アットウィキロゴ
【兵どもの夢のあと……】


京太郎「……酷い目にあった」


京太郎(目が使えて五分か四分六分なのに、今打って勝てるわけねーだろ!)

京太郎(……マホのやつは、またコピーし始めるし)

京太郎(東一局で風牌ドラ4の親倍とか勘弁してくれよ……)

京太郎(再生怪人か、お前は……!)


 目薬をさしながら、バックヤードに引っ込む。

 戦いの後のキセルは美味い。禁煙したはずなのに。

 あんまり吸うと、髪の毛に匂いが付きそうである。

 それはまずい。人気商売である。


京太郎「しっかし……あれ」

京太郎「まあ、マジじゃないとしても……だ。相手は小学生だし」

京太郎「10年後が楽しみだな、うん」

京太郎「小鍛治プロと俺ぐらいの年齢差になるのかね、ありゃ」


一「――10年後って」

一「なーにーが、どうしたのかなぁ……?」


京太郎「いや、あの二人のおもちについて――」

京太郎「……げっ」


一「へー」

一「ふーん」

一「ほー」

京太郎「は、一さん……」

一「そっかそっか」

一「疲れてると思って、冷えピタと目薬と甘いものを持ってきてあげたのに」

一「当の京太郎くんは、女の子の品定めですか」

一「ボクよりもスタイルがよかったからねー……うんうん」

一「そうかい、君はそういう奴だったんだね」

一「いやー、心配して損したなぁ」

一「勝手に期待しちゃったから、応えようと張り切って疲れてないかなー……とか思ってたんだけど」

一「京太郎くんは、そんなこと考えてたんだね」


京太郎「いや……あの。その……」

京太郎「こ、これには……わけがありまして……」

一「どんな訳があったら、疲れてる頭を使って……」

一「女の子の品定めを始めるのかなー」

京太郎「……うっ」


京太郎「あ、あんまり苛めないでくださいよ……」

京太郎「人間は、弱いんですよ……?」

一「へー」

一「ふーん」

一「ほー」

京太郎「……」

一「……」

京太郎「……」

一「どうしたの? ほら、言い訳を続けていいよ?」

一「京太郎くんはちゃんと、事情があって“視る”人間だもんねー」

一「いやー、どんな事情があるのか気になるなぁ」

京太郎「……」

一「……」


京太郎「……ごめんなさい」

一「ん? 何が」

一「どうして謝るのかなぁ……?」

一「京太郎くんは、何か悪いことでもしたのかな?」

京太郎「……」

京太郎「ごめんなさい。冗談だったんです。出来心だったんです」

京太郎「すみません、俺には一さんしかいないんです」

一「……調子いいなぁ」


一「ま、今のは冗談だけどさ」

一「ボク以外に聞かれたら……うっかりしたら、大変なことになるよ?」

一「有名人なんだから、そのあたりには気をつけなきゃ」

京太郎「言われてみれば……」

京太郎「そっすね。了解っす」

一「うんうん、素直でよろしい」


一「……まあ」



一「――お疲れ様、京太郎くん」

京太郎「――どういたしましてっす、一さん」



一「やっぱり、君を信じてよかったよ」

一「オカルトスレイヤーが、犬死はしないってさ」

京太郎「正直これが、どっちかとの一対一だったり……」

京太郎「普通のタイトル戦みたいなものだったら、危なかったっすけどね」


 あの二人のオカルトが食い合ったから。

 だからこそ、初見の京太郎でも勝負になったのだ。

 どちらか一人だけであったのなら――。

 まさしく宮永照の言うように、京太郎は勝負の土台にも乗れずに敗北していただろう。

 加えて言うなら、ハギヨシのアシストも大きい。


 彼が前半は2位につけてくれていたからこそ、相手も攻めにいかねばならなかったのだろうし、

 彼が幾度か確かめるように前に出てくれなければ、相手の能力の謎も解けなかった。

 引きが京太郎よりもつよいから、何度か相手の攻撃を潰してくれたし……。

 タッグ戦ではないと言ったものの、京太郎の思考を理解して合わせてくれた。

 京太郎が牌を特定しやすいように、手牌を並べてくれたというのもある。


 本当に、縁の下の力持ちだ。

 さすが執事だ。


一「ハギヨシさんには、そう伝えておくよ」

一「『足を引っ張ってしまってはいなかったか、心配です』」

一「そんな風にちょっとへこんでたしね」

京太郎「あの人もへこむことあるんだ」


一「まあ、ボクはこのあたりにしようかな」

京太郎「そっすか?」

京太郎「俺はもっと、こうして一さんと話してたいんすけど……」

一「……まったく」

一「だから、そういうのは恋人相手だけにしなって」

京太郎「一さんがそうなってくれるなら俺、大歓迎っすよ?」

一「考えてあげてもいいけどね」

一「そうやって、ナチュラルに女の子を口説いたり……」

一「小学生のバストサイズの将来に、舌なめずりするような軽い男はちょっと……」

京太郎「まるで変態なみたいな言い方をするのは、やめて下さいよ!」

一「……むしろ、まさに変態じゃないの?」

京太郎「手厳しいっすよ……」


 人為変態、須賀京太郎とか。

 そんなフレーズを使われたらどうしよう。ちょっと悲しい。


一「あはは」

一「ま、ちょっとここで頭を冷やしてるといいと思うよ?」

京太郎「……そう言われると、なんか違う意味に聞こえるっすね」

一「……違う意味も含めて」

京太郎「だから、酷いって!」

一「冗談だってば、冗談」

一「君とボクの関係は、いつもこんなのじゃないか」

京太郎「そうっすけど……」


 笑いながら、スポーツドリンクを京太郎に押し付けた一が席を立つ。

 相変わらず、けしからん格好である。

 胸がなくてもドキドキする。二重の意味で。

 これでもしももうちょっと育ってたら、正直押し倒しててもおかしくない。







一「……あ」

一「ひとつ、言い忘れてたよ」

京太郎「……なんですか?」




一「打ってるときの京太郎くん――格好よかったよ?」




京太郎「――」


京太郎「お、俺はいつも格好いいっすよ!」

一「そういうところが、残念な男なんだよなー」

京太郎「残念って……」


 そりゃ、確かに言われるさ。


 話してみたらイメージと違ったとか。

 テレビのあれ、素だったんですねとか。

 黙って麻雀打ってれば、実はワイルド系のイケメンなのにとか。

 正直いい人で終わりそうだよね、とか。

 軽くて信用できない、とか。


 「おもちについて、語り合おうよ!」とか。

 「おねーちゃんのおもち、どう思うの?」とか。

 「げっ」とか。

 「馴れ馴れしくすんな、馬鹿」とか。

 「京太郎、今日のご飯何……?」とか。

 「京太郎、ベッドまで運んで……」とか。

 「須賀プロ、あとで起こして」とか。

 「須賀プロ、このおかしおいしい」とか。


 思えば色々言われるところである。


一「ま、今日は色々発見があってよかったよ」

京太郎「……発見?」

一「そうそう」

一「やっぱり、生だとすごい迫力でテクニックがわかるなーってのと」

一「君はやっぱり、誰かの期待を裏切らないこと」

一「あとは……そうだね」

京太郎「……?」

一「今みたいに、相手からストレートに言われると意外にテンパることとかかな」


一「なるほどなー」

一「天然ジゴロなのか、わかっててそういうことやってる格好付けしいなのかはともかく……」

一「京太郎くんも、こーゆーのは苦手だったんだね」

一「こりゃ、使える」

京太郎「う……」

京太郎「一さん!」


一「じゃーねー」


 そう笑いかけて、彼女は足早に去っていく。

 なんとも、いたずらっぽい笑みだ。

 こりゃ暫くは、ネタにされるだろうこと間違いなしだ。


京太郎(ったく……あの人は)

