◇ ◆ ◇
京太郎「……で」
京太郎「そろそろ、説明してほしいんですがね」
照「……何を?」
京太郎「さっきの、不自然なやりとりっすよ」
照「……」
京太郎「あなたはだいぶ、唐突な人っすけど……」
京太郎「根が優しくて、誰かを貶めるようなことを言う人じゃあない」
京太郎「それは――俺が知ってる
宮永照の、人物像と一致しない」
京太郎「何があったんですか?」
照「……」
照「……相変わらず、よく見てるね」
京太郎「そりゃ、見る“眼”がなくなったら俺は終わりですからね」
京太郎「……で、どうして?」
照「……実は」
照「笑わないで聞いてほしいんだけど――」
京太郎「機材の故障ぅ?」
照「うん」
照「なにか、ちょくちょく機材に異常が出てるらしい」
照「ここに来てから」
京太郎「……」
照「ただの偶然かもしれないけど、時間が時間で……場所が場所だから……」
照「一応、終わらせる方に向かった」
京太郎「マジっすか……?」
照「マジ」
京太郎「……」
照「……」
京太郎「……俺、鳥肌立ってるんすけど」
照「奇遇。私も……」
京太郎「……」
照「……」
京太郎「……最初、ありましたよね」
照「……」
京太郎「麻雀プロクラスの豪運なら、大丈夫だって」
照「うん」
京太郎「俺、正直に言ってどうっすか……?」
照「……」
京太郎「あー」
京太郎「……」
京太郎「あー」
照「……」
照「……だから、一応御札にはノータッチの方向にした」
京太郎「……ありがとうございます」
京太郎「……にしても」
京太郎「祟りとかそういうの……どうにも信じられないんですけど」
京太郎「でも、気になるっちゃなるっていうか……」
京太郎「あー」
京太郎「せめて、そういうのがあったとしても……相手に実体があったらなぁ」
照「……」
照「……あったら、どうするの?」
京太郎「そりゃ、説得しますよ」
京太郎「祟りだ幽霊だとか、そんな理由でいきなり敵意剥き出しって……よく考えたら酷い話っすから」
京太郎「まずは対話っすよ! 対話!」
京太郎「『そこちょっと失ゥ礼~~~~(霊だけに)』とか」
京太郎「『ハッピー、うれピー、よろピくねー』とか」
照「……あっ、はい」
照「……一応聞くけど」
照「対話が通じなかったら……?」
京太郎「根気よく、説得します」
照「……」
照「……仮に」
京太郎「はい」
照「仮にゴキブリが人間大になって、会話が可能なら?」
京太郎「臭い息吐く前にブッ潰します」
照「……あ、はい」
京太郎「アイツら、出汁にも栄養にもなる玉葱の皮食いやがるわ……」
京太郎「ピロリ菌とか運びやがって……」
京太郎「知ってます? ピロリ菌って、胃癌とか胃潰瘍とか色んな病気の原因になるんです」
京太郎「ピロリ菌は動物の胃にも生息するし……」
照(……)
照(殺ると言ったら殺る、凄味がある……)
照(何が京ちゃんをここまで駆り立てるんだろ……?)
京太郎「……で」
京太郎「俺は、どうしたらいいんですかね」
京太郎「いやー、考えすぎかなぁって思うし……」
京太郎「別に高々、心霊現象だ祟りだで死ぬほどやわじゃないっすけど」
京太郎「……まあ」
京太郎「他の人に被害行ったり、番組や視聴者になんかあったら嫌っすよね」
京太郎「一応、運だなんだと麻雀でも不思議なことが起こるから……強ち切り捨てられないっていうか」
京太郎「そーゆー感じなんだけど……」
照「安心して欲しい」
照「ちゃんと、ここの巫女を呼んだから」
京太郎「……マジか?」
照「しかも、可愛い」
京太郎「……マジで?」
照「あと、巨乳率は高い」
照(
ハギヨシさんのことを大好きな京ちゃんには……間違いなんて起こらないだろうけど)
照「インターハイに出場してた、永水って言えば判る?」
京太郎「えーっと……」
京太郎(永水って、たしかあの……)
京太郎(何年も前だから、記憶が非常に曖昧だけど)
京太郎(確か、和以上の逸材がいた気がする……)
京太郎(……ってことは)
京太郎「マジだ!」
照「うん」
京太郎(やっべええええええええ)
京太郎(ついに、来たぜ! 俺の時代が! 俺の時間が!)
京太郎(巨乳巫女! その素敵な響きは俺を夢中にさせた!)
京太郎(憧も、中々に中々だから……まあ、ブラのアンダーサイズ次第で巨乳巫女とは言えるけどさ)
京太郎(だけどよ、こっちは……)
京太郎(悪いが……俺の記憶が正しければ、和以上の逸材ッ!)
京太郎(悪いな憧……お前のことは大好きだけどさ)
京太郎(今の俺は、この気持ちを押さえられそうにないッ!)
京太郎(そう言えば一さんが、『マジックやれば手先が器用になる』)
京太郎(『前戯とか巧くなるよ』って、羞恥心の欠片もないような問題発言を飛びださせて)
京太郎(いや、それだけが理由じゃないけど――指の鍛練に、腱鞘炎になるまでペン回しをしたことがあった)
京太郎(……)
京太郎(ベネッ!)
京太郎(マジックタイムじゃねえか! 巨乳マジックタイムだ!)
京太郎(もう俺の魔法披露するしかないだろ!)
京太郎(もう俺、明日の予定なんて知らない!)
京太郎(鹿児島に永住する――)
初美「どうもですよー」
京太郎(――うん、知ってた!)
京太郎(知ってたよ……ああ)
京太郎(神様ってのは、俺のことが大嫌いだってさ)
京太郎(……ま)
京太郎(冗談はともかくとして、真面目にいくとしますか)
京太郎(わざわざ、俺たちの為に来てくれたんだ)
初美「何かありましたかー?」
京太郎「……いや、お世話になります」
京太郎「すみません……撮影に使わせていただいただけじゃなく」
京太郎「こんな風に、ご迷惑までおかけしてしまって」
初美「別にいいんですよー」
京太郎「……そう言って頂けると、ありがたいです」
京太郎「なにか、こちらのスタッフが行った方がいいことはありますか――」
京太郎「――って、ああ、失礼しました」
初美「どうしたんですかー?」
京太郎「私は、
須賀京太郎……麻雀プロをしています」
京太郎「よろしければ……お名前を、お伺いしても?」
初美「ご丁寧にどうもー」
初美「薄墨初美です。好きに呼んじゃって下さいねー」
京太郎「では……門外漢で、こちらの問題なのでお恥ずかしいのですが」
京太郎「よろしくお願いします、薄墨さん」
初美「……初美でいいですよー」
京太郎(……これで失礼はないよな?)
