<<幼い頃>>
幼い頃 一年に一度のこの日がとても 嫌いでした
幼い頃 巡り来る季節に唾棄しながら 耳を塞いで目を閉じた
幼い頃 この日の記憶は
飢え と 寒さ
慢性的な 満たされない 孤独な思い
それらすべてをひとまとめにした 言い表せない曖昧な
憎しみ
敵意をむき出しにしたわたしを
まるで陽だまりのような あたたかな 笑顔であなたは迎えてこういった
”今日からここが あなたの家ですよ”
ああ
瞬時に満たされた安心感と言おうか満足感と言おうか
切なさ。
隠し切れない
独占欲。
そうだこのままいっそふたりで 世界の果てを目指しませんか
あたたかなあなたの周りにはいつも たくさんの人が群がっていて
あまりのまぶしさにわたしは 近付くこともできない
けれど決まってあなたは
そんなわたしに気付いていて
いつの間にか差し伸べられた腕
大きくて力強い腕。
成長するにつれて子供は 大きかったはずの両親がしぼんでゆくことを
甘い疼きとともに体感すると言うが
あなたは
いつまでもあたたかくて大きくて まぶしいままで
それがわたしを面食らわせ
そうして深い不安に陥れる
あなたを失ったわたしの世界は 想像するだに恐ろしく
けれど恐らく巷で言うように 世界が崩れるわけでも 時が止まるわけでも なく
日々平穏に 何事もなく過ぎていってしまうのだろう
それが
わたしにはひどく怖い。
そうして膝を抱えるわたしを
無理矢理に日向に引きずり出すあなたの強引さ
疎ましくは思っても 嫌いにはなれないことを きっとあなたは気付いている。
「ずるい男だな、お前は」
「――マクスウェル?」
「そうして花束を差し出して。交歓を買おうとでも言うか」
「今日はクリスマスですよ。一年に一度。特別な日です」
ああ。
「ああ――」
無造作に受け取り乱暴に微笑んで見せた。
「本当にお前はずるい男だ」
アンデルセン。
メリークリスマス。
この聖夜 ワインとケーキを。
二人だけの時間に。
最終更新:2008年12月27日 11:50