車内では誰も喋らず、小石が車体にぶつかり、サスペンションが軋む音だけが車内を満たしている。 @
みな、銃器の点検に余念が無い。俺は、手元にあるM-16A2のチャージングハンドルを半分まで引き @
異状が無いことを確かめると周囲を見回した。 @
これから最前線へと向かうのだ。 @
隊員たちの装備品はバラバラ、唯一揃っているのはアメリカから供与された小銃と、国のアイデン @
ティティとなる戦闘服だけ。その上このトラックに乗っているのは自衛隊員などではなく、全員が @
基礎訓練しか受けていない高校生である。満足のいく戦闘力とは御世辞にも言いがたい。 @
俺は戦争が起こる以前は銃が好きなただの男子生徒だったが、まさか本物を手にすることになるとは @
夢にも思っていなかった。正直、誰にも理解されなかったこの趣味が役に立つ @
なんて、世の中は本当にわからない。 @
他の隊員たちは、点検に余念が無いとはいえ、ただ使い方を教えられただけである。 @
セフティのつまみを無意味にひねったり、拳でレシーバーをコツコツと叩いたり、 @
挙句の果てには、講習で銃口を覗き込んではいけないと教えられたにも関わらず、 @
目をハイダーに近づけ、異物が無いかを確かめる隊員もいる。 @
となりの見知らぬ女生徒が手を止め、話しかけてきた。 @
地区別に徴兵されているため、別の高校に通う生徒もいる。 @
「ねえ、君、怖くないの?」 @
他の隊員達がそわそわと落ち着かないのに対し、俺だけがじっとしているのが @
目についたらしい。 @
「怖いに決まってるだろ。これから死ぬかもしれないんだ。・・・名前は?どっからきたの?」 @
まさか名前を聞かれるとは思っていなかったのだろう。一瞬戸惑って、女生徒は答える。 @
「大月友梨。島安商業(仮名だよん)からよ。君は?」 @
「俺は近藤遼一。西高(同じく仮名だよん)に行ってる。隣同士だったんだな。」 @
島安商業と西高は隣り合って建設されている。 @
よろしくね、と彼女は無理に笑顔を作りながら言った。とても可愛らしい顔つきで、思わず俺は見とれてしまう。 @
「どうしたの?」 @
言葉を返さない俺を不思議に思ったのか、彼女は問いかける。 @
「あ、ああ よろしく。」 @
だんだん機関銃の発砲音がはっきりと輪郭を帯びてくる。 @
「いよいよだな。」 @
口に生唾が込み上げてくる。もしかしたらこれで死ぬのかもしれない。 @
「そう・・・ね。私たち、高校生なんだよね・・・私は内定も決まってたのに・・・」 @
彼女はどうしてもこの現実が受け入れられないらしい。 @
「俺だって折角国立大学の判定でBが出たのに、こんなところにいるんだ。 @
大丈夫だよ。死にはしないさ。」 @
戦闘ヘリコプターの軽快なローター音が頭上を通り去っていく。 @
「君って楽天家なんだね・・・。」 @
彼女がこちらを見つめる。その顔は不安と、どうしてそんなに @
軽く考えられるのかという疑問の表情で満たされている。 @
火薬の匂いがあたりを包み始める。 @
「ははは・・・よく言われるよ。よし。それじゃこうしよう。帰ったら @
メールするからな。メアドを教えてくれ。ここで知り合ったのも何かの縁だ。」 @
あえて「生きて帰ったら」とは言わなかった。 @
最終更新:2010年12月26日 04:26