アットウィキロゴ
【麻雀プロボウリング対決―真夏の夜の16ポンド(本番前)―】


京太郎「……」

京太郎「あ、お疲れさまでーす」

京太郎「どうしたんですか? ……あ、はい。なるほど」

京太郎「うーん」


 本番前の下見とがてら、ボウリング場へ。

 そこにいたのは撮影スタッフ。本番前に器材搬入を行おうとしているらしいが……。

 にべもなく、店長に断られてしまったらしい。

 その後も交渉を続けてはいるが、「時間より前には貸し切りにしない」 の一点張り。


 本来なら大した器材を持ち寄る必要などないので、(リハーサルや流れの確認はともかく)貸し切り時間から始めても問題ないのだろうが、

 ある程度解説席の設置などを行うが為に、事前の準備を必要とする。

 で、プロの出演時間と貸し切り時間というのが丁度であるため――貸し切り時間以前に準備をせざるを得なくなり……。

 ところが、店長が……という流れ。


 これに対して京太郎は、


京太郎(誰だか知らないけど、手際悪いな……)

京太郎(普通なら余裕を持ってもっと前から貸し切っとくよな)

京太郎(……テレビ局だし、多少の無理は通るとでも思ったのか?)

京太郎(あとは、こんな田舎の店だから空いてるって……)


 内心、鼻白む思いだった。

 が、目の前の頭を下げるディレクターと、所在なさげに視線を右往左往させるアシスタントを見て溜飲を下げる。

 麻雀プロ――まあ、その中でも京太郎は、メディア関係では売れっ子である。

 番組内での扱いはともかく、番組外では中々一目おかれるというか、頭を下げられる存在。

 そんな京太郎を筆頭に、幾人もの麻雀プロを待たせて予定を押すというのは冷や汗ものだろう。

 そうなればディレクターの苛立ちはアシスタントに向く。非常に気の毒だ。


 また、何よりも――。

 そうやって切羽詰まった番組スタッフが、店長にどんな態度であたるか判ったものじゃない。

 それこそはひょっとしたら、誹謗や中傷に近い失言を投げかける可能性もあるのだ。


 やれやれと、京太郎は吐息を漏らした。


京太郎「判りました。じゃあ、俺に任せて下さい」


 携帯電話を取り出して、


京太郎「……もしもし。あ、はい、須賀です」

京太郎「はい、はい」

京太郎「本番入りが遅れそうになるかもしれませんのですが……はい、この番組の後のスケジュールは……」

京太郎「はい、はい。了解です」


 と、そんな内容の会話をいくつか。

 掛ける先はいくつか。だけれども、なるたけ早く終わらせたい。

 必然的に言葉は最小限に。余計な諧謔や歓談を交えない、仕事モードだ。


京太郎「今、出演者の皆さんの予定を確認しましたが、大丈夫です」

京太郎「遅れるなら遅れるで仕方ない、って感じですね」

京太郎「局の方も大丈夫。皆さんの方は……ちょっとぐらい大丈夫ですよね?」


 あまり嫌味っぽくなってはいけないが……。

 言外に、『そもそもそちらの不手際があるよな?』と伝える。

 ディレクターは、助かったような困ったような笑いを浮かべた。


京太郎「それじゃあ……店長の方のところにも、顔を見せて来ます」

京太郎「一応こちらからもお願いしてみますけど……期待はしないで下さいね」


 可能なら時間通りが上々だろうが――遅れて始まるにしても、出演者からはオーケーサインが出ているので、及第点。

 所謂、落としどころという奴である。

 それができたお陰か、なんとなく場の緊張は緩み、雰囲気もどことなく柔らかくなる。

 そんな様子に小さく笑みを零しつつ、京太郎は店へと歩き出した。


 もっとも、その心中には――


京太郎(ま、その落としどころだけで十分だよな?)


