<<antiphon>>
だから口付けは大事にとっておくのですよと懸命に説明され、そうですかと頷いた。
寝床の中である。
寝間着を被り、向かい合った主は、決まりごとって難しいのですとボヤいていた。詭弁だものな。
決まりごととは名ばかりの、年を経た大人の言い訳。
聞いて私は思わず笑う。
ふた月に一度の報告の夜のできごとだった。
森の暮らしでは手に入れることのできない町の様々な雑貨や食べものを背負って、私は幽谷へ足を踏み入れる。魔物がすむと噂の流れる、森だった。近隣の村では魔物をおそれ、ほとんどの人間の近付くことがない。
中途、待ち合わせた場所で私を見止めた同僚は、久しいというより先に、まるで行商だなと言った。聞いた私は思わず肩をすくめる。ぎろりとにらまれた。彼は腹に仔を入れた山羊を脇に抱えている。
どう見ても行商の人間にしか見えないのはお互いさまだと思う。
睨みを利かせたまま、グシュナサフが先に立つ。無駄口をほとんど叩かないのは相変わらずで、だから二人でいるとたいがい自分が一方的に話をしている。どういう訳か、世間話を掛け合っているはずが、ふた月のあいだの状況を説明している態になる。
どうせあとには見張り塔で待つラルヴァンダードへ説明しなければならないのだから、ある程度こうして頭の中を整理できることはわりと都合が良い。それを含めてわたしは同僚を利用しているだけなのかもしれない。
そうして一昼夜かけ森の中を歩き通し、いい加減足が太腿のつけ根から痛みはじめるころ、すっかり馴染のものになってしまった塔の上部が目にはいる。目に入ってからが意外と距離があることを、今では私は知っている。さすがに喋りつかれ、足元だけながめ黙々と歩いた、すると遠くから自分の名を呼ぶ声がする。
空耳かとも思ったけれど、もう一度。今度はもうすこしはっきりとおのれの名を呼ぶ幼い声がして、顔をあげた。
喜色満面と言った風で、ちいさな体がこちらへ向かってかけてくる。ああそんなに走って転んでしまってはどうするのだと思いながら、全身をつかって必死な様子の彼女が実のところ可愛らしいので、口に出さない。
矛盾しているのかもしれない。
そんなことを考える私に走ったいきおいのまま主は飛びかかり、私は彼女のちいさな体をいきおいごと受け止めようとし、
「う、わ」
受け止めかねて数歩たたらをふんで、折よく腕を伸ばしたグシュナサフに引きもどされる。
「……鍛錬不足だ」
呆れたような溜息とともに一言釘を刺された。
生返事をかえす。
まったくもってその通りではある、しかしこちらの本職は宮廷楽士であった。
戦場においても笛だの太鼓だのを持ち、陣営を回っては鼓舞する役目の自分と、両手斧だの両手剣だのを節操なくふり回し、一日馬に乗って戦場を駆け回っても尻の皮も剝かず、直に土の上でも鼾をかいて眠るような、それだけで豪気物が一冊書けてしまう人種と一緒にしないでほしいともちらと思った。
そんな私の腰あたりにしがみついた主はがばと顔を上げ、ひさしぶりですとそう言う。興奮したまなこがきらきらと光って、彼女の白目のすいこまれる青さに目眩のする思いだ。おさなごの目が青いというのは嘘や誇張では決してないのだなと妙なところで感心しながら、私は膝をつき彼女を視線の高さを同じくする。
「姫」
またすこし背が伸びたように思った。
この時分の子供のぐいぐいとのびる容赦ない成長速度を思い、そんなことを思う私を主がのぞきこむ。
「手紙よりずいぶん遅かったので心配しました」
「ああ……こいつが」
言って私はグシュナサフを指さしてみせた。
「思ったよりゆっくり歩くので」
「……よく言う」
呆れた声で同僚が応える。
「お前が到着時刻より遅れたろう」
「都合の悪いことは忘れる性質なんです」
「……」
やってられんと肩をすくめ、グシュナサフがこちらへ背を向け歩き出した。冗談の通じないところも相変わらずだった。愛想のない彼に自分は慣れているので、取り合わないことにする。
