*
そこまでだ、とセヴィニアの声がする。
酷く硬い声だった。
エスタッド皇帝は声に振り向く。
そこで留まれと周りの騎士も一斉に剣柄へ手をかけて、けれど小国であろうと正式な使者として遣わされてきた女へ対して、不仕付けに抜刀できるはずもなく結局じりじりと包囲は後退した。
見せかけの脅しは、効かない。
だらりと下げた剣を手に女は男へ近付いてくる。どう押し切ってここまで来たものか、半分軟禁する形で屋敷へおいてあったというものを、と内心語散る。だから猫を連れて、皇帝は視察へやってきた。供回りに言いつけておくことはできるけれど、また何かちょっかいを出してくるように思ったからだ。
黒死病の罹患を逃れるため、皇都から屋敷へと移動する際に、チャトラは一度行方をくらました。どこへ落としたのか判らないが、シュイリェの女が関与していることに間違いはなく、けれど女は知らぬ顔を決め込んでいる。チャトラも口を開かない。ただ迷った、とだけ言った。
何かの思惑があるのか、それとも何も考えてないのか、割と頭の良い猫のことだから恐らく前者ではあるのだろうけれど、彼女が何も言わなかったので、男もそれ以上の追及は不問とした。
これ以上迷惑ごとを増やさないように、監視の目を強めるにとどめた。
その女が、何故か屋敷を抜け出して目の前にいる。
女の背後には半狂乱になった中年女がおろおろと成すすべもなく付き従っており、それへ目を流して使えないな、と思う。
使えない。
何のための介添え役なのか、理解していない人間は使えない。
溜息を吐いて改めて女へと向き直る。
酷い恰好をしていた。
だらりと着流した薄物の夜着は日に透けて、下の肌が露わになってしまっている。雪の上に裸足の足を引きずって、虚ろな目をして女は男へ近付いてくる。ちらと見て、痛くはないのかと思った。足跡にくぼんだ雪には赤く血がにじんでいる。
どうしたものか、と思う。
ここでセヴィニアに指図し、女を捉えるのは容易い。皇都に送り返すことも、どころか本国へ送還してしまうことも、男の言葉一つで簡単に実現する。
問題は、送り返したい国が、今麻のように乱れていること。女の身の安全は男にとって正直どうでも良かったが、送還することも含めて政治的に有利に働くかどうかは念頭に置かなければならない。送り返し、刃向ってくるようでは厄介ごとを一つ増やすだけだ。
とはいえ、騒乱の種をいつまでも身中に抱えている訳にもいかないのだから、これはやはり、皇宮内へ留めておくことは難しいだろう。離宮へ追いやることも考え物だ。目の届かない場所で何を企むか、シュイリェの太守に何を言い含められてきたのか判らないが、大体の予想は付く。
斬り伏せてしまうのも一瞬考えたが、それはそれで口実になる。大義を掲げてシュイリエが各国へ援助の通達を出すのは目に見えており、挙兵の切っ掛けを作ってやるのも業腹だ。
そうして男が暢気に考え込んでいると、セヴィニア補佐官も、男の指示を待つ素振りを見せていた。彼の立場上、粗雑には扱えない来賓ではあったし、セヴィニア一人だけならともかく、その上に立つ男がこうしているのだから、軽はずみな判断は避けたのだろう。
機転が効くと言うよりは、厄介ごとをなるべく負わない処世術だ。
「――……へいか」
うっとりと夢見るような瞳で、女は言った。。
「わたくしをおいて、どこへゆくのですか」
ざりざりと引きずった細剣が雪に突き立った。
むき身の剣。
鞘はどこへ行ったのか、だとかどうでも良いことを思った。
「へいか。……わたくしの名を、よんでくださりませ」
甘えるような舌足らずな口調は、今まで男が見たこともない女のもので、ふと眉を顰める。
まだ、迷っている。
斬るか否か。
「おいてゆかないでくださりませ」
腕を掲げてにじり寄る女は、引きずった剣を胸の前に構えて、男の胸元へぐらぐらと切っ先を向けた。
「へいか」
「……陛下」
流石に指示を待てなくなって、ディクスが男の前に出た。まだ剣は手にしていないが、いつでも抜刀できる姿勢になっているのは判る。ディクスが男を庇ったことで、固唾をのんで場を窺っていた騎士たちに波のように緊張が走り、空気が張り詰める。
失われるのは女の命一つではない。些細な出来事で簡単に国と国の交わりは捻じくれて正常なものではなくなる。戦鼓の音が、ふと誰の耳にも幻聴で流れたような気がした。
と、その時、
「皇帝……?」
背後で小さく息を飲む声がした。
二、三歩踏み出した足が、そのままぴたりと止まっている。猫がいつの間にかひどく近付いてきていたのに気付かなかった。
驚いた弾みに声が出たのだろう。男と、女の姿を目に入れた彼女は状況が掴めず目を見張っている。
