京太郎「……」
淡「……」
京太郎(うん、知ってた)
京太郎(確実に沈黙だけになるって知ってた)
京太郎(あれから俺たちは、プールサイドのベンチに腰掛けている)
京太郎(何故か体育座りで)
京太郎(思えば、当然である)
京太郎(だって、こいつとの共通の話題は麻雀しかねーし)
京太郎(そもそも、仲が良くない。仲直りしてもマイナスである)
京太郎(そんなマイナスの関係で、どう楽しく過ごせというのか)
京太郎(現実は方程式のように、簡単にはいかないのである)
京太郎(……)
京太郎(……だってこいつ、泳ごうってもパーカー脱がないんだもん)
京太郎(なんでか知らないけど)
京太郎(水着姿を見られるのが嫌なのかもしれないが……)
京太郎(俺の眼力なら、服の上からでもサイズ判るから変わらんのよね)
京太郎(だから脱いでも問題ないぜ!)
京太郎(……と、言えたらどれだけ楽だろうか。言えねーけど)
京太郎(……)
京太郎(……それにしても、水着の上に前を全閉めのパーカー姿って)
京太郎(そこから覗く生足が魅惑的だよな。マーメイドだ)
京太郎(水着着てるってわかってるけどさ……)
京太郎(裸パーカーみたいで、正直興奮する)
京太郎(……うん)
京太郎(ごめん)
京太郎(現実はドラマや漫画みてーに行かないよな)
京太郎(あそこで終わってたら綺麗なんだけどな……)
京太郎(みたいなの、人生には多々ある)
京太郎(例えばシンデレラとか、白雪姫とか)
京太郎(あれ、結婚した後の方が長いんだし……色々問題多そう)
京太郎(ハーレムとか、どうなるんだろう)
京太郎(扶養控除が適用されるのは一人だし……残りの女の子は働かなきゃならないワケだ)
京太郎(子供ができても、その子供の進学費用はどうなるのか)
京太郎(その、結婚相手以外の老後のこととか……大変だよな。介護とか)
京太郎(関わる数が増えれば、身内の事故や病気の確率も増えるんだしさ)
京太郎(遺産とか、どうするんやろ)
京太郎(そういや……非嫡出子も等分になったんだっけ?)
京太郎(前に和から、等分じゃない理由とか聞いたんだけど……覚えてねーや)
京太郎(……まあ、ハーレムとかよっぽどお金ないと無理だよな)
京太郎(昔は妖怪と恋愛とか……いいと思ってたし)
京太郎(正直美人ならそれでいいじゃんひゃっほー! とか考えてたけど)
京太郎(実際問題、戸籍どうするのと思う)
京太郎(子供、義務教育に通わせらんねーじゃん)
京太郎(女側が人間なら、私生児ってことで話がつくけどさ)
京太郎(男なら、どうしようもないよな)
京太郎(……子供の為に、偽装結婚でもするべきだろうか?)
京太郎(そういうことまで考えてしまう、俺であった)
京太郎(……つまり)
京太郎(大人になるって、悲しいことなんだよな)
京太郎(好きな娘の名前つけて、ずっとはやいされたりさ)
京太郎(……)
京太郎(……あ、話題あるじゃねーか)
京太郎「……なあ、大星」
淡「……」
淡「何?」
淡「きょ、きょ、きょ……きょーたろー」
京太郎(噛むなぁ)
京太郎(ちょっと可愛い。相手は大星だけど)
淡「何の用?」
京太郎「いやさ、お前……実は泳ぐの苦手なのか?」
淡「は?」
淡「……なんで?」
京太郎「いや、パーカー脱がないし。水、入らないし」
京太郎「ひょっとしたら、泳ぐの苦手か?」
淡「……」
淡「そういう、須賀……きょ、きょーたろーはどうなの?」
京太郎「オレェ?」
京太郎「あんま、得意ってほど得意でもねーな」
京太郎「一応それなりに泳げるけどさ」
京太郎(……流石に、サッカーやムエタイやパルクールばりにはできねーな)
京太郎(荒波の中で撮影とか言われたら、流石にごめんなさいする)
淡「へー」
淡(意外。苦手なんだ)
淡(そういえば、今まで見た番組だと……一回も泳いでなかったか)
淡(へー)
淡(こいつの水着姿を見るのも、ひょっとして私が初めて?)
淡(ふ、ふーん)
淡(へ……へー)
京太郎(……なに、もじもじしてんだ?)
京太郎(なんか、憧たちと海行ったときを思い出すな)
淡「ならさ、競争でも――」
淡「!」
淡「……ちょい、タンマ」
京太郎「ん……? ああ……」
淡(……どーしよ)
淡(須賀の……きょ、きょーたろーの前で脱ぎたくない)
淡(色々恥ずかしい)
淡(でも……折角だから、遊びたいし)
淡(日向ぼっこして終わりとか、熟年夫婦かっての)
淡(ふ、ふふふふふふふふ夫婦!?)