京太郎(あー、もう……これホントにネタにされるんだろうなぁ)

京太郎(心臓に悪いっつーか、なんつーかさぁ)

京太郎(……)

京太郎(そりゃ、あんないい笑顔されたら動揺してもしょうがないだろ!)

京太郎(あー、もう)

京太郎「……本当にあの人は」

京太郎「男相手にそういうことすると、危ないんだってば」

京太郎「俺みたいな紳士じゃなかったらどうするんだよ……」

京太郎「格好も格好だし……なんつーか」

京太郎「あー、もう」

京太郎「……あー、もう」



 うだうだと、国広一の無防備さについて悩む。

 もうちょっと危機感を持ってほしい。

 あの格好にしてもそうだ。危ないんだってば、色々。

 気さくな人だから、異性からも悪くは思われないだろうし……。

 いや、最初が気さくかって言われたら別にそうでもなかったな。自分の場合。


 瞼に冷えピタを押し当てて、あーでもないこうでもないと煩悶する。

 そこに、声がかかった。


咲「――京ちゃん?」


 頭を戻して、入り口を見る。

 先ほど。麻雀で自分をぼこぼこにしてくれた宮永咲が、そこにいた。


京太郎「そういうお前は、宮永咲!」

咲「……あはは」

咲「ジョジョネタなら、乗らないよ?」

京太郎「乗れよ。わかってるなら」


京太郎「……って、お前は絵がアレだから無理なんだっけか」

咲「うん」

咲「絵よりも……ちょっと残酷なところかな」

京太郎「そうかー」

京太郎「……そうかぁ」

咲「お姉ちゃんには、『絵でジョジョを馬鹿にするなんて万死に値する』」

咲「『人間讃歌を描いたわけであって、グロは主体じゃない』」

咲「『読まないというのは人生の九割を損してる。これからその人生を終わらせてやる』」

咲「……なんて、言われたけど」

京太郎「あの人は……まったく」


咲「……京ちゃん」

京太郎「……おう」

咲「……お疲れさま」

京太郎「……おう」

咲「……」

京太郎「……」


 穏やかな沈黙。

 咲と居て会話がなくなると、いつもこうだった。

 隣に腰かけて、空を眺める。

 先ほどまで覗いていた積乱雲は、雨をバラ蒔いて消えてしまったらしい。

 すっかりと、晴天が訪れていた。

 どちらともなく、言葉を切り出す。


京太郎「……さっきの」

咲「え……?」

京太郎「さっきの約束、守ったぜ」

咲「約束?」

京太郎「お前に出番は回さないって奴だよ」


 雨上がりのセミの声は、普段のそれほどうるさくない。

 ちょうどいいBGMだった。


咲「……京ちゃんは、さ」

京太郎「うん?」

咲「昔から、どんなに適当でも……約束を破ったことは、ないもんね」

京太郎「……適当ゆーな、適当」

咲「あはは、事実でしょ?」

咲「次当たるとこやってきてないから写させてくれ、とか」

咲「教科書忘れたから貸してくれって言って、落書きして返してきたり」

京太郎「……あったなぁ」

咲「あの落書きのせいで私、怒られたんだよ?」

京太郎「つまらない授業が悪い」

京太郎「俺なら、もっと上手く教えられる」

咲「……なにそれ」

京太郎「教職のときに、研修で行ってな」

京太郎「大人気だったんだぜ? イケメンで、授業も分かりやすいって」

咲「イケメンって……自分で言う? 普通」


咲「そういうこと言ってるから……」

咲「『イケメンだけど残念で嫌味じゃないタレント』とか言われるんだよ」

京太郎「また残念呼ばわりかよ……」

京太郎「いいんだよ。嫌味じゃないんならさ」


咲「良くないよ!」


京太郎「うおっ」

京太郎「な、なんだよ……いきなり」

京太郎「驚かせんなって……」

咲「……ごめん」

咲「……」

京太郎「お、おう……」


 急に黙って俯く咲に、調子を崩された気分だ。

 今の会話のどこに、咲の琴線に触れる点があったのか。

 些か、疑問であるが……。


京太郎「……なあ」

咲「……何、京ちゃん」


京太郎「お前に――大事な話がある」


京太郎「正直に……真面目に、ちゃんと答えてくれるか?」

咲「へっ」



咲(だだだだだだだだだだだ、大事な話!?)

咲(真面目に答えて!? 正直に!? ちゃんと!?)

咲(あ、私たち今……二人っきりだ)

咲(ど、どうしよう!? いきなり過ぎるよ、京ちゃん!?)

咲(うあ……。こんなことなら……もっとおめかししてくればよかったよ)

咲(変な匂い、しないよね?)

咲(ちゃんと香水付けてきたけど……もっといいのにすれば良かったかな?)

咲(京ちゃん、すっごい真面目な顔……)

咲(睫毛、長いなぁ……)

咲(やっぱり告白は男の人からしてほしいけど、私の想いも伝えたいっていうか――)

咲(……って、うんうんうんうん! そーいう話じゃないってば!)

咲(あう、なんだろう……)

咲(……何かな、京ちゃん)





