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華菜「――こら」


 ぽかんと、後頭部を叩かれた。

 首を傾げて後ろをみれば、そこには呆れ顔の池田華菜が、腰に手をやって須賀京太郎を見下ろしていた。

 やれやれと、ため息を漏らす池田華菜。


華菜「男が、女相手に凄んでどーすんだよ」

華菜「それよりは、楽しく話でもした方が建設的だって……あたしはそう思うんだよね」

華菜「それに、宴会の席でやることじゃないし! それぐらい、お得意の常識で考えろっての」


 ――。

 ――。

 ――。


 あー。駄目だ。


京太郎「池田先輩、あなたのことを華菜って――――」

やえ「――――お、おまたせー」


 あっ。


淡「んふー♪」

衣「そこは衣のだぞ」

咲「……」

やえ「……」

竜華「……」

華菜「……」

数絵「……」

豊音「……」 カタカタ

エイスリン「……」 カタカタ


 なんぞこれ。

 登場人物多すぎなんですけど。

 十人で囲んでるテーブルの空気重すぎなんですけど。

 小走やえと南浦数絵が合流してからの空気ヤバイんですけど。


桃子(空気と呼ばれた気がしたので登場っす!)

京太郎(も、モモか?)


 助かった。

 同じ、空気が薄い――じゃなくて、影が薄いもの同士助けてほしい。

 あのときは実に最高のコンビネーションを発揮したのだから――。


桃子(うーん、無理っすね)

桃子(そもそも私は影であって、空気じゃないんで)

桃子(それじゃあ!)

京太郎(おい待て99位)


 高笑いを残して去っていく。

 何しに来たんだアイツ。


桃子(カメラへのアピールっすよ!)

京太郎(まだ居たのかよ……っていうか、カメラとかあるのかよ)

桃子(カメラへのアピールの練習っすよ!)

京太郎(一気に物悲しくなったな……)

桃子(じゃあ、アデューっす! 再見っす!)


 なんなんだこれ。

 なんなんだこの状況。


京太郎「……」

淡「きょーたろーきょーたろー」

淡「髪!」

京太郎「……」

淡「ね、ほら、髪!」

淡「きょーたろーに褒めて欲しくて、気を使ってるんだよ?」

淡「ねー、きょーたろー!」


 崖の上のポニョ。

 膝の上の淡。

 まな板の上の鯉(“いまのすがきょうたろう”と読む)。


京太郎「……」

衣「キョータロー」

衣「あーん」

京太郎「……」

衣「あーん」

衣「……」

衣「キョータローは、衣のことが嫌いなのか……?」


 どうしたらいいんだろうね、もう。

 何もかもわっかんねー。わっかんねー。

 助けてくれよ。


京太郎(とりあえず……やえさんの目の前でこれ以上、ベタつかれるのは避けたい)

京太郎(まずはこの目の前、膝の上に乗ってるバカを払い落としたいけど……さっき、池田――華菜さんに女を邪険に扱うなと言われたばかり)

京太郎(だから……難しいよな、うん)

京太郎(……どーしよ)

京太郎(やえさんは不機嫌になってる……のをどうにかしたいけど、華菜さんの言葉を無視するのも印象が悪くなりそう)

京太郎(どうすりゃいいんだよ、俺)


やえ「あの、大星淡が膝の上に座って……あの、天江衣が腕に抱きついてる」

やえ「……ねえ、これどんな状況なのよ?」

数絵「さっぱりなんで……教えてくれませんか、清水谷先輩」

竜華「んー」

竜華「なんか、なつかれとるみたいやな」

淡「違う! きょーたろーが膝の上に乗って欲しそうにしてるんだから仕方なくなんだって!」

衣「衣はおねーさんだから、キョータローが一人にならないようにしてやってるんだ!」


 むしろ今、心理的には絶賛孤立中なんだけど。

 孤立無援どころか、四面楚歌なんだけど。

 やめてくれよ……そんな、ロリコン犯罪者に向けるような目をしないでくれよ……。


豊音「こーして見てると、みんな金髪だから兄妹みたいで微笑ましいよー」

エイスリン「!?」

エイスリン「ソノ手ガアッタカ……」

豊音「エイスリンさん?」

エイスリン「イザナギダ……」

豊音「???」

エイスリン「何時から私が片言だと錯覚していた……?」

豊音「えっ、えっ」

エイスリン「ナーンテ、listeningトreadingハトクイダケド、Speakingハ苦手」

豊音「そっかー」


咲「あの……池田さん、ありがとうございます」

華菜「いーからいーから、そんなん気にすんなし!」

咲「でも……」

華菜「それを言ったら、苦手なのに率先してどーにかしようとしてたそっちの方がよっぽど偉いんだからな」

華菜「宮永は、もーちょっと堂々としてろし!」

咲「は、はい……!」


 KMG(華菜ちゃんマジゴッド)。


京太郎(やっべえ……惚れそう)


