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 【酒の席の過ちなら大目に見ろって風潮はなんなんだろうねあれ】


京太郎「ハギヨシさん……大丈夫かな、あれ」


 今まで見たことがないくらい落ち込んでいた萩原を思いながら、溜め息を漏らす。

 あの狼狽のしようは本当に驚いた。

 まさかあの素敵滅法完璧超人超絶技巧完全調和の萩原のあんな顔を見ることになるとは。

 もし、自分か彼のどちらかが異性であったなら、普段とのギャップで恋に落ちていたかもしれない。


 ……なーんて。

 それは冗談だとしても、親友があそこまで落ち込んでいたら心を痛めるのが人情である。

 今まで、自分がその状態であるときに散々ばら世話になっているし、萩原の為なら一肌でも二肌でも脱ごう。トランクスは脱がない。そもそも履いてない。

 勿論、ボクサーパンツであってトランクスではない的な意味で。

 ……と。


京太郎「お待ちしておりました、御嬢様方」

竜華「あはは、今度は何キャラなん?」

数絵「私服で言われてもね……」


 恭しくお辞儀をして荷物を受け取るが、不評らしい。

 やはり本物の執事とはいかない。

 落ち込んでいる萩原に代わり、一時的に龍門渕の執事(と書いて便利屋と読む)を試みたが、駄目らしい。

 なお、龍門渕透華には――「素質的には執事になれますが、資質が執事向きではありませんわ」と、にべもなく断られた。

 目立ちたがりというか、格好つけは駄目らしい。


京太郎「あれ、やえさんは?」

数絵「遅れてくるって」

京太郎「あー、あの人何だかんだ人見知りするというかテンパるから……」

竜華「多分、盛り上がってるとこにそーっと入ろうとしてるんやないかな?」

数絵「みたいね。ちょっと時間潰してからくるって」

竜華「地元の高校に顔を出してからくるって、ゆーとったな」

京太郎「……それ、飲み会に来るより見知らぬ人に囲まれるんじゃ」


 当人がそれでいいなら、構わないけど。

 できれば、相方枠として――それこそ壁になるのも吝かではないのだが、何故声をかけてくれなかったのか。

 水臭いな、とも思うが……母校を訪ねるのに、部外者が訪れるのもどうかという話だ。

 だから、仕方ないと言えば仕方ない。小走やえがそう望むなら、そうなのだろう。


数絵「あ、京太郎に伝言だけど」

京太郎「どんなのだ?」

数絵「『こっちの心配とか余計なお世話。判ってるわよね?』だそうよ」

京太郎「そっか。りょーかい」


 見抜かれていたという話か。

 なんていうかそこらへん、流石は相方である。

 まだ一年と少々。大学時代を含めても二年に届くか届かないかという話であるが……。個人的には届いてほしい。


数絵「それにしても……」

京太郎「どうかしたか?」

数絵「まさか……気違いが気遣いの男に戻るなんて」

京太郎「え、なんで俺いきなりディスられてるんだ……?」

数絵「宮永照と旅行に行った辺りから、狂人度が上がってきてたわね」

京太郎「なあ、いつの間にそんなステータス用意されてるんだ?」

数絵「団体だと専らの噂だったけど……ぽんこつ菌に感染したって」

京太郎「スルーっすか……え、なんだその菌」

数絵「菫さんみたいに、感染した人間は残念になるって菌なんだけど」

京太郎「あの人残念枠なのかよ!?」


 時々抜けてたり、真面目が故に融通が利かなかったり、勘違いをしてしまったりと……確かに、彼女も間違いを犯してしまう。

 ただ、人間なので仕方ないだろう。

 それ以外は普通に面倒見がいいし、段取りや準備などの細かい仕事を進んでやってくれるし、

 他人の意見を纏めて舵を切ったり或いは進んで提案をしたりと、何かと立派な先輩である。ミスのカバーなども含めて。

 ……あの、魔法少女コスは。

 うん、あれはスポンサーからの依頼なので仕方ない。決して本人の趣味でない思いたい。本人の趣味だと思いたくない。


数絵「……」

竜華「……たはは」

京太郎「ちょっと二人とも俺の目を見てくださいよ! 清水谷先輩!?」

竜華「ごめんな……? そのな……」

竜華「うちには、標準語は難しくてちょっと……」

京太郎「俺より東京長いのに!?」

数絵「やめて。騒がないで。人がこっちを見てるから」

京太郎「いや、振ってきたのそっちだったろ……」

数絵「ごめんなさい。間違えちゃって」

京太郎「ん? いや、間違えたって……」

数絵「やめて。喋らないで。あなたと居るところを、人に見られたくないの」

京太郎「わお、余計に酷くなった」


 訂正後に訂正前より酷くなるのは、赤ペン先生ならぬバカペン先生だろう。とんだ赤っ恥先生だ。

 というか、悪くなるのを訂正とは言わない。言うなら訂悪である。どうでもいいが。

 そういえば、エトペン先生とかいないのだろうか。いても、ペンを持てないこと請け合いだけど。

 バカペン先生よりバカっぽい。多分、バカペン先生の方がペンを持って自分の名前を書けるだけマシだ。

 むしろいくらバカでもペンギンに負ける人間なんて見たくない。

 人間じゃない奴に負ける人間なんてそれこそもうそいつは人間じゃない。というか人間じゃなくなれ。


 ちなみにペンギンは“人鳥”、エトピリカは“花魁鳥”と書く。確か。

 ひょっとしたら人間というのはペンギンから何かを“とり”落としたのかもしれない。或いは取りそびれたか。単位かなんかを。

 それならバカペン先生がエトペン先生に負けても不思議じゃない――って、何の話をしてたんだっけな。


数絵「どうしたの、馬鹿になったの?」

京太郎「いや、そんな訳ないから」

数絵「ごめんね。馬鹿に戻ったのかしら?」

京太郎「だからなんで言い直した方が酷くなるんだよ!?」

数絵「ほら、後半から本気出すのが私のスタイルだから……」


 日常生活でまで麻雀のスタイルを出すのはどうかと思う。


竜華「京太郎くんがそれを言ーてもな」

京太郎「言ってません。というか清水谷先輩、今さらっと“特性”使いながら言わないで下さい」

京太郎「……というか」

京太郎「さっきから二人ともなんか、辛辣すぎないか……?」


 唯一の男子虐めとか、週刊誌にネタを提供するのはよそう。

 しかもね、南浦数絵は一番の年下枠。須賀京太郎よりも誕生日が遅い。

 それなのにこれ。年上に対する敬いとかがない。いや一週間しか先じゃないけど。

 仮にチームを家族としたら、言わば京太郎お兄ちゃんだ。お兄ちゃんに対してこの辛辣な物言い。言葉の家庭内暴力だ。

 日本国では言論の自由は認めていても暴言の自由と暴力の自由は認めていない筈だ。冒険の自由は知らない。多分、勇者には保障されてる。


 京太郎お兄ちゃんは大人だから玄の裸をみたらいやらしい気持ちになりますが、どちらかと言えば着衣からのチラリズムが好きです。

 ……あ。

 先ほどまでボウリングをやっていた、件の松実玄は一足先にというか一足違いに松実館に戻った。準備の為だ。

 ついでに、一足飛びに実家へと舞い戻り、ドラム缶の焚き火で暖をとる姉を引き連れていった。

 なんでも、姉が戻ってくるついでに阿知賀麻雀部の同窓会を行うらしい。そのため、夜やることを早く済ませたいのだとか。

 まあ、松実玄曰く「おねーちゃんはぐうたらさんだから戦力にはあんまりならないかな」とのこと。

 結婚したら、こっちが家事をやらなければならないのか。悩みどころだ。

 ちなみにその松実宥の前で、「松実館の中にあるドラム缶」と呟いたら、この世の地獄のような目を向けられてしまった。反省。

数絵「そりゃ……」

竜華「仕事やらなくてボウリングやってるんやもん、京太郎くん」

京太郎「……仕事です。俺にはあれも仕事です」


 レクリエーションめいているというか、そのまんまレクリエーションだったが。

 それでも麻雀並みに消耗したので、やっぱり仕事だと思う。

 というか仕事でしかない。オファー来てたし。


数絵「まあ、こっちも似たようなものだったけどね」

京太郎「なんだったんだ?」

数絵「麻雀教室」

京太郎「いや、麻雀教室とボウリングは全然違うと思うけど……」

数絵「どっちにも球とピンがいっぱい」

京太郎「わーお」


 まさかの南浦数絵からの下ネタである。軽く衝撃だ。

 というかね、無理にそんなキャラ演じなくてもいいから。下ネタキャラじゃなくてもいいから。

 もう下ネタ痴女枠は鶴田姫子で間に合ってる。

 しかも下ネタ痴女百合方言少女実は純情とかいうキャラ付け。ごてごてし過ぎて胃もたれする。

 そこに真面目系辛辣下ネタポニテ痴女。

 もう、化学反応しか起こらない。二人は痴女キュアセックスハードだ。やかましいわ。


数絵「……ま」

数絵「元気そうでよかったわ。最近顔合わせてなかったから……」

竜華「ちゃんとご飯食べてる? 無理しとらん?」

京太郎「ああ、いや……大丈夫」

京太郎「っていうか、チームメイトが最近顔合わせない麻雀クラブチームってなんなんですかね」

竜華「……たはは」

数絵「M.A.R.S.ランキングに合わせて私たちも取られたから、普通の側と違って団体戦がね……」


 団体戦の数が少なく、それぞれどっかしらにブッ飛ばされてたりする。

 チームが分断されすぎである。これが火星なら死んでる。


数絵「あ、京太郎。お祖父様から伝言」

京太郎「聡さんから?」

数絵「『麻雀だけじゃなくて、生活でも耐えることを覚えろ』……だって」

京太郎「りょーかい」

数絵「あと、『お前がシニアに来るまでこっちは待ってるんだからな』って」

京太郎「長生き宣言するなぁ……」


 つまりは――まあ。