 店長に無理なお願いをする気など、更々存在していないが。


スタッフ「だから、お願いしますよ」

灼「しつこ……」

スタッフ「貸し切りにするんだから、ちょっとぐらいいいじゃないですか!」

スタッフ「うちとしても、沢山のプロの人たちの予定がかかってるんです」

スタッフ「だから、許して貰えませんかね?」

灼「貸し切りにするとは言ったけど、前倒しにするなんてのは聞いてな……」

スタッフ「確かにそうですけど……その、悪いとは思います」

スタッフ「思いますけど、もっと融通を利かせて貰えませんか?」

灼「そうは言っても、まだ中に客がいる……」

スタッフ「でも、お一人ですよね?」

スタッフ「その方には申し訳ありませんが……なんとか、空けて貰うことはできませんか?」

スタッフ「地元の方なんだし、別の日でもいいじゃないですか」

スタッフ「こっちには大勢いますし……予定も中々合わない麻雀プロなんで、次は難しいんですよ」

スタッフ「だから……」


 しつこく食い下がる番組スタッフたちに、鷺森灼は瞼を落とした。

 深呼吸。

 息を吐き、静かに吸う。徐に右手の人差し指で天を指差し――言葉を紡ぐ。


灼「お祖母ちゃんが言ってた……」

灼「『娯楽の時間には天使が降りてくる……、そういう神聖な時間だ』って」


 スタッフたちが、目を白黒とさせる。

 だが、灼は構わない。

 構わずに、そのまま言葉を続けていくのだ。淡々としている風な口調で。


灼「テレビ局だか何だか知らないけど……この店に来る以上、客は皆同じく客」

灼「だから、誰か客の我儘で別の客のゲームを台無しにするなんて――」

灼「そんなこと、許せるはずがな……」

灼「……」


 これ以上は言わせるなと、灼はそのような視線を送った。


 これ以上話が進むと、頭に血が上ってしまい、不利益な判断を勢いで下すことになるのだ。

 相手が暴言を吐くのならば、灼としても「それなら……そんなことを言う人間を客としては扱わない」と言わざるを得なくなり、

 そうなったら――この若干迂闊だったテレビ局は、非常に失礼なテレビ局へとを印象を変え、

 その、非常に失礼なテレビ局に呼び集められた麻雀プロたちに迷惑がかかる。

 そこまでするつもりはない――というのが本音であるが、何にせよ意地があるのだ。


 意地、などとは……昔から自分は些か頑固なところがあるが――。

 それでもこればかりは、無駄な意地などではなくて、譲ってはならない場面であった。

 だがしかし……。


スタッフ「なんで、判ってくれないんですかね?」

スタッフ「そっちとしても、利益はあるわけですよね?」

スタッフ「全国放送ですし……」


 灼の思いは受け取って貰えなかったらしい。

 慇懃な態度に段々と無礼が生じてくる。苛立ちが鬱積していくのが、見てとれる。

 どうやらこのままではスタッフは、落ち着くことも忘れた暴言を飛び出させるだろう。


スタッフ「その方が、そっちもいいでしょう?」

スタッフ「どうせ客なんて、ひとりしかいないボウリング場――」


京太郎「――邪魔しますよ」


スタッフ「あ、す、須賀プロ! お疲れさまです!」

スタッフ「その、すみません……ちょっと事情がありまして、まだ……」

京太郎「いいって、いいって」

京太郎「それよりも、ディレクターさんのところに戻って貰えますか? ちょっと話があるって仰ってたんで」

スタッフ「いや、その……」


 京太郎の瞳が、静かな意味を湛えてスタッフを映す。

 普段通り笑っていても、眼だけが真顔な京太郎の様子に漸く察しをつけたのだろうスタッフは、

 それから、(今のやりとりを……どこからだろうか?)とバツが悪そうに視線を泳がせた。

 勢いづいたとは言え――誰かに聞かせてはならない内容を言おうとしてしまったのだから。


スタッフ「あー、判りましたけど……そのー、須賀プロは……?」

京太郎「俺は、お店の方にご挨拶をするんで」

スタッフ「……あ、はい」

スタッフ「……」

スタッフ「その、須賀プロ……すみません」


 頭を下げたスタッフの謝罪を無言で殺し、京太郎は店長へと向き合った。

 それから、恭しく――というほど手慣れて見えないように。

 然りとて、あまりにも勢いが付きすぎない程度に――頭を下げる。


京太郎「どうも。……出演者の、須賀京太郎です」

灼「……どうも。店長の、鷺森灼」

京太郎「……その、鷺森さん」

京太郎「お店の方を使わせていただくというのに……スタッフが、すみません」

灼「……」

灼「こっちも固くなだったけど……流石にあの物言いは厚かまし……」

灼「なんて……ディレクターならともかく、プロに言っても仕方がないか」

京太郎「……ありがとうございます」

灼「まだかかるけど、どうする?」

京太郎「そうですね……じゃあ、待つように伝えます。スタッフに」

灼「……いいの?」

京太郎「いや、いいんですよ」

京太郎「元々、無理な言い分でしたからね。こっちの」

灼「そ」


 やれやれと息を吐いた灼に、申し訳なさそうに笑い掛ける。


京太郎「その、すみませんね。本当に」

京太郎「こっちの――メディア関係の業界って、どうしてもどっかで『自分が主権』みたいな意識があって」

京太郎「たまーに、ああいう風に現れることがあって……」


 完全に悪い奴とか問題がある人間だとか嫌な野郎だとか――そんなことはないし、

 普通にしている分にはそんな面が出ることもないのだが……。

 どうしても激高すると人は、無意識的に感じていて更々表に出すつもりもない/言うつもりもないことを言ってしまうのだ。

 それは、発信者という立場の職業の人間としては、まあ……どうかと思わなくもない。

 それはさておき……。


灼「別に、須賀プロがそんなに謝らなくてもいい」

灼「……あっちの言ってることには、一理あったし」

灼「でも――」


京太郎「――『本当の名店は、看板さえも出していない』」


京太郎「って、ところですかね?」

灼「ん」

灼「ま、現実問題そうも言ってらんないとこもあるけど……」

灼「……いいか、それは」

京太郎「……」

灼「ところで、どうせ待つのなら――下見してく?」

京太郎「ああ、はい。……でも、客が一人いるって」

灼「須賀プロも、知ってる顔だから平気だと思……」

京太郎「ならいいけど……。案内、お願いしても?」

灼「……おまかせあれ」


京太郎「――ただいま、灼さん」

灼「――いらっしゃい、京太郎」


 ◇ ◆ ◇


京太郎「ただいま、灼さん」

灼「おかえり、京太郎」


 買い物袋をぶら下げて自動ドアを潜る。

 本日の食事当番は京太郎。ちなみに掃除当番、猫の餌やり当番も京太郎である。

 流石に不公平であると言ってみれば、「今までサボってたのが悪……」と一蹴。

 悲しきかな。

 居候のプータローの京太郎に、拒否権などはなかった。

 どうでもいいが本日の夕食の為に蜂蜜も購入してきた。特に下半身マッパの知障めいた熊と何の関係もないが。


京太郎「それじゃ、俺は引っ込んでます……、――ってこの手、なんですか」

灼「交代の時間」

京太郎「へっ」

灼「交代」

京太郎「……あの、俺、今買い出し行ってきたばっかなんだけど」

灼「いいから、交代しよ」

京太郎「いや……流石に……」

灼「この間まで、それを私にやらせてたんだけど?」

京太郎「……食材しまってくるから、ちょっと待ってて下さい」


 仕方ないなと漏らしつつ、その足取りは重くはない。

 灼としては、須賀京太郎は気紛れな猫のような男だと思っていたのだが、

 どうやらその実、本質は犬のような男だったらしい。手負いの。

 或いは狼か。

 打ち解けるまではかかったが、一度懐いてしまえば従順であった。


 ……なお。

 一応、いや、本当に一応言っておくが……。

 動物の喩えを出してはみたが、別に男を動物として飼う趣味はないし、別に京太郎に懐かれたいとは思ってない。

