アットウィキロゴ


京太郎「はぁ……」


 溜め息を吐くと幸せが逃げるというが、実際のところそもそも溜め息ばっかり吐いている人間には逃げられるだけの幸せがあるのだろうか。

 ああいや、金は天下の回りものという。お金というのは寂しがり屋で、仲間が多い方多い方に向かうらしい。

 とどのつまりは幸せというのもこれと同じで、加速度的にあっちこっちに宿を移すのかもしれない。

 要するに金っていうのが幸せだったんだよ!――などと実に喋っていれば竹井久が展開してくれそうな、

 幻想の日本の元風景に店を構えていそうな眼鏡の店主が言うであろう四方山話を「毒されてるな」と打ち切り、思考を戻そうと試みる。


淡「へへへー、きょーたろー」

淡「淡ちゃんの手と手を…………手と手だっけ? あれ? シワとシワ? あれ?」

淡「むむむ……」

淡「むむむむむむ……」

淡「……」

淡「ま、いいや」

淡「淡ちゃんと手を合わせてしあわせー♪ なーむー♪」


 何故、酔っ払いというのは素面を置いてきぼりのテンションで会話するのだろうか。京太郎には甚だ疑問であった。

 宮永照がやたらおねーちゃんぶるぐらい理解不能だ。



淡「ね、ねねね? 判る?」

淡「しあわせの“あわ”と淡の“あわ”だよー? ねーねー?」

淡「ふふーん♪」


 ……死淡瀬?



363 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2014/09/24(水) 23:57:37.22 ID:s3l2GKovo [2/2]
340
時間と場所は自分で作るのが大人だよ
なんでも与えられようと思ってんのは甘え

364 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2014/09/25(木) 00:52:09.21 ID:+jsY0EqUO
なにこいつ



365 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2014/09/25(木) 01:05:51.39 ID:aF1CQ0Oio
まあたしかにグチグチ言ってるのは多少気になるな

366 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2014/09/25(木) 01:07:54.39 ID:yyqsrheQO
堕ちたか……

367 名前:1 ◆rVyvhOy5r192[saga] 投稿日:2014/09/25(木) 01:10:03.14 ID:0ZDGS5gqO [1/4]


 ことの始まりはこうだ。

 地下鉄に乗った。無口な他人と街に置き去りだと思った。

 (ちなみに沢村智紀は締め切りで忙しいらしく車での送迎は見送られた。何の締め切りかは聞かないでおいた。実際怖い)

 そうしたら、今現在お隣で鼻唄を歌って身体を揺らしている金髪と出会った。

 大声で隣に座りなよーと呼び掛けられた。

 車内の迷惑になりそうであるし、自分はともかく大星淡の正体がバレたら色々不味そうなので、急いで電車から降りた。

 そして飲み直している、という訳であった。

 ……改めて思うと、そこまでする必要はなかったんではないだろうかという気も、京太郎自身しなくもないのだが、そこは知ったる顔の誼だ。

 例えば新子憧が同じ状態なら迷わず送り届けるし、弘世菫なら放っては置けない。宮永咲は言うに及ばず、萩原ならおうちに案内して止まって貰う。

 鶴田姫子でも……まぁ、タクシーくらいは呼ぶ。


 ……わりと誰に対しても仕方なかった。


淡「でねー、何の話してたっけ?」

京太郎「いや、まだ何も話してないですから」

淡「そーお?」

京太郎「おう」

淡「むむむ……じゃあ、好きなものの話しよっか?」

京太郎「好きなもの……? サッカーとか、それとも食べ物とかか?」

淡「なんでもいーよー!」


 「でわでわー」と、大星淡が手を叩く。そのあと、「あわあわー」と言ったのには乾いた笑いでしか返せない。

 やけに退行している気がしてならない。

 こんなキャラだったか、と京太郎は首を捻ってみた。前に飲んだときは――、……こんなキャラだったかもしれない。


淡「じゃあ私からだねっ!」

京太郎「ん、ああ……」

淡「そーれーじゃーあー、私が好きなものはねー?」



368 名前:1 ◆rVyvhOy5r192[saga] 投稿日:2014/09/25(木) 01:37:09.96 ID:0ZDGS5gqO [2/4]


