《解説》村 尚也
狂言・縄 綯(なわない)
博奕{ばくち}に負けた主人は、金銀の代わりに太郎冠者を相手方に奉公に出す。そうとは知らずに使いに出た太郎冠者は、その家で遠くへの使いや縄を綯う仕事などを命じられるが、なんだかんだと理由をつけて言い逃れる。怒った相手が太郎冠者の主人へ文句を言うと、こちらで縄を綯わせるから陰で見ていてくれと、作戦を立て呼び戻す。主人のもとへ戻ってからは、得意の縄綯い{なわない}をしながら、いい気になって相手方の悪口を言って笑う。ついには留守中に会った向こうの女房の顔の様子や子供のわがままぶりや、興に乗って自分がやった悪行まで赤裸々に語るのだったが…
和泉流では本物の稲縄を使うが、大蔵流では布を使う。舞台面では縄の切れ端なども残らず、様式的な見立てになるのがいい。ともすれば他人の家庭の内情暴露の話が、下僕の他愛ない笑いにまぎれるのは、これが縄を綯う労働のいわば合の手になるからで、愚痴や悪口が労働のエネルギーに昇華する例。