<<雨>>


  うつろいゆく季節の切れ端で
  お前は一人膝を抱えて部屋の片隅にうずくまっている
  冷え切った部屋の中で
  身じろぎもせず
  たゆたいもせず

  こんなに風は温かで
  こんなに花は優しくて

  だのにお前の昏い瞳に映る景色はどこにもない

  音を立てずに近寄れば
  まるで手傷を負った猛獣のような
  怯えた目つきで
  威嚇する目つきで
  獰猛な目つきで
  お前は初めて俺を見る

  加減でも悪いのですか
  働きすぎではないですか

  まるで心にないような
  白々しい言葉が俺の喉から流れ出し
  お前が傷ついた顔をするのがわかる

  ため息の出るほど長い年月を過ごした俺よりも
  もっと長い昔から
  雑多な人間に読み継がれてきた聖書が
  今はなぜか少し重い

  腕を伸ばしてお前の頬に触れたら
  お前の底知れない虚無のひとかけらでも
  掬い取ることが出来るか

  救い取ることが出来るか

  不意に外は時雨れてにわか雨
  降り墜ちる雨粒に紛れて一度だけ
  マクスウェル
  お前の名前を呼んだ  


もし あなたの内なる光が暗ければ その暗さはどんなだろう
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最終更新:2008年05月25日 16:07