京太郎「なあ――」





京太郎「この間のタイトル戦――どうして、あんなことしたんだ?」





咲「……」

京太郎「……」

咲「……」

京太郎「……」


京太郎「その顔……驚かないのな」

京太郎「シラを切る訳でも、話を反らす訳でもない」

京太郎「やっぱりあれは……お前の仕業だったのか」

咲「……そうだよ」

咲「私が、京ちゃんのアシストをしたのは事実」

咲「本当に、考え通りに行くなんて思ってはないし……」

咲「アシストしても、京ちゃんが和了がらなかったら……結局は何にもならなかったけど」

咲「助けたのは……助けようとしたのは、本当」


京太郎「……」

京太郎「誤魔化そうとか、嘘を吐こうとか……」

京太郎「否定しようとは、思わないのか?」

咲「しないよ」

咲「京ちゃんなら、気付くかもしれないって思ってたし……」

咲「さっきのアレを見て、京ちゃんなら絶対に気付くと思ったから」

咲「だから……京ちゃんに、嘘は吐かない」


京太郎「……ああ、そうだよな」

京太郎「あんときもお前は……嘘は言わなかった。嘘なんざ、言っちゃいなかった……!」

京太郎「だからって……開き直ってんじゃ、ねえよ!」

咲「……」

京太郎「答えろ……! なんで、あんなことをした……ッ!」

京太郎「言えよ、咲……!」

咲「……言いたく、ない」

京太郎「――ッ」


京太郎「……答えろよ」

京太郎「胸ぐら掴んどいてなんだけど、俺は今まで一度たりとも女に手は上げてねえ」

京太郎「ストーカー紛いのキチガイに襲われたときも……」

京太郎「路上でやってたハードな痴話喧嘩を止めに入ったときも……それは変わらない」

京太郎「だけど今……俺は、本気で怒ってる」

京太郎「こちとら、スタッフがプッツンしてる撮影のおかげで……大分鍛え上げてんだ」

京太郎「正直に言わないと……」


京太郎「お前をどうするか、自分でも分からねえんだよ……!」


咲「京ちゃんの気が紛れるなら……」

咲「……殴ってくれても、いいよ」

京太郎「……ッ」

咲「……」


咲「そう、言いたいけどさ……」

咲「京ちゃんの手は、麻雀をする手だもんね」

咲「京ちゃんの手は、誰かを助ける手だもんね」

咲「そんなこと……京ちゃんにさせたら、駄目だよね」

咲「だから……答えるよ」

咲「放して貰っても……いい?」

京太郎「……ああ」


咲「……」

咲「……あの頃の京ちゃん、全然笑わなくなってた」

咲「いっつもしかめっ面して、憔悴して麻雀打ってた……」

咲「麻雀の事が、嫌になってる……なりそうな感じだった」

咲「……家で打ってたときの、お姉ちゃんみたいに」

京太郎「……」

咲「それで……タレントの仕事の方が、増えてたでしょ?」

咲「そっちだと……麻雀だとしない顔をしてる」

咲「でもやっぱり、疲れてた」

咲「京ちゃんの打ち方なら……研究に研究して、だから」

咲「収録が終わってからも……研究してるんだと、思った」


咲「……私はね、京ちゃん」

咲「京ちゃんが……麻雀をやめちゃうんじゃないかって、思ってた」

咲「世間だとタレントだと思われ始めてて、京ちゃんもそっちに向かってた」

咲「……京ちゃん、麻雀を捨てちゃうんじゃないかと思った」

咲「和ちゃんから、京ちゃんが大学のときに……一度麻雀を諦めようとしてたって、聞いてた」

咲「だから……『まさか』って、思った」


咲「そうじゃないと、思いたかったけど……」

咲「あの日の京ちゃんを見て、ハッキリと思った」

咲「京ちゃんは全部をぶつけにきて――」

咲「――負けたら、やめようとしてるって」


咲「……私の、勝手な勘違いかな?」

咲「でもあの日の意気込みは……ただでさえ凄い、いつも以上だった」

咲「だから私は……」


咲「京ちゃんのアシストをしようと、思った」


咲「京ちゃんの覚悟に水を注すことになるし……」

咲「京ちゃんの力を、信じてないことになる」

咲「……それは、分かってた」

咲「私の自分勝手だっていうのも、分かってる」

咲「でも私は……京ちゃんにやめて欲しくなかった」


京太郎「……ッ」

京太郎「だから、タイトルの一つでもくれてやれば! それを与えてやれば!」

京太郎「首輪繋がれた犬とか、電極に繋がれた鰻みてえに……」

京太郎「俺が、麻雀プロでいると思って……それをやったっつーことか?」

京太郎「そういう、ことなのか……?」

咲「……」


咲「……ふたつ、違う」

咲「私は……少し手助けしただけで、勝ちとったのは京ちゃんがあそこまで頑張ったから」

咲「江口プロと……大星プロと戦ってて」

咲「場を支配することなんて、私には無理」

咲「きっと、お姉ちゃんでも無理」

咲「私の言葉が信じられなくても……お姉ちゃんの言葉なら、信じられるでしょ?」

咲「あれは、京ちゃんがあそこまで粘ったから起こった」

咲「私は……最後の最後で京ちゃんの作戦に気が付いて」

咲「それを少し手伝った以上のことは……してないよ」


咲「……」

咲「タイトルをとったから、京ちゃんは麻雀プロでいる」

咲「そうは……思ってないよ」

京太郎「……」

京太郎「なら……なんで」

咲「……ううん、ごめん。それも考えた」

咲「でも……もしかしたら」

咲「何も不思議な力を持ってないのに……運があるわけでもないのに……」

咲「高校生の頃から、ここまで強くなって……」

咲「あの場に立った京ちゃんなら、気付いてくれるんじゃないかって……思った」


咲「そうしたら、京ちゃんは……」

咲「きっと、私を許さないと――思った」


咲「私のことを、許さなかったら……」

咲「私のことを、恨んでくれてる間は……」

咲「私にリベンジするまで、京ちゃんは麻雀プロを続けてくれるんじゃないか――って」

咲「そんな風に、考えた」


咲「大学生のときは離れちゃったけどさ……」

咲「京ちゃんとは、付き合いが長いから……さ」

咲「一途で不器用なところがあるから……京ちゃんなら、私にリベンジしようとしてくると思った」

咲「そうしてくれてる間は……麻雀、続けてくれるんじゃないかなって」

咲「そう、思った」


咲「自分勝手だってのは、分かってる」

咲「きっと、京ちゃんのことを……凄く傷付けることになるって、分かってる」

咲「それでも……それでも、だよ?」

咲「私をこっちに連れ戻してくれた京ちゃんには……」

咲「麻雀の楽しさに気付くチャンスをくれて……」

咲「また、こっちの道に戻る機会をくれた……」

咲「そのあとの、高校での楽しい思い出のきっかけになってくれた……」

咲「そんな京ちゃんには……麻雀をやめて欲しく、なかったんだ」


咲「……ごめんね、京ちゃん」

京太郎「……なにが、だよ」

咲「あのときの京ちゃんの実力を信じないで……」

咲「京ちゃんの気持ちに、水を注しちゃって……」

咲「ごめん、なさい」


京太郎(……確かに、こいつの言う通りだ)

京太郎(俺はあの場に、覚悟を背負って立った)


京太郎(凡人の俺でも、魔物を倒せることを証明するって)

京太郎(俺と同じような誰かを、勇気付けるって)

京太郎(所詮は俺じゃあ勝てやしないって評判を否定するために)

京太郎(そのために――自分の全力を)

京太郎(今までを、これからを……俺の人生、全部懸けて)

京太郎(賭けに、身を投じた)


京太郎(俺が、こっちに連れてきたお前なら……)

京太郎(あれぐらい強いお前なら、本当の全力――何もかもを懸けて戦えると、思って)

京太郎(ああ……お前の、言う通りだ)

京太郎(あのタイトルが取れなかったら……俺の全力のスタイルで及ばなかったのなら……)

京太郎(お前に、負けたんなら……)

