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【僕たちの歌/Life is SHOW TIME】


京太郎「……なんか、ひっでー夢」


 詳しくは覚えてないが、赤土晴絵とデキ婚をして、彼女が天寿を全うした後に宮永咲と再婚する夢だった。

 なお、大星淡は夭逝していた。吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。

 大概、夢の内容というのは記憶してないが、この三つがやけに記憶に残っている。

 深層心理になんやらあるんだろうか。知らんけど。


京太郎(……まあ、楽しみ過ぎて眠れなかったしなぁ)


 久しぶり――そう、久しぶりに国広一たちに会えるのだ。

 遠足前の小学生のように気持ちが昂って、中々寝付けなかった。元々睡眠時間はあまり確保されていないが。

 なので、バイクでの移動の後、適当なSAで仮眠をとっていた。


京太郎「よし、行くか」


 夏休みはとうに過ぎ、国民麻雀大会も終わったある日のことだ。

 どうでもいいが、東横桃子とはバスケのウィンターカップを観に行く約束をしているし、花田煌とのデートの約束も消化されていない。

 南浦数絵からは祖父――南浦聡の元に顔を出せと言われているし、まあ、唯でさえ無に等しいオフは更にカッツカツ。

 あと、親戚の結婚式がいつぞやにあるんだったか。

 貧乏暇なしなんて言わないが、働けば働くほど貧しくなってる気がする。心とか。


 さて、到着しました龍門渕。

 長野の北信の方である。東京からバイクだとぶっちゃけダルい。小瀬川白望じゃないが。

 門は顔パス。

 なんか髪の紅い中々おもちな門番さんが眠ってた気がするが多分幻影なので無視。ここにはPADちょ――弘世菫はいない。


京太郎「……」


 どうでもいいが、京太郎は弘世菫のことをPAD長などと呼ぶ気はない。

 弘世菫というのは、完全で瀟洒な部長で先輩である。

 時々、真面目さ故に思い込んだり勘違いしたり、意外なところでお茶目なボケ方をするが、基本的に誠実で面倒見がいい誇らしい先輩なのだ。

 しかも師匠だし。


一「君は須賀京太郎だね?」

京太郎「そういう君は、国広一」

ハギヨシ「いらっしゃいませ、京太郎くん」

一「紹介するよ! ボクの愛犬で、ハギーっていうんだ!」

ハギヨシ「は?」

一「……ほら、早く」

ハギヨシ「いえ、何を……」

一「ハギヨシさんが駆け寄ってかないと、京太郎くんが続きできないじゃないですか」

ハギヨシ「……」

一「……」

京太郎「……」


 ここは……。


京太郎「『キング・クリムゾン』ッ!」

一「ハ、ハギィィィイ――――――!?」

一「なっ! 何をするだァ――――! 許さん!」

京太郎「俺は犬が嫌いだ! 怖いんじゃあない! 人間にへーこらする態度に虫酸が走るのだ!」

京太郎「いいか? これからは俺に――」

ハギヨシ「……あの」

京太郎「なんですか、ハギヨシさん?」

一「そうだよ、今、いいとこなのに……」

ハギヨシ「いえ……差し出がましい真似をしてしまって、大変恐縮の至りではありますが……」

ハギヨシ「京太郎くんの荷物を国広さんが拾いに行って、手を捻られるシーンが抜けてませんか?」


 ……あ。


一「これは盲点だった……」

京太郎「さすがはハギヨシさんだ……! 正に、パーフェクトっすよ!」

ハギヨシ「いえ、私はあくまで執事ですので」

ハギヨシ「……いや、ここは」

ハギヨシ「『……やれやれだぜ』」

京太郎「うおー、ASBの承太郎の声だ!」

一「流石だよねー。これでボクたちのジョジョごっこも先に進めるからさ」


 笑いながら、手を叩きあう。

 こういうノリは――――高校生のあの頃から、変わってない。


一「おかえり、京太郎くん」

京太郎「ただいまです、一さん」

ハギヨシ「…………そこはメイドとしては、いらっしゃいと言うべきじゃないかと」

一「あはは……まあ、久しぶりってことで」


 ・
 ・
 ・


純「おっす、須賀」

京太郎「どうもどうも、純さん。……あとこれ」

純「おっ、まさかの……」

京太郎「タコスっすよ、ハイ。作りたてが良かったんですけどね……」

純「いやいや、いいっていいって! サンキューな!」

京太郎「まあ、ハギヨシさんに教えてもらったから……ハギヨシさんの方が上手いんじゃないかと思いますけど……」

純「いやー、でも、ヨッシーは日常的にタコス作ってる訳じゃないだろ?」

純「で、少なくとも高校の頃……タコス娘に作ってた分、須賀の方がなー」

京太郎「そうっすか?」

純「そうそう。そうなんだよ」

純「いやー、なーんかあの2年のときのインハイからタコスに嵌まっちまってなー」


 ガブリと、タコスに食らいつく井上純。

 それでいて食べこぼしたり、口の端にソースを付けないあたりが、流石だと思う。

 やっぱり女性である。いや、今も昔も――――というか今は尚更。