照(……相変わらずの卒のなさ)
初美(芸能人ってもっと横暴かと思ったけど……丁寧で好印象ですよー)
照(――歩き出すこと数分)
照(この人の格好は……まあ、以前ほどではないけど)
照(なんというか、ところどころ際どい)
照(自分で京ちゃんに紹介しておいてなんだけど……本当に巫女なのだろうか)
照(動きやすさ重視で、改造してもいいのかな……巫女服)
照(それにしても、京ちゃんは流石だ)
照(一切動じず、打ち解けていた)
京太郎「あ、やっぱり水泳やってるんすね」
初美「よくわかりましたねー」
京太郎「何て言うか、立ち振舞いが軽快な割りには……あんまり走ってるって感じじゃなくて」
京太郎「特に、がっつり武道をやってる風にも見えない。重心の関係が……」
京太郎「で、握手した時に手に豆はなくて……掌は柔らかかった」
京太郎「何もやってないって言うには……姿勢、いいじゃないですか」
京太郎「無理してない、どこかに力が寄りすぎてない、バランスがいい」
京太郎「ってなると、水泳かな……と」
初美「はー、素直に感心します……」
初美「実は探偵さんか何かですかー?」
京太郎「いや、麻雀プロっす」
初美「あはは、面白いプロですねー」
京太郎「……あとは、推理云々は置いといて」
京太郎「実は俺も、そこそこ泳いでるんですよ」
初美「そうなんですか?」
京太郎「まあ、ちょっと嗜む程度っすけど……」
京太郎「だから、もしかしたらなーって思って」
初美「なるほど……」
照(……こっちを置いてきぼりだ)
照(おかし食べたい)
京太郎「初美さんがお払いしてくれるんすかー」
初美「違いますよー」
初美「お祓いは他二人の仕事なんですよー」
京太郎「他二人って……まだまだ巫女さんいるのかぁ」
初美「……巫女、好きなんですかー?」
京太郎「いやあ、まあ……その」
京太郎「大好きっすね、一応」
初美「へー、ふーん、ほー」
京太郎「なんすか……?」
初美「いやあ、面白い話が聞けたなーと」
京太郎「ちょっ……」
京太郎「オフレコで頼みますよ! オフレコで!」
京太郎「結構、イメージ商売なとこあるんで!」
初美「あはは、言いませんよー」
初美「気にしすぎじゃないですかー?」
京太郎「いや、どうだろーかなーって」
京太郎「こういうので、もしかしたらっつーのもあるんで……」
初美「そうですかー?」
京太郎「そうっすよー」
京太郎(……なんかあったら、さ)
京太郎(身ィ引いてくれたあの人に……申し訳立たないからな)
・
・
・
霞「あら、そちらが……」
初美「そうですよー」
初美「準備はどうですかー」
霞「万端よ」
霞「……で、そちらの方は?」
初美「ああ、この人が麻雀プロの――」
京太郎「――どうも、麻雀プロの須賀京太郎です! よろしく! 結婚しましょう!」
霞「へっ?」
初美「はっ?」
照「オラァ!」
京太郎「ウボォ!?」
初美「……」
照「……」
初美「……イメージ商売って、どの口が言うんですかー?」
照「……やれやれ。実にやれやれ」
照「いい髪型だね……京ちゃん」
京太郎「アッハイ」
照「でももう、二度とセット出来ないようにブッ壊してあげる」
照「その、両腕の方を」
京太郎「か、軽いジョーク……アギィ!」
京太郎「ちょ、て、鉄球は……さ、流石に痛いっす……!」
照「……」
照「よく見たら、趣味の悪い髪型だった」
照「でも……これからもっと趣味が悪くなる」
京太郎「へっ」
照「その、両腕の方が」
京太郎「や、やめ……! ひぎぃぃぃいい!?」
霞「――」
初美「どうしたんですかー?」
霞「いや、その……」
霞「憧れてた人がちょっと……いや、色々残念な人だったとき」
霞「どんな顔をしたらいいのかしら……?」
初美「笑えばいいと思いますよー」
京太郎「危ねえ……」
京太郎「骨を鍛えてなければ即死だったぜ」
京太郎「ツッコミしては、強烈すぎるっすよ……」
照「大丈夫」
照「京ちゃんなら壊れない」
照「信頼してる」
京太郎「……俺以外なら、マジで放送事故っすよ?」
京太郎「もうカメラ入ってないけど」
照「大丈夫」
照「それなら、その前の京ちゃんの発言で放送事故になってる」
京太郎「……俺、なんか不味いこと言いました?」
照「……」
照「……はぁ」
霞「……ねえ」
初美「なんですかー?」
霞「今日って、妖怪退治だったかしら?」
初美「お祓いですよー」
霞「……」
初美「……そもそも」
初美「あれ、どっちが妖怪でどっちが人間なんですかー?」
霞「……」
霞「……さあ」
京太郎(……たとえ)
京太郎(たとえ、ボールが来ると分かっていても……間にフェンスがあると分かっていても……)
京太郎(咄嗟に目を瞑ったり、大きく躱そうとしたりしちまう……これが反射だ)
京太郎(訓練次第で、反射はどうにかできる)
京太郎(実際、俺は顔面に拳が来ようが目を開き続けられる)
――だが。
その例えで言うのであれば、京太郎には経験が足りなかった。
知識として持ってはいながらも、体験として識ってはいなかったのだ。
故の、反射。
京太郎の意思を介さずに――欲望に根差して――それは行われた。
京太郎(すげえ……)
京太郎(ここまでの巨乳、初めて見た)
京太郎(正直……あんまり、大きすぎるのはどうかなって思ってた。思ってたよ)
京太郎(でも……)
京太郎(この人から溢れる貫禄ッつーか、落ち着きっつーか)
京太郎(そういう、母性的なおしとやかさが……協調してやがる)
京太郎(神を見たことがあるか?)