まずいなと思う間もあらばこそ、チャトラを目にした瞬間女の形相が変化した。幼子のような甘えた顔から突如狂気が迸る。びりびりと空気を震わせた殺気に、チャトラが驚いて立ち竦んだ。構えた切っ先は今は真っ直ぐに痩せた体を指し示していて、それが、烈火のごとく唸り、奔った。ひぃあっ。鳥のような声で啼いて、女がチャトラに襲い掛かる。男を護る位置に立ったディクスの体は微動だにしなかった。走れと言いかけて、男はそれが無駄な行為だと言うことに気が付く。何故ならディクスはひたすらに皇帝を護るものであって、そのほか周りを護るものではない。一役だけを順守する。冷酷なのではなく、冷徹なのである。
女を今更制止できるとは思えなかった。けれど無意識に腕を伸ばしかけた皇帝は、不意に体の芯に走った激痛に身を竦ませた。遅れる。一手。
竦んだ男に即座に気付いて、抜刀しきったディクスの集中が別の緊張をはらむ。
――いけない。
動けもせずに女を凝視する猫の表情を、目に入れた瞬間の、疼痛。先に走った慣れた痛みとは異なる、臓腑を鷲掴むようなずくりとしたそれ。
これは何だと混乱する目の前で女が剣を振り下ろし、そこへ咄嗟に踏み出した護衛兵の一人が、猫もろとも肩口から突き飛ばした。直後に空気に舞う血潮のにおい。エイコ、とディクスの低い声が部下の名を呟き、呼ばれた彼はもがくシュイリェの姫君を取り押さえながら、こちらへ顔を向けて見せた。
「エイコ」
「は」
不敵に笑っている。
「怪我は」
「皮一枚です。自分は鎧を着込んでおりますので――、」
どん。
エイコと呼ばれた騎士の言葉途中に、空気を妙に劈く衝撃波とともに、遅れて地面が揺れる。発破が、だとか誤爆だ、だとか脇の方で監督長の慌てた声がして、合わせてずずずと嫌な滑落音がした。
落盤。
直感した瞬間、誰もが咄嗟に己を庇う。発作をこらえて立ち上った男は、知らず小さな姿を探した。もんどりうって転がっていた彼女が、未だ目を丸くしたままに擦り傷だらけの顔をひょこ、と脇道から覗かせる。吹っ飛んだ勢いでそこまで行ったらしい。
その体に砂礫が降り落ちた。
「猫」
数歩、大股に近寄っていた。痩せた体に触れた瞬間、再び襲った激痛に喉奥で呻く。チャトラの体を引き寄せたのと土砂が一気に上から崩れ落ちてきたのと、どちらが早かったのか、男には判別がつかない。けたたましい女の笑い声がした。
「へいか」
大きな礫(つぶて)が背骨を打ち、悶絶した。
「わたくしの名をよんでくださりませ」
陛下、と叫んだ誰かの声が、たちまち土砂にさえぎられて聞こえなくなった。
――ああ、泣いている。
水の膜を通したようにぼんやりと遠くで、誰かが泣いている。
瞼をゆっくりを持ち上げようとして、その力さえ満足に出ないことに気が付いた。
泣いているのは誰だ。
哭き女、だとか言う職業もこの世にはあるようで、初めて耳に入れた時には成程うまい職業もあるものだと、妙に感心したものだ。仕事はそのまま読んで字の如し。「哭く」ことが仕事なのだ。葬儀やその他弔いの場所に表れては、故人を偲んで騒ぐらしい。これがいわゆる「嘘泣き」に見えず、真に迫った演技をするほどに評価は高く、嘆き悲しむ声の多さで個人の人徳を推し量るのだと言う。
――父の時にはただの一人もいなかった。
せいぜい嘆いていたのは後宮に住まう女たちだったのだろう。その女たちですら、主であった父の為に心底嘆いた数がどれほどあったものか。多くは己の前途の不明さと、不意に崩れた生活基盤を悲しんでいたにすぎないと思う。父が暇つぶしに掻き集めた女たちを雇い続ける気は、さらさら自分にはなかったし、それは彼女たちも十分に承知していたはずだ。
ただひたすらに億劫だった。
後宮はほどなくその機能を失った。女に、と言うよりは単純に他人に対して興味を持てない自分は、報告を聞いてもああ、これで経費がずいぶんと浮いたなとそれだけを思った。
女はよく泣く。
涙は武器になるだとか下世話な話に上がるけれど、正直武器に思えたことは、ただの一度もない。悲しむ感情と涙の出る構造が男には今一つ理解できないし、感情を高ぶらせて有利に運ぶ展開は有りえないと思っている。
それで物事が収まるのならば、何度でも泣いて見せたかもしれないけれど。
邪魔でしかなかった。
しかし、こうして哭き女がいると言うことは、誰か亡くなったか。そうかもしれない。生きていると実感するには己の体はあまりにも重く冷たく、思い通りに立ち行かぬ。
ああそうか、
死んだのは自分か。
とすると、三補佐の誰かが自分の為に女を呼び寄せたのだなと思った。自分の為に嘆き悲しむ演技をする女。自分の棺に泣いて縋る女。これだけ迫真の演技で、涙を零す女を雇ったと言うことは、葬儀費用はそれなりに奮発したのかもしれない。三補佐にしては上々だ。可笑しくなった。
別に女でなくともそこは良いのだけれど、男よりは女の方がどちらかと言えばありがたいように思う。泣いて気を惹く女は面倒臭いばかりだけれど、縋って泣く男よりはよほどマシだろう。ぞっとする。主君を慕う部下が男泣きするだとか、美談で止めるだけで十分だ。
泣いているのは誰だ。
……今は亡い母だろうか?
