昔々あるところに、金持ちと貧乏人の二組の男女がおりました。 @
それぞれの男女は幼馴染で、どちらの男も自分の幼馴染の女を愛していましたが、気持ちを伝えることができずにいました。 @
また金持ちの男と貧乏人の男は、互いに顔が瓜二つでした。 @
ある日金持ちの男女が森の中を馬車で走っていると、突然馬車がひっくり返ってしまいました。 @
幸い命に関わる怪我はしませんでしたが、男の足が馬車の下敷きになってしまいました。 @
どうすることもできずに二人が困っていると、そこに貧乏人の男女が通りかかりました。 @
貧乏人の男女は馬車を持ち上げ、下敷きになっていた金持ちの男を助けました。 @
助けてもらった金持ちの男女は、貧乏人の男女にお礼を言いました。 @
「君たちのおかげで助かったよ。何かお礼をさせて欲しいのだが」 @
「大したことはしていません。けれどお礼をしてくれるというのなら、僕たち二人が揃って安全に暮らせる働き口を紹介してはもらえませんか」 @
「それならば、僕の家で働くといい。住むところも貸してあげられるし、ちゃんと給料も出そうじゃないか」 @
こうして、貧乏人の二人は金持ちの男の家で働くことになりました。 @
金持ちの男の家で働くようになった貧乏人の二人は、金持ちの男の計らいもあってすぐに金持ちの家での生活になじみました。 @
特に男の方は、互いの顔が似ていることがきっかけで、1週間も経たないうちに金持ちの男とすっかり仲良しになっていました。 @
ある日の夜、金持ちの男の部屋で二人が話をしていて、お互いに幼馴染の女が好きだと打ち明けました。 @
そこで二人は、明日の昼にお互い別の場所にそれぞれの幼馴染を呼んで、揃って気持ちを伝えようと約束しました。 @
「もしも片方だけしかいい返事をもらえなくても、恨みっこなしだぞ」 @
「分かっているよ。それじゃあ、明日の昼に」 @
「ああ、お互いがんばろう」 @
そして次の日の夜にまた金持ちの男の部屋に来てお互いに結果を報告することを約束してその夜の話は終わりました。 @
次の日の昼、貧乏人の男は庭に幼馴染の女を呼び出しました。 @
「どうしたの?まだお仕事がいくつか残っているわよ?」 @
「君に話したいことがあるんだ。実は僕は、僕は昔から君のことが好きだったんだ」 @
男は勇気を出して気持ちを伝えました。しかし返ってきた答えは意外なものでした。 @
「ごめんなさい、私あなたよりも雇い主のあの人のほうが好きなの」 @
「えっ……そんな、どうして……」 @
「だってあの人は、あなたが持っていないものを持っているのですもの。だから私はあの人が好きなの」 @
男は衝撃を受けました。互いに励ましあった友人が恋敵であるというのは、辛いものでした。 @
そしてその辛さは、恋敵への怒りへと変わりました。 @
その日の夜、約束どおり金持ちの男の部屋に集まった二人は、お互いの報告を聞いて愕然としました。 @
なんと金持ちの方も、幼馴染が貧乏人の男が好きだと断られていたのです。 @
この事実に二人は嘆き、互いに怒りをぶつけました。 @
「ああ、僕は君が憎い。僕と同じ顔をしていながら、僕の愛した人の愛を手に入れた君が憎い」 @
「僕だってそうだ。長い間彼女を思っていたのに、どうして同じ顔の君に奪われなければいけない」 @
その時、二人は気が付きました。お互いに入れ替われば、互いの愛する人の愛を手にすることができると。 @
すぐに二人はお互いの服を入れ替え、金持ちの格好をした貧乏人の男はそのまま部屋に残り、 @
貧乏人の格好をした金持ちの男は貧乏人の住んでいる部屋に帰っていきました。 @
そして次の日に二人はそれぞれの想い人に想いを告げ、めでたく恋人同士となりました。 @
その後しばらく、二組の恋人は楽しい時を過ごしました。 @
しかし時が経つにつれ、二人の男は違和感を感じ始めました。 @
愛して欲しかった相手には愛されていても、それは決して自分自身が愛されているわけではないというれっきとした事実。 @
やがて二人は、この生活に苦痛を感じるようになっていました。 @
「僕はもう、こんな生活に耐えられない。全てを打ち明けて元の関係に戻りたい」 @
「僕もだ。元通りにはなれないかもしれないけど、この生活よりはずっといい」 @
そうして二人はお互いの立場を元に戻すことにしました。 @
二人は服を元に戻し、ある日の昼に、想いを告げたときのように二人はそれぞれ別の場所に女を呼び出しました。 @
「どうしたの?また何か伝えたいことでもあるの?」 @
「そうなんだ。実は僕と彼は、君と恋人同士になったときから入れ替わっていたんだ」 @
するとこのときもまた、女は意外な答えを返してきました。 @
「ええ、知ってたわ」 @
「えっ、そんな!一体どうして?」 @
「だって私たちの雇い主の彼は、私たちがあの二人と出会った日に下敷きになった足を少し引きずって歩いていたもの。 @
突然あなたが片足を引きずって歩き出して、彼が普通に歩けるようになってたからすぐに分かったわ」 @
「じゃあどうして気づかないふりなんかしていたんだい?」 @
「あなた達の入れ替わりに気づいてすぐ、私は彼の幼馴染の彼女と相談したわ。 @
それでしばらくあなた達の様子を見て、頃合を見計らってばらしてやろうと決めたの。 @
けどそうして過ごしているうちに、私たちは気づいてしまったのよ。私は彼を、彼女はあなたを本当に愛していたわけじゃないって。 @
私はただ、あなたに足りないと感じていたものを持っているあなたに惹かれただけだったんだってことに。 @
それに気づいてからは、別人のふりをしていてもあなたと恋人同士でいられるのが嬉しいくらいあなたのことが好きになっていたわ。 @
それは彼女も同じで、だから私たちはそのまま何も言わずに過ごしていたのよ」 @
「そうだったのか……でも僕は、また元に戻ってその上で君と一緒にいたい。それでもいいかな?」 @
「だめなんて言う訳ないじゃない。顔が同じでも、私はあなた自身を愛しているのですもの」 @
こうして入れ替わっていた二人の男は元に戻り、それぞれの幼馴染と幸せに暮らしましたとさ。 @
めでたしめでたし。 @
最終更新:2010年12月26日 02:32