 要するに、一時引退を考えたことが……バレたのである。この二人に。

 まあ、というか、本気モードの清水谷竜華の前では隠し事が困難なので必然だろう。

 だから、あまり顔を合わせないようにしていたのだけれど――。


竜華「水臭いなぁ……」

竜華「うちら、チームメイトやったのに……」

竜華「そっかぁ……うちらは京太郎くんにとってはその程度の存在なんやな」

竜華「はぁ……」

京太郎「いやー、これは、そのー……深い事情があって……」


 一体何と言えばいいのか。


数絵「人に祖父まで紹介させておいて、利用するだけ利用したらポイ……なんてね」

数絵「これに怒るなって言う方が、無理な話じゃない?」

数絵「しかも、何だかんだとランキングが私よりなのに……。枠が空いて嬉しい、とかじゃなくて」

京太郎「あー、ああ。うん、その……」


 確かに、相談はするべきかなとは思う。

 しかしながら、相談すべきタイミングというか相談したいタイミングで、仲間同士顔を合わせることなく。

 その後は、既に自分の中で諦観が結論を纏めて上げた後になってからだったので、何となく避けてしまった。

 そういう事情があったといえば――あったのだ。

 やめる、やめないなんてのはとどのつまりは自己責任である――と。


 ……まあ。

 今になって言うなら、間違いではないにしても、そんな独りよがりで結論を出すなんてどうにかしてるとしか言いようがないが。

 忙しくて碌に睡眠時間が取れず、仕事続きだったのでどこか弱っていたのかもしれない。

 今とは違い、社会人成り立て――から暫く、慣れるか慣れないか、合うか合わないか、好きか嫌いかの瀬戸際だったし。


竜華「それで、いっつも気ぃ遣っとった筈の京太郎くんが……」

数絵「まさか、カメラ回ってるのに気が違ったようなぽんこつっぷりを発動してたらどう思うかしら?」

京太郎「あー、心配かけてごめんなさい」

竜華「中々会えんかったから、急に狂ったのかと思ったんやからな?」

数絵「『考えすぎて脳ミソ融けたんじゃねーのか?』なんてお祖父様は言い出すから……」


竜華「なーんてな」

数絵「これくらいでいいかしら? 疲れるから」

京太郎「ん……ああ、そういうことっすか」

竜華「判る?」

数絵「戻った?」

京太郎「ぶっちゃけさっきまでの会話で、俺の状態測ってたんだよな?」

京太郎「二人にしては、やけにテンションがおかしいと思った」

竜華「京太郎くんに言われたくないわ」

京太郎「あー、ごめんなさい。ありがとうございます、心配してくれて」

数絵「全く……私はこれでも心配してたんだから。今夜の夕飯と同じくらい」

京太郎「軽いなオイ。というか、そのキャラまだ続けるんですか……」

数絵「ちょっと気に入っちゃった」

京太郎「いつもの素直な数絵に戻ってくれ」


 つまり、シリアスさんはこれまでである。

 早く明るく楽しい飲み会にしたいと、誰もが望んでいるのだ。語り手も聞き手も。

 まあ、話をとりあえず整理しておかないと始まらない話もあるのだ――。


 ……で。


エイスリン「AIEEEEEEEEEEEEEE!? WHY!? WHY OCLTSLYR!?」

エイスリン「OCLTSLYR!? Really OCLTSLYR!? Why!?」

エイスリン「I'm GEEEEEEeeked up! OMG! Oh! GOoooooooD!」


 なにが始まるんです?(すっとぼけ)

 こわい(社会人二年生並の感想)。


数絵「え、あれは確か……」

竜華「あーっと、憩のチームの助っ人外国人――」


 清水谷竜華が、口を開くよりも先に。

 その金髪の生命体は、須賀京太郎の前に飛び出した。

 が、飛び出すと言うには小さい。外人なのに京太郎より小さい。


 外人はデカイんじゃないのか(偏見)。

 でもその理論で言うと姉帯豊音も外人になる(驚愕)。

 原村和と松実宥と石戸霞も外人になっちゃう。日本終わっちゃう(絶句)。


エイスリン「U are so freaking COOL guy! I really heart your style!」

エイスリン「I'm really, really,really... huge head over heels in your action! I 've crush on U!」

エイスリン「I've never felt this WAY before saw U! U are the one!  The ONLY ONE for ME!」

エイスリン「Can I hug U? Can I kiss ? Can I shake handz?」


 矢継ぎ早に捲し立てる外人。

 英語で言うならファスター・ダン・アロウである。嘘である。

 英語ではなく戒能良子の言語である。

 略して能良語。字を変えると野良語。言葉が主人(民族や文化的な意味で)を失ってるのでちょうどいい。


数絵「なんて言ってるかわかります……?」

竜華「……聞かれても、ちょっと判らへんわ」

京太郎「あー」


竜華「そういえば、京太郎くんはT大出身やったな」

数絵「忘れられがちな設定ですよね」

竜華「忘れがちって……私は、京太郎くんは勉強熱心なええ子やと思っとるで」

数絵「頭は?」

竜華「……」

数絵「頭は?」

竜華「……たはは」

竜華「なんて言うか……すこーし、杓子定規とゆーか器用貧乏やね。うん」


京太郎(……)

京太郎(リーディングは結構できる。リスニングはそこそこ)

京太郎(スピーキングはあんまり得意じゃないからなぁ……)

京太郎(メッチャ早口で捲し立てられてるけどオカルトスレイヤーって言ってるのは判るし……)

京太郎(作中にあった台詞でも言っとけば、いいのか?)


京太郎「――Why not, princess charming?」

エイスリン「――」


※メガン・ダヴァン先生の判りやすい注釈※

メガン「久しぶりでスネ、このコーナー」

メガン「バシバシ解説していきまショウ」

メガン「エー」

メガン「……」

メガン「めんどいので、意訳しマス」


エイスリン『アイエエエエエエエエエエ!? ナンデ!? オカルトスレイヤーナンデ!?』

エイスリン『オカルトスレイヤーなの!? 本当に!? オカルトスレイヤーなの!? ナンデ!?』

エイスリン『もう駄目、すっごく興奮して押さえられない! 信じられない! 神様! 神様ありがとう!』

エイスリン『あなた、最高にクールなの! 私、あなたのスタイルの大ファン!』

エイスリン『頭の天辺から、爪先まで――本当に、本当にあなたのアクションに夢中! あなたにぞっこん!』

エイスリン『あなたを見るより前にこんな気持ちになったことなんてなくて……! もう、運命の相手! あなただけよ、ここまでなっちゃうの!』

エイスリン『ハグしていい? キスしていい? 握手は?』


メガン「無茶苦茶興奮してまスネ」

メガン「heartは動詞で、loveと同意義かつ今風の表現なので、覚えておきまショウ」

メガン「で、次。オカルトスレイヤーの返答でスネ」

メガン「“Why not”なら、ニュアンスとしては――“何故駄目なんだい?”=“いいよ”“駄目な理由がないよ”」

メガン「と、なりまスガ……この場合ハ、そのあとの言葉が問題でシテ」


京太郎『いいのかい? 俺は食っちまうぜ?』

京太郎『嬉しいこと言ってくれるじゃないの、子猫ちゃん』

京太郎『まさか、そこまで言って冗談とは言わないよな、ベイビー』

京太郎『勿論。可愛らしいね、お姫様』


メガン「こんな感じのいずれかのニュアンスになりマス」

メガン「皆さんも、口の聞き方には注意しましょウネ。サトハが口を酸っぱくして言ってまシタ」

メガン「それじゃあ、またどこカデ……」


※メガン・ダヴァン先生の判りやすい注釈、終わり※


エイスリン「~~~~~~~~~~~~///」


 おや、どうしたことだろうか。動かなくなった。

 真っ赤なのは――さっきから、早口で捲し立てていたからというのと……言うまでもないだろう。

 さすがにこの反応を見て、気付かない方がどうにかしてる。明らかすぎてあからさまだ。

 彼女は、ファンなのだろう。オカルトスレイヤーの大ファン。

 そりゃあ、ここまで興奮する。生台詞が出たら興奮天元突破間違いなし。

 実際――愛宕絹恵に出会った須賀京太郎が、こうだったんだし。 


京太郎「あー……Are you OK?  at ease...」


 大丈夫? 楽にしてよ――という意味だ。

 意味だった。

 そのとき、エイスリンの脳内に電撃が走る――。


エイスリン(チカラ抜ケヨ!?)


 合ってるようで違う。


エイスリン(At Easeハmilitaryデハ「休め」ダカラ……)

エイスリン(大丈夫カ、休メヨ……覚悟ハイイカ……休憩場所……)

エイスリン(ココデ休憩シテイカナイカ!?)


 合ってるどころか全然違う。

 意訳って凄い。


エイスリン「あ、アノ……」


京太郎(……手?)

京太郎(ああ、握手か……そういや、キスとかなんか言ってたような)

京太郎(流石に外人は積極的って言っても、いくらファンだっても口にキスはあり得ないだろし)

京太郎(頬っぺたか? なんか、容易に頬っぺたにキスする絵が浮かぶぞ)

京太郎(……うーん)

京太郎(相手にされるより、もっと危なくない場所に俺からした方がいいよな?)

京太郎(頬っぺたより安全……で、princessって台詞だから……)

京太郎(映画とかでもよくある表現だし――ちょうどいいよな?)