京太郎(俺は、辞めてもいいって思ってたんだ)

京太郎(お前に負けたんなら……諦められるって、思ってた)


京太郎(……ああ)

京太郎(自分勝手って話をしたら、そもそも俺もなんだ)

京太郎(お前なら仕方ないって……咲を言い訳にして)

京太郎(それがお前に何を背負わせるかも考えないで……)

京太郎(俺は、お前と戦った)


京太郎(どっちが悪いって、話じゃない)

京太郎(俺がエゴを通そうとしたら――咲が傷付いて)

京太郎(咲がエゴを通したら――俺が、こうなった)

京太郎(……俺が、お前の立場なら)

京太郎(どうしたん、だろうな)

京太郎(わっかんねーな。わっかんねーよ)

京太郎(でも……お前みたいに、恨まれ続けるのに耐えられるかは)

京太郎(そういう選択を選べるかも……やっぱりわかんねーよ)


京太郎(強いて言うなら……)

京太郎(辞める覚悟みたいのを、こいつに見破られた)

京太郎(俺が一番、悪い)

京太郎(突き付けてるもんだもんな……言っちまえばさ)

京太郎(『勝たせてくれなきゃ、麻雀を辞める』って)

京太郎(そりゃあ、卑怯だよ)

京太郎(こんだけ一緒にいた奴が……自分の人生を、人質にしてるんだろ?)

京太郎(『覚悟』だなんて聞こえのいい言葉を使っちゃあいるが……)

京太郎(はたから見たら、スゲー卑劣な行為だ)

京太郎(自分のことだけで、『なんで全力でやってくれなかった』……なんて言うのは)

京太郎(てめえが邪悪だと気付いてない、もっともドス黒い悪だ)

京太郎(被害者面して、相手に拳銃の引き金を渡すなんてのは……)

京太郎(公正な勝負とは程遠い、もっとも卑劣な行為になる)


京太郎(どっちにも、思うところはあった)

京太郎(そこに優劣はないし、卑尊はない)

京太郎(でも、今回は……)

京太郎(俺のした行為が、もっとも卑劣で……唾棄すべき最低な行為であるのは確かだよ)

京太郎(つーか)

京太郎(他の二人がいるのに、個人的な事情を持ち込んだ俺がな……)

京太郎(江口プロも、大星プロも……)

京太郎(あの戦いの直後に……俺が辞めるなんて言い出したらさ)

京太郎(いい気は、しねーよな)

京太郎(……いや、大星あたりなら『弱いんだから当然でしょ』とか言いそう)

京太郎(まあ、そうだとしても……やっぱ駄目だ)


京太郎(そりゃあ、世の中にはそーいうプロもいるだろ)

京太郎(『ここで限界を悟りました』って、そーいうのはあり得るだろ)

京太郎(そりゃ、当人の事情だしな)

京太郎(でもきっと……その人たちは隠してる)

京太郎(自分の人生がかかってるほど大事なことを、他人に気付かせないように努力してる)

京太郎(大事なことなんだから、それぐらいして当然だよ)

京太郎(俺は、甘かった)

京太郎(ひょっとしたら心のどこかでは……)

京太郎(『辞めなくてもいいんだよ』って言われるのを期待してたのかもしんねー)

京太郎(それって、情けねーよな)

京太郎(女々しくて、ダサい)


京太郎(つーか、よ)

京太郎(思えば、さっきの女の子たちもおんなじパターンだった訳だろ?)

京太郎(向こうは、あっちが勝っちまったら辞めるつもりだったみてーだけどさ)

京太郎(やってること、咲と同じじゃねーかよ。俺)

京太郎(いや、ちょっとは違うけど……)

京太郎(……大分違うかもしんねーけど)

京太郎(大分違うけど)

京太郎(なんつーか、なぁ)


京太郎(……まあ)

京太郎(幼馴染みの女の子にそんな選択させて)

京太郎(それからずっとその事に怯えさせて)

京太郎(挙げ句、胸ぐら掴んだり脅したり声を荒らげたり)

京太郎(そんな俺が、一番ダサい)


