マネジメントなしに組織は存在しない
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マネジメントは、企業、政府機関、大学、研究所、病院、軍などの組織に特有の機関である。組織が機能するためには、マネジメントが成果をあげなければならない。組織がなければマネジメントもない。しかし、マネジメントがなければ組織もない。
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マネジメントと言うものは、所有権、階級、権力から独立し存在でなければならない。マネジメントとは、成果に対する責任に由来する客観的な機能である。
マネジメントの役割
企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではなく、自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は、目的ではなく、手段である。それらの中核の機関がマネジメントである。マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。それら三つの役割は、異質ではあるが同じように重要である。
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自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
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仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人一人の人間にとって、生計の糧、社会的地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
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自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。
本稿では、上記三つを取り上げるが、その他のマネジメントの役割として、次の二つがある。
+時間について-マネジメントは、常に、現在と未来、短期と長期を見ていかなければならない。存続と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手にしようとして危機を招くことは無責任である。今日では、短期的な経済上の意思決定が環境や資源に与える長期的影響にも考慮しなければならない。
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管理的活動と起業家的活動-マネジメントは管理する。すでに存在し、すでに知られているものを管理する。同時に、マネジメントは起業家とならなければならない。成果の小さな分野、縮小しつつある分野から、成果の大きな分野、しかも増大する分野へと資源を向けなければならない。そのために昨日を捨て、既に存在しているもの、知られているものを陳腐化しなければならない。明日を創造しなければならない。
成果をあげ、人を生かし、社会の影響を処理しつつ社会に貢献する。これら全てを今日と明日のバランスのもとに果たすことが社会の関心事となるが、社会はマネジメントがした事に興味は無く、結果にのみ関心が向く。
企業の目的
企業の目的は、「顧客を創造すること」
したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。
マーケティング-顧客の欲求からスタートする
真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客にあわせ、おのずから売れるようにすることである。
イノベーション-新しい満足を生み出す
企業は、経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。
イノベーションとは、発明ことではない。技術のみに関するコンセプトでもない。経済に関わることである。経済的なイノベーション、さらに社会的なイノベーションは、技術のイノベーション以上に重要である。イノベーションを単なる一つの職能と見なすことはできない。企業のあらゆる部門、職能、活動に及ぶ。イノベーションとは、人的資源や動的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことである。当然マネジメントは、社会のニーズを事業の機会として据えなければならない。このことは、社会、学校、医療、都市、環境などのニーズが強く意識されている今日、特に強調されるべきである。
生産性に影響を与える要因
顧客の創造という目的に達するには、富を生むべき資源を活用しなければならない。資源を生産的に使用する必要がある。これが企業の管理的な機能であり、この機能の経済的な側面が生産性である。労働、資本、原材料など、会計学や経済学のいう生産性要因のほかにも、生産性に重要な影響を与える要因がいくつかある。
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知識
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時間
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製品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)
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プロセスの組み合わせ(プロセス・ミックス)
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自らの強み
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組織構造の適切さ、および活動間のバランス
利益
利益とは、原因ではなく、結果である。マーケティング、イノベーション、生産性向上の結果手にするものである。したがって利益は、それ自体致命的に重要な経済的機能を果たす必要不可欠のものである。
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利益は成果の判定基準である。
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利益は不確実性というリスクに対する保険である。
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利益はよりよい労働環境を生むための原資である。
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利益は、衣料、国防、教育、オペラなど社会的サービスと満足をもたらす原資である。
戦略計画とは
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リスクを伴う起業家的な決定を行い、
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その実行に必要な活動を体系的に組織し、
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それらの活動成果を期待したものと比較測定した連続したプロセスである。
公的機関の成果
公的機関と企業の違い
公的機関は予算によって運営される。このことは企業内サービス部門についてもいえる。成果に対する支払いは受けない。
予算から支払いを受けると言うことが、成果と業績の意味を変える。予算型組織では、成果とはより多くの予算獲得である。業績とは、予算を維持ないし増加させることである。
公的機関成功の条件
あらゆる公的機関が、次の六つの規律を自ら課す必要がある。
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「事業は何か、何であるべきか」を定義する。
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その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
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活動の優先順位を決める。目標・成果の基準・期限を設定し、成果をあげるべく、仕事し、責任を明らかにするためである。
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成果の尺度を決める。
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それらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。成果による自己管理を確立しなければならない。
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目標に照らして成果を監査する。目的に合致しなくなった目標や、実現不可能になった目標を明らかにしなければならない。恒久的な成功などありえない。
公的機関に必要なことは、企業の真似ではない。もちろん、成果について評価することは必要である。だがそれらのものは、なによりもまず、自らに特有の使命、目的、機能について徹底的に検討しなければならない。
仕事と人間
働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗であり、その逆も失敗である。逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である。
仕事の論理と労働の力学