淡「そりゃ勿論、きょーたろー――――」

京太郎「……っ」

淡「――――じゃなくてテルーでしたー!」


淡「ふふーんどうどう? ひっかかったー?」

京太郎「……」

淡「ねーねー、どうだったー?」


 コロコロと笑いながら覗き込んでくる大星淡の目線に、とりあえず京太郎はデコピンで応じた。

 なんというか、色々と腹立たしかった。そう、色々と。それはそれは色々と。

 例えて言うなら、アイドルを名乗る軽巡洋艦が戦果功労賞をとってピースをしてきたようなものであり、

 或いはシンデレラなアイドルの女の子14歳142cmが「もっとボクのことを褒めてもいいんですよ?」と、

 正直マネージャーと呼んだ方がいいかもしれないお仕事をしてらっしゃる、廃課金レッドショルダーマラソンランナーに笑いかけるのに似ていたかもしれない。

 なお言うまでもないが、須賀京太郎に女性へと暴力を振るう趣味はないので諸兄には安心してもらいたい。

 一般人の蹴りの威力に等しいパンチは、色々と洒落にならないのだ。


淡「……いひゃい」


 ……額を押さえる大星淡には、ちょっと悪いことをしたかなと思った。


淡「じゃー、テルの話しよっか!」

京太郎「俺の好きなものの話は!?」

淡「んー?」

淡「だっていらないじゃん!」

京太郎「いらないって、どういう……」

淡「ずーばーりー、須賀が好きなのは淡ちゃんだからねっ」

淡「だーかーらー、須賀が私を好きでー、私がテルが好きだったら……」

淡「テルーの話に決まっテルーよねっ?」

京太郎「……」

淡「テルーの話に決まっテルーよねっ!」


 当て身(デコピン)。


淡「うぎゅっ」

淡「……いひゃい」


 額を押さえる大星淡には、それほど悪いことをした気分にならない。

 むしろこういうときは『いいや……慈悲深いぜ』と言うべきだろう。国広一ならそう言う。慈悲深いと言ってもキン肉マンは関係ない。


淡「きょーたろーが苛めるー」

淡「ぶー」

淡「須賀のくせにー」

淡「須賀のくせにー、ずっこい」


 どっちだよ。どっちの呼び名でいくんだよ。というか何がだよ。

 いかんいかん、これは酔っ払いだ。酔っ払いに正論をぶつけてどうする――と、頭を振って冷静さを維持しようと京太郎は試みた。


淡「須賀、須賀ー」

淡「ねー、きょーたろー? きょーたろー!」

京太郎「どっちだよ!?」


 ぶつけてた。


淡「なにが?」

京太郎「ん、いや……唐揚げにはレモンをかけるのかかけないのか、どっちにするって」

京太郎「はは……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「テルはかけたよ!」

京太郎「いや君の話だから」

淡「あ、でもかけたらすっごく怒ったかもしんない!」

京太郎「どっちだよ!? しかも結構致命的な二択じゃねーか!?」

淡「淡ちゃんはきょーたろーに合わせたげるー。褒めろ褒めれー」

京太郎「いや君の話じゃないから」

淡「じゃー、きょーたろーの話ー!」

京太郎「あ、ああ……」


淡「……」

淡「……」

淡「……」


淡「なかった!」

京太郎「探せよ!?」

淡「探したよ! うっさい須賀、大声出すな!」

京太郎「……」

淡「須賀は黙ってそこにいればよしっ! 淡ちゃんが愛でてやる!」

京太郎「……」

淡「第一、須賀はさー」


 というところで、呼び出しがかかった。着信の主は松実玄であった。件名は――京太郎の顔から察してあまりあるものであった。

 ここで。

 指が動いたのは魔が差したというよりは殆ど思い付き同然というよりは、もう思い付きを超えた反射だった。ユグドラシル許さねえとかおのれクライシスとかそんなノリの所謂アレである。

