上野裕介 (UENO, Yusuke)
研究紹介
私の研究のキーワードは「生態系間の相互作用」です。
自然界(景観)は、実にさまざまな生態系によって構成されています(たとえば、森林、海洋、砂漠、草原、湖沼、高山など)。このような特性を持った自然界に対して、これまで多くの生態学者は、個々の生態系に着目し、その中で、物理的な環境と生物の関わりや生物間の相互作用について、詳細な研究を積み重ねてきました(たとえば、捕食-被食関係、競争、共生など)。しかしながら近年の研究によって、ある生態系から別の生態系へのエネルギーや物質、あるいは生物の流れが、受けて側の生態系、特に食物網の構造や動態に強い影響を与えうることが明らかになってきました。
たとえば、森林は川を介して河口域の海藻や魚類に影響を与え、外洋で育ったサケは秋に川を遡上し、森の生き物に利用されています。さらにより大きなスケールに目を向けてみると、毎年、多くの渡り鳥が、いくつもの生態系をまたいで北から南、南から北へと移動を繰り返していることに気がつきます。また、アフリカのサハラ砂漠で舞い上がった砂は、遠く、南米のアマゾン川にまで運ばれ、砂に含まれる栄養塩類がアマゾン川に生きる生物の重要な栄養源となっています。
このような生態系間を移動する物質や生物が、受けて側の生態系に及ぼす影響の一端を明らかにするために、現在、私は「アオサギ」という水鳥に着目した研究を行っています。アオサギは、広く世界中で見られる大型のサギ類で、水辺で魚やエビなどを食べています。繁殖期になると、森に集団で巣を作り(繁殖コロニー)、雛を育てます。このとき巣のある木の下では、アオサギの雛のフンや巣から落ちてしまった雛の死体がしばしば見うけられます。これらのことは、つまり水辺の物質がアオサギのフンや雛の死体に姿を変え、森へ運ばれていると言えるでしょう。このようにしてアオサギによって水辺から運ばれた物質が、森の生き物、特に昆虫や植物の数や分布、また樹木の成長に及ぼす影響について調べています。
所属学会
研究業績
論文(査読あり)
Yusuke UENO, Masakazu HORI, Takashi NODA, Hiroshi MUKAI. 2006. Effects of material inputs by the Grey Heron, Ardea cinerea, on forest-floor necrophagous insects and understory plants during the breeding season. ORNITHOLOGICAL SCIENCE. 5:199-209.
その他の論文
上野裕介,野田隆史,堀正和. 2002. アオサギによる海洋から陸域への物質輸送が林床の生物群集に及ぼす影響. 月刊海洋 32:436-441.
堀正和,野田隆史,上野裕介. 2002. 鳥を介した海から陸への物質供給機構. 月刊海洋 32:429-435.
学会発表
上野裕介,野田隆史「アオサギによる物質輸送が林床の生物群集に及ぼす影響」,東京大学海洋研究所共同利用シンポジウム「森と海の相互作用」,東京,2001年10月4日
上野裕介,堀正和,野田隆史「アオサギによる水域から陸域への物質輸送が林床の食物網構造に及ぼす影響」,第49回日本生態学会大会,仙台,2002年3月27日
Ueno, Y., M. Hori. & T. Noda. “Allochthonous inputs from aquatic to terrestrial habitats: effect of the transportation by grey heron on forest-floor food web”, Ⅷ International Congress of Ecology, ソウル,韓国, 2002年8月15日
上野裕介,堀正和,野田隆史「鳥がつなぐ森と海:アオサギの繁殖活動が林床の生物群集に及ぼす影響」,第50回日本生態学会大会,つくば,2003年3月21日
上野裕介,堀正和,野田隆史「鳥がつなぐ森と海」,日本鳥学会2003年度大会,弘前,2003年9月21日
上野裕介,堀正和,野田隆史「アオサギの繁殖活動が森林の物理環境と生物群集に及ぼす影響」,第51回日本生態学会大会,釧路,2004年8月28日
上野裕介,堀正和,野田隆史「アオサギの営巣に伴う樹木の成長量と林床植物の多様性の変化」,第52回日本生態学会大会,大阪,2005年3月28日
上野裕介,澁谷千尋,野田隆史「アオサギの営巣場所選択と樹木の成長量の関係」,日本鳥学会2005年度大会,松本,2005年9月18日
上野裕介,堀正和,野田隆史「水域から森林への異地性流入:アオサギを介した流入の途絶が林床の生物群集に及ぼした影響」,第53回日本生態学会大会,新潟,2006年3月25日 (※ポスター賞「優秀賞」受賞)
最終更新:2009年03月31日 23:33