京太郎「……咲」

咲「な、何……?」

咲「京ちゃんが顔を見せるなって言うなら、そう……するよ」

咲「今日は、京ちゃんに謝ろうと思って……だったから」

咲「見逃して、欲しいけど……」



京太郎「――すまんっ!」



咲「ふぇっ!?」

京太郎「俺が悪かった!」

京太郎「許せ……いや、許さんでいい!」

京太郎「殴れ! 俺を、殴れ!」

京太郎「思いっきり、一発入れろ! そうじゃなきゃ、お前に申し訳がたたねえ!」

咲「へ? え? あの……」

咲「一体、何が……」


京太郎「俺が、悪かった。全面的に俺が悪かった」

京太郎「お前の言う通り、俺はあのとき負けたら辞めようと思ってた」

京太郎「俺が卑怯だった。俺が女々しかった。俺が情けなかった」

京太郎「俺に、配慮が足りなかった……!」

咲「え……あ、あの……」

京太郎「悪かった」

京太郎「お前に、『俺を辞めさせるか』『俺に恨まれるか』を迫って悪かった」

京太郎「それなのに、悲劇のヒーロー気取って悪かった」

京太郎「そんな状況で……俺と会ったら辛いだろうお前にこんな仕事させて、悪かった」

京太郎「お前のことを怯えさせて悪かった。胸ぐら掴んだり、怒鳴ったりして悪かった」

京太郎「ずっとお前と居たのに、お前の気持ちを全然考えないで……本当に、本当に悪かった」


京太郎「許してくれだなんて、言えない」

京太郎「お前に何をされても、俺は言い返せない」

京太郎「ただ――悪かった」

京太郎「本当に、ごめんな……って」

京太郎「お前に、謝らせてくれ」


咲「そ、そんなこと言われても……」

京太郎「ああ、確かにそうだな」

京太郎「鍛えてるし……お前が俺を殴っても、逆に怪我するかもしれないもんな」

京太郎「悪かった」

咲「……う、うん」

京太郎「ちょっと壁に頭打ち付けてくる」

咲「そ、そういう話じゃないってばー!」


咲「それを言ったら、京ちゃんの覚悟の邪魔をした私が悪いんだよ!」

京太郎「いーや、邪魔されるようにバレた俺の方が悪いね!」

咲「だったら、知ってて邪魔した私が悪いよ!」

京太郎「邪魔を許した弱い俺が悪い!」


咲「うー」


咲「意地っ張り! 京ちゃんの格好つけ男!」

京太郎「うるせえ、この頑固者! なんでもかんでも背負い込みやがって!」

咲「格好つけしいで、普段は重くて軽い癖に! バカ京ちゃん!」

京太郎「格好つけて、意地が張れなきゃ男じゃねーんだよ!」

咲「その考え、古い! 似合わない!」

京太郎「温故知新って言うだろうが! 古いことの方が大事なこともあるんだよ!」

咲「京ちゃんらしいけどらしくないし、気障すぎ!」

京太郎「外見格好いいんだから、内面も格好よくしようとして何が悪い!」

咲「この、軽薄軟派男! スケコマシ!」

京太郎「はぁぁぁぁあ!? 俺は、硬派だっつーの!」

咲「そう思ってるのは、自分だけでしょ!」

京太郎「はぁ!? 俺は、麻雀一筋の硬派だってーの!」

咲「タレントもどきやってる癖に!」

京太郎「それでも心は麻雀のことばっかりだからな!?」

咲「この雀キチ!」

京太郎「麻雀プロなんだからそんなもんだろうが!」

咲「そんなんじゃ、瑞原プロとか小鍛治プロみたいに売れ残るよ!」

京太郎「はぁ!? 俺なら、その前に一人や二人見つけられるからな!」

咲「やっぱり軟派男!」

京太郎「うるせえ! 本の虫!」


京太郎「……なあ」

咲「……なに?」

京太郎「俺ら、なんの話をしてたんだっけ」

咲「……あー」

咲「うん」


京太郎「とりあえずは……だ」

京太郎「お互い悪かったってとこで、この件については手打ちで」

咲「私の方が悪いけどね」

京太郎「いや、普通にどう考えても俺だけどな」

咲「……」

京太郎「……」

咲「……やめよっか」

京太郎「平行線だしな……」


京太郎「それより問題は、だ」

咲「うん」

京太郎「同卓した江口プロと大星プロだよな」

咲「……関係ないことに、巻き込んじゃったしね」

京太郎「そうなんだよなぁ」

咲「……うん」

京太郎「あとは、番組のスポンサーに……プロデューサーだろ?」

咲「ファンと後援会の人たちにも、だね」

京太郎「改めて……公の場でやることじゃなかったよな」

京太郎「立派な社会人失格っつーか、なんつーか」

咲「そう……だよね」


咲「選手生命を賭けた戦いって……他にもやってる人がいるし、例もあるから」

咲「そういう意味だと、個人の事情を持ち込んでも大丈夫そうなんだけど……」

京太郎「却下」

咲「……理由は?」

京太郎「改めて思うと、格好悪いから。バレたのが一番だとしても」

咲「……格好つけ男」

京太郎「うっせ」




咲「うーん」

京太郎「とりあえず、同卓した二人には謝るべきだよな」

咲「そうかな」

咲「そう……だよね」

京太郎「そりゃ、間違いないだろ」

咲「うん。そうだね」


咲「スポンサーさんたちは?」

京太郎「我慢して貰う」

京太郎「つーか、あれはあれで視聴率良かっただろうしな」

咲「あー、うん」

咲「……劇的だったよね」

咲「最後の最後で、3位が1位を捲ったのって」

京太郎「お前の槓で、ドラついたんだけどな」

咲「それなしでも……京ちゃんは自力で1位走ってた大星プロから逆転してたでしよ?」

京太郎(確かに、そりゃそうだけどさ……)

京太郎「逆転1位と2位じゃ、大きな違いがあるっての」

咲「あー、うん」


咲「……ファンの人たちには?」

京太郎「真実話しても、余計な混乱招くことになるしな」

咲「……うん」

京太郎「ファンの人達には、希望を持ってて欲しい」

京太郎「だから……今回の――夢を壊すようなことは、アウト」

咲「そうなるよね」

京太郎「まあ、その分……普段からもっと気張ってサービスしないとな」

京太郎「それで代わりになるとは、思えないし……ケジメにもならないけど」

京太郎「それでも、それ以外を考え付かない」

咲「……うん」


京太郎「……あー」

京太郎「気が重い」

咲「……でも、仕方ないよね」

咲「それだけのこと、しちゃったんだし」

京太郎「……だよな」

咲「プロ失格だから、辞めろって言われたらどうする?」

京太郎「……あー」

京太郎「辞めたくねえよ……ねえけどさ」

京太郎「でもそんときゃ……仕方ないだろ」


優希「……やれやれ」

優希「京太郎……暫く見ない間に詰まらない男になったな」


京太郎「お前は……!」

咲「死んだはずの……!」

京太郎「片岡優希ッ!」


優希「Yes, I am !」


優希「……というか、勝手に殺すな!」

京太郎「すまん、ついノリで……」

咲「……ごめんね」

優希「まったく、このぽんこつ麻雀バカ二人は……」


京太郎「なんつーか……久しぶりだな」

京太郎「高校以来か? 元気にしてたか?」

優希「まあ、そこそこだな」

優希「……他に、言うことあるんじゃないか?」

京太郎「ああ、なんつーか」

京太郎「前もそうだったけど……もっと、美人になったな」

優希「ふふん」

京太郎(……高校の頃の憧に似てるって、うっかり口滑らしそうになった)

京太郎(……)

京太郎(……一部分を除いて)

京太郎(そこは……変わらずか)

京太郎(何ッ、で! だよッ! どうしてそこだけ置き去りにしたんだよ!)