朧な母の記憶を手繰り寄せる。記憶の中の母は、さびしそうだった。ただひたすらに印象と言えばそれだけだ。顔は覚えていない。笑った顔どころか、面と向かって話した記憶もない。呼ばれたこともなかったように思う。ただ、美しい人であったと周りの人間が言ったのを聞いてそんなものかと思っただけだ。
美しかったけれど、権力者の寵愛を受けるに相応の後ろ盾を持っていなかった母は、父と祖父の二人から愛され、妄醜のはざまで苦しんでいたような人だった。
苦しみたかったのかもしれない。
本当に寄る辺がなかったのなら、もっと早い段階で、逃げてしまえば良かったのだ。身一つで皇宮を出てしまえば良かった。深窓の育ち、一度も温室の外に出たことがないと言ったような、貴女王女の類ならともかく、母は一介の下働き女に過ぎなかった。勝手が判らないとは言わせない。現状に甘えて先へ切り開かないただの言い訳である。
もし仮に、逃げることが本当に叶わなかったのなら、いっそ自刃してしまえば良かったのだ。我が身を嘆いて不幸だ悲運だと自惚れるよりは、余程有意義である。
流されることを選んだ母は、そのどちらも選び取ることができなかった。弱い人間だったのだろうと思う。
あるいは、強かな人間だったのかもしれない。二人の男を籠絡し国の屋台骨をぐらつかせ、それを楽しんでいたのかもしれない。血で血を争う渦中のど真ん中で、被害者面をしていたのは表のことだけで、裏でどんな顔をしていたのかは本人にしか判らない。
皇太子の世継ぎを生む。世が世ならば、そうして後ろ盾が不必要な時代であったなら、そのまま国母とでも呼ばれていたものを、母はいつまでもただの端た女に過ぎなかった。
恨んでいたろうか。穿ちすぎか。
苦笑した。
彼女はきっと、純粋に悲しんでいたのだ。
父の子か、そのまた父の子か、それとも巷が言うように別の種でもあったのか、母は赤ん坊を身ごもりそこで初めて皇宮を出た。遅すぎる、と幼心に思った。もはや取り返しがつかない。愛憎に狂って祖父も父も殺し合って、結局死んだ。
――ああ、しかしよく泣くな。
ず、ずず、ずずずと鼻を啜る音。泣声は聞こえない。「これ」は、こうしていつも声も出さずに泣いているのか。静かに覆いかぶさる体に手を這わせ、男はそこで半ば夢うつつに思い巡らせていたのだということに気が付いた。
何故哭き女だと思ったのか。こんなに静かに泣く職業女はいない。
瞼を上げるのは億劫だったので、うるさい、と小さく呟いた。呼んだ声がしわがれていて、口の中に嫌な味が広がった。呼ばれた肩がびくりと上がるのを感じる。
「こ、こ、こうれ、」
鼻声になって、吃って。全く発音できていないじゃあないか。
呼ぶと余計に、ぼたぼたと己の顔に降り落ちる熱い水滴があって、その塩辛さに男は片目をうっすらと明けた。皇帝、皇帝、とひどく幼い声が男を呼ぶ。崩れたと言うなら、豪くぐじゃぐじゃに泣き崩れたチャトラの顔が、ぶれる視界の中まず目に入って、思わず男は笑う。あまりに不細工だったので。
「そんなに泣いたら――水分が体から無くなるのではないか」
「ら、って、らってアンラの……ッ、息とまるし、呼んれも目あけないし」
「しぼむよ」
ふと場にそぐわない疑問を口にした男に、両の拳で涙を乱暴に拭いながら泥だらけ埃だらけのチャトラが言った。思えば自分の目の前で、ここまではっきりと涙を見せたのは初めてのような気がする。それもそうかと内心呟いた。虚勢を張る余裕はないらしい。擦るものだから余計に頬が真っ黒に汚れていた。
「呼んでもあけらいし……ッ、そのうち、ど、どんどん」
どんどん体が冷たくなって。
「オレ、アンタが死んじゃうんじゃないかって、思っれ」
冷たくなるのは嫌だった。冷たく硬くなるのが怖かった。だから、アンタにどうやってもあったかさを分けたくて、分けたいのに、でも。
「擦っても挟んでも、アンタは冷たいまんまで、息はゆっくりまたしてたけど、目開けないし、もうどうしたらいいのか判らなくて」
「――お前がどうして悲しむ」
煤けた顔はひどく不器量だった。手を伸ばす。いつから泣いていたのだろうと思った。
「なんでって」
「私が死んだとして――お前がどうして悲しむ」
「だって、姉ちゃんが、姉ちゃんがオレを置いて行って」
「姉」
「オレ、いやなんだよ。……もうオレの前で、だいじなひとが冷たくなっちゃうのはいやなんだよ」
