『こよみウイルス』

「「兄ちゃん、入るよ」」
妹達の声が響く。
僕は身体を動かすこともできず、弱々しい声でいいよと返事をする。
「体温計とアクエリアス持ってきたぜ!」
「熱大丈夫?まだ下がらないの?」
先に火憐ちゃん、続いて月火ちゃんの声が聞こえる。
ちなみに、今の時間は6時。
普段の僕であれば、羽川や戦場ヶ原とみっちり勉強会の最中である。
それがそうもいかないのは、この僕、阿良々木暦が情けないながら今巷で猛威を
振るっている「新型インフルエンザ」なるものにかかってしまったからであった

どうやら先日、神原の家にお見舞いに行ったのが悪かったらしい。
神原は年がら年中薄着(というか裸同然)なので冬場は体調を崩しやすいらしく、
先にインフルエンザでダウンしていた。
「すまない阿良々木先輩、乾布摩擦程度では冬将軍には勝てなかったようだ。あ
あ、そのままでいて欲しい。外は寒かっただろうから、私が人間ホッカイロにな
ろう」と言って寒い中脱ぎだすのを必死で制止しなければならなかったが。
本当に風邪なのか、謀らずも疑ってしまった。
それと、部屋に「風神・雷神」の
掛け軸を掛けながら風邪と戦うのは色々間違っていると思うぞ、神原。
ちなみに、冬将軍=戦場ヶ原父 であった。
さすが、碇司令、お唄も上手いようで。
「兄ちゃん、風邪の方はどう?」
「頭とか痛くない?冷えピタなら買ってくるよ?」
二人の心配そうな声。
情けないな、吸血鬼ともあろう者が風邪にかかるなんて。
忍が起きてたら笑われそうだ。

「いや、正直に言うと、あまり良くない。まあさっきよりはマシになったとは思
うけど、寒気は退いてないのが辛いな。頭もぼうっとするし」
「「ええっ!?」」
オーバーなくらいに驚かれる。
…ここ、笑うトコ?
「大変だ月火ちゃん!このままじゃ兄ちゃんが凍え死んじゃう!」
「そうだね火憐ちゃん!何か暖かい物を持ってこないと!」
なんだなんだ。
何なんだこの白々しい芝居は。
小学生の嘘より酷いぞ。
今なら「バスガス爆発」さんが三人程いるって言われても信じれそうな気がする

いや、むしろ信じる、信じさせてくれ八九寺。
「知ってる火憐ちゃん?人間の体温とホッカイロの温度って大体同じなんだって!

「なら知ってるか月火ちゃん!寒い時は、裸で暖めあうといいんだせ!」
「なら善は急げだよ火憐ちゃん!早く裸になってお兄ちゃんを暖めよう!」
「もちろんだ月火ちゃん!今日はテンションが高いからいつもの三番熱いぜ!」
なぜ三倍なんだ。
確かにツノ(?)はあるが。
「ってお前ら兄ちゃんの前でいきなり服を脱ぐなぁ―――!」
微妙に恥じらいの表情を見せながら、次々と衣服を脱いでいく妹達。
しかしこの妹達、ノリノリである。
「駄目だよお兄ちゃん、病人なのに無理したら」
「そうだぜ兄ちゃん、病人は絶対安静だろ」
いや、この場合、絶体絶命と言うべきかと。
阿良々木暦、人生最大のピンチ!
―まあ、春休みに仮にも一度人生を降りている訳だが。

あっと言う間に素っ裸になった妹達二人を制止しようとするも、震えのせいで身
体の自由が効かない。
さらに、頭もぼうっとして回らないときた。
「じゃあ兄ちゃん、人間ホッカイロだ!」
「あ!あたしがお兄ちゃんの右がいい―!」
何だお前ら。
ポジションを取り合っている場合か。
僕もそうだ。
妹達が全力で看病してくれるというのに、それを払い除けるとはどういう神経か

好意は快く受け取るものだ。
拒む必要がどこにある。
全てを受け入れようじゃあないか。
それが兄としての器というものだ。
「こつん…と、うわぁぁお兄ちゃん、すっごい熱いよ」
いつの間にか布団の中に潜りこんできた月火が、僕と額を重ねる。
その顔が体が胸が、僕の手足に触れる。
二の腕に触れる、ふよん、とした感触。、
「―――――――――っ!?」
「あれ?さっきより顔が真っ赤になってるよ、お兄ちゃん」
「いや……ま…まあ…」
「火憐ちゃんも、測ってみてよ。このままだとお湯沸いちゃうよ?」
「そうなのか?ならあたしも!」
逆の二の腕に、むにゅん、とした感触が伝わる。
やはり年上だからか、微妙に火憐ちゃんの方が大きい。
そして、ぐるりと頭の向きをねじ回され
「せいやっ」


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最終更新:2010年01月02日 08:53
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