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 【ニセ彼女/ニセ恋】


 年末調整という言葉もある。年度末調整という言葉も。

 忙しくて猫の手も借りたいという言葉もある。猫には前肢があっても手はないのは言うまでもないだろうが――

 多分、忙しさに荒んだ心を肉球で癒されたいという意味なのだろう。


 須賀京太郎は断然カピバラ派であるが、猫も好きだ。

 犬も嫌いではないのだが……

 まあ、猫のあのこちらを素気無く袖にする癖に、向こうの好きな時期に手慰みとばかりにじゃれついてくる有り様が、なんとも好ましい。


 古来より、猫は女性的と聞く。

 つまり、猫が好きな須賀京太郎は断じて同性愛者ではない。

 ちなみに弘世菫は犬が好きで、辻垣内智葉は猫が好き。新子憧は動物全般が好き。

 余談だが、猫を相手にしたときの辻垣内智葉は凄い。滅茶滅茶、猫撫で声を出す。

 猫を撫でてるときに出るから猫撫で声とは、昔の人は上手く言ったものだ。

 映画などでギャングのボスが猫を膝に乗せてるのは、やっぱ現実でもそうなんだろうな――なんて思った。


 ……さて。

 年末調整である。つまりは色々忙しかったのである。

 師走である。師匠である小走やえも走っているのである。

 クリスマスである。

 小走やえからプレゼントを貰い一緒に夕飯を食べて、それから仕事で呼び出されてしまったのである。

 イブももうイブでなくなる時間である。


京太郎(うわ……)

淡「!」

淡「…………」


 で、オンボロビルのエレベーターにて。

 大星淡と乗り合わせてしまったのだ。クリスマスイブ(もうすぐ終わるが)なのに、大星淡と。

 なんていうか、やっぱり神様は自分のことが嫌いなんだろうか。


京太郎(なんていうんだろうな……こう、なんて言うんだ?)

京太郎(……)

京太郎(……気まずい)


 大星淡の誕生日以来なので――九日ぶりだろうか。

 そう、大体九日ぶり。時間に直したらどれぐらいか……知らないし興味もない。

 ただ、再び出会うまでとこれから別れるまでのどっちが体感的に長いかと言われたら――――こっちである。

 だって、前に別れたとき……別れ際に……。


京太郎(キスされたんだよな、こいつに)