 正直結婚したい。

 おもちとかそういうんじゃなくて……人柄に惚れそう。というか惚れた。

 ……うん。

 小走先輩には脈がない、というか話せば話すだけそっけなくされるし――いや、大事には思われてる(と思いたい)し評価もされてるんだろうが――。

 もう、良き相棒ってことでいいのかもしれない。


竜華「あー」

竜華「多分今、結婚したいって思っとるな。京太郎くん」

やえ「!?」

やえ「どっちと!? あのぱーぷりんか!? それとも合法幼女!?」

竜華「え、えーっと」

数絵「なんだかんだ頼りにしてた仲間が大変なことになってるんだけど……どうしたらいいんでしょう、お祖父様」


淡「んへへへ、えへへへへ」

淡「きょーっ、た、ろー!」

淡「んへへへ、んへへへへへへ」

淡「もー、無視すんなー」

衣「キョータローは……衣のあーんは受けてくれないのか……?」

衣「やっぱり……」

衣「やっぱり……キョータローは……」

衣「ハギヨシじゃなきゃ、いやなのか……?」


エイスリン「……俺のライバルと相棒が修羅場すぎてヤバイ!」

豊音「エイスリンさんは難しい言葉知ってるねー」

エイスリン「ソ、ソレホドデモ……」

豊音「でも、私もそう言うの知ってるよー?」

エイスリン「?」

豊音「私の名前は“八尺(トールハンマー)”の豊音……この身に刻まれた呪われし紫の運命、六曜に呑まれるがいい……!」

エイスリン「……Oh」 ヒキッ

豊音「ち、違うよー! 対木さんの映画の真似をしただけだからっ!」

エイスリン「……This way...I know...I know」 ナマアタタカイメ

豊音「ううー、違うんだよー」


華菜「麻雀でもそうなんだけどさ……」

華菜「宮永は強いんだから、もーちょっとずうずうしくなってもバチはあたらないし!」

咲「そう、ですか……?」

華菜「そうそう」

華菜「あんまり傲慢な感じだととーぜん嫌われるだろうけどさ」

華菜「逆に、あんま下手に出ても……今度は今度で、負けた相手が惨めになるだけだからな」

咲「池田さん……」

華菜「なーんて、含蓄ある言葉だろ?」

華菜「ま……ずーずーしくしててくんないと、ブッ倒して吠え面かかせ甲斐がないってのが本音だけどな」

咲「ふふっ」

華菜「ん」

華菜「おどおどしてないで、そーやって笑ってた方がずっといいし! 笑う角にも、福来るってさ」

咲「池田さん……」


 なにあのイケメン。


京太郎「なあ……」

淡「なーに?」

衣「どーしたのだ、キョータロー?」

京太郎「俺ってさ……イケメンだよな?」

淡「べ、べっつにー」

淡「顔だけは悪くないとも言えなくもないかもね。きょーたろーの癖に!」

衣「そーいう言葉が出るところが残念って、一が言ってた!」

京太郎「……マジかよ」


 異性でよかった。二重の意味で。

 同性だったら、多分、比べられてかなり悲惨な扱いになってたから。

 ……陽介、元気だろうか。


やえ「頭が痛い……」

数絵「小走先輩、結構京太郎のアプローチを袖にしてましたけど……実は……?」

やえ「ん?」

やえ「いや、相棒がアレとか嫌でしょ」

数絵「アレ?」

やえ「酔うとぱーぷりんになるプロを膝に乗せたまま、振り払おうともしないで飲み会を続けたり……」

やえ「見た目小学生に腕を抱き抱えられても、そのまま飲み会を続けたりするバカだったら」

数絵「あー」

竜華(うーん)

竜華(これはどっちなんやろーかな?)