京太郎(俺は鹿児島で見た)
京太郎(ここに神殿を立てよう……それがいい)
京太郎(何て言うか……動じない、落ち着きを持った人だぜ)
京太郎「あのー」
霞「へゃ」
霞「にゃ、にゃにかしら!?」
照(噛んだ)
京太郎(噛んだな)
初美(噛みっ噛みですよー)
京太郎(訂正。意外にこの人、抜けているのかもしれない)
京太郎(ギャップで可愛い)
霞(か、噛んでしまったわ)
霞(……)
霞(……仕方ないわよ。仕方ないの)
霞(一目じゃ判らなかったけど――ファンのプロが現れて)
霞(しかも、冗談にしてもあんなこと言われたら……しょうがないでしょ)
霞(思ったより残念そうな人だったけど、本物の須賀プロなんだから……)
霞(……)
霞(……私は悪くない。悪くないもん)
京太郎「あ、あの……落ち着いてください」
霞「は、はひっ」
京太郎「……」
霞「……」
霞(やっちゃった……)
霞(舌が痛いわ)
初美(あー)
初美(どれだけ噛めば気がすむんですかー)
初美(元々テンパりやすいところがあるんだから、素直にそう言えばいいんですよー)
照(むぅ……)
照(なぜこんな格差が……おかしい)
京太郎(……)
京太郎(……っべ。そりゃ、いきなり結婚してって言われたらそうなるよな)
京太郎(やえさんがあんまりにも流すから、忘れてた)
京太郎(そうだよ)
京太郎(初対面のよく知らない奴から……結婚しようなんて言われたら、警戒するはずだ)
京太郎(挙動不審にもなるよな。怖いもんな)
京太郎(……で)
京太郎(どうしようか)
京太郎(『冗談でした』→『冗談でそんなことを言うの? 死ねクズ』)
京太郎(『本気です』→『何言ってるの……? 通報しなきゃ』)
京太郎(『忘れて下さい』→『そうやって、逆に意識させるの? キモいんだよ』)
京太郎(……)
京太郎(……詰んでるな)
京太郎(なんで俺、自分からフラグへし折ったんだろ)
京太郎(言いさえしなければ……万に一つ、いや、億に一つか、劾に一つは可能性があったかもしれないのに)
京太郎(……はぁ)
京太郎(まあ、元々……こんな人と俺なんかが付き合えるとは思っちゃいねーけどさ)
京太郎(そういう意味だと、冗談っちゃ冗談だよな……失礼なことしたな)
京太郎(……)
京太郎(巫女さんかぁ……)
京太郎(……)
京太郎(……後で憧に、『巫女服写メって下さい。待ち受けにします』ってメールしよ)
京太郎(さて……このままだと、話が通じないだろう)
京太郎(非常に不味い)
京太郎(いったい、どれだけ時間がかかるのかは知らないが……)
京太郎(下手すりゃ、朝一の飛行機に間に合わなくなる)
京太郎(次は確か……キッチンだったよな)
京太郎(松実プロがゲストだったし……穴を開けられない)
京太郎(どんな番組でも、穴を開けられないのは当然だけど……特に、業界の先輩の面子を潰すのは不味い)
京太郎(よし)
京太郎(ショータイムだ!)
京太郎「すみません、あんなことをいきなり口にしてしまって」
霞「は、はぁ……」
京太郎「冗談でも、控えるべきでしたね」
霞「え、ええ……」
霞(……うん)
霞(やっぱり、冗談よね)
霞(どちらにしても……驚いたことには変わりないけど)
霞(……)
霞(こんな人だったなんて……すこしがっかりね)
京太郎(――と、今ごろ俺の評価が下がっているだろうけどな)
京太郎(そんな絶望を、希望に変えてやるよ!)
霞「あの……」
霞「……でも、どうしてそんな冗談を?」
京太郎「ああ、それは――」
京太郎「――あなたの特別な顔を、見たかったんですよ」
霞「――」
初美(――)
照(――)
京太郎「落ち着いた雰囲気の方でしたんで……」
京太郎「そんなあなたの、驚いた顔がどうしても見たくなってしまって……」
京太郎「すみませんね……こんな、悪戯好きの男で」
霞「は、はぁ……」
京太郎「これ、驚かせてしまったお詫びに――」
京太郎(そして……)
京太郎(唐突な事態に頭が働かないそこに、叩き込む)
京太郎(悪印象をうやむやにすればいい)
京太郎「――っと」
京太郎「あなたの驚いた顔を見たいのは、俺だけじゃないらしい」
京太郎「花たちも、そう望んでいるようですよ」
霞「――」
京太郎「……まぁ」
京太郎「今度は、あなたの笑顔が見たいんですが……よろしいですか?」
京太郎(マジック……魔法とはよく言ったものだぜ)
京太郎(蕾の花が一瞬で咲いた風に見えるマジック)
京太郎(わりと有り触れてるが……まさか、こんな場面で起きるとは思うまい)
京太郎(衝撃は充分だろうな)
京太郎(心理の隙を突くからこそのマジック……その本質)
京太郎(どうだ? 決まったぜ――)
照「てい」
京太郎「おっぱぁぁぁぁぁあ!?」
京太郎(き、決まったァァァア――――!? ただし鉄球がァァァア)
照「とりゃ」
京太郎「うぎぃぃぃぃぃぃい!?」
京太郎(も、もう一発ゥゥゥゥウ!?)
京太郎(い、痛てえ……! もの凄く痛いが……!)
京太郎(『これでいい』)
京太郎(さ、流石は照さんだぜ……)
京太郎(俺の考えに合わせてくれるなんてな!)
京太郎(あのままなら俺は、ただの気障男だった)
京太郎(だが……照さんに攻撃されることで、どうなる?)
京太郎(そこはかとなく“残念さ”が生まれるはずだ)
京太郎(これが、一番大事だ)
京太郎(そこはかとなく漂う残念な空気……二枚目半や三枚目に対して、人は憎めなさを抱く)
京太郎(『なんだ、仕方がないか』……そう溜飲を下げる)
京太郎(だから、敢えて……)
京太郎(敢えて俺は気障男を演出し、ひいては三枚目になりきった)
京太郎(三枚目を敢えて演じることで、すべてをうやむやにしたんだよ)
霞「――」
京太郎(こいつは実にグレートな作戦だぜ)
京太郎(……まぁ)
京太郎(唯一難しかったのは……俺から溢れるイケメンオーラが)
京太郎(俺を簡単に、三枚目にしちゃくれなかったっつーことかな)
京太郎(流石に鉄球二発は……かなり痛いぜ)
京太郎(ふふふ……ふはははは……!)