 思うが早いか――その手をとって。

 傅き、手の甲に口付けをする。

 いや、しようとしたんだよ。うん。

 なんだけどさ……。


エイスリン「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? !? !? !?」


 ビクッと引っ込められそうになってね。

 手のひらにキスしちった。


エイスリン「アノ……」

エイスリン「ワ、ワタシ……」

京太郎「?」


 口を開いて――何かを言いかけた瞬間。

 ドシャァァァアンとか。パリィィィンとか。グジャァァァアとか。

 凄い音がして、それから――。


豊音「わー、エイスリンさんだよー!」

衣「ト、トヨネ!? 衣が今上に乗って……わぷっ、ふにゅ、ふぎゅ」


 背後から駆け寄り、ドシドシと横を通り過ぎる3m級巨人。

 違った。

 天江衣を肩車した、姉帯豊音だった。

 首がすわらないというか、首の辺りに座ってるのに据わってないというか……まどろっこしいな。

 とにかく、姉帯豊音が大股で一歩踏み出す度に首が上下左右ガクガクと揺れる。

 首に座っている天江衣の首が据わらない。

 声にして読んでしまえば、実にまぎら……まぎ……まぎわらしいだったか、まぎらわしい――とにかくゴチャゴチャであり。

 正しく今、降り乱れる天江衣の金髪のように乱れていた。


 ……で。


 肩にかかった手。

 逆側の視界の端に移った金色の何か。


咲「きょーう、ちゃん♪」

淡「この間以来だよね、きょーたろー♪」


 こわい(本日二度目)。

 怖くて振り向けない。


咲「京ちゃん……知ってる?」

咲「手のひらにキスって懇願って意味があるんだよ?」

咲「京ちゃんなら、それが結局はどういう意味になるかって――判るよね?」


 だってもう、咲、キレてるもん。

 この声色、中々聞く機会がない声だもん。

 なんかビキビキいってるもん。多分血管浮いてるもん。


淡「ねー、須賀ー」

淡「この間の件で、懲りてないのかなー」

淡「迂闊に女にそーゆー風な態度をとったりすると、大変なことになるって……」

淡「こないだはドッキリだったから良かったけど、もしかしたら笑い話じゃ済まなくなるんだよ……って」


 うるせえ、黙れタコ。

 辻垣内智葉の深謀遠慮ならともかく、ぱーぷりんの大星淡にそんなことが考えられるもんかよ。

 深謀遠慮どころか、辛抱も遠慮もしないからな。


 ああ、ここはハッキリと――


京太郎「咲、大星、落ち着け。まずはルルイエ神殿の入り口を探すんだ」


◇ ◆ ◇


京太郎(……ぽんこつかぁ)

京太郎(確かに――思えばそうだな。そうだった)


 思えば躁だな。躁だった。

 夏――特にこの季節はいい思い出がなかった。加えて、夏場の仕事ラッシュ。

 些か精神的にアレだったらしい。わりと暴力を主軸に考えたり、残念なおどけ方をしたり。

 鬱に備えて躁になっている躁鬱である。そんな都合がいい躁鬱があるのかは知らない。あえて言うなれば情緒不安定で安定しているだろう。

 まあ、結果的には、鬱に備えるどころか鬱に供えることになったが。鬱は死んだ。遺影に向かっていえーい。


 様々な人が背中を押してくれたり、流してくれたり、笑い飛ばしてくれたり――おかげで立ち直った。本当に幸いだが。

 実にハートフルな人々と物語だ。

 これが奈良で良かった。これが山で良かった。

 もしこれが海ならどうなるか。

 様々な人が背中を押して、流して、笑い飛ばす――実にハートレスな人々と物語である。猟奇的以外のなにものでもない。

 もう遺影に向かっていえーいとか言ってられない。言ってるとしたらそいつら絶対多額の保険金ぶっかけてる。

 人死にからシームレスにハートフルな気持ちになれるなんて、なんてハートレスな人々なんだろう。略してシートレス。

 間違いなくお通夜に来た弔問客のシートなんて作ってない。だって遺影にいえーいしてるとこ見られたら一大事だもんな。

 ああ、シートレス。実にぴったりだ。ぴったりな奴らだ。

 ああ、そんな人が居ることを想像するだけで鬱だ。


 ……というか。

 良く考えたら山もヤバいんじゃないか。山と言えば川、川と言えば急流である。相場が決まっている。

 むしろ、凄まじい勢いで流されないし、岩もないし、浮力もあるしで……海の方が安全じゃないのか?

 開けていて人目に付きそうな海より、山の方が危ない気がする。突発的に保険金に目が眩んだとかじゃなくて、絶対計画的だ。


 閑話休題。


京太郎(……高校の頃は違った筈だ)

京太郎(だよな……ああ)


 例えばこんなことがあった――。

 あれは確か秋だ。秋だった。

 インターハイも終わって、「それじゃあ須賀くんのことなんだけど……」と話を切り出されてというか繰り出されて。

 受験勉強の息抜きという名目で――名目である。彼女は捻くれている――麻雀を教えられていた。

 そんなある日だ。


久『須賀くん! まこの眼鏡は透け透け眼鏡なのよ!』

京太郎『……何言ってるんですか』

久『もう、ノリが悪いわね』

京太郎『頭が悪いのに比べたらマシです』

久『頭が悪い……どこにそんな人がいるのかしら?』

京太郎『……鏡見ます?』

久『須賀くん』

京太郎『……なんですか?』

久『いい?』

久『鏡ってのはあれが物体の反射をしているだけなんだから、鏡の中の世界なんてのはないのよ?』

京太郎『誰も鏡の中に頭の悪い出歯亀がいるなんて言ってません』

久『そうよね』

久『出歯亀の為に鏡の中に入っちゃうなんて、とんだ天才よね』

京太郎『あなたのその発想が天才以外のなにものでもねーよ』

久『あら、褒めても何も出ないわよ?』

京太郎『大丈夫。貶してますから』


久『……で、話が逸れたわね。戻すわよ』

京太郎『もともと道から外れてますけどね』

久『……で』

京太郎『……まだやるんですか』

久『勿論!』

久『須賀くん、まこの眼鏡は透け透け眼鏡なのよ!』

京太郎『へー』


京太郎『どんな具合に透けて見えるんですか?』

京太郎『服とか……それともその手の道具系のオチみたいに、肉とか、人間全部透けちゃって結局壁だけしか見えないとか』

久『ふふ……そんなスケールの小さいものじゃあないわよ!』

京太郎『と、言うと?』

久『貴方の人間性が透けて見えるわ!』

久『そう、この質問への答えによって貴方の人間性を看破するという凄まじい眼鏡なの!』

京太郎『……話であって質問ではないですね』

久『……あれ?』

久『私、質問とかしてなかったかしら?』

京太郎『断定しかしてませんね』

久『……』

京太郎『……』

久『さて、気を取り直しましょうか』

京太郎『気を取り乱しているのはあなただけっすけど』


久『須賀くん、まこの――以下略』

京太郎『へー』

京太郎『全略』

久『ばっさりいくわね……まあ、いいでしょう』

久『ふふ……そんなスケールの小さいものじゃあないわよ!』

京太郎『というと?』

久『未来が透けて見えるわ!』

京太郎『おお、確かにスケールが大きいですね。しかも便利そうだ』

久『なんと、この眼鏡……百年後の未来が透けて見えるのよ!』

京太郎『どっちにしても人間透けちゃって結局壁だけしか見えねーよ!』


 ……あれ。

 今の自分、ツッコミ不在のあのときの部長と同じじゃないか。

 ツッコミ入れてくれる人がいないから、なんかモノローグ使ったら、ギャグとかシュールとかじゃなくて酸素欠乏症になってる感じじゃねーか。

 これは由々しき事態だ。

 もう、一人称より三人称でボケるのやめよう。


 というか、狡いな。流石竹井久。小狡い。

 ツッコミ待ちのボケポジションを竹井久から須賀京太郎に変更。

 冷めて呆れるツッコミポジションを須賀京太郎から小走やえに変更。

 これで会話の内容を変えなかったらどうなるのか。


 ……ちょっとやってみようか。


京太郎『小走先輩! 辻垣内先輩の眼鏡は透け透け眼鏡なんですよ!』

やえ『……何言ってんの』

京太郎『もう、ノリが悪いっすね』

やえ『頭が悪いのに比べたらマシよ』

京太郎『頭が悪い……どこにそんな人がいるんですか?』

やえ『……鏡見る?』

京太郎『やえさん』

やえ『……なによ?』

京太郎『いいっすか?』

京太郎『鏡ってのはあれが物体の反射をしているだけなんだから、鏡の中の世界なんてのはないんですよ?』

やえ『誰も鏡の中に頭の悪い出歯亀がいるなんて言ってないから』

京太郎『そうっすよね』

京太郎『出歯亀の為に鏡の中に入っちゃうなんて、とんだ天才ですよね』

やえ『あんたのその発想が天才以外のなにものでもないわよ』

京太郎『あれ、褒めても何も出ないっすよ?』

やえ『大丈夫。貶してるから』


 うわー。なんだよこれ。

 部長がボケてるときは、二人してシュールな会話をしてるって感じなのに……。

 竹井久を須賀京太郎、須賀京太郎を小走やえに変えるだけでもこうも違うか。

 竹井久は、判ってて会話を盛り上げようとしている風なのに、須賀京太郎だと……ただただ残念だ。

 つくづく、人望とかキャラ付けとかあるらしい。

 須賀京太郎がボケに回ると、残念だったりぽんこつだったりという印象が拭えなくなる。


 『不良が雨の日に捨て猫を拾い上げるといい人に見られる現象』の真逆――『真面目な委員長が蛙の尻に爆竹詰めてたら危険』現象だ。

 いや、よく考えたら真面目な委員長がやらなくてもそりゃ危険だ。

 閑話休題。


 ……なんでさっきから閑話休題させてるのに、本題に入らないかって?


