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【愛に気付いてください。私が抱きしめてあげる】




 どうも、宮永咲です。

 高校を卒業してから早いもので、六回目の誕生日。

 ついに年齢がクリスマス一日前に並びました。

 このまま行くと、小鍛治プロと同じコースなのではないかと心配しています。

 まあ、私はイブを異性と過ごしたことがあるのでああはならないでしょうが。

 ……二人っきりじゃないけどね!


「……メールも来てない」


 流石に高校を卒業して――人によっては大学に進んで――社会人数年目ともなると、

 今更昔のように集まって、誕生日パーティーなどは行わなくなってきます。

 ちょっと寂しいかもしれないけど、皆に無理をさせるよりはいいかなと考えてしまいますね。

 一応、業界の方から色々とプレゼントは頂いています。手渡しだったり、郵送だったり。

 流石に高校生の時よりは、顔が広くなっていますので、まあ……。

 大半が仕事がらみだけど、その中からできた縁もあるからいいんじゃないかな。

 昨日は知り合いの麻雀プロの皆と、ささやかなパーティーをしました。居酒屋とバーで。

 でもそろそろ、レストランとかバーとかそういう洒落たところで祝うようになりたいなーなんて。


「やっぱり、忙しいのかな」


 そうやって皆と日付が変わる時刻まで過ごして、帰宅をして、二度寝をしてから開いた携帯。

 欲しいメールが、来てないんだよね。これが。

 今までは顔を合わせることはなくても、お祝いの電話とプレゼントぐらいはあったんだけど……。

 どうやらそれも、ないみたいで……。

 すわ恋人でもできたのかとも思ったけど、昨日誘った淡ちゃん(多分一番怪しい)にそんな事実がなかったために、

 まあ、それはないんじゃないかなと結論付ける。

 それよりは、仕事が恋人といった様子の方が強いから……おそらくはそっちの線が濃厚だ。

 相変わらず高校の頃から、やると決めたら何だかんだ手を抜かずにやる男である。

 本気で、仕事が恋人だと思ってるのかも知れない。


「それにしても、メールぐらいしてくれてもいいのに」


 やっぱりこう、今まであったのが急になくなると寂しい。

 彼が忙しい――つまりは人気者だということは、喜ばしいけど……内心複雑だ。

 やりすぎて倒れたりしないかなとかそういう彼の身に対する心配から、

 ちょっとぐらいはこっちにかまって欲しいかななんて身勝手まで、思いはさまざま。

 ……と、そんなことを考えているうちにインターホンが鳴った。




「ドーモ、咲=サン。オカルトスレイヤーです」




 暫し、沈黙。

 ナンデ? 京ちゃんナンデ?

