アットウィキロゴ


引用:【麻雀】ちょっとお前らに聞きたいんだけどさ【プロ】

1 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
須賀プロって覚えてる?やめちゃったけど

2 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
誰?

3 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
アクション俳優だっけ?

4 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
そんな奴刹那で忘れちゃった

5 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
おい、あんた……ふざけたこと言ってるんじゃ

6 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
やめろ、>>5っちゃん!

7 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
実際だれ?

8 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
プロも次から次へと出てくるからな。よっぽど成績よくないと覚えてらんないよ

9 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
プロになったはいいけれど、そっから辞めて消えてった人ってどうなるんだろうな

10 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
稼ぐだけ稼いでいなくなるんじゃねーの?

11 名前:名無しさんリーチ 投日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
死んでなきゃいいな……

12 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
そんなことよりあわあわの話しようぜ

13 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
今度結婚だっけ?一般人男性と

14 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
宮永世代も次々結婚してくな

15 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
いえーい、すこはや見てるー?

16 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
宮永世代結婚って言うのに、肝心の宮永姉妹が未婚って言うのも複雑だな

17 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
すこはやコース待ったなし!

18 名前:名無しさんリーチ 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
あ、iPSがあるから……



 そんな掲示板から同時か、或いは前後して……。

 ――東京都、練馬区。


「お待たせしました、エスプレッソです」


 気配を感じさせぬ足取りの青年が、静かにコーヒーカップをオーク製のテーブル上へと差し出した。

 刈り上げ頭の中年男性は無言で会釈しそれを受けとると、磨かれたスプーンを摘まんで黒い水面に波紋を立てる。

 その間に、青年はその場を離れていた。軽やかな足取り。

 滑らかに色を沈める黒色のカマーベスト。染み一つ無い白色のウィングカラーシャツの首許からは、くすんだ赤色のタイが逆扇形に胸元まで垂れる。

 黒いズボンのウェイターの出で立ち。銀盤を抱えたその姿は、しなやかな手足の長身と合わせて実に様になっていた。

 だというのにも余りにも――気配が薄い。

 店名が冠した西洋骨董家具を思わせる格調のある、しかし決して嫌味過ぎない店内の色に実に合っている。それこそ絵や背景の一部だ。

 良く見れば断じて自己主張に乏しき平凡な外見などではなく、整っていると言っていい目鼻立ちであるのだが……。

 ある意味では、見事に喫茶店の店員をしていると言える。


「店長、買い出しに行ってきます」

 目の細まった、人の良さそうな笑顔の初老の男性――店長に笑いかける青年。頭を下げて、静かに店を後にする。

 その後ろ姿を眺めていた黒髪の同僚は、青年の名を呟いて店長である白髪の老人に問い掛けた。

 客足がある程度落ち着いたが故に、ふと手持ち無沙汰になったのである。 


「ずっとアルバイトをしてるんですか?」

「いや、社会人をしていたけど……身体を壊しちゃったようだね」

「身体を……」


 再び呟く。

 読書家のその店員は、改めて青年を思い返し値踏みする。これが小説ならば彼はどんな形容詞で語られるだろう。

 月並みであるが――「猫科の猛獣のような」であろうか。

 人間には二足歩行特有の淀みや溜めがあるというのにまるで重力を感じさせない、しなやかな同僚店員の足運びを思い返しながら青年と呼ぶにはまだ年若い風情の少年は首を捻った。