 タイトなファッションはそのままだが、銀髪を伸ばして肩にかかるかかからないか位に下ろしてある。

 日本人離れした、モデルのようなスタイルだ。

 硬質ナイフのような美貌――というべきか。

 異性も同性も見惚れさせるような、凄味のある美貌だ。


純「で、あれはどーだ?」

京太郎「えっと、あれって……?」

純「亜空間殺法だよ。教えたよな?」

京太郎「あー」

京太郎「そもそも……俺、運とか流れとかがちょっと……」

純「判らないんだったっけ。ま、なら仕方ないか」

一「なーんて言って、純君結構気にしてるんだよねー」

純「ちょ、国広君――」

一「『亜空間殺法を使いこなせればもっとだいぶ上に行けるのにな』とか……」

一「『あーあ、オレも京の字の師匠って面してみてーなー』とか、言っちゃったりね」

純「あー」


 バツが悪そうに片手で顔を覆うと、待ったとばかりに逆側の手のひらを向けてくる。

 よく言えば竹を割ったようで、悪く言えばガサツそうな井上純であるが――――

 実はこういう面があるってところを、内心可愛いと思っている。

 美形で可愛いとは、なんともお得な人なのだ。


純「なにも、バラさなくてもいいだろ……バラさなくても」

一「いやー、試合の中継であれだけ騒がれたら……ねえ?」

ハギヨシ「ええ、透華お嬢様も『これでは解説が聞こえませんわ!』とご立腹でしたね」

純「あー、勘弁してくれよ」


 お手上げ、と手を翻して波打たせる。

 そこで、また笑いが生まれた。アットホームな職場というか、まさにアットホームである。この職場は。


京太郎「麻雀プロ駄目になったら、いっそここで雇って貰うのもアリだよなぁ」

純「まあ、アリだよな。アリだけど――」

京太郎「だけど?」

純「お前に限って、駄目にはならないって」

京太郎「純さん……」



一「……なーんて、一番ハラハラしながら見てるのにね」

純「ちょ、国広君!?」

京太郎「ハハハ」


 本当に……。

 本当にこの家って……優しくて、暖かいんだよな……。


京太郎「あ、沢村さんは?」

一「ん、ともきー?」

純「智紀ならさっきまでその辺りに居たような……って、あれ? ヨッシーも……?」


 直後、何かの激しい足音が聞こえてきて――――


ハギヨシ「このメモリースティックは没収です」

智紀「ああああ……それは……」

ハギヨシ「駄目ですよ、沢村さん」

智紀「ううう……酷い……」

ハギヨシ「僅かながらとは言え、完全に二人の死角を突いたのは尊敬に値しますが――――」

ハギヨシ「ツーショットなどを撮ってどうするおつもりで?」

智紀「……」

智紀「……聞きたい?」

ハギヨシ「……ッ」 ゾクッ

ハギヨシ「い、いえ……結構です……」


 あれ、あの人あんな速さで動けるんだっけな、と目をしばたたかせる。

 ちょっと、イメージとそぐわない。

 相変わらずの黒髪ロングの前髪パッツンであるが、眼鏡には気を使っているのか、以前のそれよりもデザイン性が高い。

 フレームは細身で、見方によっては寡黙ながら有能な秘書兼エンジニア――のようである。


智紀「……あ」

智紀「いらっしゃい」

一「……いや、ともきー、今更平静を装ってもさ」

京太郎「えーっと、お邪魔してます……沢村さん」

智紀「……」

智紀「……おかえり」


 あとこれ、とディスクを手渡される。

 今日会うことが判っていたので、予めネットで牌譜集めを頼んでおいたのだ。

 近頃の――というか夏休みのあの異様な忙しさと言ったらなかったので――最近、手が回り切らないところがあった。


京太郎「じゃあ、これ……中野で言われたの買ってきました」

京太郎「あと、ケーキ。ここの奴……前に食べたいって言ってたって聞きましたんで」

智紀「……ありがとう」


 ぺこりん、とご丁寧にお辞儀をされる。

 暗いとか、じめっぽい――――という印象は持たない。彼女は、寡黙なだけで根は明るい。

 ただ、言葉で表現するかどうかの違いである。

 ……尚更、先ほどの全力疾走が不思議でならない。夢でも見ていたのだろうか。


京太郎「えーっと……あれ?」

智紀「?」

京太郎「なになに……『須賀プロが泣きながら川越シェフにボレーシュート決めてる画像集』……?」

智紀「!?」 バッ

京太郎「うおっ」

智紀「……ふう」

京太郎「あの、沢村さん……今のは……」

智紀「ニンジャは実在しない。いいね?」

京太郎「アッハイ」


 なんだ今の速度

 ……やっぱ、夢じゃなかったのかも。


智紀「ごめん、こっちだった」

京太郎「あ、そうですか……ハイ」

京太郎「えーっと…………」

京太郎「『須賀プロが大雀蜂に変身しながらすこやんにカウンター貰いつつあわあわが涙目になってる画像集』……?」

京太郎「あの、これ――」

智紀「!?」 バッ

智紀「間違った。こっち……」

京太郎「ああ、はい」


京太郎「『須賀プロが咲ちゃんにシャイニングウィザード食らわされながら照英の前に料理を出してる画像集』……?」

