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道成寺 - 第十五回花祥會のパンフより


《解説》村 尚也

能・道 成 寺 (どうじょうじ)
 紀州道成寺で久々に撞鐘が再建される事になった。その吉日に、住職の言いつけで、女人の参詣は禁制となる。しかし、白拍子のたっての願いで、能力はその禁を破って女を境内に入れてしまう。女は乱拍子の舞を披露する。と、その高揚した心はテンポの早い急の舞を経て、ついにその身もろとも鐘を引きずり下ろすように中へ飛び入る。
 落ちて熱した鐘を前に右往左往する能力ら。住僧は、熊野詣の若い僧を追い、蛇身と化して鐘もろとも男を焼き殺した女の執心譚を語る。
 僧らの祈りに鐘が引き上げられると、中から蛇体と化した女の霊が現われる。祈祷と執念の責めぎ合いの中、ついに女の執心は祈り伏せられ、日高川の暗淵へと沈む。
 紀州遺戒寺に伝わる縁起は二つ—一つは本尊の千手観音を海中よりかづき上げた海女の宮古{みやこ}が、その美しく長い黒髪の縁で宮中に召され、文武天皇の后となり、橘道成{たちばなのみちなり}の奉行によって改めて持仏を祀る道成寺が建てられるまで。二つめは後世、安珍清姫の物語へと発展する蛇身説話である。
 本曲はこの二つめの物語の後日譚というプロットで、おそらく近隣に住む白拍子の女の霊が憑いて、鐘の再建を拒もうとする仕立てであろう。
 本舞台天井に巨大な作り物である釣鐘を観客の前で吊り上げる興味。シテの登場前に狂言方の能力が異様なまでの時間をかけて、舞台を回る結界作りめいた動き。シテは幕より小走りに出て、改めて歩み直し、「急ぐ心か」と唐突に甲高く謡う等々、はじめから緊張をいや増しに膨らませる仕掛けが散りばめられている。
 小書(特殊演出)の「中之段数躙{なかのだんかずびょうし}」は、いつもは音を立てずに抜キ足で踏むあたり、拍子の数が増え、「無躙之崩{ひょうしなしのくずし}]では「名付けたりや」で爪先で明確な間を刻まず、クルリと鐘の方に向きを変え、左手で指して執心を見せてから「急ノ舞」にかかる展開。ふつうは三段で舞う「急ノ舞」を.五段に舞うのか「五段之舞]と、今回は乱拍子から舞へかけての習いに意欲を見せている。
 「赤頭」は、後シテでふつうは前場の髪の隅{すみ}だけを乱れたように出す処を、赤頭を用い、異形の姿で登場する。またこの時、緋長袴を着すやり方と強い模様の腰巻で演じる場合とがある。
 これらの小書によって、舞に粘着力が出て執心が増幅されると同時に、あくまでも本体は女性でいてしかも異形であるという、二重三重な負荷が加わる。それは、作品が孕むイメージの多様さと同時に、演者関根祥人の新しい芸の多面性をも暗示するものなのだ。

第十五回花祥會のパンフより










最終更新:2010年01月30日 01:17
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