<<Helena-A.ver->>


  今にも くずれおちそうな
  泣き出しそうな空模様 すら見えない
  冷たい固い石に覆われた土の下の一室で
  お前は俺に命を下した

  聖遺物
  エレナの聖釘

  渡すお前がなんとも表現しがたい
  そう まるで空模様と同じ顔つきで
  神妙な顔つきで
  途方に暮れた顔つきで
  挑むような顔つきで

  突き刺せ とそう言った

  聖釘を 俺の心臓に突き立ててみせろと

  言った側からお前がひどく心迷うのがわかった
  言った側からお前がすぐに留めようとするのがわかった

  だから 俺は頭を下げた
  一言も発せず
  一言も発さず

  頭を下げた俺の頭上でお前が
  ぐう
  と 言葉を飲み込むのが手に取るようにわかった
  溢れる激情をこらえる姿が 閉じた俺の瞼の裏にありありと映し出されて溶けた
  泣きたいんだろう
  声を上げてずっと泣きたかったんだろう
  本当は

  しくじるな と
  誰に向けて放たれたのかすらもう判らぬ
  言葉をお前が苦しげに吐き出した

  俺に向かっての鼓舞だったのか
  己に向かっての叱咤だったのか

  俺はただ 黙って頭を下げた

  ああ
  泣くな 泣くな 泣くな
  どうか泣かないでくれ
  この血にまみれた俺の手のひらではお前の涙をぬぐってやることができそうにないから

  そうだ
  俺は弾丸になりたいのだ
  お前から放たれるただ一発の 銀の弾丸になりたいのだ
  もっとこき使うがいい
  できれば見放してくれるといい
  その求める方向へ
  その求める戦場へ
  放たれる一発の弾丸になりたいのだ

  お前の涙を止めてやりたいのだ

  頭を下げた俺を
  お前は視線の端で見つめ続ける
  頭を下げた俺は
  その視線から逃れるように頭を下げ続ける

  顔を上げることは許されない

  きっとまた
  哀しい顔をしているんだろう


自室にテレビがあったことが何よりの驚きです。
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最終更新:2008年05月25日 16:06