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基本的な作業を明らかにし、論理的な順序に並べ(分析)、
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個々の業を一人一人の仕事に、そして、一人一人の仕事を生産プロセスに組み立て(プロセスへの統合)、
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予期せざる偏差を感知し、プロセスの変更の必要を知り、必要な水準にプロセスを維持するためのフィードバックの仕組みを組み込む(管理手段)
ことである。
労働の力学には、5つの次元がある。
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生理的な次元(ストレス)
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心理的な次元(自己実現)
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社会的な次元(コミュニティ)
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経済的な次元(生計の資)
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政治的な次元(権力関係)
これらすべての次元を考慮しなければならない。
生産性向上の条件
自己実現の第一歩は、仕事を生産的なものにすることである。仕事が要求するものを理解し、仕事を人の働きに即したものにしなければならない。科学的管理法は、自己実現に矛盾せず、補い合うものである。仕事を生産的にするには、4つのものが必要である。
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分析(仕事に必要な作業と手順と道具を知る)
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総合(作業を集めプロセスとして編成する)
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管理(作業プロセスに方向付け、質と量、基準と例外についての管理手段を組み込む)
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道具
さらに基本的なことは、成果すなわち仕事からのアウトプットを中心に考えなければならない。技能や知識などの仕事へのインプットは道具にすぎないのである。いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットによって規定される。作業の組み立て、管理手段の設計、道具の使用など必要な作業を決めるのは成果である。
責任と保障
人が責任という重荷を負うためには何が必要か。焦点は、仕事にあわせなければならない。仕事がすべてではないが仕事が第一である。たしかに働くことの他の側面が不満足であれば、もっとも働きがいのある仕事さえ台無しになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならないのである。
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、
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生産的な仕事
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フィードバック情報
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継続学習
が不可欠である。これら三条件は、働くものが自らの仕事、集団、成果について責任を持つための基盤である。しかし、これらはマネジメントが一方的に取り組むべき課題ではなく、実際に仕事をする者自身がはじめから参画していなければならない。実際に仕事をする者の知識、経験、欲求が、仕事のあらゆる段階において貴重な資源とならなければならないのである。
仕事をいかに行うべきかを検討することは、働くものとその集団の責任であり、仕事の仕方や成果の量や質は、彼らの責任である。したがって、仕事、職務、道具、プロセス、技能の向上は、彼らの責任なのである。
自らや作業者集団の職務の設計に責任を持たせることが成功するのは、心理的な要因だけでなく、彼らが唯一の専門化である分野において、彼らの知識と経験が生かされるからなのである。
とはいえ、仕事や収入を失うおそれがあるなかでは、仕事や集団、成果に責任を持つことは出来ない。責任の重荷を負うためには、仕事と収入の保証も必要であるといえる。
人のマネジメントの実践
必要なことは、
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仕事と職場に対して、成果と責任の仕組みを組み込むこと
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共に働く人たちを活かすべきものとして捉えること
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強みが成果に結びつくように人を配置すること
である。
社会的責任
社会的責任の遂行は、マネジメントにとって第三の役割である。あらゆる組織のマネジメントが、自らの生み出す副産物について、すなわち自らの活動が人、環境、社会に与える影響について責任を持つ。さらにあらゆるマネジメントが、社会的な問題の発生を予期し解決することを期待される。
社会的責任は、次の二つの領域で生ずる。
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自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる(社会に対して行ったことに関わる責任)
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自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる(組織が社会のために行えることに関わる責任)
自らが社会に与える影響については、いかなる場合にも責任があり、それが原則である。この場合、費用対効果を考えながら、影響の原因となっている活動の中止、影響の除去、代替策を考える必要がある。これは、マネジメントの責任である。
社会の問題は、社会の機能不全であり、社会を退化させる病である。それは組織、特に企業のマネジメントにとっては、挑戦であり、機会の源泉である。社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、企業以外の組織の機能なのである。
マネジメント
マネジメントの方法
企業はある一定の規模と複雑さに達するや、マネジメントを必要とする。
マネジメントを欠く時、組織は管理不能となり、計画は実行に移されなくなる。
マネジャー
マネジャーとは組織の成果に責任を持つ者。
マネジャーを見分ける基準は、命令する権限ではない。貢献する責任である。
権限ではなく、責任がマネジャーを見分ける基準である。
2つの役割
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投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造すること。
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あらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させていくこと。
マネジャーの仕事
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目標を設定する。
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組織する。
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動機づけとコミュニケーションを図る。
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評価測定する。
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人材を開発する。
マネジャーに求められる資質は「真摯さ」である。
自己管理による目標管理
4つの阻害要因
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技能の分化-技能自体が目的となってはいけない。組織のニーズと関連において重要性が高いということである。
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組織の階級化
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階層の分離
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報酬の意味づけ
組織の精神
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組織の焦点は、成果に合わせなければならない。(成果とは長期のものである)
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組織の焦点は、問題ではなく機会に合わせなければならない。
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配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事にかかわる意思決定は、組織の信条と価値観に沿って行わなければならない。これらの決定こそ真の管理手段となる。