淡「そんなに殺して欲しいのかなぁ……?」

華菜「やれるもんならやってみろし!」


 面倒臭いからだよ(直球)。


京太郎「はぁ……」

咲「どうしたの、京ちゃん?」

京太郎「いや……それがな……」


 ちら。


京太郎「既に21位の池田華菜が犠牲になっちまったから……」

咲「……ああ」

華菜「まだなってないし! 華菜ちゃん死んでないからな!」


 元気いいなぁ。

 そういうとこ、素直に尊敬する。というかかなり尊敬してる。

 実際、あんまり暗さとか悲壮感とか感じさせないで前向きに賑やかなのって、凄いと思う。


京太郎「いや、すみません……池田先輩」

華菜「全く、本当だよ」

華菜「いくら気遣いの男だなんだって言われても、そこんとこが結局キャプテンに付きまとってたときから変わってないし!」

華菜「そういうとこ直さないと、人間的にまだまだだからなー?」

京太郎「ハハ……はい」

淡「……」 ゴゴゴゴゴゴ


 で、何故だか判らないけど……これが。


淡「ああもう、うっさいなー」

華菜「何が? あと、先輩には敬語ってのを忘れんなよ」

淡「先輩? 先輩って誰です? 私、そんけーできる人間以外は先輩だと思ってないんですよねー」


 正しくは嘘。

 ○○先輩と呼びながらも、わりと大星淡は相手を呼び捨てにする場面もある。

 慇懃なのは無礼なときだけ。それ以外は普通に無礼なだけ。あとは馬鹿っぽいか。

 馬鹿っぽく、且つ完全に懐いている対象なんてのは宮永照ぐらいだろうか。

 それでも当人いわく――


淡『ん、テルー?』

淡『そんけーしてるし、恩人だし、大好きだけど……いつかは私が追い越すからね!』

淡『リベンジ、誓ってるから!』


 ――だ、そうだ。

 拾われる(というのが何を指すのか判らないが)ときに負けたのは、尊敬は尊敬として、やっぱり雪辱したいらしい。

 まあ、三歩歩いたら忘れそうだ。


咲「京ちゃん……流石にそれは淡ちゃんに悪いよ」

京太郎「そうか?」

京太郎「じゃあ、散歩に行ったら忘れそうだな」

咲「ちょっとだけ歩く距離増えた!?」


淡「ってゆーかさ、なんなのあんた」

淡「なーんか脇から出てきたと思ったら、上から目線で語ってくれちゃってー」

淡「確かに、コイツは……気も利かない・気も遣えない・気も許さないの三拍子揃った馬鹿だけどさー」


 おい、最後のは関係ないぞ。


淡「いきなり、部外者のあんたにどーこー言われる筋合いはないっての」

華菜「……なんだと?」


京太郎「なあ、咲」

咲「何、京ちゃん」

京太郎「部外者って……いつからアイツは部内者になったんだ?」

京太郎「それを行ったら部外者っての、二人とも一緒だよな」

咲「……」

竜華「……」

数絵「……」


 ちなみに、天江衣とエイスリン・ウィッシュアートは2m級の巨人に拉致された。

 巨人じゃない。大天使だ。


京太郎「……どうすんだよ、これ」

咲「猫と蛸は相性が悪いからね……」

竜華「なんか、語感は似てるんやけどな」

数絵「蛸を食べると猫の腰が抜けちゃうから、仕方ないわね」

京太郎「それ、加熱処理する前の生蛸限定らしいぞ?」

数絵「へー」


 事の発端はあれだ。

 エイスリン氏への、なんとなくうろ覚え勘違いからの口説き文句の一件について、宮永咲と大星淡から説教を受けていたら……。

 「公共の場でぎゃーぎゃーうるさいし! 猫の発情期顔負けだし!」と、池田華菜が顔を出したのがスタート。

 で、咲から事情の説明を受けた池田華菜により、「……この駄目男が13位とか屈辱だよ」とか言われたあたりで雲行きが怪しくなり、

 「キャプテンに付き纏ってたときと一緒でしょーもない」とか「キャプテンの力借りといて不甲斐ない」とか、「間接的にキャプテンへの侮辱だな」とかでいよいよ大時化


 それからやや置いて、邪神ガタゾノーアが顔を出した。


 なお、一応言っとくなら池田華菜の主張は尤もであると思う。騒いだのに関しては特に。

 その他のも、なんだかんだ彼女なりの気安さを持ったコミュニケーションだ。

 流石に、本気でそうは思っていないだろう。

 思っていても口に出さない程度には、分別がある筈だ。


 ……が。

 そんな事情を知らない大星淡は、あからさまに不機嫌になり噴出した。

 お説教の強制中断。自分のテリトリーに割り込まれたと思ったのだろう。知らんけど。

 あとはご覧の有り様だ。


咲「で、話逸らさないでよね。京ちゃん」

京太郎「オレェ?」

数絵「ほら、早くなんとかして来なさいよ」

京太郎「なんとかって……」

数絵「早くなんとか首吊って来なさいよ」

京太郎「いつまでその辛辣キャラ引っ張んだよ」


数絵「いや、気に入っちゃって……」

京太郎「それ、どっちかと言うと……気がイっちゃってるな」

数絵「奈良に来て良かったわ」

京太郎「……奈良はそんな辛辣サド生産所じゃねーからな?」

数絵「大丈夫よ、生産じゃなくて精算しただけだから。これまでの私を」

数絵「言うとしたら、生産じゃなくて育成かしらね」

京太郎「これまでお前を育て上げた聡さんに、顔向けできないことしちまった……」

数絵「私を体よく精算したのよ」

京太郎「そんな恐ろしいことする奴が、あんな嬉しそうに孫娘の活躍をスクラップにするか!」


 おかしい。

 南浦数絵は、確かに少し硬いという嫌いがあったが……いまでは邪知暴虐、傍若無人な女に。

 この旅行が何を産み出してしまったのか。恐ろしい。


咲「京ちゃん」

京太郎「なんだ?」

咲「早く、止めてこようね?」

京太郎「……あー」

咲「返事は?」

京太郎「……はい」


京太郎「あー、もしもし、お二人さん?」

淡「須賀は黙ってて!」

華菜「須賀は口を出すなし!」

京太郎「……二人とも」

京太郎「あの、騒がないで下さい。人が見てますから」

淡「むっ」

華菜「う……」

京太郎「というか喋らないで下さい。一緒に話してるとこ誰かに見られたくないです」

淡「……っ」

華菜「そこまで!?」


 「奪われた」と、南浦数絵が呟いた。

 それはすまないと思うが、まあ、許して欲しい。わりと緊急事態だ。


京太郎「どうしても争いたいというなら――雀士らしく、勝負で決着をつけましょう」

淡「へー、須賀にしては気が利いてんじゃん!」

華菜「望むところだ! 人間は、魔物なんかに負けないし!」


 わりと直情径行の二人は、案の定乗り気になった。

 判りにくいところがある――――というか女性の心理なんてのはまるで判らんが、心理なんて読めなくても思考の傾向は判る。

 火花を散らす二人。実に丁度いい。


淡「で、面子どーすんの?」

華菜「足りないの、誰入れるんだよ?」

京太郎「ああ、そうだなあ……まずはモモだろ」

淡「……んゅ?」

京太郎「で……辻垣内先輩、弘世先輩、豊音さんとして」

京太郎「そうだな、あと4人どうすっかな」

華菜「どんだけの数集めるんだよ!? トーナメントでもやるつもりか!?」

京太郎「いや、10人いないとバスケできないだろ? 3on3ならいいけどさ」

華菜「はぁ!?」

淡「なんでバスケとか言ってんの!?」

華菜「馬鹿だとは思ってたけど……ここまでとは思わなかったし!」

淡「ばーかばーか!」


淡「大体須賀って、いっつも唐突だよねー!」

華菜「キャプテンのとこに来たときからそうだったし!」

淡「なにそれ? キャプテンってだーれー?」

華菜「福路美穂子アナウンサーって言ってだな……」


 そのまま、やいのやいのと話し出す二人。

 池田華菜は、高校生の頃の須賀京太郎を知っているから――あることないこと吹き込まれないといいが。

 悪口というかなんというかで盛り上がる二人に紛れるように、数絵が耳打ちした。


数絵「……なんでバスケ?」

京太郎「この間、モモとやったら思いの外いいコンビだったから」

竜華「あー、そうなん?」

竜華「ちなみに私も得意やで、バスケ」

京太郎「でしょうね……」


 東横桃子の消える特性から現れる変幻自在なパスは実にヤバい。ドライブもヤバい。

 弘世菫もヤバい。コート内のどっからでもシュート決められるからヤバい。

 辻垣内智葉もヤバい。トップスピードもさることながら、緩急がヤバい。ボール感覚がヤバい。 

 ちなみに京太郎は滞空時間とバネが自慢だ。伊達にムエタイやフリーランをやってはいない。

 だが、それらを考慮しても――――その麻雀の“特性(スタイル)”からして、清水谷竜華が一番恐ろしいだろう。

 胸的な意味でも。

 スクリーンとかゴール下争いとかできないよ。


 オカルトとは違って、技術を昇華させる――というのはそのパーツが、スキルが自分の中に存在しているということ。

 運動能力は関係ないが――勘や感覚や思考能力や観察眼などは、麻雀にしか使えない訳ではない。

 基本的に皆、それは麻雀で使う――つまり戦闘態勢や集中状態でなければ用いられないが……。

 やろうと思えばできるのである。


 清水谷竜華はその“眼”。

 麻雀に於いては、ブラフやハッタリやポーカーフェイス――心理的な惑わしを無効化し。

 そして、その“眼”で得た情報と、更にまさに昇華である能力を用いて戦うスタイルであるのだが。

 スポーツでやられると、ましてやバスケという競技でやられると、多分どうしようもない。


京太郎「……で、そろそろいいかな」

京太郎「二人とも、もういいだろ? だいぶ気が晴れたはずだぞ」

淡「そ……そうだね、うん、あはは……」

京太郎「池田ァ! 何を吹き込んだァ!」

華菜「華菜ちゃんは、嘘は吐いてないからな?」