京太郎「っと、淡」

淡「なにかなっ、きょーたろー」

京太郎「ちょっと降りてくれ。用事だ」

淡「えー」

京太郎「ほら、立ち上がるからあぶねーんだって」

淡「なら、一緒にいくー! 奈良だけにー!」

京太郎「足を胴に回すな、足を」


 背中側に回すように、足でホールドをする淡。

 タコか。タコなのかコイツ。

 バカだから全く意識してないんだろうが、それが軽くアレな格好っていうのを理解した方がいい。

 酔うとアレになるタイプ、やけに多い気がする。周り。


淡「このまま、きょーたろーと一緒に歩けばいーよねっ!」

京太郎「なんなら、山でも登ってやるけど……行き先、言わせんなよ」

淡「どして?」


 察しろ――と、言いたいが……相手は所詮ただの酔っ払いだ。

 つーか、そもそもからして気遣いなんかとは無縁そうな馬鹿。マシンガントーク使いである。

 ちょっとトイレに行きたい……というか、かなり飲んだから我慢してるので、中々である。

 清水谷竜華に乗られていて、そこらへんから動けてない。というか正直限界に近い。わりと切羽詰まってる。


 ……なので。

 正直、酒の席とは言っても――いや、だからこそ不味いのかもしれないが。

 こちらも手段を選んではいられない。速やかにひきはがさないとならないのである。


京太郎「……淡」

淡「なーにー――いっ!?」

淡「~~~~~~~~っ!? ~~っ! ~~~~~~~~~っ!」 ゾクゾクゾクッ

京太郎「悪いな」


 耳に甘噛み。

 軽く舌を動かして、驚きと声にならない悲鳴で手が剥がれるのを確認して立ち上がる。

 確か前、耳と首筋が苦手と言っていたが……どうやら効果はあったらしい。

 まあ、大星淡相手でも二度とやりたくはない。

 流石にこっちが酔ってて――向こうもそれ以上派手に酔っているとしても、やっていいものではない。

 そそくさと、その場を後にする。


淡(やだ)

淡(着替えなきゃ……)

京太郎(そのまま、どっかで時間潰すか……)


 あの場に誰がいると問題か。そんなのは判りきっている。

 言うまでもなく須賀京太郎である。

 コーラを飲んだらゲップが出るくらいというか、ゲップを出すまでもないというか、コーラを飲むまでもなかった。

 ビールを飲んでるし。しこたま飲んでるし。

 まあ、しこたま飲もうがたらふく飲もうが、人前でゲップを出すほど須賀京太郎は落ちぶれてはいない。


京太郎(やっぱり、女所帯に男一人ってなぁ……結構、お互いに気を遣うっていうかさ)


 相手が男だからか、普段の対応に反してやたらと接触が増える大星淡。

 悪い気がしないことは一切ない……と言ったら嘘になるが、ああいう媚媚キャラがいると女性同士険悪になるというのは流石に判る。

 「ぶりっ子って嫌われるのよね」と言うのは新子憧の言葉だ。

 他に男がいるなら、さっさと持ち帰られて平穏になる――のかは判らないが、とにかくあの大星淡は不味い。

 彼女が酔ったときの反応を知っている親しい人間――白糸台のメンバーならともかく、そうでないなら問題だろう。

 というか、対面座位っぽい格好になるとかどんだけビッチなのよ。どんだけ性に開けっ広げなのよ。股が弛いのよ。

 性ってか股を開けっ広げだよね。股ってか頭が弛いけどね。

 馬鹿故に意味を考えてないとか、酔っていて意味が判ってないとかを除けば、もう、あからさま過ぎてそっから色仕掛けで相手を暗殺しようとしてるとしか思えない



 で、天江衣。

 あの人は――まあ、悪い人じゃないんだけど。多分、そーいう意識とかないんだろうけど。

 相手にしないと、非常に罪悪感が刺激されるんだけど。

 でもさ。あーんを受けようとしたときの女性陣からの「……ああ、やっぱり」って目線が辛い。

 あと、間違いなくどっかの金髪の馬鹿が対抗心を燃やすから手に終えない。

 八方塞がりなんだよな。残念ながら。


京太郎(……ふう)

京太郎(ま、俺抜きになったら皆楽しくできるならそれでいーよな)