 大星淡の胸元に焦点を合わせてシャッター。

 トップスはオフホワイトのオフショルダーフレアチュニックブラウス。なんと例えていいものか――とりあえず京太郎はそのフレアに、イカやクリオネめいたものを連想した。

 肩からはブラ紐、ライムグリーンである。下は芥子色のハーフパンツ。生足だ。実際スゴイ。ヤバイ。

 猫がそうするように前屈みになって膝のあたりを軽く握った拳で押すものだから、鎖骨のあたりがたわんでいた。


淡「ねーねー、きょーたろー」


 いかんいかんこれは大星淡であって大星淡以外の何者でもないんだおおもちあわいイヤこれはおもちあわいかちゅうもちあわいわりとおもちあわい、などと――。

 恰も女性に笑いかけられた装甲で悪鬼な善悪相殺が如く眉間に皺を寄せて、なんとか脳裏と眼球に焼き付いた谷間の記憶を振り払おうとする京太郎の、携帯に着信。


玄『おもち力たったの5だよ!』


 手厳しいなオイ。


玄『まだまだだね!』


 ドヤッ、と効果音が付きそうな返信。


玄『それとも京太郎くんはこれぐらいが好きなの?』


 さてなんと返したものかと、京太郎は頭を捻った。イエスかノーか、イエス・キリストならノーと答える。

 改めて思うが出来心以外の何者でもなく、後悔しか生まれない。冷静に考えると中々に問題だ。実際ウカツだった。

 自分から話題を振るというのは限りなく無謀であり、挙げ句大星淡なんぞを写真に納めてしまったあたり、それはさながらタイガーホールに飛び込む爪楊枝で武装した浪人だ。

 自分は疲れているのかもしれない。

 近くの席からは「父娘ほど歳が離れた少女に母性を求めるなんてどうかしてるぞ!」と、麻雀で親から右手に二番目の家と同じ名前が叫ばれ、

 それに「性的魅力に関わらないからこそ母性が生まれると何故判らん!」と、小室哲哉プロデュースされていた沖縄県出身の歌手の名が叫ばれた。

 どうやら疲れているのは京太郎だけではなかったらしい。世はマッポー、まさに大後悔時代だ。



 なお……。

 須賀京太郎から、明らかに彼の携帯で撮影したであろう女性の胸の谷間の画像が送られてきた松実玄と言えば、


玄「……きょ、京太郎くんからおもちの話題!?」

玄「うん、やっぱりおもちは正解だよね!」

玄「……うーん」


 そこには気付かずに、御丁寧と言おうか馬鹿正直と言おうか馬鹿と言おうか、自分のそれを両手で持ち上げてみた。それから改めて、送られてきた画像を見てみる。

 ふよふよ。

 ふにゅふにゅ。

 ぽにゅんぽにゅん。

 ……勝った。明らかに勝った。

 そう、つまりはおもちでないということである。自分に勝てないならおもちを名乗ってはならないのである。

 つまりは所詮は雑魚なのである。

 しかし――だ。しかし、である。

 世の男性というのはこれぐらいで満足なのではないだろうか? 京太郎もそう思っているのではないか?

 なんというかそれは由々しき事態である。おもち同盟としては海軍の提案に反対なのである。

 故に確かめねばならんのである。これはおもちがおもちである以上必然なのである。所謂、お勿論なのである。


玄「……うぅ、好きって言われたらどうしよう?」


 そうしたらどうするべきか。彼におもちの良さを存分に語り聞かせるべきか。でも流石にそれは恥ずかしい。玄だって女の子である(2X歳)。

 恥ずかしいと言えば、そう言えば須賀京太郎には胸を揉みし抱かれていた。こうして自分で触るのとは別物で、思い返せば頬が熱くなる。

 そう、今松実玄は頬を軽く紅潮させ、なんとなく手持ち無沙汰――おもち無沙汰になった両手を自らの胸に当てていた。

 そして、


宥「玄ちゃん、おふ――」

玄「え」

宥「――ろ……、……、……、えぇ……」

玄「……」

宥「……」

玄「……」

宥「……ごゆっくり?」

玄「あ、あのね……? これはね、その……おねーちゃん?」

宥「お一人様、ご案内……?」

玄「うわぁぁぁぁぁぁあん、おねーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!?」




 一方、東京。


淡「あわわわわわわ」

京太郎「……」

淡「あわわわわわわわわわわ」

京太郎「……」

淡「あわわわわわわわわわわわわ」

京太郎「……大星?」

淡「淡!」

京太郎「……大星淡さん?」

淡「うん、そう! ……って違う! 淡! 淡ってゆえ!」

京太郎「……。……どうしたんだよ、さっきから」

淡「これ!」


 ん、と眼前まで口を突き出して――――それから舌を持ち上げる大星淡。その上には白色の塊。

 怪しいおくすり、というよりはバスタブや入れ歯を入れたコップに沈めるそれに似ていた。

 重曹だったかな、こういうの――――などと京太郎が考えるその頃には、再び彼女の口腔に消えていく飴玉。

 というかそんな飴玉を口に入れながら普通に話せるのは地味にスゴイスキルなんじゃないかと、京太郎は内心感心していた。


淡「あわあわしておいしーよー?」

京太郎「淡だけにな」

淡「え」

京太郎「え」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「う、うん! そうだねー! かなり面白いよっ、うんうん! テルなら爆笑間違いなし!」

