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 少しは驚くかなとは思った。

 けれど、ここまで動揺されるとは思わなかった。

 ちょっと待ってください、と、とぎれとぎれに呟きながら、ひとしきり噎(む)せたあと、ようやく男は洟(はな)をぬぐいながらコロカントをふり返る。

 

「すみません、意表を突かれました」

 

 涙目になっていた。苦しかったらしい。

 まだすこし噎せている。

「あの、いまの」

 言いかけて、またコロカントはためらった。

 妙なことを口走ったと思われただろうか。

 自分から抱いてくれと言うだなんて、はしたない人間だと思われただろうか。

 けれど、一度口にしてしまった以上、やっぱり今のはなかったことに、と言うわけにもいかない。

 どんな顔をしていいのか迷い、不安になり、見上げた彼女の視線をじっと男は見ている。見て、それからすこし考える素振りをし、しまいに困ったように首をかしげて、

「そんな顔せんでください」

 言って、笑った。

「まあ、なんです、お互い突っ立ってする話でもないですし、こちらへいらっしゃい」

「はい、でもあの、」

「火の前の方があったかいですよ」

 体を拭いていた木綿布を、敷布のように暖炉前に広げる。

 自分から言いだしながら、いまさらどうしていいか判らなくなったコロカントは、とにかく言われるままに、おずおずバラッドの側へ近寄った。

「ほら」

 先に敷布に陣取った彼が、ぽんぽんと膝を叩いてみせた。

「どうぞいらしてください」

「……はい、」

 言われていきなり状況を理解して、心臓が跳ねあがった。

 体に羽織っていた木綿布を下に敷いてしまったのだから、男は裸だ。

 まず目のやり場に困る。

 次に、ここは遠慮して二階へ行った方がいいかと思った。

 そうして最後に、自分はこのひとの妻なのだから、遠慮していてはおかしいと思い直した。

 えい、と思い切るつもりで、示された男の膝に腰を下ろすと、ぐいと引き寄せられ、まだすこし湿っている胸元へ押し付けられた。

「バラ――、」

「弱りましたねぇ」

 どぎまぎしすぎて混乱しかけた頭に、のんびりした男の声が響いてくる。

「姫に、そんな可愛いお願いをされちゃ、断れないですよねぇ」

「あの、あのバラッド、あの別に、バラッドが厭なら、こと、断ってくださっても」

「断っていいんですか」

「う」

「断ったら、あなた、またぐるぐる悩むでしょう」

「うう」

 読まれている。

 

「姫」

 

 伸ばした男の指が、彼女の結んだ髪の飾り紐をほどき、時間をかけてゆるゆるとほぐされる。

「自分はね」

 まず右。

「姫が――、そうですねぇ、あと一年ほど自分と暮らしてみて、……それで、本当に後悔がない、この選択肢でかまわないって、あなたがきちんと思えてから、それからでもいいのかなあって思ってて」

「選択肢って」

「前途洋々っていうんですか。自分の先々は、もう終(しま)いが見えてるようなもんですけど、姫はこれからでしょう。自分ひとりにすぐ決めなくたって、選択肢は無限というか」

「それ、買いかぶりすぎです」

「――そうですかね?自分より、もっと若くて、やさしくて、懐が広くて、金も力もある、ものすごい色男と出会う確率だってゼロじゃないわけだ」

 次に左の髪をほぐす、男の声が上から降ってくる。

「自分の嫁さんなんかに収まるより、よっぽど素敵な未来があるかもしれないんですよ」

 そう言って男は髪をほぐす手を止め、コロカントの胸元に指を伸ばす。

 する、と首にかけていた飾り紐を引き出して、

「たとえばですね」

 紐の先にある守り袋を指し示した。

「十年後、彼が立派になって、迎えをよこしたら、どうするんです」

 そこには青年ブランシェからの預かりものが入っていた。

 

 *

 

「もらってくれ」

 出立間際、そう言って青年は見送りに行ったコロカントに、掌よりも小さな包みを手渡したのだ。

「お前に渡すものが、これしかないというのもアレだけどな」

 言って彼は苦笑する。

 

『道中無事に、国に戻れますように』

 