京太郎「ああ、つまりは恣意的に事実を隠蔽はしたってことですねありがとうございます」


 嘘は吐いてないよ。

 ただ、聞かれなかったからね。

 僕は断言なんかしてないよ。

 僕の感想を言っただけで、それが事実だなんて一言も言ってないよ。

 嫌だなあ、騙すなんて……認識の齟齬を正さなかったのは君の方じゃないか。


 ――と、こういうことだ。

 マスコミやワイドショーはお得意の手法だ。

 「コップの中の水が半分」という事実に対して、「コップの中の水がもう半分しかない」と答えるのか「コップの中の水がまだ半分ある」なんて、

 事実を伝えるにしても言い方次第でどうにでもなる。

 更にここに「妹の為に残していた」という事実があったとしてもそれを隠蔽し、

 オマケにコメンテーターの個人的な考えを追加すればあら不思議――妹思いの兄貴は、自己中の粗忽者に早変わり。


 つまりはこうなる。

 「妹の為にコップの水を半分残した」

 →「いやー、半分も水を飲み干してしまうなんて信じられませんね。しかも、喉が渇いている妹さんがいるのに。これはどうなんでしょう?」


 なんとも恐ろしい現象だ。これで嘘を吐いてないんだから恐ろしい。

 嘘を吐いてない=正直者というのは、大きな誤りである。誤りでしかない。正直者に謝れ。


京太郎「大星……?」

淡「ひっ」

京太郎「……」

京太郎「池田ァ!」

華菜「一々怒鳴るなし……しかも、華菜ちゃん年上だからな?」

京太郎「大星ここまで怯えさせて、年上もクソもないですよね?」

華菜「んー」

華菜「ちょっと話を面白おかしくしただけなんだけどなぁ」

京太郎「それでここまでなります……?」

華菜「それは正直予想外過ぎた……というか、須賀なら遣りかねないと思われてるんじゃないのか?」

京太郎「う……」

華菜「それって正直、今までの須賀の言動が原因じゃないの?」

京太郎「……」

京太郎「……いや、確かに最近」

京太郎「だけど……なんだかんだ絆があるはずで……でも……」

京太郎「これは……いや……」

華菜「うだうだ言ってないで直接本人に聞いたら?」


 言われてみれば。

 早速、彼女の中の須賀京太郎像を確認してみるとしよう。

 で、大星淡に向き合ってから気付いた。

 ――そもそも、話した当人である池田華菜に聞けばよかった!


京太郎「なあ、大星?」

淡「う……」

京太郎「そのー、なんでそんなに怯えてるんだ?」

淡「だって……」

淡「幼児を5時間に渡ってつれ回したり……」

京太郎「遊んでやってただけな。5時間も」

淡「電化製品のコードで人を縛ったり……」

京太郎「逆。俺は絡まった人を助け出した方だからな」

淡「プロ雀士カードで、5連続で同じあんまりレアじゃないキャラカードを引いたり……」

京太郎「8連続だって」

淡「雨の中で傘も持たずに校門のところで正座して待ってたり」

京太郎「雪の中だな」

淡「それに、さ……」

京太郎「ん?」

淡「女の子の涙目とか悔しがったり苦しがったりする顔が好きだからプロ雀士になった、って……」

京太郎「池田ァ!」


 嘘吐いてるじゃねーか!


京太郎「なあ……」

京太郎「大星、お前の知ってる俺はそんな人間だったか?」


 信じたい。信じて欲しい。

 図らずも一緒に飯食ったり、遊んだり、酒飲んだりしたんだから。

 ライバルだし……。

 信頼関係ぐらい、築けてるよな……うん。


淡「そうだよね……」

京太郎「だろ?」

淡「胸を揉みしだくが入ってない!」

京太郎「おい!」

淡「あと、人を蹴るのとか殴るのとかが大好きなのも!」

京太郎「ちょっと、信頼関係ィィィィイ――――――!?」



咲「京ちゃん」

咲「胸を揉みしだくって何?」


 怖くて振り向けない。


淡「何って……後ろから覆い被さって私のおっぱい揉んできたんだよねー」

京太郎「ちょ、おま……!」

咲「……」

竜華「……」

数絵「……」

華菜「……」

淡「嫌がってんのに、やめてって言ってるのに揉んでくれちゃって……腰まで押し付けてくるし」

京太郎「誤解を招くような言い方するんじゃねえ!」

咲「……じゃあ」

咲「じゃあ、いいよ。早く説明して……京ちゃん」

咲「“誤解”が“ない”ように……さ」

京太郎「え゛……」


京太郎「いやー、そのですね、あの……」

数絵「京太郎、早く言ったらどうかしら?」

京太郎「そうだよな。……まだ、有罪って決まった訳じゃないもんな」

数絵「京太郎、早く逝ったらどうかしら?」

京太郎「どっちにしろ死刑確定なのかよ! もっと普通の反応してくれよ!」

竜華「え……無理矢理胸揉んだって……」 ヒキ

華菜「うわぁ……最低だな」 ドンビキ

京太郎「ごめんなさい俺が悪かったですリアルな反応しないで下さい」


 酷い。

 確かに最初の目的は達成できた。池田華菜と大星淡の争いを止めることができた。

 二人に向けて敢えて頓珍漢なことを言って、怒鳴らせるなんなりしてこちらに怒りを向けさせる。

 同時に妙な連帯感を抱かせ、怒りを発散、一件落着。そういう運びだ。運びだった筈なのだ。

 なのに、どうしてこうなるんだ。一体、何をしたって言うんだ。


 ……回想しちゃう?


 そう、あれは――。


華菜「――さっさと白状したほうが身のためじゃないのか。あたしはそう思うし!」


 池田ァ!



 確かにあれは、間違えといえば間違いであり、それ以上に須賀京太郎の紛れもない失敗であった。

 一切後ろめたいことがないかと言えば、また違う。

 業腹ながら。そしてそれ以上の申し訳なさを伴うが、すこし――いや、かなり美味しい思いをしたのは事実だ。

 松実玄と事件を起こすその前までは、京太郎の経験したそれの中で、堂々の第一位であった。今は二位だが。


 そう、須賀京太郎は……。

 あの夏の日、プールにて――。


華菜「ほらほら、余計に考えてるよりもさっさと誠実にした方がいいし! な!」


 池田ァ!



 だが、これだけは言わせて欲しい。

 決して、須賀京太郎の不注意であるとか。ましてや、不埒な思いを抱いて行ったとか。

 大星ならチョロそうだから、騒いでいても、実質的には泣き寝入りするだろうとか。

 そんな、おおよそ世の中の女性諸氏・男性諸氏を敵に回すようなことは考えていなかった。


 過失はない。いや、あるかも知れないがそれ以上に事故である。責任なんてもっとない。

 言わせて貰うならあれは、真実救命行為であったのだ。人助けだ。

 おっぱい揉み揉みして人助けができるなら、いくらでもやってやる――と思われるかもしれない。

 だが、事実なのだから仕方ないだろう。


 あれは――。


華菜「ほらほら、黙ってないでなんとか言ったら――」

京太郎「池田ァ!」

華菜「ひっ」
咲「京ちゃん、いきなり叫ぶのはどうかと思うよ」

京太郎「あ、ああ……そうだよな。すみません」

華菜「まあ、華菜ちゃんは気にしないけどな」


 釈然としないが……まあ、ありがとうございますと言っておくところだろう。多分。

 女性に向かって、叫んでしまったのは事実だ。これは反省しなければならないだろう。

 最近、ツッコミの沸点が上がってる気がする。眼鏡置きでもないのに。由々しき問題だ。


数絵「私も気にしないから、大丈夫よ」

京太郎「悪いな、数絵」

数絵「空が青いのと同じように……」

京太郎「ん?」

数絵「キチ○イが、キ○ガイらしい言動をしても不思議じゃないからね」

京太郎「……なあ俺、なんかお前の気に障るようなことしたっけ?」

数絵「気に障るというか、気が障ってるわね」

京太郎「……おい」

数絵「気が違ってるとしか言わないわ」

京太郎「そこは、“違ってるとも言う”って言っておけよ」

数絵「ああ、気が触れてるとも言うから?」


 うん、盲点だったわね。

 なんて、南浦数絵は顎に手を当てて呟いた。納得するのはそこですかい。

 南浦老人――南浦聡にはとてもじゃないが見せられない豹変っぷりだ。これは酷い。


京太郎「っていうかな! いい加減、引っ張るな! キチガイネタも、その辛辣キャラも!」

数絵「気違いとかそんな言葉をおいそれと使えるなんて、京太郎の常識が不思議でならないわ」

京太郎「なんでお前がドSキャラに目覚めちゃったのかの方がよっぽど不思議だよ……!」

数絵「ん? あれ、言ってなかったかしら?」

京太郎「ああ、逝ってるのはお前のキャラだけどな」

数絵「お祖父様の牌譜を検討するときは、いつもこんなキャラだったの」

京太郎「うわぁ……なにその知りたくなかった感じの事実」


 ……まあ。

 それぐらい孫娘に――辛辣に当たられてこそ、意味や意義がある牌譜検討になるのかもしれない。

 可愛い孫娘に貶されたくないが為に、必死になる。そうやってモチベーションを保っていく。

 ありそうでない、というかあり得ない動機付けである風に思えるが……それで長く続けてるんだから、効果はあるんだろう。

 流石はプロだ。

 やっぱりそこまでする必要があるのかと思うが、シニアまでの長きに渡り生き残るにはそんな必要があるのかもしれない。

 はやりんのあのキャラとかも。


 ……まあ。

 なんというか――。

 あんまりカムアウトされたくなかった。カムどころかナウアウトだ。

 結構、ギリギリアウトだ。南浦聡プロということを含めて計算したとしても。


数絵「いいえ、これはお祖父様の趣味よ」

京太郎「知りたくなかった感じじゃなくて、いよいよ知りたくなかった事実じゃねーか!」


 意味や意義がなかったよ、畜生。

 バリバリアウトじゃねーか!