 彼の出ていたドラマばりに、そう叫んで上げたほうがよかったのかもしれないけど。

 どうせまた、お調子に乗っているだけだと思うのでスルー。


「……京ちゃん?」

「そうだよー、京ちゃんだよー」

「京ちゃんなら、マリーアントワネットの真似ができるよね?」

「『パンがないならプロテインを飲めばいいじゃない』……って、そんな真似やったことねえよ!」

「うん、そのノリツッコミはやっぱり京ちゃんだ」

「声で判れよ……」

「お前は騙されるかもしれないから、ちゃんと用心しとけって言ったのは京ちゃんでしょ?」

「……それ、高校卒業するぐらいの話だろ?」


 やれやれ、という溜息が聞こえた。

 声から察するに、疲れてはいないらしい。

 夏休みを通してから、彼は変わったと思う。以前のような笑顔も溢れるようになった。

 当人に聞いたところ、「色々気持ちの整理がついたのだ」と言っていた。

 何のことやら。

 まあ、自分と別れて大学に進学した彼にも色々な出来事があったのだろう。

 そのあたり、聞いてみたい。事実は小説より奇なりって言葉もあるし、純粋な好奇心からそそられるものがある。

 ひょっとしたら彼のことだから、大学生の間に不思議な事件に遭遇しているんじゃないかなんて思えるのだ。

 高校の頃から、だいぶ様変わりしてしまったし……。

 あの頃は、3階から落とされても無傷とか壁でも天井でも足場にできるとか、車に跳ねられてもオッケーなんて、

 そんな風に人間をやめてはいなかった。

 ひょっとしたら、知らない間に改造手術でも受けているのではないか、というほどの変わりようである。

 純粋に何があったんだろう。

 高校の頃の京太郎を人間だとすると、今の彼は人間大のバッタクラスだ。雀力もそれ以外も。


「ちょっと手が塞がってるから、開けてもらえるか?」

「手じゃなくて、画面まで塞がってるけどね……何を持ってきたの?」

「それは、見てからのお楽しみだっつーの」


 悪戯っぽく笑う彼。

 こちらに向けるそういう笑顔や態度は、まあ昔から変わらない。

 相変わらず、巨乳の女の子に対してはデレデレしちゃってるけど。

 余人は気付かないだろうが、それこそ子供の頃からの付き合いなので、下心はまるっとお見通しだ。

 ……まあ。

 せっかく来てくれたんだし、待たせても悪いし、早急にドアを開けるとしよう――。




 そしてドアを開けると、そこに立っていたのは花束を持った彼。

 それから、彼は言った。


「プレゼントは――俺自身だ! 俺が、プレゼントだ!」




 何言ってるのこの人。


 頭の上に真っ赤なリボン――似合わない。

 紅白のバラの花束――まあ、よし。花言葉の意味わかってるのかな。

 燕尾服――って、ああ、そういうことか。


「自分がプレゼントって……本番ありなの?」

「勘弁してください」

「もう……私だからいいけど、相手によっては勘違いされるよ?」


 本人的には面白いと思って言っているのだろう。

 だが、まあ、どこかズレてる。この男。

 昔から多少、そういうところはあった。思えば出会いというか、中学での再会でもそうだった。

 それでいて人を巻き込んで動き出すから、いい意味でも悪い意味でも性質が悪い。

 まあ、最近は巻き込まれるのが多くなっているみたいだけど……。


「勘違い、してくれてもいいんだぜ?」

「えっ」

「なーんてな! 引っかかったかー?」


 この馬鹿男。地雷屋。あんぽんたん。すけこまし。お調子者。

 世間だと気遣いできる男だなんだと言われているが、実態はこれだ。

 ある程度近しくなると、こういう茶目っ気で悪乗りしてきたり、ぞんざいに扱い始める。

 結局、根っこのところは未だに子供っぽい。


「サイッテー……信じられない」

「悪い悪い、悪いな」

「うん、じゃあ帰って」

「……へっ」

「私は深く傷つきました。これから部屋に篭って、涙の誕生日を過ごします」

「えっ、いやいや……。なあ……」

「もう京ちゃんの顔も見たくない。ばいばい」

「マジっすか……?」


 あ、青ざめてる。

 からかってくるくせに、自分がからかわれるのにはなれていないあたり、

 やっぱり子供だなーと思う。


「なーんてね。引っかかった?」

「……マジかよ。超、心臓に悪いって」

「お互い様でしょ? 京ちゃんが私にやったのも、そういうことなの。親しき仲にも礼儀あり、ってね」

「あー、了解」

「それじゃあ、上がってよ」


 さて、まさか来るとは思ってなかったから……あんまり片付けてなかったけど。

 まあ、普段からある程度整頓しているから大丈夫だろう。

 そこらへんは、あの姉とは違うのだ。


「……なあ」

「何?」

「掃除しようか」