智紀「!?」 バッ

智紀「こっち……」


京太郎「『須賀プロがチャック・ノリスのコピペを再現してる画像集』……?」

智紀「!?」 バッ

智紀「こ、こっち……」


京太郎「『小走プロが照英をガードベントしてベノ川越カーと一緒にライダーにファイナルベントしてる画像集』……だって……?」

智紀「!?」 バッ

智紀「ち、違った……」


京太郎「『姉帯さんが進撃にでたらスレの支援画像集』……?」

智紀「!?」 バッ

智紀「こ……っちの、方」


京太郎「『エイちゃんが各漫画で「イザナギだ……」してる画像集……』」

智紀「!?」 バッ

智紀「……こっ、ち、だった」


京太郎「『プロ雀士が地球生物ベースに変身して麻雀してる画像集』……?」

智紀「!?」 バッ

智紀「こ、こ……れ……っ」


一「ともきーは、少し落ち着いたほうがいいと思う」

京太郎「沢村さん……あのー」

智紀「今見たものは忘れて……なんでもするから」

京太郎「あー」

京太郎「なんでもはしなくてもいいんで……ひとつ」

智紀「?」

京太郎「あんま落ち込まないでください。その手の画像、時々ネットで見掛けるんで」

京太郎「逆に、あー」

京太郎「なんていうか腹立たしいんだけど……」

京太郎「自分でも、『これ上手く合成してるな』って逆に物凄く笑っちゃうのとかもあるんで……」

京太郎「大丈夫っすよ」

智紀「須賀くん……」


純「おうおう、家の弟分が女口説いてるねー」

一「そうだねー、いやー、お姉ちゃんは寂しいなー」

ハギヨシ「ふふ……」

京太郎「茶化さんでくださいよ! もう!」


智紀「はい、じゃあこれ」

京太郎「今度は……はい。ありがとうございます、牌譜ですね」

京太郎「最近、本当にやばかったからなぁ……一局ごとに疲れるわ疲れるわ、で」

智紀「力になれたなら、嬉しいけど」

京太郎「いや、ほんっと助かりますよ!」


純「なあ、アイツのスタイルって……」

一「ああ。相手の打ち方を予め分析してから、その情報を元に戦うスタイルだね」

純「それ無しで大丈夫だったのか?」

純「……いや」

純「それ無しでできるぐらい、アイツも成長したのか? なら、やったな!」

一「……」

純「国広君?」

一「……いや、それは無理だよ」

一「京太郎くんは……これ以上、成長することはできないから」


一「ただ、馴れることはできるからね」

純「どういうことなんだ?」

一「例えば――――純くんは、ボールを的に向かって投げるときはさ。大体、こうすればここに行くって思うよね?」

純「普通、そうだろ」

一「ただ、言うなれば京太郎くんは……腕の角度や力の入れ具合から、ボールの形状や空気の密度まで計算してたんだよね」

純「は?」

一「他のランカーと違って運がないから……曖昧な運を、良くも悪くも理論として頼りにできないから、そうするしかないんだよね」

純「ふーん」

一「それをいくらかは省略はできるようになったし、簡略化もできる」

一「でも、対戦相手だってプロ同士強い人たちで戦うから、成長してる。」

一「それがあるし、運の問題もあるから――結局計算は捨てられない」

一「そこが限界なんだよ。京太郎くんの」

純「……判るような、判らんような」

一「まあ、それこそ上位ランカー以外になら問題ないだろうけどさ」


智紀「これがオススメ……」

京太郎「これは……」

京太郎「『須賀プロが各アニメの戦闘シーンに乱入した動画集』?」

智紀「オカスレやマーズレッド、この間のドッキリで素材には困らないみたい」

京太郎「マジっすか……」


 画面を見る。

 「お前、それでいいのかよ」とお説教していた少年の顔面に「男なら拳で語れ」とハイキックをかましていた。

 色々酷い。しかも拳で語ってない。


 その他……。

 なんか、侍か浪人らしき多数の人物が出逢え出逢えしていた。上様か御老公を取り囲もうというのだろうか。

 そこで画面が切り替わる。

 京太郎『悪いな。ファンならサインは後にしてくれ』

 拳で語るんじゃなかったでしたっけ。おもっくそ爆薬使ってますが。


京太郎「……」


 主人公と並走。暴走する怪人のバイクが、交差点に進入しようとする。

 そこで現れる須賀京太郎。

 京太郎『よう。そんなに飛ばして、地獄でダンスパーティでもあるのか?』

 飛び膝蹴りのシーン。後に、怪人が爆発する場面に。

 やっぱり拳で語ってない。もろに膝使ってるよ。

 しかも怪人、ダンスパーティに行けない。だって爆発で着ぐるみの手足飛んでるんだもん。

 壁の花っていうか、机に花が置かれるわ。


智紀「恥ずかしながら、私もいくつか……」

京太郎「えっ」

智紀「これとか……」

京太郎「……」

京太郎「……気にするなとは言いましたけど、好きにしろとは言ってません」


 きにするな。すきにしろ。

 何となく音的には近いものがあるが、パワポケとパワプロくらいに隔たりがあるだろう。