 のである。


 何となく淡の唇を目線で追いそうになりつつ、なにか察したか彼女の目が動く――目が合う前に待避。視線を切ることに成功。

 ありがとうウスランガの仮面(振動式忍者刀)、ありがとう小走やえ。

 あのまま終わってればベストなイブだったのに――――上手くはいかないものだ。

 大概のハッピーエンドはそこで終わってのには理由がある。だって、こんな風に蛇足が起こるからだ。


 流石に、女に口付けされて意識しないほど須賀京太郎は男をやめてはいない。それが美人なら尚更。

 大星淡は、見た目だけなら美形だ。可愛い系とも美人系とも言えるお得な外見である。

 で、本人曰く素っぴん。なんだそりゃという感じだ。感じではあるが――。

 性格があまりにも憎たらしいので例外。

 温厚と名高い須賀京太郎を、ここまで辛辣にさせるのは精々が彼女と鶴田姫子だけであろう。

 どっちも、ドッキリで京太郎にハメられたフリをしながらハメてくれた人間である。腹立たしい。


 ……まあ、とにかく。


 意識はするのだ。意識は。

 ただ、相手に深い意図や特別な意識がないと思ったら、それをやめるだけである。

 犬や猫に唇を舐められたからと言って、まさか犬や猫を意識する人間はおるまい。それと一緒だ。

 相手がどういう意図によってそれをしたのかによって、京太郎も意識を変える。

 例えば、酔えば逆セクハラ魔になる新子憧しかり。

 ドキッとしないとか、役得と思わないかと言われたら嘘になるが――まあ、あんまり気にし過ぎないぐらいの気持ちになる。


 例えば昔知り合った外国人留学生なんかは、キスが当たり前の国の人かつキス魔だったので……。

 次第に喜びや戸惑いよりも、そんなもんかという意識が強くなった。

 ……余談だが。

 思えば、最初も最初の新子憧は、酔ったら泣き上戸というか普段に比べて明るさや快活さが薄れるタイプだったのに、いつの間にああなったんだろう。

 そのときの態度だったらきっと須賀京太郎も勘違いをして、彼女と一夜を共にしたかもしれない。

 なんて思うと、あのセクハラにはある意味救われたのか。

 何が彼女をそうさせたのだろう。男を知ったのだろうか。


 まあ、なんてことはいい。

 それよりも、早く下に到着してくれないかな――なんて考えてたら。


京太郎「……ん?」


 エレベーターが停止した。唐突に。


京太郎「おいおい……」


 まあ、こういうときは大人しく復旧を待てばいい。

 それか、それで駄目なら非常用の回線で連絡すればいいだろう。別に変に慌てる必要はない。

 なんて考えていたら……。


京太郎「……うわ。電気が」


 切れた。雷でも、落ちたのか。

 それとも――まあ、なんかは知らないが、配電や配線に異常が出たのか。

 こうなると、自然な復旧は見込めない。見込めるが、いつになるのか分からない。

 エマージェンシーコールをすれば、まあ、なにもしないよりマシかという程度だが……しないよりはいい。というかしない理由がない。


 早くこの場を離れたかったのに、なんともツイていない。

 思えば、小走やえとの後に更に仕事が入り、更には携帯を忘れて再びこのビルに入ったのが運の尽きである。

 やっぱり、神様には嫌われているのかな――――なんて思ったそのときだ。


淡「ひっ……」


 大星淡が、聞いたこともないような悲鳴を漏らしたのは。


京太郎「……大星?」

淡「や、やだ……暗いのは……」

京太郎「……は?」

淡「うぅ……う、うう……」

京太郎「……あー、その、大丈夫か?」

淡「揺らさないでよ!」


 手を伸ばして、先ほど見た彼女の元へと向かおうとしたが――その前に拒絶の声。

 流石に判る。

 これは、マジだ。この声はマジのそれだ。


京太郎(……いや、でも、プラネタリウムは平気だったよな)


 暗所恐怖症という疾患があるというのは知っているが――以前の様子では、そのような兆候は見られなかった。

 ならば、何故。これは不可解だ。

 まさかつい最近にトラウマが追加される――なんて、そんな都合がいいことはあるまい。


淡「う、うぅ……」

京太郎「……チッ」

淡「ひっ」


 クリック音の反響にて把握――。

 大星淡は、エレベーターの隅で屈んでいる。恐らくは、自分自身を腕に抱いて。

 典型的なパニック症状と言ってもいいだろう。

 となると、今のクリック音――舌打ち――は、ものの見事に失策だ。彼女のパニックを加速させてしまう。

 心的外傷ストレスか。

 何が、彼女をここまで追い詰めたのかと考えつつ――努めて、落ち着けた声色を出す。


京太郎「落ち着け、大星」

淡「……ううっ」

京太郎「落ち着いて、ゆっくり、深呼吸しろ」


 声はなるべく低くなりすぎない程度に下げて、語りかける。

 というのも、声が齎す印象と――それに由来する心理効果による。

 高音は、明朗さや快活さを出す反面、穏やかであるとは言えず、少なからず相手の心を揺さぶる。

 かといって低音の人間は初対面で頑固さなどの印象を与えてしまい、引いては緊張させてしまう。

 どちらにも近付けないように、穏やかに。

 できる限りペースを落として、区切り区切り話しかける。


 パニック症状を起こした人間に話しかけることには諸説あるが……。

 少なくとも、完全なる暗闇は拙い。

 五感が制限されるがゆえに、人の意識は内向きに――或いは過敏に外向きになり、恐怖を加速させる。

 このまま、放っておくのが得策とは思えない。


京太郎「そのまま、ゆっくり、息を吐け。吸うんじゃなくて、吐くんだ。それから、一拍置いて、静かに吸え」


 人間の心理状態は動作に表れるが、同様に、動作が心理にも影響を及ぼす。

 緊張やパニックにより、人の呼吸のペースは速まる。そして今度は速まった呼吸のペースが心を急かし、更なる緊張を生む。

 心を落ち着けるためには、まずは呼吸を落ち着ける必要があるのだ。

 動作が、心理をコントロールする。

 これは、スローダウンさせた京太郎の言葉の速度も同じ。人間はどうしても、対話する相手から影響を受ける。

 大星淡の呼吸にテンポを合わせつつ、京太郎が声に出して少しずつその速度を変化させることで淡の呼吸もそれにつられる。

 性急な判断を迫るセールスマンが、言葉を捲し立てるのもこれと同じだ。逆の方向で用いたが。


京太郎(ここらへん、俺がオカルト持ちじゃなくて良かった)