京太郎「……」

淡「で……じゃ、じゃあテルの話しよっ? テルの!」


 大星淡に気を遣われてしまった。

 少なからず京太郎はに衝撃的だった。下らない洒落を嘯き、あまつさえそれを半ば退行気味の、おまけに大星淡に気遣われてしまったのだ。

 羞恥を通り越して慚愧の念に絶えない。よい尻を丸出しで川縁に俯せになる鬼は関係ない。


淡「で、テルって好きな人いるらしいよ?」

京太郎「えっ、照さんに……!? 何て言うか意外だな……」

淡「テルも結構モテるからねー」

京太郎「……次にお前は“照だけに”って――」

淡「言って欲しい?」

京太郎「……、なんでもないです」


 まさに時代は、大後悔時代だった。


淡「まー、テルは美人さんだからねー」

京太郎「確かにそうだよな……言われてみたら、あー、確かにそうか」

淡「……」

淡「ちなみに私も美人だよっ! モテるモテる! 100倍くらいモテる!」

京太郎「……なんのですかね」


 「今日だって誘われちゃったんだよねー」と自慢気に、というか若干誇張気味に話す大星淡はさておき……。

 宮永照に。あの、宮永照に。本を読むときと食べ物を食べるときしか瞳を輝かせることしかない宮永照に。

 まさかもまさか、想い人がいたとは。

 正直、京太郎としてもおったまげた。月までブッ飛ぶこの衝撃ではないが、火星まではブッ飛ぶかもしれない。

 ……いや、火星の方が月よりも向こうだった。


淡「でね、テルってば約束してるんだって! テルだけに!」

京太郎「……、約束?」

淡「約束っていうかー、えっと……なんか、いつかその人にちゃんと守って貰うまで、絶対に泣いたり負けたりしないようにしよーとしてるんだって」

京太郎「へえ」

淡「その人がテルを超えて、テルのことを守ってくれるぐらい強くなったら……嘘を吐かないで正直に気持ちを打ち明けるってさー」

京太郎「……無理じゃないか、あの人倒すって」

淡「ねー」


 物理的にも麻雀的にも。

 女に手を上げるのは勿論論外であるが、かつて教育実習での教え子たちか、「(物理的に)殺せんせー」の異名をとった京太郎をしても、難しいと言わざるをえない。

 実際、鉄球強い。

 一々「痛い」「痛い」と騒いでゲートコントロールしなければならないぐらいには、馬鹿にならない衝撃である。


淡「……はっ」

京太郎「どうした?」

淡「ひょっとしたら、私のことかも知んない! テルの後継者じゃなくて倒すつもりだし!」

京太郎「……いつ約束したんだよ」

淡「はっ、記憶喪失!?」

京太郎「ないない」


 ……と、そんなこんなで大星淡が離席した。

 途端に騒がしさを失って、どうにも手透きになってしまった。

 さて、どうしたものかと考える。どうにも賑やかな奴の相手をしていて一人にされたとき、やたらと暇になってしまう現象はなんなんだろうねこれ。

 無論答えは返ってこない。このままでは先に大星淡が帰ってくるかもしれない。別にどうということではないが。

 と、名案が閃いた。正確には齎された。具体的には、安室さんと西さんの席から。

 更に細かく言えばこんなやりとりだ。


 「ならば今すぐに全ての女に献身と母性を備えさせてみろ!」

 「エゴだよ、それは!」

 「私の婚期がもたぬところまで来ているのだ!」

 「だからといって、少女にすがりつこうなんて……情けない奴!」

 「情けなくとも、やらねばならんのだ! それが何故判らん!」

 「お前のいう理想なんて……かつての赤い彗星が堕ちたものだな!」

 「その名は捨てたと言った筈だ!」

 「どこまでもエゴイストめ……!」

 「エゴイストで構わん。人は、母性から離れては生きてはいけない……人類は革新には早すぎたのだ!」

「それはお前のことじゃないのか! 答えろ!」


 ……エゴサーチやってみるかな。


京太郎「須・賀・京・太・郎……っと」

京太郎「えっと、どれどれ?」


 『もしかして:京淡』。


京太郎「いや、もしかしねーよ」


 『もしかして:京咲』。


京太郎「そんなもしかしてないから」


 『もしかしてやっぱり:京ハギ』。


京太郎「やっぱりってなんなんだ、やっぱりって!?」


 『どうかして:京セラ』。


京太郎「どうかしてるのはそっちだよな!?」


 『次の条件で表示しています:京セラ 山手線各駅停車シブヤ』


京太郎「……」



 ……なんか変なアプリを喰らってバグっていたらしい。

 非常にどんよりとした気持ちのまま、『須賀京太郎』で検索をかけた結果のニューストピックを見てみる。

 すると……


京太郎「えっと、何々……」

京太郎「『小学生男子の将来の夢でオカルトスレイヤーがBEST10入り!?』」

京太郎「……」

京太郎「……へ、へー」

京太郎「……そ、そうなのか」

京太郎「……ほ、ほー」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……っしゃ!」


 小さくガッツポーズ。決して無拍子を叩き込む小さく前ならえではない。

 流石にこれは特撮の方を指すのだろうが、それでも選ばれたら嬉しいことこの上ない。

 誰かの夢や希望になれるというのは――――こうもこそばゆく、それ以上に何より暖かく誇らしい。

 思わず、俺はここまで来たんだ――――なんて言いたくなって、


淡「どしたのー?」


 テーブルに戻ってきた大星淡に、ごく至近距離から覗き込まれた。具体的には所謂、ハッキョク・レンジだ。正直身構えざるを得ない。

 思わず引いた京太郎の動きが、意図せず携帯スクリーンを隠した。

 カラテとは違うが、ハッキョクも中々にヤバイ。

 現代最強のコトワザにこうある。「ハッキョクは実際ボンバー」「ワン・ハッキョク、ワン・キル」。

 つまりハッキョクとは爆発なのである。受けたら一撃で爆発四散する! ナムアミダブツ!

 人生にオツカレサマドスエ。ハッキョクは安眠もコントロールする! なんたるワザマエか! ヤバイ!