 ちなみに京太郎は広川武美が好きだった。


智紀「ちなみにネットでは鬱フラグブレイカーとして扱われてる」

京太郎「マジっすか」

智紀「後は魔法系のアニメのMADに、『(物理)』要因として」

京太郎「へっ」

智紀「最強スレだと、光速の1300京倍の回避性能を持ってる」

京太郎「なにがあったんですか……」


 番組の中のオカルトスレイヤーって、そこまで無茶苦茶なキャラクターじゃなかった筈なんだけどな。ピンチも多かったし。

 印象とかあるのだろうか。麻雀のスタイルみたいに。

 ネット上で面白おかしく扱われるとか、変な気分だ。


智紀「ちなみに、須賀京太郎もランキング入りしてる」

京太郎「……よくわからないけど、フィクションキャラの強さ比べなんですよね」

智紀「長所:ノースタントノーワイヤーノー早回しなので出演キャラの特徴・設定・考察が全て適用される」

智紀「短所:ただし麻雀ではミンチにされる」

京太郎「うおォい!」


智紀「あと、『オカルトスレイヤーの設定利用で三次多元全能までの異能までには確定勝利。ただし麻雀を除く』とか」

智紀「『備考:オカスレなのでキザな言動でフラグを立てる。ただし異能戦闘がない現実だと残念扱い』とか」

京太郎「うおォい!?」


 ……。

 ネットの評価が、一般の評価ではないと思いたい。思わなきゃやってられない。

 運が平凡でも、誰にでも習得できる技術を集めて磨けば――――運があるならそこまでしなくても――――オカルトと渡り合える。

 そういうつもりでやってるんだけど……。果たして、伝わってるんだろうか。

 ちょっと悲しい。




衣「……」 ソーッ




衣「……ふ、フハハハ! よく来たな、オカルトスレイヤー!」

京太郎「あ、お邪魔してます」

衣「ノってくれない――――!?」

京太郎「すみません。そんな敵キャラ、オカスレで見た覚えが……」

衣「14話のアバンに居たぞ! この台詞だけで膝蹴り一発だったけど!」


 おおう。よく見てるなぁ、この人。

 自分が出ていた作品をそこまで詳しく研究されるなんて、なんとも嬉しいような恥ずかしいような……面映ゆい。

 ……いや。

 それだと――――


京太郎「それ、どのみち衣さんに飛び膝入れることになるから、駄目です」

衣「そうだった!」


 こりゃ盲点と、額に手を当てる。リボンが揺れた。

 これで年上とか、軽く信じられない。軽くどころではなく。……軽いのは彼女の体重だけだ。

 まあ、歳不相応だが――かつての三尋木プロぐらいの年齢――可愛い。

 娘が出来たら、子供の頃はこう素直で可愛らしいと嬉しい。金髪なら、尚。自分譲りの長所をあげたい。


智紀「……」

京太郎「……なにしてるんですか?」

智紀「てっきり、もう胸部の脂肪には興味がなくなったのかと」

京太郎「だからって、視界の端で揺らさないでください。気になりますから」

京太郎「やめてくださいよ。……智紀さん美人なんですから、そういうことされたら困りますよ。いくらなんでも」

智紀「あ、ああ……うん。ご、ごめん……」

京太郎「……」

京太郎「まー」

京太郎「久しぶりで距離感掴めないのは、俺の方も一緒ですけどね」

智紀「……ふふ」


 言外に御互い様なので気にしないでくれと伝えたら、沢村智紀は小さく笑った。

 よかった。

 下着ドロ疑惑事件のわだかまりは完全に払拭されたと考えてよさそうだ。

 というか八年も前のことを引きずられていたら堪らない。結局誤解は解けたからいいけど。

 思えば、あれで国広一に手錠拘束監視されたりしたなぁ……と、妙な気持ちになる。 


衣「キョータロー、遊ぼう!」

京太郎「いいですね……何にします?」

衣「麻雀!」

京太郎「え゛」

衣「どうしたんだ、そんな豆が鳩鉄砲喰らったような顔して」

京太郎「……鳩鉄砲喰らったらそりゃ驚きますね」


 どんな鉄砲だよ、鳩鉄砲。

 豆が何をしたって言うんだ。下着拾ってポケットにでも詰めたのかよ。


透華「ハギヨシ! ハギヨシは居ます!?」

透華「この服とこの服のどちらが目立つかしら――」

京太郎「あ、お邪魔してます」

透華「そう。いらっしゃいまし」

透華「ハギヨ――――」

透華「……」

透華「………………………………」

透華「到着しちゃってますわ!? すでに!?」

透華「……なんで家主に挨拶もせずに、平然と溶け込んでますの?」

京太郎「あー、そのー、すみません」

透華「まっっったく! 本当ですわ! これじゃあ、貴方の友人であるハギヨシの品位まで疑われるのでしょうに!」

京太郎「申し訳ありません」


 実際のところ――。

 須賀京太郎は到着予定時間を連絡してはいたし、到着した際も連絡した。

 ただ、萩原曰く彼女はおめかし中(親しいものや対抗心を懐く相手を招くときはそうらしい。原村和とか)であるそうだった。

 勿論、着替え中に突入するという真似は論外であり――――然りとて急かしたり急がせたところで余計に着替えに手間取ることは想定内だったので、