「野犬に襲われたのではないかと心配していたのです」
「この通り」
どこも大事ないですと私はおのれの胸をたたき、それから彼女の言葉を遅れて理解して野犬がでたのですかとたずねた。
「はい。先月このあたりを」
「お怪我はありませんでしたか」
「はい。わたしは平気だったのですけれど、……レヴが」
「……親父さん、」
かすかにくもった彼女の表情に、一瞬ひやりとするものを感じて私は慌てて立ち上る。
見渡した。
「いまは、どこに」
「ホゥル」
対処できる大人は彼一人だ。なにかおおごとな傷でも負って動けなくなったのではないかと、
「――なにを慌てている」
ちいさく引きとめる彼女の声を背にし、小走りに進むと森がひらけ目の前にちいさな畑があらわれる、その畑の端のほうで馬の首背あたりを軽く叩きながら当の本人が立っており、息せき切らせたこちらを見た。怪訝な顔をしている。血相を変えた私になにごとかと言った。
無意識に彼の全身を見やり、目立った外傷はないようだと確認する。早とちりだった。
ほっとした。
「野犬に襲われたと聞きました」
「ああ……、」
聞いてラルヴァンダードの視線が私の後方へと向けられ、主の姿をさがした。彼女から聞いたかと彼が思考を繋ぎ合わせているのがわかる。どうしましたと問うと、ハブレストの猟犬だと短く言葉が返ってきた。
「怪我は」
「……たいしたことはない。ただ、追いやるときに引っかけた傷が悪さをして熱を出した」
もうどこもかわりないと応じる。
「熱を」
「失態だ」
姫に申し訳ないと再び苦笑し、ラルヴァンダードは先だって家に入ったグシュナサフを追いかける仕草を見せた。極まりが悪かったのだと思う。
「本当に、たいしたことは」
ななめ下へ視線を向けると、遅れて息を切らせ、追いついた黒の瞳とかち合った。たいしたことはないのでしょうかとたずねると、大丈夫だと思いますと彼女はいらえる。
「熱を出して寝ていたのも、一日だけでした」
「姫が看病されたのですか」
「看病」
私の言葉を口の中で転がすようにして彼女は頭をかしげ、
「ほとんど何もできなかったです」
言った。
「でも付き添われたのでしょう」
「そうですね」
頷いてもっと勉強が必要でしたとつづけた彼女は、それから何か思いだした風に急にきらきらと目を輝かせ、片手を口に当てた。他には聞かせたくないらしい。小声で囁くのへ、私は屈み、耳を寄せる。
「……あのね」
「はい」
「誰にもないしょですよ」
「はい」
「レヴが熱を出してとても心配しましたし、どうしたらいいのかわからなかったのですけれど」
「はい」
「……でも、お世話をするのが、お嫁さんみたいで。その。……ちょっとだけ、嬉しかったです」
嬉しかったと思うわたしはいけない人間でしょうか。
嬉しいと思いながら困っている。罪悪感と呼ぶのかもしれない。苦しんだ相手に対してひけめを感じながら、それでも誰かに言ってしまいたい考えをかかえるときがある。
その複雑さが手に取るように判った。だから問いかけられて咄嗟に否応と返すことができなかった。そうですねとあいまいに頷き首をかしげて誤魔化す。
「嫁、ですか」
「でもないしょです」
まだ幼い、男と女の何たるかも知らない彼女は、けれどあと数年もすると成人としてあつかわれることになるのだ。私はそれを知っている。
「ないしょ――ですか」
「言ったら、だめなのです」
「……だめですか」
それはと私はたずねていた。だめだと言った彼女がうつむき、愁いをかすかにおびた顔になったからだった。
「お嫁さんになりたいというとレヴはとても困った顔をするから」
「それは、」
だから口に出して困らせてはいけないのだと少女は呟いた。大人気ないなと相手の顔を思い浮かべて私はちいさく罵った。口約束が何だというのだ。