「では、お前の見ていないところで私は往くとしよう」
「そういうこと言ってるんじゃねェんだよ!」
ああ、また泣かせた。
ぼろぼろと音がしそうなほど溢れた涙が、緑青色をぼやかす。みっともなく泣きじゃくる頭にようやく手が届いて、皇帝はチャトラの頭をぐいと引いた。
「猫」
「なんだよ!」
「怖かった?」
「……怖くなんか、」
ない、と強がりかけた頭を胸に押し付ける。驚いたように硬直した体は、けれど抗いはしなかった。そのまま強く抱きしめると普段は煩わしいほどに熱い体が、今は冷たく凍えていた。どれだけの間、こうして覆いかぶさって泣いていたのだろうと思った。
「よかった」
力を緩めるとしゃくりあげた猫が、自発的に胸元に顔を寄せる。手足を踏ん張って余計な重さを己にかけないようにしている体勢に気がついて、どうにもいじらしく思う。
「アンタまだあったかい」
「――」
瞬間うずいた胸のあたりの痛みに男は顔を眉をひそめた。
これは一体なんだ。
「……痛い?」
表情を察したのか、飛び上がるチャトラに大事ない、と薄く笑って、それから男は今の状況を改めて思い起こす。
「――埋められたのだったかな」
全身の倦怠感はとてつもなかったけれど、土の上にそのまま横たえている背が痛い。起き上がりたくてもがくと、ばかまだ寝てろ、だとか言いかけた腕が慌てたように添えられ、半身を起こした。壁にもたれる。たったそれだけの動作がひどく疲れた。
「うん。今坑道の中」
「他の者は――」
「わからない。さっき回った時、とりあえず生きてるのも死んでるのもオレとアンタだけみたいだ」
「回った」
「ああ……、うん。埋められたんだけど、生き埋めなんだけど、なんか外とつながってて。えっと、つながってるって言っても、抜けられるほどの穴はないんだけど、こう、無理矢理体ねじ込むと、石の隙間から外が見えるって言う」
「ああ」
それで窒息もせずに生きているのか。
「ディクスさんとか、セヴィニアのヒゲとか、とりあえず出口近くだったひとたちはみんな無事みたいで、アンタの薬の場所とか教えてもらって」
胸の隠しへ手を伸ばす。万が一に備えて、いつでもそこには発作を緩和させる丸薬をひそませてあった。
「どうでもいいから早く飲ませろって言われて、でもアンタ口開けてくれないし、できないって言ったらセヴィニアに、皇帝が死んだらそのままここを生き埋めにするぞって怒鳴られるし」
セヴィニアらしい。
聞いて男は思わず苦笑いを浮かべた。別段チャトラを奮起させるための言葉ではなく、恐らく彼は本気でそう思ったに違いない。
「埋める手間も墓を作る手間も省ける」
それぐらいは平然と言い放ちそうだと思った。
俯いた男を伺うようにしていたチャトラは、ちょっと待ってろ、だとか呟いて目を擦りながら通路の方へ消えて行った。自分が目を覚ましたことを報告しに行ったに違いない。
仰け反り、頭まで壁にもたれる。
外との連絡が取れていると言うことは、おそらくは最速の突貫工事が行われるに違いなく、その点だけはセヴィニアもディクスもいることだし、「信用」して良いように思う。まだ利用価値のある自身を放置してくれるほど彼は甘い男ではない。会話ができるほどの穴が開いていると言うことは、換気に問題もないようだし、ここで大人しく救助を待っていればそのうち通路は繋がるだろう。
問題はその「つながる」時期がいつかと言うことなのだが、こればかりはほとんど判断材料も知識もないこちらに出来ることではなく、いってみれば「外任せ」である。また無茶をできるほどの膂力が自分にあるとも思えない。
待つしかないか。溜息を吐く。待つこと自体は慣れていたけれど、こうした場所に長時間閉じ込められることはうんざりする。
あいにく男の寒暖を感じる機能がもともと鈍いのか、それとも日頃から体温が低いために麻痺しているのか、今この状況でもさほどの肌寒さは感じなかったので、寝てしまおうと思った。少しでも体力を温存しておきたかったし、寝る以外に時間を消費する方法を思いつけない。
ふとチャトラはどうしたろうかと片目を開けて様子を窺うと、しばらくすると土まみれになって戻ってきた。報告をしたことでまた落ち着いたらしい。汚い顔は相変わらずだったけれど涙は引っ込んでいて、それから膝を抱えて大人しくなった。
じっと地面を見つめる表情が硬いことに気が付いて、興味を惹かれた。
