<<こどものじかん>>


  どこかの国の習慣で
  今日は こどもの ひ なのだと言う
  すれ違いざま 小耳に挟んだだけなので
  どうにも詳しくは知らないが

  サカナの形の モニュメント
  青葉を巻いた 半生菓子
  頭に カブトを差し被り
  わが子の成長を喜び寿ぐ 祭り らしい

  わが子の成長

  思い起こして俺は 暗い気分に陥る
  幼少時代
  誰かにぬくもりを分けてもらえた記憶などいっさいない
  ぬくもりを分けてもらえた記憶など
  ぬくもりなど

  ぬくもりなんか いらない

  口では強がり その実
  誰よりもそれを渇望していたことを
  恥ずかしながら己自身が 一番良く知っている

  知ってはいる ものの
  認めるつもりもそれを何とか解決しようとする気もないが
  解決できるはずもない
  幼少時に受けた心の傷は どんな手だてを講じようと決して拭い去ることは出来ないのだと
  どこかのものの本には えらそうにそう書いてあった
  読んだ瞬間 納得した
  なんだ 拭い去ることは出来ないのか
  いつまでもこの血潮の止まることはないか

  ぬくもりなんか

 「マクスウェル」
  ふかくあたたかな声が掛けられ
  俺は反射的に振り向いた
  廊下の向こう
  熊のように大柄なお前が 実に嬉しそうな顔で
  両手いっぱいになにかを抱えて立っている

 「カシワモチなるものをいただきました おひとつ」
  食べませんか
  差し出す手のひらに やわらかな丸みの それ
  即座に返答の出来ない俺に近付いて
 「どうぞ」
  とお前は差し出した
 「時間があるなら ご一緒に」
  楽園のエヴァに リンゴを差し出したヘビの誘い文句 というものも
  意外と軽いものだったのかもしれない

 「ああ そうだな」

  山積みになった始末書の束のことは 今は考えないことにして
  俺は頷き お前に続いた

  ぬくもりなんか

  お前の大きな背中を仰いで
  そのことも今は考えない事にした


構ってちゃん。
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最終更新:2008年05月25日 16:08