 ただ、腕によりをかけて作った料理の感想を言わないのが腹立たしかっただけだ。

 動物みたいに懐けなんて言うつもりもないし、懐かれたいなんて思ってないし、現状別にさほど懐かれてはいない。

 いや、別に懐かれたからどーだという話ではない。


 ……というか長々と何を考えてるんだろう。終われ。


客「いやぁ、彼は甲斐甲斐しいのぅ……」

客「良かったねぇ……。ダメ男じゃなくて」

客「恋人になると、一途な子なんだねぇ」

灼「いや、彼とかじゃなく……」


 染々と語る老人たち。

 彼らの前では、いつだって灼は可愛い子供のままだ。二十歳を過ぎようが、五歳だろうが変わらない。

 ……いや。確かに、昔からあんま変わってないところもあるけど。忌々しいけど。

 脳内の京太郎が「そりゃあ……まあ、子供扱いされますよね」と皮肉を垂れた。

 黙れ、このプータローの京太郎め。

 家だけじゃなくて頭の中にまで居着くなんて、厚かましい奴だ。生意気な。


客「灼ちゃんも見る目があったんだねぇ」

客「アッツアツなのかい?」

客「わしも昔は、あの子みたいな灼ちゃん好みのハイカラなイケメンさんだったんじゃがのぉ……」

灼「煩わし……」


 だから……。

 別にそんなもんじゃないんだってば。


灼「それじゃ京、交代」

京太郎「はいはい。……灼さんは?」

灼「カブトとおさんぽ」

京太郎「猫なんだから、ほっとけば歩きまわるんじゃ……」

灼「……はぁ」

京太郎「……なんでそんな、『判ってないなコイツ』みたいな顔してんだよ」

灼「事実だから。……言わなきゃ判んない?」

京太郎「別にいいっすよ」

京太郎「どーせ、柄でもないのにその仏頂面で猫とお出かけヤッターとか思ってるんだろ――痛ッ」

灼「うるさい」


 腹立たしい奴。

 痛いとか言いながらも、実際はまるで応えてない癖に。

 本当にこいつ、腹立たしい。

 わりと打ち解けてきたし、甲斐甲斐しくもなったが……やっぱり一言多い。

 女の子には意地悪をしなきゃ気がすまないとか言うあれか。あれなのか。


京太郎「……灼さん」

京太郎「その――気を付けて」

灼「……」

灼「いってきま……」


 ……まあ、腹立たしいけど。

 そういう素直じゃない性格ってことで、妥協しておいてやろう。仕方ないな。


 ……。


 ……で、


凛「それじゃあ、東京からですか?」

桜子「ハイカラだぁぁあー!」

ひな「恋人がいるのか是非とも聞きたい所存ー」

綾「いや、ちょっとそれは……どうなの?」

京太郎「いやー、ハハハ」

京太郎「そういう君たちは、高校生?」


 なにしてんだ、てめえ。


未来「えーっと、私とひなは中学三年生です」

ひな「中学生はお嫌いでー?」

京太郎「いやあ、どうかな」

京太郎「二人とも大人っぽいから、中学生には見えなかったんだよな」

京太郎「中三って……あー、受験とか大変だよな? 今日は息抜き?」

京太郎「サービスするから、ゆっくりしてってな」


桜子「私たちは高一で!」

京太郎「うんうん、高一ってことは新生活かー」

京太郎「いいねえ、楽しそうで」

京太郎「……なーんてさ。ちょっとこういうの、おじさんくさいか?」

春菜「そんなこと全然ないですよ! 格好いいから問題なしで!」

京太郎「嬉しいな、いやー。君も帽子が似合ってて可愛いよ」

凛「逆に大人って感じで、憧れちゃうかなーって」

京太郎「ありがとな。じゃ、ドリンクサービスしちまうかなーっと」

桜子「やったぁぁぁぁあー!」


よし子「私たちは高校二年生ですね」

京太郎「そっか。結構、勉強とか大変だろ?」

綾「い、いえ……その、大丈夫です……はい」

京太郎「綾ちゃん――だったよね?――は、頭いいんだな」

綾「……あ、いえ、その、あの、は、はい」

綾「あ、ありがとうございます」


 もう一度言う。

 なにしてんだ、てめえ。


 普段の態度はどこへやら。

 中学生~高校生の少女たちに、快活な笑みを向ける須賀京太郎が、そこにはいた――。

 なんだ、あの顔。

 そんな顔できるのか。どこで売ってたんだ、それ。

 おい。

 そんな顔、カブト撫でてるときぐらいしかしてないだろ、お前。


ひな「店員のお兄さんはボウリングがお得意で?」

京太郎「いやー、あんまり得意じゃないんだよな。残念ながら」

京太郎「逆に君たちに教えて貰おうかな?」

桜子「だったら、綾ちゃんが上手ですよ!」

綾「ちょっと、桜子!?」

京太郎「へー、そうなんだ」

京太郎「勉強もできるし……これは、勉強もボウリングも教えて貰おうかな?」

綾「いや、えっと、あの、私は、その……」

ひな「謙遜は捨てよー」


 若さか。若さなのか。

 それとも胸か。胸なのか。

 若さと幼さはまた、別ベクトルなのです、まる。

 くそっ。キャベツも牛乳も効果がないでやがる。なんて時代だ。


春菜「でも、店員さんは大学生なんじゃ……」

京太郎「いやー、まあ、大学生って言ってもあんまり勉強漬けって訳じゃないからなー」

京太郎「そこらへん、現役の子の方が勉強してるんじゃないか? 多分さ」


 そういえばこいつ、大学生だった。

 でもそこらの話をまるでしなかったから、どこの大学なのかはまるで――


凛「店員さんは、どちらにお通いなんですか?」

よし子「もしよかったら、聞かせて欲しかったりー」

未来「私たちでも知ってるとこですかー?」

京太郎「ハハハ……」

京太郎「一応、その……T大なんだ。うん」

桜子「T大だぁぁぁぁぁぁぁあー!?」


 おい。


ひな「衝撃……」

未来「うわーお、すっごい」

春菜「イケメンで、スポーツ得意そうで、爽やかで、T大生……」

桜子「ハイスペックだぁぁぁぁぁぁあーっ!?」

凛「ふっつーに、凄いですよ!」

よし子「逆に、是非教えて貰いたいぐらいだって」

綾「……こ、個人レッスン」

よし子「ん?」


 おい。

 今まで言わないのはなんか重々しい事情があるのかと思ってたから聞かないでいたのに、なんだその軽さは。

 軽薄か。実は軽薄だったのか。

 金髪ナンパ野郎コノヤロウ。京太郎コノヤロウ。


京太郎「ハハハ、いやー。まあな?」

京太郎「つっても別に、理Ⅲの医学部とか有名どころじゃないんだよなー」

京太郎「だから、そこまで騒がれるほどじゃ……」

春菜「店員さんは何学部なんですか?」

凛「確かに店員さんは医学部って感じはしないけど……眼鏡も似合ってるから、法学部って感じも」

よし子「文学部とか?」

未来「経済学部?」

京太郎「いや、教育学部」

桜子「先生だぁぁぁぁぁぁあーっ!?」

凛「先生志望なんですねー」

未来「体育の先生ですか?」

春菜「小学校ですか? 中学校ですか? 高校ですか?」

ひな「先生志望なら、夏休みの宿題を手伝って欲しい所存ー」

よし子「……いや、でも本当に勉強みてもらいたいよね?」

綾「……T大。T大かぁ」

よし子「ん?」

ギバ子「いつもと違うけど、緊張してたり?」

綾「逆に桜子は騒ぎすぎだよっ」


 ほんとだよ。

 中学阿太峯組はともかく、阿知賀通ってる組は中学から女子校だから、どうにも緊張してるんだろう。

 そこにこの、この野郎だ。

 高身長。高学歴。良スタイル。整った顔。爽やかな笑顔。話しやすい性格。

 そんな、設定だけハイスペックな男(あくまで設定だけだ)が現れたら、混乱する。

 しかも、コイツの言動が半ばナンパじみてるからタチが悪い。

 免疫ない少女には、荷が重すぎる。


京太郎「いやー、ハハハ」

京太郎「そうだなぁ」

京太郎「皆が毎日顔を出してくれるなら、付きっきりでどんなことでも教えちゃうぜ?」


 ――。


京太郎「……いや、どんなことって言っても専門外とか物理Ⅱはキツいけどさ」


 もう我慢ならん。


 ――《CLOCK UP》!