 煙管でも燻らせながら適当に歩きますかねーと、壁から背を離す。

 そのときだった。


京太郎「あれ?」


京太郎「エイスリンさん?」

エイスリン「……アノ」

エイスリン「エット…………」

エイスリン「ソノ、コレ……っ」


 何か便箋のようなものを手渡された。

 まあ、これが便箋に偽装した爆弾や炭素菌配合のダーティ・バイオテロでもない限りは便箋だろう。

 色褪せたセピア色の古新聞――を思わせる便箋。忍者刀のシールで止めてあるのが、どこか可愛らしい。


京太郎「えーっと、何々……?」

京太郎「……」


 簡単に纏める――というか翻訳するなら(日本語・英語が入り混じっており、ところどころ文法が怪しかった)こうなる。


 『ドーモ、オカルトスレイヤー=サン。エイスリンです。

 唐突かもしれませんし、同じランカーが何を言っているんだ――と思われるかもしれませんが、私はあなたのファンです。

 オカルトスレイヤーでの貴方のすばらしいアクションと演技に魅せられました。

 それ以上に何より、体のところどころに、前の放送ではなかったような傷があって……努力をして真剣にドラマに臨むという貴方の姿勢に感銘を受けました。

 プロである以上、私もかくありたい――と思っています。この姿勢は、日本人の丁寧や誠実という心意気をあらわしているようで、私の仕事に対する原動力になり

ます』



京太郎「……」

京太郎「……いや、俺も麻雀プロでドラマは本職じゃないんだけどな」

京太郎「……」

京太郎「続き、っと……」


 『なによりも、そのオカルトスレイヤーのドラマ以上に私の心を打ったのは、貴方です。

 貴方は、何があってもへこたれない。何があってもタフに笑って、表にそれを出しません。

 そして、物語のオカルトスレイヤーのように――あるいは唯一の超能力を持っている彼とは違って――貴方は単身、立ち向かいます。

 特別な力なんかなくても、不思議な打ち方なんてできなくても、貴方は決してあきらめずに麻雀で戦っています。

 それこそ、オカルトスレイヤーの撮影以上に、貴方はたゆまぬ努力をしているのでしょう。

 同じ麻雀プロとして、貴方のことを誇りに思います。貴方のような方とランキングを争えるのを、幸せに思います。あと笑顔が素敵です。

 どんなことがあっても、それを噛み締めて前に進める貴方は――それこそドラマの主人公以上に、素晴らしい人なんだと思います。すばらっ。

 その……あの、ちょっと話がそれてしまうのですが……。

 宜しければ、私とお友達になって貰えませんか?