 同僚の金髪の青年が、身体を何処か庇っている風には見えなかったのだ。

 ただ、あの柔和な笑みの向こう側には何かしらの苦悩があったのだろう。自分のそれと同じように。

 黒髪の少年は、眼帯越しに瞳を押さえた。


 段々と秋模様から、冬へと様相を変える街路樹の元を忙しなく人々が行き交う。

 並木で整えられた街角はしかし、大型の液晶ディスプレイや蛍光色の看板や電光掲示板や雑居ビル等と合間って、何とも奇妙な外観を整える。

 その一角で、ある店のウィンドウを前に足を止める人影があった。


「あらら、ここも禁煙か」

「よ、シゲさん」


 シゲと呼ばれた白髪の老人が青年を視界に収め、煙草を片手に困った風に眉を寄せた。


「今日日はどこも吸えないな」

「そりゃまあ、麻雀界も長らくイメージアップを図ってますからね。煙草だの酒だのからは、離れたいんじゃないですか?」


 街頭の大型ヴィジョンに映される、衣装を身綺麗に纏めた女性麻雀プロを片目に青年は苦笑した。

 街のあちこちの美化が叫ばれた今日では、それこそ喫煙者は肩身が狭い。

 青年も嘗ては小洒落た煙管などを片手にしていたものだが、職を辞すにあたって全て処分ずみ。紫煙なんてのは、喫茶店の客のものしか目にしない。


「美化もいいが、足りないな」

「足りない……ですか?」


 聞き返す青年の言葉に、老人は仄暗い緊張感と、えも云えぬ棘棘(おどろおどろ)しさの混じった幽鬼の微笑。


「懸けているという感覚が……! ひりつくスリルが……博打が足りないっ……!」


 危うさを孕んだ喜悦の収まる老人の哄笑。

 好好爺という風情ながらも、醸し出される雰囲気には只者ではない――――人智を超えた闇の領分が覗く。

 しかし対する青年にも慌てた様子はなく、ただ意味深なその目線を書き消すが如く顔の前で手を振った。


「いや、そう言われても……俺、麻雀は打てないんで」

「ほう」

「医者から、身体に悪いから止めろって言われたんスよね」


 真実とも冗談とも取りかねる口調で青年が笑えば、老人も愉快そうに喉を鳴らす。


「そうだったな、京ちゃん」

「はい。……人気種目だから、残念ですけどね」

「あァ、残念だな……俺好みではあったんだけどな」

「……」


 老人のその声色は心底惜しむ響きあり、青年もまた無言で応じた。


「あぁ、そういえば……」

「どうしたんすか?」

「“魔法”を喰う奴が出たらしいな。裏でも話題になってる」

「……“魔法”?」

「麻雀の“魔法”だ」


 かつてのハイファンタジーや映像での魔法使いは、実に万能で普遍的な存在であった。

 別段の術理や方程式なく、思うがままに超常の結果を引き起こした。

 ところが昨今ではそこには因果があり、法則がある。細かい規定や規制もある――――というのを、麻雀での超常に当て嵌めて揶揄した様である。


「“魔法”なんて、そんなオカルト有り得ませんよ」

「オカルトか……ククク、そういえばそうも呼ぶな」

「……」

「……まぁ、麻雀を打たない京ちゃんには関係ないか」


 ――今度フグでも食いに行こうや。

 そう言い残して背中越しに手をあげると、咥えた煙草を所在なさげに指に挟んで老人は去っていく。

 残された青年は、暫しその老人の背中を見詰めた後にやおら顔を上げた。

 視線のその向こうは、先ほど一瞥した大画面の街頭ヴィジョン。


「……勝ったのか、咲」


 小さな呟きは誰に聞かれるまでもなく雑踏に消える。彼の持つ存在感に等しかった。


(……ん?)


 ふと、視界の端に映ったものに、青年は顔を向けた。

 彼と同じように、スクリーンを見やる小さな影。未だ年若い少女。

 年の頃は、中学生か小学生か。少なくとも高校生とは思えない。……何事にも例外はあるが。

 藍色の毛先が肩にかかるかかからないか程のショートヘアー。耳や眉が隠れるほどの長さはある。

 上野のアメ横ででも売ってそうな虎の刺繍の入ったジャンパー。ショートパンツの殆どは、余ったジャンパーの丈に隠されていた。

 突っ掛けた薄汚れた白黒のスニーカーからは、どことなく少女の家庭事情が窺える風である。

 ――何よりも。


「……」


 医療用の眼帯で片目を被っているのが、やけに痛々しい。

 暫く流れる映像を見送った後に、その少女はまたどこかへと足を向け歩き去っていった。

 青年は思案顔の後、


「……げ、買い出し途中だった」


 同僚の少年が着けている眼帯に似た少女のそれから、仕事と自分が抱えた荷物を思い出すと、スクーターに跨がった。

 この青年の名を、須賀京太郎と云った。かつての日本男子麻雀プロである。



 ◇ ◆ ◇


「……ただいま、と」


 される事もない返事を理解しながら、青年は電灯のスイッチを倒した。

 十畳一間。

 キッチンはなく、風呂場とトイレに繋がる向かい合ったドアから玄関を正面にした手前側、廊下の半ばに調理場所がある。コンロは二つしかない。

 居間の隅に畳まれた布団と、段ボールから顔を出す幾ばくの本。

 家具と言ったらあとは部屋の中央に置かれた小さな茶色の四角いテーブルと黒いメッシュカバーの座椅子。パソコンもテレビもない。

 こじんまりと纏まった部屋。他には、維持費が掛かるのでバイクも処分した。


「あいつ、来てたのか」


 ベランダに出て洗濯物を取り込みつつ、空になった銀のトレーを見て笑う。

 初めて出会ったときはやけに警戒心が強い奴だったが、餌を食べるぐらいには打ち解けてくれたらしい――と、今この場にはいない短毛の奇妙な知り合いを思い返して京太郎は笑った。