京太郎「いや、別にな?」

淡「そーお?」

京太郎「まぁなー」

淡「へー」

淡「えへへへへへへ、んへへへー」

京太郎「どうしたんだ、大星?」

淡「きょーたろーの嬉しそうな顔見てたらねー? 私まで嬉しくなっちゃったりしてー! んへへへ」

京太郎「――」

淡「――はいジョーダン! もーらい、っと」


 その僅かな隙を突かれた京太郎は実際ウカツ以外の何者でもなかったが、そもそも京太郎からしたら少々恥ずかしいだけであって、見られて減るものでもない。

 故に大人しくスマートフォンを渡したところで、痛くも痒くもなかった。なかったのだが……。


淡「なになにー?」

淡「――」

淡「――」

淡「――」

淡「……、…………、………………」

京太郎「?」

京太郎「どうかしたのか――」


 『女子の部で牌のお兄さん(須賀プロ)のお嫁さんがランキング入り』。


京太郎「――――」


 あっ(察し)。


 落ち着きながら落ち着くな、落ち着きながら落ち着くな、落ち着きながら落ち着くな――と三度唱えてみる。無論、心の中で。

 まずは状況の把握である。

  須賀京太郎の脳内で思考が加速する――。アセチルコリンやノルアドレナリンやエンドルフィンが出ていた。

 いや、出ていなかったかも知れない。

 兎に角どっちでもいい。須賀京太郎の思考速度は、麻雀さながらに高速化する。


 “疑似神経加速(タキオン・エミュレート)”――。


 神経加速――加速と言えば、彼の中でまず思い浮かぶのは在りし日の原村和であった。

 しかし、アプローチは異なる。須賀京太郎は、心拍数を強制上昇させることで翻って体時間を加速させていた。

 ゾウの時間、ネズミの時間という話がある。

 また、体感で五分を計るという実験を行ったところ、心拍数の高い小学生は一・二分で五分と感じたのに対し鼓動が緩やかな老人は七・八分を五分と見なし――。

 それら老人に軽度の運動を行わせ心拍数を上昇させたところ、五分を四分として体感したという実験結果がある。

 大真面目に、脳内物質を操作することで実質八時間強ほどで囚人に懲役千年の刑を体感させるという働きもあった。

 これは人類が、生物が元々持ちうる機能の一端にしか過ぎない。

 原村和が高度な計算の果てに肉体が超高速思考・超高速動作を発揮するとするならば――――。

 須賀京太郎は肉体の超高速動作の果てに高度な計算を可能とした。嘘か本当か眉唾だがそうなった。


 要するにこう言おう。

 なんか善からぬ気配がした。嫌な汗出た。心拍数上がった。目がぐるぐるするぐらい計算した。


淡「……」


 このときに起きうる事態を予測してみよう――。

 パターン①『いきなり唇を奪われる』。

 何がなんだか判らんうちに喰らえとばかり唇を奪われる。舌を絡めとられる。もう話が噛み合わねー上顎と下顎も噛み合わせねー喋るなと口付け。

 何がどうしてそうなったのか全く意味が判らん羞恥プレイ。心は放置プレイである。

 おまけにそれで酒を流し込まれる。気分は手込めにされる少女漫画の主人公だ。

 パターン②:いきなり辛辣なコトダマを投げ付けられる。

 変態鬼畜優柔不断ヘタレ馬鹿最低マヌケ残念もやしから始まりロリ須賀、モブ須賀呼ばわり。ちなみにスポーツを欠かした事はないので断じてもやしではない。

 世界の破壊者はあんまり関係ない。門(もん)矢(や)士(し)で、もやしって改めて酷い渾名だ。

 何もかも未完成のライダーシステムと晴人の所為であり、乾巧の仕業であり、それも全てユーゼス・ゴッツォがやらかした事であり、おのれクライシス! ユグドラシル絶対許さねえ!

 パターン③:いきなり拳を叩き込まれる。

 カラテ距離或いはワンインチ距離から叩き込まれる拳。実際痛い。


京太郎(……全部憧じゃねーか)