彼女のかかえる思いというものは、おそらく幼少のころに誰もがかかえたことのある、自分には決してなしえない大きな存在に対する憧憬といったもので、大きくなったらだれそれと結婚する、なにがしかの職業に就く、可不可は別としてそれは「夢」である。
律儀というには過ぎる。堅苦しいにもほどがある。
「……でも、いいんです」
おさない子供の夢をこわすとは何たることだ、話を合わせてやってはいかがか、あなたは頭が固いと一言苦言を入れてやろうか。私が思いだしたころあいを見計らったように、コロカントが顔をあげた。
「もうちょっと、大きくなるまでそのお願いはとっておくことにしました」
「大きくなるまで……」
「はい」
一生に一度のお願いをホゥルが教えてくれたでしょう。言って彼女は唇の前にちいさく指をたてしぃいと言った。愁いが消え目が笑っている。
「一生に一度しか使えないんですよね」
「ああ……、そう、……そうです」
だから、ここ一番、とっておきの時にしか使えないのですよと、いつだったか以前寝物語で彼女に吹きこんだのは私だ。
「大人になって。……いつか、お嫁さんになれるくらい大人になったら、レヴにお願いするのです」
「一生に、一度」
「はい。だからそれまでとっておきます」
「なるほど」
たいそうな願掛けをされてはきっと口約束では済まされない。
無下にことわることもできない。
言われた彼が、一体あの鹿爪らしい顔をどう崩してどうこたえるのか、その現場に立ち会って見てみたいものだと思った。
「ないしょですよ」
念を押されてはいと私は頷く。
「わかりました」
それから肩に食い込む荷紐をゆすりあげ、家に入りましょうかと私は言った。
「重くなってきました」
「ああ……!ごめんなさい」
驢馬並に荷駄を背負っていることを失念していたのだろう、気付いた彼女はたちまち目を丸くし、なにか持ちますと言った。
「もう、すぐそこなので平気ですよ。……それよりも俺は腹が減りました」
「二人がくると言っていたので今日はご馳走です」
「それは楽しみだ」
笑って私は立ちあがり、斜め下の頭へ手を伸ばす。ぐしゃぐしゃと撫ぜ、毛のしなやかさにどこかほっとしている自分がいる。いくさを引き上げ国へ帰り、部屋に戻るとまず居ついた猫の腹に顔をうずめる行為とどこか似通っているような気がする。あたたかく湿度のある毛並みのやわらかさ。
その性癖を同僚に話すと本気であきれられたが。
「それよりも姫は忘れてませんか」
「……、忘れる……?」
「俺だって姫をお嫁さんにしたいんですよ」
「まあ」
「枠に入れておいてくださいね」
親父さんの次でいいので。言うと真面目な顔ではいと頷かれてしまった。同僚といい、純粋培養された我が主といい、まったく冗談の通じない相手だ。おかしくなってげらげら笑うと、なにごとかと戸が開けられラルヴァンダードが顔をのぞかせた。
*
台所には、コロカントの言った通り、「ご馳走」が卓上いっぱいに並べられていた。
畑で採れた根菜の羹。干し肉を湯で煮戻しこりこりと歯ごたえのする実と味付けしたもの。木苺を糖蜜で煉ったもの。鶏卵を小麦で溶き焼いたもの。山羊の乾酪は普段より厚切りにされて火であぶられ、銘々の黒パンの上にナイフで削ぎ盛られている。荷物をおろし顔と手を洗い、椅子について葡萄酒が注がれるころには生唾がわいていた。ここしばらく「まとも」な食事をしていなかった私やグシュナサフは勿論のこと、普段はつつましい食事をしているだろうコロカントも食前の祈りが終わると、ほとんど口を利かず一心に詰め込んでいる。
私たちが「外」からやって来ることが嬉しいのが半分、私たちがくることでうまいものを食べられることが嬉しいのが半分。きっとあるのだろうなと必死に食べる様子の彼女を見てちらと思った。それにしても頬をふくらます態がまるで栗鼠だ。おかしみをおぼえて笑う。