 彼女の仕度が整うのを待って、それから向かおう――――と考えていた。


 まあ、余計な気遣いかもしれないが……。

 以前、馬鹿正直に訪ねたら「女性には時間がかかるとわかりませんの?」と叱られてしまったので、

 どうせ怒られるなら彼女の身支度が整ってから、と考えた。

 結果は、まあ……見ての通りだが。


透華「ですから、そういう品位が……聞いてますの!?」

京太郎「はい。しっかり」

透華「……もう」

透華「なんだか、ハギヨシを相手にしてるような態度で……」

京太郎「え、俺、今、ハギヨシさんっぽかったですか!?」

透華「だからなんでそこでかつて見たことがないぐらいの笑顔を出すんですの!?」


 だって……それは……。


純「京太郎はヨッシー大好きだからなー」

衣「衣も鼻が高いぞ!」

京太郎「だって……ハギヨシさん、最高だから……」

ハギヨシ「まったく……貴方という人は……」

智紀「……」 ジュルリ

一「……ともきー、よだれ」

 萩原の素晴らしさを語らせたら、正に一晩かかっても足りないだろう。

 まず、長野県予選のあのタコスの手助けから始まる。

 それから、タコスの手解き――お陰様で料理が好きになり自信が持てたのだ――それ以前はあんまりな料理しか作れなかった。

 穏乃との遠距離恋愛のためのバイトの相談。

 穏乃にフラれた後の気分転換に、更には進路の相談。

 視力低下で焦っていた自分が、訳も判らず色々な道を模索すること。夢乃マホに破れたあとの静かなる殺人(緩慢な自殺)の件。

 とにかく――――須賀京太郎は、萩原に数えきれないほどの恩があった。


 彼の為なら身体を張ることも、命を張ることも受け入れられるほど。

 それほどまでに感謝していたし、それほどまでに信頼し、彼を敬愛していた。

 萩原に危機が訪れたのなら――彼は拒否するだろうが――何を捨てても、その場に駆け出すだろう。


透華「まったく……こんなのだから、貴方たち二人は――」

京太郎「俺たちが、どうかしたんですか?」

透華「え゛」

透華「い、いや……その……」

透華「……」

透華「あとで、大事な話がありますわ」

京太郎「大事な話……ですか」


 なんだろうかと、首を捻ってみる。

 まさか――――彼女が自分に結婚を申し込むとかはあり得まい。それはもう絶対に。

 色々釣り合わないし、もうちょっとセクシーなお姉さんをお願いしたい。冗談だが。


透華「……む」

透華「なにか、失礼なことを考えてまして?」

京太郎「心当たりがありません」

透華「そう……?」

透華「ま、いいとして――――それより!」

京太郎「なんですか?」

透華「あのときの……あの打ち方ですわ! あのあれ!」


 あのあれ、とか……。

 おい、夫婦でもなきゃわからねーよ。

 若しくは、MOTHER大好きな奴か。あのあれって言ったら、台所に出るあのあれだ。

 またの名を「ごきげんよう、お久しぶり」。

 せせらぎと言う名前なら嫌われなかったのではないかと、本屋大賞常連の作家が書いているあれ。


京太郎「あー、国麻の三回戦の半荘二回目の南二局ですか?」

透華「判ってるなら、話は早い!」

透華「というか……それなら、自らの迂闊さに気付いているでしょう! いますわね! いますとも!」

京太郎「アッハイ」

透華「なんで、あのとき――――あんな、自分でも迂闊だと思う打ち回しをしてらして?」

京太郎「あー」

透華「即答!」

京太郎「はい」

京太郎「あのときの山の状況から、真っ直ぐ行ったら俺の待ちは山に1枚」

京太郎「だったら、役を決め打って副露や抱え込みを可能な方を……」

透華「言い訳は求めてませんわ!」


 ええー。


一「とーかは京太郎くんのファンだからねー」

智紀「牌譜も毎回取り寄せて分析してる」

純「こりゃ、オレたちが京太郎を旦那様って呼ぶ日も近いかもな」

衣「そうなったら、ハギヨシも重畳だろう?」

ハギヨシ「…………。はい、衣様」

衣「ハギヨシ……?」

透華「ええい、お黙りなさい!」

京太郎「ハハハ」


 友人――恩人にそう扱われるって、なんだか悲しいものがある。

 なんのかんのと、絶対にしがらみが生まれるはずだし――――

 それから身を潜めくぐり抜けられるほど、自分が器用だとは思えない。

 萩原も、同じ気持ちだったのだろう。


透華「須賀京太郎! 貴方は、色々なメディアに出てますわね? 旅番組とかバラエティーとかドラマとか……」

京太郎「その節はどうも」

透華「続編の脚本は鋭意制作中ですわ……で・な・く・て!」

透華「話を逸らそうだなんて、味な真似を……!」


 ええー。


透華「貴方は、目立ってる! 目立ってる麻雀プロなんですわ!」

京太郎「お茶の間以外だと、ステルスですけどね」

透華「黙らっしゃい!」


 このハイテンションというかハイパワーっぷり。

 近頃、普段回りにはいないタイプなので、かなり圧倒されてしまう。

 高校時代は片岡優希――――あるいは、高鴨穏乃か。

