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辻野昌広 (TSUJINO, Masahiro)

研究紹介

群集の種構成や変動様式を決定している要因は何か?という問いは群集生態学の中心課題です。従来のアプローチは主に小スケールで、種間の相互作用などの要因に注目して行われてきました。しかし種間相互作用の大きさは、時期や場所の違いにより大きく変動することが近年指摘されています。また小スケールで働く要因は、より大きなスケールで働く要因の影響を受けています。したがって群集の形成維持機構を理解するためには、より大きな空間スケールで研究を行い、群集パターンと空間スケールの間の法則を見出すことが必要だと考えられます。

そこで私は生物群集の空間スケール依存性を大規模な比較調査により研究するプロジェクトに参加して、群集に対する空間スケールの効果に関する研究を行っています(現在の主な研究課題トピック1)。このプロジェクトでは、日本の太平洋岸沿いの岩礁潮間帯で、パッチスケールから地域群集スケールまで階層的に設定した150ヶ所の調査地点で同一デザインによる群集センサスと生息地環境の調査を行い、群集構造の緯度勾配、食物網の空間変異など群集生態学、マクロエコロジーの諸課題にアプローチしています。私はその中で特に群集の時間的変化(広義の遷移動態)に着目して、群集動態に対する空間スケールの効果の研究を行っています。

群集の遷移動態を定量的に解析する有効な方法として、群集構成種(もしくは機能群)間の置き換わりの頻度から構成される推移行列を用いた方法がサンゴ群集を中心に行われています。その中で時間スケールを変化させる研究例はいくつか報告されていますが、群集の空間的広がりを階層的に組み合わせる方法論は過去に例がなく、スケール横断的なアプローチとして斬新かつ有効な方法と考えられます。野外調査では前述の150調査地点に永久コドラートを設置し定点を占有している種が時間とともにどのように置き換わっているのかを年三回(春・夏・秋)記録しています。この定点占有種の時間的変化から種間の置き換わりの発生頻度を計算して、推移行列を作成し種の置き換わりのパターン・頻度が空間スケールに依存してどのように変異するのかを解析しています。

目下取り組んでいるのは推移行列を用いて群集内の生態学的プロセス(加入・撹乱・競争)の強度を定量化することと、それらの強度が地理的な距離とともにどのように変化するのかという課題です。

最終更新:2009年04月04日 06:05