数絵「というのは冗談としても」

数絵「どう? 久しぶりにツッコミに戻った気分は」

京太郎「あ、そのためだったのか」

数絵「そーそー」

数絵「最近、あんまりにもボケが酷かったからね。昔に戻って貰おうと思って……」

京太郎「似合わない、変なキャラを作ったのか」

数絵「まあ……はい。変なってのは引っ掛かるけど」


 安心した。二重の意味で、安心した。

 南浦聡を見損なわないで済んだのに加えて、南浦数絵の辛辣な口調をこれ以上受けずに済んで。

 これで気持ちよく、酒が飲めそうだ。


京太郎「悪い。ありがとう、そこまでさせて」

数絵「チームメイトで、お祖父様も気に入ってるから。私もそうよ」

京太郎「いや、いいチームメイトを持ったんだなぁ……俺」







咲「京ちゃん」

咲「いい話で終わらせられると思った?」


 ですよねー。


咲「京ちゃん、祈ってもいいよ……奈良に神がいるなら」


 こわい(本日三度目)。


竜華「いや、奈良ならそこら中にいると思うんやけど……」

華菜「んー、神じゃなくて仏じゃないか?」

淡「奈良なら……ならなら……ぷっ」

竜華「そこで笑うん!?」

華菜「こんなんと張り合ってた自分が馬鹿みたいだ……」

淡「なによ」


 向こうは一件落着したらしい。

 あと、大星淡はやっぱり馬鹿だった。大惚け阿呆いとかに改名したらいいんじゃないかな。


数絵「せめて、哩だけに参るわーぐらいにならないかな」

京太郎「どっちも同じだろ……」

竜華「せやって。須賀だけに清々しいとか、そんなぐらいにしないと」

京太郎「だから同じですよねそれ」

華菜「最低限、今のはイマイチ程度のレベルは欲しいし!」

京太郎「池田ァ!」

華菜「ひっ」










咲「京ちゃん」

咲「そうやって話題換わるの待ってても、私も待つから」


 ですよねー。


京太郎「仕方ないな……」

京太郎「あれは、暑い夏の日のことだった」

咲「うん」

京太郎「あれは、なついあつの日のことだった」

咲「京ちゃん」

咲「早くして」

京太郎「はい」


京太郎「話せば長い……そう、長い話だ」

京太郎「知ってるか? おもちは三種類ある」

京太郎「おっきい奴」

京太郎「おっきくて柔らかい奴」

京太郎「おっきくて生意気な奴」

京太郎「この三つだ」

京太郎「あいつは――」

咲「京ちゃん」

咲「早くして」

京太郎「はい」


京太郎「……なあ、咲」

咲「なに?」

京太郎「お前、段々とそうやって俺のことを脅すのが楽しくなってないか?」

咲「……えっ」

咲「そ、そんなことないよっ! きょ、京ちゃんの意地悪!」

京太郎「意地悪はどっちだよ……」


 なんなんだろう。辛辣キャラって流行ってるのだろうか。

 ……うーん。

 やっぱり、辛辣キャラなら小走やえが鉄板というか、彼女とのやりとりが一番落ち着く。

 ちなみに小走やえは鉄板ではないらしい。松実玄が言うんだから、間違いないだろう。

 彼女のそれにかける眼力は、闘牌時の清水谷竜華や福路美穂子に匹敵するのだから、さもありなん。


華菜「……須賀」

京太郎「なんですか?」

華菜「おもちだのなんだの、普通に引く」

竜華「ちょっと今のは……」

数絵「人がキャラ崩壊させてまでフォローしたのに……」


 まだ後遺症が残っていたらしい。

 ちなみに大星淡は、こちらに背を向けて自分自身の胸を揉んでいた。

 なにしてるんだ、お前は。


京太郎「つーかさ」

京太郎「そんなに、俺が大星の胸を揉みしだいたのが気になるのか?」


 聞いてどうするのだろうか。どうしたいのだろうか。

 正直なところ、敗北感を覚えることしかあり得ないと思うが。

 他人のその手の話って、触れるものか? いや、男子同士では適度に猥談をしたり、しょーもない話はするけど。


咲「京ちゃん、そういうのをセクハラって言ってね?」

京太郎「じゃあお前は逆セクハラだよな」

竜華「……んー、なんやろ? ノリで?」

京太郎「そのわりにノリノリどころか引きぎみですよね」

数絵「会話に参加できるなら、何でも構わないのよ」

京太郎「え? それ、辛辣キャラなの? それとも素なの?」


 地味に味方がいないな。

 略すなら、地味方がいないというところになるんだろうか。略してもだからどうだという話であるが。

 明確に責め立てられるのよりも、始末に悪い。


淡「まー、攻められたのは私の方なんだけどねっ」 ババーン

京太郎「……お前が俺のことをどうしたいのかわかんねーよ」

淡「まったくもって!」


 どうしたもんかな、と首を振ってみる。

 咲は――なんだかんだ付き合いが長い。一時交流が途絶えたものの、やっぱり付き合いなら最長だ。

 そんな咲が果たして、こんなこと――と言ったら大星淡に失礼だが(いくら馬鹿だとしても)――を気にするものか。

 和の胸に目線をやってたときも、「京ちゃん、少し控えたら?」と窘めてきた程度の奴であるのに……。

 やっぱり、見るのと揉むのでは違うのか。


 ……違うな。うん。

 まさかあの我が儘な大星淡はおっぱいまでもが我が儘だとは思わなかった。こればかりは、触ってみないと判らない。

 うん、確かに。見るのと揉むのは違うのである。


 ……やめよう。

 こんなことを考えているから、そこはかとなく――ではなく、ガッツリ残念とか言われる始末になるのだから。

 まあ、あるとしたら。


京太郎(数絵と、清水谷先輩……更には飲み会って状態に挙動不審になってるってとこだよな)

京太郎(M.A.R.S.ランキングでは対戦してる筈なんだけど……)

京太郎(やっぱり、根がどっかインナー系なんだよな。咲の奴)


 だから今でも、インタビューされると慌てるし。あわあわするし。

 そこらへん、姉とは大違いだ。


淡「ねー」

京太郎「なんだ?」

淡「今、私のこと考えた?」

京太郎「いや? なんで、そう思った?」

淡「んー……むむむむむ」

淡「なんとなく?」


 馬鹿だ。やっぱり馬鹿だコイツ。知ってたけど馬鹿だった。

 ……。

 咲、インタビューになるとあわあわするよな。


淡「呼んだ?」

京太郎「呼んだねーよ」

淡「そーお?」


 ……。

 泡姫。泡風呂。泡嬢。


淡「ふんっ」

京太郎「痛ッ!」

淡「なんか失礼なこと考えてたよね、馬鹿須賀!」


華菜「なー」

華菜「もう、ぶっちゃけどうでもいいから、早く飲みたいし!」

京太郎「池田ァ!」

華菜「ひっ」

華菜「なんだよぉ……」

京太郎「ありがとうございます。そして、怒鳴ってごめんなさい」

華菜「い、一々叫ばれると心臓に悪いんだよ……」


 まさか、池田華菜が味方になってくれるだなんて思いもしなかった。これはありがたい。

 でも、なんでだろう。池田華菜を前にすると、非常に叫びたくなる。

 辛辣キャラに感染したのかもしれない。

 ああ……ベクターはこいつだったのか。

 やっぱり敵だった。


 獅子身中の虫。軒を化して母屋を取られる。青は藍より出でて藍より青し。……最後のは多分関係ない。

 うーん。

 まあ、話せば誤解は解けそうだし、引き延ばさずにさっさと話した方がいいだろう。

 流石にこれ以上の引き延ばしは、ボンボンでも不可能だ。1ページくらい猫が黒電話の受話器を持ってても許されるボンボンでも不可能だ。

 そういえば最近、黒電話を見ない。それ以上に気になるのはクロちゃんの作者さんの行方だ。

 pixivで漫画書いてるそうだけど、どうなってるんだろう。今。


京太郎(……さて)

京太郎(あれは――俺が大星と喧嘩したあとプールで再会して、盗撮犯をブチのめし、調子こいた二人をプールに沈め)

京太郎(仲直りして、パーカーごとプールに沈められ、大星の機嫌を静めたあとの話だ――)


 ◇ ◆ ◇


淡「ね、きょーたろーきょーたろー! 次はあれに行こー! あれ!」

京太郎「ウォータースライダーか……まあ、いいけど」

淡「ああやって、高いとこからばびゅーんってするの好きなんだよね!」


 ……ああ。馬鹿と煙はなんとやら。


淡「ねー、ほらほら! 早くしないと置いてっちゃうー!」

京太郎「……元気だな、お前」

淡「だってさー」

京太郎「だって?」

淡「……。……なんでもない」

京太郎「いや、そこで区切られても……」

淡「なんでもなーいー。ないったら、ない!」

京太郎「さいですかい……」


淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」


淡(どーしよ)

京太郎(どうすんだよこれ)

淡(ウォータースライダーって、密着じゃん)

京太郎(これ、密着コース以外の何者でもないよな)

淡(私が前だと……後ろから須賀に………………無理無理無理。やだやだやだやだ。そんなんやだ)

京太郎(俺が前に……うーん、でも後ろからだと胸とか当てられるかも知れねーよな)

淡(やだやだ、こんなスケベな奴を後ろにしたらなにされるか判んないよね)

京太郎(それだと絶対気まずくなると思うんだけどな)

淡(でも……私が後ろだと……その、なんか後ろから抱きついてるみたいになるし)

京太郎(……お、美人発見)

淡(だったらやっぱり、やめて…………でもそーすると、なんか、高いからびびったみたいじゃん)

京太郎(うーん。やっぱりプールっていいな。生足魅惑のマーメイドばっかだ)

淡(うー。なんか、そうやってコイツに舐められるのムカつく!)