「――どうした」
放っておいてもよかったのだけれど、男は言葉を発していた。うん、と曖昧に頷いてチャトラが言葉を濁す。
「暗いのがさ」
「暗い?」
「……オレ、暗いの苦手なんだよね」
「ああ」
確かに、と男は内心呟く。チャトラの口から暗闇が苦手だと聞くのはもちろん初めてだったけれど、そうでなくとも感付いていた。なにしろ闇夜にぴんぴんと気が撥ねる。それは、暗がりを恐れて泣く子供の気配だ。
「夜寝るのも好きじゃない」
それも判っていたことだ。日中のうたた寝の時、あまりに無警戒な顔で寝入っているのに対して、夜半にうなされている声に男は何度も気づいている。寝台で横にいた体が、不意に強張り、喉元を押さえて必ず悲鳴を上げるように泣いている。夢を見ているのだなと思っていた。悲しい、悪い夢を。
「何を見る」
「……姉ちゃんを」
姉、と言う単語をチャトラの口から何度となく聞いた。知っているのは商売女だったと言うこと、彼女を拾って育ててくれたと言うこと。
それ以上に尋ねたことは無い。他人の過去に興味がなかった。むしろ他人への興味がなかった。
猫、と男は小さく呼んだ。
初めて湧いた他人への興味が、お前には判るか?
「前から一つ聞いてみたかったことがあるのだがね」
「なに」
膝にうずめた頭へ声を投げると、くぐもった声でチャトラが返す。
「お前はどうして掏摸になったのかな」
「……どうしてって」
「いくつかの選択肢があったろうに、何故掏摸の道を選んだのかと、ほんのちょっとした好奇心なのだが」
「アンタいやなこと聞くね」
疲れたように答える顔はうずめたままで表情は伺えない。
「いやなことなのかな」
「いや……べつに」
「どうせ助け出されるまでに当分かかるのだろう?」
「聞いても楽しい話じゃねぇよ」
「お前の話なら聞いても良い」
「なにそれ」
くぐもった声でチャトラが笑った。
それから顔をうずめたまま黙り込み、想いを巡らせる。男はじっと待った。
しばらくして、
「今なら……、今でもそんなに幅はねェけどさ。十になるかならないかのガキが、一人で食って生きてくだけの金を手に入れようとしたら、あんまし選ぶ手はねェだろ。実際のとこ、体を売るか、プライドを売るか。どっちかだよ」
口を開いた。
「――」
「体を売るのは嫌だった。道徳だとか倫理だとか、そんなたいそうなものはオレにはねェけど、何となくいやだ、そう思ってたけど。いやだったのには、ちゃんと訳があった」
「訳」
「“目の前で”、姉ちゃんが客に殺されて、オレも同じように客に殺されるのは御免だった。……それをずっと忘れてた」
「――」
「皇帝」
「ぅん?」
そうしてまたしばらく黙ったチャトラは、何かを思い切ったように性急に話し始める。
「オレ、こないださ、雪の中で迷ったろ。あのときいっぱい夢を見た。……起きてるんだか寝てるんだかよくわかんねェ夢の中で、姉ちゃんが絞め殺される瞬間を、何度も何度も繰り返して見た。見ながらおかしいって気が付いた。なんで姉ちゃんが殺される瞬間をオレはこんなに何度も見るのかって。あのとき部屋で待ってたはずのオレが、朝になるまで何も知らなかったはずのオレが、なんで客が姉ちゃんの首に手をかける瞬間とか、そのとき暴れておかしな方向に曲がる姉ちゃんの脚とか、だんだん動かなくなる姉ちゃんの体だとか、そうして肩越しに振り返った客の顔とか。……なんで見たこともないのにこんなに思い出せるんだって、そりゃ姉ちゃんの死んだ顔もたしかに見たけど、ここまではっきり判ってるのはおかしいって思って」
「――ああ」
「オレ」
見てたんだよね。
そこまで一気に話したチャトラが、ぼつんと付け足す。
「思いだしちまった。忘れてたかったのに、いやなこと全部覚えてて夢にみた。オレ、あの日、姉ちゃんがおかしな客を取ったって周りの姉さんたちから聞いて、大丈夫なのかって不安になって、こっそり付いて行ったんだった。姉ちゃんは自分が客と『仕事』しているところをオレに見せるのをいやがってたから、オレ見つからないように少し離れて付いてった。暗かったし、姉ちゃんは一度も後ろを振り返らなかったから、見つからなかった。……ガキのオレが見つかったところで叱られて返されるのがオチだったと思うし、何も変わらなかったのかもしれねェけど。……最初安宿に入るとか言っているのが聞こえたんだけど、客が金を出し渋ったみたいだった。それから路地裏にシケこんで、姉ちゃんはいつもの『仕事』を始めた。いつもの通りだって、姉さんたちの心配しすぎだったんだってオレ思って帰ろうとして」