 日本語の発音に未だ不慣れなためにご迷惑をおかけしてしまうと思いますが、なってくれると嬉しいです。

 私のメールアドレスと電話番号、住所を書いておきます。宜しければ、文通から始めてください。   エイスリン・ウイッシュアート』



京太郎「……ハハ、なんでちょいちょいネタをブッこんで来るんだろう」

京太郎「それに……文通って。どんだけ古風なんだよ……日本のこと、勘違いしてねーかな」

京太郎「……」

京太郎「……まあ」

京太郎「手紙のほうが、手間が掛かってる分……思いが伝わるってのはあるかもな」


 篭められたインクの震えであるとか。

 一つ一つ丁寧に紡がれた文字の並びであるとか。

 紙の端に残った指紋であるとか。

 そういうものが――心を打つときだって、あるのだ。きっとメールや電話以上に、雄弁に。


京太郎「……ったく」

京太郎「渡すだけ渡して、俺からの返事はどうするつもりだったんだ? 手紙の返事であれってやつなのか?」


 当選は発送にて代えさせてもらいます、的なサムシングなんだろうか。


京太郎「……」

京太郎「……まあ、麻雀プロを辞めたあと教師になるとしても、英語って必要だよな」

京太郎「別に、そのために外国人と文通したって不思議じゃないもんな」


 誰が聞いているわけでもないし、誰に言い訳するつもりでもないが、独り語散る。

 なんだか妙な気分であった。

 この高揚感は、多分、アルコールが齎すものではない。


 俺はそんな上等な人間ではない――という恥ずかしさと。

 俺はそんな風に見られているのか――という気恥ずかしさ。

 俺をそんなように思っていてくれるのか――という嬉しさ。


 全部がごちゃ混ぜになった、カクテルだ。

 あるいはちゃんぽんだろうか。酒を混ぜて飲むと変な酔い方をするというが――これもそのうちの一種なんだろうか。

 ……彼女の“特性(ちから)”を使われているという可能性は抜き。

 リアルでも麻雀のときの能力を使うとかそんなオカルトありえませんから。


京太郎「……はあ」

京太郎「ランカーにまでファンがいるとか、困ったな」


 ファンの前では、いつだって、いつも以上の力を出して闘わねばならない。

 理屈じゃなくて、そうなってしまう。そういうものであると思ってしまうのだ。普段力を抑えているなんて、そんな思い上がりはないのだけれど。

 そして――自分より上位のM.A.R.S.ランカーがファンだなんてのは、これは一体、新手の拷問か何かなのだろうか。

 だとしたら大したものである。

 それで須賀京太郎を空回りさせて、浮き足立ったところを仕留めようというのであれば――大した策士だ。決して天使などではない。夢を盗んでいるけど。


京太郎「……ま、頑張るよ。俺はいつだってさ」








 ……と。

 便箋から、はらりと何かが落ちた。追伸だろうか。


京太郎「えーっと、なになに……?」


 『PS.ニンジャにはどうやったらなれるの? 文通を続けたらメンキョカイデンのタツジンの認定証がもらえるんだよね! どれぐらい?』


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……」


 夢を返せ。


京太郎「……」

憧「あれ、京太郎?」

京太郎「……憧?」

京太郎「どうしてここに、って――――ああ、ここは奈良だったよな」

憧「そうよ? どうしたの、酔い過ぎちゃった?」

京太郎「ん、ああ……」

京太郎「その……幸せな夢を見てたんだ。すげー、幸せな奴を、さ」

憧「ふーん?」


 ――思えば。


憧「まあ、だったらあたしと飲み直さない?」

京太郎「ん?」

憧「どーせ、暇なんでしょ? だったら暇人同士飲んでも、別にいいじゃない」

京太郎「いや……暇じゃあ、ないけど」

京太郎「……」

京太郎「戻ってもしょうがないし、いいぜ。飲むか」

憧「うん、よろしい♪」


 ――このとき。


憧「それにしても、あんたと二人で飲むのって久しぶりよねー」

京太郎「大学以来だから……大体一年とちょっとぶりか?」

憧「そうそう。一年と半年ぶりくらいなのよね」

京太郎「懐かしいなぁ……」

憧「懐かしいわね……」

京太郎「……」

憧「……」

憧「ねえ、京太郎」

京太郎「なんだ?」

憧「いくらあたしが美人になったからって……変なこと、しちゃ駄目だからね?」

京太郎「……いや、いっつもやってくるのお前の方」

憧「何か言った?」

京太郎「前から美人だった、って言ったんだよ」

憧「ふーん?」


 ――気付く、べきだったのだ。


 ◇ ◆ ◇


淡「きょーたろー、遅いなぁ」

淡「……」

淡「むむむ」

淡「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ」

淡「むー」

淡「おーそーいー」



                       ´              \__
                         /                    マ三三三三三三ニ=-
                  /     /           \     ∨ /⌒> 三三三ニ=-
                         ,′          ヽ           \三三三ニ=-
                   /     _/ │  ∧          .     | ニ二  -=ニ\三三三ニ=-
.                /    / /│ '|  |\  :.       :. i   |\        ̄`丶三三三
           __/      / /  │/│  |   :. |\       :.   |             \三三
         _/´/ /    /| \| | |  |  |│ ::.     |   八   ー―‐=ニマ三\  マ三
       厂| |∨//    人 レl   | ト-|  |  |│ ::.     │ \ \       `マ三)  }三
__,,...  -┤│レ/゙∨   /\l |_|斤テ外八 ^ト--|/--│              ー=ニ二 `マ  /_三
       ││|{ {.  /  ∧ンリ 乂ツ   \|斗テ外、.|       卜、        丶、______ く_三三
       | ∨\八  {  /  Y::/::/  ,    乂)ツ 》│    | /\       \≫==≪\ マニ三
__,,,... -‐ヘ_ \,,>\∨廴_,人          ::/::/ / リ│  │  >ー──=ミ〃    `ヽ∨ニ三
          ̄    \__,))       ヽ      ∠/_7  イ /⌒)丿    \_ノ{ -‐~‐- }
                      ≧=‐   -=≦ / ∧|/ / ,.二二二二∨|\___/| ̄ -=
                                 / /  厂∨ / -――=マ 〉|      |
                               ((⌒´     ∨ 〈       ∨/l.     │
                                           `ーヘ      ∨|     │
                                         `、      ヽ、____丿


淡「つまんないよ、きょーたろー」



やえ「……」

やえ「そのー、大星淡さん? ちょっといいかしら?」

淡「誰あんた」

やえ「……ッ」 ビキィ


数絵(で、出たッ! 初対面で敬語を使わないタイプッ!)

数絵(これは、不味いですよね)

竜華(あー、不味い。不味いなぁ)

竜華(わりと人見知りぎみなところがあるやえが話しかけにいっとる矢先に、やえが嫌いな態度)

竜華(おまけに、お互い酒がはいっとるんやから……これは)

数絵(ここは、止めたほうがいいんじゃないかしら?)

竜華(……)

竜華(んー、続行で!)

数絵(……はい?)

竜華(だってほら、嫁姑戦争みたいで面白そうやない?)

数絵(……)

数絵(駄目。こっちも出来上がってるみたい)


やえ「こ、小走やえよ……初対面だったかしら? 今まで何度か対戦してると思うんだけど」

淡「ふーん?」

数絵(た、耐えたッ!)