京太郎(……)
京太郎(……アホらし。俺にイケメンオーラとかないっつうの)
霞「――」
初美(あ、これはオチてやがりますよー)
京太郎(……流石に今ので乗り切れはしないと思うので)
京太郎(こっからが本チャンのフォロー)
京太郎「……いてて」
京太郎「すみません、長旅の末に……今まで起きたことがないことが起きたんで」
京太郎「少し、混乱してしまって……」
京太郎「すみません。御無礼なことを言ってしまいまして」
霞「え……」
霞「あ、ああ。混乱していたのね……」
照「京ちゃ……須賀プロは」
照「慌てるととにかく、映画やドラマに出てくるような気障な台詞を言ってしまう」
照「東京からの長旅だったから……私も今まで見たことないぐらい疲れてた」
照「それでこうなった」
霞「……なるほど」
霞「そんな事情が……」
初美「えーっと」
初美「なんでそんな、難儀な性格なんですかー?」
京太郎「いや、ドラマの撮影で台詞吹っ飛んだときに」
京太郎「『なんとか台詞出せるように』って練習してたのが、習慣になった感じっすねー」
初美「そうなんですかー?」
京太郎「そうなんすよ」
京太郎「どれぐらい気障なのかは、『オカルトスレイヤー』ってドラマを見ていただければ……」
京太郎「……っと」
京太郎「今日のお詫びに、BDかDVDを贈りますんで」
初美「ふんふむ」
初美「ま、そんなのはともかくとして……」
初美「須賀プロは、お騒がせのプロですよー」
京太郎「面目ないっす」
霞(……あら、そうなのね)
霞(少し残念のような気もするけど……)
霞(……)
霞(あの、宮永プロの動きは……ひょっとして、嫉妬かしら)
霞(呼び方も親しげだったから、そういう関係にも思えるわね)
霞(……まあ)
霞(あまりその辺りを追求しても仕方ないから)
霞(やめておきましょうか)
霞(……)
霞(……うん)
霞(ちょっとドキドキさせて貰っただけで、充分)
霞(……あと、サインも欲しいわね)
霞(うん)
霞(べ、別に意識しているわけじゃないけど……)
霞(須賀プロは確か年下だったから、ここは大人の余裕を見せないと……)
霞(平常心……平常心よ)
京太郎(……うわ)
京太郎(露骨に目を反らされた……)
京太郎(三枚目ならある程度許されると思ってたけど、ダメか)
京太郎(……あー)
京太郎(そりゃあ、そうだよなぁ……)
京太郎(いきなりプロポーズしてさ)
京太郎(『それは冗談でした』からの気障ったらしい口説き文句)
京太郎(挙げ句、『混乱してたからついやっちゃいました』とかよ……)
京太郎(最悪的な、チャラ男だよな)
京太郎(ここがイタリアなら……スゲーいい具合にフラグ立ってるんだろうけど)
京太郎(ここ、鹿児島で……俺は日本人だもんな……)
京太郎(……)
京太郎(なんで俺、自分からチャンス潰してんだよ……はぁ)
初美(なんか面白そうなんでほっときますよー)
照(そろそろ眠い)
京太郎(……和から)
京太郎(高校の頃、チラチラと下心が丸見えでした――って大学生のときに言われた)
京太郎(それから俺は気を付けた)
京太郎(気を付けたんだ……そういうへんな素振りを見せないように)
京太郎(実際、高一んときほどがっつくこともなくなった訳だし……楽っちゃ楽だったな)
京太郎(……でも、そういうのパァかよ)
京太郎(マジ俺、縁がないよな)
京太郎(気付けよ……そういうの、俺には届かない世界の話だって)
京太郎(気付けよ……)
京太郎(女は星の数ほどいるっつーけどさ)
京太郎(いくら憧れても、星には手が届かないんだよ……ああ)
京太郎(……)
京太郎(……憧とか大星には手が届いたけどな)
京太郎(うへへ)
霞(……凄い真剣な顔)
霞(やっぱり、不安なのかしら……?)
霞(それは、そうよね)
霞(普段、そういうものと関わりがないなら……尚更)
霞(……)
霞(……って)
霞(あ、あんまり今見すぎてなかった……?)
霞(大丈夫……? 気付かれてなかった……?)
霞(ちょっと、別の場所を見なきゃ……怪しまれちゃうわ)
京太郎(……俺のこと、視界から外してる?)
京太郎(やっべー)
京太郎(顔に出てたか? にやけてたか?)
京太郎(……うおー、マジか。マジかよ)
京太郎(役満じゃん)
京太郎(これ、絶対悪印象だよなぁ……)
初美(いいぞ、もっとやるんですよー)
照(……せめて、歯磨きしないと)
京太郎「あ、初美さん」
初美「なんですかー」
京太郎「お祓いって……そちらの、えーっと」
京太郎「その、石戸霞ちゃんさんがされるんですか?」
霞(か、『霞ちゃん』!?)