 国から出される際、幼かった彼に誰かが渡した、数粒の種だ。

 ――俺は、これを国に戻って蒔く。

 出会って間もないころ、彼がそう話していたことを思い出し、

「……そんな大切なもの、もらえません」

 大急ぎでコロカントは首を振る。

 その種は、青年の全てだったはずだ。

「いいんだ」

 乗船を促す最終の銅鑼(どら)が鳴る中、青年は彼女の手に包みを押し付け、そのまま軽く抱きしめる。

「これがなくたって、俺は俺がしたいように強(したた)かに生きていけそうだ」

 声に迷いはない。

「俺は逃げない。もう逃げない。お前が俺を助けてくれたからな」

「ブランシェさん、」

「お前が俺を助けてくれた」

 彼は言う。

 真っ直ぐな目をしていた。

「お前が俺を助けてくれた。俺の命の恩人だろ。行き倒れてた俺に、水や飯をあてがってくれて……、うまかった。本当に、生き返ると思ったんだ。ありがとう」

「ブランシェさん」

「ずっと謝ろうと思ってた。あのとき……、あのとき、剣を突きつけて、ごめんな。命の恩人を傷つけるところだった」

 慌ただしく体を離されて、

「じゃあな」

 言うだけ言って、青年はさっさと桟橋を渡ってしまう。

 口数の少ない、青年らしいと言えばらしい別れだったが、

「ブランシェさん!」

 その背中を思わずコロカントは追いかけた。

 桟橋を渡り、船に乗り込んだ青年が、もう一度、呼ばれた声に振り向く。

 吹っ切れたように笑っていた。

「ブランシェさん!」

 名を呼ぶばかりで、そのあとの言葉が続かない彼女へ、

 

「――俺の国は絶対にお前を傷つけないからな!」

 

 離岸の銅鑼の音に負けじと、笑った青年が声を張り上げた。その声に息をのむ。

「今は小さくて貧しい国だけど、花でいっぱいの国にする!市も祭りも開いて、たくさんの人間が自由に行き来できるような国にする!家や畑は燃やされず、毎年の実りを収穫できるのが当たり前の――、お前がもう一度、向こうに戻りたくなるような、そんな国に、」

 だから、その種を蒔きに来い。

 笑って青年は叫ぶ。

「またな!バラッドさんを逃がすなよ!がっちり掴まえとけよ!」

 大きく手を振るその仕草が、いつかの空に向かって手を振った記憶と重なった。

 ――会いたい。

 あのとき、苦しくて切なくて焦がれて、もう二度とバラッドとは会えないと思っていた。それでもなお諦め悪く、男を待っていた。

 俺は諦めない。だからお前も諦めるな。

しょげかえった彼女へ、青年はそう言ってくれた。

 

「行きます……、きっと、蒔きに行きます!」

 

 種を持った手をしめして、コロカントは手を振り返す。

 遠く、見えなくなるまで、甲板に小さくなる青年へ手を大きく振り続けた。

 彼は戻った。

 ハブレストやセイゼルや、その他領国が小競り合う中へ、彼は彼の意志で、戻っていったのだ。

 

 *

 

 男はそのことを言っている。

「……そうしたら、行かないとなりませんね」

 守り袋をそっと外して脇に置きながら、コロカントは答えた。

「約束しましたもの。ブランシェさんの国に蒔きに行くって」

「だから、」

「もちろん、行くときは、バラッドも一緒ですよ」

 だってあなたはわたしの騎士でしょう。

 左右どちらの結びもほぐし、髪を指にからめてもてあそぶ男へ、コロカントは静かに言った。

 そのままふと見上げると、色石のような男の目が、じっと彼女に注がれている。

「――姫は」

 その目におどけた色はない。冗談でなく、男は本気で言っているのだ。

「姫はただの町娘じゃない。望みさえすれば、もっといい暮らしができると言っているんです」

「いい暮らし」

「そう」

「たとえば……、ガラス玉の飾りや、刺繍や、レースのついた服を着て、綿がいっぱい詰まったふかふかのお布団で寝て、おいしいものをたくさん食べて……、バラッドが言うのはそう言うこと?」

「そうです。薪割りの鉈(なた)で手に肉刺(まめ)を作ることもなく、水仕事で皸(あかぎれ)を作ることもなく、火箸で火傷することもなくて……、」

 言いながら男は、すり傷のできた彼女の手をそっと撫ぜる。

「あなたは何もしなくてもいい。生活のなにも心配せず、裕福な配偶者と、下女に傅(かしず)かれて、うまれにふさわしい暮らしを送る」

「それがいい暮らし」

「はい」

「わたしが、そう言う暮らしをのぞんでいると思いますか」

「どうでしょう。判りません。でも望めば手に入るお立場にあって、みすみす機会を逃すのはもったいないと思います」

「バラッド」

「はい」

「そんなの、クソくらえです」

「ひ、」

 姫、と続けたかったのだと思う。

 男が大きく息を吸ったまま言葉を失い、それから目を丸くしてこちらをまじまじと見る様子を、コロカントはとっくりと眺めた。

 眺めながら、しまいに吹きだしてしまう。

 男の顔が、あまりにもへんてこだったからだ。

 