 そんな効果音が付きそうなほど一直線に、須賀京太郎の元を目指す。

 そのまま、シャツの裾を引っ付かんで引っ張る。

 ……ダメだこれ、頼りない。

 やっぱベルトにしよう。うん。


京太郎「あ、灼さん!?」

京太郎「いきなり何を――って、ちょ、ちょ、ちょっと引っ張らないでくださいよ!」

灼「店長命令。いいから来て……」

桜子「あらちゃーだぁぁぁぁあ!」

ひな「だー」

綾「……どんなことでもって――、あ、ど、どうもっ」

凛「鷺森先輩!?」


 にわかに色めき立った。

 にわかと言えば小走やえ、今ごろどうしてるんだろう。

 まあ、あの挙動不審でやたら声が大きくなる奈良県個人戦第1位のことはいい。

 それよりは、この態度が大きくなってる男だ。

 ついでに身体も無駄にでかい。実に腹立たしい。首が疲れるったらありゃしない。


灼「ごめん、皆。ちょっと待ってて欲し……」

よし子「はい、判りましたー」

春菜「りょーかいですー」


 そのまま、一目散に京太郎を引っ張っていく。

 されるがままだが、やっぱり重い。なんなんだコイツ本当に腹立つ。

 ヘラヘラ未成年者たちに手を振っているとことか、なおさら。



春菜「いやー、格好いい人だったね」

凛「ちょっと軽かったけど、明るいし……。鷺森先輩の恋人?」

綾「……T大行けば、個人レッスン。どんなことでも、おにーさんと」

よし子「ん?」

ひな「教育学部なら憧ちゃんと同級生ー」

桜子「あこちゃーの知り合い?」


 ……。

 ……さて。


灼「どういうつもり?」

京太郎「えっ、な、何がですか?」

灼「それは……」


 シラを切るつもりなのか。そうなのか。

 金髪ナンパ野郎コノヤロウ。


灼「く……ぃてた、の」

京太郎「えっ?」

京太郎「なんて言ったんだ? まるで、聞こえないんだけど……」


 わざとやってんのか。わざとやってんのか。

 コノヤロウ。京太郎コノヤロウ。

 それとも名字は須賀じゃなくて前田なのか。

 京太郎じゃなくて慶次郎なのか。

 郎しか合ってないぞコノヤロウ。


灼「く、口説いてた……の」

灼「いま、ナンパしてた風に見えた……中学生高校生を」

京太郎「オレェ?」


 お前以外に誰がいるんだ。

 居るなら言ってみるといい。そいつの分まで食費を集めてやるから。


京太郎「あー、いやー、確かにナンパ的な気軽い感じで話してたけど」

京太郎「一応言っとくと、ナンパじゃないっすからね」

灼「……やる奴は皆そう言う」

京太郎「いやー、あの……」

灼「何? 言い訳?」

京太郎「その、なんていうか……」


 はよ言え。


京太郎「結構人数いるし、地元だって言うから……」

京太郎「多少俺目当てでも、リピーターになってくれたらなって思ってさ」

灼「……」

灼「確かに、ナンパじゃな……」

京太郎「だよな? 俺も、店のこと考えて――」

灼「ナンパじゃなくて、ホストだった」

京太郎「……あ」

灼「はぁ……しょーもな」


 やっちゃったと、目を覆う須賀京太郎。

 ナンパ気味ということは判っていても、ホスト風だというのは盲点だったのか。

 ……恐らくは、何とか店の役に立とうと、自分を客寄せパンダとして使おうと思い至ったのか。

 ……。

 ……努力は認める。その努力は。

 ちなみにパンダよりアライグマの方が好みだ。


京太郎「そう言われると、やりすぎだったな。今のは」

灼「もう遅……」

灼「あとのフォローはやっとくから、下がって、洗い物でもやっといて」

京太郎「了解っす……すみません」


 失敗したな、と頭を掻く須賀京太郎に落ち込みは見られないが……。

 まあ、ちょっとは凹んでるだろう。

 反省をしないような男では、ないのだから。


灼「……」

灼「京」

京太郎「……なんですか?」

灼「ボウリング」

京太郎「は?」

灼「ボウリング、私が教えて上げようと思……」

灼「店を閉めてからになるけど」

京太郎「いや……どうして、また?」

灼「店の役に立とうとした、その気持ちの分へのお礼」

灼「いらないなら、受け取らないでも別に良……」


 振り返った京太郎は、逡巡の後に返答する。


京太郎「……どーも」

灼「京、答えは……ちゃんとすること」

京太郎「……、……はい」


京太郎「――お願いします、灼さん」

灼「……おまかせあれ」

灼「はぁ……」


 しょーもな。いや、本当にしょーもな。

 店のために何かしようという心意気はよしとしても、それがホスト紛いのアレソレとはいただけない。

 いや、その心意気はいいけどね。

 いいけどさ。うん。


 でも結果が、中学生高校生を口説くってのはどーなんでしょうかね。

 いや、別に誰が誰を口説こうとどうだっていいけど。いいんだけど。

 ……いや、よくない。

 青少年保護うんたらかんたらでヤバいんじゃないだろうか。よくは知らんけど、ヤバい気がする。


 球遊びに来たら竿遊び始まっちゃいました、とか。

 倒されるのはピン(意味深)じゃなくてガター(意味深)の方でした、とか。

 綾のガターに俺のピンがグリークチャーチでワッシャーワッシャーしてます、とか。

 不味いだろ、それは。


灼「……ぷっ」

灼「面白……」


 いや、現実的に不味くてもギャグとしては実にありだけどね。

 静かな自信作。

 お笑い芸人目指そうかな。


綾「あ、お、お久しぶりですっ」

灼「な、なに……?」


 近い。近いよこの娘。

 しかもこっちより身長とかなんか色々大きいから怖いというかなんか複雑。

 凄い年下だと思ってた娘が自分より大きくなると――というかキチンと顔合わせした高校生の時点で大きかったが――やはり、思うところがある。


桜子「店員さんはどこに行ったんですかぁぁあー!」

凛「あの人は鷺森先輩の恋人ですかー?」

春菜「あの人、週何で入ってますかー?」

未来「実際、あの店員さんのボウリングの腕はどうなんですかー?」

よし子「あの店員さんの言ってたサービスは本当ですかー?」

綾「おにーさんのメ、メ、メー、メール………………。……。……おにーさんの名前、教えて下さい」

ひな「店員のおにーさんと写メを取らして頂きたい所存ー」

灼「ちょ、質問多っ……」


 というか全員、こっちよりもう大きかった。

 こうも囲まれると、なんかカツアゲされてる気分だ。くそう。

 成長ホルモンとか巻き上げられてたりして。返して。


灼「あー」


 まあ、物珍しいかもしれない。田舎だし。

 爽やかな笑顔を浮かべる目鼻立ちの整った、快活で親しみやすくて穏やかな、スポーツもできていざというとき頼りになる日本一の大学に通う青年。

 ……。

 ……田舎とか関係なく、全国的にも珍しいんじゃないだろうか。設定だけなら。


灼「まず、あれには洗い物をするために引っ込んで貰った」

凛「洗い物って……かなり気軽な関係っぽいかー」

綾「お、おにーさんの洗濯物……!?」

春菜「裏まで入っていいって、じゃあやっぱり二人は付き合って……」


灼「ふたつめ」

灼「アレと恋人の訳が、な……」

よし子「結構仲よさそうだったんだけど……そう言う職場なのかぁ」

桜子「アットホームな職場なんだ!」

未来「今、二人しかいないからかねー」

綾「……うん、そ、そうなんだ」


灼「次」

灼「週何回って……週7?」

ひな「店員さんは、馬車馬ー」

桜子「ブラックだぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

未来「しゅ、週……」

よし子「な、7……」

綾「つまり、毎日、おにーさんに……」

凛「……大丈夫なんですか? それ、交通費とか……」


灼「いや……」

灼「だってあいつ、住み込みして……」

桜子「同棲だぁぁぁぁぁぁぁぁあー!?」

綾「えええええええええええええええええ!?」

桜子「うわぁぁぁあぁぁぁあ、びっくりしたあぁぁぁぁぁあああぁー!?」

ひな「いやそれこっち」

灼「ボウリングの腕は……さあ?」

よし子「あ……判らないんだ」

凛「できそうな感じなんだけど……」

灼「自己申告によれば、多分そんなに上手くない筈」

未来「店員さんなのに……」

春菜「それで大丈夫なの、このボウリング場」

綾「おにーさんにボウリング……個人レッスン……それから……手とか……ムードが……」

灼「まあ、私が教えるから大丈夫だと思……」

綾「へゃあ!?」

灼「!?」

灼「な、何……? そんな、ウルトラマンみたいな声だして……」

綾「ウルトラマン!?」

灼「へっ」

灼「う、ウルトラマンが……どうかした……?」

綾「あ、なんだ……。ウルトラマンかぁ……」

灼「?」

綾「いえ、あの、はい、その、なんでもないです……はい」

灼「そ」

灼(今どきの若い子のテンションって、難し……)


灼「で、サービス」

灼「うちではそんなサービスは承ってないから……」

未来「そっかー」

桜子「やっぱりー?」

春菜「まあ、冗談だってのは……」

凛「はは、ちょっと残念かも」

ひな「諸行無常ー」

綾「あー……うん、そ、そうだよね。そうですよね。うん」

灼「……ま」

灼「個人的に頼んだらやってくれるかも知らないけど」

綾「へゃあぁぁぁぁあ!?」

灼「!?」 ビックゥゥゥウ

灼(お、おそろし……)

灼「名前は……須賀京太郎」

桜子「清々しい名前だー」

よし子「それ洒落……」

ひな「ちなみに須賀の由来は清々しいだったりー」

春菜「へー」

未来「太郎って……長男かー」

凛「人柄と一緒でさっぱりしてそうな感じですね」

灼(本人はさっぱりとは程遠いと思……さつまいも食べたい)