 パターンは大体②→③だったが、大学も終盤に進むとやたら①になった。

 純朴というか男嫌いの彼女に何があったのか。大学怖い。



 果たして――。

 大星淡と、須賀京太郎の前に並べられたジョッキ。中身は透明であるが、水ではない。というかジョッキで飲む代物ではない。

 霧島ロック。黒だか赤だか金だか知らないが、とにかくジョッ霧島である。

 なんだこれ。


淡「飲む」

京太郎「二杯もかよ」

淡「飲め」

京太郎「……大星=サン?」

淡「淡!」

京太郎「あ、ああ……」

淡「……飲め!」

京太郎「アッハイ」


 繰り返すが断じてジョッキで飲むものではない。水割りなら判るが、ロックである。ジョッキ一杯である。

 いいや、まだ氷があるだけ慈悲深いぜ……と殴り付けてくる揮発したアルコール臭。なんかパンチと共に体内に入れられたら爆発しそう。

 マイクチェックと称しながら鉄パイプで殴られそうだ。お前の悲鳴が楽器だぜ的な意味で。

 どうでもいいが、霧島とミッシェルは似てる。性別:兄貴という意味で。インテリヤンキーっぽい。眼鏡が眼鏡の意味を為してない。

 必死に現実逃避しつつ、このジョッキを作ったのは誰だ――と厨房に殴り込みたい気持ちで京太郎は一杯になった。


淡「菫先輩」

京太郎「え?」

淡「時々やってる」

京太郎「……」


 ジョッ霧島、produced by 弘世だった。


京太郎「……って、そうじゃなくて飲むなよ。ジョッキ一杯はやり過ぎだろ!?」

淡「はやり過ぎはヤバイよねー」

京太郎「いや、はやりんまだ若々しいから」


 ○○はやりすぎだ! → はやり過ぎはやっべーわ……。――というのは定番のネットスラングである。

 実際、羊水だなんだという意味では生物学的な見地からは確かにヤバイかも知れない。太閤検地なら「もっと若いの寄越せや」と猿似のロリコン太閤閣下が騒がれるだろう。

 だがまあ、正直あの年であのボディラインを維持するのは流石である。プロ意識である。実にリスペクトである。

 いくらネットスラングとは言えども……同業者、しかも先輩と在っては流石の須賀京太郎でも眉を顰めざるを得ない揶揄だ。

 ……ちなみに近くの席のロリコン大佐閣下は「今すぐ全ての少女に母性を備えてみろ! 私を養子にする法律を作ってみろ!」と吼えていた。

 なにあれこわい。

 ……ちなみに何故だか「はやっ、結婚の予感☆」と刀狩りならぬ男狩りしそうな声が、京太郎には聞こえてきた気がした。

 なにこれこわい。


淡「おかわりー」

京太郎「もう飲んだのか!?」

淡「飲んだ!」

京太郎「……」


 いつの間にかこわい。


淡「ぷはっ」

淡「らからさー、ひょーはろぉー」

京太郎「……」

淡「ひょーはろぉー」

京太郎「……あ、はい。お水とウコンお願いします」

淡「ねーえー、ひょーはろぉー」

京太郎「はい、あとこれ下げて下さい」

淡「うー」


 努めて店員へと呼び掛ける須賀京太郎を前に、髪の毛を投げ出して机に突っ伏して睨み上げる大星淡。髪の毛がふよふよ揺れる。

 なんというか、酔っ払いがやたらとこの『やることないんじゃなくて眠いから寝てるだけだぜ話しかけるな』と中学生がやるようなポーズをするのは何故なのか。

 そこについてはさしもの京太郎も答えを出せない。大体、肘を付くかこのポーズをするかである。

 そういえば、昔の――一時の宮永咲も休み時間ごとにこのポーズをしていた気がする。


淡「あわいちゃんの夢はねー」

京太郎「……照さん倒すとかか?」

淡「そりぇもあるへりょー、別にありまーす!」


 自信満々と胸を反らしてグラスをグイと傾けると、怪訝そうに眉を顰める大星淡。

 すぐに身体は曲線を描き、行き場なく左右に触れる。


淡「……ない」

京太郎「頼んどいたぞ」

淡「そっか! 須賀は偉いねー。いーこいーこしたげる」


 頭を出せと伸ばした大星淡の手が、陸に上がった両生類じみた動きでテーブルに落下。

 ぺたんと音を立て、備え付けられた灰皿を横に退かした。


淡「……あれ、なんの話してたっけ?」

京太郎「夢だな」

淡「そっかー、これ夢なんだー。夢かー」

淡「良く見たらぁー、きょーたろー三人いるし」

京太郎「……」

淡「これで麻雀できるねっ」

京太郎「酔っ払い一人いるけどな」


 どこだろうと視線に続いて動いた顔が、ニュートンの法則に抗えずにテーブルさんに凭れかかって音を立てる。

 二杯目は止めたが、一杯目もやめさせるべきだった。注意を逸らしてる場合じゃないな――と、改めて京太郎には後悔しか出来ない。

 酒を生け贄に海底から邪神を召喚してしまったのである。ジョッ霧島恐るべし。そういえば霧島神宮の巫女さんは神降ろしが出来るのだった。


淡「夢はねー、ねー?」

京太郎「おー」

淡「あー、これ夢だからいっかー」

京太郎「おー」

淡「夢だから夢の話してもいっかー」

京太郎「おー」

淡「……むむむ。夢なのにいつもと違う」

京太郎「いつも……?」

淡「優しくない須賀にはナイショっ!」

京太郎「おー」


 どうしようかと考えた末、結局京太郎は弘世菫にメールをすることに決めた。やはり頼りになるのは弘世菫である。

 ちなみに大星淡のマネージャーであり、貴重なアウトドア友達の亦野誠子はと言うと……

 『須賀プロって、江口プロと仲がいいの?』

 というメールを置いてから、音信不通となっていた。大星淡に確認したところ、渋谷尭深と何がしかのイベントに出掛けたらしい。

 ……京太郎のマネージャー、沢村智紀が締め切りで不在な理由とは別だと思いたい。当日締め切り当日印刷とかヒラコーである。

 閑話休題。


淡「すーがー」

京太郎(……えっと、『大星がへべれけなんで、もし先輩が近くにいるんだったら一緒に弘世先輩のところに泊めてやって貰えませんか? タクシーで送ります』と)