 大学時代は、新子憧がややそれにあたるか。

 今なら、順当に池田華菜。ないしは――若干異なるが、大星淡や姉帯豊音やエイスリン・ウィッシュアートが該当と言えなくもない。


透華「つまり、貴方は今日本で一番目立っている麻雀プロ……」

京太郎「残念ながら、麻雀以外でですけど」

透華「……それも含めて」


 と、一拍置かれた。


透華「貴方は目立っている! つまりは私のライバル! ですわ!」

京太郎「いや、その理屈は……」

透華「私がライバルと認めたら、ライバル! 地球が丸いよりも自然なこと!」


 スゲーこと言ったよ、この人。


透華「そのライバルが……私のライバルが……」

透華「いいこと? 衆目に無様を晒す様なんて堪えられませんわ! 無理難題!」

透華「だから、そんな解説されなきゃ判らないような打ち方をするのはどう……と言う話で」


一「とーか、この間それを『凡百には理解できませんわね……ふふ、研究が足りないんじゃなくて』とか言ってたよね」

智紀「凄い含み笑いだった」

ハギヨシ「ええ。実にお楽しそうで……」

純「ハギヨシがこう言うんだから相当だぜ」

透華「ええい、黙らっしゃい!」


 頭の後れ毛というか癖っ毛が、主人の怒声に合わせて背筋を伸ばす。


透華「そんな貴方がむざむざやられる様なんて、見たくありませんわ!」

透華「ですから……提案です!」

透華「ただでさえ忙しい貴方の、情報の分析を――こちらで肩代わりしますわ」

京太郎「肩代わり?」

透華「ええ」

透華「M.A.R.S.ランキングは、まだ年若いランキング。属しているものも……その大会自体も……」

透華「だから、その頂点である――幹に当たる、言わば幹部クラスは尚更一筋縄ではいかない」

透華「そのへんの大会ならいざ知らず、一度分析してもそれがいつまでも使えない」

透華「ここまではよろしくて?」

京太郎「はい、まあ……」


 分析しても、対処が困難な相手。

 分析されたことに、対応してくる相手。

 逆にこちらを分析してくる相手。

 それがひしめき合っているのが――――M.A.R.S.ランキング。特に顕著なのが上位ランカー。


 だから、龍門渕透華の言うように……。

 昨日のものが、今日も当てはまるとは言えない。

 そんなアマチュアと比べられるほど、M.A.R.S.ランキングは甘くない。

 そもそもM.A.R.S.ランキングだアマチュアだに関わらず、麻雀というのはそういう面があるが……。

 それでも、特に。


透華「ですから……普段が忙しく、近頃では十分であっても完全ではない貴方の為に」

透華「龍門渕が! この龍門渕透華が直々に、貴方のバックアップをすると提案してるのですわ!」

京太郎「……天江。衣さんは?」

透華「それは――」

衣「衣は――――それで面白くなるなら、賛成だ」

衣「魑魅魍魎が巣食う異界でも、漫然と立ち向かえるキョータローが、更なる牙を手に入れるなら」

衣「それを、望まぬ訳がない」

透華「――という訳ですわね」

透華「衣もこう言う以上、なんの遠慮の必要もないのではなくて?」


 彼女の提案からは、何の裏もなく――須賀京太郎を思いやる気持ちが溢れていた。

 ここで、そこまでしてもらうのは悪いと言えば……。

 その言葉の方が余程悪であり、彼女たちを思いやっていないことを意味するだろう。


 もしも万が一――。

 友人だという好意を差し置いて、ただ気遣いという一点に主眼を置いて――失礼な考えをしたとして――。

 気遣いをするのであれば、尚更受けるべきだ。

 ただ、そこまで他人の真心をある意味冷たく突き放すような対応はしたくない。

 彼女たちに気を遣うか否かではなく……。

 彼女たちの好意をどう受け止めるか/受け止めたいのかが、一番重要で必要な話なのだから。


京太郎「……透華さん」

透華「……なんですの」

京太郎「――ありがとうございます。嬉しいです」


 或いはそんなに堅苦しく考えずに、ただどう思った。どうしたいでいい。

 これはきっと、シンプルな話なんだから。

 そういう、シンプルな話が成り立つ間柄なのだから。


京太郎「でも……受けられません」

透華「……」

京太郎「お気持ちは嬉しいんですけど――やっぱり、それって俺がやらなきゃいけないことなんですよ」

京太郎「牌譜を集めて貰うまではいいとしても……」

京太郎「そこから何を読み解くか、何を見出だすのかは――――きっと、俺がやらなきゃ駄目なんだ」

京太郎「そうじゃなきゃ、『俺が俺だ』って胸を張れなくなる。『俺が俺だ』って、アイツらの目を見れなくなる」

京太郎「彼女たちの目を、真っ直ぐ見られなくなる。自分をこれだと誇れなくなる」

京太郎「なにも、プライドとか拘りそんな話じゃなくて――」

京太郎「それもありますけど――、最後まで突き詰めたら、覚悟と意地の張り合いなんです」

京太郎「そこできっと俺は……負けてしまう」

