースに乗せられないようにしているだけだ」
「そうか? 動揺しているのがまるわかりじゃが…まあよかろう」
「理由はどうあれ、わかってくれたのは助かる」
「で、お前様はあの拙い性交で満足しておるのか?」
「拙いとはなんだよ! 僕らはお互い初めてだったんだ! しょうがないじゃないか!」
「満足しておるのか?」
「ああ、満足だ」
「本当にか?」
「本当だ」
「儂が相手をしてやろうか?」
「僕にはロリコンの気はないんだよ」
「毎日儂を思い出しては欲情しておるのにか?」
「お前が言うと嘘は薄っぺらいけど、たまに本当に聞こえることがあるから注意しろよ!
僕がいつお前に欲情したんだよ!」
「毎日しておろう。儂の成長した姿を妄想してはもよおしておる」
「そんなわけあるか! もしあったとしても毎日じゃない!!」
「お前様は根本的なところでバカじゃのう……。たった一人の突っ込み担当がそれじゃこの物語に救いは無いぞ」
「メタなことを言うのは八九寺だけのはずだぞ! お前が手を出しちゃいけない領域だ!」
「まあ気にするな。で、お前様は成長した儂には興味があったようじゃの。なんなら成長した儂が相手をしてやっても良いのじゃぞ?」
「くっ、そんな魅力的な提案に乗せられるような軽い男じゃないぞ!!」
「お前様は単純な男じゃ。さっきからずっと動揺が伝わってきておるぞ。お前様はわかり易過ぎる」
「そ、そんなカマを掛けても無駄だ! 僕はもう騙されない!!」
「さっきとの今の違いを考えてみよ。さっきの話は儂が寝ておるときの話じゃったが今は起きておるぞ」
「だからそんなことを言っても無駄だ! 諦めろ!!」
「お前様よ、また頭が空になったのか? やはり残念な頭じゃな……」
「同情するな! 僕の頭は残念じゃない!」
「では会話をするのじゃな。儂は今お前様から伝わってきておる感情を説明しただけじゃ。
なのにカマをかけたなどとバカバカしいことを言うな」
「わかったよ。認めよう。お前は魅力的だからな。大人ヴァージョンは」
「大人が良いなら血を吸わせるがよい。さすればお前様のどんな要求にも欲求にも応えられるぞ」
「そっ、そんな嘘にだまされるか!!」
「お前様、動揺しすぎじゃ…。卑猥な妄想が渦巻いておるぞ」
「そうだよ! もう認めてやる!! 僕はお前で卑猥な妄想をしたんだ!」
「やっと認めおったな。ではお前の好きな体型になるまで儂に血を吸われよ。
先ほども言ったようにどんな要求にも応えてみせるぞ」
「そ、そんな事言ったって僕はお前を成長させたりしないぞ!!」
「もしかして儂がお前様に何かするかもしれぬとでも考えておるのか?
そんなことはせんよ。元々儂は自殺志願吸血鬼じゃが今の生活はそれなりに楽しいからの。
それなりに満足はしておるし、簡単に捨てようとも思わん」
「お前……。もしかして寂しかったのか? そういえばいつか言ってたよな。
『周りの人間は年を取ってお前だけが生き残っていく。それはどうしようもない』みたいなこと。
お前が死のうとしたのも一人だったことが理由か……それに――」
「何を言う! 儂は寂しければ死んでしまうウサギのようなお前様とは違うわ!! 『それに』、の続きは何じゃ!?」
「僕の人間強度はそんなに低くない!! 『それに』の次は……、まあ、なんだ、気にするな」
「そう言われると余計に気になるじゃろうが!」
「怒らないでくれるか?」
「もちろんじゃ」
「この受け答えは怒れっていう前振りじゃないんだからな? ちゃんとわかってるのか?」
「そんなことどうでもよいわ! さっさと言え!!」
「もう怒ってんじゃねえか。こういう展開だと僕の言う事があまり面白くなくて怒りもしないんだよ。
その反応もやめてくれよ」
「…ああ、わかっておる。早くしろ」
「じゃあ、めいいっぱい驚いてくれるんだな。そうしないと僕は落ち込むぞ」
「………」
「無言になるのもなしな」
「……もうよいわ。気にせんことにする」
「なっ!? お前、振ったの責任はちゃんと取れよ!!」
「お前様がじれったいからじゃ。責任云々は自分で取ればよかろう」
「自分で言って自分で驚いて自分で突っ込めって言うのか!! 従順なしもべが聞いて呆れる!」
「お前様がしつこいからじゃ」
「なんだと! この色欲吸血鬼!!」
「なんじゃ! 素人童貞が!!」
「僕はもう童貞じゃないぞ! もともと素人童貞でもなかったんだ!!」
「お前様はなじられればなじられるほど興奮する性癖があるじゃろう? それに付き合ってやっただけじゃ。
そんな性癖があるから元ツンデレ娘と付き合うことにしたんじゃろ!」
「そんなわけあるか!」
「ではなぜ元委員長を選ばなかった? お前様は元委員長のことが大好きなはずじゃ。あの時もほれ。色々しておったじゃろう?」
「何をいうんだ! 僕と羽川は健全な友達付き合いだぞ!」
「またシラを切るのか。このやりとりはめんどうじゃ。一つ飛ばすぞ」
「そのやり取りを楽しむのがこの小説の魅力の一つだぞ! 否定するな!」
「元委員長と埃っぽい小屋で。体育倉庫というのじゃったか……?」
「な、なんでそれを知ってるんだ!? ちゃんと誤魔化したはずだ!」
「儂は吸血鬼じゃぞ? お前様もさっき言うたじゃろ。『色欲吸血鬼』と。
儂は敏感なのじゃ。特に血や体液などの匂いにはな」
「それじゃそんなことが有ったのをわかってて僕と戦ったのか?」
「ああそうじゃ。言わないでくれと目で訴えられた気がしてな。我が眷属にした男の名誉を守るのもあるじの勤めじゃよ
じゃから原作ではそのシーンはカットしておいた」
「お前は何様なんだよ!! 八九寺Pでもそこまではしない!
それに確か原作者の書き下ろしじゃなかったか!? 原作者以外が手をつけていないってことだ」
「中から儂が弄ってみた。まあ深くは気にするな」
「お前にはそんな能力があったのか!? 世界改変できるじゃないか!!」
まあそんなこんなで以下は回想に移る。
僕が体育倉庫に篭り、羽川に説得されているときのこと。
最終更新:2010年01月02日 04:06