霞(わ、私にそんな可愛い呼び方なんて……そんな呼び方、されるなんて)
霞(い、いや……別に普段からされてないわけじゃないから別に気にはしないわ。別に)
霞(でも、やっぱり麻雀プロとしてバリバリ働いている人からしたら私はそんな可愛い風に見えるのかしら)
霞(別に、可愛く見られたいなんて思ってないけど……)
霞(頼られるのって嬉しいし私自身もそういう風に扱われるのに満足してるからいいけど)
霞(でもたまには抜けているところ見せたら仕方ないって笑ってほしいというか)
霞(逆に包容力とか大人の余裕がある人に甘えてみたいような気がしなくもないっていうのもあって)
霞(たまにはありのままの私というかちょっと気を張ってるところを見抜かれて素直になっていいんだよって)
霞(そんな風に扱われてもみたいところがあるというかあの……)
京太郎(うわー、改めて自己紹介もされねえのか)
京太郎(こりゃいよいよ、ますます以って駄目だって確定したな)
京太郎(うん、初美さんに話しかけるしかねえ)
初美「いえいえ、違いますよー」
京太郎「そうなんすか?」
初美「そうですよー」
初美「どれぐらい憑いているかにもよるけど、二人」
京太郎「……あれ、神代小蒔さんは?」
初美「姫様のこと、知っているんですかー?」
京太郎「宮永プロ、天江プロ、大星プロに並んで……インターハイで有名人でしたから」
初美「なるほどですよー」
初美「まあ、姫様が必要な案件とは思えませんので……」
初美「姫様は、来ないんじゃないですかねー」
京太郎「そうですか……残念だな」
初美「……」
初美「……どうしてですかー?」
京太郎「いやあ、なんていうか」
京太郎「あのですね……初めて、インターハイで神代さんを見てからですね……」
京太郎「フフ……」
京太郎「恥ずかしいんですが……その」
初美「勿体振らずにとっとと言いやがれですよー」
京太郎「アッハイ」
京太郎「その……」
京太郎「 麻 雀 」
京太郎「打ってみたいなーって、思ってしまいまして……」
初美「……正気ですかー?」
京太郎「至って正気っすよ。正気も正気っす」
初美「プロとして、どれぐらいかは知らないですけど……」
初美「かなり、大変なことになると思いますよー?」
京太郎「そうっすか?」
初美「そうですよー」
初美(それでも倒せるって、プロ相応の実力がある人か……)
初美(それとも相手の実力も冷静に把握できない、自信過剰か……)
初美(どっちかわからないけど、姫様に会わせるわけには――)
京太郎「――あの人の前向きさ、参考になると思ったんだけどな」
初美「へっ」
初美「……前向き、さ?」
京太郎「はい」
初美「えっと……」
初美「“前向き”さ、ですかー?」
京太郎「いや、なんていうか……」
京太郎「神代さんには、凄い力があるとは……昔のチームメイトから聞きましたけど」
京太郎「それにも、波があるみたいで……あるんですよね?」
初美「確かにそうですねー」
京太郎「……そう考えると、凄いなって思って」
初美「……」
初美「何がですかー?」
京太郎「いや、俺はその手の牌の片寄りとか運が判らないんで……なんとも言えないっすけど」
京太郎「多分、自分の力にムラがあったとき……」
京太郎「俺なら……『なんでムラがあるんだ』とか『この空白を凌ぐのが辛い』とか」
京太郎「そんな風に、考えちまうかもしれないんですけど……」
京太郎「……これは、こっちの想像かもしれないけど」
京太郎「神代さんは、そういう文句とか愚痴とか無しに……楽しんでたじゃないですか」
初美「……」
京太郎「そういうのなくても……ないからこそ、もっと一生懸命で楽しんで勝ちに向かって努力する」
京太郎「そういうの、凄くかっこいいと思うんですよ」
京太郎「なんつーか」
京太郎「なまじそういう力があるから、逆に……ないときは辛いんじゃないかって」
京太郎「俺は、そんな風に思ったんすよ」
初美「……」
京太郎「だからっていうのか」
京太郎「そういう前向きさ、分けて欲しいなーって思って」
京太郎「……いや」
京太郎「嫌らしい話するなら……そういう強力な人って何を考えてるのか」
京太郎「材料にして、麻雀にいかそうかなー」
京太郎「なーんて、考えてたりして」
初美「……」
京太郎「初美さん?」
初美(……)
初美(ふ、不覚にもドキッと……)
初美(……)
初美(……わ、私は別にファンでもないけど)
初美(さっきの気障ったらしい顔より、よっぽど男らしい顔というか)
初美(プロっぽい、ストイックで真剣な顔をしてて……かっこいいんですよー)
京太郎「初美さん?」
初美「……」
初美「インターハイの戦いを見て」
初美「相手の大体の強さを判ってながら……前向きさを貰いたいから戦いたいって」
初美「そんな発言できるだけで、充分に前向きなんですよー」
京太郎「そうっすか?」
初美「そうですよー」
初美「そんなに明るい爽やかな顔ができる人が」
初美「前向きじゃないわけ、ないんですよー」
京太郎「……」
京太郎「そうっすか……。そうっすか……!」
照「……」
照「……で、オチは? 本音は?」
京太郎「――可愛い女の子を沢山眺めて目の保養をしたい」
照「てい」
初美「死ねですよー」
京太郎「うぎゃわぁー」
◇ ◆ ◇
京太郎(なんつーかさ)
京太郎(どーにも、茶化すっていうか……オチを付けにいっちまうんだよなぁ)
京太郎(カメラ回ってないのにな……。習慣って怖いぜ)
京太郎(『あんまりシリアスな空気には、俺チン耐えられないし』……なーんつって)
京太郎(……で)
京太郎(待たされてるんだけど……)
京太郎(……)
京太郎(うーん)
京太郎(なんかさっき、引っ掛かりを感じたような……)
京太郎(なんだっけな……えーっと)
春「……」
京太郎「……うおっ!?」
京太郎「い、いつからそこに……?」
春「……腕を組んで目を瞑ってたところから」
京太郎「マジか」
春「……」
京太郎「……考え事しすぎるの、俺の悪い癖だな」
京太郎「このままだと……考え事して歩いてたら、車に跳ねられたぐらいで死んじまうって」
春「……」
春「……!?」
京太郎(お、黒糖から顔を上げてくれたな)
京太郎(このままツッコミ入れてくれたら万々歳だけどよ――)
ぽりぽり。
京太郎(――駄目か!)
京太郎(手厳しいな、これは)
京太郎(こういう、割りと無反応系の人には縁があるからな)
京太郎(逆に、反応させたくなるのは人情だろ?)
京太郎(……っと)
京太郎「……あ」
京太郎「そういや、どちらさまですか?」
春「私は……」
京太郎「――っと、失礼」
京太郎「名乗るなら、俺からだよな」
京太郎「麻雀プロの、須賀京太郎です。よろしく」
春「……」
春「滝見春。よろしく」
春「……」
京太郎「……」
春「……」
京太郎「……」
京太郎(会話が続かねえ)
京太郎(というか、会話が生まれねーよ)
京太郎(さっき初美さんが言ってた内の一人)
京太郎(つーことは、俺にお祓いをしてくれるはずなんだけど……)
京太郎(一切、事情とか聞かねーのな)
京太郎(……いや、もう聞いてるかもしれんけど)
京太郎(……)
京太郎(……なんつーか、逆にさ。逆に)
京太郎(こんな風に、必要な事以外は一切しゃべらないのって)
京太郎(プロっぽくてカッケーな)
京太郎(……)
京太郎(……ああ、喋ってないな。喋ってないよ)
京太郎(でも黒糖、煩すぎィ!)
京太郎(ふつーに話してる方がまだ静かなんじゃねーのってレベルだぜ……こいつぁ)
京太郎(確かに喋ってないな! 喋ってねーよ!)
京太郎(でも、しゃぶってるからな! 黒糖しゃぶってるから!)