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これら人事に関わる決定は真摯さこそ、唯一絶対の条件である。
マネジャーにしてはいけない人
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強みよりも弱みに目を向ける者。
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何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者。
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真摯さよりも、頭のよさを重視する者。
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部下に脅威を感じさせる者。
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自らの仕事に高い基準を設定しない者。
「マネジメントの技能」
意思決定
日本流の意思決定のエッセンス
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何についての意思決定かを決めることに重点を置く。
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反対意見を出やすくする。
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当然の解決策よりも複数の解決案を問題にする。
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いかなる地位の誰が決定すべきかを問題にする。
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決定後の関係者の売り込みを不要にする。
効果的な意思決定とは、行動と成果に対するコミットメントである。
コミュニケーション
四つの基本
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知覚: コミュニケーションを成立させるものは受け手。
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期待: われわれは期待しているものだけを知覚する。
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要求: コミュニケーションは受け手に何かを要求する。
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情報ではない: コミュニケーションは知覚の対象であり、情報は論理の対象である。
目標管理こそコミュニケーションの前提となる。
目標管理の最大の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある。
管理(コントロール)
人はいかに賞され、罰せられるかによって左右される。
経営科学
経営科学は計算の道具ではなく、分析の道具である。
経営科学を活かす
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仮定を検証する。
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正しい問題を明らかにする。
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答えでなく、代替案を出す。
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問題に対する公式ではなく、理解に焦点を合わせる。
「マネジメントの組織」
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組織構造の設計は、組織の基本単位を明らかにすることからスタートする。
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構造は戦略に従う。
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組織の原則は、階層の数を少なくし、指揮系統を短くする。
組織構造の種類
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仕事中心: 「職能別組織」「チーム型組織」
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成果中心: 「連邦分権組織」「疑似分権組織」
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関係中心: 「システム型組織」(60年代アメリカの宇宙開発のための組織構造として発展した)
マネジメントの戦略
トップマネジメントとは、方向づけを行い、ビジョンを明らかにし、基準を設定する機関である。
「トップマネジメント」
トップマネジメントの役割
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事業の目的を考える
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基準を設定する: ビジョンと価値基準
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組織をつくりあげ、維持する
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渉外
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儀礼的役割
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重大な危機に際しては、自ら出動する
トップマネジメントとは、1人ではなくチームによる仕事である。
「マネジメントの戦略」
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小企業は戦略を必要とする。
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ニッチを見つけなければならない。
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中企業は持てる資源のすべてをあげて成功の基盤となっている分野を確保することが要求される。
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大企業はフォーマルな組織構造を適切につくりあげなければならないし、その組織構造は明快でなければならない。
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全員が目標、優先順位、戦略を知らなければならない。
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成長そのものを目標にすることは間違いである。
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大きくなること自体に価値はない。
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よい企業になることが正しい目標である。
「マネジメントのパラダイムが変わった」
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マネジメントの仕方は、その対象によって変わるべきである。
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知識労働者は部下ではなく同僚である。
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上司と知識労働者の関係は、オーケストラの指揮者と演奏者の関係に似ている。
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知識労働者の動機づけは、ボランティアの動機づけと同じく「仕事そのもの」から満足を得なければならない。
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パートナーシップの本質は、命令と服従の関係ではなく、対等の関係にある。
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パートナーに対しては理解を求めなければならない。
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人のマネジメントの中心となるべきものが成果である。
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人について行うべきは、マネジメントすることではなくリードすることである。
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その目的は、1人ひとりの人間の強みと知識を活かすことである。
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マネジメントとは、組織の外部において成果を上げるためのものであり、したがってまず、それらの成果を明らかにし、次にそれを実現するために手にする資源を組織しなければならないということである。
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最終更新:2008年04月20日 22:16