「えっ」

「え、じゃねーだろ! 何だよ、この本の山!」

「それは……えっと、色々と読みかけの……」

「ちょっとは整頓しろよ! それ以外は綺麗だけどさ」


 言うなり、部屋の中にずかずか押し入る京太郎。

 おかまいなしだ。何かが、彼の琴線に火をつけてしまったらしい。

 そこまで、汚くないと思うんだけどなぁ……。


「これは?」

「あ、それ読みかけ……」

「じゃあ、とりあえずこっちな。これは?」

「それも読みかけ」

「……じゃあ、こっち」

「あ、それも……」

「どんだけ読みかけの本があるんだよ!」

「だから、読みかけっていったでしょ!」


 自分なりにちょうどいい所においてあるから、整頓されると却ってやりづらい。

 几帳面な人間って、そこらへんをわかってない。

 中々に適当で飄々としているけど……それで彼は、根が真面目だ。

 だからこう、掃除とか整頓とかが好きらしい。


「なんでこんなに読みかけばっかたまるんだよ……読んでから次にいけよ」

「私も……そうしたいんだけどね」

「……なにかあるのか?」

「出かけるときに、本を家に忘れちゃって……それで、その場その場で新しく買ってたらこんな風に」

「……この、ぽんこつ文学少女」


「ぽんこつ麻雀プロには言われたくない」

「は? 俺はどう見ても、バリバリ仕事ができる男だろ?」

「言ってたよ。この間も、勘違いしてドアを蹴破って救急車を呼びそうになったとか」

「……誰がそんなこと言いやがった」

「淡ちゃん。後、智葉さん」

「……辻垣内先輩はともかく、大星の野郎は絶対に許さねえ」

「京ちゃん。淡ちゃんは女の子だよ」

「大星のアマは許さねえ……って、つーか、突っ込むとこそこですか」

「許さないなんて言っても、何もできないヘタレだって知ってるからね」

「……お前、俺に辛辣すぎねーか?」


 口を尖らせて、不貞腐れた様子で本の山に向き直る彼。

 人をぽんこつ呼ばわりしてくれたのだから、これぐらいのお返しは当然である。

 むしろ生易しいくらいだ。


「……お、これ」

「あ、そこにあったんだ」

「懐かしいな。中学の頃、お前から借りてたっけ」

「そうだったね。もう、10年ぐらい前?」

「そうなるなー」


 言いながら、ぱらぱらと捲り出す彼。

 ……ああ。

 経験者だから、わかる。きっとこうなったら長くなる。

 だから、本が多い場所の掃除って大変なのだ。


「……なあ」

「何?」

「これ、続きってあったか? 俺、最後まで読んだ気がしなくてさ」

「確か、高校生の頃にやっと最後が出たから……」

「ああ、じゃあ読んでないか」

「持ってくる?」

「悪い。そうしてくれるか?」

「じゃあ、ついでにお茶も入れてくるね。紅茶でいい?」

「アイスティーで頼む」

「わかった。ちょっと待ってて」


 ほら見たことか。

 気遣いできる男が、あっという間に本の一部だ。

 あの、紙の束に根を張って自分まで木になってしまうような感覚。中々抜け出せるようなものじゃない。


「あー、おお。これ、今思えばツンデレって奴か」

「あれ? 判ってなかったんだ」

「あの頃だと、こいつ主人公のこと相当嫌ってるなと思ってた」

「……鈍感男」

「うっせ」


 彼が呼んでいるのは、よくあるヒーローものだ。

 よくあると言ったが、訂正しよう。

 全体的になんとなく、ムードが暗い作品だ。


「……おい」

「なに?」

「いや、この本に対してだけど……マジかよ」

「なにがあったの?」

「この子の過去、すげー暗くないか?」

「ああ、そうだね」

「俺、こいつを応援するぞ。なんか可哀想だから幸せになって欲しい」


 あー、うん。

 そうだね。


「おい、おい!」

「なに?」

「何……で、だよッ! どうして……どうして、こいつが……!」

「……ああ」

「や、やっとお互いの気持ちを伝えたってのに……! 皆から忘れられて、一人戦って死ぬとか……!」

「その作家だからね……」

「ふざけんな! おい、嘘だろ……!」


 入り込みすぎ。

 そして、俺自身がプレゼントだったとはなんだったのか。


「……咲」

「何?」

「なんか、気持ちが明るくなれるのを頼む」

「じゃあ、これは?」

「……こっちも、バトルものか」


 シリーズを読み終わって、顔を上げる彼。

 これ、絶対ここに来た理由を忘れてる。間違いなく。

 まあ、いいけど。


「ほうほう、出だしは王道だなー」

「うん」

「いいじゃねーか。うんうん。そうだよ、こういうのでいいんだよ」

「そうだね」

「おー、いいなぁ……やっぱヒーローものは、こうじゃなくちゃな」


 ……さて。

 いつになったら、気付くのだろうか。