綾「須賀綾……いや、志崎京太郎…………さすがにそこまでは早いけど……」

綾「京太郎さんかぁ……」

よし子「?」

灼「ちなみにメールアドレスは……」

綾「教えて貰えるんですか!?」

灼「!?」 ビックゥゥゥウ


灼「い、いや……その、私も知らな……」

灼「というか京太郎、携帯自体持ってないから……」

綾「そ、ですか……」

凛「珍しいですね、今どき持ってないって」

灼「……喧嘩で壊れたって言ってたけど」

ひな「暴力反対ー」

桜子「物損だぁぁぁぁぁぁあ!?」

よし子「難しい言葉で叫んだ!?」

綾「……喧嘩」

凛「ああ、意外に怖い人みたいだね――」

綾「おにーさん、実はワイルドなんだ……」

凛「……」

凛「……駄目だ、こりゃ」


灼「で、写真だったけど……」

灼「流石に、冗談でしょ? 撮ってどうするわけでもないし……」

よし子「いやー、流石に」

春菜「彼氏さんって見せびらかしてもしょうがないし……」

桜子「携帯置いてきてたよ!」

未来「見せても、紹介してくれって言われそうだから……」

ひな「握手で充電を希望ー」

凛「……私も別に」 チラッ

綾「……でも。……いや。……うん」

綾「……迷惑かも。……欲しいような。……恥ずかしい」 モジモジ

凛「……はぁ」

凛「すみません、鷺森先輩……」

灼「……何?」

凛「やっぱり、一緒に写真撮りたいんで……お願いしても……?」

灼「……」

灼「そ」


灼「じゃあ、呼んでくるから」

灼「そこから先は京太郎次第だけど、それでも……?」

凛「……あ、はい」

凛「私から店員さん……京太郎さんに頼んでみますんで」

灼「……」

灼「そ。判った」

綾「……え、凛も?」

凛「いや、そんなわけないからね」

綾「え?」

凛「……いや」


灼「……あれのどこがいいんだろ」

灼「……」

灼「……」

灼「……」

灼「……はぁ」

灼「年の差を感じる……」


 自分と彼女たちの、と言う意味である。

 決して自分と須賀京太郎が、という意味ではない。決して。

 やっぱり、六歳差や八歳差というのは凄まじい。テンションがよく判らん。

 ……と思ったけど、同年代ともテンション違うんだった。


 まあ、そう思うと二歳差なんて六歳差に比べれば何でもないだろう。

 いや別にどうでもいいけど。関係ないけど。

 ……。

 何言ってんだろ。あほらし……。


灼「……そういえば、カブトが居な」


 同年代と言えば、最近松実玄を見ない。

 ……まあ、あっちもあっちで家業の引き継ぎが大変なようだから仕方ないか。

 そのせいで、学生時代に構築した人間関係の輪にもあまり加われてないらしい。

 姉である松実宥もプロに行ってしまったし、寂しい思いをしているのだろうと思わなくもない。

 ちょっとそのうちそれとなく顔を出してみようかなとも思うが、今は京太郎がいるので却下。

 多分、玄は京太郎の好みにどストライクだろう。というか、玄を一目見て気にならない男はいないはず。

 実際、玄目当ての客もいるらしいし。


 ……で。

 多分、玄も京太郎を気に入るだろう。

 あれも中高女子高の箱入り娘だし、京太郎は無駄にスペックが高いし。

 そうなったら、何となく面倒だ。面倒である。

 最近ようやく鬱陶しくなくなった男が、夕食やなんかで食卓を囲んでいる間中、

 こっちの知人に対するノロケや「どうしたら仲良くなれるのか」なんて甘酸っぱい思いをぐじぐじ語ってくれたら、塩と砂糖を間違えてないのに不味い。

 朝帰りなんてしでかされたら、不味いも不味い。実に気まずい。

 というか、イラっとする。

 人んちに居候してる分際で、人が払ったバイト代で女をコマすとか鬱陶しい以外の何者でもない。

 連れ込んだら、それこそ、16ポンドを投げ付ける。


京太郎「はぁ……」


 ……あ、カブトいた。

 おまけもいた。


京太郎「やっぱまだ、駄目だな……」


 麻雀牌を掴む京太郎の指は、震える。

 初めは小刻みに。それから、電撃を受けたように痙攣をし始めて。

 零れた牌が山を崩した。

 土砂崩れが起きたかのように氾濫する河。積み直そうとするも、怯える指先がそれも困難にする。

 見かねたように、カブトが京太郎の腕で爪を磨ぎだした。

 煩いと窘めているようでもあり、それよりも自分に構えと我儘を言っている風でもあり、京太郎を慮っている感じでもあった。


京太郎「はは……アルコール切れだな」

京太郎「なんちゃって」


 京太郎のそれは自嘲というほど深刻なものではなく、ある程度の余裕を持ったものだ。

 そうして張りつめて――ここにきた当初のように――いないだけ、大分改善されてはいるだろう。

 どこかで自分の現状に、折り合いを付けている風でもあった。


灼「京太郎」

京太郎「ん、どうしました――って、うわっ」

灼「ほら、行くよ」

京太郎「いや、どこに……?」

灼「さっきの子たちが、写真撮りたいって……」

京太郎「……。あとは何とかしてくれるって、そういう話じゃなかったっけ……?」

灼「自分で蒔いた種だと思……」

京太郎「……りょーかいっす」

京太郎「手、放して下さい。自分で立てますんで」

灼「……いいから」

京太郎「いや……」

灼「ほら、早く」

京太郎「……どーも」

灼「どういたしまして」


 ……で。


綾「おにーさん、ごめんなさい……」

綾「その、男の人とこういうことするの……初めてで……」

京太郎「そうなんだ。今どき珍しいな」

綾「えっと、私……変、ですか?」

京太郎「いや、別に変だとは思わないけどな。可愛いと思う」

綾「かわい……へへ」

京太郎「それより、初めてが俺でよかったのか?」

綾「おにーさんで、じゃなくて……初めてはおにーさんがいいです」

京太郎「そうか?」

京太郎「俺もあんまり経験多い方じゃないけど……まあ、悪いようにはしないから安心して任せてくれよ」

綾「……はいっ。私の全部、おにーさんに任せます」


 ……おまえらさ。


綾「あの、おにーさん?」

京太郎「なんだ?」

綾「おにーさん……おっきくて、入りきらないから……」

京太郎「あ、わ、悪い。ごめんな」

綾「いえ……」

綾「その、おにーさんさえ良かったら……私に、構わないで好きにして、下さい」

京太郎「そうか? いや、でもな……」

綾「あの、その……」

綾「おにーさんさえよかったら……私を、抱いて下さい」

綾「もっと、ぎゅって……」

京太郎「……判った。ちょっと痛くなるかもしれないけど、いいか?」

綾「大、丈夫……です」


 ……画面に収まりきらないから肩を抱いて写真を撮るのになんて空気だしてんの。


綾「あ、おにーさんが……(画面に)いっぱい、入ってる」

京太郎「……悪い。でも、どうしてもさ」

綾「いいんです……おにーさんの(笑顔)、いっぱい欲しかったから」

京太郎「俺のせいで……(影が)できちゃうけど、いいか?」

綾「おにーさんの(影)なら、できちゃっても……私は」

京太郎「これ、生(写真)だな」

綾「生(写真)……です」


 わざとやってんのか、おまえら。


 生のくだりが本当に必要だったのか問い詰めたい。

 鍋焼きうどんを前に置いて、あんまんを片手に、口の中に小籠包を突っ込んで問い詰めたい。

 身体をレーンに横たえて、頭スレスレのカーブを放ちながら、観念して自白するまで問い詰めたい。

 ……あ。

 口の中に物を入れたら喋れないか。よく考えたら。


綾「あ……」

京太郎「ほら、こういうときどうするんだ?」

綾「ピース、です」

京太郎「なら、判るよな?」

綾「はい……」

京太郎「俺が(画面に)入れてるから、ちゃんと両手でピースするんだぜ」

綾「あ、こ、こんな格好……恥ずかしいです」


 キメ顔ダブルピースってか?