京太郎「いくら追い詰めても、一歩届かなくなる。ネットに当たって弾かれたボールは向こうに行ってしまう」

京太郎「アイツらに、胸を張れないと――――俺が俺でいられないと、勝てないんだ」

京太郎「そうしたら……きっと、『納得』できない」

京太郎「勝つためには、与えられるだけじゃ駄目なんです」

京太郎「もっと……気高く飢えないと……」

京太郎「俺が飢えて、掴みとらなければ……与えられたものに甘えてるだけじゃ……駄目なんです」


 思えばこれまで、覚悟で負けている部分があった。

 約束に自縄自縛になり、変に気負い、無駄に悩み、或いは目まぐるしく変わった環境や怒濤の如く流される日常に戸惑い――

 無理をしていた。


 覚悟はあった。

 でも、それが真実最後まで振るい続けられる刃かと言えば、どうだったのだろう。

 事実、投げ出したくもなっていたのだから。


 でも――――今は。


京太郎「いや……それが俺のやりたいことなんです」

京太郎「やらなきゃ駄目だし――――やりたいこと」

京太郎「だから、お気持ちだけお受けします。本当にありがとうございます」


 気が変わればなんとやらと、かつての師匠――最初の師匠は言っていたけど。

 最近は、一方的な負けもなくなってきた。

 読み勝てなかったり、上回られたり、圧倒されることはあっても。

 それでも、また笑って立ち上がれるようになった。

 そう言えば再会の後、高鴨穏乃が言っていたっけ。

 確か――。



穏乃『なーんかさ、京太郎が鋼の心って言われても違和感があるんだよなぁ』

京太郎『どういう意味だよ』

穏乃『鋼って言うと、何をされても傷付かないし壊れないって感じでしょ?』

京太郎『ハードボイルドだよな、うん』

穏乃『でも――きっと元々はそういう意味なのかもしれないけど――』

穏乃『京太郎は、傷付くし痛がるし挫けそうになるし、やっぱりめげるよ』

京太郎『……』

穏乃『仕方ないって。だって、人間なんだから』

京太郎『……まあ、な。実際結構追い詰められもしたし』

穏乃『でも――どんな辛いことがあったとしても――』

穏乃『また立ち上がって、笑って前を向ける』

穏乃『それが京太郎なんだって、私は思う!』



 惚れ惚れするほどいい笑顔を見せた彼女に、言葉を奪われた。

 それから須賀京太郎は、確か、小さく笑ったんだったか。



穏乃『だから……とりあえず、色々置いといて、京太郎のファン1号として応援は止めないからな!』

京太郎『……なあ、穏乃』

穏乃『え、なに?』

京太郎『ファン1号は憧な。ちなみに』

穏乃『なんとぉ――――!?』

京太郎『まあ、2号にするから……こう、技の1号・力の2号みたいでちょうどいいと思うぜ。打ち方的にも』

穏乃『人をそんな、脳味噌まで筋肉まで出来てるみたいに言わなくても……』

京太郎『だよなぁ』

京太郎『筋肉さんにだって、ストッパーはあるからさ』

穏乃『そっち!? ちょっと酷くない!?』



 うん。

 あれは、ツーリングしたその日だったか。

 まあ、とにかく……意地があるのだ。一応は。

 プロとアマチュアの違いは――――そのプライドに金と期待をかけられるか、だと思うしな。


京太郎「とにかく……すみません」

透華「……はぁ」


透華「やはり……でしたわね、皆」

一「だから言ったでしょ?」

純「こりゃ、賭けとけばよかったか?」

智紀「賭け出したけど、成立しなかったはず」

衣「満場一致だったもんなー」

ハギヨシ「まあ、判りきってはいましたので」


 ……あ。

 この答え、折り込み済みですかい。


透華「やはり、それでこそ……私のライバルですわ!」

京太郎「……あ、はい」

京太郎「その……」

京太郎「もし俺が受けてたら……どうしたんですか?」

透華「そのときは、普通に全力でバックアップしましたわ」

透華「意地を捨ててまで勝ちたいと思い詰めているから……尚更ケアが必要でしょうし」

京太郎「……どっちにしても、俺の人物像は覆らないんですか」


 正直買い被りすぎじゃないか――と、思うけど。

 やっぱり、こうも期待されると……希望を持たれると、それに答えたくなってしまう。

 或いはそんな、ある種お調子者の性格まで見抜かれているんだろうか。


 なんて、考えていたら……龍門渕透華は胸を張って、


透華「モチのロン、ですわ! そんな信用できない人間を、屋敷に通い続けさせると思いまして?」


 なんてあまりに堂々と笑顔で答えるものだから、いよいよ須賀京太郎は言葉を失った。

 この女性の――龍門渕透華のこういうところが、やはり、友人たちが主人と仰ぐように、魅力的なのだろう。

 もう、生涯麻雀と決めてしまったから無理だけど……。

 それこそこの屋敷で彼女に仕えて、一生を共にするのも悪くない――なんて思ってしまうぐらいに。

 やっぱりこの場所は、いい場所だった。













透華「……ところで」

京太郎「なんですか?」

透華「智紀を連れて行きませんこと?」


 ファッ!?