 これは、大学で――教育などに必要だからと――学んだ、心理学に由来する。

 そんな、大本は麻雀とは別方面の技術を麻雀に利用している。

 だから、このような活用法は容易であった。


 逆に言うなら、こういう本来の活用法ができてこそ――相手の思考の先読み、台詞の先読みができるのだ。

 つまり、この程度は、朝飯前だった。もう夕飯食べたあとだけど。


京太郎「なあ、大星」

淡「な、なに……?」

京太郎「怖かったなら、なんで怖かったのか教えてくれないか?」

淡「こ、こういう……暗くて、狭いのは……私……」


 そりゃ、見れば判る。

 なんて思っても言うつもりはない。流石に、弱っている相手に辛く当たるほど鬼畜ではない。

 逆なら何度か受けたことがあるが。


京太郎「そうか、でも……大丈夫だ。お前は、大丈夫だからな」

淡「う……」

京太郎「それより、なんでそれが怖かったのか……説明してくれるか」


 根拠を敢えて説明しないことで、相手の意識に響かせるテクニック。

 軽く流すことで、大したことではないと思わせるテクニック。

 一人称を用いないことで須賀京太郎に対する意識を薄れさせ、他人と居るという緊張を緩和させるテクニック。

 総動員だった。

 まあ、相手が平常なる精神状態ではないからこそ、然したる手間もなく実施が可能だった。


淡「子供の頃、私……家に居たくなくて……」

京太郎「子供の頃、か」

淡「それで……外でよく、遊んでたんだけどね……?」

京太郎「外で、か」

淡「私……隠れんぼしてたんだけど、さ」

京太郎「隠れんぼしてたのか」

淡「そのとき……車に、車に……」

京太郎「大丈夫だ。落ち着いてくれ」


 淡の言葉を反復追従して、彼女に対しての理解や共感を伝える。――肝心なところは、また、別として。

 それにしても、なんだか雲行きが怪しい。

 まさか虐待、或いは誘拐や暴行を受けたのだろうか。

 ……。

 そうなったら、どうすればいいのだろうか。

 多少心得はあると言っても――――専門家ではない。どちらかと言えば、攻撃に用いる方が多いのだから。


淡「車に……さ。私、車のトランクに……」

京太郎「ああ」

淡「車のトランクに隠れたら、そのまま……発車されちゃって」


 アッハイ。

 そっすか。それは大変だったっすね。


 そのまま、訥々と語り続ける大星淡さん。

 なんでも、中から開けられなくて怖かったとか。

 息苦しくて、寒くて大変だったとか。

 揺れるので、嫌になるぐらい揺さぶられたとか。

 だから、暗いのや狭いのが単体ならともかく――――組合わさると、しかも不安定な場所なら、非常に嫌だとか。

 そんなことを何やら話していた。


 ……。

 ……確かにそれも、本人からしたら大変であるし、やはりこうして弱っている女の子を放ってはおけないとは思うが。

 目を覆うほど痛ましいことではなくて、なんだか拍子抜けした。

 この分では、殆ど――こんな偶発的な事故さえなければ、問題ないだろう。

 別に、恒常的に閉所恐怖症でなければ暗所恐怖症でもない。車自体がトラウマかと言えば、そうでもない。

 日常的な影響は、ほぼ皆無と言ってもよい。

 なら――笑い話には到底できないが、こちらまで深刻になってしまう必要はなさそうだった。


京太郎「なあ」

淡「なに……?」

京太郎「携帯、明かりにならないのか?」

淡「あっ」


 こいつ、バカだ。


淡「……電池切れてる」

京太郎「……そうですか」


 バカだ。繰り返すが、バカだ。

 このアホの子め。


淡「きょ……す、須賀は?」

京太郎「俺のもだな。悪いけどさ、充電する時間がなかったんだ」

淡「ばか。肝心なときで、使えないじゃん」


 揺らしたろか、このアマ。

 働きづめで充電が切れ、携帯外部バッテリーを使用して使い果たし、携帯充電器は電池が切れた。

 で、この、電波の悪いオンボロビルに置き去りにしてた。

 電波さんを探して必死になる携帯さんは、顔を真っ赤にするどころか残りバッテリー表示を真っ赤にしていたのだ。


淡「なんで、こーゆーときに気が利かないかなー」

京太郎「知らねーってーの。ここのビルに置いといて時間たったんだから、仕方ないだろ」

淡「……須賀も?」