 やかましいわ。


京太郎「大丈夫だ。かわいいから、恥ずかしいなんてことはないぜ」

綾「でも……」

京太郎「いいんだよ。せっかくなんだから、初めてのまま色々試してみれば」

綾「や、やっぱりこれ……こんな格好、恥ずかしいっ」

京太郎「いいから。綾ちゃんの恥ずかしいとこ、もっと見せてくれ」

綾「お、おにーさんに……私の、恥ずかしいところ……全部」


 そりゃ、成人式で壇上に上ってバカ騒ぎしちゃう系の人間っぽくて恥ずかしいでしょうな、写真でダブルピース。

 まあ、今のおまえらの会話が何よりも恥ずかしいんだけどね。いやほんと。


 ……会話を録音したろか。憧に聞かせたろか。

 大学一緒で学部だし、多分憧とも顔見知りだろう。多分。

 大学で、四つも下の高校生とツーショットやる男って紹介させたろか。

 このバカ男が。


京太郎「綺麗な色だな」

綾「えっ!?」

京太郎「(頬っぺた)ぷっくりしてて、綺麗な色だよ」

綾「そ、そんな……」

綾「でも、こんな(赤面)の見せたの、おにーさんだけです……」


桜子「ストライクだぁぁぁぁぁぁぁああああああああー!」

未来「おおー」

よし子「負けられないなぁ」

ひな「確実にスペアを拾っていきたい所存ー」

春菜「時間かかるねー」

凛「……あ、うん、そだね。うん」


 そして、あまりに時間がかかりすぎる(かれこれ何分経つだろうか)ので、残りの皆は早々にボウリングに。

 わりとドライなのか、阿知賀こども麻雀クラブは。

 約一名だけが、少々落ち着かないといった様子で二人に視線を送り、その会話に頬を染めている。


 まさか、お前もか……。

 と、言いたいところだが――あの内容を考えるに、若干意識して照れてしまうのも至極当然だろう。

 なんの照れもないあの二人が――いや、片方は照れてるが――変なのだ。


灼「……はあ」


 楽しそうに笑いあう須賀京太郎の横顔を眺める。

 あれは――自然な笑みだ。その筈だ。

 なら、やはり、丁度いいリハビリやリラックスの効果になっているのであろう。

 そう考えれば、まあ、良いか。


灼「ばかばかし……」


 ◇ ◆ ◇


京太郎「……灼さん」

灼「呼び方、安定しないね」

京太郎「は?」

灼「口調もそうだった。敬語だったり、タメ口だったり」

京太郎「……ああ」

京太郎「恩人――って言うには親しかったし、気安くするには、あなたには恩がありすぎた」

灼「……恩、か」

京太郎「……何か?」

灼「……いや。恩って言葉は、京太郎が思っている以上に残酷だってこと」

京太郎「それは、どういう……?」

灼「……ふふ」

灼「人間は欲張り――ってこと」


 静かな微笑/靡笑。

 自分の胸ほどもないその矮躯が、必要以上に女性を感じさせ、京太郎は頭を振った。

 思えば彼女はそうだった。京太郎より、大人であったのだ。

 単純な年の差以上に、彼女と自分の間には隔たりがあるように思えた。

 そう、今も昔も。


灼「そんなことは、な……」


 思考が読まれていた――。

 京太郎は、頭を強く灼に向けた。そこにあるのは以前と変わらぬ、内心を窺わせない瞳。

 鷺森灼は、ミステリアスな女性だ。

 その外見からは想像も付かぬようでもあるし、逆に、実に的確であるとも思える。

 それも含めて、彼女は深遠なのだ。


灼「一時とは言っても、恋人だったから……当然」

京太郎「逆に……俺には灼のことは、よく――判らなかったけどな」

灼「……」

灼「『男を惹き付ける女は、底が見えてはならない』って」

京太郎「……お祖母さんの言葉ですか?」

灼「私の哲学」


 叶わないな、と手を上げる。

 思えば自分が彼女になにかを曝け出すことはあっても、彼女からなにかを打ち明けられたことはなかった。

 ある意味で、一方的に求めるだけの関係だったと言っても過言ではないだろう。


灼「……ま、そこらへんは京太郎の魅力だと思」

京太郎「どういうことっすか……?」

灼「自分に自信がある――相手を信頼してるから、そういう面を見せられるってこと」

灼「普通は、怖くてできない」

京太郎「……それじゃあ俺、なんか、ただの馬鹿みたいじゃないですか」

灼「そう言ってるんだけど?」


 言われて――考えてみる。

 こういう、突っ慳貪な言い方は相変わらずだ。相変わらずだった。

 恋人になる前もあとも、その点に置いては変わっていない。

 だから――何となく彼女に対して、ある種の引け目のようなものを感じてしまっていたのだ。


 結局、向こうは大人で、こっちは子供として扱われているようである。

 彼女から別れを口にされたときに逆らえなかったのも、それに由来しているのかもしれない。

 親しくとも、隔たりがあるのだ。

 彼女の言葉が正当で、紛うことなき正論の正答であると――思わされてしまう。


京太郎「……いや、違いますよ。それは」

京太郎「さすがに誰それ構わず、傷を見せびらかすほど俺は子供じゃない」

京太郎「格好付けなんだよ、俺は」


 ただ、だから今は――今となっては、その言葉を否定できた。

 何となく否定するとか、ただ反発するのではなくて。

 明確に、彼女の瞳を見返して首を振れた。


 すると……。


灼「そ」

灼「京も、大人になれたんだ」

京太郎「……」

京太郎「……今の、初めから俺に否定させるのが目的だったか?」

灼「さあ」

灼「京太郎がそう思うんなら、京太郎の中ではそうなんじゃ?」

京太郎「んじゃ、勝手に思いますよ」

灼「そ」


 ふいと、顔を背けてしまう鷺森灼。

 こういうところが――敵わないと思ってしまうのだ。彼女に。

 格好付けになったのは大人になったからではない。多分、ずっと前からそうだった。

 ただ、そうと言い出せはしなかっただけだ。この、鷺森灼の前で。

 何かを言われれば、すんなりと認めてしまっていた。彼女が言うなら、きっとそうだろう――と。

 そこらへんを指して、彼女は京太郎を子供扱いしたのだろう。

 そして、そうではなくなった――反論程度ができるようになったから、彼女は京太郎を「大人になった」と表現した。


灼「ま」

灼「別れたときより――いい男にはなった?」

京太郎「元々、いい男だって。俺はさ」

灼「……」

灼「……はぁ」

京太郎「なんだよ、その『残念な奴』って顔は」

灼「……ふぅ」

京太郎「だから、どうして『判ってるなら言わせるな』みたいな顔してんだよ」

灼「顔で私の考えてることを読むとか……ストーカー……?」

灼「やだ、助けてハルちゃん……」

京太郎「とって付けたみたいなキャラ付けはやめてくださいよ」

京太郎「というかさ、それ、盛大なブーメランだからな?」

京太郎「さっき、顔色だけでこっちの考え読んだじゃねーか。そっちが」

灼「……」

灼「わずらわし……」

京太郎「いや、『わずらわし……』じゃなくて」

灼「……はぁ」

灼「お祖母ちゃんが言ってた……『正義とは私自身。私が正義だ』って」

京太郎「それ、本当に灼のお祖母さんが言ったのか?」

灼「だから、言った」

京太郎「どんな状況で? どんな顔してだよ?」

灼「……」

灼「……うるさ」

京太郎「うるさ、じゃないだろ!」


 しっしっ、と手で払われる。

 子供扱いされなくなったと思ったら、コバエ扱いとは一体どんな了見だろうか。

 びっくりすぎる進化である。むしろ退化か。


灼「……京太郎が学生→プロで、人間止めたのに比べたら」

京太郎「流石に、人が昆虫になるレベルの変化はしてねーからな!」

京太郎「それに、やっぱりそっちこそ思考読んでるだろ!」

灼「やかまし……」

京太郎「『やかまし』じゃないって」

灼「ぜかまし……」

京太郎「駆逐艦はもっと関係ないっすからね、この場合」


 久しぶりにやってきたら――一体、何が嬉しくて元カノと漫才をしなくてはならないのか。

 さっきまでのシリアスな空気はどけに行った。返せ。

 ……まあ、多分それを狙ってやってるんだろうけど。


灼「……ま」

灼「たまたまだから」

灼「そう――」

京太郎「次にあなたは――」


京太郎「『ボウリングだけに』――と言う」

灼「――ボウリンビッチ・ダッケルン・ニソップ。……ハッ」

京太郎「誰だ、それ!?」


 もうやだこの人。

 結婚したら絶対尻に敷かれる。あの薄い尻に。


灼「ふんっ」

京太郎「痛っ!?」

灼「しょーもないこと考える、京太郎が悪……」

京太郎「だって事実……」

灼「ふんッッッ」

京太郎「ちょ、ま、マジに痛い!」


 こうして攻撃されるというのも――なんだか懐かしい。

 自分と居るときの灼は、やたらと手が早かった。(当時、そんな扱いをこちらも受けたがっていたというのもあるが)