観察できたのは一通り腹におさめ、ようやくひとごこちついたからでもある。
そんな私の杯にまた酒が満たされた。珍しいなと顔をあげる。ひとり、それほどがっつくこともなく同じように卓を囲みながら給仕もこなしていたラルヴァンダードが、こちらは茶をすすりながらもうよいのかと言った。
「はあ」
「お前が黙っていると気味が悪い」
「そりゃひどいですよ」
「……口から生まれてきたからな」
「おい」
グシュナサフに横槍を入れられて憤慨して見せながら、ひとくち。酒を口に含み、私はおもむろに立ちあがって背負ってきた背嚢へ近付く。埃まみれたそれは、戸口近くに立てかけられてあって、近付く私に興味をしめして同じく戸口付近で飼い葉を食んでいた馬が、鼻を鳴らした。
「ハナ」
元気だったかと鼻づらを撫でてやりながら、しゃがみ込み、荷紐を解いた。
「ホルミスダス。まだ食事中だ」
行儀が悪いとたしなめられ、けれど私は肩をすくめて無礼講ですよと言った。胃に流したすこしの酒も作用しているのだと思う。
「俺は食い終りました」
「姫がまだ食べている」
「いいんです。いつもはだめですけど、今日はいいんです」
「……お前が決めたんだろう」
「俺が決めました」
同じように満足し、こちらは行儀よく椅子に着いたままの同僚へ大仰に頷いて返して、私は背嚢をまさぐり、いちばんに渡したかった包みを見つけて引き出す。四角くて、平たくて、かたい包みがひとつ。やわらかくて、両てのひらほどの、丸い包みがひとつ。
取り出して振り返る。口は動かしながら視線をこちらへ向け、興味津々といった風のコロカントへ差し出してみせた。
「姫から頼まれていたものと、……それと、俺とこいつからのプレゼントです」
「まあ」
ごくんと口の中のものを飲みこみ、こたえる。彼女の目が輝いていた。
すぐ立ちあがらないところは、さすがだと思うけれど。
しかし彼女の興味が、目の前の料理から私の差しだした包みへとうつっていることはあきらかだった。
皿の上と私が差しだした包みを見比べ、考えている彼女をながめこっそりほくそ笑む。大人気ないことは判っていた。教育上たいへんよろしくないだろう。黙って眺めているラルヴァンダードが面白く思わないことも承知済みだ。
だのに浮つく彼女が見たかった。自分の完全なわがままである。
そわそわとしながら、それでもコロカントは自分から席を立とうとはしない。食欲はとっくにふっとんでいるのだろうと思う、けれどきちんと食べきり皿を空にするまでは席を立たない、そう躾けられている彼女は食事を中断するすべを思いつかないようだった。
「……姫」
やれやれといった調子で頬杖を突き、呼びかけたラルヴァンダードにひくんと肩がうごいてコロカントの背筋が伸びる。
「残りは明日食べましょうか」
「……でも」
「食事どころじゃなくなりましたでしょう」
「でも。よいのですか」
男の顔をうかがった彼女の目が丸くなる。彼が折れるとは思わなかったのだろう。
「良いも悪いも。邪魔したのはこの男です」
今日はとくべつです、仕方ありませんと頷くラルヴァンダードを見て、彼女の顔がぱっと明るくなった。はいとこたえ、立ちあがりかけ、慌ててフォークをおいてごちそうさまでしたと手を合わせる。それからあらためて席を立ち、私の差しだした包みへ走り寄った。
「ありがとうございます」
このくしゃくしゃに崩れた顔をはやく見たくて先走ったのだと言い訳したら、こわい教育係殿は許してくれるだろうか。
「……お前はあとで説教だ」
コロカントを眺める彼を見やる。こちらを牽制するような彼の目は、けれど和やかなものだった。よかった本気で機嫌を損ねてはいないなとどこかで胸をなでおろしながら、床に座り込み四角く平たい包みをひろげる彼女の脇へ、私も腰を下ろす。
「なんでしょう」
「開けてみてください」