奇妙な音が聞こえたのだ、とチャトラは言った。
「客が姉ちゃんの首を絞めていた。姉ちゃんの顔みたら、『そういう』内容じゃないってことはすぐに判った。オレびっくりして、頭真っ白になって、どうしたらいいって思ってるうちに、姉ちゃんは泡を吹いて動かなくなってた。これは気絶なんかじゃない、死んだんだって。首がおかしな方向に折れてたし、食い込んだ紐が手首くらいの細さになってた。動かない姉ちゃんに突っ込みながら、客が物陰から見てたオレを振り返って笑った」
そいつは、
「そいつは物陰から見てたオレのことを知ってた。知ってて姉ちゃんを絞めた。そうして、次はお前だってそいつは言った。腕を伸ばされたから、オレはそこから逃げた。たぶんそいつはオレのこと本気で捕まえる気はなかったんだと思う。思うけど、オレは本当に怖かったし、訳わかんなくなって逃げて部屋に帰った。逃げながらああ、顔を覚えられたって、そう思った。口封じに殺されるんだって、鍵をかけて頭から布団をかぶって、今のは全部夢だったんだって思った。朝になったら姉ちゃんはいつも通りに帰ってくるって、焼き立てのパンを抱えていつも通りにただいまって、そんなこと絶対にもうありえないってオレは知ってたのに、もう知っていたのに、あの路地裏で冷たく動かなくなってるって知ってたのに、知らないふりして、オレ」
鬼は、
「――猫」
ひとでなしは誰だ。
固くこわばった小さな肩が、闇を弾いている。
「……朝になって、……誰かが転がったままの姉ちゃんを見つけて、オレのところへ報せが来た。オレ本当は知ってたのに、頭の奥の方にぎゅうぎゅうに詰め込んだ『そのこと』を知ってたのに、知らなかったって思って、びっくりして、駆けつけて……、姉ちゃんはやっぱり死んでた。でも本当は見るより先に、死んでるのを知ってたんだオレ……、あの客がどこからか見ているんじゃないかって思ったら、どうしようもなく怖くて」
その日のうちに街を出た。
「姉ちゃんを殺したそいつを、莫迦みたいにオレにやさしくしてくれた姉ちゃんを殺したそいつを、探し出そうとか、仇を討ってやろうだとかそんなこと何一つ考えないで、オレはオレのためだけに、そこから逃げ出したんだ」
「――」
「なぁ」
「うん」
「オレ、来る途中にアンタのことを鬼だとか言ったね」
「言ったかな」
ひとのかたちをしているのに、こころがひとではないもの。
「……鬼はオレだ。オレはもうずっとひとでなしだった。知っていることを押し込めて忘れて、何が怖いのかも判らなくなって。でも体を売るのだけは嫌だった。あの客が、オレのことを殺しに来ると思った、その理由も知らないふりをして、……だけど、夢の中で姉ちゃんが何度も何度もオレの首を絞める。見殺しにしたオレを、見捨てて逃げたオレを、姉ちゃんはきっと許すわけないって……そう思って」
チャトラは顔を上げた。
明り取りの薄明かりに、くたびれた顔が映える。
「……体は売れなかったんだよ。きっとあの客が来る、だからどうしたって売れなかったんだ。体が売れないガキができることはと言やぁ、あとはコソ泥か掏摸でもしないと生きていけなかったんだよ」
昏い瞳は乾いて墓石のように灰色だ。ああ、この色のせいなのだなと男は思う。この色のせいで、緑青の目が川の淵のように深い。
その色を抉りたい。
渇望か。男は呻きながら腕を伸ばした。関節を動かすたびに正直軋むように痛んだけれど、多少無茶をしたところで死にはしないだろう。この程度で根を上げてくれる体であるなら、もうとっくに楽になっていてもいいはずなのだ。
そうして、我ながららしくない、と思った。自分は一体何をしようというのか。慰め?その場しのぎの嘘?相手の傷を癒せるだとか、本気で思ったのだとしたら笑い草だ。
猫の体に手をかけて、力任せに押し倒す。何をするつもりだと目を見張っていた彼女の体は、割とあっさり土の上に転がった。
「な、」
にをするんだ、と言いかけた暴れかけた体を膝で押しとどめる。彼女が状況を理解するより前に、手首をまとめて頭上へ縫い付けた。無感情だった灰色の瞳に、さっと怒りの色が挿す。
「てめ……ェッ」
「――暗くて一人ではいられぬのだね」