春「黒糖、いる?」
京太郎「アッハイ」
春「はい」
京太郎「あざっす」
春「どういたしまして」
京太郎(それにしても、『黒糖』かぁ)
京太郎(いや、いいとは思うぜ……? いいとはさぁ……)
京太郎(でもよ)
京太郎(そのままで食い付いてくって……どーなのよ)
京太郎(流石に料理とかに使ったりはするけどさ)
京太郎(生っつーのは……危ないんじゃねーのか? 糖尿病とか)
京太郎(そんな風に期待された目を貰ってもなぁー)
京太郎(俺にその役目は重いっつーか……期待されても困るっつーか)
京太郎(なんか気が進まねーンだよなぁ――)
京太郎「ンマァァァア――――イ!」
京太郎「なんだこれは……ンまいなぁあ!」
京太郎「なんつーんだ?」
京太郎「糖って聞くと、もっとジャリジャリしてたり……」
京太郎「舌の辺りが甘ったるくなって、喉が渇くものかと思ってたけど」
京太郎「なんだこれ……ンマイなぁぁぁぁあ~~~~~ッ!」
京太郎「優しい味っつーか、自然な甘さっつーか」
京太郎「甘ったるくて飽き飽きするってよりも、むしろ、自然にいつまでも味わっていたくなるッ!」
京太郎「黒糖独特の香りが、いつまでも飽きさせない!」
京太郎「もう一度言わせてもらうけど……ンマイなぁぁぁあ~~ッ」
春「それが魅力」
京太郎「頭使う仕事だから……色々糖分補給には気を配ってるつもりだったけど」
京太郎「黒糖! 黒糖飴でも、黒糖練りの饅頭でもなく……黒糖ッ」
京太郎「こいつは盲点だったぜ……!」
京太郎「どこ産? どこのメーカー? もっと貰ってもいい?」
春(ここまで気に入る人は初めて)
春(こんなリアクションも)
春(ちょっとおっかない)
春「これ以上はあげない」
春「私の分がなくなるから……」
京太郎「そこを頼みますよ! 頼むぜ!」
京太郎「な? な!」
京太郎「折角、ここで会ったのも何かの縁なんだしさ!」
春「ダメ」
京太郎「後でちゃんとお金も払うからさ!」
春「やだ」
京太郎「ちょっとだけだから! ちょっとだけだからさぁ!」
京太郎「ホンの先っちょだけでもいいんだよ! 先っちょだけで!」
春「ノー」
京太郎「頼むよ! ほら、ホンの少しだから! ちょっともちょっとだから!」
京太郎「な! それ以上はいいから! それ以上望まないって約束するから!」
巴「なにやってるんですかッ!」
照「『黄金長方形』……オラァ!」
京太郎「――おっぱぁぁぁぁあ!?」
勢いよく開かれる扉と、その反対側から襖を突き破って飛び込んでくる鉄球。
突き刺さったのは、鉄球だけではない。
視線。
敵意を持った、軽蔑の眼差しだ。
霞「何をしてるの!?」
初美「大丈夫でしたかー!?」
照「大丈夫……私もすぐ、後を追う」
巴「なにかされなかった!?」
色めき立つ女性陣。
この状況で、
『皆俺の行動をそんなに知りたいのかい……HAHAHAー!』
なんて言えるほど、京太郎は図太くもタフでもクールでもなかった。
京太郎「何をしてるのは俺の台詞! しかも大丈夫じゃねえよ!」
京太郎「何されたって……今、絶賛殺されかけてるんだけど! 二発目投げようとしてるんですけどォ!」
京太郎「真面目に殺されそうなんだけどな!」
京太郎「肉体的にも、精神的にも、社会的にも!」
しかし、誰も聞く耳は持たない。
それもそうだ。
黒糖を求めて、ズイと身を乗り出していたときだ。
そこに鉄球が来たのだから、畢竟、押し倒すような形となる。
京太郎の身体は、進退は、一人の少女に託され――。
春「無理矢理、奪われかけた」
――そして、決した。
「黒糖を」という、少女の呟きは受け取られなかった。
唸りを上げる鉄球と、捻りを加えて砕かんと迫る鉄腕の奏でるハーモニーが、
京太郎の悲鳴のシンフォニーと相俟って、盛大なオーケストラを結成したためだ。
・
・
・
照「それならそうと、早く言ってくれたらよかったのに」
京太郎「何度も言っただろ! 何度も! 言いましたよね!?」
春「……」
京太郎「食っとる場合かァ――――!」
初美「夜中に大声出すなんて、常識はどこに行ったんですかー?」
京太郎「あんたの巫女服の二の腕の部分がどこに行ったんだよ!」
霞「ご、ごめんなさいね……」
京太郎「霞ちゃんさん、マジ天使っすよ」
霞「ちゃ、ちゃん……て、天使……」
京太郎「喉が痛てえ……」
巴「粗茶ですが……」
京太郎「どうもどうも」
京太郎「……って、じゃねえよ!」
春「ノリツッコミ」
照「お笑いの精神を忘れないなんて、流石は須賀プロ」
京太郎「やかましいわ!」
霞「その、少し声を……」
京太郎「あ、すみません」
初美「ちょっとは年相応に落ち着いた方がいいですよー」
京太郎「アッハイ」
京太郎「……まあ」
京太郎「俺が誤解されるようなことを言ったから悪いってことで」
京太郎「それで、いいんすけど」
春(いいんだ)
巴(えっ)
初美(いいんですかー?)
霞(いいのかしら……?)
照「うん」
春(しかも当然のように頷いた)
巴(それでいいの……?)
初美(これが、いつもの流れみたいですよー)
霞(『いつも』って、冷静に考えたら……どうして、麻雀プロが鉄球を……?)
京太郎「でもですね」
京太郎「襖を破っちゃうのは駄目です。佐々野プロのケジメ案件です」
照「うん」
京太郎「確かに、切羽詰まってるって思うような状況だから……仕方ないですけど」
京太郎「それでも、次からは気をつけて下さいよ? 俺も気を付けますんで」
照「判った」
春(次、あるんだ)
巴(そもそも、次を起こらないようにすべきじゃ……)
初美(あれを受けても無事だなんて、流石は麻雀プロなんですよー)
霞(おかしいの、私の方なのかしら…?)