「……姫、」

 肩を揺らして笑う彼女に、男が情けない顔になる。

 喜んでいいのか、嘆いていいのか、悩んでどっちつかずになった顔だ。

「こっちは真剣に姫の行く末を心配してるんですよ」

「こっちだって真剣です。クソくらえは冗談じゃなくて本心なの」

 

 ひとしきり笑った後、真面目な顔をつくり直し、コロカントはぐいと男の顔を引き寄せた。

「守ってもらう資格がないなんて言ってはいけない、だとか、わたしには言うくせに。バラッドだって、たいがい自己評価が低すぎると思うわ」

「はあ、まあ、……自覚はあります」

 言って男が赤毛をかき上げた。

 それはしようのない部分なのかもしれない。男の生まれや育ちの過程で、身に着けたくなくても、勝手に芯まで染みついてしまったものたちだ。

 

「バラッド」

「はい」

「わたしとバラッドの関係は何です」

 

 少しきつめに言及すると、男がうろたえる。

「……何って、」

「お友達や恋人なんかじゃない。家族です。一緒になるって決めたんでしょう。苦しいときも楽しいときも、分け合うということではないの」

「……、」

「わたし、いい条件の男ができるまでの腰かけに、バラッドを選んだわけじゃあないのよ」

 及び腰になる男の目を射止め、とらえてコロカントは言った。

 その目に迷いと恐れがある。

 きっと、男はいつだって彼女を失うことを恐れているのだと思う。

 手に入れたいものが、その通りになったことがきっとないから、望むのが怖いのだ。

 

「さっき、バラッドは、わたしを好きだって言ってくれました」

 逃がすなよと青年は言った。それはきっとこういうことだ。

「わたしもバラッドが好きです。あなたはすぐ忘れてしまうようだから、何度でも、……毎日だって言うわ。耳にタコができて、いい加減、もう勘弁してくれってバラッドが言ったって、やめませんからね」

「姫……、」

「あなたが好きです。わたしだってバラッドのこと、ずっと好きだったんですよ」

 言って彼女は男の頬をなぞる。

「小さかったわたしに、恋を置いていったのはあなたです。あの限られた世界の外を、歌って聞かせてくれたのもあなたです。手を離さないって約束してくれたのもあなたです。げんまんしたんですもの、離さないでください。たとえば森の乙女みたいに、わたしの足の皮が破けて、血が出たって、手を引っ張って森から連れ出し」

 最後まで言い切る前に、彼女の唇は男に塞がれた。

「バラッ――、――、」

 いままでされてきた、甘い、やさしい、確かめるようなものと違って、性急で荒々しい、噛みつくような口づけだった。

 歯列を割り、舌が口中で暴れ、吸いなぶる。

 上あごの裏をつつかれ、唾液がまじりあう。

 食われる、そんなようにコロカントは思い、男の腕にすがった。

 逃がさない意思でもって後頭部にあてがわれた手に、ぞくぞく鳥肌が立つ。

 息苦しいのが嬉しい。寒さではなく、それははっきりと快感への期待だ。

 

「どうしてそう、俺のツボを突くことばかり言いますかね?」

 

 しばらくして、一度唇を解放した男が呟いた。

 ――これほど的確に、煽られるってなかなかないですよ。

 吹きこまれる息が熱い。

 今まで聞いたことのない、怒ったような声だった。

「手加減できなくなる」

「手加減なんか」

 しないでください。

 余裕のない声。俺、の言い方だけで、一気に高揚する。

「引きずって、めちゃくちゃにしていいんです。わたしをバラッドのものにしてください」

「――知りませんよ、そんなことを言って」

 は、とひとつ息を吐いてから、男はまた彼女の唇を奪う。

 たっぷりと堪能してから、耳朶をやわやわと食み、顎骨から脈に沿って唇を落とす。

 男の膝に座っていたので、背後から彼が覆いかぶさる態勢になった。

 ちりちりとかすかなひりつきがうなじにあって、肩越しに振り返ったコロカントに、細めた男の目が見えた。

 吸い跡を付けているのだ。

 体温が上がったためか、男の目の色が薄い。

 肉食の獣を連想する色だった。

「俺のものですよ」

 肩口に軽く歯を立てて、男は言った。

 ――最後の最後のところで遠慮して、踏みとどまっていたのに。

 ――踏みとどまっていたのに。もう引き返せない。

「俺のものです」

 せわしなく所有の痕を刻みながら、彼は唸る。

 その声に明確に欲が見えて、思わずコロカントの下腹が疼いた。はじめての感覚に、驚いて見下ろした彼女を、男がさらに引き寄せる。

 膝から、かいた胡坐の中へ腰が滑り落ち、滑り落ちた太股の部分へ、男の半立ちした陰茎があたる。

 目をやる。

 それは熱くて、すでに芯を持ちはじめていた。

(こんな、)