耳元へ吹き込み、瞬時に鳥肌を立てたうなじへと噛みついた。
「――眠ると悪夢を見るのだね」
「見るのとてめェが圧し掛かんのと何の関係があるんだよッ」
敏感に男の気を察したのか、普段よりも抗う力が強い。煩いな。ぎりと指に力を込めて捻ると、苦痛にチャトラの顔が歪んだ。
「掘り当てられるまで気晴らしもない。こうして二人――傷をなめ合って過ごすのも一興とは思わないか」
「独りでなめてろオレはそんなのいらねェ!」
「――こうして」
つ、と縫いとめた手首から右手を放し、素早く彼女の喉元へあてがった。力を込める仕草を見せると緊張が走る。くだらない。どうせ毎晩夢に見ているのだ。
「力任せに締められる」
「やめ……ッ」
怯えた声がチャトラから迸って、けれど彼女の体は動けなくなっている。
「何と吹かれる」
「アンタ、冗談、」
「冗談で私がこんなことをすると思うか。――何と吹かれる」
締める指に実際力を込めて顔を近づける。わなないた唇が、うわ言のようにつぶやいた。
「オ、レの。オレの、せい……ッ」
「お前の」
「アンタ、さえいなければあたしは死ななかった、アンタさえいなければあたしは死、なな」
く、く、と奇声を上げてチャトラが喉を掻き毟る。たてた爪先が掠って、男の手甲に血がにじんだ。ほら。また夢をなぞっている。
いつか見たように瞳の焦点がぼんやりと定まらなくなって、呼気を飲んだまま吐き出さなくなる。半開きになった唇へ顔を近づけて、男は小さく噛んだ。
「――チャトラ」
名を呼ぶ。呼ぶとふっと、あせた目の中に正気が戻ってくる。ゆらゆらと揺れる現実との境。
わたしを、
「見なさい」
言って再び噛みつくように口付けた。呼吸難にがちがちに強張った体は、一切の抵抗をしない。噛み付きながら、なされるがままの体をまさぐって、裾から手を入れた。残念ながら男は片腕しか使えなかったので、一つ一つの動作に手間がかかる。どうしたものかと一瞬考え込んだけれど、結局どうでも良くなって力任せにシャツを引いた。ぶち、だとか音がしてボタンが千切れる。
こうして姉は抱かれていたのだろう?
見下ろすと虚ろな視線に戻りかけていた。チャトラ。つくかつかないかの距離をとった唇の上で転がすように囁く。呼ばれるたびに狂気の淵に足をかけた正気が、ぎりぎりのところで舞い戻ってくるのが判り、男は薄く笑った。
――思い通りになる玩具は楽しい。
「お前の首を縊るのは誰だ」
「姉……ちゃ、……あいつ……?」
「違うね」
私を見なさい。
吹き込むと、数度彼女は瞬きをして皇帝、と小さく呟く。
「こうてい?」
「そうだ」
お前の首を絞めているのは私だよ。
掻き毟られて血だらけの、チャトラの喉元へ口を寄せて舐めとった。鉄錆の味がいっぱいにひろがり、飲み込む。悪くはない、と思う。
「私以外のものがお前の首を絞めることはない」
「アンタ、以外……」
「私がお前を絞め殺す」
すべりの良い肌をまさぐっていた指が、彼女の胸の先を摘まんだ。次いで喉元から辿った舌先がもう片方を含む。未発達な、皇宮の女たちから比べれば、まるで意味を成さないそれ。震えたむき出しの上半身に、けれど寒さゆえではない走りを男は見たように思った。
「やめ」
「――やめない」
僅かに驚いて抵抗したチャトラの乳首へかり、と歯を立てて男は掬い上げるように彼女の顔を見た。戸惑いと怖れと驚きに縁どられた顔は、いつもの大人びた虚勢をどこかに投げ捨てていて、年齢相応のものになっていた。
十四――十五か。
内心男は吐き棄てた。前に一度、チャトラを組みふしかけた時も己と彼女の年齢差に眩暈を起こしかけたことがある。つややかな青柿。これからいくらでも熟すのりしろのある体。三十四だったか五だったか六だったか、他人どころか自分自身にも興味を持てない男は、年齢をはっきり把握していないが、すでに自分の体が半分傷んでいることだけは理解している。腐りかけた内臓にぬるい血液を送ったところで、何があたたまる訳でもない。もともとあたたまる要素などありはしないのだ。
「皇て……アンタ、」
何かを言いかけた唇を強引に塞いで貪ると、見下ろしたチャトラの顔が歪む。痛いのだろうなと思った。
それが小気味いい。夢の中ではない、自分の与えた痛みで歪む表情をもっと見たくてまさぐった。倫理だとかご立派な常識は糞食らえ。
そう。どうでもいい話だ。
猫が自分を見ているかどうかと、それ以外の関連を求めることは必要無い。