京太郎(……)

淡(絶対こいつ、ちょーしこいて私のこと茶化すよね?)

京太郎(下らないこと考えて会話潰したけど……そろそろ、如何にこのウォータースライダーで取る姿勢が危険か気付いたか?)

淡(そんっ、なんっ……絶っっっ対に許さないから!)

京太郎(ああ、でもこいつ馬鹿だしなぁ……気付いてないこともあり得るか)


淡「絶対絶対っ、負けないから!」

京太郎「あ、ああ……そうか?」


淡(今の感じだと……コイツはウォータースライダーの危険に気付いてないよね)

京太郎(駄目だ……コイツやっぱり馬鹿だった)

淡(だったら、私さえしっかりしてれば恥ずかしくない! コイツに辱しめられないよねっ!)

京太郎(それとも、俺相手だと恥ずかしくも何ともないってことなのか?)

淡(ふふーん♪ それどころか、コイツのことを逆に慌てさせてやれば私の勝ちだよね!)

京太郎(……なんだろう。なんか腹立つな、コイツ。意識してるの俺だけかよ)

淡(私の、魅惑のボディでメロメロにしてやるっ!)

京太郎(ちょっとぐらい、慌てさせてもいいよな?)


京太郎「……俺が後ろか」

淡「私が前だねー」


京太郎(係員に間違われたけど……カップル……に見えるか? 兄弟っていうなら判らなくもないけどな)

淡(カップルかー。ま、私はかわいいから仕方ないよねっ)

京太郎(でも、誕生日はコイツが先なんだよなぁ……なんか腹立つな。不思議だ)

淡(へっへーん。どーだ! 感謝しなよ! こんな可愛い彼女連れてるって思われてるんだよ?)

京太郎(……なんだろうな。コイツに負けるのって色々腹立たしいんだよな。なんか、生意気な奴だし)

淡(む……きょーみないって顔……)

淡(ふーん)

淡(いいよ、だったらくれてやる――) ムニュ


京太郎「!?」

淡「ん、どしたの?」

京太郎「いや、お前……!」

淡「?」

京太郎「……なんでもない。なんでもない」

淡「そーお?」


京太郎(尻が当たってるんだけど……なんだよこれ)

淡(きょ、きょーたろーに……お尻当てちゃった……)

京太郎(でも……コイツに、慌てた様子は見られない。流石に感覚では判ってるだろうから……どうでもいいってことか)

淡(でも、今ちょっとは慌ててたよね? これは私の勝ちかな?)

京太郎(とぼけた顔しやがって……いいぜ。なら、俺にも考えがあるからな)

淡(へっへーん♪ 所詮アンタはその程度ー。プロ雀士100段、女子力100レベの私には勝てないんだよね)

京太郎(大星相手にやるのは気が引けるけど……ちょっとだけだからいいだろ)

淡(もしこれで勝手に熱を上げられたらどうしよっかな――) フニュ


淡「んひゃっ」

京太郎「どうした?」

淡「うー、あんた、私のお腹に……」

京太郎「?」

京太郎「いや、変にバラバラになっても危ないんじゃないかって思って手を回したんだけど……嫌だったか?」

淡「べっつにー? いきなりだから、びっくりしただけ」

京太郎「そうか?」

淡「そーだよ」


 大体こんなやりとりが続いた。

 次第にそれは、エスカレートしていった。

 例えば、大星淡が――。


京太郎「……ふぎゅっ」

淡「どーしたの?」

京太郎「お前、俺の太股に……」

淡「ああ、手持ちぶさた……手の置き場ぶさただったからだけど……。嫌だった? やめて欲しい?」

京太郎「いいや? 全然何ともないな」

淡「ふーん」

京太郎(クソ、変な声出た……! 憩さんでもなくコイツに……!)

淡(今の声……ぜったい、須賀の弱点だよねー? ふふーん♪)



 時には、須賀京太郎が――。


京太郎「なあ、大星……いや、淡」

淡「んん~~~~~っ、っ、なっ、何よ! 耳元で喋んないでよっ!」

京太郎「あ、ああ……悪いな。なんか会話が他に聞こえて、プロってバレたらヤバイかなって思ったんだけどさ……」

淡「……う」

京太郎「悪かったな。嫌なら、やめるからそう言ってくれよ」

淡「……っ。別に、ただびっくりしただけだから」

京太郎「そうか?」

淡「そーだよ」

京太郎(へー、こいつ首筋か耳許がじゃくてんなのな)

淡(うー、こ……こんなのって……ムカつくっ! 絶対ぜったい、須賀なんかに負けないっ!)


係員(……こいつら死なないかなぁ)

係員(こういうとこなら、ひょっとしたら出会いもあるかなって思ったんだけど……)

係員(なんでイケメンと美人のカップルのイチャコラ見せつけられてるのかしら)

係員「それじゃあ、出発しますねー」


 で、エスカレートしてれば仕舞いには……。


淡「……っ」

京太郎「……っ」


 耐えられなくなるのは必然だ。

 そしてそれは、大体出口付近……最後近くで起きた。

 須賀、大星ペアは瓦解。空中分解ならぬ水上分解。

 そのままそれぞれがそれぞれ、ウォータースライダーの着水場所に投げ出された。体勢が崩れたまま。


 底が浅すぎると、着水の勢いのままプールそのものに身体を打ち付けて仕舞いかねない。

 それ故に、この着水場所というのはある程度の水深を持っている。

 とは言っても、普通に泳げれば――というかジャンプさえできれば、まず溺れることはないし。

 その為にキチンと確認が行われているのだが――。


淡(……っ、か、髪の毛がっ)

淡(やだ、息、できないっ)


 どこにでも、アクシデントというものは付き物だった。

 髪の毛が、何かに引っ掛かった。

 分解した直後に唐突に着水したので十分に空気が吸えず、更には浮き上がろうとした途端に頭を掴んで引き戻らされるかのごとき感触。

 言うまでもなく、大星淡はパニックになった。


淡(やだっ、やだやだっ、死にたくないっ、誰かっ)

淡(たすけて、たすけてよっ、テルー、たすけてっ、たすけっ、たすけてっ)

淡(笑えない、笑えないよっ、こんなプールで死んじゃうとか、やだよぉ、やだっ)


 加えて言うなら、大星淡は泳ぎが得意でなかったのが理由だろうか。

 得意であっても、唐突な事態に慌てるであろうことは間違いないが――。

 それでも、水中に於いての自分自身に対して自信があれば……無理に水面へと上がろうとはせずに、耐えて落ち着くこともできたはず。

 苦手だから一刻も早く水から上がろうとし、それ故に焦って視界が狭くなり、酸素を浪費してパニックになり、水面への抵抗を激しくする。

 そんな、金槌の連鎖が行われてしまうのだが――


京太郎「淡! 大丈夫か!」


 まあ、この場には須賀京太郎がいた。


京太郎「ちょっと待ってろ、まず、身体ちゃんと支えるから――」

淡「っ! っ、っ、っ……! ……っ!」 ジタバタ

京太郎「ちょ、馬鹿野郎! 待ってろって! ちゃんと息吸わせてやるから!」

京太郎「暴れんな! 暴れんなよ!」


 ――むにゅぅぅう。


淡「!?」

京太郎「……!?」


京太郎「おい、暴れんな! 暴れてる場合か……!」

京太郎(クソ……淡には悪いけど、このまま水面に頭を出させるのが先だ! 四の五を言ってられない!)

京太郎(あとでいくらでもブン殴られてやるから、それより俺はお前の方が大事なんだよ!)

京太郎(許せ! つーか、頼むから暴れんな! 俺も泳ぐのすげー得意ってレベルじゃねーんだよ!)


京太郎「淡! 顔、あげろ!」

淡「ぷはっ、あ、は、ぁ……ごほっ、ごほっ、げほっ」

京太郎「息吸えるな? 大丈夫だよな?」

淡「ん、うん……けほっ、こほっ」

京太郎「よし、深呼吸しろ。深呼吸」

京太郎「俺が、支えててやるから大丈夫だ。絶対お前を守ってやるからな」

淡「ありがと、きょーたろぉ……! こほっ、ごほっ」

京太郎「いいから、喋らずに息吸っとけ。……髪の毛、絡まってんのか? これは」


京太郎「俺からじゃ……無理だな。とれない」

京太郎「取り合えず、支えるのは俺がやってやるけど……外すの出来るか?」

淡「やってみるけど……」

淡「ねえ」

京太郎「なんだ?」

淡「いつまで私のおっぱい掴んでんの?」

京太郎「……あ、悪い」

淡「……まあ、助けてくれたし、許すけどさ」


 ただまあ。

 大星淡が許しても、意地悪な運命様かなんかは許してくれなかったらしい。

 ――はらり、と。

 着水の衝撃か、それともそのあと暴れたことが原因かは知らないが……。

 京太郎がその手を離すと同時に、水着のトップスが外れてしまった。


 そして――。


京太郎(咄嗟に俺が手で隠しちまった――!?)