 もう、気遣いとかそういう次元ではない。色々と視野が狭まっている。

 どうにもそんなきらいがあるので、改めて欲しいものである。


「……なあ」

「何?」

「なんでこうなったんだ……これ」

「何が?」

「仲間だと思ってた奴、敵になるし……敵にいたけど協力してくれてた奴、完全に敵対するし」

「……作家の名前、見ようよ」

「あー……あー! お前、これ、同じ奴じゃねえか!」

「気付こうよ、もっと早く」

「クソッ! ふざけんな! ふざけんなよ!」

「騙される京ちゃんが悪い。そんな態度を改めて欲しいと思って渡しました」

「あー……なんだよもう。クソッ、俺の周りはドSばっかりかよ」

「そういう京ちゃんは?」

「……。Sって言われたことは、何度か」

「類は友を呼んでるんじゃないの?」


 つまり、人にぽんこつというときは自分もぽんこつであることの証明になるのだ。

 そうったら、そうなのだ。


「……もう、生きる気力なくなった」

「大げさすぎだよ、京ちゃん」

「お前があんなの渡すから……って、もういい」

「じゃあ、これを読んでみたら?」

「短編集で、作家名は……大丈夫だな。よし!」


 改めて本を手にとって、読み始める彼。

 本当の本当に、目的を忘れてしまっているらしい。

 それでも、楽しそうだからいいか。こっちもこっちで、楽しいし。


「京ちゃん、お昼どうするー?」

「俺が作ろうと思ってるけど」

「じゃあ、お願いしてもいいー?」

「任せとけよ」


 言いながら、こちらを一顧だにしない彼。

 知ってるよ。こういうパターン。

 まず間違いなく、立ち上がりはしない。せいぜいがどうしようもなく我慢できなくなってトイレに立つくらいか。

 だから、こっちで料理を始めてしまうとしよう。


「なんか、こうほのぼのしてるのっていいよなー」

「そうだね」

「特にこれだな。この、ずーっと部活に熱中してきた先輩の話が好きだ」

「どこらへんが?」

「なんとなく大人ぶってたり、最後に余裕綽々って振りをしながら間接キスするところ」

「京ちゃんは、そういう人が好みなんだ」

「……作品の話だぞ?」

「知ってる」


 お中元の残りの、素麺を茹でてしまおう。

 素麺というには、肌寒い季節ではあるが……こうでもしないと消費できない。

 運動し始めたからか知れないが、彼は実によく食べる。

 料理番組の収録でがっつり食べた後に、晩御飯に誘われるほどだ。


「……なあ、咲」

「何?」

「これ、ほのぼの短編集だったよな……?」

「短編集とは言ったけど、ほのぼのとは一言も言ってないよ?」

「マジかよ……なんだよこれ……なんでこんな倒錯的な感じになってるんだよ……」

「ちなみに、さっきの作家の別名義です」

「マジかよ……マジかよ……」

「文体で気付こうよ、京ちゃん」


 打ちひしがれている。

 根が優しい人間なので、騙されないようになって欲しい。

 どっかで変な女の子に引っかかりそうであるのだ。多分、女子供には彼は弱い。


「はい、お待たせ」

「ありがとう……って、悪い! 俺!」

「別にいいよ。ただ茹でるだけだったし」


 いただきます、と手を合わせて彼が箸を取る。

 召し上がれ、と笑いながら私も箸を取る。


「……なんかさ」

「何?」

「こういう休日の過ごし方ってのも、いいなって思った」

「本、集めてみる?」

「そうしよっかな……うん」

「じゃあ、今度買いに行こうか?」

「マジ!? 今日みたいのとか、そういうのは抜きで頼むぜ?」

「あはは、どうだろ」

「おい、真面目に勘弁してくれよ……」


 これ、まるで意識してないんだなーと思う。

 やっぱり、付き合いが長すぎるせいか、どうにもそっちに引きずられて男女のあれこれは考えられていないらしい。

 残念であるというか、いささか腹立たしい。


「それじゃあ、今度行こうな! 約束だぜ?」

「そっちこそ、忘れないでよ? エスコート期待してるからね?」

「おう、お任せあれ! お姫様」

「……その格好だと、お嬢様じゃないの?」


 うっせと、また笑う彼。

 色々、お互いに大人になってしまったけど……こういうところは、本当に変わらない。

 自分の前では、いつだって彼は昔の面を見せてくれる。

 ……まあ。

 このまま、こういう関係がいつまでも続くというのも……それはそれで悪くはないかもしれない。


                                                            ――了

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最終更新:2013年10月28日 02:24