京太郎「どうしたんだ、今日は」

優希「京太郎がこっちに顔出すって聞いたから、同窓会気分でな」

京太郎「そっか、なるほどな……」

京太郎「……口調、少し変わったか?」

優希「ん?」

優希「そりゃ、いい歳になったんだから……当然だって」

優希「今でも、気を抜くと出そうになるんだけどなー」

京太郎「そーゆーもんか」

優希「そーゆーもんです」



京太郎「……本当に、久しぶりだな」

優希「あの日以来だからな」

咲「あれ、そうなの?」

咲「てっきり京ちゃんとも連絡とってると思ったんだけど……」

優希「まあ、連絡先を知らなかったからなー」

優希「携帯一回ポシャっちゃから、仕方ないんだ」

咲「そうだったんだ……」

咲「言ってくれれば良かったのに」

優希「次からはそうさせて貰うじぇ!」

咲「……あ、今の懐かしい」

京太郎「な」

京太郎「結局高校三年間、そうだったから」

京太郎「こっち方がしっくりくるんだよなぁ……」

優希「そんなこと言われても困るからな」



優希「それにしても……」

優希「そういう京太郎は、随分と詰まらない男になったもんだな」


京太郎「オレェ?」

優希「お前以外にどこに京太郎がいるんだ?」

京太郎「ギャラリーの中にもしかしたら」

優希「片岡京太郎とかがか」

京太郎「……なんか殺人事件に遭遇しそうだな」

咲「やっぱり、京ちゃんは須賀が一番だよね」

京太郎「婿入りとかできねーなー」

咲「予定あるの?」

京太郎「いや、ないけど……」

京太郎「ひょっとしたら、どっかのお金持ちでスタイルよくて可愛いお嬢様が俺を見初めて」

京太郎「一緒に実家を継いでくれとか言うかもしれねーじゃん」

咲「ないない」

優希「そんなオカルトありえないじぇ」

京太郎「そこまで言うかぁ?」

咲「京ちゃんが役満あがるよりもないでしょ」

優希「どんだけ夢見がちなんだ」


咲「まずお金持ちのお嬢様って、それで大分絞られるよね?」

京太郎「搾られても……いや、ああ」

咲「そこから、京ちゃんにあってる年齢で……」

咲「しかも可愛くて、スタイルがいい人ってなるともっと限定されるでしょ?」

京太郎「されるな」

咲「これ、日本にどれぐらいいると思う?」

京太郎「国際結婚でも俺は構わないぞ」

咲「デンマークとかでも? イランとかでも? ソマリアでも?」

京太郎「そもそもソマリアにお金持ちいるのかね」

優希「さあ……」


咲「仮にそんな人がいるとしてもさ……」

咲「都合よく京ちゃんと知り合うことが、ないでしょ?」

京太郎「あー、全国飛び回ってるけど……」

京太郎「基本収録と麻雀だから……ないなあ」

優希「すれ違うことぐらいはあるかもしれないけどな」

咲「でもそこから、会話に発展しないでしょ?」

京太郎「……いや、声かけるかもしれない」

咲「……最低」

優希「……軟派男」

京太郎「いや、冗談だからな?」

京太郎「いつ誰に見られてるかもわからねープロだからしねーよ!」


咲「で、そんないい人がフリー」

咲「それで、京ちゃんのことを好きになってくれる……」

咲「これ、どんな確率か分かる?」

京太郎「わっかんねー。なんもかんもわっかんねー」

咲「まあつまり、天文学的数字だよね」

優希「夢見んなってことだじぇ」

京太郎「あー」

京太郎「あー」

京太郎「10年くらい待てば、チャンスあるんじゃ……?」

咲「……あ、駄目だ」

優希「お前は、結婚できないアラフォーか!」


京太郎「……で」


京太郎(優希の話、果たして咲に聞かれてもいいもんか)

京太郎(それがわからないから、ちょっとくだらない話をしてみた……心にもない話を)

京太郎(……)

京太郎(……ないからな? そんなこと思ってないからな?)

京太郎(いや、出会えたらラッキーだと思うけどさ)

京太郎(正直、いたら口説きたいぐらいだけどさ。うん)

京太郎(まあ、本気じゃないからな? ないぞ?)

京太郎(……)

京太郎(まあ、いいさ。いいよな)

京太郎(優希の反応を見る限り……咲が居ても、大丈夫な話題っぽいな)


京太郎「優希」

京太郎「さっきの話は、どういうことなんだ……?」

優希「……今さらシリアスな空気を出されても、シリアル並みにバッキバキだからな」

咲「そこらへん、本当に残念なイケメン枠だよね」

京太郎「真面目な空気ィ!」

京太郎「あと、残念なイケメンゆーな!」

京太郎「ホスト部とかの少女漫画なら、主人公とくっつくんだぞ!」

咲「そこらへんは、内面で俺物語を目指そうよ」

優希「京太郎だから仕方ないってもんだじぇ」

咲「京ちゃんだしね」

京太郎「なんで俺、こんなジョジョスレでのポルナレフみたいな扱い受けてるんだよ!?」


咲「京ちゃん」

京太郎「なんだよ」

咲「ポルナレフと一緒にしたら、ポルナレフさんに失礼だよ?」

京太郎「クソッ、なんて時代だ……!」

京太郎「あとお前やっぱりジョジョ読んでるじゃねーか!」


京太郎「……で、仕切り直して」

京太郎「詰まらない男になったっつーのは、どーいう意味だ?」

優希「そのままの意味だ」

優希「前に、言ったよな?」



優希「『私をフッたんだから、もっといい男になれ』って」



京太郎「……ッ」

京太郎「お、おま……! なんで、そのこと……っ」

咲「えっ、ど、どういうこと……!?」

優希「そこはどーでもいい」

京太郎「どーでもいいって、お前……」

優希「もう終わったことだし、別にもういい話だからな」

京太郎「う……」

咲(優希ちゃん、有無を言わせぬ勢いだ……京ちゃんがたじろぐくらいに)