淡(きょーたろーの手におっぱい隠させちゃった――!?)


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……ふッ」

淡「!?」

京太郎(流されてく前に、なんとか足で捕まえられた。危なかった)

淡(きよーな足してんじゃん)

京太郎(体勢は不安定になるけど……まあ、背に腹は変えられねーな)


 左足一本で爪先立ち。右斜め側方に右足を。右の親指と人差し指で水着をホールド。。

 両手は――大星淡の胸を下から掬い上げるように覆う。

 というか、放っておけば水中に入ってしまうのを引き上げるから、必然的に掬い上げる方になるのだ。

 で、大星淡の頭頂部が目の前に。ちょうど、顔半分ほど下な具合。京太郎の口の辺りに、淡の耳の先が来る。


京太郎「……」

淡「……」


 どうしたもんか。マジで由々しき事態だ。

 係員が入れば、間違いなく頼んだだろう。

 が、いない。来ない。


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……水着、もっとこっちに寄せらんないの?」

京太郎「股関節の構造からして無理だ」

淡「だよね」


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……髪の毛で、隠すとか出来ないのか?」

淡「できなくないけど……波あるから、意味ない」

京太郎「……だよな」

淡「髪の毛は?」

京太郎「俺のところからじゃ、届かない」

淡「じゃあ、私がやるしかないよね」

京太郎「ああ」


 二人とも冷静だった。というか冷静のフリでもしてなければ、いられなかった。

 お互いに、敢えて意識から外したのである。

 今の二人は、速やかに行動を完了する仕事人であった。そんな無言の相棒であった。


 だが――


淡(あ……) ピクッ

淡(髪の毛ほどこーとして動かすと、こいつの手に、おっぱい凄くあたっちゃう)

淡(我慢……我慢、我慢)

淡(我慢、んっ、しないとっ……) ピクッ

淡(別に、なんでもないから、こんなの……なんでもないっ) フルフル

淡(ううっ……早くほどけてよぉ……) グスッ

淡(水が冷たくて寒いのに、なんかきょーたろーの身体が変に熱っぽくて気持ち悪い……っ)

淡(触られてるとこまで、変に芯が熱っぽくなるし……背中も、きょーたろーの肌に当たってるし……)

淡(ううっ……やだよこんなのぉ……恥ずかしいよ) グスッ


淡「!?」 ポニュ

淡「ちょ、やっ、ば、ばかっ……!」 ビクン

淡「ば、ばかぁっ、おっぱい揉まないでよ!」

京太郎「わざとじゃないんだ、信じてくれ……! 波が来て、俺も足場ヤバくて……!」

淡「わざととかそーいう話じゃなくて――やっ、んっ、ま、またっ」 ビクン

京太郎「悪い! マジですまん! なんとか踏ん張るから!」

淡「ううっ……」 グスグスッ


淡(あと、ちょっと――ひっ!?) ゾクゾクッ

淡(やだ……なんでっ、なんでなのっ!?) ビクン

淡(なんで私のおっぱい、えっちな感じになってるのよっ……!?)

淡(やだ……須賀に、こんなの知られたくないのに……手のひらに当たって押し返しちゃうよぉ……) グスグスッ

淡(ううっ、これじゃ、動けないぃ……) フルフル

淡(今、須賀に動かれたら……)

淡(やだやだっ、やだっ、そんなのぜったいだめっ! だめったら、だめっ!)

淡(収まってよ……お願いだから、収まっててばぁ……) グスグスッ

淡(こんなんじゃ、きょーたろーにけーべつされちゃうのに……んんっ!) ビクゥゥン

淡(もー、やだぁ……)


京太郎「……淡」

淡「ひっ」 ビクッ

淡「あの、その、これはさっ、あの、その」

京太郎「その……深呼吸しろ。思いっきり、息を吸え」

淡「で、でも……今そんなことしたら……」

京太郎「背に腹は変えられねーだろ?」

淡「で、でも……」

淡(あたっちゃうよ……思いっきりこっちから押し付けちゃうってばぁ……)

京太郎「最後ぐらい我慢しろ。できるだろ? そりゃー、嫌かもしれないけど」

淡「最後……?」

京太郎「普通に、冷静に考えてみたんだけどな?」

京太郎「お前が思いっきり息を吸って、潜るだろ?」

淡「うん」

京太郎「で、俺が一時的に手を離して潜る」

淡「うん」

京太郎「こんとき、お前に水着を渡す。一人でつけるのは――その、曝すことになるかもしれないが……水の中だし多少は平気だ」

京太郎「つーかな?」

京太郎「なんか、どっかで景品大会やってるらしいから……今、こっちに人こねーみたいだ」

京太郎「普通に考えて、目撃者が居たら通報モンだからな……そこで気付くべきだったぜ」

淡「……」

京太郎「で、潜った俺が髪の毛を外すんだよ」

京太郎「どーだ、この作戦? 完璧だよな?」


淡「……」

京太郎「いやー、なーんか引っ掛かると思ってたんだよな。不自然だってさ」

京太郎「ウォータースライダーも、上のとこで時間喰ったのに文句言われなかったのは……後ろに誰もいなかったからだ」

京太郎「それなら、さっきみたいに阿呆なことができるに決まってる」

京太郎「確証が持てなかったからなんとも言えなかったんだけどさ……今、放送を耳にして確信した」

京太郎「これでなんとか、全部の条件はクリアしたな。何も問題ない」


淡「……」

淡「ねえ……その作戦、いつ思い付いたの?」

京太郎「ん?」

京太郎「あー、そのー……そのな? こう、なんとか踏ん張っててバランス取ってるときか?」

京太郎「これ、いっそ俺が潜った方がいいんじゃないか?――って、思ってさ」

京太郎「客が居ない理由に確信が持ててないから、ちょっとばかし保留にするしかなかったんだ。ごめんな?」

淡「……」

京太郎「淡?」

淡「……」

京太郎「……大星?」

淡「……」

京太郎「……大丈夫か? 身体、冷えすぎたとかか? なあ、大星?」


淡「…………ゃえ」

京太郎「ん?」

淡「死ねっっっっっ! 死んじゃえ! 死んじゃいなよ、馬鹿須賀っ!」

淡「ばかばかばかばかばかばかばかっっっっっ! 絶っっっ対、ほんとーに許さないからっ!」

淡「この、ちかんっ! すけべっ! ごーかんまっ!」

淡「死ね……いや、いいよ。いっそ、私が殺したげる!」

京太郎「ちょ、おい! 暴れんな! 暴れんな! なあ! おい!」

京太郎「危ない! 危ないんだって――うおっ、バッ、馬鹿野郎!」 フニュゥゥ

淡「――――――!?」 ゾクゾクゾクゾクッ

淡「やっ、こ、この……っ」 ググッ

淡「須賀なんて……絶対、許さないんだから――――ひぃっっっ!?」 ビビクン

京太郎「……」

京太郎「……助けて。誰か助けて」


 ◇ ◆ ◇


京太郎「――的なことがありましてですね、はい」

淡「あったんだよねー」


 大星淡と、ある程度話を合わせながら伝える。

 お互い、この件については思うところがあるため、詳細や細部については話さずに、概容を伝えるに留まった。

 ……いや、そもそもそれなら話題に出すなと言いたいが。


 そこらへん、やはり新子憧と大星淡は違う。

 計算ができる知的な少女(今は女性)の新子憧と、自称麻雀100段の大星淡には大きな差があるのだ。

 新子憧は、その後話題を蒸し返したりはしない。碌なことにならないと知っているから。

 それなのに、このバカは……


淡「?」

淡「どしたの?」


 変わらずに馬鹿だった。やっぱり馬鹿だった。馬鹿なのである。

 普通、気まずくてそんな話題出せやしないのに。マジモンの馬鹿だ。The Biggest DreamerというかThe foolish Tripperだ。

 その後、過度に避けたりせずにわりと普通に話しかけてくる――のは、新子憧と一緒だけど。


 まあ、なんだかんだそーいう馬鹿と縁があってもいいんじゃないか――。


竜華「セクハラやな」

数絵「悪いけど、ちょっとフォロー無理」

華菜「……お前ら、公共の施設をなんだと思ってんのさ」

咲「……京ちゃん、面会には行くからね」

京太郎「……え」

淡「ねーねー、訴えたら勝てるかなっ」

竜華「取り合えず、訴えたもん勝ちなんやないんかな」

数絵「基本、女性有利だから……大丈夫じゃない?」

華菜「妹たちと引き剥がしといてよかったし……」

咲「知り合いの弁護士さん、紹介しようか?」


京太郎「えっ、いや……その……」

京太郎「なにこの扱い」


竜華「その、ごめんな、京太郎くん。ちょっと、うちでもキツいなーって」

京太郎「え」

数絵「えーっと…………ほら、プロだけが麻雀じゃないんじゃないの?」

京太郎「お、おい」

華菜「そのー、達者でな? 次はいい人生を歩むんだぞ?」

京太郎「いや……」

咲「大丈夫だよ、京ちゃん。出所するまで待ってるから」

京太郎「ちょ、ちょっ」

淡「なら、仮出所まで待ってたげるーっと」

京太郎「原告は無理だと思うんだけどな……」


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……」


京太郎「――今日は、飲む! 飲んで忘れてやるからな!」


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最終更新:2014年03月15日 00:57