竜華(流石は京太郎くんの煽りを受け続けているだけのことはあるな)

数絵(……それってどうなんでしょう)

淡「で、そのパシリが何の用?」

やえ「パシ……!?」

淡「あ、ごめん」

淡「こパシリ。子供の使いっぱしりー」

やえ「……ッ」 ビギィ


やえ「私の名前は小走よ。こ・ば・し・り・や・え!」

淡「ふーん?」

やえ「もう一度言わせてもらうなら、M.A.R.S.ランキング7位の小走やえ」

数絵(M.A.R.S.ランキング7位を強調してますね)

竜華(特に、7位のところやな)

竜華(大星淡が44位やから、そこんところを言外に伝えようって感じやないんかな……と思うけど)

数絵(……普段はそんなことするタイプじゃないんだけど)


淡「で? それがどーかしたんですかー?」

淡「別に何位だろうが構わないんですけどー、今ってオフですよねー? 見て判ると思うんだけどー」

淡「仕事の話だったらー、今日以外にしれくれませんか?」

淡「それぐらいの常識ってありますよねー?」

やえ「……ッ」 ビキビキィ

淡「見て分かると思うんですけどー、私今、リラックスしてるんですよー」

淡「だから、仕事のこととかそーいうのは後にしてくんないかなー?」

数絵(まあ、ある意味正論ね……)

竜華(正論って言えば正論なんやろうけど……その前に、向こうから煽ってるからなぁ)

数絵(どっちも飲みすぎじゃないでしょうか?)

竜華(あー、うん。そんな風に“視える”な)


やえ「そ、そうかしら?」

やえ「私には、退屈そうにしてる風にしか見えなかったけど……」

淡「……どーしてそう思うんですか?」

やえ「京太郎」

淡「……っ」

やえ「わたしの相棒の須賀京太郎がいなくなってから、ずーっと誰にも話しかけてないから」

やえ「ごめんなさいね。だからてっきり、懐いてた京太郎がいなくなって寂しがってるんじゃないかって思ってたの」


竜華(ブッ込むなー)

数絵(“私の”と、“京太郎”をやたら強調してますね)


淡「へー、相棒なんですかー」

やえ「ええ。私の、た・い・せ・つ・な相棒よ」

淡「……ふーん」


数絵(どっちもヒートアップ)

竜華(ここに京太郎くんがいたら、おもろいのに……どこいったんかな?)

数絵(トイレ……というか、逃げ出したんでしょう。自分がいると、火種になると思って)

竜華(火種?)

数絵(……まるで気付いてない)

数絵(それにしてもなんか二人とも、やけに突っかかるなぁ)


 言うなれば。

 片方は、少女を非人道兵器に変えられているのを目撃して、挙句毒殺されたとか。

 もう片方は、チームメンバーに少なくない被害を出された上に大切な虎の子を二つとも駄目にされたとか。

 そんな怒りを感じる。


淡「だったら……」

やえ「ん?」

淡「相棒だって言うなら、ちゃんとアイツのことを監督しててくださいよ」

やえ「……へ?」

やえ「え、ええ……そりゃ確かに私もやらなきゃいけないと思ってはいるけど……」


竜華(おおっと、ここでまさかの大星淡選手からの提言が来たー!)

竜華(やるぞってところで、実に常識的な台詞がでるもんやから……やえとしては肩をスカされた気分になるな)

竜華(おまけに、わりと言い返せないから自分ってとんでもないことしとるんやないか――まで考えててもおかしくない!)

数絵(……なんなの、そのキャラ)

竜華(ノリ♪)

数絵(……)

数絵(……お祖父様。プロが魔境というのは、こういうことだったんですね)


やえ「その……」

やえ「うちの須賀が、何か迷惑をかけたかしら……?」

淡「おっぱい揉まれた」

やえ「――」

淡「直で」

やえ「――」


やえ(あの馬鹿……ッ!)

やえ(まさかそこまでやるなんて――というか良く見たらこいつ結構あるわね――胸関連は冗談だと思ってたけど……)

やえ(……はぁ)

やえ(なんてことしてくれてんのよ、馬鹿男)


やえ「その、ご、ごめんなさい!」

やえ「私から、なんて言ったらいいか……分からないけど、とにかくっ!」

やえ「ごめんなさい! あの馬鹿に変わってお詫びするわ!」

淡「……」

やえ「あの……」

淡「……信じちゃうんだ」

やえ「へっ」

淡「私の言ったこと、確認もしないで……きょーたろーが悪いって決め付けちゃうんだ」

やえ「……え、いや」

やえ「……」

やえ「……って言うか、嘘なの?」

淡「別に、嘘といえば嘘だし……嘘じゃないといえば嘘じゃないけどさ」

やえ「なら……」

淡「それよりも……信じるんだ。私の言ったことを、先に。きょーたろーの弁解も聞かないで」

やえ「……」


やえ「……でも、この場ではとりあえず謝っておくのが普通でしょ」

淡「うん。ふつーはそうだけどさ」

淡「さっきまで、やたらめったら噛み付いてた相手が言うことをすんなり信じるんだ」

淡「で、きょーたろーが悪いと思っちゃうんだ。決め付けちゃうんだ」

淡「ふーん」

やえ「……何よ」

淡「べっつにー」

淡「アイツのことだから、きっと相棒のことはすっごく大事にしてると思ってるけどさー」

淡「相棒から、信頼されてないとしたら可哀想だよねって話」


竜華(おっと、険悪な方向に進んできたな。夫がいないうちに、“おっと”。ははは)

数絵(……酔うと駄目ね、この人も)

数絵(まあ、正直普段の京太郎の態度を思えば……うん)

竜華(でも、向こうの言うことにも一理あるとは思うで)

竜華(まあ、ここは表面的にはとりあえず謝っとくのも手やと思うけど……やえは内心、どうだったんやろ)

数絵(ところでいつまでこのシリアスな空気引っ張るんですか?)

