<<猫にピアス>>
「――何をしているのかな」
「うわ。なんかきたし」
「いい天気だね」
「……挨拶しながらしれっと隣座ってくるなよ……」
「お前はこの場所がとても好きだね」
「好きつーか、あのね、オレ一応隠れているつもりな訳ね」
「かくれんぼで遊んでいるのかな」
「いやいやいや。なんでそういう発想なんだよ。じゃなくて、ぶっちゃけアンタに見つかると面倒だから隠れてたって言うのが正しいところなんだけど」
「隠れなおす?」
「だから。遊んでるんじゃねぇって言ってんだろ。ちったぁオレの話聞けよ阿呆」
「ふむ」
「ああもう。こっち寄って来んなって。狭いだろ」
「何をしているのかな」
「ほんっと、アンタ人の話聞かねぇよなー……」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ」
「何をしているのかな」
「いや。何、って言うか」
「――耳飾り?」
「さりげなく後ろに隠しているのに、目敏過ぎるだろアンタ」
「針と――」
「あー……、別にアンタがジャラジャラ盛大につけてるのを見て、オレもつけてみようかなとか思った訳じゃあねぇんだからな」
「羨ましくなったと」
「だから。話聞けよ」
「開けるのを手伝おうか」
「あ、マジ?うわー助かる。左耳は、まぁなんとか開けられたんだけど、なんか、右、が。さっきから見当つけて刺してたんだけど。どーも上手く刺さらなくてさ」
「すでに血が滴っているが――」
「たいして刺してないのに止まらねぇし。平気。痛くねぇし」
「血だらけな訳だが」
「ああ……、アンタ汚れちゃうか、マズいかな」
「いや――お前が痛みを感じていないのならば、かまわない」
「そっか」
「猫」
「うん?」
「私の左肩に、頭を――」
「えっと。……こう?」
「もう少し首を傾けて」
「えーと」
「しっかり頬をつけて……身体はこっちへ」
「こうかな」
「無抵抗な首筋もそそるものだね」
「不穏な言葉が聞こえる」
「気のせいだと思うよ」
「……そうですか」
「――血が――止まらないね」
「……ちょっ、おい!滑って邪魔なのはわかるけど、舐めんな!つか舌耳に突っ込むなあぁぁあ!」
「動くな」
「動くな、ってアンタが動くように仕向けてるんだろうが!」
「動くと狙いを誤るよ」
「……」
「いい子だね」
「根っからの嗜虐体質だよなアンタは」
「――ありがとう」
「褒めてねぇ……変態すぎる……ってあ、つっ」
「――」
「ふぅ、んっ……」
「痛い――?」
「いや……平気。開いた?」
「開いた」
「おー……ありがと……。……て……、あれ」
「よく――似合う」
「うわ、なんかもうすでに嵌まってるし。アンタもしかして自分が嵌めてたヤツオレに嵌めた?」
「嵌めたが」
「……」
「瞳と同じ色だね」
「……なぁ。アンタの身に着けてるヤツって、どいつもこいつも目ん玉飛び出るって言うか……国宝の職人のジィちゃんが仕上げましたとか、そういうレベルじゃねぇの?」
「さぁ。興味が無い」
「いや答えになってねぇし。つかオレが『皇帝サマの』宝石着けてたら、色々とやばいだろ」
「継承権の宝冠もいるかね?」
「いーらーねーえぇぇええ!」
「冗談だ。だが、そこまで全力で否定しなくとも良いのではないか」
「いや。アンタどこまで冗談なんだよ。……駄目だ、アンタに言葉が通じる気がしない」
「さぁもうひとつ開けてみようか」
「……なんでアンタ、そんなに、開ける気満々なんだよ……?」
「いや」
「いや、って。アンタ理由もなく乗り気にならねぇだろ」
「――お前が。小さく痛みを堪える声もまた良いものだね――」
「うわやっぱり。最低ド畜生な理由来たし」
「いかほど開けるかね」
「待て待て待て待て。ちょっと待て?もういいぞ?オレ、左右ひとつずつでじゅうぶんだぞ?」
「遠慮しなくて良いのだよ」
「遠慮なんてしてねぇし。ってアンタどこに腕回してんだ!?」
「ここは少し狭いね」
「狭いって言うかアンタがどんどんこっち詰めて繰るから狭いんだろ!あっち行けよ!」
「身動きできない猫を追い詰める機会は――なかなか無いだろう?」
「いや意味わかんねぇし……おい!服脱がすなって!やめ、」
「お前がやめろと言って、私がやめたことがあったかね?」
「自慢でもなんでもねぇッ……ちょ、鼻擦り付けんな……!おい!……わぁあ!」
(20100724)
最終更新:2011年07月28日 07:11