淡「すーがー!」

京太郎(このまま送り返してなんかあったら嫌だよなぁ……)

淡「……すーがー」

京太郎(いや、だからって弘世先輩に頼むのもどうかだけど)

淡「……」

京太郎(先輩が駄目だったら……智紀さんとことか無理か? 締め切り終わってればだけど)

淡「……きょーたろー?」

京太郎(うーん……本当、霧島飲む前に止めておけばよかったよな。もう遅いけど)

淡「……」

京太郎(返信は……えっと、何々?)

淡「きょーたろぉ……」

京太郎(『それは淡と二人きりなのか? 実は照や尭深や誠子はいないのか? 今日あの三人一緒に出掛けると言ってたけど違うよな? なぁ?』)

淡「……」

京太郎(……。…………。………………)

淡「……ばか」

京太郎(えっと……『たまたま電車で大星と合いました。照さんたちは知りません』、でいいよな)


 『From: 弘世菫<[email protected]>

  Title: RE:

  本文:本当に本当だな? 私だけに飲み会を伝え忘れてそのままとかないな?   』


京太郎(……)


 なんたる殺伐加減。白糸台は末法か。

 実際酷い。ムラハチ怖い。社会的制裁はやばい。


淡「……つまんない」

京太郎(えっと……)

京太郎(『俺が弘世先輩を誘わない訳ないですよね?』)

京太郎(……これ遠回しに大星引き取りたくないって事なのか?)

京太郎(話題逸らしてるとか……)

京太郎(うーん……) チラッ

淡「……ぁ」 パァア

淡「あ、あのね、きょーたろー?」

京太郎「おー」

京太郎(とりあえず、触れない方向で行くか。……催促してるみたいで悪いよなぁ)

京太郎(つーと)

京太郎(『だったらいっそ、今度皆で集まりますか? 店とか探しておきますか?』)

淡「……ぅ」

淡「……」

淡「……」

淡「……」


 大星淡ほどではないとは言え、酒が入っている須賀京太郎はなるたけ慎重に文章を作る。

 どうにも酔うと注意力は散漫になるのだ。迂闊な事を送って、その後の関係をお達者されかれない。けじめとかそういう次元ではない。

 以前、別人に別人との話を送ってしまって大変な事になった。……具体的には松実である。

 松実玄からの質問で、というかメールで『おねーちゃんのおもち、凄いと思わない? えっとね、あの、やっぱり京太郎くんもあれぐらいのおもちがいいのかな……?』と、来た。