 赤土晴絵に聞くところによると、本来は全然そうではないらしい。

 そういう意味で、女性から特別扱いを受けるというのは嬉しいものがある。

 暴力でなければ、なおいい。


 ……いや、ないからね。

 虐められて喜ぶとか、そういう変態的な趣味は。

 流石にそこまで、悪い意味でブッちぎってはいない。


京太郎「ハハ」

灼「どしたの?」

京太郎「いや……懐かしくてさ」


 ちなみに。

 例のドッキリについての誤解は解けた。

 というか、解けてなければここにくる途中のバイク旅で赤土晴絵に出会って、ああも平然とはしてられない。

 流石に、レジェンドのレジェンドにレジェンド決めるとか洒落にならない。

 ドッキリだからスタッフに把握されてるし、真面目にレジェンドになる。

 ……レジェンドレジェンドやかましいわ。


灼「ハルちゃんはやかましくない」

京太郎「また読心術……いや、たしかに師匠のことをそんな風には――」

灼「あれは、わずらわし……」

京太郎「ちょっとぉぉぉお!?」

灼「ちなみに、京太郎はやかまし……」

京太郎「そっすか、はい」

灼「別に――」


灼「無理に、明るく振る舞おうとしないでいいから」


京太郎「……なんのことですか?」

灼「自分もちゃんと明るくなったってことを、私に見せたいんじゃ……?」

京太郎「さあ?」

京太郎「そう思うんなら、そうなんじゃないのか? 灼さんの中ではさ」

灼「そ」

灼「じゃあ、勝手にそう思……」

京太郎「……どーぞ」

灼「ん」


 小さな肩が、とことこと揺れる。

 今ごろスタッフはどうしているかな――なんて考えるが、まあ、素直に引き返しているだろう。

 あれだけ御膳立てしたら、そう思う筈だ。

 それほどまでに、評価というのは固めているつもりだ。

 今ごろ、スタッフの失礼な態度に腹を立てた店長を宥めている――とでも考えられているところか。


京太郎「そういえば、お客さんって?」

灼「玄」

京太郎「へえ……玄さんか……」

灼「……」

京太郎「何だよ、どうかしました?」

灼「別に……なんでもな」


 元カノの前でデレデレする訳にはいかないが、やはり、嬉しいものがある。

 可愛いし。おもちだし。家庭的だし。おもちだし。優しいし。おもちだし。

 こうして一緒に遊ぶ機会があるとか、喜ばしいだろう。

 ……いや、流石に元カノの前だという緊張があるから、嬉しいと言うよりは――やや胃が痛い。


 というか……。


京太郎「俺、昨日から松実館に泊まってるんだよ」

灼「……そ」

京太郎「でも昨日、タイミングが悪かったのか顔を合わせてないんだよ」

灼「ふーん」

京太郎「で、今朝もそう。なんか、タイミングが悪かった」

京太郎「それは――まあ、いいんだけどさ」

京太郎「若女将みたいな立場だと、忙しいんだなって思うから……仕方ないよな、会えなくてもさ」

灼「……で?」

京太郎「でも、ボウリング……」

京太郎「しかも、一人って…………」

灼「……」

京太郎「こんな時間に、一人で、ボウリングって……」

灼「……」

京太郎「ちょっと、灼さん。こっち向いて下さい」

灼「……」

京太郎「なあ……」

灼「知らな……」


 いや。

 まさか、あんなに明るい人が。

 あんなに優しい人が。

 あんなにおもち狂いで正直こっちがついていけない人が。


 まさか……一人で、ボウリング?

 正直イメージに合わないけど、ある意味やりそうでもある。

 なんかマイボウルとか持って、しかも磨きながら語りかけてそうだ(偏見)。


灼「玄も実家を継いでる側だから、こうしてときどき遊びに来る」

京太郎「ああ、息抜きってことですか」

京太郎「あとはお互い、愚痴を言ったり励ましあったり?」

灼「そ」

灼「玄は玄で、仕事に悩んでたり……するから」

京太郎「……」


 つまりは……。


京太郎「灼さんもか?」

灼「?」

京太郎「灼さんも、悩んでたりするのか? 仕事で……」

灼「……ああ」

灼「悩んでる。確かに、悩んでる」

京太郎「……」

京太郎「何についてなんだ?」

灼「男も作らずに一人でボウリングに来る若女将について」

京太郎「愚痴の原因と愚痴ってる!?」

灼「若女将が女性客にただならぬ目線を送るのがボウリング場で噂になってることも」

京太郎「灼さんの仕事上の悩みの種あの人しかいないのかよ!?」


灼「……まあ」

灼「三分の一は冗談……」

京太郎「半分ですらねー!?」


 一体なにやってンだよ。松実玄選手は。

 というか正直、冗談だと思う。冗談だと思いたい。

 番組の度に「見たよー」メールが届いて、癒されるし励まされるのだ。

 全ての番組の度に感想&お疲れさまが送られるという多さ、一々今日のおもちが送られてくるのはちょっと困り者だが、

 ファンからの熱い声援というのは嬉しいのだ。それ以上に。


灼「あっちにいると思……」

京太郎「へー」


 玄さーんと、呼びかけようとして――


玄「ごめんね……傷が付いちゃったね……」


 なにこれは。

 ボールに語りかけてるよ。こわい。


 バイクに語りかける奴が、とは言ってはならない。

 何故なら、バイクは生き物だからだ。


 まず、動力がある。バイクは自分で動くのである。

 次に、バイクには機嫌がある。機嫌が悪いと、中々上手く回ってくれない。

 バイクは、食事をする。食事というのはガソリンだ。

 腹が減って――つまり、タンクの中身が少なくなれば調子が乗らなくなるし、逆に満タンまでにすると動きに精彩を欠く。

 回転数により唸り上がる声。ギア比の転換で切れ目や変化が生まれるそれは、さながら息継ぎだ。

 燃焼の為に空気を取り込むのだから呼吸をしているし、温度だってある。温かいのだ。

 だから、バイクはボウリングの玉とは違う。断じて違う。


 ……まあ。

 話しかけるのは、止めようか。うん。


灼「……バイクに話しかけるのに、言う?」


 言ってはならないっつったのに。


灼「知らな……」

京太郎「……そっすか」

京太郎「つーか、なんでそれを?」

灼「鹿児島行きの番組見てたから」

京太郎「あー、なんか、小っ恥ずかしいな……見られてたなんて」


 知り合いに自分が出てる番組を観られるとか、軽く拷問じみている。

 最近ちょっと色々無駄に力を入れたり、あんまり考えずに脊髄反射的にやっていたりしたのも、改めねばならぬかもしれない。

 咲には「京ちゃん最近ぽんこつになった?」と言われる始末である。


玄「よいしょっと……」


 いや、若い娘さんがその掛け声は流石になしじゃあ――


 ――ぶるん。


京太郎「……アリだな」

灼「……ふーん」 ジトー

京太郎「なにか?」

灼「別に、なんでもな……」

京太郎「……」

灼「……」

京太郎「……ごめんなさい」

灼「……別に」  プイッ


 女性の乳揺れに目がいくのは仕方がない。

 あれからは、フェロモンが出ているのだ。視線誘導フェロモンとかそんなのが。

 乳、生足(ふともも)、美人――これらはフェロモンを分泌してるのである。誘蛾燈の如く。

 それに惹かれてしまうのは生物として至って自然だ。

 人間の行動原理だ。大自然の摂理だ。天の自明、地の道理だ。無理が通れば道理が引っ込む……のはきっと関係ない。

 つまり、仕方ないのだ。


京太郎(……まあ、元カレとは言っても、いい気はしないよな)


 が、振ったとは言え付き合っていた男が、

 自分と全くスタイルが違う(より女性的なスタイルの)女に目をやっていたら思うところがあるのが本音だと思う。

 こちらで例えると――どうなのだろう。


 自分より格好いい男だろうか。身長が高い男だろうか。逞しい男だろうか。頭がいい男だろうか。

 どれもそれっぽいし、そうではないと言える。

 そんなこと言ったら、女の子がラオウに騒ぐ度に世の男は歯軋りせねばなるまい。

 ……いや、ラオウに熱狂する女は姉帯豊音以外にはいないと思うが。

 ちなみに理由は「私よりおっきくて、頼りがいがありそうだよー」とのことであった。巨人族か。イェイガーされるのか。

 どうやら、自分が相手を見上げることや、背伸びをしてキスに憧れがあるらしい。付き合う男は大変だろう(骨延長的な意味で)。


 なお、どうでもいいが……。

 宮永照はトキとジュウザが好き。宮永咲はアインとジュウザ。

 高鴨穏乃はフドウとジュウザで、大星淡はサウザーとジュウザ。新子憧はシンとジュウザだった。

 あ、弘世菫はジャギだった。なんでもゲームでは持ちキャラらしい。

 意外にもジュウザが多い。ジュウザ率半端ない。

 まあ格好いいから仕方ないだろう。雲のジュウザは格好いい。


京太郎(うんうん、判るな。ジュウザ格好いいもんな)