京太郎「いやー、それにしても」
京太郎「久しぶりっすね、巴さん」
巴「本当に」
巴「見違えるほど、立派になって……」
京太郎「いやあ、流石に大体十年近く経つんで」
京太郎「男子三日会わざれば……っすよ」
巴「……流石に二三年を水増しして、十年っていうのはどうかな」
巴(見違えるというか、道を違えちゃってる風にしか見えないけど)
初美「あれ、知り合いですかー?」
照「知り合い?」
春「意外」
巴「須賀くんが、高校生のときに……」
京太郎「そうなんですよねー」
京太郎「っていうか、水臭いっすよ」
京太郎「あのときみたいに、京太郎くんって呼んでくれてもいいんですよ?」
巴「まさか」
巴「あの頃とは、違うから……」
巴(頼りになりそうを通り越して、人間やめかけてるって……)
霞「……えっと」
霞「二人は、どういう関係なの?」
巴「それはですね――」
京太郎「――短い間だけど、恋人っすよ?」
京太郎「ね、巴さん」
巴「いや、まあ……」
照「――」
霞「――」
初美「――」
春「――」
京太郎「いやあ、懐かしいっすねー」
巴「そうですね。まさか、あのときの迷子の高校生が今のトッププロなんて……」
照「――」
霞「――」
初美「――」
春「――」
京太郎「ちょ、迷子は言わない約束っすよ!」
巴「えっと、『幼馴染みにバレたら恥ずかしいから』でしたっけ?」
巴「可愛い理由だなぁ」
京太郎「あー、もー、言わないで下さいよ」
照「――」
霞「――」
初美「――」
春「――」
京太郎「それにしても、懐かしいっすねー」
巴「ね。本当に」
京太郎「道案内して貰ったはいいけど、東京の人じゃなかったなんて……」
巴「私も、地元以外で道案内することになるとは思わなかった」
京太郎「いやー、笑い話だよ。これ」
照(ハギヨシさんは? ハギヨシさんのことはどうしたの?)
霞(こ、高校生って……どこまで……?)
初美(一体どのタイミングなんですかー?)
春(あ、黒糖なくなった)
京太郎「……で」
京太郎「そのあと、まさかああなるなんて」
巴「今思えば、あれはナンパにしか……」
京太郎「やめて下さいよ。俺、硬派な男だから」
巴「それは……どうですかね……?」
照「……」
霞「……」
初美「……」
春「……」
霞(誰か、詳しく聞いてくれない……?)
初美(自分でやれですよー。地雷に踏み込みたくないんですよー)
春(ここは年上の貫禄をお願いします)
霞(貫禄とか言わないで……気にしてるのよ)
初美(年上っぽく頼りにされたいと思って振る舞ってる癖に、面倒くさい女ですよー)
春(同意)
霞(そ、そんなことないわよ!)
初美(スイーツ(笑)ですか、コノヤロー)
春(黒糖は甘い)
霞(違うわ。違うでしょう)
初美(さっきも軟派な方の須賀プロにメロメロだったじゃないですかー)
春(王子様待ち?)
霞(違います! 違うの!)
初美(打ち筋のファンって言っておきながら、結局はあんな風に気障ったらしく口説かれたいんですよねー)
春(黒糖食べたい)
霞(違うもん。そうじゃないもん。違うもん)
照「……」
照「……二人に何があったの?」
霞(つ……)
初美(こっちが小声で話してる間に、突っ込んで行きやがりましたー!?)
春(流石麻雀プロ)
霞(……)
初美(……)
春(……)
霞(どうなるのかしら)
初美(ちょっと面白そうですよー)
春(須賀プロの指に、黒糖の欠片ついてる)
巴「そうですね……」
京太郎「あれは――暑い夏の日でした」
京太郎『うー、暑い暑い』
京太郎(今、冷房を求めて全力疾走してる俺は……)
京太郎(清澄高校に通う、極一般的な男子高校生だ)
京太郎(強いて違うところをあげるとしたら、パシらされてるってところか?)
京太郎(名前は須賀京太郎)
京太郎(そんな訳で、大通りにあるデパートにやってきたのであった)
京太郎『……!』
京太郎(ふと見ると、ロビーの長椅子に一人の若い女が座っていた)
京太郎(ウホッ! いいポニテ)
京太郎(そう思っていると、突然その女は俺の目の前で……)
京太郎(ジャージのファスナーを下ろしはじめたのだ)
巴『やらないか』
京太郎「こんな感じですね」
照「……」
巴「全然違います!」
巴「そもそも、都会の人混みにジャージで出ませんから」
京太郎「そうでしたっけ?」
巴「そうですよ」
巴「正しくは――」
――日本列島を二分する西日本と東日本の陣営は互いに軍を形成し、
――もはや開戦の理由など誰もわからなくなった全国規模の麻雀を100年間継続していた。
――その“インターハイ”の末期、西日本の一生徒だった主人公「トモエ・カリジュク」は、
――味方の大将を強襲するという不可解な作戦に参加させられる。
――作戦中、トモエは「薄い本」と呼ばれる日本国最高機密を目にしたため学校から追われる身となり、
――町から町へ、県から県へと幾多の「雀荘」を放浪する。
――その逃走と戦いの中で、陰謀の闇を突きとめ、やがては自身の性癖に関わる更なる謎の核心に迫っていく。
巴「こうですね」
京太郎「そうでしたっけ?」
巴「そうですよ」
照「……」
照「いや……」
照「こうのはず」
――この『物語』は、俺が歩き出す物語だ。
――肉体が……。
――……という意味でなく、青春から大人という意味で……。
――俺の名前は 『キョニィ・ジョースガー』。
――最初から最後まで、本当に謎が多い女「トゥモエ・ツェカリ」と 出会ったことで……。
照「きっと」
京太郎「もはや、名前が誰かわからんことになってますよ」
巴「流石にこれだと、私死んじゃうんで……」
霞(気にするところは、そこなの?)