 普段なら間違いなく頭を抱える案件だったが――酔い混じりの京太郎は二つ返事でハイ喜んでとばかりに返信した。なんたる迂闊か。

 『実際、宥さんのおもちは凄いですね。素晴らしいです』――と。

 松実に送った。確かに、松実に送ったのである。

 ただし松実は松実でも松実シスターズ、暖かい方の姉であった。妹ではなく姉であった。姉より優れた妹なぞはいねえ! ……というのは関係ない。

 そして――だ。返信は来ずに、だ。

 松実玄から『きょ、京太郎くんおねーちゃんに告白したの? やっぱりあれぐらいおもちなきゃ駄目なの? アレ以下のおもちはおもちじゃないの?』……と。

 着信と同時に電話の向こうから半ば涙ながらに切羽詰まって語られたときはどうなるか、という話である。酔いも吹き飛んだ。

 顛末としては、同業他者から唐突なる胸部装甲を表彰する電文が届いた松実宥は不審に思い、妹の松実玄宛てなのかなと妹に確認を申し出た。

 そしてそれを見た松実玄は――という具合である。

 結局話はそれで終わりだったが、無論気まずかったのは言うまでもない。確実にセクハラ事案である。

 確実に須賀京太郎は避けられた。そりゃあ、自分の妹と自分のスタイルについてメールをしている男子麻雀プロを避けぬ理由がない。

 なんかそこだけ聞くと、純朴な妹を騙くらかして下着とか生写真とか用意させてそう。とんだゲスだ。ゲスである。

 正直絶縁されないだけまだ良かったな――と、京太郎は思い返す。明らかに警戒はされていたが。

 でも警戒するときの、戸惑いがちに口の前で手で手を握って伺ってくる様は可愛かった。小動物である。腕で寄せられたおっぱいは大きかったけど。


 ……まぁ、つまり、返信は間違えぬように落ち着いて集中してという話だ。

 いっそこれがLineあたりなら訂正も早いのだが、残念ながら周囲で導入しているのは新子憧と、この大星淡ぐらいだった。


淡「……」

京太郎「……って、あれ?」

淡「……」

京太郎「なあ、どうしたんだ? 眠いのか?」

淡「……、べーつーにー」

京太郎「もうちょっと待ってろよ。あとすぐだから」

淡「……あっそ」

京太郎「……?」

淡「うー」

京太郎「……水飲むか?」

淡「貰う!」

京太郎「あ、ああ……」

淡「もう一杯!」

京太郎「ペース早いなオイ」


 ぐはー、とグラスから唇を離す大星淡。色々と、女が出してはいけない声が出ていた気がする。

 聞かなかった事にしようと、京太郎はとりあえず目を背けた。武士の情けである。


淡「それでー、私の夢はー」

京太郎「夢は?」

淡「きょーたろーと結婚する!」

京太郎「え」

淡「そんでその小学生たちを絶望させてやる! 以上!」

京太郎「ラスボスかよ!?」

淡「若さが憎い!」

京太郎「アラフォー!?」


 子供が絶望する顔見たさに結婚するなどとは、まさに鬼畜の所業。絶望サイドも吃驚の絶望っぷりであった。

 政略結婚よりも酷い。愛を育み子供を育てるのではなく、愛を憎み子供を泣かせるのだ。

 流石はアラフォー。伊達に更けてはない。奴等は若さを妬む事でそれを雀力に変えてきたのだ。白面も吃驚だ。


淡「まー、夢はこー、パーっと結婚してねー?」

京太郎「結婚かぁ」

淡「それでー、こう『良妻』って奴になってー」


 なるほど、良妻願望。

 ……なるほど判らん。多分、大星淡とはこの世で最も遠いところにあるイメージだ。


淡「『ご主人様、ご飯にします? お風呂にします? それとも……きゃー・』みたいなー」

京太郎「……いやそれメイドプレイなのか」

淡「それでー、こうねー? こう、いい奥さんーみたいなの演じてね」


 演じてとか言ってる時点で駄目だと言うのはさておき、京太郎は続きを促した。


淡「死んだら遺産全部貰う!」

京太郎「恐妻じゃないのかソレ!?」

淡「……あ、違った」

京太郎「あ、あぁ……そうだよな……」

淡「それから遺産を巡る泥沼地獄を起こす!」

京太郎「さっきからなんなんだ、どうしたんだ!?」


 余計にタチが悪かった。

 白面の者に取り憑かれているとしか思えない発言。稲荷塚でも盛大に蹴っ飛ばして狐に祟られたのだろうか。九匹ぐらいに。

 只でさえ八本ほど脚が在りそうなヴィジュアルなのに、これに更に九尾とは幾らなんでも積載量オーバー以外の何者でもない。


淡「……あ」

京太郎「お、大星……?」

淡「九尾の狐ー、うぎぎー」

京太郎「……いや確かに金毛で白面だけどな」


 うぎぎーと口を釣り上げつつ、指に挟んだ金髪を尻尾に見立ててパサパサ振る大星淡。

 ……なんというか、居たたまれなかった。

 アルコールとはここまで人を破壊するものなのか。なるほど、須佐之男も日本武尊も敵を酒に酔わせる筈である。


淡「……あ」

京太郎「今度はどうしたんだよ……」

淡「指はえっと……いち、にー、さん、しー」

淡「ごー、ろく、しち、はち……」

淡「むむむ……」

京太郎「……?」

淡「そうだ!」


 何を思ったのか、今度は金髪を一房を咥えてみせる。それから、頭を上下左右に振る。

 指の間に挟まれた金髪も、ふよふよと動いた。……どうやら大星淡はこれで九尾を再現しているらしい。


淡「ひゃふめんほふぉー!」

淡「ふぉーお? ふぇー、ひょーふぁひょー」

京太郎「……」


 何がこうまで彼女を九尾に駆り立てるのか。実は前世は白面の者なのだろうか。赤ちゃんに生まれたいと思った結果こうなるのか。

 確か一説には、人間が普通に生活していて数日以内に交通故に遭う可能性というのは数万分の一と言われている。

 だが、大星淡がダブルリーチを実行し、他家が六向聴となる確率は――――実に三千八百二十七億四千万分の一だ。

 つまり、大星淡はやろうと思えば同一の人物を連続して連日交通事故に合わせる事が可能なのである。

 なるほど、確かにこれは白面の者の生まれ変わりと言ってもいいかも知れない。否、いい訳なかったどうかしてる。


京太郎(弘世先輩……早く来てくれよ……)


 一応のライバルのトチ狂った姿には同情の涙を禁じ得ない。所謂ひとつのこいつ……酸素欠乏症になって……である。

 だが、小首を傾げた大星淡は髪の毛を手放した。口離してもいた。


淡「ちなみに原案は菫先輩でしたー!」


 白糸台はもう駄目かも知れない。


京太郎「……あ、メール」

淡「亦野センパイからだねー?」

京太郎「えっと……何々……?」

淡「『須賀プロ、京セラって響きについてどう思う?』……だって?」

京太郎「……」


 白糸台はもう駄目だった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年12月21日 13:36