淡(違う違う。ノーカン、ノーカン)
淡(ノーカンってば、ノーカン!)
京太郎(……ちょい、タンマか)
京太郎(シロさん、どうしてるんだろうな……)
京太郎(死んでなきゃ、いいけど……正直不安だ)
淡「……きょーたろー」
京太郎「あん?」
淡「先に言っとくけど……」
淡「絶っっっっっっっ対に!」
淡「茶化そうとか、すんな!」
京太郎「……?」
京太郎「ああ、いや……判った」
京太郎「判った」
淡「……」
淡「……ん、ならよし」
淡「すー」
淡「はー」
淡「すー」
淡「はー」
京太郎「そんなに空気集めて……」
京太郎「……俺の匂いでも、嗅ぐ気か?」
淡「ふぁっ!?」
淡「だから、茶化すな!」
京太郎「い、痛てえ! 痛てえ! 悪かった! 悪かったから!」
淡「……ほんっと、デリカシー皆無の馬鹿男」
淡「信じらんない、馬鹿っ」
京太郎「わ、悪かった……」
京太郎「わりぃ……すまん……許せ……」
京太郎「今のは俺が悪かった」
淡「……」
淡「……今回は特別だからね」
京太郎「へへー」
京太郎「ありがとうごぜえやす、お姫さま――」
京太郎「痛てえ! 痛てぇ!」
淡「ふんっ! 死ね、馬鹿男!」
淡「……まったく」
淡「その、人を喰ったみたいに小バカにする性格……どうにかしなよ」
淡「からかわれてる、私の身にもなれって」
京太郎「ああ……」
京太郎「いやさ、悪いとは思うんだよ」
淡「……どうだか」
京太郎「思ってるのは、本当なんだけど……」
京太郎「なんつーか、こう……」
京太郎「教わった技術ついでに、遺伝しちゃったっていうかさ」
京太郎「技術煮詰めたら、その悪癖も煮詰まったって言うかさ」
京太郎「正直、なんでこうなったのか自分でもよーわからん」
淡「なにそれ」
京太郎「俺が聞きたい」
京太郎「ひょっとしたら、こうして平穏を味わうことができない別世界の俺の呪いとか……」
淡「なおさら、なにそれ」
淡「別世界で、私はあんたの恋人かなんかなの?」
京太郎「そうかもなぁ……」
淡「……なにそれ」
淡「絶対に願い下げなんだけど……」
京太郎「俺も、もっと押しとやかで家庭的な女の子が――」
淡「ふんっ!」
京太郎「痛てえ! 痛てえ!」
京太郎「お前も嫌だっつったじゃねえか!」
淡「それとこれとは、別!」
淡「なんか馬鹿にされて見下されたみたいでムカつく!」
京太郎「無茶苦茶じゃねーか」
京太郎「……これだから麻雀ぽんこつは」
淡「……何か言った?」
京太郎「いいえ、なにも」
京太郎「……ったく」
京太郎「これだから麻雀以外やってこなかった奴は……」
京太郎「なんつーか、子供っぽいままというか……」
淡「むっ……」
淡「……それ全部、あんたにブーメランしてない?」
京太郎「残念だったな」
京太郎「俺はサッカーに、ムエタイに、フリーランに、水泳に、ボウリングに、ダーツに、登山に……」
京太郎「色々やってるんだぜ?」
淡「……むっ」
淡(知ってるけどさ。いくつか初耳なのもあるけど)
淡「なんであんた、麻雀やってんの?」
京太郎「それは良く言われる」
淡「……とにかく」
淡「あんたは、あっち向いてろ」
淡「私が、いいって言うまで!」
京太郎「ん……ああ、判った」
淡「絶対だからさ……絶対、見るな!」
淡「絶っっっっっ対!」
京太郎「……フリ?」
淡「フリじゃない!」
淡(……恥ずか、しい)
淡(忙しそうなのに、付き合わせちゃったから……)
淡(それなのに……選んでくれたから)
淡(だから……勿体ないと、思っただけで)
淡(それ以上に、他意なんてないんだけど……)
淡(なんか、こいつ、ちょーしに乗りそうで)
淡(なんか変な意味に取られそうで……)
淡(やっぱ、恥ずかしい)
パーカーの下の、胸が高鳴る。
自然と足を寄り合わせてしまう、ある種の羞恥心。
必死に、こいつのことなんて何も意識してないとか……。
からかわれそうで、それが嫌だったからとか……。
これは、自分も気に入っただけとか……。
何を勘違いしてるんだよ、なんて目を向けられたら心がどうにかなってしまうとか……。
そんな益体ない言葉で、自分を鎮める。
内股になんだか力が籠る。
これから、目の前の男に素肌を晒してしまうことを、
その男から向けられるであろう目線を想像して、一喜一憂。
やけに汗が湿っぽいのは、夏の暑さだけではないのかもしれない。
胸元を握り締める手に、湿気が滲む。
京太郎(……)
京太郎(……不味いな)
京太郎(なんか後ろで、ジッパーが下がる音がする)
京太郎(パーカー脱いでる、それだけなんだけど)
京太郎(なんか、ジッパーの音だけ聞こえるのって……非常にやらしいな)
京太郎(……)
京太郎(……ジッパーっていやあ)
京太郎(まさか、後ろから心臓ブチ抜かれねーよな?)