 こんなふうになるのだなと思う。

 話には聞いていたけれど、陰茎をまじまじと目にするのは、もちろん初めてだった。

 触れ方が判らなかったので、ぎこちなく指を伸ばし、あやすように触れると、ぴくんと竿の先が揺れ、角度が変わる。

 別の生き物のようだと思った。

「ごめんなさい、痛かったですか?」

「いいえ」

 慌てて手をはなしかけた彼女へ薄く笑って、

「……もっと」

 手を添えられて、また握りなおす。

 それから男はまた彼女へ口づけた。

 

 屹立を手のひらへ擦りつけるように腰をゆるゆる動かしながら、男はコロカントの上着の結び紐へ手を伸ばす。

 細い飾り紐を傷めないよう、丁寧に男は結び紐をほどいていった。

 男の陽物を握り、まんべんなく口中を弄られているうちに、彼女の思考も結び紐と同じように、だんだんにほぐれ、ぐちゃぐちゃになっていく。

 もういっそ紐を千切ってしまったっていいのに。

 早く直に肌に触れてほしくて、もどかしさに身をよじると、がまんがまん、と吹きこまれる。

 男の目が笑っている。焦らされているのだ。

「ず、ずるいです」

 耳もとで囁かれるかすれ声に、簡単に高ぶってしまう。

「……ずるい、?」

「だって、……だってバラッドは、たくさん女のひとと経験があるのに」

 なにもかもが自分は初めてだ。

「……ああ、まあ……、……、まあねぇ。あるかないかと言われたら、そこそこありますが」

 余裕があるのはずるい。文句を言うと苦笑される。

「まあ、なんといいますか。年の功とでもいうんですか。事前準備というか。自分がまるでもの知らずの童貞だったら、お互い困るでしょう」

「……わたしももっと勉強しておけばよかった」

「勉強するもんですか、これ」

 唇を尖らせていると、男の苦笑がくすくす笑いになる。

「今から覚えればいいんです」

「あ、」

 言って男があらわにした胸もとに唇を落とす。

 いつの間にか膝から降ろされ、敷布の上に座らされていた。

 男の水滴を拭い湿っていた敷布は、暖炉の熱ですっかり乾き、温まっている。

「自分が全部教えてさしあげますよ」

「バラッド」

 ちゅ、とまだ薄い胸に口づけされて、コロカントは慌てて男の頭を押さえた。

「どうしました。こうされるのは……いや?」

「いやではなくて。いやではないです。いやではないんですけど、その……、」

 いやではない、の彼女の言葉に、許しを得たと思ったのか、男が再び乳房をまさぐる。見下ろすとその男の顔が眼前にあって、なんだかものすごく落ち着かない。

 触られるのに嫌悪はなかった。ただ、酒場の常連客の胸もとはみな豊満だった。

 街角に立つ花売りも、みなこぼれそうな乳を薄い布で覆って男たちを誘っている。

 もうすぐ子の生まれるララも、豊かな張りを持っていた。

 自分だけがない。

 おそらく、男が経験してきた女たちに比べて、自分はあまりにも貧相な体つきだと思う。

 隠したいのに、上にのしかかる男の体がそれを許さない。恥ずかしくなってコロカントは顔を覆った。

 

 だーめ。

 

 甘やかな声がして、覆った手を外される。

「姫の顔が見たいです」

「だって、だってわたし、」

「姫はどこもかしこもすべすべですねぇ。吸いつくようだ。ここの色も……ほら。色づいて、おいしそうです」

「ひゃ」

 れろ、と胸の頂を含まれて、意図せずおかしな声が上がった。上がり、それを自覚して、自分でも判るほど顔に血がのぼるのが判る。

「バ、バラッド!」

「真っ赤ですよ」

 脂下(やにさ)がった目元をいっそうゆるめて、男は言った。

「俺はね、いまとっても興奮してます。勘違いしてるかもしれません。姫に可愛いくおねだりされて、有頂天になって、頭に血がのぼっている。……俺は鈍いですからね、いやなことがあるなら、いやと仰ってください。あなたがいやなことを、俺はしたくないです」