「痛ェ、よッ……!」
「痛くしている」
「このど変態!」
圧し掛かって押さえつけていたせいで、満足に呼吸ができなくなっていた体に気が付いて、体をずらす。解放されたとたんに吐き出した呼吸と罵声が飛んだ。
「――知っている」
くつくつと笑って頸動脈の辺りに噛みついた。
それから、不意に体をまさぐる動きを、そっと羽を撫でさする程度の微かな触れにとどめる。留めながら、己の下肢を彼女へ数度擦りつけた。そこはある程度反応していて、その行為が何を意味するか、敏いチャトラには判るはずだ。びくんと震えたチャトラが、誤魔化すように唇を噛み締めて顔をそむける。
「やめろよ……」
それは哀願だ。
「アンタなんでこんなことするんだよ」
「なぜ、とは」
「アンタに抱かれたがってる女はいくらでもいるじゃねェか。あの――ひと……シュイリェのひとだって、本当はあんなことしたかったワケじゃねェだろ。きっとアンタのことが好きで」
「関係ない」
「……皇帝!」
「他が私に興味を持つのと――私が他に興味を持つのと一致するとは限るまい?」
「それは、」
そうなのだけれど。
「じゃあアンタ、オレに興味があるってこと?」
「――どうかな」
問われて思わず考えた。そうなのだろうか。手の中の「これ」に自分は興味を覚えているのか。そうかもしれない。そうなのだろう。きっとそうだ。けれどその興味は、おそらく一般で言われるような、なまあたたかいものではなくて、
「食い尽くしてしまいたい、とは思う」
思ったそのままを告げると、困った顔をされた。
「それどういう意味」
「言葉通りに」
伸ばした舌先を緑青の眼球にぞろりと当てる。このまま歯を当ててしまおうか。
「四葉と同じようなものだ。腹に収めてしまえばお前は私から離れない」
「……オレうまくないと思うよ」
「そうか」
「アンタが本当に腹が減ってて、どうしても食いたいってなら仕方ない、けど」
無防備な答えに食らいたい衝動よりは、笑いがこみ上げた。そうして真摯に答えてくれるから。
「猫」
「な、に」
「――こうして人と触れ合うたびに夢を見るのだろう?」
言われたチャトラが豪く動揺するのが判る。
どういうこと、と震える唇へまた噛み付いて、男はチャトラの太腿を割り開いた。こうして両足を持ち上げたまま引き裂いて、ぷつぷつと白い筋の浮いた筋肉に舌を這わせて果てたら。腿の間に体を置くと、チャトラの体が竦んでいるのが判る。おびえた瞳が再び夢を見ていた。お前はそうして、何度でも悪い夢の中に逃げ込むのか。喉元にあてた彼女の手を乱暴に掴んで、てチャトラ、と呼びかける。
「なん……。な……」
「誰もお前を責めていない」
「………………え?」
「お前の姉は、お前をまもって死んだ」
「姉、ちゃん」
吹き込まれた声にゆら、とチャトラの瞳に膜が張る。見る間に表面張力限界まで満たされて、縋るようにそれに見上げられ、喜悦した。そうだ。そうして私だけ見ていると良い。
「誰もお前を責めていない。姉は最後までお前をいつくしんでいたろうに」
逃げなさい。
仮に姉と呼ばれる彼女が、チャトラをその目に入れていたら、きっとそう願ったに違いないのだ。
「お前はあたたかい。やさしさだとか言うものを、体にたくさん詰め込んでいる。大事に育てられてきたのだろうと――私ですら思う。そうお前に注いだ姉ならば、己が絞められた最後でさえも、お前をいつくしんでいたろうに」
黙って皇帝を見上げていた瞳がとうとう決壊して、ぼろ、と涙が溢れる。本当に今日はよく泣かせるな。そう思った。そのまま歯を喰いしばり声を殺して泣くチャトラを、身を起こして男は胸に引き寄せる。拳を固く握りしめ、縋るものもなく、そうして一人でいつも泣いていたのだ。
「おいで」
引き寄せながらふと、今だけは己の片腕であることが恨めしいと思った。断ち切られたこれまで、左半身へ指の先程の未練も後悔も湧いたことはない。起こるべくして起こったことを後悔したところで何も実はない、そう思っていたけれど、足りない。この片手で掬い上げるには少しだけ足りない。今だけでいい。両腕が欲しい。
不器用に泣くこの体を抱きしめたいと思う。
(20110330)
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最終更新:2011年03月30日 14:46