 布団を敷いて、冷蔵庫のタッパー――作りおきされた炒めものを暖め直し手を合わせる。

 箸の音の他には、時々隣家の喧騒が聞こえる程度に静寂に充ちた部屋。


「御馳走様……と」


 手を合わせて、タッパーをシンクに並べる。

 代わり映えのない、無味乾燥な一日。今日と明日の違いなど殆ど存在せず、植物が過ごす時間の様に変化のない毎日。

 それでもこの生活は、平穏だった。

 軽くストレッチを済ませて布団に潜るまでには午後二十三時を回っていたが、それでもこれまでに比べたら随分早い就寝だ。


「麻雀、か……」


 虚空へと伸ばした指先が霞む。

 離れて幾ばくか。それは、あまりにも遠く隔たってしまっていた。

 暫し寝転がって開いた右手を見つめていたが、いつの間にか指先は丸まり、畳まれた肘。

 伸びを一つ、欠伸をして布団を被る。


「……ああ。今度、父さんと母さんの墓参りにも行かなきゃな」


 果たして休みは貰えるかと呟きながら、須賀京太郎は蛍光灯を落とした。


 カーテンから漏れる、僅かな薄明かりに照らされる室内。遠雷が如く、鉄道の音が時折宵闇の静寂に咲く。

 二十四時間働き続ける自動販売機と、夕暮れから上番する街灯。あとは時偶通り掛かる車以外の明かりは、外にはない。

 幾ら東京と言っても、住宅街ならこんなものだ。

 しかし彼の故郷の長野と異なるのは――東京は、その土地自体が明るい。だから夜の闇だって、どこか白ずんでいる。

 そんな、星と虫以外が作り上げる静かで煩くて柔らかな夜を前に、京太郎も僅かに瞼を上げた。

 それから、半眼で眉を寄せ虚空を睨む。


(魔法喰い――あの言い方からすると多分、原理は判らないけどマホみたいに相手のオカルトを奪うタイプか)


 どのタイミングで奪うのか。局の途中か、勝ってからか、はたまた一度でも見れば可能か。

 奪った技の組み合わせは可能なのか。一度使った技を二度使えるのか。

 そこまで考えて、京太郎は首を振った。


(……意味ないだろ、こんなの)


 もう、以前の様には打てない。

 次に目に何かあったのなら――その時は本当に失明を免れないと、医者から何度も釘を刺されていた。

 魔法は解けた。人間が怪物相手に踏みとどまれていた、最後の砦は失われたのだ。


(眼精疲労ってのも馬鹿にならないんだな)


 事実を突き付けられたとき、京太郎はその様に何処か他人事の様に呟いた。

 二度と麻雀が打てなくなるというのは、それほどまでに彼にとっては遠い世界の出来事だった。

 そこから引き継ぎを終わらせて、彼は舞台を去った。それから舞台の登場人物たちと、顔を合わせてはいない。

 幾人かは彼を案じた申し出もあったが、全て断った。須賀京太郎は、文字通り舞台を降りたのである。

 それまでの生活に関わるものからは遠ざかった。

 何故そうしたのかは彼自身判らないが、結果訪れた日々は思いの外平穏な毎日であった。


 ――それでも、一つだけ残ったとしたら。


 彼は僅かに目を閉じ、


(咲、お前が俺の……最後の希望だ)


 小さく微笑んだ。


 画面越しに眺めた、皆から囲まれて声援を受けて何とも困った様に身を固くするあの幼馴染みの姿が思い出されれば、胸が暖かくなる。

 そんな彼女と一時は並んで立っていたという事実が、一度は全力、全身全霊で戦ったという事実が何とも誇らしい。

 その想い出だけで、十分過ぎるほどお釣りがくる。

 だからもう、須賀京太郎は麻雀から離れられた。そこには何の因縁なんて、存在していないのだ。

 幕は下ろされた。須賀京太郎の物語は、これで終わったのだ。



 ……そう。麻雀プロとしての、彼の物語はこれで終わった。

 ここからの奇跡の復活も、運命の大逆転も存在しない。

 素敵な劇の様に、散りばめられた伏線は回収されない。努力が必ずは報われない。

 運命は彼に何も与えない。

 ただ一つ、運命から須賀京太郎に役割が与えられていたとするならば――。

 彼女を、宮永咲を、あの日あの場所で麻雀部に連れていき、再び麻雀の世界に送り出す事だけだった。

 それから先、運命は彼を不要とした。役割を終えた役者に許されたのは、精々が賑やかしの背景代わりだけ。

 故に、運命が与えた彼の物語は終わりだ。否、初めから終わっていたのだ。

 運命は歯車を廻さない。舞台は彼抜きでも廻り続ける。

 因縁なんて存在しない。

 誰も彼に、宿命なんて与えない。

 唯一あるとしたら、舞台を降りた平穏だけ。

 プロになったはいいけれど、その物語もこれで閉幕。


 ――――運命はただ、平穏だけを彼に授けた。



                                 ――了

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年12月21日 15:20