京太郎「……お前も、かよ」


 うわ、屈辱。マジか。

 こんなバカと同じことをして、結果二人ともエレベーターに取り残されるとか、どんな冗談だ。


淡「ばかだよねー。須賀のばーか」

京太郎「うっせえ、これでも喰らってろ」

淡「痛っ、な、なにするのよ!」

京太郎「黙って、チョコでも食ってろ」


 何かを口に含むことで落ち着く……という心理効果もある。

 彼女の震えが収まらないようならと、宮永照用のお菓子を手の内に潜ませていた。お菓子係の名は伊達じゃない。

 お腹が空いたらすぐお菓子。宮永照の要求はシンプルである。


 ……。


 明るそうに振る舞おうとしてるけど、その声はまだ緊張している。

 暗がりに怖がるとか、そんな儚げやしおらしさは似合わない。

 今も、僅かながらに不安そうにしている様など――――須賀京太郎が知っている、大星淡ではない。

 チョコやるから、さっさと笑えばいいのだ。こんな奴。


淡「あっ、おいしっ」

京太郎「……どういたしまして」

淡「ね、もっとないの?」

京太郎「……」


 バカだった。やっぱり。


 ……。


京太郎「……はぁ」

京太郎「大星、無理すんな」

淡「…………へっ?」

淡「な、なんのこと? ちょっと、言ってる意味が――」

京太郎「――悪い。揺らすぞ」

淡「へ?」


 彼女の了承を待たずに、そのまま一歩を踏み出した。

 格闘の要領で、腰を落として重心をブラさず、可能な限り上下左右に正中線が揺れないように。


淡「だめっ、だめだってば! 動いちゃだめっ! やだよっ、動かないでっ」

京太郎「……大人しくしてろって。あんまり、声出すなよ」

淡「ううっ、やだっ! 揺らさないでよぉ……動いちゃ、だめだってば! だめっ、やだよっ」

京太郎「騒がないで、大人しくしてろって。お前の方が勝手に動いてるんだよ」


 そのまま、やれやれと彼女の隣に腰を下ろす。細心の注意を払って。

 まあ、大星淡が無駄に騒ぐ所為でその身体が揺れて、またそれに騒いだのに比べたら――まったく揺れてないと言っても過言ではない。

 そのまま、淡の頭を胸に抱いた。


京太郎「俺が持ってるお菓子が誰用かなんて、お前一番判ってるよな」

淡「……」

京太郎「なのに――いくら状況が状況だっつっても、そう幾つも求めないだろ?」

京太郎「そんな風に、変に明るく振る舞おうとかするなよ。無理にそんなこと、しなくていいんだからな」

淡「……」

淡「……別に。違うから」

京太郎「そっか。じゃあ、勝手にそう思っとく」


 そう言いつつも胸元のシャツを握る手には力が入り、くしゃっと乱れる。

 仕方がないな、と改めて溜め息が漏れる。


京太郎「なあ、ほら、安心しろって。暗闇なんて別に怖くはないから」

淡「須賀はそうだとしても……私はっ」

京太郎「だから、怖くないんだって。お前も、大丈夫なんだよ」

淡「?」

淡「現に、嫌だと思ってんのが……判んないの?」

京太郎「大丈夫だよ」

淡「どして……なんで言い切るのよ」

京太郎「俺が居るから」

淡「は?」

京太郎「俺が、お前の傍に居てやるからじゃ――駄目か?」

淡「――」


淡「……。……何言ってんの?」

京太郎「一人ぼっちじゃないなら、暗闇は怖くないだろ?」

淡「……確かに、私一人よりはマシだけど」

京太郎「なら、これからは別に怖がらなくていい」

淡「は?」

京太郎「こんな状況になったら――そんときは、絶対に俺が隣にいる。隣に居てやるから」

淡「……」

京太郎「居なかったら、俺を呼べよ。呼んだら絶対に……そんときは、駆けつけてやるからさ」

京太郎「な?」

淡「……」

淡「……そんなん、言い切れないでしょ。ばか」


 「何だかんだ、お前と会うのって多いから大丈夫だろ」――と、続けようとした。

 事実、こうして会うのは果たして何度目だという話である。多いときは、一日六回顔を合わせたことがあるのだ。オフの日なのに。

 だけど……。


淡「ばか。ばーか」

淡「……」

淡「……………………でも、ありがと」


 京太郎の言葉を待たずに、こてんと淡が頭を預けた。

 勝手に憑き物が落ちたみたいに、落ち着いた声色で。

 京太郎のシャツを掴んで、一際大きく息を漏らした。


 ――人間、誰しも周期というのがある。