京太郎「え、いや……今……」

透華「ええ」

京太郎「俺、分析は自分でやるって……」

透華「ええ」

京太郎「それに、皆そう言うと思ってたって……」

透華「判ってますわ! ほら、ちょっとこっちに……」

京太郎「は、はい……」


透華「……こほん。ここなら大丈夫ですわね」

京太郎「は、はあ……」

透華「分析は確かに貴方がやるにしても、牌譜や映像の収集は別の誰かがやってもいいでしょう?」

京太郎「ええ……まあ、実際沢村さんに頼りましたし」

透華「宜しい」

透華「それに……マネージャーがいないから、スケジューリングにも無駄が見られる」

透華「整理する人間が居ても、困りませんわね?」

京太郎「確かに……まあ」


京太郎「でも……あの人がサイバー関連やらITやデータやら何やら、やっているんじゃあ……」

透華「歩も、覚えてきてくれてますわ」

京太郎「歩さんも……ああ、なるほど。それはいいですけど……」

京太郎「沢村さんの意思は? 下着ドロ疑惑のあととか、みょーな感じだったんだけど……」

透華「なにをみょんなことを! あれは8年も前で、しかも誤解とその場で判ったでしょう?」

透華「智紀も、京太郎を気に入ってますわ。だから、何も問題ないのではなくて?」

京太郎「はあ」

透華「……」

京太郎「……」

透華「……」

京太郎「……何がありました?」

透華「う゛」

透華「あ、あの……」

透華「その……あの、ですわ……」


 頬を赤らめて、普段の覇気もどこへやら。

 嫌にもじもじして、上目遣いでこちらを見上げる龍門渕透華がそこにはいた。


透華「……で、……を……して?」

京太郎「は?」






透華「――受けとか攻めとかタチとかネコとかを御存知でして!?」


 あっ(察し)。






透華「こ、こんなことを大声で言わされるなんて……辱しめもいいとこですわ」

京太郎「……すみません」

透華「い、いえ……」

京太郎「……」

透華「……」

京太郎「……」

透華「……」

京太郎「……何があったんですか?」

京太郎「あ、言える範囲で構わないので…………その……」

透華「……はい」


 整理するとこうだ。

 ある日、天江衣が唐突に「キョータローとハギヨシはホモなのか」と聞いた。

 引き吊った笑いで流そうとした。偶々言葉を知ってしまっただけだと思おうとした。

 が、なんと意味も知っているらしい。

 萩原がマジ切れした。

 当然家族会議になった。

 パソコンが調べられた。沢村智紀のパソコンから、多数のBL画像が見つかった。部屋からはウキヨエも見つかった。

 処分された。

 どうやら、また集めているらしい。(←今ここ)


透華「その……ああいう趣味の人間がいるとは、聞いてはいましたわ」

透華「あの……」

透華「私も女である以上、まるで全く興味が欠片もないとは言いませんけど……」

京太郎(そのりくつはおかしい)

透華「でも……」

透華「正直、戸惑ってしまうと言いますか……衣の教育に悪いと言いますか……」

透華「かといって、趣味を認めない主人というのも狭量でして……智紀も、落ち込みようが凄まじくて……」

透華「その……」


 つまりは……。


京太郎「ほとぼりが冷めるまで、沢村さんを外に出して起きたい……と」

透華「ええ……そうなりますわ」


 体のいい厄介払いである。

 まあ、それは悪く言えば――という話であり、実際それほどそんな意図だけではないだろう。

 多分、須賀京太郎にマネージャーが必要だと考えたのも本当。

 そんな形で手助けしたいと思ってくれてるのも、真実である。

 実際、天江衣の手の届かない場所にデータや本を移してしまえば、ことは済むのだから。


 そんな解決をしなかったというのはつまり――。

 それを口実にして、さほど不自然のない形(十分人には言えないが)で建前をつけて、須賀京太郎のサポートを行うため。

 急に沢村智紀を貸し出すと言われても、京太郎は断るだろうが。

 こう言われたら、まあ、受けても仕方ないなと思ってしまう。

 そんな風に、向こうなりに気を使ってくれたのだろう。多分。きっと。恐らく。メイビー。パーハップス。


京太郎「判りました。そういうことなら――お願いします」

京太郎「俺も、そろそろちょっとはマネージャー欲しいかもって思ってましたので」

透華「! ――そう言ってくださいまして!?」

京太郎「はい。俺としても、ありがたいです」


 流石に……。

 流石に沢村智紀が、ガチで萩原と須賀京太郎で同性愛的なことを考えている訳ではないだろう。

 知り合いで――しかも、自分にとっても遠くもない人間で――その手の妄想をしたとあっては、

 龍門渕透華も烈火の如く怒りを顕にするに違いない。

 だから多分、色々行き違いがあった。

 でも、わだかまりのようなものが残ってしまったから――きっと、ほとぼりが冷めるまでなんだろう。


京太郎「まあ、俺としても美人の秘書さんが付くなんて嬉しいです」

透華「……むっ」

京太郎「……透華さん?」

透華「なんでもありませんわっ」


 そのまま、肩を怒らせて進む龍門渕透華。

 まさか、巨乳ヤッターと僅かながらに思ったのを察知されてしまったのか。

 そうなら、流石は龍門渕透華。伊達じゃない。


透華「では、智紀……くれぐれも須賀京太郎に失礼のないように」

智紀「……大丈夫」

智紀「もう、下着収集してると間違えて生ゴミを見るような目はしない」

透華「よろしい」


 生ゴミを見るような目というか、ありゃ生ゴミを貪ってる脂ぎったオタクの浮浪者を見る目だった。

 お陰でどこかストッパーがかかり、調子に乗った態度には出られない。

 『いえーい、おもちー』とか『結婚してください』だなんて言えない。前者を口にしたことなんて一度もないが。


智紀「それじゃあ、よろしく」

京太郎「よろしくお願いします、沢村さん」

智紀「……智紀でいい」

京太郎「じゃあ、改めて俺は……京太郎で」

智紀「判った」


 これにて、一件落着だろう。

 須賀京太郎は龍門渕家を再び訪ね、国広一を初めとする皆と、語り合えたのだから。

 (なお杉乃歩とは昔からタイミング悪くあまり顔を合わせられていない)

 更には、忙しかったスケジュールの管理を行ってくれる凄腕の美人が、秘書になってくれたのだから……。

 もう、一件落着では足りない。

 ここは百件落着と言うべきだろう。百件落着と。










透華「では、智紀……くれぐれも、お願いしますわ」

智紀「わかってるから、安心して」


 ……落着したんだよね。不時着じゃないよね。


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【ハギヨシの好感度が上昇しました!】

【国広一の好感度が上昇しました!】

【井上純の好感度が上昇しました!】

【沢村智紀の好感度が上昇しました!】

【天江衣の好感度が上昇しました!】

【龍門渕透華の好感度が上昇しました!】

【高鴨穏乃の好感度が上昇しました!】

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最終更新:2014年02月08日 15:14