中身を知っているはずなのに、わくわくと結び目を解く彼女を眺めているうちになぜかこちらも高揚してくるから不思議なものだ。わりとしっかりと結ばれたかた結びは、力任せではほどけない、辛抱強く指でほぐし、やがて叶い包みをひろげた彼女は歓声をあげた。
あっけらかんとした、驚きを隠さない喜びの声。
ふたりで(というより私が)選んだ包みは、植物のこまかな図とその特徴を書きしるしたもので、いわゆる図鑑だ。彼女が自力で読むにはまだずいぶんと難しい語句も混じっていたけれど、教え聞かせてやれる人間は近くにいる。手習いには少々堅苦しいけれど、それも良いだろうと思われた。
なにより、以前から彼女が森の植生をもっと知りたいと口にしていたので。
「すごい……!すごいです」
興奮に頬を染めてコロカントは顔を上げ、私とグシュナサフを交互にながめてありがとうございますとまた言った。そうして適当なページをひろげてのぞきこみ、まあと言う。
「これ!今日食べた木の実ですね」
「そうですね」
「こっちは、」
「こっちは亜種ですね。葉の形が違うでしょう。もうすこし南方の国に生ります」
「南方の……」
先ほどの食事どきに見せた真剣さと同じまなこで、わあだとかひゃあといちいち大喜びしながら、しばらく必死になって彼女は図鑑に食いつき+、それから不意に顔を上げ、
「本当にありがとうございます」
とても嬉しい。言って飛びついてきた。今度はきちんと抱きとめる。
「姫に喜んでもらえてよかったです」
選んだ甲斐があるというものだ。
「これで毎日勉強します」
重かったでしょう。ありがとうと百篇いっても足りませんね。
いまだ興奮冷めやらぬ態で彼女がそう言って、かるく私の頬に触れる素振りを見せた。ちゅと小さな音が耳元でひびいて次いでそれからあ、と我に返った声をあげる。
「どうしました」
「キスしちゃいけないんでした……」
「いけない?」
どういうことだと私が首をひねるとはい、と至極真面目な顔をしてコロカントが頷く。
「簡単に、口づけをするのはよくないのだそうです」
「簡単に」
「えっと……。ものがたりでは、王子様が口づけをするとよくない魔法がとけますね」
「ああ、はい……とけますね」
「普段から口づけをすることになれてしまうと、効果が薄れてしまうと教えてもらいました」
「なるほど」
ちらと私は教育係殿を省みる。複雑な顔でこちらを見ていた。彼女はもしかするとこの持ち前の無垢さで、なにがしかラルヴァンダードを面食らわせることをしたのかもしれない。
しかし、世のご婦人方は騎士への褒美として口づけをするものなのだし、
「大丈夫です」
彼女に触れうる数少ない機会を逃してなるものかと思い、大真面目な顔をして私はきっぱり頷いてみせた。
「キスは大丈夫です」
「……大丈夫なのですか」
「キスと口づけは別ものなので」
「そうなのですか」
「そうです。別です」
「別ですか。別なら、効果は薄れませんね」
「薄れません。こちらの頬にもどうぞ」
「はい」
じゃあ安心ですね。言ってコロカントは先とは逆の頬にちゅ、とかるく音だけの口づけをし、それからグシュナサフのもとへも駆けていった。ラルヴァンダードを見やり、一瞬悩んだ風だった同僚は、それでも身を屈める。
「……ホルミスダス」
「うわは」
先とはちがう、ゆらと地を這う声をラルヴァンダードからかけられ、私はおどけて振り返る。心なしか殺気も混じっているような気がした。
「はい」
「折檻も追加だ」
「親父さん、こわいですよ」
ああ。視線が剣呑だ。
これはもしかすると絞られてしまうなと思いつつ、反省と言う二文字はとりあえずどこかへ投げ捨てた。戻ってきたコロカントのからだを再びだきしめ、仕方なく私は肩をすくめて笑って見せた。
(20120617)
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最終更新:2012年06月17日 23:08