京太郎(それに引き換え、リハク。てめーはダメだ)


 あいつが期待度高いとか意味が判らん。

 あいつ、ラオウのアシストしかしてないではないか。

 軍師(笑)ではないか。

 フシアナアイはリハクの目ではないか。デビルアイは透視力ではないか……というのは関係ないか。

 デビルカッターは岩砕くのはもっと関係ない。語感はいいけど。

 それとも主人公はラオウなのか。そのあたり問い詰めたい。


 閑話休題。

 まあ、男で言うところの――ナニの大きさ、というのは街中では見えないから除外。

 隣を行く彼女が振り向いて男の股関を凝視する光景とか、目も当てられない。全員デビルアイ持ちか。デビルマンレディーか。

 どうでもいいけど、キャットウーマンとかいいよな。うん。

 ああいう、最初敵同士だったり対立してたりするのが段々と打ち解けていくのって憧れる。すごくいい。

 ああいう関係になりたいものである。

 ……どっかに巨乳の女怪盗とかいないのかな。


京太郎(って……また、話が逸れたな)


 鷺森灼からの咎めるような目線を受け流して、顎に手を当てる。

 女のスタイルというのは、男で言うところの――あ、揺れた――社会的身分だろうか。

 要するに――揺れるなぁ――自分より上の立場の人間にデレつかれたら、結構気にしないか――おお、ブラボー――ということだ。

 あんまり考えたくはないが、仮に――うん、いい――元カノが自分より上位ランカーに黄色い声援を送っていたとしたら。

 かなり――後ろから揉みたい――複雑な気分になるし、正直不貞腐れたくも――鷲掴みとかどうかな――なる筈だ。


 だから、さっきのように――あの人自身のおもちも凄いよな――巨乳にデレデレしてはならないのだ。

 そう、駄目なのである。


灼「ふんっ」

京太郎「やめてください、痛いです」

京太郎「なあ……」

灼「なに?」

京太郎「こうも話してて気付かれないとさ」

灼「玄はひとつのことに熱中しやすいから……何?」

京太郎「あ、そうなんだ。……だーれだ、とかやりたくならないか?」

灼「ああ、判るけど……」

灼「……元カノの前で?」

京太郎「……フッたのそっちでしょーが」


 こうやって笑いにできる程度には、消化できたらしい。

 案ずるより産むがなんちゃらだ。いや、子供が生まれるようなことはしてないけど。

 避妊ができない男は挨拶ができないのと一緒。実に名言だと思う。明言された名言だ。

 どうでもいいけど、大星ってなんか望まぬ妊娠が似合いそうだよな。どうでもいいけど。

 ……流石に今のは失礼だったな。いくら大星だとしても。


灼「……やれば?」

京太郎「いや、流石にそこまでデリカシーがないわけじゃないぜ」

灼「言い出した時点でデリカシーとか遅……」

京太郎「それは……確かに」

灼「そもそも考えた時点で……」

京太郎「それは流石におかしいだろ!」


灼「行け」

京太郎「だ、だけど元カノがいるんだけど……」

灼「ボウリング場が広いではないか。行け」

京太郎「でも、ボウリング球が溢れてます」

灼「構わん」

灼「行け」

京太郎「うっす」

灼「いいこ……」

京太郎「どうでもいいけど、ジョジョ読み始めたんですか?」

灼「……。いいから、早く」

京太郎「うぃっす」


 何が彼女をそこまでだーれだに掻き立てるのか。さっぱりわかんねー。

 まあ、これでいてお茶目な人だからな。

 DIO様(外見:こけし)が仰ってるんで、行きますか。

 抜き足、差し足……気配を殺すのは得意だ。この間、自動ドアに挟まれたからな。

 ステルス京の独断場だ。


京太郎「だーれ――」


 ――にゃあ。


玄「カブトちゃ、ん――」


 ――むにゅ。


京太郎「……あ」

玄「……え」

京太郎「……」

玄「……」

京太郎「……」

玄「……」

京太郎「……」フニュモニュ

玄「んっ……」

京太郎「……」モニュモニュ

玄「っ、……あ」

京太郎「……」ポニュグニュ

玄「ぁ、ゃ、だ……んっ」

京太郎「……」ポニュポニュポニポニポニ

玄「ゃ、だ、だめっ、ん、ふっ」

京太郎「……」クリュフニュモニュゥゥウフニィィ

玄「んっ、んっ、ゃ、ぁ、んっ、はっ、ぁ、ん、ゃ……ぁ」


京太郎「――ハッ」


京太郎(俺は確かに気配を殺してたんだ……)ムニュゥゥゥムニムニ

京太郎(だけど……だけどさ)モニュゥゥゥゥ

京太郎(か、カブトの泣き声が玄さんを振り向かせたんだ)モニモニ

玄「だ、だめだよっ、こ、こんなのっ――」


 ――《ONE》。


京太郎(で、着弾点がズレた……)サワッサワッ

京太郎(どっちにしても玄さんは俺より小さいから……斜めに手を出す形になるからな)フニュフニュ

京太郎(驚いた玄さんが後ろに引くことで、丁度重なってしまった……事故だ。これは事故だ)スッフニィィスッ

玄「私のはおもちじゃないからっ、だめだよっ、だめっ、んっ、だめぇ――」


 ――《TWO》。


京太郎(お、思わず……)ポニュモニュゥゥ

京太郎(この大迫力を目にしたら……)モニモニモニモニ

京太郎(いや……手にしたら、か)モミュモミュモミュ

玄「んっ、だ、だって私おもちっ……じゃなくて! 私のおもちがじゃなくて――」


 ――《THREE》。


京太郎(いや、そこはどっちでもいいよな)モミモミュ

京太郎(まあ、目にしたんじゃなくて手にしたんだけどな……)タユンタユン

京太郎(手にしたらさ……そしたら)ポニュポニュポポポニュ

玄「は、恥ずかしいよっ、ん、こんなの、だめっ――」


灼「――死ねばいいと思」


 ――《RIDER KICK》!


 ハイキックが繰り出された。

 しかも後ろ回し蹴り。

 それは京太郎の背中に突き刺さり――。


灼「ふんっ」


 そのまま、踏みつけて踏み倒して踏みにじった。

 何度か。

 何度も。

 それは――必然的に。


京太郎「……灼さん」

灼「何?」

京太郎「ありがとうこざい――うべっ!」


 松実玄を押し倒す形になってしまっていた。

 胸はやっぱり、魔的だと思った。

 思わず意識を失って、揉み続けてしまうぐらい。

 今まで触った中で一番大きかった。文句なしの巨乳である。感動した。


 大星淡? ――知・ら・ねー。

 新子憧? ――ごめんな。お前はイイヤツだったよ。

 高鴨穏乃? ――すまん。弱い俺を許してくれ。

 鷺森灼? ――俺、今まで頑張ったんだよ。許してくれ。


 あとその他出会った人や合コンなどで御一緒した人? ――悪いな。これには勝てない。


 だけど、そうは言ってられない。

 これは痴漢である。

 セクハラである。

 強制わいせつである。

 江戸時代の人間なら妊娠してもおかしくない。


玄「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」


 ほら。

 顔真っ赤だし、涙目だし、髪は乱れて額に張り付いてるし、涎が…………、………………涎?

 まあとにかく、明らかにやり過ぎてしまった。むしろそのままヤりたかった。

 いや、嘘。流石に野外とか人が来そうなとこは懲りた。反省したのだ。

 いや。

 そういう話じゃなくて――


京太郎「……玄さん」

玄「な、なに!? ごめんねごめんね私のおもちじゃないおもちで――」

京太郎「ごめんなさい」

玄「じゃなくてやだこんなの突然すぎて私恥ずかしいよ京太郎くんごめんね私」

京太郎「ありがとうこざいました。結婚しま――」


 ――《MAXIMUM RIDER POWER》。


灼「――死ぬといいと思」


  __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ 



【松実玄の好感度が上昇しました!】

【鷺森灼の好感度が上昇しました!】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年02月02日 22:06