優希「……で、だ」

優希「京太郎。なんだ、この様は」

京太郎「この様って……」

優希「……」

優希「さっきの話、聞かせて貰った」

優希「聞けば……」

優希「『進退をかけてタイトル戦に臨んだ』とか『辞めて欲しくなかったからアシストした』とか」

優希「『どっちが悪い』とか『皆に謝らなきゃいけない』とか」

優希「傍から聞いてりゃあ、ちゃんちゃらおかしいじぇ」

咲「……」

京太郎「……なにがだよ」

優希「どれだけお前ら自分勝手で、馬鹿で、ぽんこつなんだ?」

優希「いい歳した大人のすることじゃないもんだ」

京太郎「……ッ」

咲「……」

京太郎「……分かってる」

優希「いーや」

優希「なんにも分かってない。分かってないな」

優希「前から鈍感な奴だとは思ってたけど……」

優希「お前、どうしてそう大事な場面で間違えるんだ?」

優希「普段は気遣いのできる男とかよばれてかもしれないけど……」

優希「こんな有り様じゃ、それも怪しいな」

京太郎「……」

京太郎「……何が、だよ」


優希「第三者から言わせて貰うと」

優希「『進退懸けて戦おう』が『そのアシストをしよう』が、はっきり言ってどーでもいい」

咲「どうでもいいって……」

優希「事実だからな」

優希「そのあたりは、二人の中で決着つけたらいいんじゃないか?」

優希「聞くとしたら」

優希「別に打ち合わせとかしてないんだよな?」

咲「……うん」

京太郎「してるわけないだろ」

優希「咲ちゃんは、確実に京太郎のアシストをできるって初めから確信してたのか?」

咲「そんな訳ないよ……」

咲「最後で京ちゃんの作戦がわかったから、もし上手くいったらいいなって」

咲「それに乗っかっただけだよ」

優希「京太郎は……」

優希「大星プロをなんで狙ったんだ?」

京太郎「……そうだな」

京太郎「アイツがトップで、厄介で……」

京太郎「俺のスタイル的に……あの場で、一番狙いやすかったからだ」

優希「他の人間を狙わなかったのは?」

京太郎「できたならしたけど……状況によるからな」

優希「なるほどな」


優希「まあ、聞いても大してわからん」

優希「麻雀は心得てるけど、私はプロじゃないからな」

京太郎「……わからんのかよ」

優希「わからないもんは、わからない」

優希「だから、京太郎や咲ちゃんがどんな気持ちなのかも……知らない」

優希「どれだけ苦しいのか、辛いのかもな」

優希「ただ、今の話を聞く限りじゃあ……」


優希「二人とも、博打に勝った風にしか思えない」


優希「京太郎の読みが他の二人の上を行って……」

優希「咲ちゃんが、更に上手だったってな」


優希「辞める覚悟を見抜かれたことも全部含めて――」

優希「今回は、京太郎の負けってことだ」


優希「……ま、これは私の意見だから」

優希「普通に無視してくれていい」

京太郎「……」

咲「……」

優希「さっきも言ったみたいに、二人の問題だからな」



優希「……で」

優希「私が言いたいのは、こっからだ」

優希「随分と前置きが長くなったけど、こっからが本題だ」

優希「二人は……謝らなくちゃいけないって言ってたな?」

優希「なんでなんだ?」

咲「……それは」

京太郎「俺の……俺らの勝手な戦いに、巻き込んだから」

京太郎「そういう、個人的なことに付き合わせて迷惑をかけたからだ」

優希「ふむふむ」


優希「……京太郎」

優希「1つ聞くが……もしも、もしもだ」

優希「『絶対に許せないからタイトル返上しろ』って言われたら?」

京太郎「当然、返上する」

優希「じゃあ、『お前みたいのはプロと思えない。辞めろ』って言われたら?」

京太郎「……」

京太郎「……そんときは、仕方ない」

優希「……なるほどな」



優希「――バカか、お前」


京太郎「……」

優希「タイトル返上までは……まあ、まだ分かる。正直分からんが、分かる」

優希「その時点で、余計な迷惑をまたかけることになるけどな」

京太郎「……」

優希「まず1つ」

優希「一回人に迷惑かけてるのに、舌の根も乾かないうちに繰り返してどうすんだ?」

優希「とても、社会人の行動とは思えないじぇ」

京太郎「……」

優希「一度のミスはいいとしても、二度も同じことやるな」



優希「……で、次」

優希「言われたら辞めるのも考えるって言ってたな?」

京太郎「……ああ」

優希「やれやれだ。やれやれだじぇ」

優希「お前、そうやってまた――他人に引き金を預けるのか?」

優希「そりゃ、『許してくれなきゃ死ぬ』って言ってるようなモンだじょ」

京太郎「俺は……そんなつもりじゃねえ」

京太郎「けど、言われてみれば……そう、だよな」

優希「そんなつもりがなくても、そういう意味になる」

優希「咲ちゃんにそれをやっといて……」

優希「また、それを繰り返すのか? 反省したのに?」


優希「いいか、それは反省って言わない。おんなじことをやるなら反省にならない」

優希「麻雀プロがどれほどのものかはしらないけど――」



優希「――社会人、ナメんな」



優希「ここは結局、読みとしては咲ちゃんが勝ったし」

優希「結果としては京太郎が勝った」

優希「二人とも……自分の勘を信じて、博打に勝った。不確実だけど、結果は勝った」

優希「それでいいんだ」

京太郎「……いや」

咲「そんな、力こそがすべて……みたいな」

優希「力がすべてなんて、私は言わないじぇ」

優希「それ以外に、大事なものはたくさんある……」

優希「でも……競技プロなんだろ? 実力勝負なんだろ?」

優希「だったら、力が相当大事なのは言うまでもないだろ」

優希「私たちが経験したインターハイだってそうだったし……」

咲「……」

優希「普通の会社だって、そうだ」

優希「結果出せない奴の言葉よりも、結果出した奴の言葉の方が重いんだよ」


優希「そんで……」

優希「それよりも、もっと大事な事がある」

京太郎「……なんだよ」

咲「なに、かな……?」

優希「それはな――」



優希「――負けた奴を、それ以上惨めにすんな」



優希「いいか、お前らがしようとしてることを言うとこうだじぇ」

優希「『ぐだぐだ考えながら麻雀打ってたらアシスト決まって勝たしちゃいました。メンゴメンゴ』」

優希「だいぶ砕けて誇張した言い方だけど、こうなる」


優希「負けて、悔しいんだよ。ただでさえ悔しいんだよ」

優希「そこに……」


優希「『二人の間にはこんなことがありました』」

優希「『二人の世界で君たちのこと考えてませんでした』」

優希「『それなのに勝っちゃってごめんね』」

優希「『よく考えたら不公平だよね。君たちが可愛そうだ』」

優希「『こんなの公平な勝負じゃないし、結果はなしでやり直そっか』」

優希「『許せないならタイトル返すし、麻雀プロ辞めるよ』」


優希「なんて言われてみろ」

優希「どうなる? どう思う?」


優希「京太郎、お前ならどうだ?」

優希「咲ちゃんなら、どう思う?」

咲「許せない……けど」

京太郎「それ以上に、惨めな気持ちに……なる」

優希「だろ?」

優希「誰だってそー思う。私もそー思う」


優希「気遣いができるって言うなら……これぐらいは考えろ」

優希「『自分がやられて嫌なことを他人にはしない』」

優希「こんなの、小学生でも知ってるもんだ」

優希「大人なんだから、それ以上できなくてどうする」

咲「……はい」

京太郎「……ああ」

優希「咲ちゃんは、高校から直接麻雀プロって特殊な世界に行ったから仕方ない」

優希「でもな、京太郎」

優希「お前は大学出てるんだろ? サークルやゼミに入ってたんだろ? バイトしたことあるんだろ?」

優希「それぐらい、できなくてどうする」

京太郎「……仰有る通りです」


優希「……まあ」

優希「普段はできるんだろうし、それぐらいデリケートな問題なんだろうけど」

優希「ちょっと二人とも、麻雀の勝負に囚われすぎだじぇ」


優希「江口プロとはどーだか知らないが」

優希「大星プロとは、かなり仲良くしてるんだろ?」

京太郎「……いや」

京太郎「たまたま飯屋被るだけだし、ありゃあ嫌われてる。間違いなく」

優希「……アホか、京太郎」

優希「……」

優希「そんな関係でも、顔見知りなんだろ?」

優希「そんな相手から、言われてみろ」

優希「かなり腹立つし、それだけじゃ済まないじぇ」

優希「咲ちゃんがそんなことしてるって知ったときの、京太郎より酷い」