初美(さっさと本題に入って欲しいですよー)
春(あ、唇にもついてる)
照「……まあ」
照「言いたくないならいいけど、真面目に喋って欲しい」
照「それとも、そうやって色んなところで女の子を引っかけるのが趣味なの?」
照「執事さんとのことは、遊びだったの?」
京太郎(なんでハギヨシさんがここで出てくるのかわからねーけど……)
京太郎(って、ああ……そういうことか)
京太郎(フラフラフラフラ、ナンパして女から女へ歩くような奴だと)
京太郎(男友達をぞんざいに扱いそうだもんな)
京太郎「遊びなんかじゃないです! あの人とは本気の付き合いです!」
照「……!」
巴「ぶっ」
京太郎「どうしたんすか?」
巴「ちょ、ちょっと鼻血が……」
京太郎「……まあ、真面目に話すとしたら」
京太郎「ロマンスも面白みもないですよ?」
京太郎「キスもハグもありませんから」
照「そう?」
巴「間接キスとあーんはありましたけど」
照「そう……」
京太郎「あれは――確か、夏でしたね」
京太郎「丁度、個人戦の前で……」
京太郎「俺は、個人戦に出る選手に少しでも頑張って貰おうと……あいつらが前に食べたいって言ってた」
京太郎「洋菓子を探してました」
京太郎「ただ、東京はどこに行っても人が多くて……」
京太郎「道も、方向はあってても変なところに通じてるところが多くて……」
京太郎「道に迷っちまってさ」
京太郎「そこで――道を聞いても、答えてくれそうな親切そうな相手を探したら」
巴「私だったってことです」
照「……なるほど」
照「恋人というのは?」
京太郎「あー」
京太郎「目的地、一緒だったんですよ」
巴「そこで、恋人限定メニューって言うのがあって……」
京太郎「なんか、旨そうだったから……つい」
照「なるほど」
巴(本当は、私が食べたそうにしてたのを察してくれたんだけど……)
照「……恋人?」
京太郎「その日は、そうでしたよ」
京太郎「なんか縁があるものだし……俺も、巴さんも、いつかに備えてってことで」
京太郎「適当にショッピングとか、色々と……」
照「……」
京太郎「今思えば、相当軟派なことしてる感じですけどね」
巴「あれから……予習、活かす機会はあった?」
京太郎「ノーコメントで」
京太郎「そういう巴さんこそどうなんですか?」
巴「いやー、ハハハ」
巴(あのまま付き合ってたらどうなってたかを想像して……)
巴(それでホモ同人誌書いてるなんて言えない)
京太郎「お互いフリーって感じっすねー」
巴「そうですね」
巴「いっそ、あの続きの関係してみます?」
京太郎「俺、Sですよ?」
巴「知っ……いや、そうなんですか」
巴(『もしもセーラが京太郎の雄嫁だったら』の通りなのかぁ……)
巴(流石、私をこっちに引き込んだバイブル)
照「……」
霞「……」
初美「……」
春「……」
京太郎「……ま」
京太郎「申し訳ないですけど、俺、心に決めた女(ヒト)がいるんですよ」
巴「……そうなの?」
京太郎「ええ」
京太郎「俺の事なんて見てなくて、意識もしてなくて、別の誰かばっかにかまけてる女(ヒト)」
京太郎「残酷で、公平で、奥深くて……一生、きっと飽きない女(ヒト)」
巴「それって……」
京太郎「ええ」
京太郎「名前は――麻雀」
京太郎「ま、幸運の女神様ってとこっすね」
巴「フラれちゃった、かぁ……」
京太郎「まさか」
京太郎「そもそも、冗談ですよね?」
京太郎「結構、相手が何を考えてるのを想像するのが得意だから――」
京太郎「巴さんが何を考えてるのかなんて、丸わかりっすよ?」
照(ダウト)
春(自覚なしなんだ)
初美(こいつは、ぽんこつの臭いがプンプンしますよー)
霞(じゃ、じゃあ私も……気付かれて……?)
巴(“ナニ”を考えてるのか、わかる!?)
巴(今の自分のを、京セラのリバに使おうと思っていたこととか……!?)
巴(麻雀への叶わぬ思いから神経を磨り減らしてボロボロになっていく京太郎くんへ)
巴(セーラが「もう……もうええやろ」ってすがり付いて、二人でどこか幸せな場所に行こう寧ろオランダに)
巴(って、京太郎くんのことを引き留めようとするんだけどまるで相手にされず)
巴(そんならせめてデートでもって懇願するセーラに、京太郎くんが「真似事なら」って言い出して)
巴(「ああ、こんなのも悪くないかな」ってなっているときに偶然大星プロに出会って……これはリアル準拠)
巴(「そんな風に遊んでる暇あるんだ」って見下された京太郎くんはセーラの元を走り去って)
巴(堪らなくなったセーラは京太郎くんに、体で引き留めようと襲いかかるんだけど)
巴(精神的なストレスから、寧ろ獰猛な笑みを浮かべる京太郎くんに主導権を握られて鬱憤をぶつけられて)
巴(泣きながらそれでも俺、京太郎の気が晴れるんならって受け入れたセーラが朝起きたら京太郎くんはいなくて)
巴(京太郎くんは大星プロと麻雀を打ち、限界まで力を使って失明寸前)
巴(何やってるんや京太郎、ってついにセーラは怒鳴り付けちゃうんだけど、目から血を流した彼が笑って)
巴(「最後に振り向かせようと思って」「最後ってなんや」「文字どおり、最後です」)
巴(「ま、振り向いてくれたようだけど――」「……」「もう、俺は見ないんで……今度はあっちが追いかける番だ」って)
巴(大星プロから三倍満を和了した京太郎くんは、セーラと幸せなキスをして終了…………と、思いきや)
巴(今度は俺が攻める番やなって、リバ気味に――リバはリバティつまり自由――なって終了!)
京太郎(寒気がする……)
京太郎(そしてこの人は眉を寄せたり、急に綻んだりしている)
京太郎(つまり――)
京太郎(除霊中っぽいな! 間違いないぜ!)
京太郎「まあ、折角だし……」
京太郎「今度は、メアドでも交換しませんか?」
巴「いいんですか?」
京太郎「まあ、知らない仲じゃないですから」
京太郎「……っと」
京太郎「皆は、どうです?」
春「する」
霞「え、えっと……メアドって……」
初美「しち面倒くさいんで、貸すんですよー」
霞「あ、ごめんね……ありがとう」
初美「別にいいってことですよー」
京太郎「よし、っと」
初美「須賀プロ」
初美「……ついでに、サインとか貰ってもいいですかー」
京太郎「オレェ?」
京太郎「俺のっすか? 俺のサイン?」
初美「……他に一体誰が」
京太郎「スゲー! リアルで、一般の人に、初めてサイン求められた!」
京太郎「番組の企画とか、プレゼントとか、サイン会以外だと初めてだぜ!」
京太郎「うわー、来てよかったよ鹿児島……いいところだなぁ」
初美「あ、そ……それはよかった」
京太郎「俺のサインでいいんですか? 本当に? 俺ので?」
初美「と、当然ですよー」
京太郎「マジかよ、鹿児島! めっちゃいいとこだな!」
初美「……一人一人、名前入れて下さいねー」
京太郎「おまかせあれ!」
初美(やれやれですよー)
初美(遠目に伺うばっかりで……)
初美(……いつまでも言い出さないから、言ってあげたけど)
初美(これは、貸し一つですよー?)
__ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __
【宮永照の好感度が上昇しました!】
【薄墨初美の好感度が上昇しました!】
【石戸霞の好感度が上昇しました!】
【滝見春の好感度が上昇しました!】
【狩宿巴の好感度が上昇しました!】
最終更新:2013年11月03日 11:03