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 みやげもの屋の店先に並べられているまるで真っ白な磁器の胸板をつらぬいた、その瞬間にこぼれ落ちた目にしみるような朱。
 あなたが最後に吐きだしたものはうらみつらみねたみそねみそのどれでもなく、ただ虚ろなかなしみです。燦然とふりそそぐ、漆黒の光の光の圧力のなかで私はただの一度、唾を飲みこむことさえもできずひたすらに失せゆくあなたを眺めていたのです。
 最後のあえかな呼吸ひとつ、あれはどこかで落としてきてしまった、あなたのだいじなものだったのでしょうか。ひとのなかにひそむ、どうしようもないみにくさや救いがたいおろかしさを目をそむける器用さを持ちあわせず真っ直ぐに睨みつづけ、いつのまにかほかのだいじなものをその手から取りこぼしていることにあなたは気付いていなかったのかもしれません。気づかなかったのでしょうか。気づかないふりをしていたのでしょうか。拾ってほしかったのかもしれないと思いました。
 睨みつづけたがらす玉には、なにもうつりません。もう二度となにも映ることはないのです。
 うわごとのようにせんせい、たすけて、せんせいせんせいと呼びつづけたあなたの唇も、もう動きません。
 なにか言ってやればよかった、なにかしてやればよかったのかもしれないのに、私はなにひとつ行動にうつすことができず、あなたが凄絶にこときれてゆくのをじっと見ているだけでした。
 あれは夢だった。
 蜉蝣が生まれてすぐあとに腹を見せてひっくり返ってしまうように、ひどく短い、呼吸と呼吸の合間のような刹那のできごとだったに違いありません。
 反吐となって散った飛沫はまるで目にしみるような朱。
 息をすることすら忘れていた私は徐に我にかえるとかるく噎せ、それから踏みしめるようにしてもう動かないあなたのもとへと向かいました。
 それでも、まだすくわれる時期にあなたは逝ったのだと思います。これからはもっとひどいことになるにちがいなかった。
 がらす玉が、近付く私を反射して、表面に影をうかべました。
 私は腕をのばしあなたの体を引きずりあげると、もみくちゃにもつれた頭を膝の上にのせます。抜け殻となりがわしかなくなったあなたはもの言わず、睨みつけるわけもないのにめだまがまっすぐに私のすがたを映すので、私はどうもかなしくなって、てのひらであなたの瞼をおおいました。なので、次第ににごりはじめるあなたの青い網膜が、最後にやきつけたものは血みどろの景色のどれでもなく、私のてのひらです。
 祈る言葉は見当たりませんでした。
 ああそうだ、私の喉から奇妙な呻きがもれました。
 あのときも。あのときも、あのときも、あのときもあのときも。
 この胃の腑のあたりにぐうとわだかまるおかしな塊、息苦しいのにえづいたところでなにも吐きだせはしないもの、その正体を私は知ることができないままに終わらせてしまったのだと思いました。
 おおったてのひらが湿った気がして、見おろすと血に濡れたあなたの瞼から、つうつうと水がこぼれて滴っているのです。ようやく。そんな風に私は思いました。最後の最後まで、あなたはみっともなくこぼすことすらせずにいったのだなと思いました。
 苦悶を吐きだしてゆがんだ唇に私は指先で触れ、するとどういうわけかそれは微笑んだかたちのようになりました。やさしいかお。こんなかたちに私は終ぞしてやることができなかった。
 笑んだあなたの口端から、ひとすじ流れ出たしずく、それはまるで目にしみるような朱。
 顔を上げました。目の前の闇はもうなにも見えませんでした。
 ただ俺のまぶたの裏にのこる、お前が流した、目にしみるような朱。

 

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最終更新:2020年09月02日 10:42