 ムードしかりタイミングしかり、あたかも周波数が合一するが如く波打って、ふとした拍子に則を越えることがある。

 そう。かつて、新子憧とカラオケで二人っきりになったように。

 京太郎は今、ふと――大星淡の肩を掴んで、唇を奪いそうになった。瞬間的に、そんな衝動に駆られた。


 ある種の直感と言おうか。

 何となく、今歯車が噛み合ったという確信めいた感覚は生まれるものだ。今なら、これならイケる――と。

 そうなったら、相手も同じく雰囲気に乗る。そうして火が点いて、男女の関係が発展するのは度々ある。

 きっと淡は拒まない。京太郎も、淡も、お互いに合意する。


 でも――。

 だけれども――。


京太郎(それは、駄目だろ。弱ってる大星相手に、それをやったら)


 なんというか。

 まるでそういう意識を抱かないと言ったら嘘になるし……。

 もし仮に平常なるとき彼女がそんな関係を求めるというなら――吝かではないし、そのときはそのときだけれど。

 なんては思うが……ただ、こうして、なんとなくのムードとか状況で。

 触れて抱き合って、キスをする――というのは大星淡相手には、相応しくないと思った。


 そうなったら、彼女との関係は暫く続くだろう。

 今までのいがみ合いが嘘のように交流を重ね、交遊を深め、交渉を連ねて行く。

 幸せな日々は続くだろうし、お互いに満足するパートナーとして、上手くやっていける。

 だけど、駄目だ。

 そうして作った関係は、近くなくとも――遠くない何時かに、区切れてしまう。途切れてしまう。

 そうとは限らないだろうけど……それは、嫌だった。

 勿体ないと思った。もっと深く、もっと長く付き合いたいと思ったのだ。大星淡と。


 それから、自分でも驚いた。

 まさか、大星淡に――新子憧に対して思っていることと同様のことを思うなど。

 いつのまにか、大星淡とも打ち解けてしまったらしい。

 意外である。


淡「ね……」

京太郎「ん?」

淡「なんで、そこまで言ってくれるの?」

京太郎「……」

京太郎「……ライバルだからだろ」

淡「……」

淡「……そっか。うん。私と須賀は、ライバルだもんね」

淡「……へへ」

京太郎「どうした?」

淡「なんでもなーいー♪」


淡「じゃあ、呼んだら助けに来てくれるよね?」

京太郎「ま、ライバルとしてな」

淡「ん♪」

淡「私も……須賀が『困ったピンチだー』って言うなら、助けたげるから」

京太郎「ライバルとしてか?」

淡「うん。ライバルとして」

京太郎「……」

淡「……~♪」


 しかし……。


京太郎「お前、なんか頼りになるのか?」

淡「んー?」

淡「んむむむむむ」

淡「んむむむむむむむむむむむむむむむむむむ」

淡「むむむ……」

京太郎「どうした?」

淡「例えば……例えばー、の話だけどっ!」

京太郎「ああ」


淡「お菓子作り過ぎちゃったり! 誰かにご飯を急ーに奢りたくなったり!」

淡「おいしそうなお店屋さん見付けたりー? 面白そうな映画見付けたりー?」

淡「あとはあとは、急に話し相手欲しくなったり! 急に遊び相手欲しくなったりー!」

淡「ケーキ食べたいけど、一人じゃ恥ずかしくてケーキ屋さんに入れなかったり!」

淡「ドーナツ屋さんに行ったら、いつも食べてるプレーンシュガー以外を出されちゃったり!」

淡「借りてきたDVDを一人で見るのは詰まらないって思ったり、ゲームの対戦相手が欲しくなったり!」


淡「――――そういう時は!」

淡「この淡ちゃんに連絡をとることを……須賀だけに、とーくーべーつーに! 許しちゃうからさ!」 ババーン



 ……やっすいピンチだな、オイ。



 まあ、確かにそういう人寂しいときはピンチといえばピンチだろうから。

 そのときは――――まあ、たまには、ピンチに助っ人を呼んでもいいのかもしれない。

 呼ばれてやっても、だ。












 ……で。


淡「その……この人が、今お付き合いしてる人なのっ」

京太郎「どうも、よろしくお願いします」


 どうしてこうなったんだろうか。



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最終更新:2014年02月08日 15:21