 手加減はしないと言った口で、そんなことを言う。

 肉食の目をしながら、こちらを窺う色もせめぎあっている。

「……こういうときまで、わたしを気遣わなくたっていいんです」

 胸が痛くなってコロカントは男の頬に手を当てた。

「姫、?」

「あなたのすることで、いやなことなんてないもの」

「……また試すようなことを言う」

 苦笑いをこぼしながら、男がスカートの中の腰巻をめくり、下生えへ手を伸ばす。

「あ、」

「こういうことをされても、いやとは言わずにいれますか」

 すっとふくらみの上に指を当てられ、彼女の口から声が出る。

「ああ、……すこし湿っていますねぇ」

 するすると布地の上から二本そろえた指を前後させ、男がこちらを見ている。

「あの、わたし、」

 芸人一座の女たちの話を、聞くとはなしにまた聞きしていたから、男に触れられると女のそこが濡れる、ということをコロカントは知っていた。

 ただ、自慰経験もない彼女には、どんなように濡れるのか判らなかったけれど。

 ……汚してしまいますから脱ぎましょうね。

 言ってさっさと男が腰巻の紐をほどいて取っ払ってしまう。

 むき出しになった下半身が落ち着かなくて、コロカントは膝をすり合わせた。

「い、……い」

「うん?……いや?」

「い、意地悪」

「意地悪の自覚はあります」

 深く頷き、男がにやにや笑っている。なんだか楽しそうだなと思った。いやと言わせたいのかもしれない。よく判らなくなった。

 そうして再び男は股のあわいへ手を伸ばす。

「バラッド」

「はいはい?」

「その、さ、触らないとダメですか」

「うん?」

「恥ずかしくて死にそう」

 口づけの合間に囁くと、ええ、と困った顔で返される。

「本懐目の前にして姫にいきなり死なれると、俺、わりとショックなんですが」

「でも」

「……俺のこれを、姫のここに入れるわけでしょう」

 たいしたものじゃあないですけど、つづける男の言葉につい誘われるように、コロカントは彼の股座をひょいと見た。

 ええ、と声が上がりそうになる。

 きざしていた男のそれは、先ごろより直立し、太さも硬さも段違いだ。

 こんなに大きくなるものなのだろうか。思わず見つめて考え込んでしまう。

 

 自分の目にはひどく大きく見えるけれど、仮にこれが「たいしたものじゃあない」基準だとしたら、「たいした」ものとはどれだけなのだろうと思ったからだ。

 それから、男の一物から自分の股へ目を移して、不安になった。

 用途としては赤ん坊の頭ですら通るのだから、それに比べたらだいぶん楽かもしれないが、それにしたって、

 

「入るでしょうか……」

 つい呟くと、笑われた。

「大丈夫。だから慣らすんです」

 言って、男が潤みはじめたふくらみに指をすべらせる。

「ほら、濡れてきました」

「い、いちいち口に出さないでいいです」

 ただでさえ恥ずかしいのに、実況されたくない。涙目で訴えると、ふふ、と男は嬉しそうだ。

 そのまま、また口づけられた。

 

 後ろから抱えられる姿勢に戻って、男が狭間に手を突っ込んでいる。膝を立て、ゆるく股をひらかされていた。

 座っているものだから、それがよく見える。

「……ん、う、」

 出したくもないのにぞくんと走る快感と共に息が漏れて、コロカントは手の甲を口に当てた。

 男の指の腹が表面をゆるゆると擦り、それから陰唇のふちをなぞっているうちに、濡れ具合は増し、くちくちと水音が漏れるようになる。

 恥ずかしくても、聴覚は閉じることができない。

 声と吐息をこらえていると、

「ああ、なんかものすっげぇ悪いことしてる気分」

 低く抑えた声が聞こえてきた。

 振り向くと、興奮を抑えきれない顔で男が見下ろしている。今まで見せたことのない、男の顔をしていた。

 同時に、後ろから尻のあたりに熱い屹立が擦りつけられる。

「こうしてるだけでいっちまいそう」

 首筋にむしゃぶりつきながら男が唸った。その言葉に、コロカントがなにか返そうと口を開いた瞬間を狙っていたのだと思う。つぷと指先が陰唇の割れ目から内に侵入し、驚いて彼女が身を反らせると、勢いでさらに押し込まれ、

「……ふあ、……っ」

「ほら、一本入りましたよ」

 ぐるん、と膣壁の入り口を確かめるように男はなぞって、

「熱い」

 息を乱して呟いた。

 

 

 

 

 

最終更新:2020年02月01日 11:33