優希「リベンジ誓われてるって、大星プロは間違いなく気付いてない」

優希「その状態で言われてみろ。どれだけショックなことになると思う?」

京太郎「……あー」

京太郎「薄々感ずいてた俺より、酷い」

優希「だろ?」

優希「お前、それをやるのか? 自分自身が謝ってスッキリしたいからってやるのか?」

優希「そいつは、勝手がすぎるんじゃないか?」

京太郎「あー……」

京太郎「はい、確かにそうです」


優希「というわけで、二人は普通にしてりゃいいんだ」

優希「タイトル持ちとして、そんなオーラ出してりゃいいんだじぇ」

優希「そんで、次に戦えば結果も分かるだろ」

優希「そんときは今回みたいに下らないことをしないようにすること」

優希「ぶっちゃけ、それ以外どうしようもないじぇ」


京太郎「……」

咲「……」




優希「さて、言いたいことは言い切ったし……」

優希「辛気くさい話はこれで終わりだ!」

優希「折角集まったんだから、楽しく飲み明かそうじぇ!」

咲「うえぇ!?」

京太郎「酔っ払いの相手は勘弁してくれよ……」


京太郎「……あ」

京太郎「つーか、悪い。俺このあと収録」

優希「マジか」

京太郎「マジだ」

京太郎「週6で収録」

京太郎「……なんちゃって」

咲「……寒いよ」

優希「松実プロを凍死させる気か?」

京太郎「……ちょっとした、場を和ませるギャグじゃねーかよ」

咲「いくらなんでもつまらない」

優希「……つまらない男になったな。ギャグ的な意味で」

咲「そんなの誰も笑わないよ」

優希「間違いなく下らない行為だじぇ」

京太郎「そうかぁ……?」

京太郎「うーん」

京太郎「……松実プロには、今度聞いて見よう」

優希「殺す気か!」

咲「やめてあげて!」


京太郎「って、ことで悪いな」

優希「……まったく、本当だ」

咲「私は空いてるけど……京ちゃんは忙しいから」

京太郎「もう少し、絞ろうかなとも思ってるよ」

京太郎「それか、マネージャーでも雇おうかって」

咲「その方がいいんじゃないの?」

優希「残念だな。もう少しいい男だったら、仕事辞めて応募してやったのに」

京太郎「ハハ、言ってろよ」


京太郎「咲、照さんを呼んできて貰えるか?」

咲「あ、うん」

京太郎「迷うなよ?」

咲「流石にこの距離で迷わないよ!」

京太郎「ハハハ、どうかなー」

咲「迷わないから!」



京太郎「……」

優希「……」

京太郎「……元気、だったか」

優希「……うーん」

優希「まあ、そこそこはなー」

優希「開幕スタートダッシュでトップとって」

優希「今は、いきなり部下持ちで困ってるけど」

京太郎「流石の速度だな」

京太郎「さっきの説教にも、貫禄があるわけだ」

優希「基本的に説教はしない方針だけどな」

優希「……よっぽどじゃない限りは」


京太郎「……よっぽどだったか」

優希「よっぽどだったな」

優希「思わず昔の口調が出ちゃったし……これで部下のお説教中に飛び出したらどうしてくれるんだ?」

京太郎「それで、会社に居づらくなったら……貰ってやるよ。責任持って」

優希「生憎、そこまで安くないじぇ……安くないよ」

優希「もっと男を磨かないと、お眼鏡にはかからないな」

京太郎「……手厳しいな」

優希「いい女は、男の趣味にも妥協しないんだって……覚えといた方が得だろ」

京太郎「なるほどな」

京太郎「……今日は教えに来たつもりだったけど、教えられたのは俺の方か」

優希「トッププロに説教できるなんて、いい気分だ」

京太郎「……そいつぁ、よかった」

京太郎「再開の土産にはなったか?」

優希「まあまあだな」


優希「京太郎が、いい男になってたら文句なしだったんだけど……」

京太郎「駄目か?」

優希「駄目だな」

京太郎「……精進するよ」

優希「そうしてくれ」

京太郎「……」

優希「……」



京太郎「……お前は、さ」

優希「ん……?」

京太郎「そういうお前は、本当にいい女になったな」

京太郎「なんつーか、大人っぽいよ」

京太郎「色々、荒波に揉まれたんだろうなって風格がある」

優希「あー」

優希「まあ、そこは進んだ道の違いじゃないか?」

優希「私は京太郎みたいに、毎局毎局頭使って真剣勝負なんてできない」

優希「そういうときの目付きの鋭さとか、迫力とか気迫は比べ物にならないって」

京太郎「そんなもんか?」

優希「そんなもんだよ」

優希「……今の問題だってさ」

優希「今日、魔物級と戦って神経すり減らしてなかったら……」

優希「もうちょっと、いつもの京太郎らしく、気遣いできてたと思うし」

京太郎「そんなもんかね」

優希「私はそう思うって、だけだ」


京太郎「……つーか、見てたのか?」

優希「最初からじゃなかったけどな」

京太郎「マジかよ……全然気が付かなかった」

優希「それぐらい真剣に集中してたってことで、許してやる」

京太郎「……さんきゅ」


京太郎「あと、いつもの俺って……」

京太郎「まるで、見てきたように言うんだな?」

優希「……うっ」

優希「あー、テレビ番組の京太郎を見ていてだな」

優希「あ、これあのときの部長に対するのと同じだなー……とか」

優希「これ、素なんだろうなぁ……とか」

優希「そーいう程度だじょ」

京太郎「あー」

京太郎「俺……結構、テレビ出てるもんな」

優希「正直タレントかと思うくらいだ」


京太郎「……はあ」

京太郎「今日はちょっと、色々疲れたな」

京太郎「なんつーか……本当に長いこと何かをやってた気がする」

優希「それぐらい、密度が濃かったんだな」

京太郎「しばらくは、勘弁して欲しいぜ」

優希「あー」

京太郎「しかも……このあと、照さん連れて収録いかなきゃなんねーし」

優希「なにやるんだ?」

京太郎「……」

京太郎「『月曜いやでしょうもういいでしょう』×『○○'sキッチン』」

優希「……あー」

京太郎「正直俺、死ぬかもしれない」

優希「……頑張れ」

京太郎「……頑張る」


優希「……」

優希「……なあ」

京太郎「なんだ?」

優希「……」

優希「……いや、なんでもない」

京太郎「そっか」

優希「そうだよ」



京太郎「それじゃ……そろそろ行くな」

優希「……そっか」

優希「元気でな、京太郎」

京太郎「ああ、そっちこそ」

優希「……」

優希「……とりあえず、今日教えたことは頭の片隅にでも置いとくんだじぇ」

京太郎「ああ」

京太郎「……思えばあんときから、お前には教えられてばっかだな」

京太郎「……」

京太郎「……なあ」

優希「……なんだ?」


京太郎「最後に、言い残したことがあったんだけどな――」




京太郎「お前――フッたの後悔するぐらい、いい女だったぜ」





優希「――」

京太郎「あのときの約束通り、お前はいい女になってた」

京太郎「なんつーか、流石だよ」

京太郎「俺も、負けられないって思う。約束したしな」


京太郎「だから、俺もっと頑張るよ」

京太郎「お前が約束守ったんだ。俺が守らないでどうするって」

京太郎「今日みたいなことになっても、言われたことを思い返してみる」

京太郎「そんで、身なり正して歩き出すぜ」

優希「……」

京太郎「どっかの空の下で優希も頑張って仕事してるんだなって」

京太郎「そう思って、俺も仕事頑張るよ!」


京太郎「約束通りなら、次はお互いの結婚式かなんかか?」

京太郎「ま、流石にそれはちょっとつまらねーから……」

京太郎「機会があったら、清澄麻雀部で同窓会かなんかしようぜ?」

京太郎「これ、メアドな」

優希「あ、うん……」


京太郎「それじゃあ、行くわ」

京太郎「次会うときは……まあできれば、お互い恋人を連れてだな!」

京太郎「そうじゃなくても、連絡ぐらいとろうぜ」

京太郎「じゃ、またなー」

優希「……またな、京太郎」






優希「……はあ」

優希「相変わらず、こういうとこが鈍感なんだじぇ」

優希「まったく……」


  __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ 



【宮永咲の好感度が上昇しました!】

【宮永照の好感度が上昇しました!】

【片岡優希の好感度が上昇しました!】

【染谷まこの好感度が上昇しました!】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年09月22日 17:45