竜華(もっとドロドロになってくれたらおもろくない?)

数絵(まさか、最初の喧嘩を売った態度からここまでが全部複線で……?)

竜華(……どうやろ。でも、確かにいくら子供っぽいといってもあの煽り方はちょっと不自然すぎるから)

竜華(この一連の流れを作るために……とも、考えられなくもないな)

数絵(……でも、考えてたとしても)

数絵(何もこの場でやらなくてもいいんじゃないんでしょうかね)

竜華(酔っとるんやろ。だから)


淡「ま、別にどーでもいーけどさ」

淡「もうちょっときょーたろーのことを大事にしてあげたら? 相棒なんだから」

やえ「……」

やえ「……黙って聞いてれば、ずいぶん言ってくれるわね」

やえ「そもそも、高々最近アイツと顔合わせるようになったアンタが、なに好き勝手言ってくれてるのよ」

やえ「挙句、相棒を大事にしろですって?」

やえ「それで、その京太郎の相棒に喧嘩売ってたら世話ないでしょうが!」

やえ「仮にもあんたアイツと付き合いあるんなら、そういうことこそ控えたらどうなのよ!」

やえ「仕事上の付き合いがある人間におかしな態度をとったら、それが京太郎の迷惑になるとか考えないの?」

やえ「それで、したり顔で『相棒を大事にしろ』? 笑わせんな、大星淡!」

淡「……へー」

淡「いいよ、そっちがその気なら喧嘩を買ってやるから」

やえ「先に売ってきたのはそっちだかんな!」

淡「そーだったけ? ま、どーでもいーよね」


数絵(なんか、洒落にならないぐらい険悪なんだけど)

竜華(もしかして、止めるタイミング逃しとる?)

数絵(楽しんでる場合じゃないことは確かでしょう)

竜華(……どうしよ)

数絵(とりあえずフォローを……)


姫子「――ん?」

姫子「なんの話しよっと?」

姫子「きょーたろ君の話題? そいはおもしろかねー」


数絵(痴女が来た!?)

竜華(このタイミングで痴女が来た!?)


淡「あ、新道寺の……」

やえ「あ、ああ……その説はどうも」

姫子「ひっさしぶりー」

姫子「きょーたろ君はいなかっとー?」

淡「……」

やえ「……」

姫子「せっかく新しい手錠持ってきたばってん、いないと詰まらなかー」

姫子「あがなことがあってから、結構縛るのにも乗り気になっとると思ったのに……」

淡「え」

やえ「なにそれは」

姫子「今日も、うちとぶちょーのことば縛って苛めてくれるってゆーっとったのにぃー」


 ※言ってません by 須賀京太郎


姫子「せっかく道具ばいっぱい持ってきたのに、こいぎ詰まらなかよー」

淡「ど、道具……?」

やえ「ちょっと待って。説明しろ」

姫子「ん? 見よる?」

姫子「部屋に置いてきたんやけど、蝋燭でしょ? コードでしょ? ライターでしょ? 手錠に縄に鎖に鞭に――」

淡「――」

やえ「――」

姫子「たっぷり愉しみたいって言っとったけん、いっぱい持ってきとるんにー」


 ※決してそんなことは言ってません by 須賀京太郎


 ちなみにこれが、その一部始終である。


 姫子『きょーたろ君、きょーたろ君。今度の飲み会なんやけど、ぶちょーとうちも参加するとね』

 京太郎『そうですか? 福岡からこっちまで、大変ですね』

 姫子『せっかくやけん、楽しみたかったけんね』

 京太郎『そうですか? なら、いっぱい楽しみましょうよ。俺も楽しみです』

 姫子『ぶちょーとうちも、苛められるの楽しみにしとるよ!』

 京太郎『……』

 姫子『きょーたろ君、きょーたろ君』

 京太郎『……なんですか。俺はもうツッコミませんよ』

 姫子『本番はなかってこととー?』

 京太郎『……好きにしてください』

 姫子『ん。好きにするとね。いっぱい道具ば持っていくけん、楽しもうねー』

 京太郎『アッハイ。ドーゾご自由に』


やえ(……ねえ、大星)

淡(なに、7位)

やえ(7位って言い方はよしなさいよ)

淡(だって、自分で言ってんじゃん)

やえ(……。そりゃ、そうだけどさ)

淡(うん)

淡(で、何かな?)