京太郎(いや、まさかな……)
京太郎(……例えばさ)
京太郎(鶴の恩返しってあるよな)
京太郎(なんで覗くんだよって……誰だってそー思う)
京太郎(俺だって幼稚園の頃、そー思った)
京太郎(いや……保母さんの胸のこと考えてたかも)
京太郎(なんで、許されるガキの内に触ってなかったのかね)
京太郎(今でも悔やまれる)
京太郎(悔やまれる)
京太郎(……)
京太郎(……んで)
京太郎(思った筈だ。何故、見てしまうんだと……)
京太郎(でもな、大人になると判るんだよ)
京太郎(見えないものこそ……見てはならないものこそ、見たくなると)
京太郎(ひょっとしたら、大星の奴の髪の毛がジッパーに絡まってるかも知れない)
京太郎(髪は、女の命だ。大事なものだ)
京太郎(万が一でも、絡まったりしたら非っ常ぉ~~~~~~~に不味いことになる)
京太郎(そんな彼女を心配して……)
京太郎(振り返っちまうのは、いけないことでしょ~~~かぁぁ~~~~?)
京太郎(いいや、限界だ! 『見る』ねッ)
首を、チラリと後ろに向けようとしたその瞬間――
京太郎(――んげっ)
視界が、暗転した。
次いで、衝撃。
そのまま、着水。
水面の抵抗に、手足があらぬ方向に万歳させられる。
京太郎(や、やばいッ)
京太郎(顔に絡んだこれが……水を吸って……)
京太郎(重い上に、貼り付いてくる……っ)
そんな、処刑用具の名前は――。
――意外ッ、それはパーカー!
普通なら、溺れまいと息を止めて溜め込むだろう。
人の身では、水中で呼吸できない。
だから、そうするのは自然な本能であるというのに――。
京太郎(ふ、っ――)
京太郎は、敢えて大量に吐き出した。
吐き出した空気が、パーカーとの間に隙間を生み出す。
僅かながらではあるが、爆発にも似た呼吸の泡に……湿った布地も後退を余儀なくされた。
あとはそのまま、隙間目掛けて指を突っ込む。
ここに妖怪でも居たのならば、京太郎は今ごろ引き込まれて、
案外、胸がまるでない鬼あたりに気に入られていたかも知れない。
が、そうはならなかった。多重クロスは地雷だからだ。
……一つはクロスではなくオマージュだが。
京太郎「ぷ、は――」
京太郎「大星、お前俺を殺す気か!」
京太郎「お前な――」
淡「……」
京太郎「ど、ドーモ」
淡「……」
京太郎「ドーモ、アワイ=サン」
淡「……」
京太郎「……その、養豚場の豚を見るような目をやめてくれたら嬉しいんだけど」
淡「……」
京太郎「……ごめんなさい」
淡「見んな……つったよね」
京太郎「いや、見ては……」
淡「見ようとしてたでしょ」
京太郎「アッハイ」
淡「……本っっっっっ当に!」
淡「馬鹿男っ! ドスケベ男っ!」
京太郎「……悪かった」
淡「……はぁ」
淡「来るとは思ってたけど、やっぱりか……」
京太郎「そりゃあ……」
京太郎「期待を裏切らない男だからな」
淡「黙れ」
淡「予想を裏切らないで、見事に期待を裏切った癖に」
京太郎「アッハイ」
淡「……なんか、緊張して損した」
京太郎「緊張?」
淡「きょーたろーには関係ない」
京太郎「……あ、はい」
淡(まったく、何て言うか……)
淡(ドキドキ、返せっての)
淡(……まあ)
淡(こいつらしいけどさ……)
京太郎「その水着……」
淡「そう。前にきょーたろーが選んでくれた奴」
京太郎「……買ったのか」
淡「折角選んでくれたから、一応はね」
淡「私も、デザインいいと思ったしさー」
淡「どう?」
淡「似合う?」
京太郎「――」
京太郎「あー、まー」
京太郎「その、なんつーか……あの」
京太郎「似合っ……てんじゃねーのかな」
京太郎「うん」
淡「……」
淡「……ふーん」
淡「あ、もしかして……」
淡「淡ちゃんの魅惑のボディに、照れちゃってたりする?」
京太郎「ち、ちげーよ」
淡「ふーん?」
京太郎「違うからな!」
淡「へぇ?」
京太郎「違うっつってんだよ!」
淡「ほう?」
京太郎「――絶対、そんなことねーから!」
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【Gaea Memory『水着(大星淡)』を入手しました!】
※別にメモリが手に入ったから、だからどうという話でもない
最終更新:2013年09月29日 03:50