やえ(今思ったんだけど……京太郎のことをどうこう考えるなら……)

淡(うん)

やえ(一番危険なの、どーにかしなきゃいけないのはこいつなんじゃない?)

淡(私もそー思う)


姫子「?」


やえ(……)

淡(……)

やえ(別に、私とアイツはただの相棒だから私生活がどうなろうとどーでもいい話だけどさ)

淡(私も別に、きょーたろーとはただの……いや、因縁のライバルだからどーでもいい話だけどさ)

やえ(……)

淡(……)

やえ(……私は別に、アイツの唯一無二の相棒だからどーでもいい話だけどさ)

淡(言い直した! ずっこい!)

やえ(別に、事実を言っただけよ。なんなら、京太郎に聞いてみたら?)

淡(むむむ……)

淡(まあ、私もたった一人しかいない運命で永遠のライバルだからどーでもいいんですけどー)

やえ(何言い直してるのよ)

淡(だって、アイツとは何かと私生活で遭遇するから運命って言えば運命ですしー)

やえ(……へ、へー)


淡(っていうかー、きょーたろーが悪いんだよ。きょーたろーが)

やえ(そう思うわね。痴女に付け入る隙を与えなければいいのよ)

淡(だから、アイツは微妙に残念な奴扱いされるの!)

やえ(言動が色々と残念だかんな……あの馬鹿)

淡(うーん、確かにその残念具合だとおっぱい揉んだって言われても信じちゃうかも)

やえ(でしょ? ところでそれ、事実なの?)

淡(事実だけど……助けてもらったときの、不慮の事故ですけどね)

やえ(……はぁ。相棒、見損なわなくて済んでよかった)

淡(もーちょっと、信じてあげなよ)

やえ(大星。じゃあ、逆の立場で同じこと言われて謝らない自信ある?)

淡(……ないかも)

やえ(でしょ? そりゃ流石に、何の意味もなくセクハラなんてしない奴だとは思うけど……)

淡(でも、やりそーだもんね。事故とかで)


 ※その通りでございます。やわらかくておっきかったです by 須賀京太郎


淡(……)

やえ(……)

淡(……ごめんなさい。喧嘩売ったりして)

やえ(……こっちこそ、悪かったわ。思えば最初に名乗らなかったの、私の方だし)

淡(……べつにー)

やえ(……なら、いいけど)

淡(ねっ)

やえ(何よ?)

淡(あっちで飲みなおさない? きょーたろーへの愚痴とかで)

やえ(いいわね、それ。乗った!)


姫子「?」


竜華(あ、ありのまま今起こったことを話すで……)

竜華(『ライバルと相棒が険悪になったと思っとったら意気投合していた』)

竜華(な、何を言っとるのか分からへんと思うけど……うちも何をされたのか分からなかった)

竜華(頭がどうにかなりそうだった)

竜華(『なあ、エイスリン……どんな夢を見てると思う?』とか『遅、せ、え!』なんてチャチなモンでは断じてない……)

竜華(なにかもっと恐ろしい痴女の片鱗を味わったで……)

数絵(……あ、ハイ)





 ちなみにそのころの須賀京太郎は――と、言うと。


京太郎(気付く……べきだった……もっと早く、俺は)

京太郎(玄さんは……阿知賀の同窓会がある、松実プロはそちらに出るから途中で抜ける……と言っていた)

京太郎(酔ってたせいで……色々ショックだったせいで……俺はスッカリ忘れていた)

京太郎(そして、逆セクハラをして来なかったから……憧が酔ってないと思っちまった)

京太郎(……よく考えたら)

京太郎(普通そうにしてながら、いきなり不意打ちで逆セクハラをしてくるのがこいつだった……)

京太郎(あんまり外見から直ぐに、酔ってないって言えないんだった……)


憧「特別ゲストの到着でーす♪」

穏乃「ゲスト?」

灼「誰……?」

宥「なぁに、憧ちゃん……?」

玄「も、もしかして和ちゃん!?」

憧「ぶっぶー。違うのよねー」


憧「正解は――京太郎でしたー! いえーい!」


京太郎「……」

穏乃「……」

灼「……」

宥「……あ、須賀プロだぁ」

玄「!? きょ、きょきょきょきょきょうたろうくん!?」


 ……。

 ……。

 ……。


 ……どーすんの、これ。











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最終更新:2014年02月02日 18:56